ファンクラブ
くそ……。
頭がズキズキしやがる。
立ち上がろうとしたら後ろから再び殴られる。今度は頭では無く背中を思っいきり殴られた。
「ぐぅ……!」
本気で殴って来たのがよく分かる痛みだ。しかも、身体強化まで使っている。こんな一撃を普通に放てるわけが無い。つまり、本気で俺を殺しに来てる。
「お前らこんなことしてタダで済むと思うなよ」
「奴隷が一人死んだくらいで誰も騒ぎはしねえよ」
俺を殴った男子生徒は鼻で笑いながらそう言って来た。俺がシエルの奴隷だと知ってるのかと疑う発言だ。
「貴方、クライン家の奴隷だから安心してるんじゃないの?」
あん?
何言ってんだこいつ?
「いくらクライン家が三大貴族と言っても、私達が束になれば貴方一人くらい殺してもなんら問題は無いわ」
じゃあ、まさかこいつら!
「その顔は気付いたみたいね」
「てめえら、全員貴族か」
「ええ、そうよ。正解した貴方にご褒美をあげまーす」
女子生徒がそう言うと再び背中を殴られる。しかも、今度は一人にでは無く数人に殴られた。
「がっ……!」
背中に複数の衝撃が走る。こうも連続で殴られ続けると中々に立ち上がることも出来ない。
「苦しそうね」
こいつ嫌い。
首輪の制限を解除しようとしたら再び背中を殴られる。背中だけでなく足と腕も殴られた。
「妙な動きしてんじゃねえぞ!」
男子生徒に怒鳴られる。これでは制限している首輪を外す事が出来ない。
「目的はなんだ?」
「目的? お前まだ気付かないのか?」
何がだ? 何に気づかないんだ?」
「ヒントやるよ。俺らはあるお方の為にやってるんだよ」
あるお方?
誰だ……?
一体誰の為に……?
待て……よく考えろ、思い出せ!!
確かキースが………まさか……!!
「お前ら生徒会長のファンクラブか!?」
「ご名答!」
その言葉と同時に頭を殴りつけられる。背中、腕、足と倒れている俺を叩きつけるように殴りつける。
こいつら容赦ねえんだけど……
「ふう、それでどうするよ?こいつ」
顎で俺を指しながら男子生徒達は喋り始める。僅かではあるが俺から目を離したのが運の尽きだ。
今だ!!
俺は男子生徒達が、目を離した瞬間に首輪の制限を解除した。男子生徒達は俺が首輪を外した時、ようやく気がついた。
「あっ、てめぇ!」
「ふっ!!」
「うげっっっ!」
恨みに篭った拳でグボッと男子生徒の鳩尾を打つ。吹き飛んだ男子生徒は気を失い倒れる。それを見た他の生徒が襲いかかって来る。
「奴隷が舐めてんじゃねえぞ!」
「死ねオラぁっ!」
「生意気なんだよ!!」
「目障りなんだよ! ファラ様に近づいてんじゃねえ!」
いっぺんに四人が襲いかかってくる。それら全てを蹴りと拳で倒す。武神を解放した俺の敵ではない。
「ぜやああ!!」
「ぐはあっ!」
「おげっ……」
「ぐあっ!」
「あぐっ……」
四人はそれぞれ吹き飛び教室の壁へとぶつかる。ぶつかった後はそのまま倒れ気を失った。後は女子生徒だけだ。
「くっ!! 死ねぇ、闇撫!」
苦し紛れに女子生徒が魔法を放った。黒い手のような物が迫ってくる。恐らく闇属性の魔法だろうが俺には通用しない。
「はっ!」
魔力を纏った手で全て弾き飛ばす。それを見た女子生徒は怯える。先程まで勝ち誇っていた顔から一転して恐怖に染まっている。
「う、うそ……」
「さあ、覚悟しろよ? 誰に手を出したか後悔させてやる」
「ひっ……こ、来ないで!」
ゆっくりと女子生徒のもとへと向かう。女子生徒は腰を抜かしたようで床にペタンと座る。必死に逃れようと足掻いているが俺の怒りは頂点だから許しはしない。
「た、たしゅけ……」
「貴様は俺の純情を、青春を、ぶっ潰したんだぞ!! 助ける訳ねえだろうか!! それに俺は奴隷だ……失う物など何も無い!」
「い、いやああああああああっ!」
俺は剣を取り出して女子生徒のすぐ目の前の床を突き刺した。それを見た女子生徒は気を失い倒れる。
「今度は殺す……」
甘いな、俺も。
俺は教室を出て屋敷へと帰る。しかし、思った以上にダメージを受けてしまった。身体が痛い。これなら最初から首輪の制限を外していけばよかった。
まあ、今更だけどな。
はあ、俺彼女出来るんだろうか……
そりゃあ今までに出会った女性は魅力的な人ばかりで綺麗だし可愛いしで最高だ。でも、ことごとくフラグは建ってない。
やっぱり顔なのかなぁ……
……もう考えないでおこう。
一人で帰ってると後ろから声を掛けられた。振り返ると、そこには全ての元凶とも言える人が立っていた。
「あれ、君一人か?」
「生徒会長」
「……」
あれ?
なんで無視?
「生徒会長さん?」
「……ファラ・シュタインだ」
「シュタイン先輩」
「君は名前で呼んでくれないのか?」
あれ、もしかして俺に好意があるのか?
いや待て!
さっきあんな目にあったばかりだ!
ここは慎重に行こう!!
「ファラ先輩で」
「うむ、妥協しよう」
俺とファラ先輩は一緒に街を歩く。歩くと言っても帰っているのだが、この人はどこまで着いて来るのだろうか。
「あのどこまで着いて来るんですか?」
「ん? 私の家はシエルくんのすぐ近くだぞ?」
「そうだったんですか」
屋敷が見えてくるとファラ先輩と別れる。屋敷へと帰り門をくぐった時にフォークとナイフが目の前の地面に突き刺さる。
うおっ!!
「いい身分ですね? 自分の主人を放っておいて女性と二人で帰ってくるとは」
「見てたんすか」
「ええ、もう貴方がデレデレして鼻の下を伸ばしてる所まで」
「そんなにデレデレしてねえわ」
なんやかんやとアニスさんに言われた後は夕食を食べて物置へと戻った。
「よう」
何故かクロがいた。召喚した覚えは無いのになんでいるのだろうか。
「今日は散々だったな。まさか告白かと思ったらファンクラブによる罠だったとはな」
「なんで知ってんだ……」
「俺様の情報網は世界一だ。甘く見てんじゃねえぞ」
「全部知ってたのかよ……」
「まあ気にすんなや。女なんて星の数だけいる。と言っても星ってのは手が届かない物だけどな」
「励ましてんのか笑ってんのかわかんねえよ!!」
「ハッハッハッハ!」
結局クロによって傷口にさらに塩を塗られて寝ることにした。
本当散々だったな……
改訂済み




