復讐への一歩
「街に行くとしても流石にこの格好だと目立つな……」
ダンジョンを出てから隆史は当ても無く歩いている。そんな隆史は血がべっとりと付いた服を見ながら呟く。
「ギルドに行きたいところだが、街に行って騒ぎになるのは避けたいな……仕方が無い。どこか違う所にでも行くか」
そして街とは逆方向へと足を向ける。どこに行くかわからないまま歩き続ける。隆史が歩き始めて数時間が経った時、森の方で女性の悲鳴が聞こえた。
「きゃああああああ!!」
「ん!? 悲鳴か? そうだ! 助けた恩に服を恵んでくれるかもしれない!」
そう言って悲鳴がした方へと走り始める。森の中へ行くとそこにいたのは、魔物に襲われそうになっている少女がいた。その手には何かを大事そうに握りしめていた。
「だ、誰か、助けて……!」
少女はいる筈のない人に助けを求める。酷な事に少女の目の前にいるのは魔物だけである。
「グルル……」
唸り声をあげる魔物は狼によく似ている。隆史はその魔物を見ても怖気つくことはなく、怯えている少女の方へと向かう。
「おい……」
隆史は呼びかける。少女にではなく、狼型の魔物に。すると魔物は少女の方から隆史の方へと向きを変えた。
「グルル……」
魔物は向きを変えた事で隆史と目が合う。隆史は、その目に向き合い睨みを効かせてカッと目を大きく開き一言放つ。
「失せろ!!」
魔物の全身の毛が逆立つ。魔物はその一言で全てを悟った。この男と戦えば間違いなく死ぬということを。本能に従い魔物はその場から一目散に逃げ出した。
「あ……え……?」
震えていた少女は戸惑う。先程まで魔物に襲われそうになっていたのに、男がいきなり現れて、ただ一言喋っただけで魔物が逃げたしたのだから。
「おい、平気か?」
いきなり話掛けられて少女は隆史に振り向くと、その格好に驚く。服はズタボロで血がこべりついているのだから。
「は……はい」
魔物をたった一声で追い払い、血で汚れたボロボロの服を着ている隆史を見た少女は必死に震えを抑えながら返事をする。
「そうか。所でこんな所で何をしていたんだ? しかも一人で」
隆史は少女に話しかける。そもそも何故こんな少女が一人で森の中にいたのか。それを確かめる為に隆史は少女に問い掛ける。
「えっと、食糧を探しに……」
食糧を探す為と少女はそう答えた。隆史は考える。何故食糧を探す必要があるのか。危険を省みず森の中へと入る程、追い詰められているのかと疑問が溢れるばかりであった。
「食糧不足なのか?」
「はい。私達の村は魔物のせいで食糧不足に陥ってるんです。一日を生きていくのがやっとなんです。それで私もお父さんとお母さんを助けたくて……」
「そうか……」
少女が言うには村に魔物が出没するせいで食糧不足の危機に陥っているということだ。そして、少女は親の為に危険を犯してまで森の中へと食糧を探しに来たのだ。
「お前の村まで案内してくれるか?」
「へっ……なんで?」
「俺がその魔物を退治してやる」
「ほ、本当!? お兄ちゃん!」
「ああ、ただし条件がある」
「条件って?」
「まずはお前の両親に会わせてくれ」
「わかった! ついて来て!」
そう言って先程まで隆史に怯えていた少女は嬉しそうに隆史の手を引いて歩き出す。隆史は恥ずかしそうにしたが、所詮はまだ子供だと言い聞かせて手を繋いまだまま村まで案内してもらった。
「ここが私の村だよ」
見た感じは平和そうな村だ。だか、どこか廃れた感じも漂って来た。その時、一人の村人がこちらに向かって来る。
「なっ、メルルちゃん!?」
村人は少女の方に指を差しながら慌てる。そして村の奥の方へと消えて行ったと思ったら、大量の村人を連れて帰ってきた。
『メルル!!』
二人の男女が少女の名を呼ぶと、こちらに駆け寄って来る。
「お母さん! お父さん!」
メルルと呼ばれた少女は隆史の元から名前を呼んだ両親の方へと駆け寄って行った。そして三人は抱きしめ合い涙を流す。
「無事でよかった! あなたが森に行くのを見た人がいて、それを聞いた私達はもういても立ってもいられなかったのよ!! どうして森になんて行ったの?」
母親がメルルに叱りながら森の中へと行った理由を聞と、メルルはばつが悪そうな顔で母親に聞かれたことを答える。
「食べ物を取りに。お母さんとお父さんが最近何も食べてないからお腹減ってるとおもって……」
メルルは泣きながら答える。どうやら両親が何も食べて無いのを知って心配になったのだろう。だから、何か食べさせてあげようと優しいメルルは危険を省みず森の中に食料を求めて入ったのだ。
「バカだなぁ! お父さんとお母さんはちょっとぐらい食べなくても平気なんだ! お前がいなくなることの方が辛いんだよ!」
父親は泣いているメルルの頭を優しく撫でながら慰める。メルルが自分たちの事を思っての行動を咎める事は出来なかった。
「お母さんお父さん、ごめんなさい! ごめんなさい!!」
メルルは目に涙を溜めたまま謝る。自分がしたことがどれだけ両親に心配させたかわかっているようだ。そして、両親はメルルを許した後、一緒にいた怪しい男の隆史に話しかける。
「君が娘をここまで連れて来てくれたんだね。ありがとう! 君には感謝するよ! 何かお礼が出来たらいいんだが、何分魔物のせいで農作物が採れなくてね……稼ぎが無いせいでお金もあまり無いんだ……」
「いや、金はいい。悪いが服を恵んでくれないか? 流石にこの格好だと……」
隆史は自分の格好で警戒されると踏んでいたがメルルを助けた事ですんなり受け入れてもらった。そして、当初の予定通りに服を恵んで貰うようお願いをする。
「勿論だ。私のだったらいくらでもあげよう!!」
「いや、そんなにはいらん」
「そ、そうだな。ならウチに行こう。娘も君と話たがってるからな!」
会話を終えた隆史と親子は村の奥へと歩いていく。そうして歩く事数分したら一軒の家の前に止まった。どうやらここがこの家族の家らしい。
「ここが我が家だ。さぁ入ってくれ」
案内されるがまま中に入った。リビングにキッチンとあり、真ん中にはテーブルが備えつけられている。
「狭いところですが許してくださいね」
「いえ、大丈夫ですよ」
別に気にする程でもない。狭いわけではないが広いわけでもない。だが妙に落ち着く。それがいいと隆史は思う。
「まずは自己紹介からですね。私はこの子の母親のメリルと申します」
「私は父親でハルクと言います」
「私はメルルだよ!」
「俺はタカシだ。よろしく」
自己紹介が終わり、メルルが興奮しながら両親に森で起きた事を話す。
「あのね、お父さんお母さん! タカシお兄ちゃんはね! ウルフをじっーと睨んで、こう、目を開きながら、失せろ!! って言っただけで、ウルフを追いやったんだよ!」
「ほー、それは凄いな!」
「ウルフをたったの一言でなんて……相当お強いんですね」
「いえ別に。それより服を貰っても?」
「あ、ああそうだったね! メルルの話で忘れていたよ。ちょっと待っててくれ。今取って来るから!」
そう言ってハルクは自室のある二階の方へと上がって行った。ハルクがいなくなり会話も終わるかと隆史は思っていたがメリルが最も気になっていたことを聞いてきた。
「そういえば、どうしてそのような格好になられたの?」
「これは、魔物との戦いでなりました」
「では、相当強い魔物と戦っていたのね」
「ええ、とても強かったです」
隆史は平気で嘘をつく。しかし、隆史が事実を話しても信じてもらえないだろう。何故なら隆史は一度死んで蘇ったのだから。そんな話一体誰が信じるというのか。
丁度いいタイミングで二階からハルクが降りてきた。手には隆史が待ち望んでいた服を抱えている。
「僕のお古なんだけどいいかな?」
「全然大丈夫です。今のこれよりマシならなんでも」
「あはは。確かにね」
そして、隆史は服を受け取りメリルに案内され脱衣所で服を着替える。着替終わると、隆史が脱ぎ捨てたボロボロの制服をメリルが拾い、隆史にどうするのかと尋ねる。
「あの、これはどうします?」
「あー、処分して貰ってもいいですか?」
「わかりました。こちらで処分しときますね」
「ありがとうございます」
隆史の言葉に従いメリルは隆史の着ていたボロボロの制服を処分する。そうしていたら、メルルが隆史に近付く。
「ねぇねぇ! タカシお兄ちゃん! あの時言ってた事って本当??」
「メルル、あの時言ってた事って?」
「あのね、お母さん。タカシお兄ちゃんが村を襲う魔物を退治してくれるんだって!」
「えっ!?」
「そ、それは本当かい。タカシ君!?」
「ええ、まあ。約束ですからね」
メリルは驚きのあまり言葉を無くし、ハルクは本当のことなのか隆史に聞いた。すると、隆史が簡単に約束ですと答えた。
「それより魔物ってどんな魔物なんですか?」
「えっ、ああ、オーガだよ……」
「オーガですか。数は?」
「確か五体だけど……」
「なら余裕ですね」
「無理よ! オーガはCランクの魔物でウルフよりも強いのよ! それに五体もいるんだから! タカシさん、幾ら何でも無茶です!」
「そうだよ! メリルの言う通りだ! それにギルドに依頼を出したんだ。村の人達全員でお金を出し合って! だからもう少ししたらギルドから冒険者の人達が来て解決してくれるさ!」
「メルルと約束しましたからね……」
「な!? メルルをウルフから守りここまで連れて来てくれた! それだけで十分僕達は救われた! だから娘の恩人に死んで欲しくないんだ!」
「黙れ……約束を違える気はない」
隆史はウルフを追い払った時と同じようにメリルとハルクを黙らせる。あまりの迫力にメリルもハルクも固まってしまう。
「タカシお兄ちゃん……」
「メルル、約束は守る。だから安心しろ。それに俺は強いからな! オーガなんかに負けっこないさ」
心配そうに見上げるメルルに隆史は自信満々に微笑んで出て行く。メルルと交わした約束を果たす為に。
これから死地へと向かう娘の恩人に大したお礼も出来ないまま向かわせてしまった事を悔やみながらメリルとハルクはメルルを抱きしめて、出て行った隆史が無事に生きて帰れることを祈る。
「……オーガはどこにいるんだ?」
せめてオーガの居場所だけでも聞いてから出て行けば良かったと外で後悔する隆史。
「仕方ない。他の村人に聞くか…」
そう言って隆史は村人にオーガの居場所を尋ねて行く。そして、オーガの居場所がわかると、その場所へと向かっていった。
村人に教えて貰った通りに進んだら、隆史の視線の先に洞窟が見える。村人から聞いた通りならここにオーガがいる筈だ。
「ここか。早速入るか」
洞窟の中は一本道のようで、迷うことなく先へと進む。しばらく進んでいるとオーガがいる。まだこちらには気付いてはいない。
「どうするか? 魔法を使ってみるか」
隆史には力が無かった。だから隆史は知識を求めた。力がないのなら知識を付けようと。せめて、抵抗できるようにと。
「ちょうど良いな。魔法を試すには!!」
隆史は子供のようにはしゃぐ。まるで玩具を初めて与えられた幼子のように目を輝かせる。
「最上級をお見舞いしてやるよ!」
「グオオオオオオオ!」
「気付いたか……だが、もう遅い! 炎龍弾!」
炎が竜の形をするとオーガの方に飛んで行き呑み込む。炎の龍は全てのオーガを呑み込み消えていく。そこには塵すら残らなかった。
「ククックハハハハハハハハ!! 最高だ!! これ程愉快なことがあるなんてな!」
狂気。まさにその言葉がふさわしい。隆史は高笑いを続ける。思い描いた魔法を使えた事と、これからの事を考えながら。
「まぁ、魔法の威力はわかった。今の俺なら神級すらも撃てるな……約束は果たしたし、別れの挨拶は……いいか」
隆史はその場を去る。再び当ても無く隆史は旅へと出ていく。
改訂しました




