フーの意地
光が収まりようやく目を開けるとそこには先程まで包帯を全身に巻いていたミックでは無く上半身裸の赤髪のイケメンが立っていた。私達も驚いたが敵も目を丸くしている。だが、すぐに冷静になった。
「貴様、禁忌を破ったか……」
「フッ、流石に知っていたか。そうだ、私の最終奥義は禁忌魔法の遡りし時、この魔法は使用した術者の肉体、精神を術者の全盛期に戻すことができる。ただし、代償は術者の命。そして、私に残された時間は15分だ」
「フン……そこまでして守りたいか」
「ああ、彼女達は私の第二の家族だ。家族を守りたいと思うのは当たり前だろう? さて、無駄話はあまり出来ないのでな………悪いが最初から本気で行かせてもらうぞ!」
ミックが消えたと思ったら敵の背後に現れて回し蹴りを放ち敵を壁へと激突させる。敵を壁に打ち付けるとミックはさらに追撃を行い敵に膝蹴りを喰らわせて壁の向こう側へと吹き飛ばした。ミックは敵を吹き飛とばすとこちらに歩いて来る。見た目は完全に物語の主人公のようだ。
「お嬢様方、私が時間を稼ぎます。今の内にお逃げ下さい」
「た、倒す事は出来ないの?」
「リューネ様、残念ですが私では奴を倒し切れません。今の私には時間稼ぎが精一杯です。それより、早く敵が来ないうちに城の外へ」
「それが敵の魔法で外へ出られないの」
「暫しお待ちを…………」
ミックは目を閉じて集中する。数秒経った時ミックが目を開き廊下の壁を蹴り壊して外への道を作る。別に集中する必要はなかったんじゃないかと思ったがミックの足を見ると血が出ていた。
「ミック、その足は!?」
「敵の結界を壊した反動ですがお気になさらずに。さあ、外へと道は作りました!! 私は残された時間を使って奴を食い止めます! 四人はお逃げ下さい!」
「ミックも一緒に逃げようよ!!」
リューネが目に涙を溜めながらミックに抱き着く。ミックも抱き締めようと手を回そうとしたが手を止めて肩に手を回しリューネを引き離す。
「リューネ様、私は家族を守りたいのです。ですから、リーシャ様とラニとフーの四人でお逃げ下さい」
「ミックも家族だよぉ!!」
「ありがとうございます。ですが、私の命は残り数分です。それに敵はもう待ってはくれないようです」
ミックが後ろへと振り返ると闇属性の魔法が飛んで来た。ミックは光の魔法を放ち相殺させると背を向けたまま叫んだ。
「さあ、後は私に任せてお逃げ下さい!!」
リューネがミックの方に駆け寄ろうとしたがリーシャがリューネの手を取り止める。リーシャは何も言わずにミックが壊した壁を通り城の外へと脱出する。リューネは何度もミックと叫んでいる。私はチラリとミックの方を向くとミックは少しだけこちらに首を向けておりその顔は笑っていた。私達が逃げた事を確認するとミックは再び敵の方へと振り返る。
「ここから先へは行かせんぞ!!!!」
後方から激しい爆発音が聞こえる、きっとミックと敵が激闘を繰り広げているのだろう。リューネはその音を聞いて何度も振り返る、その度に泣きそうになっている。私は何も出来ないのが悔しい。
森の中を走り城から大分離れた場所へと辿り着いた。立ち止まることはしたくないのだが先程から走り続けてるせいで私以外の三人はかなり疲労している。ここら辺で休憩をしようと思っていたら目の前に先程のフードの敵が現れる。ミックと戦ってたはずなのに、まさかミックを倒してもう追いついてきたのか?
「クフフフ、鬼ごっこは終わりですよ、お姫様方」
この笑い方はヴォルフと戦ってた方のだ。ここに来たということはヴォルフは倒されたの? 確かヴォルフは魔王と互角に渡り合える程の強さって………。
「ヴォルフは? ヴォルフはどうしたの!?」
「ああ、あのワンちゃんなら玄関で寝てますよ? と言っても、もう虫の息ですからいつまで生きてられるかは時間の問題ですがね」
「そんなヴォルフが……」
「さて、ここらで幕引きとしましょう」
そう言った瞬間リーシャの目の前に現れてリーシャを気絶させる。リーシャはそのまま敵に抱えられてしまう。リューネとラニは後ろへと後ずさる。
「クフフフフフ。もう逃げられませんよ」
「うぅ……」
「リューネちゃんには指一本触らせない!!」
ラニはリューネの前に出て両手を広げリューネを守る。敵はそれを見て笑い出す。
「クフックフフフフフ!! なんと勇ましい! 貴方の勇気に感服しました! 敬意を払って貴方を消して差し上げましょう」
「くっ……」
ラニは震えているが敵を睨みつけるようにして顔を背けない。私に何が出来る? 私も命を賭ければ二人を守れるかもしれない。敵は魔法をラニに向けて放つ。咄嗟に私は魔法を放ち敵の魔法を相殺させる。
「おや? フェアリーですか……。邪魔をしないで貰えないでしょうか?」
「ふ、二人は私の大切なお友達なの! だから、二人は私がお守りする!!」
「おやおや、ダークエルフの次はフェアリーですか。なんとも、まあ、可愛らしい護衛ですね。しかし、貴方達に勝ち目はありませんよ?」
敵が私に向かって魔法を撃ってくる。私も魔法を撃ち対抗しようとするが敵の方が強く私の魔法を掻き消す。私は敵の魔法が直撃して地面に落ちる。たった一撃。たったの一撃でこのザマだ。やはり、私なんか………。
ダメだ。諦めちゃダメだ。まだ私は生きている。まだ、私は立てる。せめて一矢報いたい。せめて一泡吹かせてやりたい。
そうだ。本当に命を賭ければいいんだ。
「ん? 何を!?!?」
ふふっ、驚いてる。
「くっ!! こうなったら消すしか!!」
敵は慌てて二人に魔法を放つ。
「もう遅い!! 不破の守護方陣!!」
私は禁忌魔法を発動する。ラニとリューネの周りに結界を貼る。敵の魔法は結界に阻まれ消えてしまう。ラニとリューネはショックのせいで気を失っている。
「やってくれましたね……」
「ざまぁみろ……」
私はそのまま地面に倒れてしまう。
私が発動した禁忌魔法、不破の守護方陣は術者の寿命を削ることで神級すらも軽々と防ぐ最硬の結界を作り出す。だけど、結界は永遠じゃない。私が死ぬと同時に結界は壊れる。今も私の寿命を削り続けている。私は敵の魔法を受けてるせいで寿命も短い。あと、どれだけ持つか分からない。でも、せめてショウが帰ってくる時までもたせる。
「………私の完敗ですね。貴方が死ぬのを待っていたら彼が帰ってくるかもしれません。流石にそうなるとマズイので私は帰らせて貰います」
敵はそう言うとリーシャを連れ去り私達の前から姿を消した。敵がいなくなったことを確認した私はそのまま眠ってしまった。




