巨人ファイブ
「おいおい、冗談だろう?」
「………そんな」
今、荒野をバイクで走っているが、眼前の光景に目を疑ってしまう。何せ、途轍も無い大きさの巨人が立ち上がっているのだから。
しかも、巨人の足元には街がある。街だけでなく城も見えている。つまり、あれが獣王国なのだ。最悪な事態と言っても良いだろう。あれ程の巨人が暴れ回ったら結果は目に見えている。
獣王国は今日を持って滅亡すると――
「…………もう、終わりです。巨人が復活した今、私達に出来ることなんて――」
「おい、ヨーコ。俺があの巨人倒したら、お前の尻尾触らせろ」
「は? な、何をいきなり! てか、女の子の尻尾触りたいとか変態ですか!!」
「いや、一度触りたかったんだよ。だから、俺があの巨人倒したら触らせてくれ」
「はっ! そうですね! 倒せたらいくらでも触らせてあげますよ! なんなら私の身体を好きにしてくれても構いませんよ!」
「ほう? 言ったな? 嘘だったら胸揉みまくるからな」
「ふん! どうせ、無理ですよ!!」
「無理かどうかは俺が決める!! お前はここで見てな」
俺はバイクを飛び降りると結界を張り巡らせる。
「とりあえず、これで安心だろう。それじゃ俺は行ってくる」
「ほ、本気ですか!?」
「ん? そうだけど?」
「な、なんでですか!! そもそも、貴方には全く関係の無い事なんですよ!! ここで引き返しても誰も貴方を責めたりしません! なのに、どうして、戦いに行くんですか!!??」
「そんなの決まってる。将来の彼女の為だ」
「えっあっ?」
「そんじゃあな!」
片手を上げてヨーコと別れる。目指すは巨人のいる獣王国。身体強化を施し全速力で獣王国へと向かう。今だに巨人は動こうとしない。ただ、立っているだけで、微動だにしない。逆にそれが怪しくて不安になる。
獣王国の門を飛び越えて、一気に巨人の足元へと辿り着く。しかし、足元に来て分かったが、この巨人の大きさは、尋常では無い。東京タワーよりも大きいだろう。流石にスカイツリーよりは小さいが。それでもこの大きさはあまりにも圧倒されてしまう。
「…………上等!」
ヘルメスの靴を装備して空を駆け上がり巨人の目の前へと飛び出る。大きな目がこちらを睨んでくる。少し怖気付いてしまったが、すぐに戦闘態勢に入ると、全力で右頬を打ち抜いた。
「しゃっ、オラァ!!」
巨人の顔が少しだけ左を向いただけで、巨人は全くダメージというものが無かった。巨人はチラリと視線を向けて来る。
「ふん、デカイだけで何もしねえのかよ!?」
「くくくく……貴様が異界の勇者か」
「しゃべれるのかよ!」
「無論だ。だが、喋っているのは巨人では無い」
「まさか、テメェ、終末の使徒か!!」
「ご名答。その通りだ、異界の勇者よ。私はファイブ、No.5の使徒だ」
「なるほど…………なら、死ね!!」
喋っている巨人の鼻を蹴り上げるが、巨人はビクともせず、俺を掴もうと手を伸ばしてきた。すぐ様、手が届か無い所まで下がるが、手の届く範囲が広すぎる。
向こうの攻撃範囲は広い、それに頑丈さも半端では無い。ならば、やる事はひとつ。
「陽炎焼天」
空へと手を広げ、灼熱の熱線を巨人へとぶつける。熱線が巨人を覆いつくしたが――
「そりゃないだろ……」
巨人は表面の皮が少し焼けただけで、大したダメージでは無かった。現段階では陽炎焼天は俺の中の最高峰の威力を誇る魔法である。それが、この結果だ。嘆きたくもなるものだ。
「ククク、そう悲観する事はない。この国の連中ですら、傷一つ負わす事が出来無かったこの私に火傷を負わせたのだから、誇るといい」
「くそっ、嫌味かよ」
「いやいや、純粋に褒めたのだよ」
しかし、どうしたものか。陽炎焼天がダメならば、全てを飲み込む黒玉をぶつけるか?
果たして、こいつに効くのだろうか?
この巨体を飲み込む事が出来るのか?
「ククッ、悩んでいるようだな。大方、もう一つの大技、全てを飲み込む黒玉が効くか否かと言った所だろう」
「情報は漏れてるって事か……」
「そういう事だ。貴様の自慢の全てを飲み込む黒玉は効かないぞ」
「そりゃまた面倒な事で」
くそっ! なら、どうする?
神級の魔法をぶつけてみるか?
いや、陽炎焼天以上の威力を持つ魔法は現状、存在しない。
違うな。俺が知らないだけか。
だが、どうすればいい。
「今度はこちらから行くぞ」
考え事をしていたとき、ファイブが動く。腕を大きく振り上げて薙ぎ払う。その威力は想像を絶するもので突風が巻き起こり、城が、街がたったの腕の一振りで瓦礫と化した。俺は躱す事が出来たが、他の物を守る事が出来無かった。
今の一撃でどれだけの人が!!
いや、落ち着け。
所詮俺は1人の人間だ。
何もかも救おうなんて思うな。
今はただ目の前の巨人を殺す事だけに専念しろ。
獣王国の人達には悪いが、自身の身は自身で守って貰おう。
「オォォオオオオラアアアアアア!!!」
全力で空を蹴り、巨人へと突っ込みアッパーを打ち込むが全く効か無かった。流石に勝てるか自信が無くなって来てしまった。
「ふん、痒いな」
ぐっ!!
ムカつく!
「ミョルニル!!」
異空間からミョルニルを取り出し、巨大化させる。巨人の頭と同じ大きさまで、大きくして一気に振り下ろす。見事、ミョルニルは巨人の頭を叩き潰した。
「やったか?」
俺の淡い希望はすぐに打ち砕かれる事になる。潰れた頭が煙を放ちながら元に戻って行く。そして、先程と変わらない姿の巨人に戻る。つまり、再生したのだ。
「再生能力まであるのかよ……」
「ククク、カカカカ!! さぁ、どうする? このまま諦めて逃げるか? それとも勇ましく戦い、私に殺されるか?」
「けっ! テメェをぶっ殺してヨーコの尻尾モフるんだよ!」
「カカカカッッッ!! 下らないな!」
「下らないだと? 人の!! 夢を!! 俺がどれだけその夢描き続けて来たか、分かるか貴様に!! その俺の夢を下らないだと!! 貴様は殺す!! 絶対に殺してやる!! 俺の夢を笑った事を後悔させてやる!!」
バカにされた俺はキレる。
人の夢と書いて儚い
作者の夢も儚い物です
では次回を!




