町の様子
ショウが護送車に乗せられた時に飛び出す子供達。必死な形相で護送車に追い付こうとしたが、所詮は子供の脚力だ。追いつける筈もない。体力も無いのに必死に追い掛けるが、限界が来て次々と転けて行く。
瞳には涙が溜まり、護送車が完全に見えなくなる頃には知らず知らずの内に涙が溢れていた。子供達は泣き続ける。擦りむいた膝が痛いんじゃない。
心が痛いんだ。ショウが犯罪者であったとしても、子供達はショウが大好きだった。過ごした時間は短いけれども、そこに善も悪も無かった。ただ、ただ、楽しかった。
でも、犯罪者だと知った時は恐怖した。だけど、それでも思い出すのは面白くて優しくてアホで、それでいてカッコいいショウの姿だった。
ショウが語った真の男。それを体現して見せたあの時の光景は一生忘れる事など無い。万を超える魔物の大群をたったの一撃で葬り去った英雄の背中を。
だからこそ、許せなかった。ショウを連れて行く軍人が。町が大変だったのにも関わらず逃げ出した軍人達が。犯罪者なのに町を救ってくれたショウを捕まえた軍人達が。そして、何も出来なかった自分達が。
「どうして……どうして、大将にあんな酷い事言ったんだよ!!!!」
リーダー格の少年が涙を流しながら、ショウの事をボスと呼んでいた男に掴みかかる。勢い余ってそのまま押し倒してしまい、その上に覆い被さるようにして叫ぶ。
「お前だって……大将の事、好きだったんじゃねえのかよ!!!! 答えろよ!!!!!」
「あの時は、ああ言うしか無かった……」
その言葉を聞いて、ショウを兄様と言い、慕っていた女の子が号泣しながらも叫ぶ。
「兄様が犯罪者だからってあんなの無いよ!!!」
触発されて次々と責め立てる。
「そうよ!! お兄さんは町を、私達を助けてくれたのよ!!!! それなのにあんな仕打ちするなんて!!」
「兄貴は!! 兄貴は真の男だった!! 犯罪者なんかじゃ無い!!!! なんでお前は!」
「黙ってないで何とか言えよ!!!!」
悲痛な叫びを上げる子供達。顔は涙と後悔でぐしゃぐしゃだ。
そして、遂にリーダー格の少年に押し倒された少年が立ち上がる。
「あの時、どうして俺がボスに酷い事を言ったか分かるか?」
「それはお前が大将を犯罪者って知って」
「違う!!!! 確かにボスが俺達に言ってきた言葉は正に悪党の……犯罪者の台詞だ。だからこそ…………俺には理解出来てしまった…………」
声を荒げた少年は拳から血が出るほど握り締め、泣かないように唇を血が垂れる程噛み締めて空を見上げる。
「ボスは……ボスは!!! 俺達に迷惑が掛からない様にあんな台詞を言ったんだ!!!」
「ど、どういう事だよ!」
「まだ、分からないのか!!!! 俺達がボスと仲良くあればどうなる!? 犯罪者と知っても尚、ボスと親しい俺達を軍が見逃す筈がない!!! 軍は俺達が子供だろうと容赦はしない!! ボスはそれが分かってたから俺達にあんな酷い事を言ってきたんだ!!!! ボスは…………ボスは…………俺達を……お、れ……た、たたちを…………守る為に…………ぐぅぅううう…………ああああああああああああああ!!!」
幼いながらにショウの心理を理解した少年は、もう耐える事が出来なかった。尊敬し憧れを抱き慕っていたショウに嘘だとはいえ酷い事を言ってしまったのだ。辛い訳がない、悲しい訳がない、苦しい筈がない。
決壊した涙腺からは止めどなく涙が溢れてくる。身体中の水分を全て絞り出す勢いで、その涙を誰も止める事は出来ない。
そして、少年が語った真実を聞いて子供達は泣き喚く。ショウの優しさに涙し、己の無力さに涙を流す少年少女達。彼等は決意する。いつの日かショウを連れ戻すと。
存分に泣いた彼等は町へと戻る。
一方その頃、町の方では犯罪者がいなくなって安堵している者と犯罪者だろうと町を救ってくれた英雄を連れ去られた事に憤慨してる者で対立していた。
「彼は犯罪者だったが町を救ってくれた大恩人だ! このままみすみす軍の思い通りにしていいのか!!」
「何を言ってるのよ!!! 聞いたでしょう!? あの犯罪者が子供達を調教しようとした事を!!」
「何を言う! 彼はいの一番に子供達を助けに行ったのだぞ! そんな男が子供達を利用するなんて考えられない!」
「それこそ、あの犯罪者の計画だったんじゃねえのかよ!」
「そうだそうだ!! もしかしたら、今回のジルスティードの大群だって奴の仕業かもしれねえじゃねえか!」
「何を馬鹿な事を! そもそも、その計画が本当に彼の仕業だとして、何故我らを助ける必要がある!?」
「んなもん、俺達の信用を得ようとした自作自演かもしれねえだろうが! それにあいつには魔道具があるんだろ!? 魔物を操る魔道具を持ってても何ら不思議じゃねえだろう!」
飛び交う両者の見解。賛否両論の意見。ショウを知る者はショウを庇い、ショウを知らない者は軍の情報通りの犯罪者として罵る。この手の議論は平行線であり、答えなど出やしない。
その光景を離れた所で見守るハンナ。彼女からすれば、どちらの意見も正しく、どちらの意見も無意味だと分かる。どれだけ彼等が喚こうとも彼女からしたら不毛な争いにしか過ぎない。
ハンナは町の人達を見限り、ロムルスの元へと向かう。
「何をしてるんですか!!!! こういう時にこそロムルスさんがしっかりしないと!」
「ハンナちゃん……」
「ショウさんの事を考えてるんですか?」
「……ああ、そうだ。俺は俺達は彼に助けて貰ったというのに…………それに、どうしてあの時、あんな事を……あんな事を言えばこうなる事くらい」
「ショウさんはアホですからね。きっと何も考えて無かったんですよ」
「ア、アホって……」
「でも、ショウさんがあの時口にした言葉の意味は理解してます」
「ど、どういう意味なんだ?」
「簡単ですよ。ショウさんはお人好しですからね。答えは単純明快、ロムルスさんが疑われたからです」
「俺が疑われたから?」
「はい。ロムルスさん、あの大佐に疑われてたじゃないですか。だから、ショウさんはロムルスさんよりも自分に目が行くようにあんな事を口走ったんです」
「そ、そんな、それじゃあ彼は」
「はい…………全部ロムルスさんの為です」
「あ、ぁぁああ! 俺は一体……どうしたら……」
「そんなの知りません! ってショウさんなら言いますね。だから、私が言います。町長としてこの事態を収拾して下さい。下手したらこの町分裂しちゃいますよ?」
ロムルスは今だに言い争ってる町の人達を見て、一瞬俯くとすぐに顔を上げる。
「ああ。そうだな。俺は町長としての責任を果たして来るよ」
「はい! それが良いです!」
この後はロムルスが何とか町の人達の鎮静化に成功する。その際に最も鎮静化に貢献したのが子供達だった。
次回も同じ視点で
では次回を!




