表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/684

護衛の依頼⑥

 捕まえた奴隷商の男達に目的を聞き出そうとしているが中々話さない。そもそも尋問とかしたことのない俺には難しい。



「あのなんで俺らを狙ったんすか?」


「誰がそんなこと喋るか!!」


「いや早く喋った方が身のためっすよ?」


「ふん! そんな脅しで喋る訳がないだろう!?」



 腹が立つけど相手の言い分は正しい。俺としては穏便に済ませてやりたいのでつい甘くなってしまう。それに無抵抗の人間を殴るのに俺は躊躇してしまっている。



「ショウ、どきなさい。わたしがやるわ!」


「了解っす!」



 痺れを切らしたリズが俺の前に出る。リズは縄で縛られている男達を見下ろしながら尋問を始める。



「あんた達早く喋った方が痛い目見なくて済むわよ?」


「さっきも言ったはずだ! そんな脅しで喋る訳がないだろうと!!」


「そう……それなら良いわ。こっちにも方法ってものがあるから……」


「ふん! 我々は拷問の訓練を受けている! 話すことなどないわ!!」


「それくらい想定済みよ。これから貴方達は想像を絶する痛みを味わわせてあげる。覚悟しなさい!!!」



 そうして男にとっては地獄の拷問が始まった。リズは雷属性の魔法で男の股間に攻撃し続ける。それを見ている俺は思わず自分の股間をキュッと押さえてしまう。既に拷問を受けている男は口の端から赤い泡を吹いていた。



「どう、喋る気になった? 喋らないのなら次は貴方よ?」



 悪魔が微笑む。強弱をつけて繰り返し拷問を受けた男は完全に意識を失っている。そして、リズは横で震えている男に問いかける。



「リズは男性相手に尋問する時は必ずアレをやりますよ?」


「ヒエッ……マジっすか?」


「そうだよ~アレで口を割らなかった男は今までいないかな~」



 でも、相手がマゾヒストだったらどうすんだと素朴な疑問を抱いたらソフィが言い当てて答えてくれる。



「ショウちゃん。変な事をかんがえてるでしょう~」


「えっ! あーははっ!」


「アレはマゾでも耐えれないよ~」


「マジっすか!?」



 驚く俺の後ろではリズに屈した男が俺たちを狙った目的を白状し始める。



「し、喋る!! 喋るから止めてくれ!」


「そう。なら話しなさい! 何故私達を狙ったのかを!!」


「俺達は雇われたんだよ……」


「雇われた? 誰によ?」


「わかんねえだよ……ローブで顔を隠してたから」


「あんた嘘言ってんじゃ無いでしょうね?」


「う、嘘じゃねえ! そいつがいきなり大量の金を渡して来たんだよ! それでその女の子を捕まえるように言って来たんだ!」


「目的は何なのよ?」


「分かんねえんだよ。俺達も怪しかったから聞いてみたんだよ。そしたら奴は――」


『貴様らは知らなくていい事だ。知りたいのなら相当の代償は払ってもらうぞ』


「――って言って来たんだよ。それで俺達も恐ろしくなって断ろうとしたら奴が……禁忌級の闇属性魔法を使って来たんだよ!」


「なっ!? 禁忌級ですって!? それは本当なの?」


「ああ! アレを忘れる訳がねえ!! 俺達の仲間は何人か殺されたんだよ……それで俺達は……」


「それで死にたく無いからララちゃんを捕まえに来たって訳ね……」


「そうさ!! これが全てだよ!」


「そう……」


「さぁ早く解――」



 男達がすべてを白状して解放を望んできた時、目の前にいた男達が黒い玉によって消滅させられたのだ。一瞬の出来事で何が起きたのか理解できなかった。



「なっ!? こ、これは!!」



 ブワッと脂汗が吹き出てくる。アレはやばいと俺は全身で恐怖を感じている。ウル・キマイラの時が可愛く思える程だ。



 向こうから途轍もない気配を感じる。しかも吐き気がするくらい嫌な感じである。すぐさま俺は三人に指示を出した。



「俺が行くっす! 全員、ララちゃんを連れて先に行って下さいっす!!!」


「何言ってんのよショウ!! さっきの魔法は禁忌級の闇属性魔法、黒き消滅!! 対象を無に消し去る魔法なのよ! 貴方も逃げるの!!!」


「皆のレベルはいくつですか!?」


「どうしたんです!? いきなり!?」


「いいから早く!!!」


「私達全員のレベルは48だよ」


「なら、俺が一番っす!! 俺のレベルは52っす!! だから俺が時間稼ぎをするっす。早くララちゃんを連れて逃げろっす!」


「そんなこと出来るわけ」


「いいから早く逃げろおおおっ!!」



 全員が俺の大声に驚く。こんな風に怒鳴ったことない俺がいきなり怒鳴り声を上げるもんだから皆驚いてしまっている。



「わかったよ……ショウちゃん」


「何言ってるのよソフィ! ショウを見捨てる気!?」


「落ち着いてください! 私達はララちゃんをアルカディアまで連れて行くのが一番なんですよ!!」


「でも!!」



 二人が俺の言葉を理解してくれてララちゃんを連れて逃げ出そうとしているのに、言う事を聞かないリズにソフィさんが頬を叩く。バチンと乾いた音が鳴り響き、その場が静まり返る。



「いい加減にしなさい! ショウちゃんが怒鳴ってまで私達に逃げろって言ったのは私達を守るため! それがわからないの!?」


「わかるわよ……けど!!」


「リズ!! 俺は死なねえっす!! だから俺を信じて下さいっすよ!! だからララちゃんを守って欲しいっす!! そして無事にアルカディアまで送り届けてあげてくださいっす!」



 あー恥ずかしいいいい!!



 でも今はそんなこと言ってる場合じゃない。それにしても敵は随分と余裕らしい。わざわざ逃げる時間をくれているのだから。だけど今はそのおかげでリズ達を逃がすことが出来る。



「………わかったわ。だけど、約束して! 必ず私達の所に帰ってくること! いいわね!!」


「了解っす!!」


「ショウ……死んじゃダメだからね!」


「ララちゃん……わかってるっすよ!」


「それじゃ、行くよ皆~!」



 そして四人はこの場から走り去る。一人残った俺は大きく深呼吸する。



 これでいい……


 約束守れるかな?


 難しいな~。


 俺馬鹿だなぁ…


 さてと、いっちょやりますか!!



「もう出て来たらどうっすか?」



 俺がそう言って振り返ると真っ黒なローブを着て顔をフードで隠している男が出てくる。



「フフフ……気付いていたんですね」


「あんたが奴隷商達が言ってたローブの奴っすか?」


「そうですよ。彼らはお喋りが過ぎたので消えてもらいましたが」


「そうっすか……それより感謝するっす! 四人を逃がす時間をくれたこと!」


「面白い方だ。敵に感謝するなんて」


「礼儀っすよ!」


「別に逃がしてあげた訳じゃありませんよ? やはり追い掛ける者としては逃げ惑う者を捕まえるのが楽しいですからね」


「なるほど……なら! 俺があんたを倒す!」


「貴方はレベル52と先程仰っていましたが私に勝つおつもりで?」


「そうっすよ?」


「そうですか……なら私もレベルを教えてあげねば不公平ですからね。私のレベルは250ですよ……」


「はっ? レベル250? 100が最高じゃ無いんすか??」


「フフッ……レベルに制限はありませんよ」



 マジかよ……



 それが本当なら俺と奴の差は五倍近くある。スキルをフルで活用しても勝てるかどうか怪しいなんて次元じゃない。



「どうしました? 怖気付きましたか?」


「へっ! 誰が!」


「フフフ、そうでないと戦いは面白くない!! さぁ、私を愉しませてください!!」



 お望み通り愉しませてやる。先手必勝とばかりに異空間からグングニールを取り出す。



「おや、その武器は?」


「敵に教えるほど優しくはないっすよ!貫け、グングニールゥゥ!!!」



 ブオンッと俺はローブの男に向けてグングニールを投げる。グングニールはウル・キマイラをも貫いた槍だ。防げるものなら防いでみやがれと強気になる。



「フフッ……速いですが、この速度なら躱すことは容易ですよ」



 あっさりと投擲したグングニールは避けられてしまう。だが、グングニールは絶対に敵を逃さない。必ず敵を射抜くまでは決して追いかけるのをやめない。



「おや? なるほど面白い! ならばこれでどうです?」


「なっ!?」



 ローブの男が手を翳すと魔法が放たれた。それは奴隷商の男達を消し去った魔法で、グングニールも簡単に消し去ってしまったのだ。



「何を驚くのですか? 先程の男達もこれで消したでしょう」



 まさか、神器すら消すなんて思いも寄らなかった。まあ、俺のグングニールは模倣品だから仕方がないのかもしれない。それでも限りなく再現したんだ。それをあんな簡単に消すなんて納得出来ない。



「なら、来い!! 黒蓮、白夜!!」



 俺は異空間から白と黒の装飾銃を取り出す。二丁の拳銃を構えて銃口を向ける。



「今度は何をしてくれるんですか?」


「消えろ!! シャイニングバレットオオオ!!!」



 俺は二丁の拳銃でローブの男に光属性の弾丸を連射する。何発かは地面に当たり砂埃を上げてローブの男の姿を包み込んで消してしまった。



 やったか?



「がっ!!!」


「いや~流石に今のは驚きましたよ! まさかあんな物があるなんて!! それにしても私の本気の蹴りを受けてその程度ですか……」



 蹴り飛ばされた俺は地面を何度も跳ねて転がる。立ち上がったが足はフラフラで小突かれただけで倒れそうだ。俺の《武神》は物理的ダメージ八割減少なのにここまでのダメージを入れるなんてどんだけ強い蹴りなんだ。



「へっ全然余裕だね」


「強がらなくてもいいですよ」



 やばい……



 ローブの男の言うとおり精一杯強がって見せるが視界もボヤけて意識が朦朧としている。このままだと死ぬかもしれないと一発逆転の策に出る。



「炎神!!」


「ほう、神級の魔法が使えるんなんて!! 素晴らしい、最高ですよ! 貴方は!!ここまで愉しませてくれるなんて!」


「ほざけ! これはこうするんだよ!」



 尋常ではない熱量を持つ火属性の神級魔法を自身の身体に取り込む。俺が考える中では最強の火力を誇る魔力化の完成である。



「おお!! 《魔力化》を持ってるなんて!いやはや、貴方には驚かされるばかりです」


「獄炎焼衣!!」



 炎を身に纏った俺は最大限の力を溜めて一気にローブの男に近づく。地面を踏み砕き、ローブの男に渾身の一撃を叩き込む。



「燃えろお!! 紅蓮爆烈拳!!!」



 ローブの男に俺の拳が直撃したら爆発音が周りに響き渡る。確実にローブの男にダメージを与えたはず。



「ゴボォッ……」



 馬鹿な……


 なんで俺が殴られてるんだ……



 気付けば血を吐いて地面に膝をついていたのは俺のほうだった。対してローブの男は焦げ目すらついていない。



「流石にちょっと熱かったですよ?」



 ダメだ……


 もう意識が……



 なんで俺こんなに頑張ってんだろう。いつもの俺なら適当な所で諦めてるだろう。どうしてこんなに必死になってんだと自問自答を繰り返す。



 ハハッ……馬鹿じゃねえか…


 もう止めだ止め!


 勝てっこない……


 そもそも5倍もレベル差がある奴に勝てる訳が無いんだよ……


 はぁ~損した……



 目を閉じて、意識を失いかけていた時に俺の中の感情が爆発する。俺が戦う理由なんて決まってる。



 モテたいからだろうが!!!!


 彼女を作るためだろうが!!!


 そして、童貞を卒業することだろうが!!


 こんな所で諦めてどうする!?


 五倍の差なんて知るかよ!!!


 俺は生きて彼女を作って童貞卒業すんだ!!


 それまでは死ぬ訳にはいかねぇんだよ!!



「俺はやらなきゃいけないことがあるんだよおおおおおおおおお!!!!」


「な!? 完全に決まった筈ですよ!? 何故立てるのですか!?」


「男にはな!! 負けると分かっても戦わなきゃいけない時があるんだよ!! それが今なんだよ!!」


「バカな!! 何故そこまでして戦う理由があるんですか!?」


「そんなの決まってる!! 真の男になるためだあああああ!!!」


「真の男に? 訳が分からない!! もういい、飽きましたよ!! 消えて無くなりなさい、黒神!!」



 熱い思いを大きな声で語りながら立ち上がる。そんな俺を見てローブの男は混乱して闇属性の神級魔法を撃ってくる。黒い波動が地面を抉りながら迫ってくる。



 この程度で諦めてたら卒業なんて出来ねえ!!


 俺は男になるんだあああ!!!



 俺は黒蓮と白夜を構える。残っている全ての魔力と俺の意思を注ぎ込む。構えていた二丁の拳銃が俺の思いに呼応するように輝き出す。



 俺の心を魂を想いを俺の全てを!!


 この一発に!!!



「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」



 雄叫びを上げながら二丁の拳銃から蒼白い閃光が飛び出した。迫り来る黒い波動と蒼白い閃光がぶつかり合う。



「はあああああああああああっっっ!!!」



 拮抗していた力は蒼白い閃光は黒い波動を飲み込んだ。その勢いのままローブの男を飲み込まんとする。



「ば、ばかな! 私の全力ですよ!! そんな、そんなことがっ!! 私は、私はぁぁぁあああああ――」



 蒼白い閃光にローブの男は飲み込まれ消えて行った。全部の力を出し切った俺は二丁の拳銃を支える事も出来ずに力なく落とす。両腕をダランと垂れさせて一言零す。



「勝った……!」



 奇跡だ……


 あっ、もうダメ………


 意識を繋いでいら……れ……な……い。

改訂済み

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ