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自分の初恋を思い出して書きました。
カタツムリ速度で進む恋路になりそうですが、気長にお付き合い下さい。
2月14日午後5時50分
どうしよう、心臓が過労で壊れてしまうのではないかと思うくらい早鐘を打っている。
少し早く着いた。彼が来るまでまだ10分ある。
バレンタインのチョコレートを渡したいと言ってこの駅で待ち合わせしたのだが、千鶴さんが来る前に緊張しすぎで死んでいるかもしれない。
3年間思い続けて、今日やっと告白する決心をした。
小学校卒業以来、不定期にメールをしたりお互いの文化祭に行ったり、かろうじて連絡を繋ぎ止めてきた。小学校は違ったけれど中学受験のために通っていた塾で知り合い、私は次第に彼が好きになった。
もちろん片思いで。何気なく耳に入ってきた、千鶴さんは自分の小学校で好きな子がいる、という話を聞いて、私はその時はあきらめた。
しかし、受験後、塾で仲の良かった友達10人ほどに送った手紙が、私を引っ張り立ちあがらせたのだ。
一緒に遊びにも行って、いつも楽しくおしゃべりしていたのに、白状にも送ったうち9枚に返事は無かった。ただ1枚。1枚だけ・・・・。
しかしその1通は卒業の寂しさも吹き飛ぶほど私に喜びをもたらした。
「冬原千鶴様」
淡い期待を抱いて送った千鶴さんへの手紙。
むしろ千鶴さんだけ返事をくれないのではないか、という予想だったのに、それは最高の形で裏切られた。
「雨井めい子様」
几帳面そうな整った字で、私の名前が書いてある。里香ちゃんかな。などと思いつつ、封筒を裏返して差出人を確かめた私は、そのまましばらく玄関ポストの前で固まった。
「冬原、千鶴?」
なんと、1通だけ来た返事は千鶴さんからだった。
次の瞬間私は家に入って階段を駆け上がり、ただいまも言わずに自室へ直行した。
「千鶴さん?!なんで?!」
私が手紙を出したからだ、なんていう冷静な考えが浮かぶはずもなくて、はやる気持ちを抑えハサミで綺麗に封筒を切り開く。
『雨井へ』
雨井、あまい、アマイ、甘い。自分の名字はこんなに素晴らしい響きをもっているのか。
鉛筆で書かれたその名前が、嬉しくて嬉しくて、涙が出てきた。
『返事遅れてごめん。
・・・・・・・・・・・
またみんなで会おうな。』
今でも大切にしまってある、1枚の便せん。
もちろん内容はなんのことはない、お互いの中学入試合格を祝う言葉と、簡単な近況報告だった。しかし私を幸せで満たすには充分すぎるくらい。
その時のことを思いだして、私は一人笑いをこらえた。
あれから3年、切れ切れに、今でもお友達として連絡をとっている。
大抵は私からだけど。
そして今日、ついに私は告白する決心をした。
バレンタインに千鶴さんへなにかあげるなんて初めてだ。何年もたっていきなりこんなことして、変に思っているだろうか。気持ちを気付かれてしまっただろうか。
今は5時58分。千鶴さんはまだ来ない。