女湯は覗くべし
馬鹿とケバ女から逃げ去って、早一週間が経過した。この一週間は軍に追われる事もなく平和な毎日を送っていた。今は宿に泊まっており、ハンナは大浴場に入っている。ちなみに他の客が一切いない為、ほぼ貸し切り状態だ。
どういう事かというと、覗きしてもハンナしかいないのでババアやブサイクの裸を見るといった自爆行為をしなくていいのだ。
そういう訳で、さあやろうか。
男の聖戦を。
あの壁を越えよう。
その先には桃源郷が待ってるぜ!
壁を登ろうとしたその瞬間に、女湯の方からハンナの声が聞こえてくる。
「覗いたら絶対に許しませんからねー!」
どうやら、私めの行動は向こうに筒抜けでした。
肩を落とし、落ち込んでいる事を表現する。誰かにこの気持ちを共感してもらいたい。しかし、釘を刺されたからといって諦めるのも癪だ。
やはり、ここは己の信じる心を貫く!!
そんな訳で壁によじ登り、女湯を覗く。すると、目の前に桶が飛来し、顔面を強打する。後ろに落ちて行き湯船に落下する。
まさか読んでいたとはな……。
やるじゃないか…………。
鼻血を垂らしながら湯船に浮かぶ俺はハンナの見事な反撃により覗きは失敗に終わった。
大浴場から出るとホクホク顔のハンナが部屋でくつろいでいた。ただ、俺を見る目は犯罪者を見るような軽蔑した視線だ。一体俺が何をしたのだろうか。
そういや、覗こうとしてたな。
一人納得して座ろうとしたらハンナがあからさまに遠のいた。そこまで遠くに行かなくてもいいと思うのだが、ハンナの視線は相変わらず怒気を含んでいた。
やはり、ここは謝った方が良さそうだ。ていうか、謝罪の一つもしなかったら一生口を聞いてくれそうにない。
「その、さっきはすまんかった」
先程の覗きに対しての謝罪としてハンナに頭を下げる。しばらく沈黙が続き、痺れを切らした俺は恐る恐るハンナの顔を覗き込んだ。
「…………」
そっぽを向いており、全く俺の事を見ようとしていなかった。確かに今回の件については全面的に俺が悪いのだが、せめて何か一言言って欲しい。
このまま無視されるのは辛い。なんとかしてハンナの機嫌を取らねばならない。しかし、一体どうやってハンナの怒りを鎮める事が出来るだろうか。
女心は秋の空か……
それなら空のように広い心を持って欲しいものだ。
うんうん。
「なあ、ハンナ。俺達別れよう……」
突然の別れ話で流石のハンナも反応を示した。
「はっ!? えっ、ちょっ、別れるって私達付き合ってませんよね!?」
「すまん。言い方が悪かったな……俺は今日から一人でイスカンテに向かうよ。お前も俺みたいな変態と一緒に旅するのも疲れたろ?」
「なっ! いきなり何を……」
「いや! いいんだ。全部俺が悪かった。本当に今の今まで俺みたいな変態と一緒にいて辛かったろう。それじゃ俺は出て行くから。残った資金で新しい冒険者を雇ってくれ。じゃあな」
一方的に話を切って部屋から出ようと立ち上がり扉に手をかける。そのまま扉を開けて出ようとした時、ハンナが後ろから抱き付いてきた。
「だっ、ダメです!! なんで、なんでそんな事言うんですか!! ショウさんが変態なのは前から知ってましたよ! だからと言って一緒にいるのが嫌なんて事は無いです!! お風呂を覗こうとした事はもう許しますから…………私を一人にしないで」
これや!!
この反応が見たかったんやで!!
最高や!!
などと一人興奮していたらハンナの啜り泣く声が聞こえてくる。
これは、ヤバイ。
今更嘘ぴょ〜〜ん!
なんて言ってみろ。
殺されちまう!!
どうにかしないと!!
でも、どうする!?
どうする!?
どうすりゃいい!?
くそっ!!
なんとか、いい方向に誤魔化そう!!
「こんな俺でもいいのか?」
「はい。だから、これからも一緒にいて下さい」
「……ああ、わかったよ。ハンナ」
ハンナがゆっくりと離れていく。振り返り、ハンナの顔を見ると頬には涙の跡があり、目は赤く充血していた。これは罪悪感が半端ない。
今からでも遅くはない。
謝ろう!
誠心誠意謝れば許してくれるよね!
「ハンナ……」
「はい?」
「すっんませんでしたっっ!!」
「へっ?」
見事なジャンピング土下座を決める俺にハンナは素っ頓狂な声を上げ、鳩が豆鉄砲を食らったかのような衝撃を受けている。いや、気持ちは分かる。だって、先程まで自分は本気で信じてたのに、実は嘘だった時の反応って大体そうだから。
怖くて顔が上げれない。
「ショウさん……嘘だったんですか?」
「はい。スンマセン」
「そうですか〜〜。泣いて損しましたけど、嘘で良かったです」
「えっ?」
今度は俺が豆鉄砲を食らった様な反応をしてしまう。
「だって本当だったら、これから先、気まずいじゃないですか。今までの様な関係でいられるのか不安になっちゃいまして……」
あぁ……
俺は……
俺は何てことを……
こんな良い子を……
騙していたなんて…………
「俺は最低だっ!!」
「急にどうしたんですか!?」
「ハンナ、ごめんよ。俺、俺変わるから!」
「いや、一人で完結しないでくださいよ!! 何言ってるか全然分かりませんよ!」
「もう俺、お前を悲します事はしないからっ!!」
「それは嬉しいですけど、一体この数秒の間に何があったんですか!?」
「俺の魂に誓ったんだよ。こんな良い子を悲します事は絶対にしないと」
「なんか重たいですって! そこまで気にしなくてもいいですよ?」
「いいや、もう決めたんだ!! 絶対に覆さない!」
「も、もう! 勝手に言ってればいいですよっ!!」
ハンナは照れたのか分からないが顔を背けた。だが、その横顔はほんの少しだけ赤く染まっていた。多分、湯上りの所為では無いはず。
遅くなってしまい申し訳ありません。
今後とも応援よろしくお願いします。




