スナイパー
空を見上げれば太陽は真上に来ていたので、バイクを止めて昼飯にする事にした。ハンナも長時間座っていた為、身体を伸ばしている。ハンナが身体を伸ばしている間に少し地図で場所を確認しておく。
ここら一帯は荒野で少し、少しと言っても実際の距離は数十キロ離れてるが建物があるみたいだ。地図の拡大機能を使い見てみると何かの施設らしい。
周りを城壁に囲まれて、複数の建物に、大きなグラウンド。さらには射撃訓練場まである。流石に建物内部は見る事が出来ないが、どうやらここは軍用施設のようだ。しかも、街に行く為にはどうしても通過しなければいけない。これはマズイな。
迂回した場合は街からかなり遠くなる。仕方がない。ここは本気を出して軍用施設を突っ切る方法で行こう。
さてと、方針が決まった事だし、飯にするか。
「おい、ハンナ手伝え〜」
「はぁ〜い」
最近飯を作る時はハンナと共同で作っている。理由としては俺の作る料理をいつか作りたいからだそうだ。俺としては手伝ってくれるなら文句は無い。ただ、包丁を使わせると必ずと言っていいほど指を切るのだけは止めて欲しい。何度、回復魔法を施したか…………
料理が出来上がり、昼飯にする。今日のメニューはこの間、討伐した鳥肉とサソリの肉だ。サソリの肉は既に試食してある。ほぼ海老に近い食感と味わいだったのでエビフライではなくサソリフライにしてある。鳥肉は毒がある事は既にクロで知っているので焼き鳥にした。
サソリフライと焼き鳥だけだが、それでも量は多目に作ったので満腹になった。満腹になると大体眠くなるけど、俺は寝ない。早く街に行ってベットで寝たい。最近はいつも寝袋で身体の節々が痛いから、早く柔らかいベットでぐっすりと眠りたい。
「ごちそうさまでした! さあ、ショウさん! 出発しましょう!」
「ふう……お前は乗ってるだけだから良いよな」
「だって、私運転出来ませんから」
「俺がもう一台作ってやるから練習するか?」
「良いです! 私ショウさんの後ろが良いんです! だって楽ですから!」
「ぶっ飛ばすぞ……ハァ、ちゃっちゃっと行くぞ」
「はーい!」
後片付けをしてバイクに跨る。ハンナが後ろに乗ってからエンジンを点けて走り出す。そういえばハンナにこの先に軍用施設がある事を言って無かったな。まあ、別に問題無いから大丈夫か。
この時の俺はまさかあんな事になるなんて予想もしていなかった。
****
大分進んで来た所で、バイクを止めてから地図を取り出して現在地を確認する。どうやら、後20キロ程で軍用施設に着くようだ。ここから先は気を引き締めて行こう。
「ハンナ、この先軍の施設があるから気を付けろよ」
「えっ!? なんでそんなところ通るんですか? 迂回した方がよくないですか?」
「まあ、確かに迂回した方が良いんだけど、迂回したらしたで街から大分離れるんだよ。だから、軍の施設のすぐ横を通るんだ」
「そうですか……何にも無いと良いですね」
「まっ、何かあっても大した事は無いだろう」
「そうやって油断していると大変な事になっちゃいますよ?」
「その時はその時さ」
バイクを発進させて軍用施設のある方向へと進み始める。ハンナは呑気に鼻歌を歌い始める。俺に油断をするな、と忠告しておきながら自分は余裕綽々か。まあ、ハンナは後ろに乗ってるだけだからな。
進み始めて10キロ地点に到着した時、全身に悪寒が走った。このまま進めば命は無いと全ての細胞がそう告げるように。
俺がハンドルを切った、その次の瞬間――
「があっ!!!」
「ショウさん!!!!」
弾丸が肩を貫いた。痛みのあまりバイクを操作出来ずに横転してしまう。ハンナが投げ出されたが、なんとかハンナを抱き抱えて受け止める。そのまま背中から地面に激突してしまい痛みに声を上げてしまう。
「ぐっ!」
「だ、大丈夫ですか、ショウさん!?」
「背中は大丈夫だ。それより肩が……」
肩からは血がダクダクと流れている。早く回復しようと思った時、再び全身に悪寒が走った。俺は本能的にこの場にいたらマズイと判断して飛び退けた。すると、俺のいた場所に弾丸が着弾した。
「くそっ! どこから!」
目に魔力を流し、視力を強化して周囲を見回すがどこにも狙撃手らしき人物が見当たらない。既に身を潜めたのかと思っていたら弾丸が飛んで来る。間一髪の所で回避して、飛んで来た方向へと目を向ける。
「おいおい、冗談だろ……」
その方向は軍用施設のある方向だった。しかも、ここからの距離はおよそ10キロ。つまり、狙撃手はそこから撃っているという事だ。
「命中率半端なさ過ぎだろ。いや、そもそも超長遠距離射撃じゃねえか! 撃ってるやつ本当に人間かよ」
「あっ!」
「どうした!?」
「も、もしかしたらですけど、私撃ってる人知ってます」
「何? 知ってるなら教えてくれ」
「はい。でも、知ってると言ってもあくまで噂でしか聞いた事が……」
「なんでも良いから早く教えてくれ」
俺がハンナに説明を要求している時にまたも全身に悪寒が走りその場を離れた。俺がいた場所には弾丸が着弾した。どうやら、狙いは俺一人らしい。
俺は地面に手を付けて壁を作り上げる。これで向こうからは俺の姿を確認出来ないし狙撃する事も出来ない。
「それで、ハンナ。その噂ってのは?」
「名前までは分かりませんが、噂で聞いたのは特殊機甲部隊と言われる部隊の中に数十キロ離れた場所でも狙撃する事が出来る超凄腕スナイパーがいるって噂です……噂だと、確か数十キロ離れていた犯罪者を見事一発で仕留めた事もあるそうです」
「化け物かよ……」
俺がそう呟き頭を下げた瞬間、後頭部を弾丸が掠めた。
「はっ?」
おいおい、嘘だろ!?
この壁を貫いたってのか!?
しかも、俺の頭部を完全に捉えていた!
見えてるのか?
いや、見えてないはず……
なら、どうして?
くそ!!
考えてる場合じゃねえ!
肩を治して反撃だ!!
バトルの始まりです
では、次回を!




