プロローグ
朝の通勤ラッシュに飲まれてしまい、ギュウギュウに詰められた電車の中でスマホを片手に持ち、最近流行りのネット小説を読み始める。電車が揺れる度、肩に横の人がぶつかる。いつものことなので大して気にはしない。
今、読んでいるネット小説はよくある異世界転生ものだ。理不尽な人生を歩んでいた人間が死んでしまい、神様に拾われてチートを貰って異世界で生きて行くという在り来たりなものだ。
大概の異世界転生は大体が理不尽な人生だ。ニートだったり、ブラック企業に勤めていたり、虐められてたり、童貞だったりと最後は理不尽では無いな。ていうか、全て理不尽と言うよりは自業自得が多い。虐めは別だけども。
まあ、架空の話に対してムキになっても仕方ないが。しかし、異世界転生。羨ましいものだ。出来ることならやってみたい。
小説の中の主人公のようにカッコよく無くてもいい。異世界と言うものがあるのなら行ってみたい。ただ、それだけだ。まあ、望むならチートを貰いたい。それで、バンバン活躍して彼女欲しい。
異世界のテンプレは美少女率が高い事だからな。活躍して英雄みたいになって女の子に周りを囲んで貰いたい。現実じゃ無理な話だからな。
そんな事を考えていると、電車が駅に到着して停車する。次々と降りて行く人達の流れに乗って改札口を出て行く。駅のホームを出てスマホをポケットにしまう。歩きスマホは危ないからな。
欠伸を噛み締めながら、駅から歩いて行く。いつもの通学路を歩き、すれ違う人達の顔を横目で流し見する。そして、また前を向く。猫背でポケットに手を入れて歩いてる俺は人からどう見られてるのだろうか。
ふと、そんな事を想像してしまう。自意識過剰なのかと思う。それに気にし過ぎだとも思う。俺なんてその辺に生えてある雑草程度な存在だ。例えるなら、景色の一部だろう。大して気にはしない存在。
でも、どうしても自分がどう見られてるのか、どう思われてるのか気になって仕方が無い。知ってしまえば傷つくかもしれ無いし、知ろうとすれば不安になってしまう。なんと、まあジレンマなのだろうか。
ふと、立ち止まり自分は何を考えてるのだろうと、溜め息を吐き頭を振る。冷静に考えて、今の自分は急に立ち止まり、いきなり頭を振った変人だと思われたんじゃないだろうか。
うっ……
そう考えるとヤバイ。
さっさと学校行こう。
今日も今日とて快晴です。一瞬だけ空を見上げて歩き出す。今日から1週間、正確に言えば五日間だが、学校が始まる。やはり、月曜日と言うのは気分が上がらないな。
なんたって国民アニメのEDを聞くだけで鬱になるという人だっているのだから。まあ、まだ学生の俺からすればそんな事は無いのだけど。
社会人になれば俺もそうなるのかな。なんか、嫌だな。でも、いずれは学校を卒業して社会に出るのだから逃げられないよな。
俺も異世界転生してえ〜〜!
心の中でだけ叫ぶ。いきなり、こんな事を街中で叫んだら頭痛い子に見られてしまうからね。やっぱり叫ぶなら心の中でだけだよね。うんうん。ちょっとキモいな。
その後も適当に頭の中で妄想しながら、学校へと足を運んで行く。ようやく辿り着いた時、既に生徒達で昇降口が溢れかえっていた。
ええい、そこを退け!
俺の上履きが取れんだろうが!!
何て事は言えずに靴箱の前で駄弁っていた生徒が退けるのを待つ。すると、駄弁っていた片方が俺の存在に気付きそそくさと退散して行く。別に睨んでなどはいない。第一俺が睨んでも怖くないから。
これで邪魔がいなくなったので上履きが取れる。上履きに履き替えて廊下を歩き2年の教室がある二階へと上がって行く。教室に辿り着き、扉を開けて中に入る。数人が俺の方に目を向けたがすぐに元に戻して、会話に花を咲かせる。それなら、最初から見るなよと言いたいけど、言えない自分が情けない。
机の横にカバンを掛けてスマホに繋げたイヤホンを耳に挿して机に伏せる。いわゆる、寝たふりだ。だって友達と呼べる友達なんていないもの。でも、悲しくはない。無駄に面倒な人間関係に悩まされなくて済むから。
ごめんなさい。本当は寂しいです。俺も友達と会話に花を咲かせてみたいです。でも、人が怖いです。昔のトラウマが蘇ってくる。今は忘れよう。
始業のチャイムが鳴ったの、クラスメイト達が次々と席について行く。俺もイヤホンを外して起き上がる。そして、我らがクラスの担任、陣内鉄也が教室に入ってくる。
「おーし、全員いるなぁ? よし、HR始めるぞ」
「きりーつ、気をつけー、礼!」
間延びした声で委員長が号令をかける。立って気をつけして礼をしてから着席する。
「今日は特に連絡事項とかは無しだ。そうそう、お前ら進路は決まったか? 来週には進路希望調査票を提出してもらうようになるからな。まあ、あまり悩まなくてもいいぞ。まだ、変更出来るからな。だが、自分の将来の事だ。しっかりと考えるように! では以上!!」
「きりーつ、気をつけー、礼!」
「今日も1日気合入れて行けよ!」
相変わらず暑苦しいセリフだ。流石は鉄人と呼ばれるだけはある。何で、鉄人って呼ばれてるかといえば、全教科を担当出来、尚且つ学年指導だからだ。それに生徒に厳しいがそれは悪い事をした時だけ、普段は優しいのだ。だから、意外と好かれている。後は、やはり生徒思いなところだろう。
有名な話だと万引き犯と間違われた生徒を必死に庇い続けたらしい。その生徒は確かに遅刻はするし、授業中に居眠りはするし、制服は改造するしで素行の悪い生徒だった。それでも鉄人だけは、彼はそんな事をする人間ではないと言って庇い続けたのだ。
まあ、結果は店員の勘違いと言う事だったらしい。聞いた話だとな。俺からすれば全く関係無いから良いけども。
俺は鞄から1限目の数学の教科書を取り出して、準備をすると担当の教師が来るまで机に伏せる。周りの連中は教師が来るギリギリまで会話を楽しむ。俺も混ざりたいよ。
無理だよね。だって俺地元から引っ越してこっちに来たもの。俺の周りにいる奴等は大抵がこの近辺に住んでる奴等。つまり、同中の奴等が多いのだ。そういった奴等でグループを作るから入りにくい。むしろ、入れない。
入学式では、話し掛けて来てくれたと勘違いして話したら、「えっ、何お前?」みたいなのを本気でされたからな。実際は俺じゃなく横に座ってた同中の友達に話し掛けたらしい。本当、そういうのやめて欲しい。
チャイムが鳴り響き、教師が入ってくる。号令と共に授業が始まる。俺は真面目に黒板に書かれた数式を板書して、教科書に載っている問題を解いて行く。数式に当てはめれば簡単なもんだ。
指名もされる事なく平和に終わる。だけど、まだこれから5時限も残っている。でも、これが当たり前。これが俺の現実。社会に出てどう役に立つのか分からないが、良い大学に行きたいので、頑張るだけ。ただ、それだけだ。
****
昼休みになり、親から渡された野口さんで昼食を購入する為、購買へと向かう。鞄から財布を取り出そうとした時、話し声が聞こえて来る。
「おい、福田ぁ〜。メロンパン買って来いよ〜。超特急な。30秒で戻って来い」
「30秒って無理だよ……」
「ああ!? お前文句あんの?」
「い、いえ、ありません。行ってきます」
「くっくっく。お前、30秒って無茶だろ?」
「はっ、だからこそだろ? 戻って来れなかった罰として、また何かやらせりゃ良いからな」
「福田くん、可哀想ーー」
「なーにが可哀想だよ。お前だって楽しんでんじゃねえか」
「そんな事無いってばー。でも、まあ、いい足にはなるよね」
数人のクラスメイトに囲まれているのは福田隆史。小太りでオドオドしている、所謂いじめられっ子だ。ちなみにいじめられている理由は彼が読んでいた小説、つまりラノベを今彼を囲んでいた奴等が見てオタクだと判明したからだ。それ以来彼は標的になっている。
どうにかしてあげたいが、触らぬ神に祟りなしなので傍観を決め込んでいる。他の連中もそうだ。いや、四人だけは違う。
「おい」
「あん? おやおや〜生徒会長さんじゃないですかぁ?」
「貴様等、何をしていた!」
「はぁ? 別になーんにも?」
「嘘をつくな! 福田をパシリに使っていたでは無いか!」
「ああん? 俺たちが福田を虐めてるとでも言いたいのか?」
「前から何度も言ってるだろう!」
「はぁ〜〜。なら、福田が戻って来たら、いじめられてるのか? って聞きゃいいじゃねえか。そうしたらいじめかどうか分かるぜ?」
「貴様……!!」
「ダメだ、楓。分が悪い。今は福田が帰ってくるのを待とう」
「大輝……分かった」
生徒会長こと、緋村楓が怒りのままにいじめっ子達に詰め寄るのを止めたのは俺の嫌いな、いや、四人とも嫌いなリア充の桐谷大輝。そして、取り巻きの神田留美、清水沙羅。清水は幼馴染みで神田はお嬢様。マジで生まれてくる世界を間違えたんじゃないかと思う。
たまにNTRの妄想で桐谷大輝の取り巻きが全員居なくなる妄想をしている。我ながらキモいし、惨めな気持ちになる。ちなみにシチュエーションは緋村は用務員さんに、神田はホームレスに、そして幼馴染みの清水はDQNにだ。うむ、やはり気持ち悪いな。
妬ましいぃいい!!
あんな美少女に囲まれやがって!!
心の中で叫びハンカチを取り出し口に咥える仕草を頭の中でしてから、財布をケツポケットに入れて教室を出て行こうとしたら、丁度福田君が戻ってきた。
「か、買って……ハァハァ……来たよ……」
「おう。ごく……ん? おい、何で一つしか無いんだよ?」
「えっ? だって、数の指定とか無かったから……」
「はぁあああ? お前バカじゃねえのか!? 普通全員分の買って来るだろうが!」
「ひっ!」
「待て!」
「ああ? んだよ?」
「福田。君は彼等にいじめられてるのだろ?」
直球ストレートを投げた!!
しかし、福田は――
「え、えっと……あの……その」
いじめっ子の顔を伺い、返答に困っている。そして、彼が次にいった言葉は――
「ぼ、僕が自分から行ってるだけだから。そ、それにと、友達だし」
つまり、アレだ。変な事言ったら後で酷い目に合わされるからだろう。いじめっ子達がよくやる常套手段だ。それが怖くていじめられてる事を他人に言えない。
「友達がこんな事するわけないだろう?」
「ほ、放っといてくれよ……桐谷君には関係ないだろ」
「そりゃ関係無いけど見てられないよ」
「も、もう放っといてくれよ!!」
福田は桐谷を突き飛ばして、教室の外へと飛び出して行く。どこに行くかは見当がついている。うちの学校は屋上がいつも開いている。だから、簡単に屋上に行く事が出来る。だから、俺も天気が良い日には屋上で昼食を食べて昼寝をしている。
まあ、つまりだ。彼は屋上に逃げたのだ。だって、何度か彼が屋上で愚痴を言ってるのを耳にしたから。俺が昼寝をしていたら、何か呪詛のような声が聞こえてくるから覗いてみたら福田君だったし。
さて、俺は購買に行こう。
何か教室が騒がしいが気にしない。これ以上いても昼休みが無駄に終わるだけだ。俺は足早に購買へと向かって行く。適当にパンとジュースを購入してお釣りはお小遣いの足しに。
屋上へと上がり、いつもの特等席へと向かう。特等席と言っても貯水タンクのある場所だけど。そこでパンを食べ、ジュースを飲むのが俺の小さな幸せ。
そんな時、屋上の扉が開き数人の声が聞こえてくる。下を覗いてみると、どうやら先程のいじめっ子達だ。福田君を探しに来たのだろう。たまにここで殴られるのを見てるからな。
隠れていた福田君は見つかり、胸倉を掴まれると腹を殴られる。お腹を抱えて蹲る福田君を足蹴にして行く。見ていて気分の良いものではない。俺はパンをジュースで流し込むとイヤホンを耳に挿して音楽を聴く。
しばらくの間、音楽を聴き続けてスマホで時間を確認する。まだ、15分も残っているので、昼寝を続ける。下の様子は確認しようと思ったがやめておいた。
再び目を覚ましてスマホて時間を確認してみると、予鈴が鳴る時間だった。俺は起き上がり、梯子を降りていくと、屋上のど真ん中で寝転んでいる福田君を見つける。
話し掛けるのもなんなので、俺は扉を音が聞こえないように最小限の力で開けてから出て行く。教室に戻るといじめっ子達は楽しそうに駄弁っていた。リア充達はというと、同じように楽しく話していた。
結局、その程度の認識なのか。
まあ、所詮はその程度だろうな。
いじめた事もいじめられた事も無い奴にとっては……
開始のチャイムが鳴ると皆んな席に着く。教師が入ってきて号令をかけて、授業が始まる。
****
ようやく全ての授業が終わり、残るは帰りのHRを待つだけである。机に伏せて鉄人を待っていると、鉄人が教室に入って来る。そして、号令をかけてHRが始まる。
特に連絡事項とかも無いので、すぐにHRは終了した。再び号令と共に立ち上がる。その時、教室全体に異変が生じる。教室の床に六芒星が出現すると同時に怪しく輝き始めた。
教室全体がパニックに陥る中俺もパニクっていた。
おいおい、なんの冗談だよ!!
これって、アレですか!?
アレだよね!?
異世界召喚とかだよね!?
つまり、異世界へレッツゴー?
ふふふふふ、いやっふー!!
いや、でも、小説のような展開になるとは限らん!
やっぱ、やめやめ!!!!
あーれーーー!!
こうして俺たちは現実世界から姿を消した。残ったのはクラスメイト達のカバン類。怪しい光が収まり静寂となった教室は誰もいなかった。
改訂しました