僅かな希望
「誰も出て来ぬな……」
「何かあったのかしら……」
「ミランダ、ショウはここにいてくれ。我が輩だけで中を見て来る」
「わかったわ」
「了解だ」
ヴァイスが一人扉を開けて城の中へと入って行く。俺とミランダさんは城の外で待機する。待つ事数分、扉が開かれた。その光景に目を疑った、そこには血塗れのヴォルフさんを抱えたヴァイスが立っていたからだ。俺とミランダさんは駆け足でヴァイスの元へと向かう。
「ヴォルフ!!」
「ヴォルフさん!!」
「奥様にショウか………ゴフッ……申し訳ありません………私はリーシャ様を……ゴボッ……ハァハァ……リューネ様を……ゲホッ……お守りすることが……ガハァッ………出来………出来ませんでした……」
「良い。それ以上喋るな傷に触る」
「ヴァイス……すまない………わた、私は……ケホッ………ハァハァ……ハァハァ……約束を守ることが出来なかった………すまない………」
「これほどになるまで娘を守ろうとしてくれたお主を誰が攻めようか!!」
「ゴフッ……ヴァイス………リーシャ様は人間に攫われた………ガハッ………」
「………」
「だが、リューネ様は………ハァハァ……分からない………ケホッケホッ……ラニとフーと共に逃げたのだが……カハッ……」
「わかった。後のことは任せてくれ」
「ヴァイス……すまない……ザード、ミックも………我が友よ…………」
ヴォルフさんはヴァイスに手を伸ばして、その手をヴァイスが握り締める。ヴォルフさんは最後に少しだけ微笑んだあと息を引き取った。俺はパナケイアのネックレスを付けようとしたが無意味だっただろう。
「………決めたぞミランダ。戦争だ」
「貴方………分かりました。貴方が望むなら私はそれに従います」
「この戦争は我が友の仇と我が娘奪い返す戦いだ!!! 見ておれ、人間共よ!! 徹底的に完膚なきまでに叩き潰す!!」
「なっ! ま、待てよヴァイス!」
「黙れ!! ショウよ、お主に聞きたいことがある。お主は一体どちらの味方なのだ!!」
「お、俺は……」
「迷う様なら戦場に出るな!! そのような状態で戦場に出られても双方にとって邪魔でしかないわ!!」
「ッッ……」
「もし、お主が我が輩と共に戦ってくれると言うのなら我が輩は快くお主を受け入れよう。しかし、お主が人間共に味方をすると言うなら我が輩は………容赦無く貴様を殺す!!!」
「ヴァイス……」
「我が輩はこれより各種族の長と話し合う。お主は何処へなりとも行くがいい!!!」
ヴァイスはヴォルフさん抱き抱えたまま城の中へと戻って行った。ミランダさんが少しだけ俺の方を見て来たがすぐにヴァイスの後を追って城の中へと戻って行った。一人残された俺はしばらく立ち尽くしていたが街の方へと歩き始めた。
くそっ………。
なんで……。
(ショウさん……)
なんだよ?
(これからどうするんですか?)
知るかよそんなこと……。
(戦争はどうしますか?)
もう止められねえだろ……。
(で、でもショウさんはアルカディアの内戦を止めたと聞きましたが……)
あの時と今では状況が違い過ぎるだろうが………。
あの時はまだ止められた……。
でも、今は違う。双方共に犠牲者が出た。魔王ヴァイスは友を殺され桐谷も同じく友を殺された。そして同じように二人とも敵に大切な人を攫われたんだ。アルカディアの時とは全く訳が違う。それに規模の大きさもだ。俺が全力を出しても止める事はまず無理だ。人間の方は止められたとしてもヴァイスを止められる自信がねえ。
(………やはり、戦争は止められないのでしょうか)
何度も言わすな。
もう無理だ。
何をやっても遅い。
俺は街に向かって歩いていたが立ち止まる。街へ行っても何をする? 何も出来ることなどないだろう。これ以上ここに居ても無意味だ。どうせならもうこの国ともおさらばしようじゃないか。元々俺は関係ない話だ。
馬鹿か!!
たった数ヶ月だが俺はあの人達の温もりを知っている。
俺が人間だろうと仲良くしてくれた人達を見殺しにするのか俺は!!
だけど、どうすりゃいい……。
人間の方にも俺の大切な人達がいる。
どっちにつけばいい……。
ハハッこんな迷いがあるからヴァイスに怒鳴られるんだろうな……。
(仕方ありませんよ。どちらか一つだけを選べなんて無理な話なんですよ。私だってラニちゃんかリューネちゃんかどちらか一人だけ選べって言われても選べませんよ! 二人共可愛いですから二人共欲しいですもん!)
相変わらず変態だな。
でも、まあ、ありがとな。
(えへへ)
………そうだ。
ラニとリューネは確か分からないと言ってたな。
(そう言えば言ってましたね)
今更遅いかもしれないがリューネとラニを探す!
「神羅創世!!」
異空間から黒いコートを取り出し羽織る。魔力感知で周囲の魔力を探る。街の方に沢山の反応。そして城の方に二つの反応、そして森の方に弱まりつつあるが小さな反応を見つけた。可能性は低いが城から近い場所だからもしかしたらリューネ達かもしれない!!
身体強化を施して全速力で小さな魔力反応の元に向かう。僅かな希望を持って。
うむむ……
次回は少し時を遡りましょうかね
では次回を!




