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運命のミオ  作者: 鎌月
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マーリス4

アストレイ、タイシの屋敷ー。

タイシの屋敷の一室にいたアルスランの元にサジがおりアルスランが話す。

「ランカスターか」

「はい。ですが、本人なのかはわかりません。私も以前見たことはありますが」

「お前達の故郷に来たからな。共に」

「はい」

「遅くなりました」

杖をついたタイシがナタリーを連れその場に来る。

「体の方は?」

「はあ。アスクレピオスの力で回復が異常に早いです。局長の話では一週間ほどで走って動けるまで回復していると言われました」

「ああ。その後のアスクレピオスについて。何か話は?」

「今のところは何も」

「分かった。サジ。下がってくれ」

「はい」

サジが頭を下げ部屋を離れる。タイシが視線を送りナタリーを見る。

「俺の大切な部下の1人です。そろそろ出ていってくれませんか?」

「ランカスター。でろ」

ナタリーが目を虚にさせるとふっと閉じ前に倒れるがそのナタリーを後ろから茶髪に赤目の黒いマントに黒い服に軽度な甲冑を着た男が笑みを浮かべ支える。

「まだ歳食ってませんねアルスランさん」

「その前に俺の部下返してください」

ランカスターがナタリーを抱き抱え長椅子に寝かせるとその椅子の袖に座る。

「11年前に王の命により処刑されたと聞いた。罪状は謀反」

「ははは。本当、王様ってのは何でもかんでも隠したがるし簡単に罪を着せられる。俺みたいな平民はそんな王様達に敵うことできずぐさり」

ランカスターが自らの体に槍を突き刺す仕草をしてみせる。

「蘇りだな。悪魔と契約したのか?」

「悪魔?いいや。兄のように慕っていた異界人ですよ」

「渉か。あれも処刑されたのか」

ランカスターがふっと笑う。

「処刑とも言えますね。渉さんは殺されたんですよ。兵士どもになぶられた後にね。そして死ぬ間際に俺に生きて欲しいと願い甦りの術をしかけたんです。そして、死んで崖から落とされた俺は、やたら国民や王達に殺された俺の家族、最愛の友人や渉さんの死体の中で蘇りました」

ランカスターが立ち上がりアルスランが話す。

「そして、復讐か」

「ええ。そうですよ。俺を陥れ家族を殺し、俺の最愛の人たちを殺してくれた連中に復讐しています。あと、初回に立ち会った真っ暗な心を持った国民共にも。別に、アルスランさんは関係ないですし、他国の事ですから関係はないでしょう?」

「ああ。だがこれだけは聞きたい。なぜタイシ。そして葵達に接触した?」

ランカスターが楽しくタイシへと視線を向ける。

「噂を聞いて興味を持って。アルスランさんが養子を持った。それも異界人をと。だからちょっと見てみたくて近くに来ていたらちょうどヤンガル国の小名の悪い奴らがいたもんで懲らしめたんですよね。そうしたらそこで寝ている女の子が今度は部下だと聞いた時にもしかしたらアルスランさんとすぐに久しぶりに会えるかなーと思って隠れたんですよ。そこのタイシ君とあのおじいちゃん局長はすぐに気づいて穏便に済まそうとしてましたね」

「当たり前です。俺にとって得体の知れない方なんですから」

「そりゃそうだ」

タイシが頷きランカスターがくすりと笑う。

「葵さんについては本当。偶然ですよ。イーロンの奴らも俺の家族や処刑に関わったんで驚かしに行ったんですよね。そうしたら、知っている力を感じて寄り道したんです。そこに、まさかの葵さんと娘のミオさんがいた。葵さんは俺が尋ねてきた時とても驚いてましたよ。もちろん俺もですよ。まさか、娘さんを持たれてたなんて。そして、これまたなんとアルスランさんにも似てましたから。で、葵さんのご厚意もあってしばらく滞在したんですよね。お家に」

「ああ」

ランカスターがくすりと笑う。

「あの時、最後に別れた葵さんと比べてみて随分と痩せて衰えてましたから病気だとすぐにわかりました。今の俺なら渉さんの癒しの力もついで強くなっていたから治せたんですけど、さすが葵さん。全部見透かされて治療も拒否。そして、復讐は私としてはやめて欲しいと言われました。虚しく心が病むだけだからと。あー」

ランカスターが体を後ろへと逸らしはあと大きく息を吐き出す。

「さすが聖女と言われただけはありますよ。ええ」

「断ってそして?」

ランカスターがアルスランを不気味に見る。

「腹が立って腹が立って仕方なくて殺そうとしました。けれどミオちゃんの前でしたからね。そして葵さんもいずれ死ぬならと思って出ました」

「そうか」

「ミオが子供達を狩の獲物に見立てた役人の遊びがあなたが来てなくなったと聞きました」

「うん。それで?」

「その狩がその時を機になくなり喜んでました」

ランカスターがにこっとする。

「それは何よりでよかったよ。あのくそ役人どもを俺が操ったんだ。そして、仲間内でするよう命じたんだよね」

「元はそのような力持っていなかったはずだ」

「おっと」

ランカスターが口を思わず抑えると楽しく笑う。

「つい話したので言いますと、元から持っていたんですよ。操る力は。ただ、自分の実力を試すことが出来ないので自分から使わないようにしていたんです」

ランカスターが手を下ろす。

「なら、ガルダも」

ランカスターがタイシをみて目を丸くしくすりと笑う。

「君鋭いな。ああ。でも操ったのはごく最近。元々ガルダを操っていたのはオリウスの連中と異界人だ。今のガルダは俺に操られたとわかってすぐにまた戻された。奴らの元に」

「ええ。後。ガルダもまさかキメラ?」

「ああ。そうだ。あれは龍と怪鳥を組み合わせた特殊な大型キメラ。俺や君。アルスランさんなら退治することはできるが普通の連中じゃあ出来ない。後俺がガルダを操ったのは奴らが俺を殺しに来たからだ。その時に見たのはガルダの背に乗った異界人の女だった。どうやらキメラ達を飼い慣らす異界人みたいだ。他のキメラ達もいたが彼女の言うことをしっかりと聞き連携して来たからな。あと、どうもイーロンから来たらしい。あそこは異界人の売買が盛んな国だったしな」

「それも含めてあなたはそこに行ったんですか?」

「まあ、そうだな。そして、異界人の召喚の儀式もみたね」

タイシの心臓がとくんとなるとナタリーが目を覚まし体を起こす。タイシがはあと息をつき、ランカスターがナタリーを見るもその目は赤く光っていた。

「アスクレピオス」

アルスランが不機嫌そうに告げナタリーが楽しく笑む。

『元死人は口うるさく生まれてきたな』

「あれ?中身変わった?」

アスクレピオスに意識を乗っ取られたナタリーが面白く笑みを浮かべる。

『この娘の意識をそこのタイシを通して借りた。召喚の儀式。使われたものはなんだ?』

「ただってのは嫌だなあ」

『ならばこれをお前に』

ナタリーが手を挙げ光らせる。そして鱗模様の黒い槍を作り出す。ランカスターがぞくりとし、ナタリーが手にして見せる。

『我が力や体の一部を埋め込み作った槍だ。使いように寄ってはこの槍に触れたり突き刺した相手に様々な毒をもたらす。麻痺や幻覚と言ったものから猛毒までだ』

「それ、いいな」

ランカスターがそわつきナタリーが話す。

『召喚の儀式だけでは釣り合わんな。なのでお前もオラクルを消滅させろ』

「いいぜ。どうせあいつらが俺の復讐相手だし」

『ああ』

「ちょっと待て。もし、この人が先に消滅させたらどうなるんですか?俺は」

タイシが手をあげナタリーがニコッとする。

『我の夫だ』

「君らそういう関係?」

「向こうの一方的な婚約ですっ」

タイシが左手の三つの鱗模様を見せる。

「オラクルの消滅を条件に破棄出来るんです。俺はまだ独身でいたいんですよ」

ナタリーがくくっと笑いランカスターがふうんと声を出す。

「ふざけた話だ」

ナタリーが僅かに怒った目を向けるアルスランを見てふっと笑う。

『ふざけておらぬ。我は本気だ。我を使った呪いや我の毒で死なずに生き延びた』

「うわー。アスクレピオスでしょ?君色々すごいね。不死身じゃん」

「どうあれ一度死んで甦ったあなたにも言われたくありませんよ。あと、もうこの際聞かせてください。召喚の儀式について」

『槍が欲しければ。そして、我の頼みを聞いてくれたら良い』

「了解。もちろん」

ランカスターが槍を受け取り楽しく眺め見ていく。

「まず、召喚の儀式だがまだヤンガルで続行するようだぜ」

「なら、イーロンの魔術師達もそこにいるわけですね」

「ああ。元教会の連中と元凶の元枢機卿もだ」

タイシが頷きランカスターが槍を肩に担ぐ。

「儀式は生きた生贄と死んだ生け贄が必要だ。それによって人数はその時次第だが異界から人を呼ぶことができる。生きた生贄は君くらいの年の若い子で魔術師か人工的に作られた異界人の子供だろうな。魔術の力が強い子供を使っていた。そして死んだ生贄はミイラみたいな死体だったな。どうやら特別な死体みたいで怨念のようなものを感じた。それらが揃って奴らが術を唱えて扉が開き異界人達がここに突然召喚されてきた。生贄にされたのはそこで消えて行方不明となり、呼ばれた異界人達はその場で選定された」

「そのまま傍観されましたか?」

タイシがじっと見ていき、ランカスターが面白く見る。

「いや。そこで俺が邪魔に入った。それを機に奴らから益々嫌われてさ。あと、その時呼ばれた異界人3人。赤ん坊、君よりまだ若い少年と20代くらいの女は俺が別の場所に運んだ。3人とも赤の他人で、赤ん坊はまだわからないとして2人はなぜここに来たのか。ここがどこなのか分からないときた。女の方は嫌な仕事を毎日させられて疲れて帰っていたら突然ここ。少年の方は受験とか話してたな。自身のやりたい事が出来る最初の通り門が近い日にあると話してたけどどうしようにも俺も帰せる事ができなかったからその場で泣かれた」

ランカスターが肩をすくめる。

「赤ん坊の方だが片足がなかった。あちらでは障害児と言われる子と女から聞いた。ちなみに少年は受験生とか。で、俺ではどうしようも出来なかったんで異界人が面倒見てる教会にやったんだ。タルシャ国の教会だ」

「ええ。なら、静代さんですね」

「そうそう。俺あのばあちゃん好きなんだよね。俺をみてすぐに人攫いでもしてきたのかーって甲斐性なしーって。まー妄想が激しくなってきたというか。わざとなのか知らないけどあの人だけだよああいうのは」

ランカスターが楽しく話すとナタリーを見る。

「これが俺が見た。そしてその後その儀式場を潰した俺の話」

『ああ』

「なら、俺はこれで。あと、ランカスターさん。俺はあんたやあんたの敵じゃないんで変な邪魔はしないでください」

「そちらもだ」

「ええ。なら、お互い様に」

「どうして長く葵さんのところに滞在されたんです?」

ランカスターがタイシを見てふっと笑う。

「まあ、好きだったから。あと、アルスランさんや彼女が以前俺や俺の家族を助けてくれた恩人だったからだ。ただ、振られたし、俺の考えに肯定してくれるかと思ったけどそうじゃなかったから出たんだ。で、その時もミオちゃんいたんだよね。また来てくれるのかと今度また会えたらいろんなところを見たいからどうやったら見れるか教えて欲しいって言ってたよ。ミオちゃんすごく知りたがりな可愛い子だね」

ランカスターが背を向け離れる。

「あの時ミオちゃんたちがいたのは気づいてたよ。でも、あの熊が襲わないって話したからいざと言う時だけに備えてはいたから。それじゃ」

ランカスターが部屋を出て姿を消し、アスクレピオスが話す。

『我も行くか。ではな』

ナタリーが横に倒れすうと再び気持ちよく寝息を立てる。

「全く違う体を通して槍を運んでくるとは…」

「それだけ力があるという事だ」

タイシが頷きアルスランを見る。

「葵さんが助けられてから旅を?」

「いや。奴は元々村の子供の1人だった。けれど魔獣達が襲い奴の両親が殺されいよいよ兄弟のみとなった時に私たちが魔獣達を追い払った。それから2年後だな。再び出会い奴がヤンガルで選ばれた勇者として魔獣たちを操る魔族を退治する旅に出ていると聞いた。私たちは葵の言う世界の秩序を知りたいという旅に同感したもの達同士で旅をしていた」

「世界の秩序?」

「ああ。この世界がどのような世界なのか。多くの国にはどのような文化戒律があるのか知るための旅だ。特に旅の目的が一緒だったわけではないが、魔獣達の増加の原因も調べるためにと1人の同行者が頼み私達は了承しランカスターと2人の連れと共に旅をしていた。そして、魔獣の原因を見つけあとは自分たちで全うすると言って別れた」

「手柄は全て、と言いますか」

「関係ない。そして興味もなかった。その後無事に終わりヤンガルとその周辺国の魔獣達がみてわかるほど減少すれば被害数も少なくなったと聞いた。それからか。こちらもある程度旅が終わり各々やりたい事。やるべきことのために少しずつ離れていき、最後に私と葵のみが残った。しばらくは共に暮らしたが、葵は子を連れて出て行った。私の足枷になるからとな」

タイシが頷き、アルスランが話す。

「ランカスター。あの連れどもが処刑されたとは聞いていない。おそらくそれらも奴の復讐の相手だろう」

「その連れは?」

「ああ召喚術師と魔術師だ。今はどうしているか知らん」

けたたましい足音が鳴り響くと白いコック服をきた男が飛びくる。

「ちゅ、さ、も、うしわけありませんっ。将軍とお話し」

「いや終わったからいいよ。どうかした?」

「は、はい。それが茶髪の黒い甲冑の若い男がご用意していた物を全部持って行ってしまったんですっ」

「はあっ!?」

アルスランがやれやれとし男が嘆く。

「中佐から許しはもらったからと勝手に」

タイシが顔をしかめ男がどうしようと嘆き続けた。ー己ええええ。

オーガンが杖を両手で握りしめ怒りに震え、ハリーが涙ぐむ。

「ランカスタあっ。あの小僧わしのとーふとわしの枝豆とーふをぉ」

「新作のとーふ食べたかったのにいいいい」

タイシから報告を聞いた2人が嘆く。そして、ランカスターが口を開け豆腐。続いて枝豆豆腐にピーナッツ豆腐を食べる。

「こっちの茶色のうま。なんで作られてんかなあ。またもらい行こう」

ランカスターがこの茶色の甘いのかけたらどうなるかなとかけて食べると目を輝かせうまうまと夢中で食べ終えた。


ーおとーふが食べられなかったのが残念です。

ナターシャがしょんぼりとしミオがもくもくとおからクッキーを食べていく。

「でも、これも、おいひいです」

「それあまり食べすぎるとお腹がいっぱいになりますからね」

「はい」

ー…まるで小さな野ネズミみたいね。

夢中で食べるミオをほくほくとみるもふと思う。

「ねえ。あなたは勇者ランカスター様にお会いしたことあるのでしょう?」

「はい。ご存知ですか?」

「もちろん。私も幼い頃にもお会いした事があるのよ。お若い方でとてもお優しい方でした。平民の出との事で皆珍しがってましたよ」

「え?」

「平民から勇者になられるのは珍しいのです。勇者といえば私達のような貴族。もしくは異界人に多いのです。つまりとても強い方です」

「そうなんですね。あと、勇者と呼ばれるのは、何かされて?」

「もちろん。勇者と呼ばれる条件は魔族を一体でも退治する事です。魔族は悪魔とは違う魔獣達を従える知能のあるもの達のことになります。魔術師ともまた違います。そしてそうですね。姿は人と悪魔を掛け合わせたような姿をしています」

「人と悪魔を?」

「はい。そして、魔獣たちもですが人里を襲ったりします」

「襲う…」

ミオが不思議そうに首を傾げる。

「人の方がまだ悪いことをされてる気もします。戦争とか盗賊とか、悪魔召喚とか呪いとか」

「ええと、まあ…」

「はい」

ナターシャが複雑そうにしミオが話す。

「なのにどうして魔族の方達を退治されたら勇者になるのか不思議です」

「…まあそうね」

「都合がいいからだ」

ナターシャが思わず立ち上がりミオが杖をついてヴィクトールときたタイシを振り向く。

「タ、タイシ様お加減は」

「大分いい。心配かけて悪かった」

「いえ」

「で、ミオ。検査の結果だ」

タイシが紙を向けるとミオが受け取りみていく。

「その、アスクレピオスの血を飲まれたから」

「ああ。ただ無害だった。それと体に異常はなし。血液に関しても問題無しだ。俺の場合はアスクレピオスの影響を受けているから他と比べて傷を塞ぐ為の体の一部が常人の5倍以上増加している。だから回復。そして傷が塞がるのが早すぎる。はあ」

ナターシャが驚きミオが話す。

「ええと、はい。あと、あの後アスクレピオスさんと何かお話は?」

「ああ。俺を通し俺の部下の意識を奪ってやった」

「はい」

「えと3年後に、もし、目的を果たさなければとお聞きして」

「あーー」

「生きていた。生きてられただけでもいいがなんともいえないことになったからな」

「本当そうです…」

「ああ。あと、ナターシャ。ランカスター殿の話をしていただろう?」

「はい」

「ああ。彼はヤンガルで処刑された」

「え?」

ナターシャが驚き、ヴィクトールが話す。

「どうやら無実の罪を着せられて親族と共に処刑されたとの事だ。そして、復讐者となっている」

「復讐を…。その、家族の」

「そうだ。家族や殺された親しい者達の復讐を行っているとの事だ。私達は以前彼等をここに招いたからな。もし、来た場合は即私に言いなさい」

ナターシャな複雑な面持ちをさせながら頷く。

「わかりました。はい」

「ああ」

「ミオ。ミオもだからな。あと、俺たちに関してその人は敵意を持ってはいない。ただし、復讐のために利用する可能性もあるから着いて行ったりとかはするなよ」

「はい…。あと、家族が殺されたんですね」

「ああ。そして、以前来たのは偶然もあろうが葵さんに好意も寄せていたからだ。ただ、復讐に葵さんが反対されて敵視した。その敵視が殺意に変わらないうちに離れたそうだ」

ミオが僅かに表情を曇らせ小さく頷く。

「それだけ恨み怨念を持っている危険人物になった。2人とも気をつけるように」

「はい」

「はい…」

ヴィクトールが頷きタイシがあと、持ってくるはずの豆腐を食った奴というとナターシャがショックを受けガクッと頭を落とすがミオは暗い表情のまま小さくだが僅かに頷いた。


ーもやもやする。

1日を終えたミオがベッドに横たわっていたが体を起こしベッドから降り窓へと近づく。そして窓を開け外の夜の風景を見る。

ー優しかったお兄さんが復讐の為に来てたのね。

ミオが息をつき両手の指を絡め目を閉じ祈る。

ーせめて、無事でいてほしい…。知っている人がいなくなるのはもう嫌だから。怖いから。

ミオの手が僅かに光るもすぐさま消えるとミオが目を開け窓を閉め再びベッドへと潜り込んだ。


爽やかな気候の中、貴婦人達や紳士達がメルルの屋敷の庭に集まり各々仲の良いもの同士で紅茶にお菓子が乗せられたテーブルを囲み楽しくつつがなく会話をしていた。その中に帽子に今回のために仕立てられたドレスを着たミオが緊張しながらナターシャと共にナターシャの友人達の席に座っていた。するとアヒル口の緑の淡いドレスを着た少女がミオを見て話す。

「ミオ様は確か初めてでしたね」

「は、はい」

「ええ」

「私たちも初めての時は緊張したわね」

「ふふ。ええ」

ナターシャが頷き緑の淡いドレスの少女が話す。

「もう、私たちは色々とお話をして存じておりますがアストレイ国の右将軍の娘様とお聞きしております」

「そ、の。ですが。私は、よく分からなくて……」

「本当の親子であるという事ですか?」

ミオがゆっくり頷き、淡い青のドレスの少女が今度は話す。

「突然のことですものね。あと、それまではどこにおすまいになられていたのですか?」

「その、イーロン国の山間の村に…。母と」

少女達が衝撃を受ける。

「あの凶悪な国の」

「お可哀想に…。上は同じ人でありながら下の方々を家畜以下に扱われていると聞いたわ」

「人狩りもされていたのです。獲物見立てた子や大人を高い遊ばれていたと。実際にその犠牲になられた方も大勢いらっしゃるそうです」

「野蛮ね」

「滅びて正解ね」

ミオが不安な面持ちをする。

「あの、イーロンに行かれたことが…おありとかは」

「ないわ」

「私も。まず、暮らしから違いますもの。そして、イーロンは他国の入国を厳しくされて来ていましたので、私たちのような外の国からの観光客などほぼいなかったはずです」

「まあその前に尋ねることは致しませんでしたけど」

ミオがやや驚き、ナターシャが頷く。

「後、馬鹿にされますもの。私達が遅れた者たち。古参たちだと」

「ええ。学校に留学で通われていたイーロンのもの達がそうでした。本当腹立たしい」

「ええ」

少女達がムカムカするとメルルがその場にくる。

「イーロンの話?」

「あ、はい」

「ええ。ここではあまりしない方がいいわ。嫌悪する人が多いし熱論される方も出てくるから」

少女達が頷き、ミオが戸惑う。

「あの、その、ヤンガル、は」

「ヤンガル?」

「あの国でしたら噂で今大変なことになっているとお聞きしましたね」

少女の1人が話すと、ナターシャが振り向く。

「大変と言いますと?」

「はい。皇太子殿下が重傷を負い、皇太子殿下の部下達の多くが悲惨な死を遂げているとか。それがなぜかはわからないのですが…」

「私も聞きましたわ。婚約者の方もその事で寝込んでしまわれたか婚約破棄なさったとか」

ミオが驚き、メルルが話す。

「あの皇太子に一応婚約者いたのね」

「え?」

「ちょっと性格知っててね。ギルドにいるから依頼とかでね」

周りがざわめく。そして少女達が目を輝かせ、メルルがうんざりとし正装のアーサーを見る。

「出たわねキザ男…」

「酷いな。君から誘ってくれただろう?」

アーサーがメルルの手の甲に口付けするとメルルがすぐさまドレスで拭く。

「社交辞令で仕方なくよ。ティーチは?」

「用事を済ませて来るそうだ」

「ティーチ様も来られるのね」

「ああ楽しみ」

少女達がワクワクしナターシャも心待ちにしていく中、ミオだけがここでも人気なんだなと1人きょとんとしながら思っていく。

「ここでもやつは人気で結構」

「好条件ばかりだから彼」

「やれやれだな」

「アーサー様。よければお話しを」

別テーブルの女性達がお誘いするとアーサーが喜んでと告げその場をさりミオがいるテーブル席の者達が残念がる。

「声かけておけばよかった」

「私も」

「みんな好きなのね」

「お姉様。ずっと気になっていたのですがお姉様とアーサー様はいつ頃出会われたのです?」

ナターシャが尋ね、メルルが話す。

「知らない人も多いのよね。あいつは私の弟と同級生で同期。学園時代から知っているのよ。ただし、あいつはサボりがちであまり来ないので有名でもあったのよね。よく家の人たちがどこどこと探していて、いたのはギルドだったそうよ」

「まあ」

「それでも成績は優秀で同じ同期の人達からは恨まれてたし妬まれてもいたわ。後その学校でも人気者でもあったからますますね」

メルルがやれやれとする。

「そして、Sランクとして迎えられた後より人気が出たのよね。ただ、命狙われることも増えたけど」

「え?」

「野郎どもの嫉妬。恨みつらみよ。女を取られたというものでね。でも、全部かわしてるけど」

「そうなのですね」

「ちなみに今は…。女性の方は?」

「あいつ?いないわよ。独身貴族。後経験とかないんじゃない?ああやって女の子と話はするけど実際に付き合っているとかないし、娼館とか行ったとかいうこともないようだから」

「娼館?」

ミオが軽く首を傾げメルルが話す。

「まあ、男の性欲を満たす女ばかりの店よ」

「満たすと言うと」

「またぼちぼち教えますわ」

ナターシャがやれやれとし、緑の淡いドレスを着た少女がふふっと笑う。

「ミオ様は純粋で居られますね。ならなおさら、悪さをされる方に騙されませんよう気をつけませんと」

「ええ。言葉巧みな詐欺師とかにもね。同じ同姓。もしくは年寄り子供でも騙すのは騙すから」

「騙すというとどう」

「お金。行く先の虚偽とか様々。実例集が図書館のギルドのコーナーにあるからみたらいいわ。犯罪被害の報告も取り扱っているから」

「はい」

「ええ」

周りが再びざわつくとメルルがきたわねと振り向く。そしてタイシがマルクルが護衛につけやってくるも黒い目に片方赤目になったその姿を見て皆がひそめかあっていた。

「ティーチ様の目が」

「アスクレピオスの力を、受け継いだと言うべきかしら」

「あの4大災害の?」

「そう。以前にも増して、まあ力も強まったけど目立ちもするわね。やっぱりその目はどうにも出来なかった?」

メルルのもとにやってきたタイシへと話すとタイシがため息する。

「はい。隠そうにも隠せなくなりました。向こうが証だから隠すなという事で」

「大変ね」

「はあ」

ミオがじいと見ているのがわかるとタイシが振り向く。

「なんだ?」

「アスクレピオスさんですか。またお会いしてお話ししたいって」

「え?」

「え?」

「あの、どう言う事ですか?」

「その話は後にしましょう。この場ではだから」

メルルが手を叩き止める。

「ティーチ。あなた体調はもういいの?呪いとか」

「ああええ。そちらはもう問題なく。ただ少し跡は残りましたけど」

タイシが包帯を巻いていた手を見せると僅かに薄暗い刻まれたような模様が残されていた。

「ええ。ならいいけど」

「よーやくきたな」

アーサーがタイシの肩に腕を乗せる。

「もう良さそうだな」

「まだ本調子ではありません」

「それでも近いだろ?少し来てくれ。メルルも」

「今必要?」

「ああ。部屋も一室借りたい。すぐに」

メルルがやれやれとする。

「分かったわ。少しの時間よ」

「分かっている」

「ならこっち。ごめんなさい少し空けるわ」

「はい」

メルルたちが移動するとナターシャが話す。

「余程の用事みたいですね」

「ええ」

「どうしてです?」

「ええ。私たちゲストを迎えた方は常にその場にいておもてなしをなさらなければならないのです。ただ、アーサー様ですがいつもと違ったご様子でしたから」

「そうですね。ティーチ様が来られてすぐティーチ様の元に来られましたもの。いつもでしたら話を中断されてから来ることはない方ですから」

「本当」

ミオが頷き、ナターシャが話す。

「でもまあ、どこぞのご令嬢と比べますとと言いますか」

「ああ、男爵の」

「私。あの方のお茶会はお断りしているのですよね。いかがわしいですし汚らしいですもの」

「私はお話でしか聞いたことがありませんが、呼ばれた男性の方もあまりよろしくないと」

「性格が知れてます」

「威張り過ぎです。男爵令嬢のくせして」

ミオが目を丸くし、ナターシャが話す。

「不快なお茶会を開かれる方もいらっしゃると言う事です。あと来られましたね」

ミオが戻ってきたアーサー達を見るとアーサーが手を挙げ1人先に会場を後にしていくのがわかった。

「ああ」

「アーサー様がいかれてしまったわ」

「やはり急ぎでしたのね」

少女達がしょんぼりとしタイシがその場にくる。

「ミオ。終わったらあとでさっきの話をしてくれ。俺もいく」

少女達が思わずええと声を上げるとタイシが気まずくする。

「みっともないから静かにしなさい。ティーチは行って」

「はい」

タイシが背を向け急ぎその場を離れると少女達が更に落ち込みミオが目をまん丸としながら見渡すと最後にずうんと俯き頭を下げたナターシャを見てどうしようと複雑な面持ちをした。


ー王女の捜索?

ーああ。それも、あの例のヤンガル国だ。あれが関わるかもしれないから俺とタイシでいきたい。メルルは誰か女性ギルドで腕の立つ奴を頼む。

すぐに着替えたアーサーとタイシが国の外で合流すると龍にのり山脈へと向かう。

「それでその任務はどなたからです?」

「王家からと言いたいが、王女の母親の親族の侍従からの極秘の捜索願になる。山脈を超えた先の親族の家のあるこのマーリスへとくるところが予定から3日も遅れているとのことでな。確認したところ山脈を超えてから消息をたっているとわかった。王女は御年25。あのランカスターと面識がありそうでな」

「ええ」

「だから、何かされたりとかしてなければの話だ。一応金にはなる任務ではあるしどうあれ一国の王女で山脈はマーリス国土だ。下手したら国際問題にもなりかねない」

「確かに」

「悪いが事故であれば多少は違うがランカスター又は盗賊にやられたとなるとこちら側の責任になるわけだ」

「アーサーさんはマーリスでの外交も担当されてますからね」

「その通り。だもんで余計なものやことはしてほしくない」

2人を乗せた二頭の龍が山脈の中央へと来る。

「先に下のやつらをいかせたが」

アーサーが見渡しいたと告げ向かうとタイシも続く。そして旗を振るギルドの者たちの元へとくる。

「待たせた。どうだ?」

「ああ。多分この下だ。落ちた痕跡が見つかった」

タイシが崖下を見下ろすもその先は暗く見づらくなっていた。そして、その崖には車輪などが散らばり残されておりアーサーがんーと声を出し周りを見る。

「崖崩れ」

「痕跡なしだ」

「盗賊達」

「分からない」

「下に行きましょう」

「そうするしかないな。ここに残ってくれ。何かあればすぐに知らせろ」

「分かった」

アーサーが頷きタイシを連れ龍と共に下へと降りる。そして更に崖の幅が狭くなると龍達が止まる。

「こいつらはここまでだな」

「ええ。あと、死体があります」

崖にぶら下がった折れ曲がった足や手を力無く落とす男をタイシが指差す。

「やれやれだな。回収は後。降りれるか?」

「はい」

タイシが龍から降り崖に術を使いへばりつくとアーサーもまた術を使い足場を作り共に更に崖下へと降りる。そして、また違う死体に引っかかった王家の紋章のある馬車を見つけるとアーサーが潰れた馬車を切り裂き中を見る。そして誰もおらず席も血など付着していなかった。

「いない」

「おかしな話だな。確かに」

上から音が響くとアーサーとタイシがすぐに上を見上げる。

ー罠だ。

「アーサーさん!」

アーサーがタイシが向けた手を取るとタイシと共にその場から姿を消す。消してすぐに上にいたギルドの男と岩が共に落下し馬車を破壊し下へと落下した。タイシが崖上に記した転移魔法の元へと辿り着きアーサーがギルドの男を丸呑みする二メートルを超える巨大な芋虫を見る。

「おいおい。そいつランクA候補だぞ」

巨大な芋虫がばりぼりと音を立てて咀嚼を始めると飲み込みタイシ達を振り向く。その顔は人の顔に似ておりタイシ達をみてにやあと笑うと素早く移動する。アーサーとタイシがよけ、芋虫が崖の岩場に激突し跳ね返りながらアーサーへと口を開け向かう。

「おいっ!?」

アーサーが槍で口を塞ぎ汗を滲ませる。

「俺は虫は嫌いなんだよ!!」

ーあれもまた作られたもの。我と同じ。

ーなら知能がある?

ーそうだな。

ーだとすれば。

タイシが赤い目に触れ光を当てるとアスクレピオスが楽しく笑む。そしてタイシが黒い瞳の方の目を閉じ赤い目を開けると周りの風景が赤黒へと変わる。

ー熱源。そして。

タイシが崖を見ると空間に収めていた円筒形の武器を出しすぐさまはなった。それは風を帯び崖をバターのように切り裂く。芋虫がすぐに崖を振り向きアーサーから離れアーサーが崖から現れた人影を見る。そこに力無く横たわるドレスの女がいた。

「ティーチ!王女だ間違いない!」

『ざ、わる、なああああっ』

芋虫が声を上げるがその体にアーサーが放った槍が貫いた途端燃え盛る。芋虫が倒れ悲鳴をあげ、タイシが王女に触れ光を当てる。

ー衰弱しているが生きて。

「うわあ。気持ち悪い」

タイシが小さく唸りアーサーが崖に着地し黒い槍を持つランカスターを見る。

「何故きたんです?目的は?」

「ただ楽しそうなことしてるなと思って」

『ラ、ンガス、タアアア』

芋虫が叫び、ランカスターがんんと声を出し顎を撫で目を細めながら見る。

「ああ。思い出した思い出した。お前、俺の死刑を求刑した裁判官にして」

芋虫がランカスターへと向かうとタイシが王女を抱き、ランカスターと共に燃え盛る芋虫の猛追を避ける。

「教会の1人だ。役立たずでそんな馬鹿でかい虫にされたのか?オラクルの奴らに。かわいそうに」

『だーまーれえええええ!』

「その前に王女をなんで殺さずに」

「そいつ少女好きなんだよ。少女趣味。その王女は王女だけど王女じゃあない」

「じゃない?」

「身代わり。本当の王女は我儘傲慢で母親の親族のところに行きたくないんだよ。それは双子の1人であり、王女ではあれど知らされていない王女」

『うぬうううううう』

「仲間の死体は回収させてもらうぜ!」

アーサーが芋虫の腹を切り裂くと芋虫が叫び声を上げる。

「俺が生きて復讐してるから身代わりでよこしたんだろうな。そしてさらに手をこませてこの死徒を送った」

芋虫が燃え盛りながら倒れ動かなくなるとアーサーが腹に手を入れズタズタに引き裂かれたギルドの男の死体を取り出す。

「双子の事は公開されてないし、俺も知らん」

「当たり前だ。1人は身代わりとなるべく育てられたんだからな。途中までは一緒に育てられていたが、片方が出来が悪く片方が出来が良く社交的と言う事で王女でありながら王女の影にされた哀れな王女様なわけ」

「で?」

アーサーがランカスターへと槍を向ける。

「そちらはどうするんだ?」

「はいはい。何もしない何もしない。そっちの子はどちらかといえば俺推しで何もしてないから。まあでも、俺の家族も何もしてないのに理不尽に殺されたがな」

ランカスターが冷めた目で見る。

「ここまでにしましょう。アーサーさん。事が事です。もししれたら俺たちも危うい」

「…あーくそ。確かに」

アーサーが頭をかき、ランカスターが肩をすくめる。

「あー、しまったな…」

「いっそこのまま放置して確実な事故死させるか?」

「できるか」

子龍の影が現れるとタイシが上を見上げ龍がおり乗っていたメルルが竜から降りる。そしてメルルと共にミオもまた乗っていた。

「ミオ」

「メルル。なんで連れてきた?」

「この子がアスクレピオスに言われたらしくて」

ランカスターがじいと見ていきミオが龍から降りる。

「あなたが性格が悪いランカスターね」

「性格については元は優しくて今はひねくれただけ」

「あの……」

ランカスターがミオを振り向きミオが頭を下げる。

「お久しぶりですお兄さん。あのあと、村で役人さん達が子供とかを殴ったり蹴ったりとかしなくなりました。狩も」

「それは良かったよ」

「はい。あと、母が亡くなりました。病死です」

「父親の部下に殺されたんじゃないっけ」

「いいえ」

ランカスターが目を細めミオが顔を上げる。

「病死です。そして最後の力を使って私を守ってくれました。あの時、お兄さんが去った後母が」

「はいはいどーでもいい」

「少しでも力になれたら良かったと言われてました。何もできないのが一番辛いと」

ランカスターがはあと長くため息し、ミオが話す。

「お兄さんの身を案じていました。以上です」

「……どうも」

ランカスターが背を向けその場を去っていく。

「で、どうする?」

「あー」

「何がよ?」

アーサーが複雑そうにメルルへと話メルルが頷き驚き王女を見て唸る。

「やばい依頼引き受けたぜくそ…」

「ええ。でも、あなたは外交も兼ねてるからどうしようにも行かないわ」

「極秘でアストレイに」

「だめよ」

「あの」

ミオが手を挙げる。

「アスクレピオスさんのところに連れて行きましょう」

「……」

「いや、うーん」

「……何か助言は、あるような、ないような」

タイシたちが悩み、メルルが汗を滲ませる。

「私とアーサーで遺体回収しながら時間を稼ぐわ。すぐに行ってきて」

「えと」

「とにかく行く」

タイシが複雑そうにはいと返事を返し龍をかりミオと王女を連れ空を舞った。そして、また違う洞穴へと来るとアスクレピオスが楽しく王女を背負い来たタイシとミオを見る。

『人は本当に面白い事をする。そして残虐だ』

「はあ」

「あの、直接あってのお話と聞きました」

『ああ』

アスクレピオスが光、人へと変わる。

『ああ。あれらがランカスターの襲撃で慌て始めている。先程のあの変わったものはその一つだ』

「あの、ええと、私はもう終わった後でしたので」

「巨大な芋虫の姿をした元人だ。ランカスターさんは死徒と話していた」

「シト?」

『なら私もその死徒になるな。ただ、あのような醜い芋虫はごめんではあるな』

アスクレピオスが告げるとタイシに近づき力無く頭を下げる王女を見てくすりと笑う。

『起きているな』

王女が僅かに震える。

『起きなければ私が飲み込むぞ』

王女がタイシの背を押しそのまま勢いよく逆さになりスカートを慌てて押さえながらミオと目が合うと顔を真っ赤にしあたふたとするも盛大に腹が鳴り響くと固まる。アスクレピオスがおかしく笑う。

「下ろしていいですか?」

「あ、ういう」

「下ろしますね」

タイシが王女をおろし王女がぎこちなく動きその場に座る。

『中々元気な娘だ』

「あの…」

ミオがしゃがみ袋のクッキーを見せる。

「良かったら…。少しずつお食べください」

「そ、そんなっ。こんな高いお菓」

ぐうううと腹の音が鳴り響くと王女が思い切り自分の腹を殴り今度は腹を抱え前のめりになると震えながら汗を滲ませるミオへと手を向ける。

「わ、わ、たし、は、み、みず、で」

『タイシ』

「はい」

『この娘。面白いから気に入った。私の友に渡す』

「お友達がいるんですか?」

『ああ』

ミオがそわそわとする。

「あの、どうやって作ればいいんですか?」

アスクレピオスがくすくすと笑い、タイシが話す。

「信頼におけるかおけないかと、話が合うか合わないか。あと年が近い奴とかだな。俺の場合ミオが知っている中ではハリーだな」

『私の友は人だ。人でありミオと同様私を怖がらなかった。あと、友は男だ』

「男なら」

『立場が違うし力も違うし私の趣味に合わん』

タイシがうんざりとし、アスクレピオスが話す。

『トルマルクの黒い悪魔と言われている武人だ』

「トルマルクの黒い悪魔?」

「あの人か」

ミオ、王女がタイシを振り向く。

「名前はカーチスストレイジさん。トルマルク王家皇太子の護衛官で常に黒い兜に甲冑を身につけている。顔を見たことがある人は皇太子と俺とアルスランさんと」

『私は見た』

タイシが頷き、王女が恐々とする。

「あの、戦でも大変なご活躍をなさっているとお聞きしておりますが…、常に黒い甲冑が血に濡れて」

「戦場ですと当たり前の話ですよ。後あの人は近接戦闘で常に近くの敵を相手にされてますから。ただ腕は確かです」

『ふふ。ああ。ちなみにあれの鎧にも私の身体の一部を与えている。あれは黙っているがな』

「一部…と」

「蛇の脱皮です。元体の一部になります」

『ふふ』

王女が頷き、アスクレピオスが話す。

『カーチスの元にやる。その後は好きにしたらいい』

「で、でも、その、も、戻らないと」

王女が手を振るわせる。

「なにを、されるか」

「身代わりにされたのなら戻れませんよ」

王女が口をつぐみ、タイシが話す。

「俺からもカーチスさん宛に書状を書きます。今回の事について。あなたはもうあちらにとって必要なく、逆に生贄として身代わりにされたのですから」

王女が俯く。

「あの芋虫に拉致されてそれで?何を言われたんです?」

「その、私を、餌にすると…。あと、私の王室のものがきたその時を狙うと。そして元の体に、戻ると言われてました」

「餌でも使えない餌だったようです」

「…そうですか」

王女が激しく落ち込む。

「ちなみにマーリスに親族がいると聞きましたし、そこが救命要請を出されたのです」

「え?いえ…。マーリスにはリリーシャの代わりに嫁にいけと言われました。その、ダミノス様の元に」

「あの、お年を召された公爵様」

「妙だな…。そこはまた聞いてみます。ただ今は命を狙われている身にもなっておりますしこちらも何を言われ何をされるかわからない現状です。ヤンガル国から。なので、しばらく身を隠してもらいたいです。そのカーチス侯爵の元に」

王女が表情を曇らせ俯き頷く。

「分かりました…。ご迷惑をおかけしたくはありません。申しわけありません」

「いえ。あと。ランカスターという名前。ご存知ですか?」

「ランカスター様ですか…。私は少ししか…。ただ、たまにメイドの方々が恐ろしくされておりましたし……ええと」

王女が気まずくする。

「わ、たしが分かっているのはその程度です」

「わかりました。なら、いいですか?」

『ああ。後で届けよう。さて』

アスクレピオスがタイシの前方ヘと回り両腕をタイシの両肩に乗せ軽く抱く。

『私の目をうまく使ったな』

「…あのですね。近い」

アスクレピオスがおかしくハッと笑う。王女が顔を赤くし、ミオがなにしてるんだろうときょとんとみていく。

「近いんですけど…、う」

ミオが驚き、王女がすぐに両手で顔を覆い隠す。そしてアスクレピオスがキスしたタイシを離す。

『さて。では連れていこう』

「あのですね」

タイシが顔を赤くしミオが話す。

「なんで、お口同士つけたんです?」

タイシが頭を落としアスクレピオスが吹き出し大笑いをした。


ーあの黒い悪魔か。

戻ってきたタイシ達へと遺体回収を終えて待っていたアーサー、メルルが出迎える。

「私はあの人は真面目だと思うわ。性格は硬いけど」

「ああ。あと、甲冑なしでも普段から仮面をつけて顔を隠しているからな」

「俺はその理由を知っているんですよね。ただ、話してはダメだとキツく言われてます。本人から」

「なんだそれ」

「見せたくないって事でしょう?素顔を。あと、アーサー。あなたが受けた依頼が正式なものかもう一度確認するしかないわね」

「ああ。あと、ダミノスの爺さんにもだな」

アーサーがやれやれとし遺体袋を見る。

「でないと、あいつらも浮かばれない。そして、ここのところ山脈で行方不明者が多発しているのはこいつが原因かもしれないな」

「ええ。元々山脈越えで死者が出るのが当たり前だったものね」

「その前にこの山脈超え事態がおかしな話でしたからね」

「悪かった。ランカスターの目を欺くためだと言われたがなくても来たしな」

「それより早くまた戻って依頼者捕まえたら?」

「その点ご心配なく。一応怪しんでたんで見張らせているからな。あと王女様だが」

アーサーが龍に乗り眠る王女と付き添うミオをみる。

「アスクレピオスがじゃなかったのか?」

「話しておくそうだけだそうです。届けるのは任せたとの事でした」

「はあ」

「仕方ないわ。ただ、まさかストレイジ公爵がご存じとはね」

「むしろその人も秘密ばかりを持っているからわからないんだよな。ただ、戦場では相当腕の立つ相手と言うのは知っている。見たことあるか?」

「ええ。腕は確かですし魔術騎士としてもご活躍されてます。王たちからの信頼も厚いです」

「ええ。まあ、でも引き受けてくれそう?」

「相手が相手だしイーロンがあれば次に厄介なヤンガルだ。その時の対応次第で変わるが、今は俺は依頼主捕獲優先だな。そしてこいつらを連れて行かないといけない」

「なら私はミオを連れて行くわ」

「そうしたら王女は?」

2人がタイシを見るもタイシがアーサーを見るとアーサーがため息をし、メルルがまあ確かに最初はそっちよねと視線をアーサーへと向け直した。


メガネの三つ編みにインテリを思わせる面持ちをしたギルド長がアーサー。そして縄で縛られ床に座った男を見る。

「名を使われたダミノス殿もお怒りだ。流石にこの件については国の問題として上げさせてもらう」

「国の問題ですか」

男が面白く笑ってみせる。

「王のいない国が問題として挙げられると思うか?」

「心配無用だ。いまや王代理もいればか」

ギルド長が立ち上がり出入り口とはまた違う部屋の扉を開けると男がその扉の開けた先を見て驚きアーサーがやれやれとし楽しく笑みを浮かばせながら出てきたダリスを見る。

「出たな枢機卿」

「ふふ。幽霊として出たわけではありませんよアーサー」

ハリス、そしてサイモンが護衛として付き添いその場に立ち、ギルド長が話す。

「同期でしたね」

「ええ」

「そうですよ。あと、一応遠縁でもあります。そっちも何か探ってただろう?」

「はい。悪魔に取り憑かれた後の遺体」

「元王女?」

「他もですよ。彼は墓荒らしもされた」

「なに?」

「では、葬った元王者の遺体の行方は?」

「死徒」

男が脂汗を流し、ダリスが話す。

「聞きました巨大な化け物にされた元人。あれの材料ですよ。芋虫でしたよね?」

「ああ。なら、奴は最近あの姿になったわけか」

「ええ。そして、王女が召喚した悪魔も芋虫の姿をした悪魔でした。なのでこうしましょう」

ハリスが袋を持ち前に出ると男の前に下ろし袋を下ろす。男がビクッと震え干からびた真っ二つに切断された男の子死体を見て震える。

「この男は3年前に悪魔を召喚したものです。地面に埋められても未だ骨になっていない。ですので私たちは悪魔を召喚した後死んだ者について火葬して葬っているのです」

「ああ。で?そいつをどうするんだ?」

「もちろん。試します」

ダリスが折り畳んだ魔法陣を開くと男がそれをみて血相を変える。

「も、申します!!もうしますからそれだけはやめて下さい!!お願いいたします!!ば化け物になりたくないっ!!!」

アーサーがやれやれとし、ダリスがふっと笑う。

「死徒ってのはなんだ?」

「生者の血肉を喰らう元人です。特に元同種族。つまり、私たち人を好んで食べる吸血種の人工キメラです」

「吸血種か。なら食べ多分力を蓄えるわけだな」

「ええ。聞けばアスクレピオスもそうだとか」

「どこで聞いたんだかな地獄耳め。だとするとあの芋虫は今行方不明の奴らを食って力をつけたわけか」

「そう言われるならそうでしょう。あと戦われてどうでした?」

「でかい割には早い。あと、Aランクに上がるやつが殺された。それで実力はわかるだろ?」

「はい」

震える男の前に魔法陣の紙を置く。

「さて、教えていただきましょうか。あなたが知っていることを全て。でないと、発動させます。すぐにー」


ーわ、私が自分で洗います。洗いますので。

「しずかになさいっ」

ナターシャが王女を抑えメイドたちが苦笑しつつ王女の服などを脱がせる。そして骨ばった体を洗うもその体には無数のあざ、火傷の跡があった。メイド達が気にしつつも丁寧に洗い、王女が顔を真っ赤にしながは洗われていくと今度はボサボサの髪を丁寧にほぐされ汚れを落とされた。

「虐待ですか…」

ミオが告げ浴室から出たナターシャがため息をする。

「ええ。あと、教育もまともに受けてないようよ。あなたよりか酷いわね」

「そうですか…」

「ええ。あなたは、物に恵まれなかったけれど人には恵まれていた。あちらは物には恵まれていたけれど人には恵まれていなかった。あなたと違ってあちらはこれから先覚えていくことが難しく険しいと思います。後は本人の努力とこれからの周りの変化でどれだけ変われるかになりますね」

「周りの変化…」

「そうですよ。あなたも、生活が言えば一変して変わったでしょう?けれど受け入れている。あちらはそれが受け入れられるか。周りもしっかりと受け入れてくれるかですね。あなたのように後ろ盾もなさそうですから」

「その、えと」

ミオが戸惑い表情を曇らせる。

「私は…その、確かに1人ではナターシャさんともお会いできませんでしたし…他の方とも」

「はい。それはやはり人に恵まれ人との繋がりがあったからできたのです」

「はい…。でも、王女様はないのですね」

「変わり身。そして身代わりにされていますからね。あちらが」

ナターシャがはっとしすぐに頭を下げミオが後ろを振り向く。その視線の先にヴィクトール、ハリスにサイモン、アーサー、そしてそれらに囲まれるようにダリスが立っていた。ミオがハッとしナターシャをサイモンと見ていくとオロオロとする。サイモンが軽くダリスに頭を下げミオへと近づく。

「えと」

「申し訳ありません突然」

サイモンがそう告げダリスを示す。

「お話ししました私の上司にもなるダリス枢機卿です。あと、同期のハリスになります」

ハリスが頭を下げ、ダリスが話す。

「こちらにおられるとお聞きしましたので。もう1人もです」

「双子の王女です」

サイモンがこそっと話すとミオが頷く。

「こちらで席はご用意しております。ナターシャ。よかったらあの彼女を部屋に後程連れてきてくれ。ミオは枢機卿達と部屋へ」

「はい」

「は、い」 

サイモンが申し訳なく緊張しやや戸惑いの表情を浮かべるミオへと申し訳ありませんと囁くとミオがなぜ謝るのか分からなかったが僅かに頭を振り答えた。


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