婚約破棄の現場で「貴族らしからぬ素直さ」と殿下に絶賛されたので、ぶっちゃけストーカーされて大迷惑だった件を素直にぶちまけてみた
久々の投稿でしたが、
6/1 日間総合短編10位 / 恋愛短編8位ランクイン!
ついにトップ10入りを果たしました!たくさんの応援、本当に本当にありがとうございます!!
学園の緑豊かな裏庭に、第一王子ジークフリートの傲慢な声が響き渡る。
「――そこまでだ、オリヴィア! 貴様の悪事は知っている。
今日限りで貴様との婚約を破棄し、私はアリアと新たに婚約を結ぶぞ!」
突きつけられた指先。
しかし、公爵令嬢オリヴィアは眉一つ動かさなかった。その冷徹な美貌には、むしろ哀れみすら浮かんでいる。
「貴様がこのアリアに、貴族らしくないと嫌がらせを行ってきたのはわかっている。心に素直な愛らしい少女に嫉妬するなど、なんて汚いやつだ。
そんな女は次期王となるこの私にはふさわしくない!!」
オリヴィアは心の中で冷笑した。
王子の背後で俯いている男爵令嬢を利用し、自分を貶めようという算段なのだろうが、あまりにも杜撰だ。
(もういいでしょう。これだけ人目もありますし潮時ですわ)
オリヴィアは扇を優雅に広げ、この婚約者以外の令嬢を侍らせる哀れな男を社会的に、完膚なきまでに叩きのめすための反論を口にしようとした。
――その、瞬間のことだった。
「あのぉ……殿下?」
鈴を転がすような、あまりにも場違いで、空気の読めていない純粋な声が割り込んだ。
王子の背後からおずおずと顔を出したのは、愛らしい男爵令嬢、アリアだった。
ジークフリートは「どうしたんだい、アリア?」と、これ以上ないほど優しく微笑みかける。
「怖がらなくていい。これからは私が、君をいじめた女に――」
「ええと、大変聞き捨てならないお話でしたので、不思議に思って。
……殿下、もしかして考えるの苦手なのですか?」
「…………え?」
王子の笑顔がピキリと固まった。
これから完璧な反論を展開しようとしていたオリヴィアすらも、思わず目を見開く。
アリアは、晴れた日のような澄んだ瞳で、小首を傾げていた。
そこに悪意や計算は一切ない。本当に、純粋に「疑問」だから訊ねた、という顔だ。
「だって、すごーくおかしいなぁと思うんです。
殿下は先ほど、私が素直と仰いましたよね?それってつまり『貴族らしくない素直な表現しかできない』ということで宜しかったですか?」
「あ、ああ、言ったが……それは、君の魅力という意味で、私は別に……」
「はい!ですから私、思ったことを素直に口にさせていただきますね。
……私がオリヴィア様を差し置いて殿下の婚約者におさまるなんて、そんなの5歳の子でも無理ってわかりますよ?」
「なっ……」
「まず、公爵家との婚約を殿下の独断で破棄したら、殿下は間違いなく王位継承権を剥奪されてニートになりますよね?」
「にーと」
「はい、ニートです。もしかすると温情が与えられてどこかの爵位を…となるかもしれませんが、そんな夢物語は置いときましょう。
では、そんなニートな元王子を、我が男爵家が引き取るメリットがどこにあるのでしょうか。
我が家は一応貴族ですが大変貧乏ですので、たとえ婿入りしたとしても平民に交ざってせっせと働いて頂くしかありません。18年間至れり尽くせりな王子ライフを堪能した殿下にそれができますか?小麦の収穫の時期はご存知ですか?
という事で、うちは戦力にならない人を養う余裕はありませんわ」
悪気ゼロの、ナイフのような正論。
アリアは「と、私は思うのですが」と同意を求めるようにオリヴィアに微笑みかけ、さらに言葉を続ける。
「それに私、オリヴィア様からいじめられた事はないです。確かにオリヴィア様のお友達にぶつかられたり、陰でこそこそ笑われたりはしましたが……ただそれだけです。
そんな『嫌がらせ』と表現するのも可愛いことをされたって、実害なんてこれっぽっちもないですし、痛くも痒くもありません」
卵を取りに行って鶏に突かれる方が痛いです、と笑う。
「ア、アリア、君は騙されているんだ! 彼女は裏で――」
「裏も何も、悪いのは殿下ですよね?」
アリアはきょとんとした顔で、ジークフリートの言葉を遮った。
「私が『ご用が無いならお引き取りください』『もう来ないでください』と、何度も何度もお伝えしていたのに、殿下は毎日毎日、私について回られました。オリヴィア様を心配してお友達が怒るのは当たり前です。友達の婚約者が他の女にくっついて回ってたら、誰だって嫌ですもの」
「そ、それは君が謙虚なだけで…!?」
「いいえ。私も学園で働き者の婿を探さないといけなかったので、殿下がくっついて来るのは、ぶっちゃけ、もの凄く迷惑でしたの」
一点の曇りもない、たんぽぽのようにふんわりとした愛らしい笑顔だった。
だからこそ、その言葉の破壊力は凄まじかった。
「私、田舎貴族なため素直な表現しかできませんので、お世辞が言えなくてごめんなさい。
お話は以上ですので、私は教室に戻りますね。ごきげんよう!」
アリアは可憐に一礼すると、ふんふんと鼻歌でも歌い出しそうな足取りで、軽やかに裏庭を去っていった。
静寂が訪れる。
オリヴィアは、言葉を失っていた。
自分が用意していた法的な正論や、政治的な駆け引きなど、あの男爵令嬢の「天然ストレート」の前には何の役にも立たなかった。
視線を落とせば、すべてのプライドを粉々に打ち砕かれたジークフリート王子が、魂の抜けた顔で地面に膝をついている。
(……あら。私、何もしてないわね?)
オリヴィアは、そっと扇で口元を隠した。
なんだか自分がザマァするよりも、ずっと恐ろしいものを見てしまった気がする。
「……まぁ、おいたわしや、殿下。お可哀想に」
くすくすと笑いながら、哀れな元・婚約者をその場に残して優雅に立ち去るのだった。
悪意なんてありません。素直なだけです。
誤字報告ありがとうございます!




