辺境伯
エリス様が馬に乗り大聖堂に帰ろうとした時、クロが声を上げた。
「ちょっと待て!」
「どうしたよ?」
「いや、落ち着いて考えろよ? 今戻った所で何が出来るんだ?」
「何って、大司教とユリウスをぶった切れば万事解決じゃねえか」
「アホかお前は。今回は敵を倒せば終わりじゃねえんだぞ。敵を倒して、ようやく次の段階に進めるんだ。この国を変えるっていう段階にな……」
そういや、そうだった。今回の暗殺の発端は政権を巡っての争いからだった。つまり、今戻って大司教をぶっ殺しても話がややこしくなるだけだ。しかし、政権を巡っての争いという事は俺じゃ力になれないぞ。
「お前は敵を倒す事は出来ても、頭を使うのはてんで苦手だもんな」
「うぐっ」
「まずは味方を増やす事だ。俺様達には味方がいないからな。せめて、上級貴族くらい欲しい所だぜ。それで、聖女様よ、そこん所どうなんだ?」
「残念だけど私の意見に賛同してくれる貴族は誰一人としいないわ」
「おいおい、壊滅的じゃねえか! なんか、いないのかよ、どちら側にもついていない貴族は?」
「そういえば、一人だけいたわ。でも、ユリウスに会うのを止められたから会ったことは無いけど」
「そのユリウスは大司教側の人間だぞ。つまり、聖女様と会わせると厄介な事になると思ったんじゃねえのか、ユリウスってのは?」
「確かにそう考えれば……」
「なら、話は早い。どうせ味方なんていないんだ。その貴族の所へ行ってみようぜ」
「そうね。でも、確かその貴族は嫌われ者の辺境伯と呼ばれてる。それとここからじゃ、ちょっと遠いかも」
「どこにいるんだよ、その嫌われ者の辺境伯ってのは?」
「国境付近よ。獣王国とのね」
「ここからだとどれくらいだ?」
「そうね、馬を走らせても最低、2日は掛かるわ」
「……おい、ショウ。お前が全速力出したら数時間で着くんじゃねえか?」
「余裕だが、バイク使った方が楽じゃね?」
「そうだなぁ……所でいつ期限なんだ? その先導者を決めるのは?」
「三日後よ」
「後、1日と半日しかねえじゃねえか!!」
「そうよ、だから早くしないと!」
「くそっ、話は後だ。ショウ、今すぐバイクを出せ!」
「任せろ!」
言われた通りにバイクを取り出す。エリス様が見た事も無い乗り物を見て驚いているが今は一刻を争う。目指すは辺境伯か住んでいる国境付近。味方になってくれると良いのだが。
森を駆け抜け荒野へと出る。エリス様は先程から流れる景色を眺めていて一言も喋ら無い。つまらなく感じていたら服の中に隠れていたクロが顔を出す。
「ふぅ……それでお前はどうするんだ?」
「どうするって何が?」
「今後の事だよ。まさか、お前本当に聖教国が変わるまでいる気か?」
「そういう事か。エリス様には悪いが事が済んだらいつものように逃げるよ」
「相変わらずだな。でも、今回ばかりはそうもいか無いぞ」
「どういう意味だよ?」
「仮に今回の騒動が終わり、いざ国を変えようって時にまた暗殺なんてされたらどうするよ? 今はお前がいるからその心配は無いが、お前がいなくなった後、誰が聖女様を守るよ?」
「…………なんとかするさ」
「後先のことも考えてから行動しろよ。いつもいつもうまくいくとは思うな」
「重々承知したよ」
少し重い空気になる。先程の会話はエリス様には聞こえてい無いようで安心した。
荒野を駆けていると大きな谷が見えて来る。
「あの谷が国境よ。多分この辺りに辺境伯が住んでいると思うんだけど……」
「まさか、場所知ら無いの?」
「当たり前でしょ。兎に角、建物見つけたら良いのよ!」
適当に谷を沿うように走っているとポツンと一軒屋が建っていた。どう考えてもアレが辺境伯の住んでいる建物と思われる。しかし、仮にも辺境伯という称号を与えられているのだからもっと大きな家にすれば良いのに。
とりあえず、バイクを家の前で止めて降りる。玄関のベルを鳴らしてしばらく待つと玄関が開く。中から出てきたのはメイドなのだがホワイトブリムの後ろから見える獣耳に目を見開いた。
メイドは俺の顔を見て慌てて玄関を閉めるが俺はどこぞのセールスマンみたいに扉の間に足を滑り込ませて阻止する。物凄い痛いけど、目の前にケモミミメイドさんがいる事に比べれば大した事ではない。
必死になって閉めようとしている姿が、これまた可愛らしい。
俺は負けんよぉおお!!
犬耳のメイドさん!!
俺は負けんよぉおお!!
その耳に触るまでは俺は負けんよぉおお!!
そんなアホな格闘を繰り広げていたら、家の中から1人のおっさんが出て来る。
「御主人様!」
「その方達を中に入れてあげなさい」
「し、しかし」
「大丈夫。彼は悪い人ではないから」
「で、でも、鼻息が荒いです!」
「ま、まぁ、そこは勘弁してあげて」
「そ、それになんだか私を見る目が怖いです!」
「怖くないよ! ただ、その犬耳に触れたいだけなんだ! お願いだから中に入れてくれよ!」
「御主人様、怖いですよ〜!」
「あー、頑張って」
「ひ、酷いですぅう!」
メイドさんが折れたようで中に入れて貰えたが、足が凄く痛い。何せさっきまでガンガン扉の間に挟まれていたからだ。いや、本気を出せば余裕で開けれたんだけど犬耳のメイドさんが可愛くて可愛くて力が入らなかったんだ。
可愛いは正義。
まさにその通りだ!!
もう一つの小説は一旦休載や!
ごめんなさい
力量不足です
では次回を!




