謎の男
「ここは?」
目が覚めた。暗い。寒い。ここはどこ?リビングじゃない。
「天江?」
波期の声だ。
「波期!!ここ、どこなの?」
「わからない。私もさっき間が覚めたばかりなんだ」
波期はあたりを見回しながら言った。
「ちっ、見えない。かろうじて天江が見えるくらいだ」
私と波期の距離は、1メートルもなかった。それだけここは暗いのだ。私も、波期の顔が見えるので勢いっぱいだった。
「あれ?波期と、天江?」
この声は光の声だ!!声からしてさほど遠くない。近くに光がいる。
「どこだ?光」
波期は手を思いっきり伸ばした。私も手を思いっきり伸ばす。
「光、てをのばして!」
しばらく暗中模索が始まる。すると、何かが手に当たった。
「光!?」
私はその手が当たったところにすぐ駆け寄る。
「天江ーー!!」
光は抱きついてきた。私は受け止めた。
「会えてよかった!一人でさびしかった―」
光は、泣いているようだった。その声が大きかったせいなのか、周りでも「光!?」という声が上がった。そして、声を頼りに二人が来た。
「拓納!冬樹!」
「よかった!会えた!」
二人も、胸をなでおろしていた。
「よかったな、全員会えた」
波期は、うんっとうなずく。
「皆様、ようこそ」
機会を通した声が鳴り響く。はっとして振り向くと、大きなモニターが浮かび上がった。暗闇に浮かぶモニターはとても怖かった。
「私は、Mrダイ。君たちはこれから、RPGをプレイしてもらう。といっても、ただ普通にプレイってだけじゃあ、つまらない。だから、現実性のあるRPGを君たちに実際にプレイしてもらう」
Mrダイと名乗るのは男だろう。口調から推測できる。そして、モニターには背広を着た、うさぎさんの仮面で顔を隠した男の姿が映し出された。私は思わず、ごくりと生唾を飲んだ。この暗闇で、こんな気味の悪いものを見たのは初めてであった。
「実際にプレイってどういうことだ?」
波期が質問した。私は、「下手に言わない方がよい」と言おうとしたが、言えなかった。
「いい質問だ。実際にプレイというのは、君たちにこのRPGの登場人物になってもらうということだ。つまり、実際にこのゲームを君たちがプレイする。普段のゲームみたいに操作するユーザーはいない。君たちがそのユーザーだ。わかったか」
どういうことだ。私たちが登場する人物でユーザーって。
「なんで私たちがそれをやんなきゃいけないの?」
光が言った。確かにそうだ。私たちがやる理由なんてどこにもない。
「ただの気まぐれさ」
Mrダイと名乗る男は、サラッと言った。
「なんだそれ?」
冬樹は、ふざけているMrダイに、嫌気がさしたのか強い口調で言う。
「ま、とりあえずここに来たからには私の作ったゲームをプレイしてもらおう。プレイといって簡単さ。ただ闘えばいいだけだ。戦って、勝ち抜けばそれでクリアさ。それを君たちに実際にプレイしてもらう」
「つまり、俺たちが肌でプレイするっていう意味だな」
拓納が言った。声が少し震えている。
「そう」
Mrダイは楽しそうに言う。なんていう奴だ。
「では、早速やってもらおう」
ボタンを押すような、〔ポチ〕という音がした。そして、場所が変わった。どこかの秘密基地のようなところだった。
シュイン!!
音とともに、空中に武器が現れる。
「これ」
よくゲームに出てくる武器。これといっても、特徴がない。盾と、剣。
「これで、やれということか」
「でも、怖いよ。ほんとにわたしたち戦うの?」
光が言った。
「戦うんだろう。武器も出ている」
「あの」
後ろから話しかけられた。
「誰?」
「あ、螺見澄といいます。私も、あなたたちと状況は一緒です。その、ご一緒してもいいですか」
澄という子は、私たちと同じくらいの年齢だと思われる。気の弱そうな子だ。
「別にいけど」
拓納がそっけなく言った。
「あ、ありがとう」
澄の表情がパッと明るくなった。
「あの、僕たちもいいですか」
つぎは、男の子とあんなの子の二人組。こちらも同じくらいの歳だろう。
「いいよ」
「ありがと!」
私たちは、ともに武器を取った。盾と剣は一人一つずつ。他は、特殊なアイテムだろう。それも一人ずつ取った。
ウイ~ン
ドアが開いた。
「行こう!」
私たちは、この未知なるRPGをスタートさせたのだった。