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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第二章

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宿屋にて

 マルコに案内されて辿り着いた宿は思っていたよりも普通だった。父親がギルドマスターというのだから、もっと豪勢な建物だと期待していた。



 うーん、普通だ……



「どうしたの?」


「いや、ここがお前んち?」


「そうだよ。早く入ろうよ?」



 見た目は普通でも、もしかしたら中は凄いのかもしれないと勇んで中に入る。



「ただいまー! お母さーん!!」


「普通だ……」


「ん?」


「いや、なんでもない……」


「そう?」



 いざ、中に入ってみると見た目どおりの内装でごくありふれた普通の宿であった。マルコが母親を呼ぶと奥の方から女性が出てくる。



「あら、マルコ。帰って来てたの?」


「あっ、お母さん!!」



 出てきた女性はとても若々しく美しい見た目だった。綺麗な従業員さんだなと見ていたらマルコの発言にびっくりした。



 お母さんだと!?


 若くね!? 何歳だよ!?



「そちらの方は?」


「こっちはショウ兄だよ!」


「あっ、初めまして。ショウと申します」


「ご丁寧にどうも。私はこの子の母親でセリカと申します」


「あの、ここが宿屋って聞いて来たんですけど? おいくらぐらいですか?」


「お一人様なら3000Wです」


「えっと、それは三食とお風呂とかも付いてるんですか?」


「はい。もちろんついておりますよ」


「お母さん! ショウ兄は冒険者なんだよ」


「それでしたら冒険者割引で1500Wになります」


「えっ、本当ですか? いいんですか? そんなに安くしても?」


「はい。構いませんよ。冒険者の方は長期で滞在する方ばかりですから」


「成る程、そういうことですか」



 確かに俺も資金が溜まるまではここに長く滞在しようと思っていた。それに恐らく冒険者は依頼を受けて、討伐なり採取なりと働くのだから身の回りの世話をしてもらいたいのだろう。



「それなら、ここに決めます」


「はい。ありがとうございます」


「やった! ショウ兄が泊まってくれるんだね!」


「ああ、よろしくな」


「マルコとはどういうお関係なのですか。お客様?」


「へっ? ああ、ギルドまでの道案内とここまでの道案内をしてもらったんですよ」


「まぁ、そうでしたか。マルコはご迷惑をおかけしませんでしたか?」


「いえ、ちゃんと道案内してくれましたよ」


「そうですか。なら安心しました」


「お、お母さん……」


「では、お客様……いえ、ショウ君お部屋に案内しますね?」


「しょ、ショウ君!?」


「あら、ダメでしたか?」


「いや、いきなりだったので……」


「そうですか。これからはショウ君とお呼びしますね」



 いきなり、お客様から名前呼びに変わり君付けまでされた俺は軽くパニックを起こしてしまった。この家族は距離感の詰め方がおかしいのかと思う。若干混乱したものの、セリカさんに案内してもらい二階に上がる。



「こちらがお部屋になります」


「はい」



 見た感じ結構いい部屋だった。ベットにテーブルとクローゼットが備えられている。流石にテレビなどといった電子機器はなかった。



 まあ、当然だろう。



「こちらがこの部屋の鍵になります。出掛ける時などは私にお渡し下さい。それと門限は夜十一時としますのでご注意ください。それから食事の方は朝八時と昼十二時と夕方の十九時となっております。お風呂は二十二時までですから。それでは失礼します」


「はい」



 結構、細かいルールがある。多分、民宿みたいな感じだからだろう。ホテルと違って個人で経営しているとなると色々大変そうだし。



 セリカさんは説明を終えると下に降りていった。残された俺は夕食までどうしようかと考えていると扉をノックする音が聞こえてくる。



 ん?


 誰だろ?



「はい。開いてますよ」



 扉を開けて部屋の中を覗いてきたのはマルコであった。マルコは俺の姿を見るとパアッと笑みを浮かべると中に入ってくる。



「ねぇねぇ、ショウ兄!!」


「なんだよ?」


「遊ぼうよ!」


「だが断る!」


「えー、なんでさ!?」


「面倒い眠い! 以上!!」


「いいじゃないか! 少しくらい!」


「わかった。で、何するんだ?」


「トランプでもする?」


「二人でか?」


「それならお姉ちゃん呼んでくる」


「お姉ちゃんってセラさんか? でもまだギルドだろう?」


「もう一人いるんだ! セラお姉ちゃんよりひとつ上のお姉ちゃんが。この宿屋で働いてるんだけど、今はショウ兄以外依頼とかに行ってて誰もいないんだ。だから、お姉ちゃんも暇してるから呼んでくる!」



 そう言って、マルコは俺の意見も聞かずに飛びして行く。いきなり、初対面の女性とトランプするなどハードルが高すぎる。せめて、ある程度仲良くなってかでらでないと気不味いことになるだろう。



 カムバッーーク!!


 マルコオオオオ!



 などと心の中で叫んでいると、マルコがこれまた美人な女性を引っ張ってきた。



「連れて来たよ!」


「どうも、初めましてマリーと言います」


「あっどうも」


「ねぇ、トランプしようよ!」


「マルコ、私は仕事があるの」


「仕事って?」


「それは……」


「今は暇なんでしょ?」


「はぁ……わかった。一回だけね」


「うん。ありがと! マリーお姉ちゃん!」


「すんません。付き合わせてしまって」


「いえ、こちらこそお客様なのに遊びの相手に付き合わせてすいません」


「じゃあババ抜きしよ!」


「はいはい」



 軽く挨拶を済ました俺達は、マルコに流されるままトランプを始める。初めは一回だけと言っていたが負けたマルコがグズるのでもう一度することになる。そしたら、今度はマリーさんがもう一度と言うので再戦する。



 お互い負けず嫌いなのだろう。



 しかし、弱い。あまりにも弱いのだ。二人揃ってポーカーフェイスが下手くそなので手札が手に取るように分かる。姉弟というのはここまで似るものなのかと思った。



 かれこれ十回もババ抜きをした。二人ともめちゃくちゃ表情に出るので俺は負けなしである。しかも、現在はマリーさんの負け越しが確定しているのだ。



「くっ……これだ!!」


「なっ、なんてこと!?」



 白熱の勝負してるがお互い顔が緩んでるので、第三者が見ればお笑いでしかない。それにしても、大分時間が経っているので終わらないかと打診する。



「あのもう終わりません?」


「お願い、あともう一回! お願い、ショウ!」



 いつの間にかマリーさんに呼び捨てにされてる。だが、そんなことよりも俺は二人が仕事をしなくてもいいのかと聞いてみた。



「お仕事の方大丈夫なんす??」


「あっ!? 今何時!!」


「十七時です」


「大変! お使い行かなきゃ! じゃあまたね!」


「は-い」



 両手を合わせて懇願していたが、俺が仕事の事を聞くとマリーさんは時間を確認して慌てて仕事に戻っていった。



「楽しかったー!」



 十分満足したマルコは楽しそうにしている。だが、そんな至福の時間も終わりを告げる事となる。俺の部屋にセリカさんが入ってくるとマルコに歩み寄る。



「マルコ! お風呂の用意は?」


「あっ!!」


「はぁ……忘れてたのね!!」


「今すぐしてきます!! じゃまた後でね。ショウ兄!」


「うい」


「ごめんなさいね……ウチの子達がお世話になったみたいで」


「いえ本当に楽しかったんで平気ですよ」


「ありがとね」



 セリカさんに言われてからマルコも仕事へと戻っていった。セリカさんは俺にお礼を言うと自分もまた仕事へと戻っていく。一人になった俺はステータスを確認する。



 ◆◆◆◆

 山本 翔 男 17歳[称号]異世界人・冒険者

 Level 37


 体力:5500/5500


 魔力:4500/4500


 知力:2600


 筋力:3800


 俊敏:3500


 器用:3500


 耐久力:3800


 運:250


【スキル】

 《武神》常時発動。ありとあらゆる武具武術において神の領域に達っする。ステータス補正、筋力、俊敏、器用、耐久力。物理的攻撃力八割上昇、物理的ダメージ八割減少。

 《武具創造》己の知識にある武具を魔力を消費して創造可能。武器、防具、道具は性能により魔力消費量は異なる。

 《異空間収納》別の空間に物を収納できる

 《魔力化》魔法を体に固定させる事で魔力体になり、属性と同じ性質に変化する

 《気配感知》常時発動

 ◆◆◆◆



 ステータスを確認したらレベルが一だけ上がっていた事に気が付く。相変わらずステータスの上昇値が凄い。もうやることもなくなった俺はしばらく仮眠を取る事にした。



 目が覚めると、窓の外は暗くなっている。何時なのかと思っているとタイミングよく扉の向こうからマルコが晩飯の用意が出来た事を教えてくれた。



「ショウ兄。晩御飯の用意出来たよ!」


「ん、わかった」


「それじゃ一緒に食堂に行こ!」



 目を擦りながらマルコと共に一階の食堂へと向かう。そこには美味しそうな匂いをする食事と見知らぬ男性がいた。



「ふむ、お前がショウか」


「ショウ兄。紹介するね! 僕のお父さんだよ!」


「この宿の主人のルドガーだ。よろしく」


「はい! こちらこそ」



 威厳がありそうな雰囲気である。だが、よくよく思い返してみればルドガーさんはギルドマスターなので威厳があるのは当然の事だ。



「どうした?私の顔に何か?」


「あっいえ! あの、確かギルドマスターなんですよね?」


「ん? 誰から聞いたんだ?」


「えっと受付嬢の娘さんからです」


「そうか、セラが……」


「はい……」



 何故か、急に黙りこんでしまった。もしかして、何か気になる事でもあるのだろうかと思っていたらセラさんが帰ってくる。



「ただいま?、あっ! ショウさん。本当にきてたんですね!」


「うん、まぁね……」


 フレンドリーに話しかけてくるセラさんに俺は上手く返事を返せない。だって、ルドガーさんめっちゃ睨んで来るんです。



 めっちゃ怖いんだけど……


 ただでさえ怖い顔なのに……



「貴様! 娘とは一体どういう関係なんだ!? 事と次第によってはタダでは済まさんぞ!」



 いきなり立ち上がり、物凄い勢いでこちらに詰め寄ってくる。



 ヒエエエっ!!


 何この人!!


 いきなりなんなの!?



「えっと その僕は冒険者ギルドに登録する時にセラさんにお世話になっただけの関係です。別にやましい関係ではごさいません!」


「本当だろうな!?」


「は、はぃぃ」


「お父さん! ショウさんが怯えてます。やめてください! それに今はこの宿のお客様なんですよ!?」


「くっ!! しかしだな! セラ、私はお前が心配で!」


「もうお父さん私は子供じゃ無いんだから自分のことくらいちゃんと出来ますよ!」


「ぐっ! 貴様! 子供達に手を出してみろ!! 明日の朝日を拝めなくしてやるぞ!」


「いい加減にしなさい。ルドガー……」



 突如、聞こえてきたセリカさんの声に背筋が震え上がる。恐る恐る、覗いてみると禍々しいオーラを身に纏ったセリカさんがルドガーさんの後ろに立っている。



 このプレッシャー、ウル・キマイラなんて比じゃないぞ!



「セ……セリ……カ……」


「ごめんなさいね。ショウ君。ちょっとこの人過保護なもので。少し夫と話しがあるので先に夕飯食べてて下さいね?」


「はっはぃぃ」



 セリカさんの顔が笑ってなかった。考えたくないがルドガーさんは無事じゃすまないだろう。震えるルドガーさんの襟首を掴んで歩き出した。


「ま、待ってくれ! こ、これはだな……」


「言い訳は無用です。さぁ少しお話ししましょうか。ルドガー?」


「あっ……あぁ……」



 最早、希望はないといった顔をしているルドガーさんは奥の方へと連れられてしまう。俺がどうする事も無く固まっていたら、マルコに食事を取るよう促される。



「じゃショウ兄食べようよ!」


「そうね。私もお腹減ったし先に食べましょう!」


「私もお腹ペコペコです!」



 マルコだけじゃなく、マリーさんにセラさんまで平気そうにしている。この反応を見る限り日常的になっているのだろうが初見の俺は恐怖しかない。だけど、空腹には勝てず目の前の食事を楽しむ事にした。



「美味い……」


「でしょ! お母さんの料理美味いでしょ!」


「ああ本当に美味しいな!!」



 やべえ、これマジでうめぇ!


 なんか奥の方で悲鳴らしきものが聞こえるが知らない!!


 今は飯だ!!



 あれから俺は飯を食べ終えた後風呂に入り、今は自室にいる。ベットで横になり明日の事を考える。



「さてと、明日もギルドに行くか……」



 もう寝よう。


 結構濃い一日だったなぁ……

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