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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第一章

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報告と今後について

 翌日、ウル・キマイラ討伐隊が国王の命により、ダンジョンへと派遣される。もうひとつ捜索隊も共に派遣されていた。



 そう、昨日から居ないままの2人、山本 翔と福田 隆史を見つけ出す為にだ。だが、彼ら2人の生存の可能性は極めて低いだろう。



 山本 翔には戦う力があった。しかし、彼は他の勇者たち、クラスメイトを逃がす為にたった一人でウル・キマイラと対峙している。彼が1人で対峙してから1日も経つのだ。全ての者が彼は生きてはいないだろうと、考えている。



 そして、もう一人。福田 隆史だ。彼は強制転移で1人別の所へと飛ばされた。彼は召喚された勇者たちの中で唯一戦う力を持っていなかった。



 そのために彼がダンジョン内の何処かに転移させられたとすると、魔物に出くわして殺されてる可能性が高い。抵抗出来る力が無いのだから死んでいても不思議ではない。



「これより、ウル・キマイラ討伐に向かう! 各自準備は良いな!? では、出発する!」



 団長が討伐隊の先頭に立ち出発の合図を出す。この討伐隊には冒険者ギルドの者たちもいる。もちろん、騎士も含まれいたが勇者たちは一人も参加をしてはいなかった。



 ◆◇◆◇



 昨日俺達は、ダンジョンから脱出した後急いで城へと帰還した。



 そう、ウル・キマイラが出現したと国王に報告する為に。そして、俺達は鉄人に2人のクラスメイトがまだ、ダンジョンに取り残されてることを報告したのだ。



 城に着くのは早かった。魔法で全員強化した上に走り続けたおかげで。



「私達は国王に報告に行く! 君達は先生の所へ行きなさい!!」


『はい……』



 だが、全員の足取りが重かった。それはそうだ、2人も死んだと報告しなければならないのだから。俺達は初めて死という現実を目の当たりにしてるのだ。身近な者の死。それは、もしかしたら自分だったかもしれない。ただ運が良かっただけ。



 あの時もし自分が何処か別の所へ飛ばされていたらと思うとゾッとする。それはこの場にいる全ての者達が思っていることだった。



 俺達は暗い雰囲気のまま先生のいる場所へと辿り着いた。



「お! お前達! よく帰ってきたな!! 全員ちゃんといるんだろうな!? 

 ん? 山本と福田は?? どこだ!? あいつらトイレか? それにどうしたお前達! いつもの元気はどこへ行った!!

 まるでお通夜みたいな雰囲気じゃないか!?」



 先生は明るく俺達に話しかけてくる。俺達の元気が無いこともすぐにわかる。そして、今言った2人の者がいないことも気付いた。これから、話すことがとても言い辛い雰囲気だった。



「せ、先生……実は……」



 俺達はダンジョンで起こった悲劇をありのまま伝えた。



「なっ……!? 冗談だろう? 先生をからかうんじゃない!! 2人が死んだなんて冗談はいくらなんでもタチが悪いぞ!!!」



 先生は俺達が説明したことを受け入れようとしない。それもそのはず、何せ自分の大事な教え子が2人も死んだのだから。先生は怒鳴る。まるで俺達が嘘をついたみたいに。



「でも! 先生本当なんだ!!」

「先生! 嘘なんかじゃありません!」

「いくらなんでもそんな嘘つきませんよ!」



「……わかってるっ! お前達が本当のことを言っていることくらい私には分かる……」


「先生……」



 辛いのだろう。空を仰ぐように顔を上に向けている。恐らく、涙が零れ落ちないように我慢しているに違いない。まだ自分よりも若く未来ある者たちがその尊い命を落としたのだから。



「だが私はまだ諦めない! 彼ら2人を見るまでは!! まだ遺体として見つかった訳では無いのだろう?? それなら、まだ希望はある! 可能性が零じゃ無い限り私は諦めない!」



 先生はそう強く俺達に言ってきた。まるで俺達を元気付けようとするみたいに。



「そうだ。先生の言う通りじゃないか!」

「そうよね、まだ2人が死んでるってわからないもの!」

「まだ希望はある!」

「そうと決まったら俺達も捜しに行こうぜ!」



 クラスメイトが先生の言葉に触発されて意気揚々と彼ら2人を捜しに行こうと言う。



「ダメだ!!君達はもう行くべきじゃない!」



 その時先生から反対の言葉が出た。真っ先に賛成してくれるかと思った先生からは反対の言葉が出て驚いてしまう。



「な、なんでですか!?」


「私が行く!! 君達は今回の件で相当疲れている筈だ! これ以上君達に負担をかけるわけにはいかない! それに、私は教師だ! 君達を守る義務がある! だから私に任せて君達は休んでなさい」


「先生……」



 その言葉に誰も言い返せない。当たり前のことだ。事実、俺達は今回の件で相当疲れているのは確かだ。魔法で強化して走り続けて帰ってきたのもあるが精神的にも相当参っている。



「わかりました。先生の言う通りにします」


「ああ、それでいい。安心しておけ! 必ず私が2人を連れて帰って来る!!」



 ◆◇◆◇



 陣内鉄也こと鉄人はクラスメイト達と別れて城の騎士に国王の所に連れて行くように頼む。



「国王様にお話をしたいのです」


「わかりました。国王の所に案内します」



 意外と騎士はすんなり国王の所に案内をしてくれた。もう少し反対されるかと思っていたのに拍子抜けである。



「ありがとうございます」


「いえ。では、私はこれで……」



 国王がいる部屋へと案内された鉄人は騎士に礼を言い部屋へと向かう。扉を開けて中に入ると国王はいた。



「失礼します。国王様お話があるのですが、今お時間よろしいでしょうか?」


「うむ、問題ない。それで話しというのは?」


「はい、国王様も知っていると思いますが2人の事です」


「それなら、私も聞いている。まだ2人ダンジョンの中にいるそうだな」


「はい、そのことで相談なのですが、私を連れて行っては下さらないでしょうか?」


「な、なに! 貴方を!?」


「はい」


「それは捜索隊に付いて行きたいということか??」


「ええ、そうなります」


「ダメだといっても?」


「ならば私は1人でも行く所存です」


「ふぅ……貴方が頑固なのは知っている。わかった。捜索隊の隊長に話を付けておこう」


「ありがとうございます!!」


「無事見つかると良いな……」


「ええ……それでは失礼します」



 鉄人と国王の対談は淡々と行われた。そして、鉄人が捜索隊に加わることを国王はすんなり許可したのだった。



 ◆◇◆◇



「ふぅ……」



 今俺は1人でいる。部屋に居ても退屈で仕方ないから城の中にある庭園を散歩していた。



「……俺がもっと強ければ」



 そう、俺がもっと強ければ彼を1人置き去りになんかしなかった。だけど、それは〝れば〟の話しだ。実際の俺は為す術もななく彼を囮にして逃げたのだから。



 考え込んでいたら足音が聞こえてくる。誰が来たのかと振り向くと姫様がいた。



「こんな所でなにをしているのですか?」


「姫様……」


「クリスでいいですよ」


「あ、ああ。クリス」


「それより、大輝様はどうしてこちらに?」


「えっ? ああ、部屋に居ても退屈だったから」


「そうですか……もしかして、例の事をお考えになってるのではないですか?」


「なっ!? ど、どうしてそれを?」


「い、いえ! ただお父様や騎士様達からお話を聞いていたもので……」


「そ、そうですか……」


「あまりお気になさらない方が…」


「気にするなって方が無理だよ。俺は彼を見捨てたんだから」


「ですが、どうしようもない状況だったのでしょう??」


「そうだ……でも結局は言い訳だよ」


「しかし……」


「もういいよ……ありがとう」



 そう言って俺はクリスに背を向け歩き出す。行く宛てもない俺はそのまま部屋へと戻った。



 部屋にいたら呼び出しがあり、今は全員集合して食堂にいる。先生から何か話があると連絡を受けて集まっている。



「みんな聞いてくれ! 私は明日捜索隊と共にダンジョンへ行くことになった!」



 先生の言葉に全員が唖然とした。思わず椅子から立ち上がる生徒もいるくらいだ。



「なっ! 先生本気ですか!?」


「ふっ……当たり前だ! 本気と、書いてマジと、読むくらいな!!」


「やべえ! 先生マジだわ」


「まぁ話しはそれだけだ。それと明日は各自自由にしていいぞ! それでは解散!」



 そう言って俺達は食堂から自分の部屋へと帰った。俺も自分の部屋に戻りベットに寝転んだ。天井を見詰めながらポツリと一言呟く。



「明日か……」



 そして、翌日の朝。先生達を含めたウル・キマイラ討伐隊と捜索隊がダンジョンへと向かって行った。



「ねぇ、大くん…これからどうする?」


「俺は……1日でも早く強くなるよう特訓するよ!」


「そうなんだ! なら、私も一緒にするよ」


「ありがとう」



 そうだ!


 俺は強くなるんだ!


 みんなを守れるだけ強くなる。


 誰も失いたくないから!

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