学園に入学
「突然だが勇者の諸君らには我がオルランド王立魔法学園に通ってもらいたい」
桐谷大輝をはじめ、この世界に召喚された者たちは突然の事で驚きの声をあげる。
「呼びたされたと思ったら学園に通ってもらいたいと。どういうことですか、国王様?」
陣内は生徒達が困惑している中、国王に対して何故学園に通うのか理由を尋ねる。
「うむ。君達は元の世界でも学生の身分だったのだろう? そこで私は陣内殿に言われて考えたのだ。君達は本来の学生の性分である、勉学に励んで貰いたいのだ」
「国王様……」
「それに私達は君達の友を死なせてしまった。君達を我々の勝手な都合で呼び、そして君たちに戦うことを望んでしまった。その結果君達の友を殺してしまったのだ。罪を償っても償えきれないことをしてしまった。だからこれ以上君達から犠牲を出したくない。私達の勝手な都合だが学園に通ってはくれまいか?」
国王が頭を下げる事で周りがざわめきを上げる。一国の主が頭を下げる事も驚きだが、頭を下げている相手は異世界の子供達なのだから余計にである。その時、陣内が戸惑っている生徒達に声を掛ける。
「君達に聞きたい。学校にまた通いたいか?」
そう言って陣内は生徒達に聞く。確かに国王の言ったとおり彼らは勝手な都合によりこの世界に勇者として召喚された。そして、戦うことを望まれたのだ。だが今は違う。学生に戻ることを聞かれているのだ。
「俺戻りたいです」
「俺も」
「僕も」
「私も」
「ウチも」
「あたしも」
陣内の問いに生徒達は答えた。学生に戻りたいと。また学校に通いたいとそう答えたのだ。誰一人として反対する者はいなかった。
「そうか。良かったなお前達! これでまた学校に通えるぞ!」
全員がその言葉に頷く。また、学校に通えるのだと喜ぶ生徒達に、陣内はもう一度生徒達に問い掛ける。
「以前私は君達に聞いたよな。戦いたくない者とまだ戦う意思のある者は手をあげてくれと。まだ、戦いたいという意思がある者はいるか?」
そう言って陣内は生徒達を見詰める。しかし、誰もが口を閉ざしている。それは反対の意思の現れであった。陣内はそれらを確認すると国王の方に振り返る。そして国王が陣内に頷き、最後の確認を行う。
「それで良いかな。勇者の諸君らよ?」
その言葉に全員が頷く。こうして、勇者達は戦いからその身を遠ざけ学生へと戻り学園に通うこととなる。
全員が解散して各々の自室へと戻っていき、大輝も一人になる。大輝は自室のベットで横になり天井を見上げている。
「学園か……この世界の学校はどんな所なんだろうな。こっちの世界では男友達出来るかな」
男友達、そう。大輝は元の世界では同年代の同性の友達がいなかったのだ。別に虐められてるわけでは無い。ただ周りの女子が皆美少女揃いで嫉妬されていたのだ。そのため大輝の友達になろうと思う者が現れなかっただけである。
「なんか元の世界では嫌われてたからな。女の子の友達はいるのに……」
大輝は嫉妬と羨望の眼差しで見られていたことに気づいていない。そういうところも含めて大輝は他の男達から疎まれていた。そんな時、大輝の部屋の扉がノックされる。
「はい。開いてますよ」
扉が開けられ、そこにいたのは大輝の幼馴染みである清水沙羅であった。
「大くん、ちょっといいかな?」
「何か用事?」
「大したことじゃ無いんだけど、大くんは学園に通うことについてどう思う?」
「どう思うって、そりゃ少し不安だけど。でも楽しみでもあるかな」
「そっか……そうだよね。楽しみだよね」
「沙羅……やっぱり怖いか?」
「……うん」
二人の間に沈黙が訪れる。彼女に何があったのかを知っているのは桐谷大輝、神田留美、緋村楓の三人だけである。過去に何らかのトラウマを持つ沙羅は大輝に依存しているのだ。
「やっぱり俺以外の男は怖いか?」
「うん……どうしても思い出しちゃう」
「そうか……ごめん俺があの時……」
「大くんのせいじゃ無いよ。あれは私が馬鹿だったんだよ……」
過去にあった出来事を思い出して、再び二人の間に沈黙が訪れる。
「アハハッ……ごめんね。変な話になっちゃって」
「いや、いいよ」
「そっか……」
「もし……もし何かあればいつでも俺が守るからな! だから安心してくれ!」
「大くん……うん! 約束だよ!」
「ああ! 約束だ!!」
その言葉を聞いて沙羅は部屋を後にした。一人になった大輝はそのままベッドへと入り眠りにつく。今度こそ沙羅を守ろうと心に誓いながら。
改訂済み




