盗賊と復讐者
まさか関所があるとは考えていなかった隆史は現在とても困ったいた。それは関所のせいで、国境を越えられないからだ。そのため隆史はどうしようもなく再び街へと引き返した。
「くそっ! 入国許可証だと! そんなものあるか! それに無いならないで通行料一万五千Wと言われても俺に手持ちが無いんだよ! 仕方ないけど街に戻るか……」
現在、隆史の手持ちはゼロである。隆史はある村に被害をもたらしていたオーガを退治したが、そのまま村を去ってしまった為にお礼を貰い損ねたのだ。
「はあ……」
隆史は溜息を吐く。我ながら情けないと自分を責めながら歩く。街に戻り始めて数時間ほど経っ時、森の方から男達が目の前に現れて来たのだ。そして隆史を取り囲む。
「なんだお前達は?」
「なんだ? 俺達を見てもビビらねえのか? 大した奴だな」
「いいから俺の質問に答えろ。お前達は誰だと聞いているんだ」
「はっ! 俺達は盗賊だ! 命が惜しけりゃ金目の物全て置いて失せやがれ!」
男達は盗賊と名乗り、隆史に金目の物全て置いて失せろと脅しをかけている。だが隆史には意味が無い。むしろ逆効果である。隆史は今関所を通れなかった事で内心イライラしていたのだ。そんな中、火に油を注ぐような真似をしている盗賊達は自身の運命を呪うしかない。
「ふぅ……今俺は機嫌が悪いんだ。いいか? 後悔する前に言っておく。死にたくなかったら失せろ」
隆史は盗賊達にそう言う。しかし、盗賊達は隆史に対して青筋を立てながら言い放つ。
「それを言うなら俺達だって先日ボロボロにやられているんだよ! 丁度いい! 憂さ晴らしだ!! 半殺しで許してやんよおお!!」
「貴様らが半殺しになるんだよ……《終わりなき絶望》《無慈悲なる暴虐》」
隆史がスキルを唱える。すると、襲い掛かっていた盗賊に変化が起こる。普段どおりの動きが出来なくなり倦怠感が身体を蝕む。
「な、なんだ身体がおかしい? おい、何しやがった!!」
「ふん……答える義理はない」
「チッ! 構わねえ、やっちまえ!」
「くらえや! 火槍!!」
ゴウッと音と共に槍の形状をした炎が隆史に放たれるが当たる寸前で消える。消えるというより隆史に吸い込まれたという表現が正しい。
「なっ、バカな!! なんでだ!?」
「成る程な……魔法も元は魔力だ」
「ど、どういうことだよ!?」
「いいだろう教えてやる。俺のスキルだ」
「は? そんなバカなスキルがあるかよ!」
「現に目の前にあるだろ」
「ふざけんじゃねえぞ! それが本当ならてめえには魔法が効かねえってのか?」
「さあな。俺もこのスキルを使うのは初めてなんでな。詳しい事はわからないんだよ」
「くそっ! なんてデタラメな奴だ! おい、剣だ。剣で奴を殺せ!!」
盗賊達は魔法が効かないとわかったら剣に切り替える。しかし、隆史は盗賊たちが剣を構えてこちらに近付いてきても余裕の表情を崩しはしない。
「ふっ……お前らステータス見てみろよ?」
隆史は見下すように鼻で笑い、盗賊達に自分のステータスを見るように促す。
「あ? なんだ? 死にたくねえからって誤魔化してんじゃねえぞ!」
「バカな奴らだ。ならかかって来いよ。返り討ちにしてやるよ」
「こっちのセリフだぁ!!」
逆上した盗賊が隆史に斬りかかる。しかし、隆史に剣が届くことはなかった。隆史が盗賊より速く動き背後に回り蹴りを放つ。
「ガハッ!」
蹴られた盗賊は数メートルも吹き飛んだ。その光景に盗賊達は目を丸くする。
「バカなあいつは俺らの中では一番俊敏の高い奴だぞ! てめえ一体何をした!?」
「だから言ったろう? ステータスを見てみろって?」
「くっ……ステータス!」
盗賊達が隆史に言われた通りステータスを唱える。そして、ある事実に気付くとワナワナと肩を震わせて隆史に向かって怒鳴り声を上げる。
「ステータスが半減してやがる! どういことだよ!? これもてめぇのスキルか!?」
「へえ~少しは頭が回るじゃないか。そうだよ俺のスキルさ」
「冗談じゃねえぞ! ステータスは半減させられるわ、魔法は吸収されるわで溜まったもんじゃねえ! なんなんだよ一体!!この前も女だからって思ったら返り討ちにされたし、もう散々だ!!」
「そんなの知るかよ」
「くそっ! お前ら逃げるぞ!!」
「そ、それが魔力が減り続けてるんです!」
「な、なにぃ!? まさか、てめえがさっき言ってた魔法も元は魔力ってのはこう言うことだったのかよ! ふざけんじゃねえぞ! 魔力を吸収し続けるスキルがあってたまるか!」
「ハハッ! あんた見た目に反して頭良いな」
その言葉に盗賊達は顔を青くする。自分達はなんて男を敵に回してしまったのだと。だが今更後悔しても遅い。もう逃げるだけの魔力が無いのだ。普通に走るだけなら出来る。しかし魔法無しで逃げ切ることなど不可能だ。
彼らは絶望する。もはやこの男に殺される以外無いのだから。最早、死ぬ運命からは逃れられないと分かった盗賊たちは次々と武器を捨てて命乞いを始める。
「死にたくねぇよ……」
「助けてくれ~」
「悪かったよ。だから命だけはっ!」
「ふん。情けない奴らだ! そうだな。お前ら一万五千W持ってるか?」
「へっ?」
「だから一万五千W持ってるかって聞いているんだ!」
「あ、あります!!」
「そうか…お前らいくら持ってる?」
「三百万です!」
「なら一割の三十万寄越せ。それで勘弁してやる」
「本当ですか!?」
「グダグダ言ってないで俺の気が変わらないうちに出せ!」
「はぃぃ!」
そう言って盗賊達は三十万Wを隆史に渡した。盗賊達にとってはありがたい話である。命も失わず全財産も失わずに済んだのだから。
「ふむ……じゃあな。これからはちゃんと相手を確認してから狙えよ」
「ありがとうございました!」
盗賊たちは隆史の背中が見えなくなるまで頭を下げ続けた。殺そうと思えばいつでも自分達を殺せたであろう隆史に見逃してもらった盗賊たちは今日の事を忘れないであろう。
「さて、金が手に入った!! これで国境を越えることができる!! 復讐するにしてもまずはいろいろとこの世界について調べなきゃな!!」
嬉しそうにしながら隆史は関所へ向かいと歩き出す。その足取りはとても軽かった。
改訂済み




