第8話
大学の同級生、日枝薫をその場に放置しスーパーに入ると、そこには買い物客に混ざってオークがわらわらと
遠めに観察している限り、オークは商品棚の間をまるで木々の間を潜り抜けるようにうろちょろしている
そして人間はお互い認識もしてないし、物理的にも不干渉ですり抜けているようだ
だが神社にいたキンググローブは周囲の植物を揺らしていた
つまり人間以外のものには影響を与えうる
もたもたして店内を破壊しだしたら大変だ
しかしざっと数をカウントした感じ(索敵レーダー)、20体ぐらいはいそうである
しかも散らばって移動しているので一網打尽にすることはできない
こちらの魔法がこの世界に干渉できることは今までの経験でわかってるので、ここで広範囲魔法、ましてや地震や津波や隕石みたいな大掛かりなことは出来ない
ふつうに店が壊れるし、なんなら町が壊れる
よし、ここはマリチに倣って範囲睡眠魔法で寝かせて視覚外から各個撃破だ
「すいみ」
「急に走り出すから何事かと」
背後から少し甲高い声が振ってきた
「うおおおお」
「ええ!?」
動揺して途中で声が出てしまい、睡眠魔法は発動しなかった
「日枝さん?」
「は、はい」
「後で話すからマジでちょっとだけ外に出てもらってていい?」
「ええーーー何それ」
一瞬思案したようだが、彼女は渋々うなずいた
そして一瞬だけ振り返ったのち外に出ていってくれる
さあここからは速攻だ
というか、危ないとこだった
彼女の不意の声かけで一旦冷静になったのは結果的に良かった
敵対行動をすると実体化するんだから、睡眠魔法も例外ではない
他の客とか店員さんにバレて大事になるとこだった
となるととる行動は一つ。モンスターの知覚範囲ぎりぎりから単体魔法で一人ずつ倒すしかない
しかも他のやつに絡まれないよう迅速に
ソーファンの世界には8つの属性がある
火、氷、風、土、雷、水そして光と闇
6つの属性は現実世界の陰陽五行説のように相克関係が成り立つ
すなわち水は火に強く、火は氷に強い、などなど
これらはそれぞれの力をつかさどる精霊たちの力を使うので精霊魔法と呼ばれる
そして光と闇の属性はそれらとは別にお互いが拮抗した属性であり
こちらはそれぞれ神聖魔法、暗黒魔法と呼ばれる
そしてそれぞれの属性にその力を集めて放つ攻撃魔法があるのだが
精霊魔法はすべて自然にある力を使うので自然現象として店に被害が出る
火だと火事になるし、水だと水害だし、土なんてほぼ物理で落石だ
あえていうなら氷や雷はまだマシに思えるが、はみ出たエネルギーでいろいろと商品に影響は出そうだ
ならば使うは光と闇
だがここには制約があって、なぜか光と闇の魔法は癖のあるものが多い
リキャスト(再詠唱時間)が長かったり、消費魔力量が多い等
即死暗黒魔法などは全MPを一撃で消費する
そうでないものだと、じわじわ蝕む系の魔法が多くこの場には適さない
であればこの場で使うべきは神聖魔法
一番使い勝手の良さそうなものは光の力を集めてぶつける『聖球』の魔法だ
低レベルの者であれば消費魔力も多いしリキャストも長く連発はできないが、今のレベルであればそこは解決できている
オークの知覚は視覚である。つまり前に立たなければ知覚されるリスクは少ない
少しずつ移動しながら知覚範囲ぎりぎりの位置に行き、後ろを向いている敵をターゲッティングする
そして
「ホーリー」
ドンッ
白く輝く玉が集約し、オークの一体が光となって砕け散った
本来のリキャストは1分だが、そこをスキルや装備で短縮しており次の詠唱までは10秒
移動しながら各個撃破するには十分である
下位のオークたちの知能は低い
うろうろしながら時折商品棚にぶつかり商品を落とす者も出だしている
同種族の敵を攻撃すると近くにいる敵にもリンクされて襲ってくる仕様があるが、一撃で倒した場合はその限りではない
神聖魔法を放ち続け、ようやく最後の一体を光に変えた
レーダーで敵のいないことを確認して慌てて外に出ると、日枝薫は腕を組んでしかめ面で待っていた
5分ほどの時間ではあるがちゃんと外で待っていたとは律儀な女性である
「お待たせしました」
俺を見て腕をほどくと腰に手を当て、ズイっとこちらに身を乗り出して言った
すこし上体を引きながら俺はおそるおそる聞く
「えーっとどこから話せばいいかな」
「なんでお宮に行ったのに行ってないって言ったのか、からかなー」
やっぱそこだよな
別に全部言っていいんだけど、どう考えても信じてもらえっこないし説明が難しいんだよなあ
どうせ細かく説明しても無駄だろうし、全部言ってしまおう
「日枝さんさ。ソーマファンタジーって知ってる?」
「え?急に何の話?」
さすがに面食らった表情だ
だが俺はかまわず話を続ける
「ゲーマーならだれでも知ってる有名なオンラインゲームなんだけどね」
「知識としては知ってるよ。かなり長く続いている多人数同時参加型オンラインRPG」
「へえ。知識として知ってるだけでも意外だった」
「あらそう?勉強ばっかりやってるイメージだった?」
「いやまあそうでもないけど、ゲームに詳しいイメージはなかった」
「そう。それで、そのソーファンがどうしたの?」
いまソーファンって言ったよな?
が、その思考はすぐに遮られ、俺は1つ忘れてたことを思い出した
今、突如目に前に現れた光景によって
日枝さんの背後にぼんやりと揺らめくような闇が浮かび上がり、そこに
「”全身皮剥狂”ザクトズルト……」
そいつは俺の正面に立っている日枝さんの後ろに現れた
しかも実体化した状態で
そう、おそらく知覚範囲内で正面に俺がいるためだろう
さすがにやばい
背中にかすかに冷たいものを感じ
俺は右手の二本の指を静かに伸ばして、敵を指定した
「え、なに。なにその動き!」
「ゴァァアアア!!」
「デス(即死魔法)」
敵の唸り声で彼女が振り返るのと、俺の魔法が発動するのは同時だった
一瞬にして闇に包まれ、そして光となって消えていくオーク
そしてその光景を目を見開いて見つめていた彼女
「な…今の…なに…?」
「話せば長くなるんですが」
声にならない声を上げる彼女と
真顔のまま立ち尽くす俺
「オーク……?」
「えっ」
彼女の発言に俺は耳を疑う
そういえばさっきソーマファンタジーのことソーファンて略したしな?
「実は私、ソーファンプレイヤーだったりする」




