マーリス3
アスクレピオスが洞窟の中ですうと静かに寝ていた。だが目を覚ましにたりと笑う。そして、光が現れると震えるハリーがアスクレピオスを見つけビクッと体を震わせミオがその黒い巨大な蛇を見て驚く。
「綺麗」
「え…」
アスクレピオスが吹き出し笑う。白夜が毛を逆立て尾を下半身へと向け丸め納め萎縮する。
『滑稽なことを言う小娘。さて、なんの用だ』
ミオが白夜から下りると足を引きずりアスクレピオスに近づく。
「ミ、ミミミオ」
ミオがアスクレピオスの前に止まる。
「イオさんがこちらに来ていると聞きました。タイシさんの代わりにあなたのお相手になるとです」
『ああ。そうだ』
「なぜお相手を探されているのですか?あなたはまだお元気そうです」
アスクレピオスがふふっと笑いミオに顔を近づけると白夜とハリーがあわあわとしていく。
『元気というのは関係あるか?特にないだろう?』
「でも、元気なうちな方がいいと私は思います。母はいつ死ぬかもわからない病気で父の邪魔にしかならないとのことで父の元を離れたと聞きました」
「え…」
「あなたもそうなのですか?」
ハリーが目を丸くし、アスクレピオスが話す。
『それはない。ただいつ死ぬかわからないからこそ、相手が欲しかった』
「その相手が何故人なんですか?人が好きなんですか?」
ミオが疑問に思うことを告げ、アスクレピオスがじっと見るとふっと笑う。
『否。ただ、私は私が欲しいものを好むだけ。今回はあの童が欲しかった。そして、私は試したい。人との間に子が産まれるかと。私は元は人だ』
ハリーが驚愕し、アスクレピオスが人の姿へと変わる。
『人が私をあの姿へと変えた。私と同じとなれば今のガルダもそうだ』
「今のガルダ?」
『20年ほど前ガルダは違うガルダだった。そして、そのガルダが死に新たなガルダを作り野に放った。オリウスというもの達を知っているか?』
ミオが頭を振る。
「知らないです。初めて知りました」
『ならあの童に聞くがいい。奴らが私やガルダを人から獣へと変えた。私たちは言えば魔物の王とも呼ばれている倒すべきものとしている』
「魔物の王?」
『勇者といえばいいか。それらが退治するための対象物が私達だ。そして、私やガルダ以外に獣にされたものは多くいる。もちろんその中には自我を持つものもいればそうでないものもいる』
「なら、自我を持っててなぜ殺されたりするのですか?」
『死にたくないからだ。そして、私の話など聞くものはそういるわけがない。ようやくお前は聞いてくれた』
「でも、タイシさんについては意地悪すぎます。ちゃんと話をすれば聞いてくれます」
アスクレピオスがふふっと笑う。
『そうか。まあ、今は私の血を飲ませた。多少話はできよう』
「血を飲ませて出来るんですか?」
『ああ。いわば契約のようなものだ』
アスクレピオスが手首を切り血を出し流すとミオへと楽しく向ける。
『そちらも飲んでみるか?』
ハリーと白夜が大きく頭を横へと振り、ミオが話す。
「はい」
「いやはいじゃだめえええっ!」
ハリーが叫びミオが口をつけアスクレピオスの血を直に含み飲む。アスクレピオスが吹き出し笑いミオが顔を顰める。
「妙な味です…」
『酷いな』
アスクレピオスがくくっと笑う。
『小娘。名は?』
「ミオです」
『ああ。なら、ミオ。私はエルフに興味がない。それにやつも私の相手はしたくなかったようだからな』
アスクレピオスが青ざめ苦しむイオを浮かせる。
『お前達が私の残した鱗に触れたので生かしておいた。少し私の毒を与えたが童ほどの効果はない。連れて帰ればいい』
イオをハリー達の前に下ろすとハリーが慌てて白夜から降りイオを見ていく。
「タイシさんの目が赤いのはなぜですか?」
『私の力だ。そして童に伝えろ。私の力を上手く使えと。あと、オリウス。童でも構わない。奴らを全て滅ぼせとだ。あと、3年の猶予は与える』
アスクレピオスが指を3本立てる。
『時が過ぎたらお前は私の物で私と一生を暮らすことになるとだ』
「それはタイシさんの事が好きだから言われるのですか?」
『ふふ。さあ。ただ、他の人間と違うところには惹かれた』
ハリーが呆然としアスクレピオスがミオを抱きしめる。
ー暖かい…。
『お前に私の一部を授ける。馬鹿なもの達を妨げる結界となる。使い方はドワーフや術師たちに聞くがいい』
アスクレピオスが離れ自らの髪を握り肩から切り落とすとミオに渡す。そしてアスクレピオスが蛇へと変わると髪の毛が鱗のついた蛇の皮の一部へと変わる。
『またどこかで会おう。ミオ』
アスクレピオスが霧となり姿を消す。ミオが驚くがぺこりと頭を下げるとその鱗のついた皮を見て掲げ綺麗と声に出し目を輝かせるもはっとし足を見下ろすと痛みがなくなり額の傷もまた触れると綺麗に塞がっていた。
ーまあ、結論として。
ベッドに寝込んだタイシへとオーガン、ハリー達と集まったもの達がいう。
「お主はモテる男だな」
「だねー、モテすぎ。なんか腹立つ」
「しかしアスクレピオス。天災と言われる魔獣にモテるとは驚きましたね」
タイシが顔をしかめ、オーガンが隣に座ったミオを振り向く。
「しかしだ。長生きはするものだ」
「え?」
「アスクレピオスだ。そして、オリウス。奴らか」
「魔術師達の巨悪だからね」
「巨悪?」
「うむ。そしてわしらと敵対しておる組織だ。あと、まあここに教会のものがいるから言えば、教会の一部も手を貸しておる」
サイモンがダンマリとし、ハリーが話す。
「わかってる人にはわかってるんだけどどーしようもないんだよ」
「うむ。まあ其方が悪いわけではないし、言えばたまに協力しあうこともあるからな」
「えーと、こちらはそのようなことはしておりませんから…。まあ、前の部署はそうでしたけど…」
サイモンが気まずくし、オーガンがやれやれとする。
「アスクレピオスの事が事実であると言えるならガルダは二代目のガルダであること。そして、人を材料とし魔獣を作っていると言うことだ」
「うん。珍しい見たことがない魔獣がその可能性高いかも」
「ああ」
「こちらも初めて聞きました。あと、勇者達の言えば生贄のような存在になっているのですね」
「そうだな」
「でも、あのオリウス。正直滅ぼそうにも難しい相手だからね」
「叩いても叩いても出てくるからな」
オーガンがやれやれとしタイシをみる。
「タイシ。お主は勇者にならぬかという誘いはなかったか?」
ーありましたよ。
タイシが念話を通し話す。
ーでも、なったところで自分がやりたいことなんて正直言って出来ませんでしたから。そして断った後、その連中か知りませんけど攫われかけたんですよね。まあでも、俺はその時まだ師匠達の元にいた時でしたから、ラドンがやって来てそいつら食いました。
「哀れよなあ」
「知らなかったのか知らないけど可哀想」
タイシが頷き、ハリーが話す。
「ミオ。オリウスは僕たちと同じ魔術師だけど悪魔信仰を推奨している組織でもあるんだ」
「その、あの、虫のようなものを?」
「それはまだ低俗の悪魔。でも、低俗でも悪魔の力をより濃く身につければ簡単には死なない。時間が経てば死ぬけどその時間が経つ前に、供物。言えば生きた生贄を悪魔に渡せば生きながらえる。その供物や僕たち人。考えるもの達が特に悪魔にとって好物でね。話に聞いたその悪魔は多分ミオたちの元に来る間に、5人は食べたはず。そしてその中に今回の犠牲になった国王もいた」
「王様も…」
「そう」
「他を庇い悪魔に食われたとのことだ。肉体はなんとか残りはしたが酷い有様でな」
ミオが頷き、サイモンがそうですと頷く。
「こちらが確認できたのは3名が同じような状態でした。そして、悪魔召喚には最初の犠牲者が必要ですのでおそらく行方不明となった看守ではないかと思われます」
「召喚にも生贄を使うんですか…」
「ああ。ただ、その時の供物はなんでも良い。塊肉でもなんでも。そして、今回は生きた人間だが、召喚者の力が弱ければ位の高い悪魔も出てこぬからな。あの妹姫は力が弱かった故、人を生贄にしても低俗悪魔しか出てこなかったのだろうな」
「そうだね。後低俗とは言え、退治するのはそうそう出来ないからね。最後は枢機卿がとどめ刺したけどそのままだったらミオが退治したようなものだし」
「その、あのイモムシ…」
ハリーがそうと頷きオーガンが話す。
「低俗とはいえ悪魔。あれはしぶとく蘇る。だから、一度で退治出来たのは出来ないことだ」
「だね。後悪魔によっては実際にある武器。触れる武器に有効なやつとそうじゃないのといるから見分けるのも大変なんだよ。そして、上位になればなるほど災害級を超えるし、僕たちでも相手にするのが難しい上、退治することもできない」
「そうだ。唯一できることとすれば封印。もしくは契約者との契約を断ち切り悪魔を元の場所に帰らせることだ」
「でもそれもまた難儀なんだよね。だから、悪魔召喚はしてもらいたくないんだよ正直」
「ああ」
ーただ、悪魔と暮らしている人もいるな。
「え」
「そう。でもそれは稀」
「じゃな。よくあるのはここで今回あったような悪魔召喚による事件になる」
ノックが響くとサイモンが扉を開けバトラーが頭を下げる。
「失礼致します。皆様。お食事はいかがなさいますか?」
「あ、もうそんな時間か」
「わしとハリーはよい。帰るからな」
「私もです」
「私達も宿に戻ります」
「承知いたしました」
オーガンが頷きならまた様子を観に来るとタイシに伝えるとタイシがわかりましたと返事を返し、エリスがミオにアスクレピオスの脱皮した皮が入った袋を見せ話しておくことを伝えるとミオがお願いしますと答えた。
ーはあ。
ナターシャが綺麗に治癒されたミオの足首に触れる。
「腫れも綺麗になってますね。けがも」
「はい。ご心配をおかけしました」
「はあ。そうね。でも無事だったからいいわ」
ナターシャが足を下ろしふうと息を吐き出す。
「あの、その、王様の妹さんの、供養とかは…」
「国葬はもちろんされないわ。後。教会が行う話。悪魔召喚で残された体も全て汚れ切っているから」
「浄化されたのに?」
「そうなんですか?」
ミオが頷き、ナターシャが戸惑う。
「悪魔召喚のこととか、またいろんなこと聞きました」
「はい」
「なら、タイシさん達なような召喚者はどう召喚されてたのかなと。ここに来ていたのかなと。元々イーロン国から始まったと聞いたのですが…本当かなと」
「あーえーと、私もそこは」
ナターシャが困惑し悶々とするミオを見る。
ーこの子はなんでも知ろうとすると怖いもの知らずになるから怖いのよね…。
「サイモンさんに聞いてみようかな…」
「聞ける方がいるならそうされた方がいいわ」
ミオがはいと返事を返し早速紙とペンを出すが助けを求めるようにナターシャを見るとナターシャがはいはいと頷きミオにどう書きたいのかを聞きながら書かせた。そして、書いた紙を鳥の形におると窓を開け息を吹きかけ飛ばす。するとその紙が1人でに動き空を舞い教会へと向かう。
「まあ。何の術ですか?」
「死んだ母が教えてくれたんです。用事がある時はこうやって飛ばしてと。村でも村の人たちに飛ばしてましたが役人さんが来た時はしませんでした」
「なら、秘密の力なのね。お母様の」
「秘密?」
「そういった役人には知られたくない力よ。村の人たちは便利だから教えなかったんでしょうね」
ミオが頷き、ナターシャが話す。
「ええ。あと、あの紙はサイモン様にも使われたことあるの?」
「いえ。今回が初めてです」
「はあ。分かればいいけど」
ナターシャがやれやれとする。そして、鳥の紙が教会の中へと入り天井をふわふわと移動すると教会のもの達が見つけ驚き不思議そうに鳥の紙を見る。その後ある部屋の前へとくると鳥の紙が止まり右往左往と始める。それをみて茶を手にした見習いの少年ノックし開けられた扉からサイモンへと話す。
「失礼致します。あの」
鳥の紙がサイモンの額に向かうとサイモンがすぐさま指で掴み驚き見る。
「その、鳥。飛んできました。伝書鳥と違うようで」
「ええ。あと、紙」
サイモンが眺め文字が書かれているのをみて開くとさらに驚く。
「どうかされましたか?」
「あ、はい。すみませんね。私宛の伝書鳥です。こちらはいただきます」
「はい」
サイモンが少年の手からお茶を取り中へと戻る。そこに、ハンス、ダリスがおりダリスが話す。
「その紙。ミオ殿の力を感じますね」
「あ、はい。わたし宛になります。分かるのですか?」
「ええ。もしよければみてもいいですか?」
「はい」
サイモンが紙を向け、ダリスが受け取り見ていく。
「悪魔召喚の後の遺体の行方との事です」
「なぜ?」
「タイシ殿たちの召喚と関わってないかとのことだ」
「異界のもの達の?」
「悪魔もまた悪魔の世界から呼び出され来ますからね」
ハリスがダリスを振り向き、ダリスが話す。
「遺体は確か、マルタ神父が埋葬される予定でしたよね」
「はい」
「念のため調べてみますか?」
サイモンがはいと返事を返しダリスがその前にと持って来た茶を飲んだ。
ーそのままだな。あと、こんなふうになるとは…。
完全に生気がないしわがれミイラ化した女の遺体をサイモンがみていき年配の男マルタがダリスへと話す。
「その…実はこの遺体ですが私どももどう扱えば良いか困っておりまして…」
「え?」
「初めてなのです。悪魔になった方のご遺体を埋葬するのは。祈りはしましたが…」
マルタが申し訳なくし、ダリスが話す。
「私たちの本部があるアストレイでは月に一度は悪魔を召喚したことによる遺体を埋葬します。ここでは悪魔召喚の事件について話は聞きませんですからね」
「はい…。なので、蘇ったりしないのか…。これで良いのかわかりませんでして。マクレーン大司教より祈り埋葬しなさいと頼まれたのはいいのですが…それで良いものかと……」
ー埋葬?
ハリスがサイモンを振り向くと今度はダリスを見る。
「その、大司教様はああ言われましたが……、不安でして」
「ええ。あと、それで問題ありません。もし何かありましたら私たちもまだ国葬が終わるまでこちらに滞在します。私がいなくてもサイモン達がおりますのでご心配はなさらないでください」
マルタが安堵しはいと返事を返しわかりましたと答えた。
ヴィクトールがミオへと申し訳なく謝罪しミオがいえいえと頭を振る。そして、食事が今度はナターシャの部屋に運ばれるとナターシャと共にその部屋で食べていく。
「サイモン様にはお手紙届きましたかね?」
「あ、多分。誰か取られたのはわかりました」
「本人ではないかもしれないですよね?」
「はい」
「…まあ、鳥便の場合戻ってこなかったら分かりませんし戻って来ても本人か確認が取れようにもありませんしね」
「そうなんですか?でも、タイシさんが動けなかった時に代わりに受けてくださいと」
「なら、通常の鳥便ではなく召喚獣ですね」
「あの鳥さんが召喚獣なんですか?」
「見ていませんが代わりにと言われたのならその可能性は高いでしょう。召喚獣を使った郵便は通常より高いですがとても早く本人に確実に届けます。そして本人が許可を出した場合のみ手紙を渡してくれるのです」
「そうだったんですね」
「はい」
「あの、ちなみに召喚獣だとおいくらですか?」
「ええ。銀貨1枚」
ミオが衝撃を受ける。
「パ、パン28個分…」
「あなたの今までの暮らしを考えれば高価ですものね」
ノックが響きメイドがデザートを乗せたワゴンを押し中へと入る。ナターシャが固まったミオへと戻って来なさいとやれやれとしながら話すとミオがこくりと頷き残りの皿に乗せられた食事をやや急ぎ平らげた。
マルタが墓地の端に埋葬した女へと祈りを捧げるとその場をシスターと共にさっていく。そして、ポツポツと雨が降り始める。ナターシャがミオと共に眠るがたまにナターシャが唸るとミオが起き頭を撫で落ち着かせ本格的に降り出した雨を屋敷の中から見ていく。
ー来るかな…。
黒づくめの姿になったサイモンが隠れ潜みながら墓場を監視していた。そして何かの気配を感じると息をより顰める。そこに雨が弾く結界を張ったものが暗闇の中女の墓の前へと来るとしゃがみ銃を使い地面を掘り上げる。その後女の遺体を袋に入れ再び地面を元に戻した後女の遺体が入った袋を担ぎ離れていった。
後日ー。
ーきっつっ。
タイシがハリーの手を借り手すりに掴まり歩行練習をしていた。そこは魔導局の医務室内で、タイシがぜえぜえと息を弾ませる。
「く、そ。こうも、自分の体が動かせないのは辛い」
「しょうがないよ。死にかけてたからね。焦らずゆっくりしていくしかないよ」
「ああ。あと、悪いな付き合ってもらって」
「本当だし、仕方ないね。みんなで取り合いしたからさ」
「俺はそんなにモテたのか?」
「けっ。はいはいモテてますよ。タイシがドンカンすぎなだけで今まで気づかなかったの」
「…そうか」
「そうだよ。だーから、僕とかモテない野郎が付き合ってあげてんの」
「…はあ」
「なにさ。何か文句ある?」
「いや。安心しただけだ。信頼出来るからな」
「……そ、そう?」
タイシがああと頷きハリーが照れつつなら仕方ないよねとブツクサ良いながらリハビリの助手を務めた。
ーどうしようかしら…。
ナターシャがふむと考えながら礼儀よく紅茶や菓子を食べるミオを見る。
ー礼儀、振る舞い、所作は思ってたよりも早く習得したし、この子頭も良かったし……。でも。
「んー」
「どうかされましたか?」
「他の人達と、あなたがお話をする機会をと思ってるのよ。でも、私もあまり遠くまではまだ行くのは怖いから…近場で誰かいいお友達はいないかと思って…」
「お友達をお誘いするとか」
「それもいいけど…、まだ屋敷内に入れるのは、私個人として遠慮したいの…。あのようなことはないだろうけど…」
ナターシャが不安に話ミオが頷く。
「ええ。だから、近場で小規模で同じ年頃の方で……うーん」
ナターシャが悩みに悩んでいく。
「私の屋敷に招待するわ」
最終的にナターシャに頼まれきたメルルが告げる。ミオがややうずうずしながら頷き、ナターシャが話す。
「ごめんなさいお姉様。お忙しいのに」
「いいわ。たまの息抜きって事でね」
「はい」
「あの、お知り合いの方同士でお話しするのに…、なぜそんなに…招待?」
ミオがおしゃべりする老人達の団欒を思い出しながら首を傾げるとメルルが話す。
「貴族の知人や友人同士では必ず約束をしないといけないのよ。一般の人達は約束なしでもあってその場で団欒しあったり食べ歩きしたらできるけど貴族同士では出来ないの。それは恥ずすべきことという考えでね」
「そうなんですか?」
「ええ。まあ、とんでもなく仲のいい友人。または、失礼な方に関しては別で、突然の来訪はよく思われないのが貴族の方達の考え。だから必ずお話をしましょうの時は事前にこの日にいかがですかと言うお尋ねをするか、今回みたいなお茶会を開く場合招待する必要があるから各家に招待状を配る必要があるのよ」
ナターシャがそうそうと頷く。
「そーしーて、ここでまた面倒なのは階級によっては招待をしないさせないと言う場合があるの。ナターシャの様な侯爵家の生まれだったら一番上だと王家の王子様や王女様達もご招待していいの。だけど、男爵、子爵は駄目」
「どうしてですか?」
「そこはやはり階級制であり、下の方がより目上の方を招待するのはおかしいと思われるわ。目上の方が下の方を招待するのはいいわ。だけど、その逆は一般人でもしないわ。あなたも村で暮らしていた時役人のその上の方を呼んだりしようと思ったことはある」
「えと、いえ…。そういった考えを持ったことありませんでした。あと、役人さん達がお前達が会うことなどできない方だと言われてました」
「ええ」
「その、下だと会う方にも会えなかったりするんですか?」
「そうよ。たとえどんな事情であれ人には階級がつけられていて下に見られたら上の方には会えない。会うことすら許されない場合もある。だからその場合は代わりに伝えて欲しいってお願いする方法もあるけど、意地悪な人はそこで話を止めたりするわけ。そして伝わらない」
ナターシャが強くうんうんと頷く。
「私は伯爵家で、同じ伯爵でおじさまと同じ階級を持たれている方と接点のある方に話をしたいので良かったら手紙を届けて欲しいとお手紙を渡して頼んでいたの。だけど、渡してくれず当日場は設けたのに本人は来ず。おじ様を巻き込む事態になったけどお願いをしてお話ししてくれて少しの時間だけお話しする機会をくれたわけ。ちなみに話についてはその方の祖母と私の祖母が親友で手紙は祖母からのお手紙で息子さんである独身の侯爵の息子様を招いて孫娘であるわたしと一緒に話をさせたい。まあつまり縁談ね」
「縁談のお約束を」
「ええ。でもわたしはわたしで助かったわ。まだ結婚する気ないし。そして、無礼を働いたその伯爵についてはお誘いした侯爵様と叔父様が冷遇されてしばらく無視されたり冷たくあしらわれたと聞いたわね」
「当たり前です」
ナターシャが強くいいメルルがやれやれとする。
「こういった貴族同士のトラブルもごく稀にあったりするの。そして、お茶会は招待状を出す必要があり、招待をする家はそれに向けて誰を招くか。お相手の階級や相手同士の立場と仲の良し悪しについても考えないといけないわけ。仲が悪いもの同士知らずに集めたらその場は嫌悪の場になってしまうし、後でとんでもなく嫌われる場合があるから招待客の事情も知る必要があるわ。それから当日使うテーブル、お茶、お菓子からなんでも準備が必要。それを考えるのも全て招待側なのよ。招待された側はその日に招待状を持っていけばいいわ。あとは,失礼のない格好で。でも夜会とかではないからそんなに豪華にしなくてもいいわ」
「はい。あと、その時に流行の服を着るのもまたいいですよね」
「ええ」
「服の流行?」
メルルがじいと見ていき、ナターシャが話す。
「私たちの日常の通常がまだどれだけ分かっているのか私も分からないのです」
「ええ。なら、仕方ないわね。あと、確かに服は変わらず同じものばかりだっただろうし」
ミオがはいと頷き返しメルルが話す。
「ええ。ちなみに服は?貸してるの?」
「今ははい」
「ええ。じゃあ、せっかくだから貴方ようで買いましょうか。お金はあるんでしょ?」
「その、あります。ありますが、あの、メルルさん」
「なに?」
「その、私ギルドで」
ナターシャがああと声を出す。
「そうでした。ギルドの狩猟にはいられてます彼女。そろそろ期間がどうかという事でした。以前砂漠での出来事で更新はしたとのことでしたがあれからまた何もしていないそうです」
「あら。そうなの?」
「はい」
「分かったわ。なら確認してみるわ。更新が近かったら私が付き添うから採取でもなんでも行きましょう」
ミオがはいと返事を返しメルルがええと頷いた。
魔導局ー。
ハリーがタイシのリハビリの柔軟の手伝いをしておりタイシが前へと体を折り曲げていくとハリーが後ろから軽く押しながらぺたあと上半身をつけたタイシを見て思わず声を出す。
「うわあ。柔らかいね」
「でも、やっぱり普段より硬くなってる」
「これで硬いなら僕はさらに硬いよ」
そこに人形を肩に乗せたオーガンが来る。
「あ、じい、じゃなくて局長」
「ああ。しかし思った以上に回復が早いな」
「ええ。やっぱそこはアスクレピオスの力ですね」
「そうか」
「はい」
タイシが体を起こしオーガンの後ろ、部屋の入り口へと視線を向ける。
「問題を起こした皇太子とバランティア伯爵は?」
「ああ。まあ、告げた王が亡くなったのでな。追放ということではあったがお前と今王の代理を務めておる次期王が人のいない無人島で何もできるわけがないし労力の無駄。そして人を見ず学ぶことなどあるわけないとの事で、皇太子についてはサムタイ国海軍の下に働かせることに決めたそうだ」
「え?」
「アストレイ海軍と1、2を争うとこですね」
「そうだ。イーロンがあればまた変わったかもしれんがな」
「あそこは実力と言うよりも人力ですね。そしてゴミ同然に扱い見捨てる」
「そうだったな。今はそのイーロン国元海軍はアストレイが牛耳っておるしな」
「へえ」
「むしろ喜ばれていますよ。食事も環境もいいと。特に海軍の方からは」
「ほほほ。まあ、そうだろうな」
「そんなにひどかったの?」
「ああ。病気にでもなればすぐに殺されるか無人島に放置か海に投げられるかのどちらかだったからな。そして、よく犠牲になったのが金のない村や身分の低い貴族の坊ちゃん達だった。イーロン国海軍について2年前の戦争の内部告発者と戦争による無関係者の保護や避難の協力をした後はアストレイの傘下に入った」
「ふーん。ならさ。なんで山間の村は全滅させたの?海は良くて山は?なんで?」
「薬じゃ」
ハリーがオーガンを振り向く。
「村人全員が違法薬物の製造法を知っていればその薬物を食事として摂取していた生活を送っていた。ミオについてはミオから聞いた話だと子供はまだ食べてはいけないと言われていた事。母親から絶対に口にしてはならない。触ってはならないと厳しく言われていたそうでな。だから、村では洗濯係と薬物を使わない食事を作り村の老人達の世話をしていたそうだ。そして、薬物に関してやはり話に聞いた症状が出ていれば子供が産まれても死んだり体の部位が一部欠けていたりする子が多かったらしい」
「んー、でも、子供は関係ないんじゃ…」
「そうしたら村全てがそうであった。悪いのは薬物について危険ということを教えもせず作らせ食べさせもしていた上の連中だ。山間の全ての村にあった薬物。麻薬は国など簡単に買えるほどの量で燃やすのにもまた手間がいった。煙をなるべく出さぬよう吸わぬよう根本から種から全て燃やしたからな。ちなみにまーだ残っており、わしらのところからも交代で人を派遣しておる」
ハリーが驚きタイシが話す。
「誰にも言うなよ」
「そうだ。まだ残っているからな」
「分かった。でもやっぱり、納得いかないとこもあるなあ」
ハリーが複雑そうにし、オーガンが話す。
「気持ちはわかるがもう、終わってしまった。そしてまた同じことが起きないようにしていくしかないのだ」
「うん…」
「戦争は嫌な思いしか残さない」
「そうだ。戦争をして喜ぶのは心が澱んだものだけだ」
「ええ」
「うむ。さて、タイシ。また検査だ」
タイシがはいと返事を返しハリーの手を借り立ち上がった。
ーあれ、皇太子の方かな。部屋の外にいたんでしょ?
ハリーが医務室で診察を受けるタイシへと尋ねるとタイシが頷く。
「ああ。いた。目もあったしな」
「やあれやれ。あと、じいちゃんが世話人になったな。おせっかいすぎるから」
「ああ。バランティアは知らないがな」
「一緒じゃないの?」
「一緒じゃない。局長も皇太子しか話してなかっただろ?」
「あー」
「それに、騙した騙された同士だ。一緒だと何されるかわからないから多分他が引き取ったんだろ。代理の命令とかで」
「うん」
「一応、俺から多少の恩義の計らいはしたから少しは甘くはみてもらえるさ」
「タイシもあまあまだね」
「やっぱり早い」
医師が検査結果を見ていき、待っていたハリーが話す。
「回復が?」
「ああ。いいことではあるが尋常じゃないからな。ちなみに、もし婚約が破談した場合この回復力はどうなるだろうか?」
「さー、知らない」
「…婚約期間」
タイシが嫌そうにし医師が話す。
「だってそうだろう?あと、ミオ殿か。そちらも調べたいんだがよべるだろうか?」
「血を飲んだから?」
「そうだ。あと、アスクレピオスの皮で作られた道具ができたと母から聞いてな。それも含めて呼んで欲しい」
「だって」
「わかりました。話しときます。あと迎えはハリー頼む」
ハリーが分かったと返事を返した。
ー半月。
「まあ、気づいて良かった方ね」
日の指す明るい森の中でせっせと依頼のあった薬草を採取するミオへとメルルが伝えるとミオが頷く。
「はい。あと、薬草はどこも同じなんですね」
「育つ条件が一緒なら一緒の薬草が育つわ。でも薬草の中でも貴重なものもあるのよね。龍の皮膚にしか生えない苔とか」
「竜の皮膚にですか?」
「ええ。実際取れるしティーチ。タイシが仕留めた竜にも生えていたわ。その苔は通常の苔とは違って龍の力を養分に育っているから解毒薬とかと混ぜれば効果がより強まるの。だから、小指程の量で金貨10枚の価値なのよ」
ミオの頭の中でミオ自身が大量のパンに埋もれる。
「でも相手は龍。採取するには龍を退治するしかないからSランク任務になるのよね」
「は、はい。でも、ええと。生き物以外に生えるものも」
「あるわよ。溶岩のそばにしか生えない火炎草。満月の夜の一時間のみさく花。月華草」
「月華草は綺麗なおはなですか?」
「ふふ。そうね。でも、咲く場所は海の切り立つ崖の隙間。風を使って浮いてとればと思うけどここでもまた魔獣達が暮らしている場所でもあるわけ。だから、邪魔をしてくるからこれもまた採取が難しいわ。でも、龍より優しくてAランクね」
「それでも、海に崖に魔獣なんですよね…」
「そお」
きいと音が響くとメルルが立ち上がり剣に手をかけミオが不安な面持ちをする。
「なんの鳴き声ですか?」
「魔獣。あと、イーロンとの戦争で生息地も変わってきてるから参ってるのよね」
「助けてくれーーー」
「助けて助けてええ」
ミオがドキッとしメルルがしっと声を出す。
「灰色猿よ」
「え?」
「人の声を真似するの。そうして誘き寄せて一斉に襲うのよ」
しんと場が静まる。ミオが手を震わせメルルがその震えを感じ取る。
ーまだ戦闘経験が浅いものね。
森の奥から赤目の灰色の猿達が一斉に現れる。その口に人の腕がぶら下がっていた。メルルが剣を抜き火炎を放ち一閃すると周囲が燃え灰色猿たちもその火焔を浴び苦しみもがいていく。
「魔剣?」
「ええ。そう。あと、新人ギルドかしら?もしくは旅人ね」
メルルがとどめを刺しつつ薬草を持つミオを連れ進む。そして徐々に血の匂いが届くと血に塗れた皮鎧の若い少年少女達、4名が力無く倒れていた。
「新人達ね。薬草採取か何かで奥まできて襲われた共見ていいけど、変ね」
「き、切り傷」
ミオが震えながら告げメルルがミオを片手で抱き寄せ警戒しながら死体となった青年に近づき肩から腰にかけて切られた剣の傷を見る。
「ええ。致命傷はこのきずよ。あの猿達じゃない。あいつらは死体の肉にありついていただけね」
ミオが頷き同じく一閃された少女達もみて表情を曇らせる。
「調べるしかないわ」
「キイ」
メルルが横を向くと銀の小熊が血まみれになりながらよろよろと姿を見せる。
「スノウベア。どうしてここに」
「え?」
「厳しい寒さの雪山でしか生息していない魔獣よ。まさか…」
メルルが目の前を見て、今度は首に下げたギルドの証を光らせる。
『どうした?』
「北のアステールの森の中で新人グループが殺されていたわ。多分魔獣を違法で扱っている連中に斬り殺された可能性があるわ。すぐBからAをいるだけ呼んで。灰色猿。そしてスノウベアの子供もいる」
『なんだって!?』
ミオが驚き汗を滲ませあたりを見渡す。
「急いで。親もいる可能性も高い」
『分かったっ』
「そ、その」
「ビッグベアよりさらに凶暴なのよ。龍までとは行かないけど強いし頭もいい。子供を餌に使って襲う時もあるのよ」
「こ、どもを?」
「そう。あー、イーロンがなくなってからいい商売相手がいなくなってそういった輩があちこち新しい場所求めて彷徨ってるのよ。もう最悪」
男の悲鳴が上がるとミオが思わず薬草を落とす。メルルが結界を張るとミオの足元の近くに円陣が現れハリーが姿を見せる。
「あれ?なんで外?」
獣のけたたましい悲鳴が上がるとハリーがびくっと肩をあげ、メルルがハリーを掴む。
「スノウベアよ!すぐにいどうしなさい!」
「すすのうっ。い、いやすぐには無理っ」
木々が薙ぎ倒されていくとメルルが冷や汗を流しミオが驚きながら銀色の巨大な毛を逆立てる体長三メートルはあろう巨大な青目の熊が口をただ真っ赤に染めながら現れる。
「ス、スノウ、ベア」
「ミイ」
そのスノウベアの足元にまた小さな小熊がいた。
「あれは母親ね」
「で、でも、スノウベアって、確か、子供1人、だけしか」
「そう。だから、もう一頭いるはずなのよ」
再び悲鳴が上がると奥から血まみれの男が急ぎ逃げる。
「た、助けてくれ!助けてくれ!!」
離れていた小熊がかけ男へと牙を向け襲う。男が剣やナイフで応戦するもその皮は刃を弾き破壊する。
「ひっがあっ」
小熊が男の喉をとらえそのまま押し倒すと頭を何度もふり男の息の根を止めにかかる。
「子グマでもなかなかの強さ…」
「さすが驚異の毛皮ね」
ミオが青ざめ巨大なくまと目を合わせる。
ーあ…。
熊がミオを見て目を細め唸っていく。するとそこに今度は頭から首が馬。体が人に近い黒い体をした魔獣が上から現れ一斉にスノウベアたちを襲う。スノウベアが暴れ小熊も暴れるがなすすべなくその口に入れられると丸呑みされ首のあたりでばりぼりと音を鳴らし砕かれていく。ミオが震え上がり、メルルが青ざめる。
「ワルキューレまで…。ほんと。勘弁」
「あわわわわ」
ハリーが震えスノウベアがその牙にやられながらも足元にいる子熊を守りながら暴れていく。
「ど、どうしよう爺ちゃん……」
「わたしはじいちゃんじゃないわよ」
メルルが汗を流しながらミオを抱きハリーをつかみゆっくり後退る。
「メルル、さん」
「静かに…」
ミオが涙目になりハリーもまたゆっくりと下がる。
ーどうにかこの場を抜けたい。今あいつらはあいつらで夢中になってる…。どうにか。
ワルキューレの数体が後退るメルル達に目をつけるとにたあと笑う。ハリーがゾッとしメルルが驚愕する。
ーどうして笑うのこいつら。
「後はまかせろ」
メルルがはっとし赤い鎧を来た男が双剣を持ち楽しくその場へと来るとメルルへとウインクする。
「なんであんたが…」
「え?」
「酷いなあ」
ワルキューレの一体が向かうと男が双剣を光らせすぐさま真っ二つに切り落とす。そして、他のワルキューレ達もスノウベアから離れ襲ってくると男が面白く笑みを浮かべ双剣を操り切り刻んでいく。
「誰?」
「Sランク。アーサー。見ての通り双剣使い。そして、女ったらしのキザ男」
「はあ」
灰色猿達も現れるとアーサーがにいとする。
「いいねえ!!そうこなくっちゃな!!」
灰色猿達も刻まれていくとミオがメルルにしがみつきながらじいと見る。
「…タイシさんと違って、派手です」
「派手好きなのよあいつは」
「メルル良かった!!」
他のギルドのもの達も到着するとメルルが安堵の息をつく。
「ええ」
「ああ。あと、スノウベアは俺たち相手にした事ないんでちょうど来てたアーサーに頼んだんだよ」
「あー、そう言えばお呼ばれしてたわねおじ様主催の舞踏会に」
「え?」
最後のワルキューレ一体が倒されるとアーサーがさてととスノウベアを振り向く。だが、スノウベアは倒れ息絶え絶えで子熊が泣き叫んでいた。
「あれはもう無理だな」
アーサーがスノウベアへと向かうとスノウベアが近づくアーサーへと目をやり今度はミオを見る。ミオが目を合わせたスノウベアを見て心臓を痛々しくさせアーサーが血まみれのスノウベアの喉を切り裂く。
「ミイイイッ」
「泣くなって。一緒にすぐに」
ミオがすぐさま子熊を抱きしめ力を無くしかけるスノウベアの目を見る。それは安心したようにゆっくりと目を閉じそのまま動かなくなる。アーサーがそれをみて気まずくしメルルを見る。
「…」
「…はあ。ミオ。ミオ」
小熊が暴れミオの腕に噛み付くもミオが痛みを堪えながらその場に来たメルルを見る。
「子供は、わたしが見ます。お世話します」
「お世話したとしても危険よ。それに成長すればこの大きさな上肉食」
「お、お野菜好きにさせます」
「そういうわけじゃないのよ……」
「タイシぃっ」
「きたな死にかけ小僧」
アーサーが楽しくサジに支えららながら来たタイシを見る。
「怖かったっ。もう本当っ」
「ああ。緊急要請が俺にもきたから。聞いたらやばいんで来た。ミオ。その小熊連れてこっちに来い」
ミオの腕を噛み続ける子熊をミオが連れタイシの元へと来る。タイシがやれやれとし小熊の背に触れると小熊が止まり逆立てていた毛を下ろしその口を離す。
「ハリー。治療してくれ」
「分かった」
「なんで大人しくなったの?」
『主人の強さだ』
ぬっと白夜が姿を見せる。
『この娘には屈服させる力がこの小熊でも勝っていない』
「そーだ」
アーサーの足元からも赤い炎の羽を持つ鳥が姿を見せる。
「俺らレベルは問題無しだ。ただし、小熊のうちだけだ」
『はい』
「ふうん。わたしは魔獣使いじゃないからわからないわ」
「なら一緒なる?俺が手取り足取り教え」
「却下。いやよ」
アーサーがつめてえとぼやきメルルが鼻を鳴らす。
「ミオはどうして子熊を守った?」
「あ」
「そこにいる母熊が頼んだようだ」
死んだ母熊をアーサーが指差す。
「ワルキューレ達にやられて瀕死だったから俺がトドメを指した」
「ええ」
「ねえ?ワルキューレって人みたいに不気味に笑ったりする?わたし一度別の所でも退治したことあったけど笑うことなんてなかったわ」
アーサーが眉を寄せタイシを見るとタイシが頭を振りサジへと告げアーサーに刻まれた死骸の元へといく。
「あいつが調べる。お嬢さんの方は骨は?」
「あ、骨までは辿り着いてません。すぐ治せます」
「ああ。ところでお嬢さんなんてなま」
「アーサーさんきてください」
「呼んでるわよキザ男」
アーサーがため息をしその場を離れタイシの元へと行きメルルがしっしっと手を振る。
「あれが10人のうちの選ばれしSランクの1人かー」
「正確には9人よ。あと、あいつも長い方で10年くらいかしら。ティーチがこさなければSランク最年少はアーサーだったのよ」
ミオが驚きハリーがおおと声を思わず出す。そしてタイシの元に不貞腐れたアーサーが来る。
「人が名前聞こうとしたところに」
「え?」
「なんでもない。なんだ?」
「ええ。このワルキューレですがワルキューレに似せた全く別の個体です」
「つまり、人工物か」
アーサーがしゃがみタイシが頷く。
「はい。キメラのようです。ワルキューレにはない特徴もありますから。喉の牙とか」
タイシが死骸となった食われ噛みちぎられた子熊を見せる。
「喉で噛みちぎったのか」
「そうよ。わたしが実際に見たもの。確かに丸呑みして喉で噛み砕いたわ。音も砕いた音が響いたから」
そばに来たメルルが話すと呼び笛がその場に響く。
「向こうにも死体か」
「いきましょう。メルルさんはハリー達を連れて森の外に行かれてください」
「ええ。そうするわ」
タイシが頷き、アーサーがやれやれとしながらタイシ達とともに森の奥へと進む。
「ところで、アスクレピオスの婚約者になったって本当か?」
「…どこでそんな話に」
「人の口は軽いんだぜ」
タイシが顔をしかめ、アーサーが話す。
「お前のモテもそこまでくると大したもんだ」
「あのですね。好きでモテたいわけじゃないんですから」
「どーだかっとお」
アーサーが止まりタイシも止まる。そこには破壊された檻と散り散りになった死体があちこちにありあたり一面血だらけに、生存競争で敗れた魔獣の死骸も混ざっていた。
「人数特定は難しいな」
「はい。生き残りがいればと」
かすかな音を聞き分けるとタイシが片耳を軽く抑え右を向く。
「サジさん。向こう」
サジが振り向きその目を閉じる。
「樹木になって隠れているものがいる」
アーサーが双剣を出し風を浴びさせる。
「どの辺りだ?」
「そのまま正面」
「ああ」
アーサーが双剣を振るうと巨大な竜巻がかまいたちとなり木々を刻み竜巻の中へと巻き込み入れる。すると樹木の一本が動きすぐに結界が張られると今度は男へと変わる。
「男か」
男がその場に倒れぜぇぜぇと苦しく息を弾ませるとアーサーが近づき男の目の前にしゃがみその双剣の刃を向ける。
「さてと。なんでこそこそ隠れてた?」
「わ、私は、何もしてない。したのは、死んだ、勇者で」
「死んだ勇者?」
「アーサーさんストップストップ」
男がハッとしじんわり涙を流しタイシが話す。
「アストレイの潜入捜査の魔術師で俺の部下です」
「タイシ中佐あっ」
男の姿が代わり女へと変わる。
「ナタリー」
「し、死ぬかと思いました。凶暴なキメラ魔獣達が、一斉に放たれてそれから」
「落ち着け」
「キメラ魔獣?まさか全部?」
「はい」
「確か、ヤンガル国にいましたよね?」
サジが尋ねナタリーが頷く。
「はい。ああでももう無理」
ナタリーが頭を落とし突っ伏す。
「もう、逃げて何とか隠れて凌いで…。そしてこんな仕打ち…」
「すまない。信号出しててくれたんだな」
「はい…」
「信号?」
「味方という合図です。ただ森の木々が邪魔したみたいで光が見えなかったんです」
サジもまた自分もと頷きナタリーがはあと息をつくも手が伸びひょいとアーサーに抱き上げられる。
「あ、あのっ」
「いやさっきは悪かったよ。怪我はない?」
「あ、あの程度防げます」
「それは凄いな。君はすごい魔術師だ」
爽やかな笑顔を向けるとナタリーがかあと顔を赤らめ周りのギルドの男達がうんざりしたり舌打ちしたりとし始めた。
ーこのまま調べよっか。
ミオが魔道局へと来ると空を飛ぶ魔術師達や浮かぶ道具、魔術師達につきそう従魔達を目を輝かせながら見渡しみていくもそのまま柱に激突するとしゃがみ顔を抑える。
「ミオ。前みろ前」
「は、はい」
「ここたくさん柱あるから気をつけてね」
ハリーが告げると箒に座った少年が逆さになりながら近づく。
「にいちゃん。お客さん?」
「そうだよ」
「きたな。こっちじゃ」
オーガンが医師たちを連れ手招く。ミオが立ち上がり頭を下げタイシがはいと返事を返した。
「え?」
ミオが血液を採取されながら驚き、オーガンが淡々とタイシ達へと話す。
「先にあの魔獣達の死骸が運ばれてきた。確かにあれはただの魔獣ではなかった」
「なら、キメラで間違い無いですね」
「ああ」
「タイシ中佐」
落ち着いたナタリーがサジと共に中へと入る。
「ああ。ミオ。アストレイの魔術師で俺の部下のナタリー」
「はい」
「初めましてミオ様。お話の方はお聞きしております」
ミオがぺこりと頭を下げ、サジが話す。
「あの状況でよく無事に逃げ延びた」
「運が良かったのと、タイシ様から教わった隠遁の術などのおかげです…。ですが、あの死んだ勇者には見つかりはしましたが…」
「その死んだ勇者って誰だ?」
タイシが尋ね、ナタリーが話す。
「はい。実はわたしも詳細はわかっていないのです。奴らが死んだ。処刑された勇者がなぜ生きていると声を上げましたので」
「ランカスターと名乗ったそうです」
オーガンが驚き、ハリーが目を丸くする。
「それって確かミオのお母さんたちと世界巡ってた人じゃない」
「え?」
ミオが驚きオーガンが頷く。
「ああ。しかし、途中で別れたそうだ。あと、その勇者はこの世界の出身者でギフトもちとして生まれた。そして確かに10年ほど前理不尽な理由で罪で処刑されたと聞いた。生まれ育った土地ヤンガルで。ただあそこがわしらの敵対組織がおるところでな。詳細はわからん」
「僕も3年前に調べようとしたけど散々邪魔されてね。タイシ何か知ってる?」
「いや。アルスランさんは過去のこととかもだけど自分の事話さない人だからな。それよりほぼ無口な人だし」
「うん」
「確かになあ。あやつはこっちが言うか何かなければ語らんからな」
「ええ。だからミオや母親についてもイーロンのことがあって分かりましたから」
「やれやれだな」
オーガンが息をつき、ミオが話す。
「その、ランカスターさんなら以前お会いしたことあります」
「いつじゃ?」
オーガンがすぐさま尋ね、ミオが頷く。
「私の故郷の村で、確か村がなくなる2、3年前です。母に会いに来たと言われて、それからしばらく泊まって私に文字とかイーロンの首都のこととか教えてくれて。私はそれから首都に行ってみたいなと思いました」
「ああ。あとそうなると話による処刑されたあとだが…。特徴はと言っても葵が見たのなら本人だろう。本人でなければ自分の娘にも接触はさせんからな」
「はい。あとその時父親のこととか話したりしたかその人?」
「いいえ。ただ母の友達としか。あと優しかったですし村の子供達とも遊んでくれました」
「役人とかきたりしたんじゃないのか?」
「いえ。そういえばその人がいるときだけ来なかったです。大体2.3日起きに様子見とかもですが…遊びとかで、狩の相手にされたりも…。ただ」
ミオが複雑そうにする。
「その日を境に私たちの村だけなぜか役人の狩が行われなくなったんです。私は嬉しくてしかたなかったので特に」
「狩って何?」
「役人の憂さ晴らしだ。村の子供を森に放って石投げつけて競い合ってたそうだ」
「うわ最悪」
「はい…。暴力も振るわれたりしましたし、片足のない子供が亡くなった事もありましたけど何も出来ませんでした」
ミオが表情を曇らせオーガンが話す。
「奴の仕業の可能性が高いな。で、わしが知ってるランカスターは大人しく好青年だったが?」
オーガンがナタリーを振り向きナタリーが戸惑う。
「その、私から見ると殺戮を楽しんでいるとしか思えませんでした。あと、彼ら死んだ売人達全員は彼を知っていたようです。そしてギルドにも話しましたが若いギルドのもの達で彼らの仲間だった連中もすぐに殺されました」
「あの、私くらいの若い3人ですか?」
「おそらくご覧になられたのなら…。彼らがマーセス国の地下の道を教えて密入国させようとしていたようです。私もそろそろここでと思ったところにその死んだはずの勇者が現れて彼らをまず殺し、檻の中の魔獣達を放ち売人たちを殺させたのです」
「ではなぜ、ミオ達がいるのに放っておいたのだろうか?」
「いたからだと思いますよ。そして、ギルドのメルルとかを見て応援を呼ぶだろうと考えたんでしょう」
「そう?」
「あの」
ハリーがミオを振り向きミオが話す。
「その、ランカスターさんが、されたことについて…。何か。えと…」
「罪に問うか問わぬかは国次第だ。今回の件については、実際に本人なのかわからぬからな」
「ええ。ナタリーも知らない人物像ですし」
「はい。私もその話を聞いてそうなのだろうとしか。見たのも初めてでしたので」
「ああ」
「ま、ともあれ、注意人物としての扱いはされよう。あと、敵対組織。オリウスの奴らが邪魔はするだろうがこちらも情報を集めてみようかな。ちなみにオリウスについて何か知っている事はないか?」
「そちらは特にありません」
「局長。一応捜査員ですから」
「こそっとええじゃろうて。けちけちするな」
ナタリーが気まずくしタイシがそこはダメですと頭をふるとけちどもめとオーガンがぶつくさと文句を述べた。