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放課後デート ③


 割って入ってくれた吹雪ちゃんの声に、少し顔を上げられた。

 背後に立たれて以降、三人に対してずっと背を向けたままだった吹雪ちゃんが席を立って振り向くと、三人は揃って動揺しだした。


「うっ、えっ? なにこのイケメン」

「っていうか、虎沢が男と?」


 吹雪ちゃんは静かながらも怒っている表情をしてるんだけど、三人が動揺した理由はそっちなんだねー。

 顔つきはイケメンだし、制服はズボンだし、体つきもスレンダーだから、パッと見だと吹雪ちゃんを男の人と勘違いしちゃうのも仕方ないは思う。

 私だって匂いで気づいていなければ、勘違いしていたはずだからねー。


「僕の大事な友人に随分と酷いことを言ってくれるね。僕も彼女の体質のことは知っているし、それを快く思わない人がいるのも致し方ないとは思うけど、少々度を過ぎていると自覚した方がいいよ」

「「「うっ」」」


 声や態度には出さないようにしているけど、明らかに吹雪ちゃんは怒っている。

 その迫力に三人が押されて、何も言い返せていない。

 これで少し気持ちが落ち着けたよー。

 でも、また誰かに守って貰っちゃったなー。


「ん? あれ? 待って、こいつ本当に男? 女じゃない?」

「言われてみれば……イケメンだけど女じゃん」

「なによ、驚かせないでよね」


 だよね、じっくり見れば気づくよねー。

 吹雪ちゃんは怒り続けているのに、その吹雪ちゃんが女の子だと分かって三人が落ち着いちゃったよー。


「はっはーん、そういうことか。虎沢、あんたこういうのが好みなんだね。男が嫌いってだけで、こういう男っぽいイケメン女が趣味なのね」

「「あー、あるほど」」


 勝手な思い違いをした三人から、弱点を見つけたって感じの嫌らしい目を向けられた。

 違うもん、そういうんじゃないもん。

 だけど無理、言いたいけど怖くて声に出せない。


「君達はさっきからなんなんだい。確かに僕はこういう見た目と喋り方と服装をしているから、男装していると言われても致し方ないとは思うよ。だけど、それが彼女の好みだと勝手に決めつけるのはいただけないね。それに僕は先ほど、詩織のことを友人と言ったじゃないか」


 吹雪ちゃんが睨みつけて強い口調で言っても、三人はもう怯む様子は見せない。

 鼻で笑うだけで反論はせず、ただニヤニヤ笑うだけ。

 あの対応は中学の時と同じだねー。

 自分達に都合の悪いことは聞き流して、反論できないのに余裕がある素振りをする。

 そして何を言われても、あくまで自分達が優位のような態度を取り続けることで、こっちが諦めるのを待つ。

 あの三人はそれで勝った気になって、優越感に浸りたいだけ。

 とってもつまらなくてくだらない優越感なのに、三人は負けるのが嫌でそれを求めているんだよねー。


「なんだい、君達のその表情は。何も言い返さず、そんな笑みを浮かべ続けてこっちが折れるのを待っているのかい?」


 向こうの思惑を吹雪ちゃんがあっさり看破しちゃったから、三人の目元がピクリと動いて口元もヒクついている。

 今まで小陽ちゃん達は、分かっていても呆れてその場を離れるだけだったから、こうして正面から反論された経験は無いんだろうねー。


「その様子だと図星かい? 自分より弱い相手を言葉のナイフで傷つけて、強い相手には折れるのを待って勝った気になる。そうして得られるつまらない優越感に浸りたいだけの君達に、大事な友人を傷つけられたと思うと腹が立つよ」


 あ、あれー? なんだか吹雪ちゃんの方がヒートアップしているような?

 それぐらい私のことを大事な友達って思ってくれているのは嬉しいけど、ここはフードコートだから大勢の目があるんだよー?

 周囲の目が集まってきているから、少し落ち着いてほしいなー。


「あ、あの、吹雪ちゃん」

「大丈夫だよ、詩織。友人として僕が君を彼女達から守るから」


 いや、そうじゃなくて周りを見て欲しいのー。

 こっちを見ている人達が、喧嘩じゃないかとか言っているし、中にはスマホで動画を撮ろうとしている人もいる。

 ギリギリにこやかだった吹雪ちゃんの表情が険しいものになったし、このまま本当に喧嘩になったら不味いよー。

 とにかく止めなく――。


「よせ、吹雪。人前だぞ」


 体を張ってでも吹雪ちゃんを止めようとしたら、注文の品を取りに行ったゆーき君が、頼んだ品を載せたトレイを手に戻ってきた。

 その一声に吹雪ちゃんはハッとして、周囲を見回して険しい表情を解いてくれた。

 ふー、危なかったねー。


「それで詩織、吹雪。これはどういう状況なんだ?」


 テーブルにトレイを置いたゆーき君が、三人へ軽く睨みを利かせた。

 いかにも怒っているゆーき君の表情に見惚れて、状況が許してくれるのなら、私のために怒ってくれているんだー、って喜んで密着していたよー。


「えっ、今度こそ本当に男?」

「いやいや、どうせこいつもそっちのと同じで男装女子……じゃない⁉」

「虎沢が本当の男と一緒にいるの? なんで?」


 三人が戸惑っていると、吹雪ちゃんがゆーき君の傍に寄って小声で話しかけている。

 たぶん、ここまでの出来事を伝えているんだろうねー。

 少しずつ険しくなっていくゆーき君の表情から、さらに怒ってくれているのが分かる。

 私のために怒ってくれているのは嬉しいと思う反面、ゆーき君や吹雪ちゃんが怒ってくれているのに、何もできていない自分が情けないよー。


「なるほど、分かった。それなら吹雪が、冷静さを失いかけていたのも頷けるな」

「そう言ってもらえると助かるよ。大事な友人を傷つけられて黙っていられるほど、僕は大人じゃないからね」

「同感だ。むしろこんな状況で黙っているくらいなら、大人でなくていい」


 わー、二人とも怒りで目が据わって、ゆーき君の背後には荒ぶる稲妻が降り注いで、吹雪ちゃんの背後には名前通りの極寒の吹雪が吹き荒れている光景が見えるよー。

 勿論、本当にそんなのがあるわけじゃなくて、雰囲気でそう見えるだけなんだけど、それぐらい怒っている二人を前にした三人は、完全に腰が引けていて余裕の笑みを見せることもできていないねー。


「さてと、君達。できれば穏便にことを済ませたいから、帰れとは言わないから離れた席に着いて、これ以上は詩織に絡まないでもらえるかな。こっちもそっちへ干渉しないようにするからさ」


 にっこり笑うゆーき君だけど、怒りを隠せなくてやたら迫力があるから、三人は気圧されている。

 だけど三人はこの場から逃げず、睨み返してきたよー。


「な、なんでアンタにそんなこと言われなくちゃならないのよ」

「そうよ。そもそもアンタ、なんなのよ!」

「そこの男嫌いのゲロ女の彼氏のはずがないし、そっちの男みたいな方の彼氏なんじゃないの。どっちにしたって趣味悪いわね」


 またそうやって、一方的に決めつけてー。

 しかも私の呼び方が、ゲロ女に悪化している。

 こんな人前でそんなことを言われるのは、凄く恥ずかしいし悲しいよー。


「絡まないでほしいと言ったのが、聞こえなかったのかな? あと、詩織は気分が悪くなるほど男性特有の匂いが苦手というだけで、男が嫌いというわけじゃない。話を聞くに君達は詩織と知らない仲ではないみたいだし、それぐらい把握しているんだろう? それとも詩織を貶めるために、わざと言っているのか?」


 表向きはにこやかだったゆーき君の表情が、だんだんと険しくなっていく。

 そのせいか、迫力が増してきた気がして、三人の表情は完全に強張っているよー。

 吹雪ちゃんもまだ表情が険しくなっていて、三人を睨んでいる。

 ……ゆーき君と吹雪ちゃんがあんなに怒ってくれているのに、当事者の自分が何もできていないなんて、情けないよねー。

 私だって!


「う、うるさいわね。だいたい、アンタだってその女に匂いで嫌がられて――」

「そんなことない!」


 頑張って覚悟を決めて声を上げながら立って、ゆーき君の腕にしがみつく。

 あー、良い香りが漂ってきて、嫌な気分になって沈んでいた気持ちが癒されるよー。

 緊迫している場面なのに、つい表情筋が緩んじゃうねー。

 このままクンスハしてゆーき君の匂いに浸りたいけど、声を上げた以上はあの三人に対処しないとねー。

 そう思って三人を見ると、すっごいびっくりした表情で口をパクパクしている。

 私がゆーき君にくっ付いて表情を緩めているのが、信じられないんだねー。

 とはいえ現実で真実で事実だから、ちゃんと伝えよー。


「見ての通りだよー。男の人の匂いは変わらず苦手だけどー、ゆーき君の匂いだけは平気なんだよー」

「詩織、さっきと今の表情と声の差がありすぎるぞ」

「さっきは一大決心、って感じの表情と声だったのに、今はトロトロに蕩けた表情と声だから、なんか力が抜けちゃうよ」


 ゆーき君と吹雪ちゃんの言うことは分かるよー。

 でもゆーき君の匂いを嗅いでいるとこうなっちゃうんだから、仕方ないよねー。

 それにね、こうしていると不思議と気持ちが安らいで、三人を前にしてから抱いていた不安が弱まっているんだー。

 今なら覚悟を決めなくても、反論できるよー。

 やっぱりゆーき君は、私にとってすっごい大事な人なんだねー。


「な、なんで、ゲロ女が男にくっ付いて平気でいるの?」

「えっ、どういうこと。中学の時は、男が近づいただけで嫌そうな顔してたのに」

「まさかあんた、中学の時は周りから同情されたくて、嘘の演技をしていたの⁉」


 えー、そう捉えちゃうのー?

 信じられないのは分かるけどさー。


「嘘でも演技でもないよー。さっきも言ったけど、ゆーき君の匂いだけ大丈夫なのー。だいたい、嘘をついたり演技をしたりするなら、もっとマシな方法をとるよー。皆が優しいから良かったけど、普通は誰も近づかないし、悪い話の方が広まっちゃうよねー」

「「「うっ……」」」


 そう、私はたまたま周りに恵まれていただけ。

 男の人が苦手っていうだけならまだしも、匂いが苦手でしかも吐いちゃっていたら、普通は人が寄り付かなくなって悪い話の方が広がっちゃう。

 周りの同情が欲しいんだとしても、そんな方法はリスクが有りすぎるっていうのは、三人も分かっているみたいだねー。


「だから全部本当だよー。私の嗅覚のことも、ゆーき君だけは大丈夫なこともねー」


 これで論破! とはいかないと思うけど、メリットよりデメリットの方が大きかった可能性があるのは示せたから、なんとかなるかなー?


「だ、だからなによ! アンタがゲロ女なのは本当のことでしょう!」


 あー、ならなかったかー。

 だけど反論らしい反論になっていないから、虚勢を張っているのが分かるよー。

 これが悪あがきって行為かなー?


「確かにそのことは事実だろうね。だからといって、それで相手を貶めていい権利は君達には無いよ。というか、誰にも無いよ」

「そもそも人の心の傷を平気で広げようとしてくる、その性根が俺は許せないな」

「「「うぅ……!」」」


 ここで吹雪ちゃんとゆーき君が援護射撃してくれた。

 これで決まるかな?


「だ、黙れえぇぇっ!」


 えっ、ここで実力行使⁉

 一人が激高した様子で手を振り上げて、平手が私へ向けて振り下ろされる。

 まさかそんなことをするとは思わなかったから、思わず硬直しちゃって動けないでいると、ゆーき君がその子の腕を片手で受け止めてくれた。


「邪魔しないで!」

「いい加減に引いたらどうだ? 炎上しても、知らないぞ」

「はぁっ? 炎上って――」


 そこでハッとして手を引いたその子と、他の二人が周囲を見回す。

 三人にはこのフードコートにいる人達の視線が集中していて、中にはスマホをこっちへ向けている人もいる。

 私を貶めるのと、ゆーき君と吹雪ちゃんからの反撃に熱くなって気づかなかったようだけど、とっくの昔にこうなっていたよー。

 もしもここまでのやり取りがネットに流れたら、発言内容や態度からして立場が不味くなるのは向こうだから、三人は顔が青ざめている。


「こういう状況になっていることだし、そろそろ引いてくれないかい?」

「もう手遅れかもしれないがな」


 まだ若干の怒気が見える吹雪ちゃんの提案に、ゆーき君が手遅れかもしれないって言うけど、その通りだと思うよー。

 今の時代はこういうのが出回るの、速いからねー。

 三人からは親の仇を見るような目を向けられているけど、自業自得だからねー。


「できれば今後は遭遇しても、不干渉でいてくれると嬉しいよー。私も、あなた達に関わろうとしないからさー」

「っ⁉ このっ!」

「ちょっ、やめなよ!」

「これ以上はマジでヤバいって!」


 また実力行使に出ようと手を振り上げようとした子を、他の二人が抑えて宥めた。

 その子はまた周囲を見ると悔しそうな表情でこっちを睨むと、抑えている二人の手を振り払って踵を返して行っちゃった。

 残った二人もこっちを気にしながら足早に去って行ったから、ようやく落ち着けるよー。

 ホッとしたら力が抜けちゃって、しがみついているゆーき君へもたれかかる。


「おい、大丈夫か?」


 咄嗟に支えてくれたゆーき君の優しさが嬉しい。


「あははー。へーきだよー。ちょっと力が抜けちゃっただけー」


 あの三人とのやり取りには悪い記憶しかなかったけど、今日のこれでちょっとは克服できたかなー。

 だけど今日のこれは、心配そうに「大丈夫?」って声を掛けてくれている吹雪ちゃんと、ゆっくり椅子に座らせてくれて持ってきた飲み物を薦めてくれるゆーき君、この二人がいてくれていたこそだと思う。

 私一人だったら、たぶん何も言えずに終わっちゃっていたよー。


「ゆーき君、吹雪ちゃん。ありがとー」

「「?」」


 なんでお礼を言われたのか分からず、ゆーき君も吹雪ちゃんも首を傾げた。


「ああ、別に気にしなくていいよ。友人として、助けるのは当然じゃないか」

「詩織には振り回されているけど、あの状況を放っておくほど薄情なつもりは無いぞ」


 二人は私を助けてくれたことへのお礼と思ったんだねー。

 私にあの三人へ立ち向かう勇気をくれたことへのお礼だったんけど、半分くらいは正解だからいいかなー。

 さーて、邪魔されちゃった分、ここからは楽しもうかー。

 そこからは三人で楽しく過ごすことができたんだけど、夜に小陽ちゃんから連絡が届いて、あの時の様子を撮った動画で流出してあの三人が炎上しているのを教えてもらった。

 私達の方は特別何かしたってわけじゃないから、あまり大きくは扱われていなかった。

 せいぜい、吹雪ちゃんの見た目についてとか、ゆーき君が平手を防いだことへの称賛とか、緊迫した場面でゆーき君の匂いを嗅いで表情を緩めた私へツッコミとか、私に密着されたゆーき君への軽い嫉妬とか、そんなぐらいだねー。

 あの三人がこれからどうなるかは分からないけど、これは私達も良くも悪くも少し注目されちゃうかな?

 そのことについてゆーき君と吹雪ちゃんとメッセージでやり取りして、なるようにしかならないって結論に落ち着いて、できれば面倒事になりませんようにって願った。

 そんな願いが通じたのか運が良いのか、気づかわれたり小声で何か噂されたりするくらいで、特に変なことはなかったよー。

 はー、良かったー。


「まさか……この状況とあいつらの炎上って……」


 どうしたの、ゆーき君。

 なんで怪訝な表情で、やりきった感にあふれた表情の小陽ちゃんを見ているの?


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