これぞ奥義
街へと戻って来た俺達は早速ギルドに依頼完了の報告を済ませに行く。ハンナが窓口に行き、討伐部位のアホ毛を提出して報酬を受け取る。こちらへと戻って来るハンナの顔はとても眩しい笑顔だ。
なんでそんなに眩しい笑顔でルンルンとスキップしながら俺の方へと向かって来るのだろうか? ひょっとして報酬を受け取って気分が高揚したからじゃないだろうな。そうだったらお前どんだけ貧乏生活送ってたんだよ。
「ショウさん、見てくださいよ。このお金! これだけあれば当分は困りませんよ!」
「はぁ……」
「えっ、えぇ? なんで溜め息なんか吐くんですか?」
予想通りの言葉が出て来て俺は溜め息をついてしまった。その所為でハンナが問い詰めて来る。確かにハンナからすれば大金なのだろうが、俺からしたら端た金に過ぎない。しかし、それを伝えればハンナが何を言うか分からない。適当に誤魔化しておくか。
「いや、お前はアホだなって」
「なっ!? なんでいきなりアホ呼ばわりされるんですか!」
「大金受け取ってルンルン気分でいるんじゃねえよ。狙われたらどうするんだ?」
「あう……そ、その時はショウさんがこうビシッと……」
「俺がトイレにでも行ってたら?」
「そ、そそその場合はえっと……さ……叫びます」
「やっぱりアホだな」
「うぅ〜!」
唸るハンナを引き連れてギルドの外に出て行くと、重そうな装備をした男達が待ち構えていた。ゲームで見た事のあるような装備で腕の下に銃が付いている。しかも、足にも装備がある辺り全身装備なのが分かる。
一体何事なのかと思ったがすぐに判明した。
「やい、貴様! 不法入国者と言うのは貴様の事だろう!」
1人の男が俺の顔を指差しながら高らかに叫んだ。よくよく見たらあの男は俺がギルドでハンナを待ってた時に凝視していた男じゃないか。まさか、見ていた理由がこういう事だったのか。
俺が1人で納得していたら男が叫ぶ。
「おい、何を黙っている! 何か言ったらどうだ!」
ふむ、ならば……
「人に向かって指を指すなとお母さんに教わらなかったのかぁ!!!」
俺の言葉に男達が固まる。そして、ようやく紡ぎ出した言葉が――
「父子家庭じゃボケがぁ!!!」
今度は俺が固まってしまった。この男の過去には何があったかは先程の言葉で容易に想像出来た。出来てしまった自分が憎い。そして、ごめんと心の中で謝っておく。
「……そ、そそそうか!!」
「動揺しすぎですよ」
「仕方ないだろ? なんか変な空気になっちゃったし」
「それはそうですけど……でも、私のウチも両親居ませんからね」
「いや、誰もお前の家庭事情なんか聞いてないから」
「…………少しは同情とかしてくださいよ」
「やだよ。俺知らねえし」
俺とハンナがコソコソと話していたら、男達が再び叫び出す。
「何、2人で喋ってんだ!! いいか! よく聞けよ! 俺達はテメェをふん捕まえて昇格するんだよ! 何せ、今回の不法入国者は機甲兵を何百体も破壊してる超極悪人だからな!」
「へへっ、これで安月給ともおさらばだぜ!」
「夢のイスカンテ生活……うへへ」
2人ほどトリップしてるけど大丈夫なのか?
そんなんで俺を捕まえる気?
「ちぃっ! ハンナ逃げるぞ!!」
「えっ、ちょっ!?」
ハンナを肩に担ぎその場から一目散に走り出す。男達は俺を追いかけて来る。先程までトリップしていた奴がいたのに意外にも迅速な対応だ。それにあの足の装備が補助機能になっているのだろう。俺の速度について来ている。
うむむ……
少し本気出せば余裕だけど、それじゃ面白くない。
何かないか……何か……
はっ!?
俺はある事に気付く。大通りを走っている俺はニヤけてしまう。今日に限ってスカートを履いている女性が多い。しかも、大通りを歩いている女性の八割がスカートを履いている。これならばあの技が出来る。男の夢であり浪漫であるあの至高の技が。
追いかけて来るのは男達。つまり、あの技を使えばきっと奴等は立ち止まざるを得ない。何せ目の前には桃源郷が広がる事になるのだから。
そうと決まれば話は早い。
さあ、覚悟を決めろ!
高らかに叫べ!!
この思いを!
この願いを!
男のロマンスを!!
「究極奥義!!! 神風ぇええええええ!!!」
瞬間大通りに突風が吹き抜ける。そして、その突風は一つの奇跡を起こす。
「うひょっ!?」
「おおっ!?」
「うおおおおおおお!?!?」
男達が興奮して叫ぶ。その理由は簡単だ。今大通りにいる女性の大半がパンチラ状態なのだから。多種多様のパンチラに男達は釘付けに。もちろん俺もです。
「きゃあっ!」
女性達が悲鳴を上げる。突風で捲れあがったスカートを抑えるが神風は今だにその勢いを保ち、桃源郷を見せ続ける。
白!!
紫!!!!
黒!!!!
なっ、なにぃいいい!?
赤のTバックだとぉおおおおお!!!
「ちょ、ショウさん! 何、ガン見してるんですか!! ってかこの風起こしたのショウさんですよね!! この変態、スケベ、痴漢、エッチ!!!!」
「うるさい、黙れ!! 俺は紳士だ!!」
「何が紳士ですか!! どこからどう見てもただの変態ですよ!!」
「いいか、ハンナ! 男はいつだって変態なんだ。誇りを失っちゃいけないんだよ!」
「そんな誇りなんて捨ててしまえばいい!!」
「そんな事をしたら俺の魂が死んじまう!!」
「その程度の魂なんて死んでしまえばいいじゃないですかぁ!!!!」
ハンナと口論しながらも赤のTバックに視線を向けている。やがて、神風は収まりスカートが元に戻る。女性達も安心して安堵の溜息をつく。しかし、ここで悪夢とも言える最悪の事が起こる。
赤のTバックの女性の顔を確認したところ、想像を絶するブサイクだった。
「オボロロロロロロ……」
「うげえええええ!!」
「ブクブク……」
「ぉ、おえぇえええええ」
俺と男達はその事実に吐いている。ちなみに俺は胃液を吐いたりはしていないが、本気で吐いてる奴もいる。正直、俺も胃の中をぶちまけたい気分だ。それよりも泡吹いてる奴をどうにかしろよ。
「もう、エッチな風さん」
「消えろぉおおおおお!!」
赤のTバックを履いていたブサイクを吹き飛ばす。よくも、あんな汚らしいものを見せてくれたな。貴様は魔物の餌になるのがお似合いだ。
「ぐ……ちぎじょう……」
「そ、そこまで悔しいですか?」
「お前には一生分からねえよ!」
「わかりたくもありませんよ! 変態の気持ちなんて!」
苦く苦しい思いのまま、その場から逃げ去る事に成功した。もう、男達は追い掛けては来ない。いや、あんな悍ましいものを見たら追いかける気も失せたのだろう。
その気持ち分かるぜ…………ガクッ……
久しぶりに書いてて楽しかった。
では次回を!




