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放課後デート ②


「ねーねー、早く行こうー」

「そうだね、詩織さん。さあ悠希君、行こうか」

「……分かった」


 思わぬ形での合流となった吹雪を加え、大河と藤井と別れて三人で駅前のショッピングモールへ向けて歩き出す。

 両腕をそれぞれ詩織と吹雪に組まれて周囲からメッチャ見られているが、頑張って気にしないようにする。


「悠希! 明日詳しく説明しろよ!」


 後ろから大河の叫びが聞こえたのも、気にしないことにした。

 そもそも俺達の関係が特殊で、簡単に人へ話せるものじゃない。

 藤井達、【詩織守護女子団】が把握済みなのはスルーしよう。


「明日。どう説明したものか……」

「ありのまま全部喋ればいいんじゃないかなー」

「だけど僕達の関係は一般的とは言い難いから、どう反応されるか分からないよ?」


 学校が違う吹雪はともかく、何から何まで全部喋ったら俺と詩織にはどんな視線が向けられることか。

 【詩織守護女子団】が陰ながらフォローしてくれたとしても、一悶着ありそうだ。

 特に大河なんて、絶対に騒ぐに決まっている。


「今から気が重いよ……」

「まあまあ、今は私達とのデートを楽しんで、明日のことは明日考えようよー」


 それは面倒事を後回しにしてしまう、駄目な人の考え方じゃないのか?

 あいにくと、俺はそういう風には考えられないよ。


「頑張れ、悠希君」


 違う学校だからって、イケメンスマイルで他人事のように言ってサムズアップする吹雪が少しムカつく。

 吹雪だって当事者だろうが。

 お前の学校でも暴露してやろうか、俺達の関係を。


「大丈夫だよー。なにかあっても、私と吹雪さんは味方だからねー」


 時と場合によってはその言葉がとても心強いが、明日のことを考えると全く励ましになっていない。


「なんなら私が、明日皆に説明しようかー? なんだかんだあって、ゆーき君のハーレムを作ることになったー。ってねー」

「それだと俺主導で作ることになったように聞こえるから、もう少し言い方を考えてくれ」


 共有を提案して吹雪を唆して実行に移したのは詩織であって、決して俺ではない。

 そこのところをしっかり説明してもらわないと、いらん誤解を招くことになる。


「じゃー、ゆーき君のためにハーレムを作ろうとしているんだー。て言えばいいかー」

「それもそれで別の誤解が生じそうだから、やめてくれ!」

「こればかりは、悠希君がしっかり説明するしかなさそうだね」


 もう、そうするしかないな。

 詩織に任せたら、あらぬ噂が乱立してその対処に追われ、下手をすれば生徒指導室に呼ばれかねない。


「えー。間違っていないのになー」

「正しいことでも伝え方を間違えれば、誤解を生むんだ」

「うー。作文とか苦手だから、そういうのを考えるのはいやー」


 作文の得手不得手は関係あるか?

 全く無関係とは言い難いかもしれないが、正直微妙なところだと思う。


「まあまあ、今は三人での時間を楽しもうじゃないか」


 左腕を組んでいる吹雪はイケメンスマイルを浮かべてそう告げ、「今日もこの腕をカプハムしたいなぁ」と囁く。


「そうだねー」


 右腕を組んで存在感抜群の胸を押し付けてふわゆる笑顔を浮かべていた詩織の表情が、さり気なく匂いをスンスン嗅いでだらとろ笑顔へと変わる。

 二人はそれでいいんだろうが、俺はこの状況を素直に喜べない。

 なにせ駅方向へ向かっているから周囲には同じ学校の生徒が多くて、少し話題になっている俺と詩織だけでなく、他校の制服を着たイケメン女子の吹雪がいるから自然と注目が集まっている。


「あれって噂の一年生か?」

「うちの学校の制服じゃない方って、男子? えっ、まさかそういう関係――って、本当に男子かしら?」

「良く見れば……男装女子?」

「やばい、どういう状況なのかめっちゃ聞きたいんだけど」

「やめておきなよ。あんなに楽しそうなんだから、邪魔するのは野暮っしょ」

「ぐぬぬ……。彼女がいるだけでも羨ましいっていうのに、両手に花とはけしからん」


 聞こえてくる声から、注目が集まっているのが分かる。

 明日にはこの件が広まって、変な尾ひれも付くんじゃないだろうか。

 やっぱり明日、正確な情報を伝えるしかないな。

 だけどそれはそれで、俺の高校生活がどうなるのか不安で仕方ない。


「ゆーき君、周りばっかり気にしていたら疲れちゃうよー。恋愛はちょっとおバカなくらいがいいって、ママが言っていたよー」

「要するに、考えすぎずに楽しむことを優先しろということだね。僕もそれに賛成だよ。その方が周囲を気にせず想い人とベタベタしやすいだろうね」


 確かに今回ばかりは詩織の言うように、少し考え無しの方が楽しめるかもしれないが、俺にはこうした状況でそうするのは難しい話だ。

 なぜなら、二人の異性に両腕をそれぞれ組まれている状況を楽しめるほど、俺は図太くないし肝も据わっていないから。

 できることなら、今すぐにでも少しばかりアホになりたいよ。

 しかしそんなことができるはずもなく、衆人環視の中で二人に腕を組まれる状況に戸惑いと不安と若干の役得を覚えながらショッピングモールへ向かう。

 到着したそこは平日とあってそこまで人は多くないものの、それなりに人がいるから俺達は注目されてしまう。


「あら、三人でお熱いわね。しかもあっちなんて男の子同士……じゃないわね、よく見たら女の子だわ」

「おのれ羨ましい妬ましい」

「俺なんて両手に花どころか、片手に花すら未経験なのに……」

「あっちの子は、男装女子? 男装して女の顔なんて、なかなかレアな光景だわ」


 様々な種類の視線を浴びながら、変わらず周囲を全く気にしない詩織と吹雪に腕を引かれ、ショッピングモール内の店舗を回る。

 既に二人で行き先は決めているようだが、一店一店の滞在時間が長い。

 詩織と吹雪の二人で喋りながら服屋や小物店を見て回り、どれが似合うかと次々に尋ねられて自分なりに良い方を選び、逆に俺に似合いそうな服を選んでもらい、下着売り場へ連れて行かれそうになるのを必死で抵抗して店の外で待機し、さっきとは別の服屋や小物店を巡ることおよそ二時間。

 フードコートにてようやく一息入れることになり、甘い物と飲み物を扱っている店で詩織と吹雪は甘い物とカフェオレを、俺は甘い物を頼まずアイスティーだけを注文。

 あいにく近くのテーブル席は全て埋まっており、かなり離れたテーブル席しか空いていなかったが、詩織と俺が並んで座って吹雪は対面側の俺の正面に座り、店からの呼び出しブザーをテーブルの上に置く。


「いやー、良い物が買えたねー」


 そりゃあ、あれだけ時間を掛けて数店回ったんだから、良い物の一つぐらい見つかってくれないと困る。

 金額の問題で買えないか、良い物が見つからない可能性があるのは分かるが、長い時間付き合った身としては収穫無しだと疲労感をより強く感じるから。


「僕も満足だよ。学校の友人達と買い物に行くと、男物っぽいのしか薦められなくてさ。悠希君と詩織さんはそういうのが無いから、一緒にいても買いやすかったよ」


 学校で王子扱いされているのなら、男物っぽいのを薦められるのも仕方がないな。


「あー、吹雪ちゃんかっこいい系だからねー。制服もズボンだし」

「これはズボンの方が動きやすいからそうしているだけで、深い意味も理由も無いよ。それに僕だって可愛い系や綺麗系の服を着たいし、スカートだって履きたいさ。だけど文化祭の店でスカート履いたら、イメージ違うとかなんとか不評の嵐で散々だったよ」


 学校での出来事を喋る吹雪が、不服そうな表情を浮かべた。

 そういえば吹雪のスカート姿は見たことがないなと思い、ボルダリングでハーフパンツを履いている時の姿を、そのままスカートに置き換えて想像する。

 ……うん、スラッとした脚が覗くスカート姿も良い。

 外見的にズボンのイメージばかり持っていたけど、スカート姿も合いそうじゃないか。


「見る目が無いな、そいつら」


 思ったことをつい口に出してしまう。

 おそらく学校の友人達にとっての吹雪は、どんな時でも王子的な存在であってほしいんだろう。

 俺としてはそういうのに囚われず、自分のしたい恰好をすればいいと思う。

 そもそも吹雪は動きやすいって理由でズボンを好んで履いているだけで、たまにスカートを履いたり可愛い服装をしたりするぐらい、別にいいじゃないか。

 どういう服装をしようが個人の自由だし、迷惑を掛けたり法に触れたりするような服装というわけでもないんだから。


「だよねー。吹雪ちゃん、スカートも似合うと思うのにー」


 俺の呟きに詩織が同意を示すと、不服そうだった吹雪の表情が明るいものに変わった。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。期待に応えて今度の土曜日はスカートを履いてくるから、楽しみにしていてね」


 スカートを履く宣言をしながらイケメンスマイルを浮かべると、付近の席にいる女子高生達やお姉さん達や奥さん達がヒソヒソと喋って吹雪を見る。


「分かったー。楽しみにしているよー」

「普段あまり履かないんだから、気をつけろよ」


 ラブコメ漫画だと、普段と違う恰好でいつもと同じ動きをしてラッキースケベイベントが起きるフラグだから。


「大丈夫だって。ズボンを履いている時と同じ動きをしてスカートが捲れるとか、捲れ上がっているのに気づかず下着が丸出し、なんて間抜けな真似はしないからさ」


 とか言って、いざ履いたらやっちゃうフラグじゃないよな、今のって。

 なんてことを考えているところへ、テーブルの上に置いたブザーが鳴った。


「俺が取ってくるから、二人は待っていてくれ」

「はーい」

「ありがとう、悠希君」


 二人に見送られ、離れた位置にある店へ向かう。

 げっ、やたら人が増えてきて凄く通り難い。

 これは少し時間が掛かるかも。



 ~詩織視点~



 混みあってきたフードコートの中を、ゆーき君が手間取りながらも進んでいく。

 お店と席の距離もあるし、あれは少し時間が掛かりそうだねー。


「本人は無自覚だろうけど、悠希君はああいうさりげない優しさが密かなポイントなんだよね」

「あー、分かるよー。学校でもそんな感じだしねー」


 困ったような顔していても、なんだかんだ気を遣ってくれるところが嬉しいんだー。


「ところで大丈夫かい、詩織さん。悠希君が離れたけど、匂いの方は」

「周りにあまり男の人がいないから、大丈夫だよー」


 全くいないってわけじゃないからちょっとだけ不快だけど、これくらいなら我慢できるから問題無いねー。

 だけど不快なことは不快だから、あとでゆーき君にベタベタ甘えて香しい匂いをたっぷり嗅がせてもらって、お互いに食べさせ合いっこをして気分転換しよー。

 あー、勿論吹雪ちゃんも一緒にねー。


「あれ? ね、あそこにいるの虎沢じゃね」

「えっ、マジじゃん。虎沢じゃん」

「ちょっと行ってみよーよ」


 聞こえてきた声にゾワッとした。

 いやーな感じを覚えながら、おそるおそる声のした方を見ると、他校の制服を着た少し派手な雰囲気の女子三人組が歩み寄って来て、吹雪ちゃんの後ろに立つと見下すような笑みを私へ向けていた。

 ああ、やっぱりかー。

 三人とも同じ中学の同学年で、小陽ちゃん達と違って私の嗅覚について理解してくれず、陰口や悪口を言っていた子達だ。

 背後に立たれた吹雪ちゃんから口パクで、「知り合い?」と聞かれた。

 一応知り合いには違いないから、小さく頷いておく。


「おー、虎沢久しぶり。相変わらず男を臭い臭い言って、ゲーゲー吐いてんの?」


 ニヤニヤ笑いながら、いきなり中学時代の思い出したくない思い出を言われた。

 告白してきた相手の匂いが耐えがたく、断って退散しようとしたのにしつこく迫ってきたことで我慢できず吐いちゃった、あの思い出。

 心配して陰ながら見守っていた小陽ちゃん達が助けてくれて、自分の匂いで吐かれたことに怒った相手を諌めただけじゃなく、誤解が広まらないよう真実を広めてくれたお陰であらぬ噂は流れなかった。

 だけど、相手が女子からそれなりに人気のある人で、私の嗅覚を変に思っている人達の中でその人のことを狙っていた子達が、「おかしい鼻をしている」とか「男が近づいたら臭いと言って吐いている」、なんて言いだした。

 この三人もそんな子達で、中学時代は廊下で私とすれ違うたびに「ゲロ臭い」とか「弱い者ぶって守られて調子にのっている」、なんて言われた。

 その度に小陽ちゃん達と口喧嘩をして、高校が別々になってようやく解放されたのに、こんな所で会うとは思わなかったよー。


「当たり前じゃん。男は臭いって言って吐いてんのに、共学行ったんだから」

「臭い臭い言ってゲーゲー吐いて、自分の周りが一番臭くしているのよね」


 悪気しか感じない表情と言い方をされているのに、何も言い返せない。

 今まで小陽ちゃん達に守ってもらっていたから、こういう時にどう反論すればいいのか分からないし、小陽ちゃん達が言っていたようなことを堂々と言える自信が無い。

 それがとても悔しく思うけど、何もできないから俯いちゃう。


「あらあら? 何も言い返さないの?」

「違うわよ、本当のことだから言い返せないのよ」


 言い返したいよー。でも言い返す勇気が無いのー。


「いつも守ってくれていた小うるさい連中がいないと、何も出来ないのかしら?」


 悔しいけど、その通りだよー。

 何か言われたら落ち込むだけで、小陽ちゃん達に守られていたから、こんな時に何かできる勇気が無いのー。

 好き勝手言われていること以上に、そのことが悔しくて余計に俯いちゃう。


「そもそも、アンタの間延びした喋り方からして心底ムカつく――」

「ねえ、ちょっといいかな?」


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