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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第二章

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死と僅かな希望

 その頃ダンジョンでは、討伐隊と捜索隊が探索を行っていた。討伐隊はウル・キマイラの討伐を目的とし、捜索隊は山本 翔と福田 隆史の捜索を目的として別々に動いていた。



 捜索隊の中には彼らの教師である、陣内鉄也の姿があった。捜索隊は現在28層を探索中で一人の捜索隊員がある発見をする。



「隊長。あちらに血の痕がありました! それとこのようなものが!」


「ふむ。これは? 陣内さん、これに見覚えはありますか?」



 そう言って隊長から渡されたものは、福田 隆史の学生証だった。受け取った陣内はワナワナと震えて隊長に掴み掛かる。



「これは、今探してる生徒の物です! こ、これがあった場所に案内してください。早く!!」


「お、落ち着いてください! 今から案内させますので」



 陣内は隊長に急かすようにお願いをする。隊長が落ち着くようにと陣内を諭して、学生証が発見された場所に案内する。



 そこで陣内が見たものは大量の血痕、それと引き裂かれた後の制服。もはや言い訳などすることも出来ないほど決定的な証拠だった。福田 隆史が死んだという事実は紛れも無い真実となってしまう。



「そ、そんな……嘘だ……」



 陣内鉄也はその場に崩れる。無理もない。彼は信じていたのだから。大事な生徒はまだ生きていると。だが、現実は残酷だった。もはや揺るぎない事実が目の前に広がる。覆しようのない残酷な現実が陣内に突きつけられる。



「残念ですが、魔物に喰い殺されたようです。この有様を見る限りでは遺体は……」



 隊長が告げる。どうしようもない現実を陣内は否定する事も受け入れる事も出来ない。救えなかった、守れなかったと教師の立場でありながら何も出来なかった。そんな思いが陣内鉄也の心を蝕んで行く。



 そんな時に一人の兵士が息を切らせて走って来た。



「隊長!! 陣内様はこちらにおられますでしょうか?」


「ああ、こちらにおられる」


「私に何か?」



 陣内鉄也は聞き返す。その心境はただただ救いを求めて。もう1人の生徒、山本 翔の無事を祈りながら。



「もしかしたら! 勇者、山本 翔はまだ生きているかもしれません!」



 兵士が言った一言に目を見開く。僅かな希望が残っていると分かった陣内は居ても立ってもいられない。



「そ、それは本当ですか!?」



「はい! 確証はありませんが……」


「そ、それだけで十分です! 今すぐに案内してもらえませんか?」


「わかっています。私が案内しますので捜索隊も付いて来てください!」



 そう言って兵士が先頭を歩き、30層に付くと捜索隊が目にしたものはウル・キマイラの死体だった。そこには死体を検分している討伐隊の姿もあった。



「ナイザー団長! ウル・キマイラを討伐したのですか?」



 捜索隊の隊長が討伐隊を率いる騎士団団長ナイザーに問い掛ける。しかし、ナイザーは首を横に振り否定した。



「我々ではない。もうここに着いた時には死んでいたのだ……」



 団長から驚愕の事実を告げられる。ウル・キマイラはそれそこそ小さな町なら滅ぼせる程の力を持っている。



 では、誰がこのウル・キマイラを倒したのかとその場にいた全ての者達は思う。しかし、それは誰にもわからない。



「陣内先生、我々が着いた時にはウル・キマイラは死んでおりました。口から背中に掛けて槍のようなもので貫かれた痕があります。それと、この辺りをくまなく捜したのですが、山本君らしき人物はどこにもいませんでした」



 ナイザーは調査した結果を陣内に報告する。陣内はその報告を聞いて胸にこみ上げてくるものを感じる。



「それだけでいい……まだ生きているかもしれない。山本はまだ……」



 僅かな希望、それは行方不明になった山本。もしかしたら彼はまだ何処かで生きているかもしれない。それだけでも分かった陣内は喜びの涙を流した。



 こうして討伐隊と捜索隊は王都に帰還することになる。陣内は城に戻ると、早速クラスメイト達のいる宿舎へと行き、食堂に全員を呼び集めた。



「みんな、いい話と悪い話どちらから聞きたい?」


「悪い話からで!」



 一人の生徒が悪い話を選択する。それが正しいのかは分からないが選ばない限り先には進まないから。



「分かった。結論だけを言うぞ。福田が死亡していたことがわかった」



 死亡していた。その言葉に生徒達はざわめく。実際に死んだと分かっていなかったが、先生が言ったことは事実である。それだけに生徒達の不安や動揺は隠しきれない。



「だが遺体を見たわけではない。福田の引き裂かれた制服と血の付いた学生証を見ただけだ。本当に死んだと私は思っていない」



 だが見てきた本人である陣内が否定する。否、ここは否定をしないと心が保たないのだ。彼は誰よりも生徒を思う教師。その生徒を失ったという事実を否定していないと、心が壊れてしまう。そのために彼は死を否定するのだ。



「そして、いい話とは……山本が生きているということだ!」


 その言葉に反応をする者が四人。その四人とは、山本 翔が命を賭して逃がした四人である。



「先生! 山本君はどこに!?」



 桐谷大輝は慌ただしく陣内鉄也に問いただす。しかし陣内鉄也は顔を伏せ、ある事実を話す。



「山本は行方不明だ……」



 その言葉にまたもや、生徒達はざわめく。質問した桐谷が一番動揺しており、陣内に焦ったように聞き返す。



「なっ、いなかったんですか!? そんな、だって彼はウル・キマイラと戦ってた筈でしょう!?」


「ウル・キマイラは死んでいた。山本が倒したのかは分からないが死んでいたのだ」



 陣内から聞かされる衝撃の事実に桐谷大輝はそれ以降喋ることは無かった。



「みんなには聞きたいことがある! まだ戦う意志のある者はいるか? 正直に答えてほしい。戦いたくない者は手を挙げてくれ!」



 戦う意志の無いものをこれ以上戦わせる訳にはいかないと決意している陣内が問い掛ける。すると、一人が手を挙げた。そしたら、他の者たちも釣られるように手を挙げていく。生徒の半分以上はもう戦う意志を持っていなかった。



 当たり前だろう。身近な者の死。初めて死と言うものに直面したのだから無理もない。誰もが死にたくない、そう思うのは当たり前である。この世界は元の世界と違い、死が身近にあるのだ。今まで平和な世界で育ち暮らして来た生徒達には荷が重過ぎる。



 きっと誰もが自分達の力に酔っていたのだろう。特別な力がある。負けなどしない。そう思っていた筈だ。そして、ゲームをしている感覚だったのだろう。だから命の重さを忘れていたのだ。



 だがクラスの1人が死んだという事実ではっきりと分かったのだ。これはゲームではない、現実であるのだと。知ってしまえば、もう戦うことは出来なくなって当然である。



「分かった。今手を挙げてる者たちについては私が国王様に話を付けておく。手を挙げて無かった者たちについてはもう一度だけよく考えて欲しい。やっぱり怖くなった、と言っても何も恥ずかしくはない! 死ぬのは怖い! これは生物として当たり前のことなんだ! 以上、解散!」



 生徒達は解散してそれぞれの部屋へと戻っていく。その中には仲の良い者達で集まるグループがあった。



「よかったですね! 山本君、死んで無かったみたいで!」


「ああ! やはり奴は根性があったのだな!」


「うん!! よかったよ!」


「でも、本当に良かった。彼はまだ何処かで生きているんだ!」


「でも、大くん。これからどうするの?」


「大輝。やはり我々も戦うの辞退するか?」


「……いや、俺は戦う! 皆を守る為に! だけど皆は嫌なら戦わなくても」 


「大くんが戦うなら私も戦うよ!」


「私もです! 大輝さんが私達の為に戦うのなら私も皆の為に戦います」


「全員一致だな。大輝私も共に戦おう」


「みんな……ありがとう」



 四人は固く誓う。ここにいる四人は誰一人欠けることないないようにと。

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