まさかの事態
団子屋の前で立ち尽くしている俺を尻目に若者は歩いて行く。呼び止めようかとも考えたが、別に関係者でも何でも無いので無視して団子屋に入る。団子屋の中では腰を抜かしている娘さんと真っ二つになった男の死体だけ。
とりあえず、娘さんに話しかけてみる。
「大丈夫ですか?」
「あ……」
おぃいいいいいい!!
いきなり気絶とかやめろよぉおおお!!
娘さんに話しかけたら、緊張の糸が切れたのか、娘さんは気絶してしまった。血の海に崩れ落ちる手前で受け止める。危うく服が血だらけになる所だった。危ない危ない。
さて、とりあえず娘さんを座敷に寝かせてと。座敷へと娘さんを寝かせた後は死体の処理をする。まずは真っ二つになった男を拾い上げて外に出る。死体を地面に置き、手を合わせて冥福をお祈りする。
その後は火の魔法で死体を完全に燃やし尽くす。死体は灰となり風によって吹き去って行った。あの男も下手にいちゃもん付けなければ長生き出来たかもしれ無いのに。過ぎた事はいいか。
死体の処理が終わり、団子屋の中へと戻り血の海を水魔法と風魔法の応用で綺麗さっぱり消し去る。これで、元通りになった。大した仕事はして無いが、額の汗を拭き取るような真似をしている時、団子屋の店主と思われる男性と目が合う。
「ど、どうも」
「よ、妖術使いだぁあああああ!!!!」
団子屋の店主は俺を指差して思い切り叫ぶ。人をいきなり妖術使いと呼ぶとは、何たる無礼者だ。妖術使いでは無く、魔法使いと呼んで欲しいものだ。
「こ、この妖術使いめ、私が相手だ!!!! 娘には手を出させんぞ!!」
包丁を片手に構える店主。ガタガタと震えながらも俺から目を離さない。その目は例え自分がが死んでも娘だけは守ろうとする強い眼差しだった。見た事無いから知ら無いけど、多分そんな感じ。
「安心してくれ。別に襲おうとか、そんな事、全然考えて無いから」
「だ、騙され無いぞ!! 妖術使いは話術を巧みに使い敵を陥れる事も得意だって知ってるんだ!」
妖術使いパネェな。
俺にはそんな巧みな話術なんてねえよ。
「いや、俺にはそんな事は」
「うるさい!! お前らなんか誰が信じるか!!」
「わ、わかったよ。出て行くよ」
「なら、さっさと出て行け!」
喚く店主を尻目に俺は団子屋を後にする。それにしても、妖術使いと言うのはえらく嫌われているのだな。まあ、そんな事はどうでもいいか。今はいなくなったファイブを探さなければ。この国で彼奴が何をやらかすか分かったものではない。
いや、予想だと、確実に厄介事だろうな。十中八九、俺に、国に対しての厄介事だろう。それも、国崩壊レベルのものだと予想出来る。
本当に終末の使徒は手を焼かせてくれる。いっその事、全部放っといてアインスを殺しに行こうかな。そうすれば、頭を失った事で他の終末の使徒も黙るんじゃないだろうか。
果たして、そう上手くいくか?
今まで俺が上手くいった事ってあるかな?
詰めが甘かったりして毎回しっぺ返しを受けてるし。
よくよく考えれば、今回ファイブを逃したのだって俺の気の緩みの所為だし。
あーあ、情けねぇなぁ……
少しネガティヴ思考になりながら、道を歩いて行く。たまに人とすれ違うが、ほとんどが村人みたいで、ちょんまげがいない。倭国、つまり元の世界で言う日本なのだからちょんまげがいても良いのに。
トボトボ歩いていると、鼻先に冷たいものが当たる。どうやら、雨が降って来たらしい。空を見上げてみると、先程まで晴れていたのに、今は曇り空になっていた。雨宿りできる所も無いので、次の村まで走る事にした。
結局、雨が激しく降ったのでビシャ濡れになって次の村に辿り着いた。とにかく、どこかに泊めてもらおう。お金が無いから心優しい人がいれば良いのだが。
片っ端から家を訪れて泊めてもらえるか、聞いてみるがどこも首を縦には降ってくれなかった。俺の心は曇天、お空は豪雨。もう、やる気が出無いわ。
適当に建物の屋根の下で地図を広げて、他の村、もしくは大きな町を探してみる。地図を見る限りでは、どうやら、ここから大分遠くに離れた所に町があるようだ。そこなら、もしかしたら泊めてもらえるかもしれ無い。
豪雨の中、走り続けて町に到着。もう外は真っ暗、しかも、今だに雨は降り続いている。ただ、少し雨の強さがやわらぎ、今は普通の雨程度になっている。
ていうか、震えてきた。もしかしてだけど、風邪を引いてるんじゃ無いだろうか?
このままだと、マズイと判断した俺は目に見える建物全てに泊めてもらえるか聞いて回る。
しかし、結果は――
「悪いね」
「あー、無理無理」
「あっち行きな!」
「金があるならなぁ」
「しっしっ!」
「うーん、他を当たってくれや」
「泊めてあげたいんだけど、妻がうるさくてなぁ」
「おとといきな!」
ご覧の通りである。結果は全敗。誰も泊めてはくれなかった。流石にここまで来ると精神的にグッと来てしまう。この町もダメだと見切りをつけて町の外へとフラフラと出て行く。
意識が朦朧として来た。
これは本格的にヤバイんじゃ無いのか?
それでも町の外へと歩いて行く。途中、大きな屋敷を見つけるが、どうせ無理だろうと思い、歩いて行く。町の出口まで来て、ようやくこの町から出れると思い足を踏み出したら、転けてしまった。
あれ?
あれれ?
おかしいなぁ……
身体が寒いや……
マジやばくね?
これ、詰んだかな…………
こんな最後は嫌だなぁ…………
泥水の中で意識が薄れて行く。雨は降り続けて身体を濡らして行く。その時、パシャッと足音らしきものが聞こえてくる。目だけを動かして見てみるがボンヤリと灯りだけが見える。
その灯りを最後に俺の意識は無くなった。
GWを満喫してたら小説が……
では次回を!!




