護衛の依頼④
あれから三日が経った。変わったことが一つある。それはリズが俺のことを名前で呼ぶようになったのだ。
やったね!
大きな一歩だね!
ちなみに今、俺たちは関所にいる。国境を越える際に面倒な手続きがあり、今はその手続きを行っている最中だ。
「これが入国許可証です。アルカディアに行く際には提示の方をお願いします」
「はい」
関所の方から俺が許可証を受け取る。それにしてもさっきから視線が痛い。ホントに痛いわけではないけど、ずっと見られているのが辛い。
それもそうか……
だって皆美女ばかりだもの!!
フハハハハハハハ!!
貴様らは眺めるだけだ!!
俺こそが勝ち組だぜ!!
「ショウ受け取ったなら早くいくわよ」
「あっ、はい」
リズに呼ばれて従順な奴隷のように後を追い掛けると視線の感情が変わった。先程までは嫉妬や羨望だったのに、今は哀れみの方が勝っている。
その目をやめろぉ!!
俺をそんな目で見るなぁ!!
やめろ!
やめてくれ!!
俺を哀れむな!
わかってる!
俺だって釣り合わないってわかってる!
だけど、少しは誇ってもいいじゃないか!
「やっぱりあいつただの荷物持ちみたいだな」
「そうみたいだな」
「まあ月とスッポンだわな」
「予想はしてたが可哀想に……」
聞こえてくる声に俺の心は荒んでいく。勝ち誇っていた俺の心は僅かな間で惨めな負け犬に変わっていた。
「ほら、何してんのよ。早くしなさいよ!」
「……はい」
俺とリズのやりとりを見た連中は、哀れな小間使いと高飛車なご主人とでも思っているのか微かに笑っていた。
笑うな!!
笑ってんじゃねえぞ!!
ちくしょう……!
なんで俺が……!
「ほげえええ!!」
「なんべん言えば気が済むのよ! 早くしなさいって言ってるでしょ!!」
だからって風球撃つ必要はないはずだ。しかも、最悪な箇所に的中している。俺は蹲りピクピクと虫の息になっていた。
「うわっ……おいあれ。金的じゃなかったか?」
「ああ! 金的だった!」
「おうふ……」
見ていたであろう男連中は俺の惨劇を目の当たりにしてうろたえていた。きっと、男にしか分からないであろう痛みを知っているからだろう。
マジ金的やべえんだよ!
女にはわかんねえ痛みだ!
「悶えてる……」
「そうだね~男の人の大事な所だからね~」
ララちゃん、ソフィさん少しは心配してくれてもいいんじゃかと言いたいけど、声にできないほどの痛みで苦しんでいる俺は何も言えなかった。
「もうほっといて行きましょ!」
「でもリズ……」
「ショウちゃんならすぐに追いつくから大丈夫だよ~」
「わかりました……」
「私は後でショウと追い付く」
「わかった。ララちゃん後はよろしくお願いね~」
「……ん」
他の三人は本当に俺を置き去りにして関所を出て行った。ララちゃんだけが残り、俺が回復するまで待ってくれた。
ララちゃんマジ天使!!
てか、皆薄情だろ!!
もっと大事にしてもらいたいもんだぜ!
しばらくして、ようやく痛みが引き動けるようになる。飛び上がり身体の動きに支障がないかを確認する。
「うしっ! もう痛みはない!」
「ん!」
「どうしたの、ララちゃん?」
「おんぶ……!」
「うい!」
「ん……!」
しっかりと背中に捕まったララちゃんを確かめると俺は風のように走り出す。既に背中も見えなくなった三人に追いつく為に。
「おい……つ……い……た」
「あら、案外早かったじゃない?」
「先に行き過ぎですよ……」
「魔法を使ったんだから当たり前じゃない」
「な、なんで……?」
「ショウなら追い付けると思って」
さらっと言うけどこれでも結構飛ばしたんだ。信用してくれるのは嬉しいけど、方向性が違うと思う。
「ララちゃん楽しかった?」
「ん……楽しかった」
「それは良かったですね」
背中の方ではおんぶされているララちゃんにキアラさんが楽しそうに会話をしている。その時、俺はふと気になったことを尋ねる事にした。
「あの!」
「何?」
「なんで俺なんすか?」
「なんのこと?」
「えっと、なんで俺がこの護衛として選ばれたかっすよ」
「ああ、そうね。まだ言ってなかったわね」
「そういえばそうですね」
「丁度良いから話しながら進もうよ~」
ようやく聞ける。ついに明かされるのだ。俺がこの護衛役として選ばれた理由がと期待に胸躍らせる。
「セラに言われたのよ。ショウが信用出来るって」
「えっ!? それだけっすか?」
「それだけじゃありませんよ? 実力ある人というのもあります」
「でも~ララちゃんが平気な人っていうのが一番かな~」
「じゃあ俺がもしララちゃんに気に入られなかったら?」
「当然他の人になるわよ」
「マジっすか!?」
「正直居ないだろうと思ってたんだけどセラにショウを推薦されたから見てみるだけ見てみようってなったの」
「それで当日来たらララちゃんがショウさんにくっ付いてて驚きましたけどね」
「本当そうだよ。私達も信じられなかったんだから~」
「そうだったんすか……」
そんな理由があったとは思いもしなかった。もし、ララちゃんに気に入られなかったら俺は彼女達とは顔見知り程度の関係で終わっていたかもしれないのか。
深く考えるのはやめよう……
「それより私達の顔を見ても驚かないショウにも驚いたけどね」
「へっ? どういうことですか?」
「私達これでもAランク冒険者なんですよ?」
「そうだよ~ちなみにパーティ名はヴァルキリア。これでも有名なんだからねえ~」
「全然知らなかったっす」
そうだったのか!
強いとは思ってたけどまさかAランク冒険者だったなんて予想もつかなかった。でも、そんなことは教えてもらっていなかった。聞いていたのは他の冒険者というくらいだった。
会話をしながら歩いていたら、いつの間にか国境を超えて大分経過していた。周囲の景色は森っていうより密林って感じに変わっている。
「虫が凄いわねー」
「私苦手なんですよ」
「私は普通かな?」
三人の言うとおり本当に虫が多い。幸い俺は虫が苦手と言う事は無いので平気である。しかし、小さな虫が顔辺りを飛び回るのは鬱陶しいので焼き払いたい気分だ。
うえっ!!
ペッペッ!!
口ん中入ったぞ!?
おええええ!!
後で口洗おう。
「ララちゃん大丈夫?」
「ん……平気……ショウの背中にいるから」
ララちゃんはまだ俺の背中にいる。先程からずっとおんぶしたままだ。その為、俺が虫の壁避けみたいな役割になっている。
はぁ、虫が多いって嫌だなぁ。
ん?
なんだこの音?
羽根の音?
微かに聞こえてきていた羽音がどんどん大きくなっていく。どうやら、こちらに向かってきているようだ。これは嫌な予感がする。
やばい!!
「ギシギシシ!」
突如、姿を現したのは人よりも大きいカマキリだった。巨大なカマキリは口をカチカチと開けたり閉じたりして鳴き声を上げている。しかも、獲物を狙い定めたかのように鎌を研いでいる。
キモい!!
そう思った瞬間、カマキリが飛び掛って来る。丸太を簡単に切り裂きそうな鎌を振ってきて切られそうになるが飛んで避ける。すると、俺の背後にあった大木があっさりと真っ二つに切られてしまった。
マジかよ!
あの鎌どんだけ切れ味いいんだよ!!
「気を付けて!」
「ひいいいい! でっかい虫ー!!!」
「キアラ落ち着いて!」
女性陣の方は相手が虫だから錯乱しているキアラさんを落ち着かせるので手一杯である。俺が戦うしかないけどララちゃんをおんぶしたままだ。
どうする!?
「ショウ……私なら平気……!」
「なっ! でも!?」
「大丈夫だから……戦って!」
「……わかった! 振り落とされ無いようにしっかり捕まってるんだぞ!」
「ん!!」
来い!!
黒蓮、白夜!!
俺は異空間から二丁の黒と白の拳銃を取り出す。この二丁の拳銃は俺オリジナルの拳銃で能力はそれぞれ属性の弾を放つことが出来る。それも魔力有る限り何度でもだ。俺はカマキリの魔物に向けて弾を撃つ。
「フレイムバレット!」
火属性の弾丸が放たれる。カマキリに直撃すると小さな爆発を起こした。カマキリの一部が黒く焦げている。
「ギシャーー!」
思った以上にダメージを受けたカマキリは怒り狂って無茶苦茶に鎌を振り回す。そんな雑な攻撃では当たらないと余裕で避ける。だが、次の瞬間カマキリが羽を広げて宙を舞う。
おいおい!!
マジか!?
縦横無尽に動き回るカマキリは相変わらず鎌を無茶苦茶に振り回している。草木がバッサバッさと切られていく。時折、木が倒れてくるので意外と面倒くさい。
「ギシャシャシャシャ!」
俺はジャングルの中を最低限の動きで飛び回る。なんとか奴の攻撃は躱すことは出来るが反撃に出れない。さらに言えば背中にしがみ付いているララちゃんにも気を配ってないといけないので精神的にも辛い。そんな時、頭上すれすれを鎌が通り過ぎる。
危ねっ!
このままじゃラチがあかねぇ!
「ショウ、伏せて!! 真空波!!」
リズの掛け声に俺は言われた通りに、その場に伏せると頭の上をゴウッと音が通り過ぎる。魔法が通り過ぎたのを確認した俺は顔を上げてカマキリを見ると鎌が切り落とされていた。
「ギイイイイ!!」
「今よ、撃って!!」
「エクスプロードバレットオオオオ!!」
俺は両方の引き金を引いて火属性の弾丸を魔物に放つ。二発の弾丸はカマキリに着弾すると大きな爆発を起こす。爆発音がジャングルに響き渡り爆風が髪を揺らす。
ふう、なんとかなったな。
「ララちゃん。大丈、夫……?」
背中にしがみ付いているララちゃんに振り返った俺が見たものは猫耳である。しかも白猫だと思われる立派な白色の猫耳だ。
ふぉおおおおおお!!!
白猫耳だああああ!!!
「ん? あれ、フードがない……!」
俺が両手を使えなかったことでララちゃんはしがみ付いていたからフードを押さえておく事が出来なかったのだろう。だから、今フードのないララちゃんは焦っている。
来たあああああああああ!!
白い髪!
そして、白い猫耳!!
パーフェクトオオオオオ!!!
「み……見ないで!」
ララちゃんはそう言って耳を隠す。背中から感じるのは震える身体である。そういや、昔の獣人は迫害の対象だったんだ。だから、きっと拒絶されるかもしれないという恐怖があるに違いない。
「怖がる必要はないよ……」
「え……?」
むしろいい!!
それがいい!!
猫耳最高だよ!!
俺は犬派だけど!
でもいい!!
可愛いよ、ララちゃん!!
マジ天使!!
「気持ち悪くないの……?」
「なんで???」
「だって私……」
「獣人とか人間とか関係ないよ。ララちゃんはララちゃんだろ? それでいいじゃないか」
もしララちゃんをキモいと言うなら俺がそいつを斬る自信がある。この猫耳の素晴らしさを分からない奴は死ねばいいのだ。
「ふぇ……ぅぇぇえええ……!」
えええええええ!!
なんで泣くの!?
俺なんか言った!?
どうしよ、どうしよ!
アババババババババ!!!
てか、俺の背中に鼻水擦り付けないで!
「あらあら、ララちゃん嬉しくて泣いてるみたいだね~」
「本当ですね! よっぽどショウさんに言われたことが嬉しかったんでしょうね」
「まあ、ショウは優しいからね……」
「ふふっ誰かさんも同じように泣かされたもんね~」
「なっ! ちょ、今関係無いでしょ!」
「照れないでいいですよ」
「て、照れてなんかいない!」
なんか向こうの方で盛り上がってるんですけど誰か俺を助けて欲しい。女性に泣かれるのは本当に困る。どう対処すればいいのかわからないからだ。
なんか泣かしてばっかりだね、俺!
改訂済み




