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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第六章 新たなる大陸、そしてぼっち旅

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今日も今日とてアホ全開

 先日、華麗なる逃走劇を繰り広げた俺は新しい街へとやって来ていた。やって来ていたは語弊だな、逃げて来たが正しいな。



 しかし、新しい街へと辿り着いたのはいいが、この状況は一体どういうことなのだろうか。何せ、人っ子ひとり見当たらないのだ。今歩いている場所は大通りで店も沢山あるのに全て閉まっている。



 とりあえず歩いてたら、西部劇など良く見る酒場が開いていた。両開きの扉を開けて中に入るとカランカランと音が鳴り響く。もう一度、外に出て中に入る。同じ様にカランカランと音を立てる。



 楽しくなって来たので繰り返していたら酒場のマスターが怒鳴り散らしてきた。



「うるせえぞ、糞ガキが!! 冷やかしなら帰りやがれ! ボケカスが!」


「まあまあ、そう怒んなさんな。禿げるぞ?」


「もう、髪の毛一本残ってねえわ!」


「こりゃ一本取られたな」



 席に着き膝を組んで指を1本立てて注文する。



「オレンジジュースを一つ」


「カッコつけてる所悪いがウチじゃオレンジジュースは扱って無いぞ」


「おぉうち!! なら、ミルクで」


「ガキかよ」


「ふっ、ミルクを沢山飲んで大きくなるのさ」


「へいへい、ホレ」



 ミルクを一気に飲み干してマスター、ハゲに質問する。



「なぁ、ハゲよ。どうしてこの街はこんなに廃れてんだ?」


「それが人に聞く態度かよ……まあ、この街が廃れてる理由は化け物のせいだ」


「化け物? どんな奴だ?」


「翼の生えた気持ち悪い顔の男だ。やたら、強くてこの街の兵士、冒険者は皆殺しだ。怯えた連中はみんな逃げちまった。そんで、化け物は領主の所の娘を欲しがって今日の晩また来るんだよ」


「そいつはおっかねぇ! 逃げなきゃ!」


「ちょっと待て。ミルクの代金」


「ふふん、お金だな。ホレ」



 カラクラタウンで荒稼ぎしておいたお金をドヤ顔で取り出しマスターハゲに渡す。マスターハゲは受け取ると顔をしかめ金を返してくる。



「こいつは帝国の金だろ。ウチじゃ取り扱っていない。他には無いのか?」


「無い! 俺は無一文だな!」


「ぶっ殺すぞ、糞ガキが」



 マスターハゲは頭に青筋を浮かべている。どうやら、冗談が通じるような相手では無いようだ。勢いで首根っこ掴まれそうで怖い。



「まあ、待て。必ず代金は払うよ!!」


「言っとくが冒険者ギルドで稼ごうとしても無駄だぞ」


「な、なんで!?」


「さっきも言った通り冒険者は皆殺しにされたから冒険者ギルドは機能しなくなったんだよ。職員達は自分の命可愛さにみんな逃げちまったさ」


「……マジかよ……なら、俺が化け物倒すぜ!」


「ハァァァァア?? お前がか? ブァカじゃねえのか? お前みたいに調子に乗った冒険者がどれだけ返り討ちにあったか分かってんのか?」


「ふふん、大丈夫だ! 何せ俺は強いからな!」


「あっそ、まあ、勝手に死ぬのは勝手だが……俺が行かすと思うか?」


「な、なら、有り金全部置いて行くから」


「担保か……悪くないな。換金すればそれなりの金額になりそうだしな」


「それじゃ行ってもOK?」


「構わん、死んで来い」


「ちょっ、酷い。てか、ハゲは逃げないのか?」


「俺はこの街で生まれ育って来た。今更、他の街に逃げようなんて思わねえよ」


「うわっ、めんどくさ」


「ぶっ殺すぞテメェ!」


「まあ、いいか。それじゃハゲ、領主から礼金を払うように伝えてやるよ」


「期待せずに待っとくよ」


「少しは期待してよ! 後、酒場の名前教えて。後で領主に金を持って来させるから!」


「スカットだ。お前が最後に立ち寄った酒場になるからよーく覚えとけ」


「だから、死なないって。そんじゃあ!」



 酒場を出て領主の館を探す。街の中を走り回って探したがそれらしき建物が見当たらない。どうしようかと困っていたら、遠くに小高い丘が見えそこに大きな館が建っていた。多分アレが領主の館だと決め走る。



 館の近くまで来てテントを張り夜まで待機する。



 いつの間にか眠っていたようでテントの外に出ると夜になっていた。空は満点の星空、実に綺麗だと見入っていたら黒い影が館の方へと飛んで行く。目で追い掛けると例の化け物が館のバルコニーに着地した。化け物はそのまま中へと入って行く。



 身体強化を施しバルコニーまで跳躍する。中を覗くとおっさんが怯えながら娘を庇うように立っていた。化け物はゆっくりとおっさんの方へと近づいて行く。



 颯爽と化け物吹っ飛ばせば俺カッコ良くね?



 ヒーローの様に登場したい俺は窓ガラスを打ち破り化け物の横っ腹を蹴り飛ばした。



 突然の出来事で領主と娘は目を丸くする。壁に激突した化け物が立ち上がり喚き散らす。



「己、人間風情が私を足蹴にするなど、いい度胸だな!」


「ちょっと黙っててねぇ〜」


「ぐおっ!!」



 喚き散らしていた化け物に一瞬で近づき腹を蹴り壁を突き破って行く。吹き飛んで行った化け物を放っといて領主達に振り返り口を開く。



「領主さん、俺が今からあの化け物倒すから御礼としてスカットっていう名前の酒場にいるハゲにお金渡しておくれ」


「お金とは……いくらだ?」


「ううん、沢山でいいや」


「そ、それだけでいいのだな?」


「多くは望まんよ。それより二人共、下がってな。さっきの化け物が来るから」



 二人にそう言うと化け物を猛スピードでこちらへと飛んで来る。バカ正直に真っ直ぐ飛んで来ている。余程、自信があるみたいだが、俺からすればただの雑魚に過ぎないので飛んできた所にかかと落としを決める。



「ぬぐわぁ!!」


「フィナーレだ!!!」



 床にめり込んだ化け物の首をもぎ取る。化け物の身体が痙攣を起こした後、動かなくなる。汚いのでバルコニーの外へと放り投げて首と一緒に燃やす。



 さて、これで終わりだな。



 手を叩き、領主の方へと振り返る。



「さっきの約束忘れんなよ?」


「う、うむ。しかし、君は何者なんだ?」


「俺は……旅人だ」



 そう言ってバルコニーの方へと歩き飛び出そうとしたら、今度は娘さんに呼び止められる。



「あ、あの、お名前を……お名前を教えて貰えないでしょうか?」


「ふっ、名乗る程の者じゃあ無いさ。それじゃあな!」



 ヘルメスの靴を履き星空を駆けて行く。



 最高に決まったぜ!!!



 ****


「領主様、このお金は?」


「むっ、聞いていないのか?」


「もしかして黒髪の青年が……」


「うむ、不思議な青年だった。まるで、御伽話の勇者のようだったよ」


「そ、そうですか」


「さて、私は約束を果たした。それではな、マスター」



 領主はスカット酒場を後にする。一人残されたマスターハゲはポツリと呟く。



「あのクソガキ。有り金全部置いて行ったままじゃねえか。しまらないアホだな」

アホな話は楽しいですね!



では次回を!

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