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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第二章

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初めての依頼

「あの……?」


「はい?」



 これから俺の冒険者生活が始まるのだと想像していたらセラが声を掛けてくる。



 えっ?何?


 なんで話しかけて来たの?



「マルコとはどういう関係なのですか?」


「へっ? ああ、えっとここまで案内して貰っただけですよ」


「そうだったんですか。すいません! この子が迷惑かけたんじゃないかと思ってたものですから……」


「あっ~いや、まぁ……」


「お姉ちゃん! 僕迷惑かけて無いって」


「そんなこと言ってるけどあなたのことで良く話がくるんだからね!」


「うっ……ごめんなさい」


「すいません! 変な所をお見せしちゃって」


「あっ、いえ別に」



 俺の前で姉弟喧嘩を繰り広げる二人に置いてけぼりにされる。もう用事は済ませたから早く帰りたいと心の中で唱えるばかりである。



 ちくせう!


 早く去りたいのに!


 なんだよ!


 この雰囲気は!?


 孔明の罠か!?


 ぬぅ、中々にやりおるなぁ!



「あの、どうかしましたか?」


「えっ? あっ、すいません考え事を」


「そうでしたか。先程から難しい顔をしておられましたので、もしかして不愉快に思われたんじゃないかと」



 どうやら、顔に出ていたらしい。セラに聞かれるまで分かっていなかった。今度からは顔に心情が表れないように注意しよう。



「大丈夫っすよ」


「ねえ? お姉ちゃん、お父さんは?」


「お父さんなら奥にいるけど、どうしたの?」


「お母さんがちゃんと仕事してるか見てこいって」


「そっちが本当の目的だったの?」


「うん」



 目の前で二人のやり取りを見ながら、俺は思った。帰っていいかな、と。最早、俺は関係ないのだから帰っても文句は言われない。しかし、マルコの言葉に俺は引っかかってしまう。



 ん??


 待てよ?



「あの、お父さんって?」


「はい、お父さんはギルドマスターです」



 ぶふぉっ……



 衝撃の事実に思わず吹き出しそうになってしまった。なんとか我慢する事は出来たが、いきなりギルドマスターに近い人脈を得るとは思いも寄らなかった。



 マジか!?


 すげーな!



「どうだ、すごいだろ!」



 父親が凄いのであってマルコ自体は特に凄くもなんともないのに胸を張ってドヤ顔してくる。見てて物凄く腹が立つが表には出さず冷静に対応する。



「へえー、そうなんだ」


「はい……ですが昨日から忙しいんです。なんでも初心者用の攻略されたダンジョンにウル・キマイラが現れたそうなので、今はその件で手がいっぱいらしいんです。それにこのギルドからも何人か討伐隊に派遣されてるんです」




 ウル・キマイラなら俺が倒したのだが、俺以外知らない事を思い出す。今更、名乗り出るつもりはないので知らない事にしておく。そもそも、俺は死んだことになっているので公けにするつもりなんて無い。



「じゃあ、今って依頼とかないんです?」


「いえ、依頼はちゃんとありますよ」



 不安に思って質問してみると他にもちゃんと依頼があるとわかった。もし、依頼がないと言われたらどうしようかと思った。もし、無かったら無一文なので宿無し飯なしで過ごさないといけなかったのでよかったと胸を撫で下ろす。



 よかったー!



「えっと、報酬が高いのってあります?」


「はい、もちろんあります! ちょっと待っててください。取って来ますから!」


「あっ、あざーす」



 やべ、略して言ってもうた!



 思わず感謝の言葉を簡略してしまったが、セラは奥の方へと行って聞いていなかった。なので、焦って損した気分である。



「ねえ、お兄さん?」


「ん、なんだ?」


「お兄さんって何歳なの?」


「なんだ、そんなことか? 俺は十七歳だ」


「えっ! お姉ちゃんよりひとつ若いんだね。お姉ちゃんは十八歳だから!! ちなみに僕は七歳だよ!」


「ヘェ〜。確かに10代くらいかなーと思ってたけど俺とひとつ違いだったんだな」


「すいません。お待たせしました! こちらが依頼書になります」


「ありがとうございます」



 丁度、マルコとの会話が途切れた時セラが依頼書の束を持ってきてくれた。俺は早速手にとって中身を拝見する。



 ん〜なんか雑用ばっかりだな……


 おい、子守ってなんだよ!?


 お使いまであんのか!?


 ペットを捜してくれ??


 まともな依頼は無いのか?



 どれもこれもまともな依頼はなかったのでセラに尋ねることにしてみた。



「あの討伐系の依頼とかは?」


「えっ、討伐系ですか? 一応Fランクの依頼書を持って来たのですが……」


「すいません。討伐系でお願いしていいですか?」


「はい。大丈夫ですよ。ただいまお持ちしますね」



 俺は依頼書の束をセラに返す。セラは依頼書の束を受け取ると、再び奥の方へと戻っていく。俺はどんな依頼が来るのかなと期待して待つ。



「あっ、すいません!」


「えっ、あっ、はい!」


「確か自分のふたつ上のランクの依頼も受けれるんですよね?」


「はい、そうですが? もしかしてDランクの依頼をお受けになるんですか?」


「はい、お願いします」


「わかりました。一応Eランクの依頼も持って来ますね!」



 しばらく待っていると、セラが先程よりも多くの依頼書を抱えて戻ってきた。流石に二つものランクとなると結構な量になるらしい。



「お待たせしました。こちらがEランクとDランクの依頼書になります!」


「ありがとうございます」



 お礼を言ってから二つの依頼書の束を受け取る。パラパラと中身を見ていく。やはり、予想していた通りの感じである。



 結構あるな。


 採取の依頼もあんのか?


 これは討伐系か?


 ゴブリン5体の退治


 ウルフ7頭の討伐


 それでこれは?


 ゴルバ3頭の退治?



 聞き覚えの無い魔物の名前に首を傾げて考えるが分からないので聞くことにした。



「あの、このゴルバって魔物なんですけど?」


「ゴルバですか? ゴルバは猪に似ている魔物で畑を荒らすんですよ。これをお受けになるんですか?」


「えっ? ああ、じゃお願いします」


「はい! わかりました」



 依頼書の受理が終わると俺は早速討伐に向かおうとしたら、セラに引き止められる。



「あっ、待ってください! 討伐した証明なんですけど、ゴルバにはキバがあるのでそれを討伐した数だけ持ち帰って来てください。私の方で鑑定しますので」


「あっ、はい」



 一通りの説明を受けて俺はギルドを後にする。後ろからついて来ている者に気付かず俺は依頼書に書かれていた場所へと向かう。



 へえ~、この国にこんな場所あったんだなぁ。



 依頼書に書いてあった場所は見渡す限りの草原地帯であった。こういうの見たら昼寝したくなると思いつつゴルバを探す。



 どこにいんだよ!?


 ん??


 気配を感じるな。



 周囲を見回すと気配を感じる。しかも、おかしなことにこちらを覗いているかのような気配である。だから、俺はこちらを覗いている誰かに大声を出してみた。



「誰かいるのか!?」


「あっ、バレてた?」



 俺の声に反応して草むらの影から顔を出したのはマルコだった。何故、こんなところにいるのかと不思議に思ったが、恐らくつけてきたのだろうと結論付ける。



「付けて来たのか?」


「うん……」



 申し訳なさそうに頭垂れるマルコに俺はどうすればいいかわからない。怒れば良いのか呆れればいいのか分からない俺は戸惑うばかりだ。



 おいおい、マジか!


 どうする、一旦戻るか?



「大丈夫! お兄さんの邪魔にはならないようにするから!」


「いや、大丈夫って……」


「だから、お願い!!」



 両手をパンと合わせて俺を拝むように懇願してくるマルコを俺は仕方なく許した。



 んん?はぁ……


 しゃーないか!



「わかった。ただしあまり俺から離れるなよ。守れなくなるから」


「ありがとうお兄さん!!」



 嬉しそうに飛び跳ねるマルコを見て、俺はなんとも言えない気持ちになる。すると、その時魔物の気配がした。



 この気配は!


 向こうからか!!



「おい、向こうから魔物の気配がする! 俺の後についてこいよ!」


「うん。わかった!」



 マルコを引き連れてしばらく歩いていると、猪のような体型で口から立派な牙が生えているゴルバを見つける。



 見つけた!!


 おおっ!


 あれがゴルバかな?


 特徴のキバもあるし、早速狩るか!



 早速、討伐しようかとしたが後ろにいるマルコが気になってしまう。もし、ここで俺が凄い事したら変に言い回りそうだ。迷ってしまったが、さっさとマルコを連れて帰りたいので弓矢を取り出して討伐することに決めた。



「ふっ!」



 異空間から弓矢を取り出した俺は手早く弓を構えて矢を放つ。風を切り裂き、真っ直ぐ放たれた矢は一頭のゴルバに見事命中した。



「フゴオオ……」



 おお!


 眉間に一発!


 さすが《武神》!


 半端ないね!



「わ! お兄さん凄いね!! 一発で倒しちゃったよ!」


「あほ! あんまり大きな声出すな!」


「ご、ごめんなさい」



 マルコを叱ったが大声は関係なかった。一頭が死んだのを見た他のゴルバは慌てて逃げ出したのだ。



 逃がすか!!


 連射だ!!


 うらっ!!



 身体が思ったとおりに素早く動き、連続で矢を放った。元の世界なら絶対に出来ないであろう動きをしてくれる。



「プギィ……」

「ピギィ……」



 すげー!



 自分がした事なのに思わず驚いてしまう。同時に二頭ものゴルバを射抜き仕留めて見せた自分を褒めてやりたい気分だ。



 早速キバを取りに行こう!



「なんか凄いんだけど、地味だね」


「気にすんな。勝ちゃいいんだよ」



 マルコに地味だと言われながらも俺は気にせず牙を折り取るとボキッといい音がした。ダンジョンじゃ無いから魔物の死体はそのまま残る事に気付き死体をどうしようかと悩んでいるとマルコが教えてくれる。



「お兄さん、ゴルバのお肉って売れるんだよ?」


「えっ、マジ? それを言えって!」



 そうと分かれば話は早い。売るために俺はゴルバの死体を異空間に収納する。すると、突然ゴルバが消えたことにマルコが驚く。



「えっ、今なにしたの!?」


「大人の事情ってやつだ!」


「嘘だ! 今何も無い所に死体を投げたら消えたじゃないか!」


「後で教えてやる」



 とりあえず、今はギルドに帰って換金だ。その後の事は何も考えていなかった。ギルドに帰ると、マルコが真っ先にセラの元へと走り出す。俺はその後ろを着いて行く。



「お姉ちゃんただいま!」


「マルコ、どこに行ってたの!? 急にいなくなって捜しても見つからないから心配したじゃない!」


「ごめんなさい……」


「それよりどこにいたの?」


「えっと、それは……」



 マルコはセラの質問に答えにくそうにしている。どうやら、誰にも言わず勝手に着いて来たらしい。



「もしかして、ついて行ったの?」


「うっ、その……うん」


「な、何てことするの!? 前も言ったでしょ!! 冒険者の人に付いて行っちゃダメだって!魔物とだって戦うのよ! なんでそんな危ない所に付いて行ったりなんかしたの!?」


「お、お兄さんがどれくらい強いか見たくて」



 歳相応に好奇心旺盛なようだ。流石にここはフォローするべきだと思い、俺はセラに話し掛ける。



「あっ、あの、まぁ、マルコ君も別に悪気があった訳じゃ無いですから。それにこうやって無事に帰ってきたわけですし……」


「あなたは黙っててください!!」


「はっ、はい! すいません!!」



 あまりの剣幕に俺は思わず謝ってしまい、それ以上は何も言えなくなってしまう。美人が怒ると迫力あるというのは本当だったと理解した。



「いい? マルコ! 今回はたまたま、無事に帰って来れたけど、もしかしたら死んでたかもしれないのよ! わかってるの?」


「うぅ……ごめんなさい……」


「はぁ……でも無事でよかった。もう心配させないでよ……」


「ヒック……グスッ……うぇ、お姉ぢゃん! ご゛め゛ん゛な゛さ゛い゛!」


「でも、お母さんには報告するからね」


「えっ……」


「当然でしょ。しっかり叱られなさい!!」



 すげぇ一言で泣き止んだ!



 よほど恐ろしいのかマルコはセラの一言により完全に泣き止んだ。しかし、その顔はこの世の終わりを現したかのように真っ白に染まっている。



「あっ、すいません!ショウ様。お見苦しい所をお見せしてしまって」


「いえ、大丈夫っす」


「えっと、それで依頼を達成したのですよね。証明の部位は持ってくれましたか?」


「あっ、はい。これですよね?」


 そう言って俺は異空間からゴルバのキバを三つ取り出した。


「あの、もしかしてショウ様は《異空間収納》をお持ちなんですか?」


「へっ? ああ、そうですよ」


「すっ、凄い! 私初めてみました。だって《異空間収納》はスキルの中でもレア中のレアなんですよ! 生ものを入れても腐らないし、どれだけ多かろうとなんでも収納出来るんですから!」


「あ、えっと、あの?」


「はっ! す、す、すみません!! つい我を忘れてしまって!」


「あーいや別にいいですよ」


「えっと……はい! 確かにキバ三つですね。これで依頼達成です」



 討伐証明であるゴルバの牙を異空間から取り出すとセラが大興奮して迫り寄ってきた。すぐに冷静さを取り戻して牙の査定を済ませて依頼達成となる。



 意外と簡単に終わったな


 おっ、そうだ!



「あの、ちょっといいですか?」


「はい。なんでしょう?」


「ゴルバのお肉って売れるって聞いたんだけど?」


「はい。そうですね。ゴルバの肉はちょっと癖があるみたいですが美味しいらしいので食卓にも並ぶ程ですから売れますよ」


「じゃあここで売ることは?」


「もちろん出来ますよ。もしかして持ち帰って来たんですか?」


「はい。それじゃこれお願いします」



 換金できる事を確かめた俺は異空間からゴルバの死体を三つ取り出す。



「なっ、これはっ!?」


「えっと、何かいけなかったですかね?」


「いっいえ、ゴルバは逃げ足が早いので魔法で倒すんですけど……こんなに綺麗に体が残ってるのは初めてでして」


「そうなんすか?」


「これなら通常よりも高値で取り引き出来ます。ここで売るよりは市場で売った方がお金になりますよ?」


「あーいや、ここでいいです」


「かしこまりました。では少々お待ち下さい」



 市場なんて面倒くさそうだからと俺はギルドで買い取ってもらう事にした。そうした方が手っ取り早いと思ったので。



「お待たせ致しました。こちらが依頼の報酬の5万ウェンになります。それとこちらがゴルバの方になり、三匹で21万ウェンになります!」


「えっ、そんなになるんですか?」


「はい。それだけ価値がありますから」



 思った以上に報酬が高かったので聞き返してしまった。嬉しい誤算である。これなら今日の晩飯は豪華にできそうだ。



「そうだ! お姉ちゃん。このお兄さんって物凄い強いんだよ! ゴルバを弓矢でパパっと倒しちゃったんだよ!」



 マルコが復活して余計な事を口走ってしまう。止めたかったけど、既に話し終えてしまった。あまり、目立ちたくないというのに。



「そうなんですか。それは凄いですね。だからあんなに綺麗な死体なんですね!」


「たまたまですよ……」



 美人に褒められると悪い気はしない。目立ちたくはないけど彼女は欲しいのでそこそこ活躍しようと思う。



 関係ないけどこの世界の通過はウェンというらしく、元の世界と単価は変わらない。一円なら一Wとなっているため、ややこしく考えなくていいのでとても助かる。



「あの、どうかしましたか?」


「あっ、いえ、あの、この辺に宿ってあります??」


「それならウチにおいでよ。お兄さん!」


「コラッ! マルコいらない事を言わないの!」


「えっと、ウチとは?」


「僕んちは宿屋なんだ! ねぇ、お兄さんおいでよ!! お母さんの料理美味しんだよ。ねぇ、良いでしょ?」


「マルコ! ショウ様が困ってるでしょ!」


「あっ、別に構いませんよ。俺は」


「やったぁ! それなら早速ウチに行こうよ」


「いいんですか? ショウ様」


「まぁどこでもいいしね。それと、その、ショウ様っていうのはやめてもらえませんか?」


「えっ! 何か気に障りましたか?」


「そういう訳じゃ無いんだけど、なんかむず痒くて……」


「……冒険者の方々には同じ呼び方をしているのですが」


「様以外でお願いします」


「わかりました。じゃあショウさんで」



 様呼ばわりされるのはあまりなれていないので遠慮したいところだ。これからも利用していくのだから友好的な関係を築きたい。出来れば、そのまま恋人かにもなりたかったりする。



 まあ、俺なんかじゃセラさんとは釣り合わないだろうけど!



「じゃ、行こう!」


「マルコ! ちゃんと案内するのよ。後迷惑かけちゃダメだからね!」


「わかってるよ! それじゃショウ兄、行こ!」


「しょ、ショウ兄!?」


「ダメ?」



 唐突にそんな事を言うもんだから、思わず聞き返してしまう。恥ずかしいのでやめてもらいたいが、断るのも悪いかと思い許す事にした。



「なんでもいいよ……」


「よかった。じゃ今度こそ行こう!」



 はぁ……なんか不安になって来た。


 大丈夫なんだろうな!

改訂しました。

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