ショウの過去
夜中にクロは目が覚める。ふと、自分の主であるショウ見てみるとアホ面で寝ていた。アホ面と言ってもヨダレを垂らしてたり口を開けていたりとか、そういうのではなく安心しきった馬鹿な顔だ。
「幸せそうな顔しやがって……なぁ、なんでお前は、過去にあれだけの事をされて彼女を欲しがるんだ?」
寝ている主人に問うが主人は寝たままで答えはしない。
「普通なら人間不信になってもおかしく無い程の事をされている。なのに、なんでお前は他人を信じられるんだ?」
クロは静かに物置を出る。物置を出ると屋敷の屋根へと登り月夜を見上げる。月夜を見上げて何を思うか。
「……はあ~あいつの過去……辛過ぎだろう」
そう、クロが見た過去はショウがタカシに話している通りの事だった。しかし、話しはまだ続きがあったのだ。
それは、ショウが中学の頃の話。ショウの言っていた通りショウは友人をイジメから救いそのせいでイジメにあったこと。
その続きが想像していたより遥かに酷かった。
ショウはイジメにあったがそれでも学校に通い続けてた。だけどある日、イジメから救った友人が話しかけて来て仲を取り戻した。
しかし、それはショウが体験した悪夢の始まりに過ぎなかった。クロはショウの体験した過去を覗いた事を思い出す。
「ごめん、山本。今まで無視してて」
「いや、いいよ。俺と関わってるの知られたら、またイジメられるぞ」
「あ、ああ。その事なんだけど、もう大丈夫だ」
「大丈夫って?」
「俺達をイジメてた奴ら先生にイジメがバレて保護者まで呼ばれたらしいんだ。それでもうイジメは無いと思う」
「そうなのか。そりゃ良かった」
ショウとその友人は放課後の図書室でそんな会話をしていた。周りには誰もいない。一応は図書委員が一人受け付けに居るのだが、ショウと友人がいる所からは離れて居るため大きな声を出さない限りは聞こえない。
「じゃ、じゃあ俺先に帰るよ」
「ああ、お疲れ」
「じ、じゃあな」
友人は小さく手を上げると図書室を出て行く。図書室のドアが閉まるまで見送るショウ。
「……俺も帰るか」
一人になったショウも数分すると小さく呟き、席から立ち上がると図書室を出て行く。
次の日ショウはいつも通りに登校する。教室に入ると友人が挨拶をしてくれる。今までは無視されていたが、本当にイジメがなくなったのだと理解した。
昼休みになると友人が近づいてくる。
「よ、よう」
「よう、どうした?」
「実はさ、ある噂があるんだよ」
「噂? どんな?」
「その実は――がお前の事、好きらしいんだ」
「はあ? ――って言ったら学年一の可愛い子だろ? なんでそんな子が?」
「いや、だから噂だって……」
「ふーん」
内心ショウはめちゃくちゃ喜んでいた。まさか、学年一の可愛い子が自分に気があるかもしれないと知って。噂だとしてもだ。
それから一週間程してある出来事が起きる。
「私、山本君の事好きなの!」
噂の子に告白されたのだ。勿論、ショウは有頂天になりすぐに返事をした。
それからと言うものは毎日が幸せだった。初めての彼女が出来て友達とも上手く行っていて、何一つ不満などなかった。
初めての彼女とデートになった時も失敗しないようにと、ファッション雑誌を読んで服装を整えたり、美容室に行き髪型を変えたりと彼女の為にやれるだけの事をした。
次はデートプランを必死で考えた。どんな所がいいのか、どういう事をしたら喜んでもらえるのだろうか、必死で考えてデートプランを考えた。
デート当日は彼女の機嫌が悪くならないようにと必死で彼女を楽しませた。
だが、それも終わりを告げた。
ある日、彼女に呼ばれたのだ。体育館倉庫に来て欲しいと。勿論、思春期真っ盛りのショウは何も疑う事なく、言われた通りに体育館倉庫へと向かった。
体育館倉庫へと入ると彼女がいた。
「えっと――さん、大切な用事って?」
「うん、実はね――」
ショウは現在中学三年生だ。受験生ではあるものの思春期真っ盛りのショウは、当然ながらあらぬ方向の事を考えていた。
しかし、その考えは虚しくも砕け散る事になる。最も最悪で残酷で非情で不条理で理不尽な事が起こり、ショウの心に深い傷をつけることになる。
彼女の言葉を待っていたショウはいきなり後ろから羽交い締めをされる。
「えっ! な、なんだ!?」
突然の出来事に慌てるショウに彼女が言い放つ。
「アッハハハハハハハ。あんたって本当バカね!」
「へっ? ど、どう言うことだ!」
「こう言うことよ」
彼女がそう言うとゾロゾロとショウをイジメていた生徒達が出てくる。
「な、なんで、お前らが……」
「ぷっくく……ハッハハハハ!! お前まだ気付かねえの? 騙されてたんだよ! 最初っからな!」
「騙されてた……?」
目の前の現実を上手く飲み込めないでいるショウに彼女が全てを話す。
「だから最初っからって言ってるじゃない。誰があんたみたいな奴と付き合うかってーの。私は彼に頼まれたから協力しただけ。じゃなきゃあんたみたいな奴とデートしたり手を繋ぐとかマジで無理だから」
彼女の言葉に頭が真っ白になる。ただでさえ信じたくない現実に目を背けたくなるショウは、羽交い絞めにされているので逃げる事も出来ない。
「いやー、それにしても半年だぜ? 半年! お前が勝手に彼女だと思い込み付き合い続けてな!!」
そう、半年だ。ショウが告白されてから半年も経っている。中学二年の秋に告白されてからもう半年経ち、今は中学三年の夏休み前だ。
「それにしてもさー、お前って本当に最高だよ! こいつが少し嫌な顔したら何かと必死になって喜ばせようとしたりしてさ! まるでピエロだぜ!」
「本当よ。もう笑うの我慢するのに必死だったんだから!」
もう何も聞こえない。何を言っているのか理解すら出来ていない。いや、理解したくない。それでも耳を閉じる事も出来ないショウは目を閉じる事しか出来なかった。
「知ってたか? お前が付き合ってからずっと学校の裏掲示板に書き込んでたんだぜ。もう、一番人気のネタだったよ!!」
そういえば、確かに彼女と付き合い始めてから学校での視線が妬みや羨望ではなく憐れみの視線が多かった。それに何故か笑っていた生徒も見掛けた事もある。
アレはショウが釣り合って無いからだと思ってた。しかし、違ったのだ。アレは単にショウが騙されてる事も知らずに彼女と、いや、偽りの彼女と仲良くしてからか。
「ハハッ……本当ピエロじゃねえか……」
「おっ、そうだ! もう一人協力者がいんだよ。おい、出て来てこいつに何か言ってやれよ」
男子生徒が後ろの方に向けて声を出すと一人の男子生徒が現れた。そいつはショウもよく知っている、いや、ショウの友人だった。
「………」
何も言わずにこちらを怯えながら見ている。その瞳には何が映っているのだろうか。
「ほら、何か言ってやれって」
「う、うん。本当に君は馬鹿だね。君はずっと騙されてると知らずに毎日を幸せそうにして。ぼ、僕も見ていて楽しかったよ」
どうやら友人にも、友人だと思っていた友人にも裏切られていたようだ。ようやく全てを理解した。ショウは最初っから全て騙されていて、奴らの手の上で踊っていただけに過ぎない事が。
もう、涙も出ない。
むしろ、笑うしか無いだろう。
「ハハハッハハハハハハハ。アハハハハハハハッハハハハハハハ」
何もかもどうでも良くなったショウは狂ったように笑う。それを見ていた他の奴らも笑う。そして、追い打ちをかけるようにある事実を聞かされる。
「そうだ。お前の彼女な、俺の女だから。この事、話したらすぐに協力してくれたぜ」
イジメの主犯と偽りの彼女はショウの目の前でキスをする。ショウに見せ付けるように情熱的なキスを交わす。
他の奴らはそれを見て笑っている。ショウはもはや何を信じればいいかわからず一緒に釣られて笑ってしまう。
その後、ショウは袋叩きにされて一人体育館倉庫に置かれた。蹲って独りきりになってから、声が枯れる程に泣き喚いた。絶望と言うのはこういうことなのかと、ショウは嘆き続けた。
それから、すぐに夏休みに入った。ショウは何を信じればいいかわからなかった。でも、親は信じれる、そう思って全てを話した。
父はそいつらを殺しに行くと激昂していたが母に止められる。母は学校に乗り込みイジメの全てを話して裁判にも行くという所存を見せ付ける。
学校側は謝罪をして来たがショウの心の傷が癒えるわけでは無い。そして、イジメていた生徒達は全員謝罪をするようにとなったがショウが拒否をした。それは、顔も見たくないと言うことだった。
そのあとショウは両親に相談して転校をして欲しいと願った。両親はそれをすんなり叶えてショウは別の中学に行くことになった。
そして、そこでは友達を作ることもしなかった。高校に上がったが、やはり友達を作ることはしなかった。二年になるとイジメ受けていたクラスメイトを見つけるが関わらないようにする。もう二度と同じ過ちを繰り返したくないからと。
そして、いつも通りの日常を送っていたらクラスごとこちらの世界に呼ばれてしまう。後は、伝説の魔獣を倒したり戦争を一人で食い止めたりと言うものであった。
改訂済み




