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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第七章 真実の探求

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ヨゼフ、墓穴を掘る

 ショウが軍に捕まり、かれこれ2日が経過していた。町の人達は多少の不満があれど、現状について文句を言う者はいない。何人かの冒険者がロムルスに訴えて来たが力技で黙らせた。



「はあ〜…………ショウさんが居ないと暇ですね〜」



 ハンナは現在、この町に滞在する事を決めて、ロムルス邸でお世話になっている。流石にいつまでも食っちゃ寝では悪いので家事の手伝いを行っている。今も、手伝いの一環で食材の買い出しに出ている。



 愚痴を呟いてしまうのは、仕方がない事だ。確かに今はロムルス一家とも完全に打ち解けて楽しくお喋りもしている。ただし、ヨゼフだけは別だ。



 ヨゼフに関してだけは、まともに目も合わせようともせずに話しかけられても冷たく返すだけ。ロムルス一家はヨゼフが軍人だからと思っているが実際は違う。



 ショウを捕まえたのは大佐だが、元を辿ればヨゼフが元凶なのだ。二階級特進という欲に目が眩んだ彼は、あろう事か町を救った英雄を売り渡したのだ。



 その癖、抜け抜けと自分は今回の件について関与してないと嘘まで吐いている。本当なら一発、いや、数十発とあの忌々しい顔にビンタをお見舞いしたい。だが、それはショウの意思に反する。



 ショウはハンナにヨゼフを責めるな、と言い聞かせた。自分は犯罪者であり彼は軍人だから、通報されるのは当たり前だと。一般的な見方からすれば正しい解釈なのだが、ハンナには納得がいかなかった。



 何故、自分をないがしろにするのだと。



 口にしてやりたかった。言ってやりたかった。誰だって自分が可愛いのは当たり前なのに。どうして、そこまでして自分を犠牲にするのだろうか。



 何が彼を駆り立てるのか。


 何が彼を突き動かすのだろうか。


 一体どうしてそこまで他人の為に自分を犠牲に出来るのだろうか。



 ハンナはショウと共に旅をして、ある程度ショウという人物について分かっていた。無計画でエッチだけど、まず一番にハンナの心配をしていた事をハンナ自身分かっていた。



 それこそ軍の兵士に追い掛けられる時も絶対にハンナに攻撃が当たらないように、顔が判明されないようにと、いつも庇ってくれていた。



 だからこそ、ハンナはヨゼフを許せなかった。底抜けなほどお人好しでスケベで強く逞しく頼り甲斐のあるショウを売り渡した彼を許す事など出来なかった。



「……帰って来るんでしょうか?」



 買い物籠を片手に持ち、ポツリと空を見上げながら呟く。流れる雲を見て、自分が買い物に来ていた事を思い出し、慌てて品物を買いに走る。その後、結局帰るのが遅れてしまい、大変心配させてしまった。



 夕食の途中、何か思い出したように口を開いた。



「そうだ。皆さん、お知らせがあるんです」



 ハンナは聞く耳持たずで手を止める事なく食事に手をつける。そんなハンナを少しだけ一瞥すると、ロムルスはヨゼフに話し掛ける。



「知らせたい事とはなんだい?」


「実はですね……」


「もう、勿体ぶらずに早く言いなさいよ、ヨゼフ」



 焦らすように間を置くヨゼフに痺れを切らせたロベルタが早く言うように急かす。



「なんと、僕は二階級特進で上等兵から伍長へと出世しました〜!」


「えぇー!? それ、本当!?」


「ああ、本当だよ。ロベルタ!」


「きゃー! 凄い! 凄いわ! ねっ、父さんもそう思うでしょ?」



 ロベルタはロムルスも賛同してると思い、顔を向けたがロムルスの表情はどこか腑に落ちないと言った表情だ。それにハンナのヨゼフを見る視線はまるで親の仇を前にしてるような目をしている。



 明らかに雰囲気が違う。本来ならおめでたい雰囲気の筈がどうしてこうも違うのだろうとロベルタは思った。



「あなた、どうしたの? そんな難しい顔をして」


「…………ヨゼフ君。君はどんな功績を出して二階級特進なんかしたんだい?」



 ロムルスの質問でヨゼフの顔から血の気が失われたように青くなる。



「そ、それはアレですよ。ほら、ショウさんが倒したジルスティードの群れを倒したのが表向きだけですけど僕になったんですよ。それで二階級特進をしたんです」


「つまり、犯罪者が町を救ったという事実を揉み消す為に君という仮初めの英雄を世間に知らせる為か?」


「は、はい。そうです」



 ヨゼフは何とか誤魔化しきれたと内心ホッとしているが、とんだ勘違いだ。ロムルスがその程度に言い訳で誤魔化せる筈がない。



「ヨゼフ君。俺はどうにも腑に落ちない事があるんだ。ショウ君が捕まった際にどうして大佐はショウ君が犯罪者と分かっていたんだ(・・・・・・・)?」


「そ、それについては大佐が仰っていたでは無いですか!」


「ああ、そうだ。だがな…………どうして彼がこの町に潜伏していると言う情報が漏れた?」


「そんなの僕が知るわけ――」


「いいや。今確信した。疑いたくなかった。娘の婚約者を疑いなどしたくはなかった……」


「と、父さん。何を言っているの?」


「ロベルタ、黙ってなさい。ヨゼフ君、この町で彼を犯罪者と知っていたのはハンナちゃんを含めれば俺達四人だけだ。そして、この中で唯一軍とあの大佐と連絡を取れる者は君だけ。ここまで言えば分かるか?」


「まさか、僕が情報をリークしたと、そう言いたいんですか!? 何を根拠にそんな事を!!」


「確かに証拠なんて無い。だが、判断材料としては十分だ。二階級特進、本来なら類稀なる功績を残した者、若しくは殉職した者だけが与えられるものだ」


「だ、だから僕の場合はショウ君の功績を揉み消す為に」


「そうだな。そう言われたら納得もしよう。だが、そんな事を軍の上層部がするとは考えられん。奴等はただ、その記録を残さないようにするのと、他の町の人間達に伝わらないようにするだけだ。だから、君の事など眼中にも無いはず。なら、誰が君を二階級特進などさせる?」


「あぅ……あ……ぁ」


「答えは簡単だ。あの大佐だ。大方、君は目先の欲望に目が眩んだのだろう。彼は犯罪者であり情報を提供するだけでもかなりの功績になったのだろ?」


「……………」


「ヨゼフ……そんな……あなたがどうして……」


「ハンナちゃん。君が彼の事をいつも冷たい目で見てたのは、こういう事だったんだね?」



 頭を垂れているヨゼフを横目にハンナに顔を向けるロムルス。ハンナはナイフとフォークをテーブルに置くと、ロムルス一家に全てを話し始める。



「そうです。私がヨゼフさんに対しての行動は全部その所為だったんです」


「しかし、気になるんだ。どうして、全てを知っていたのに誰にも話さなかったのかね?」


「ショウさんとの約束ですから。ショウさんは自分が売られた事を知っていました。知っていた上で町に帰って来たんです。そして、捕まった。私は……どうしても許せなかった。町を救ったショウさんに対してあの仕打ち。叫びたかった……全部、全部ブチまけて本当の事を伝えたかった。でも、出来なかった。それが何故だか分かりますか?」


「約束だからか……」


「そうですよ!! ショウさんは言ってました! 自分は犯罪者でヨゼフさんは軍人だから、通報されて当たり前だと!! だからヨゼフさんを責めるのは間違っていると!!! でも!! でも、そんなのショウさんが報われないじゃないですかぁ……うっ……ひぐっ……町を……ひっく……折角……ぅう……守ったのに……ぐぅ……こんなんじゃショウさんは…………ショウさんだけが救われないじゃないですか…………」


「ハンナちゃん……」


「だからぁ……わだ……わだじは……ヨゼフさんを……き、ぎらっでも……怒りまぜん……」



 ハンナの頬を流れる大量の涙。ナーベルは立ち上がりハンナを抱き寄せる。泣きじゃくる赤子を癒すようにハンナを包み込み、彼女が今まで耐えていた涙を流し尽くすまで抱き締め続けた。

さて、次回はアホに戻ります



では次回を!!

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