さらば帝国よ!
「さぁて、ロイド。試合を――」
「いやぁ、僕は降参するよ。あんな魔法を見せられては君とはとても戦えそうにないよ。ぶっちゃけ僕も死にたく無いからね〜。それに、ホラ。さっきの騒動の所為で防死結界も壊れてるから、ね」
そう言われると、あのクソガキが降ってきた時に壊されてたな。確かにこの状態の闘技場で戦えば無事じゃ済まないだろう。いや、寧ろ死人が出る可能性が高いな。そう考えたらロイドが降参するの納得出来る。
「まあ、確かにな。じゃあ、序列争いは俺が優勝で良いのか?」
「ああ、良いと思うよ。ていうか誰も異論は無いよ」
ふむ、それならとっとと皇帝に挨拶でもするか。
「皇帝陛下! 確か序列1位になったらお願いを聞いて貰えると聞いたのだが?」
「あ、ああ。その通りだ。余が叶えられるものなら一つだけ叶えよう」
「一つじゃ無く3つにしてくんね? ホラ、俺さドラゴンゾンビ殺してやったじゃん? 結構この借りはデカイよね?」
「うぐっ……まあ、帝国を未曾有の危機から救ってくれた恩人だ。なんでも申すが良い」
「オーケー! 流石、皇帝様だぜ。まず一つ目はカーラには自由に恋愛をさせてやって欲しい。次に二つ目だが俺は序列騎士1位を辞退する。そこにいるロイドに任しといてくれ。そんでもって最後の願いだが、女性でも騎士になれるようにしてくれ、そのついでにそこ序列2位の騎士さんには罰を与えないで欲しい。これが俺の願いだ」
「な、何!? す、少し待ってくれ。二つ目と三つ目は認めよう。しかし、何故カーラに自由に恋愛をさせてやって欲しいのだ? まさか、カーラに好意があるのか? そうなのか?」
「ちげぇよ。カーラとはほんの数日前に森で出会った。なんで、こんな所にいるのか理由を聞いたが適当にはぐらかすんだよ。それで、まあ、俺の使い魔の能力を使って記憶を読んだ結果、無理矢理婚約させられそうになって家出をしたらしいじゃねえか? それで可哀想だと思ってな」
「えっ、ちょっ、ショウ、あんたいつの間にそんな事してたの!?」
「知らなかったから教えとくが、クロは触れた相手の記憶を見る事が出来るからな。まあ、こっちにも色々と事情があんのよ」
「うーむ、やはり一つ目の願いは流石に……」
「皇帝様、あんたも一人の父親なんだから娘には自由にさせてやれよ。確かにあんたは国の頭だ。そりゃ国の事を考えたら自分が選んだ男と結婚させたいっての分かるにはわかる。何せ国の将来が掛かってるからな。でもよ、やっぱり父親なんだぜ? 娘が嫌がってる事をするのはどうかと思うぜ?」
「それは、そうなのだが。しかし、やはり……」
「あー、もうウダウダすんなよ。父親なら娘の幸せ考えてやりゃいいんだよ。皇帝だろうがなんだろうが親なら自分の子供の幸せを願うもんだろ」
「………フッ。そうだな。其方の言う通りだ。一国の主である前に私も父親だ。良かろう、一つ目の願い聞き入れよう。国民からは非難されるかもしれないだろうが、娘の幸せの為なら構わぬ」
「おう、その意気だ。非難しようってなら俺が物理的に黙らしてやるよ」
「それは止めてくれ」
「冗談に決まってんだろ。まあ、これで一件落着だ。俺はまた旅に出る。それじゃあおさらばだ。またいつかここに来るとするよ、じゃあなぁ〜」
片手を振り皇帝に背を向け歩き出そうとした時、序列2位の騎士さんに呼び止められる。
「待って欲しい英雄殿」
「英雄ってのは違うけど、なんか用っすか?」
「その、名前を教えて頂けないだろうか……」
「そんな事で良ければ。俺の名前はショウ。そんじゃあね」
「ありがとう、ショウ殿。このご恩は一生忘れません」
「気にしなくていいよ。俺の所為で女ってバレちゃったんだから。まあ、これからは兜を取って堂々と騎士と名乗りお天道様の下を歩いてください」
「本当に貴方には感謝しきれません」
「あ、それならお礼として名前を教えて欲しいな」
「はい。私の名はベルニカです」
「そかそか、それじゃあベルニカさんお元気で」
「はい! 」
再び歩き出して闘技場の外に出る。ようやく終わったなと思い身体を伸ばして欠伸をする。街を優雅に歩いていたら目の前にいた騎士が俺の顔を見て立ち止まる。ふふん、俺も有名になったもんだな、とアホな事を考えたら目の前の騎士が俺を指差し大声で叫んだ。
「貴様、手配書の男だな! 堂々と大通りを歩くとは良い度胸だ!! ここで捕まえてやる!」
すっかり忘れてた!
今はマスクを取ってるから素顔がモロばれ!
てか、皇帝に俺の罪を無くしてもらうの忘れてた!
目の前の騎士が大声を出した所為でゾロゾロと騎士達が集まって来る。どうやら、避難勧告を出していた騎士達のようだ。つまり、俺がドラゴンゾンビを倒した事を知らない騎士達。
詰んだ……
「奴を捕まえろぉおおおおおおおお!!!」
俺は全速力で走り出し叫んだ。
「俺は帝国を救ったんだぞぉおおおおおおおお!!」
騎士達にも聞こえただろうが御構い無しに追いかけて来る。当然と言えば当然だろう。何せ俺がドラゴンゾンビを倒した時にいた騎士は今も尚闘技場の中にいるのだから。こいつらはその事実を知らないから俺を今だに犯罪者として見てるのだから。
「うぉぉおおおおおおおおお!! ちくしょうぉおおおおおおおおお!!」
真っ直ぐ西に向かって走り出す。俺の魂の叫びは騎士達に掻き消されたのだった。
****
カーラは突然走り出す。闘技場の外に出て行ったショウを追い掛ける。皇帝がカーラを呼び止めるがそれを無視してカーラは闘技場を飛び出す。闘技場の外に飛び出して周囲を見回しショウがいないか確認すると大通りのど真ん中で騎士達に追われながら走り去るショウを見つける。その姿を見て笑ってしまう。
「あの、バカ。当初の目的忘れてるじゃない! なんで自分の事じゃ無く他人の事を優先するのかしらね。本当にバカでお人好しなんだから」
「カーラ!」
「カイル? どうしたの? そんなに慌てて」
「慌ててって、そりゃカーラが突然走り出して闘技場を出て行くからだろ。追い掛けて来たんだよ」
「あら、そうだったの」
「ハァ……それにしても不思議な人だったな」
「ショウの事?」
「それ以外に誰がいるんだよ」
「それもそうね。ていうか、ショウを知ってたの?」
「知ってるも何も序列争いで知り合ったんだよ。それとこの剣をくれたんだよ。本当に不思議な人だったよ。いきなり俺に剣を渡してくるんだからさ」
「ショウだもの。それで、どうして剣なんか貰ったの?」
「そ、それは……その……」
「何か言えないことなの?」
「……カ、カーラ!」
「なに?」
「実は俺………お前の事が好き……なんだ」
「…………はい?」
「いやだから好きなんだって」
「嘘じゃ無いわよね?」
「う、嘘じゃねえって。まあ、本当は序列1位になったら告白しようと思ったんだけど」
「序列1位って何年先になるのよ!」
「うぐっ……そ、それより返事は?」
「好きよ。私もカイルの事が好きよ。と言うことでお父さんに報告にいきましょ!」
「はぁ!? ちょちょっと待てよ! そんな事急に言われても」
「何言ってるのよ。ショウがお願いしたじゃない。私に自由に恋愛をさせて欲しいって。だから、カイルと付き合う事をお父さんに報告に行くのは良いことじゃ無い」
「い、いや、確かにそうだけど、心の準備ってものが」
「そんな事知らないわ! ようやく好きな人と一緒になれるんだから待ってらんないわよ」
「あう」
「さあ、行くわよ!」
カイルの手を引いて皇帝の元へと向かうカーラ。その顔は満面の笑みだった。
「ありがとう、ショウ。大好きよ」
「ん? 何か言ったか?」
「愛してるわ、カイル」
「んなっ!」
後々、カイルは剣聖と呼ばれる事になるのだがそれはまた別のお話しである。
あうち……
では次回を!




