マーリス2
無精髭を生やしたイオか目の下にクマを作ったメガネをかけたエルフと共にくる。ステラがそのエルフを見て話す。
「サジ。死想が出始めてるぞ。寝ろ」
「これが終わったら寝ます…」
「重く受け止めすぎだ。兄とはいえ抱え込みすぎる」
「兄ですから…」
サジが落ち込み話、タイシが告げる。
「苦労かけさせてすみません」
「いや…。こちらも大変申し訳ない…」
イオがやれやれとしタイシを振り向くと包帯を巻いた手を早速握る。
「確かにサイの力だな。あと、悔恨の呪いだ」
「悔恨?」
「後悔の念が強い。これはサイがタイシに呪いをかけた事に後悔している。進行が遅いのはそのせいだ。俺が以前同じような呪いを受けた同志を見た時はこのような思いはなかった。この呪いは術者本人の意思を持った呪いだからな」
「ええ。局長からも見ていただいて同じことを言われました」
「ああ」
イオが手を離す。
「お前の師が話したオオオサと言う言葉だが恐らくサイ自身だろう」
「え?」
サジが驚き、イオが話す。
「今はもうそのような呼び名はないが、500年ほど昔。エルフの長が死んだ後のその呼び名は大長へと変えていたそうだ。今は忘れ去られたようだ。理由としてその当時と違いエルフのしきたりが変わり始めたのとエルフ達の命が短命になりその数が減少し始めたからだ。理由としては奴隷狩りが主になる。その奴隷狩りも人ばかりではなく、エルフでさえも行う。それだけエルフと言う種族の中でも秩序が変わり始めれば失い始めたわけだ。そして、長達が知らず、私が知っているのは昔の教えを学んでいるかいないかになる。新しい事に踏み出すのはいいが、やはり昔もまた残していた方が良いこともある」
タイシが頷き、イオが話す。
「サイ。あれはまだ若すぎるエルフでもあったからな。そして長としても若すぎた。選んだ長老達にも非がある」
サジが表情を曇らせる。
「サイは死に大長になった。ならば、その大長となったサイと対話をして呪いを自ら解くしか方法がない。この呪いはサイの意思だ。まだ呪いとして生きているのならその呪いという恨みを対話をしながら消すしかない。一度だけの対話では無理だ。何度も話す必要がある」
「その方法は?」
「夢だ。この呪いが夢を見せた時に介入したらいい。ただ、外からの力を使わないと無理だ。そこはここにいる魔術師たちに頼むしかない。そして、対話をすることにより弱まりいずれ消滅するだろうが逆の事も起こりうる場合もある。なので、考えることも必要だ」
「分かりました。あと、自力か…はあ」
タイシがため息し、イオが話す。
「こう言っては悪いが、お前のおかげでこの呪いについて私も知ることができたことが多い。私が呪いを受けた者について呪いの力が強く触れることもできなかった。お前もはじめはそうではなかったか?」
「ええ」
「ああ。だが、それが今はない。そして、呪いについて知る術ができた。この呪いは言えば同志によって作られた呪い」
「ですが、この呪い独自と言えるんじゃないですか?」
「独自ではある。だが、性質は一緒だ。あの時また呪いもかけたものと似た力を感じたからな。呪いに意思がありその意思により開け方も違うとわかった。今後はないとは思うがまた同じようなものがいたら対処は出来るだろう」
「ええ。あと、まあ、師匠が話してましたけど、呪いは本体を消失しなければ弱まらないとか」
「本体。術者の肉体か?」
タイシが頷きイオが頷く。
「分かった」
「はい」
「ああ、ならば、サジ。お前は早く休め」
「そうですよ。俺の心配より自分の心配されてください」
「ああ。さっさと寝ろ」
サジが気まずくするもタイシが部屋からますからすぐ休んでくださいと告げるとサジが無言でこくりと頷いた。
ミオが緊張しながら食事を行う。そこに、ナターシャ以外にヴィクトールが共に食事をしていた。
ーき、緊張する。
「ナターシャ」
「はい」
ナターシャが手を止める。
「バランティア伯爵の妹のところに明後日茶会があるのだろう?」
「ええまあ……」
ミオが僅かに嫌に答えたナターシャを見る。
ー嫌いなのかな?
「断ってくれ」
「え?」
ナターシャが目を丸くする。
「アルスラン殿と狩りにいく。その時にお前もくるように。ミオ嬢はどうする?」
ミオがドキドキし複雑な面持ちをしナターシャがふむと考える。
「お話などせず見学のみですよね?あと、お父様ですのでご事情はおしりですよね?」
「ああ。ただ、お互い遠目から見るくらいならいいと思ってな。狩の最中はお前達は別の場所にいるんだろう?」
「ええ。はい。他の奥様方とお茶を飲み成果のみお聞きします。あと」
ナターシャがそわつき、ヴィクトールがやれやれとする。
「ティーチ殿も来られる。それから陛下達もだ」
ナターシャが目を輝かせ、ヴィクトールが話す。
「まあ、おそらくミオ嬢を連れて行けば仲介をされるだろう。ミオ嬢はどうする?狩は今の時期しか行わない。この半年の間であればこの狩が最後になる」
「……」
ミオが僅かに考えこくりと頷く。
「その、ご一緒に行きたいです。あと、私はまだ写真というものでしか見たことがありません。私の父という方をです」
「ああ。ならば、明後日行くとしようか」
ミオがはいと答えナターシャが嬉しくしていった。
ーまずは一度目の対話をする。
シーツの上に座ったタイシが睡眠剤を飲み横になる。そしてその傍にイオ、ハリーとハリーの後ろにオーガンがおりタイシが眠るのを待っていた。その後タイシが眠るとハリーが杖を両手で握り息を吸い吐き出しタイシの額に当てる。
「魂はそこにある。よいな」
「はい」
ハリーが目を閉じる。そして術を唱えるとすっとハリーの肉体から精神体が姿を見せると今度はタイシの中へと杖を通し入った。オーガンが頷きイオが2人の様子をオーガンと共に見守る。
ーまたここか。
老人がやれやれとしながら本だらけの部屋の中で本を読むタイシの元へと行き座る。そこにすっとハリーが現れると驚き老人と幼いタイシもだが本で埋め尽くされた畳の部屋を見渡す。
ー外では遊ばないのか?
ー学校に行った時に運動してるからいい。それよりじいちゃんが集めた本とか見るのが面白い。
ーわしが集めたと言うか、この本は亡くなった門徒の方が大切にされてきた本だ。遺族の方が捨てるにも捨てきれず持ってきてな。そして、わしも捨てるにも捨てきれずここに入れてるだけだ。
老人が頭を撫でタイシが話す。
ーそれを僕が読んでる。
ーそうだな。何の本が好きなんだ?
ーなんでも。でも、一番は昔の本。墨で書かれた絵の本とか好き。生物の本や物語の本。
ーああ。
『見てみたいなあ。でも見れないんだよな…』
ハリーがそわそわとするがハッとし本棚の上の黒い影を見る。
『サイ、殿?』
ータイシ。まあ、また先生から話しがあった。両親とはうまくやれているのかと。
ハリーが振り向きタイシが何も言わずに頭を振る。
ー今日、忘れ物あったから家に行ったら鍵が開かなかった。鍵変えられてた。
ー…はあ。分かった。またわしが話しておく。
タイシが頷き老人が立ち上がりその場を去る。
『家の鍵を変えられたって、どんだけ入れさせたくなかったんだ…』
ハリーが驚きつつ表情を曇らせたタイシをみるもすぐにはっとし消えた黒い影を見て辺りを見渡す。すると黒い影がハリーの後ろへと迫るとハリーがぎくりとした。
オーガンがすぐさまハリーの精神体をタイシから引き剥がし肉体へと戻すとハリー瞬間にどっと汗を流し息を荒げるもオーガンが杖で軽くハリーの頭を叩く。
「お前は惚けて何をしておる全く」
「ご、ごめん」
「目的は対話だろうが。変わる」
ハリーが頷きオーガンと変わりオーガンもまた術を使い精神体へとなるとタイシの中へと入った。そして、その中で再び本棚の元へとくるとタイシのそばに寄り添う黒い影を見る。
『これは、驚いたな。呪いが呪いではあるが呪いとしての意思を変えている』
黒い影が警戒するように縮こまる。
『おまけに本人には知れぬよう気を配っているのか。やれやれだな』
オーガンがその場にあぐらをかき座る。
『久しぶりだのおサイ。近くで話をせぬか?』
その黒い影が動きオーガンの元へと近づく。
『孫がすまぬな。あと、お前は誰からタイシを守ろうとしている?お前の力に触れた時はお前の力しか感じなかった。しかし、ここにきてどーも、別の力を感じる』
黒い影が答えるようにゆらめく。
『別の呪いをタイシは受けておるな。お前が呪いをかけて力が弱まっていた時に別の呪いを何者かがタイシにかけた。そしてお前は呪いの意志を使い呪いを呪いで抑えているわけか。本来ならば、消えているはずが消えていないのはそのせいか』
影が動き小さなエルフの人形へと変わる。
ーあ、あ。ち、がう。つよ、い、呪い。この、周りに、ある。
『ああ。わしにも感じておる。あと、その根はどこか』
ー血、だ。
『血とな?』
ーあ、あ。タイ、シ。同じ、血を、媒体。呪い。
『となると、タイシと同じ血を持つ誰かがこの世界に来ているか、タイシの血をどこかで採取したものがそれを使い呪いをかけているわけか』
ーお、そら、く。
オーガンがやれやれと髭を撫でるとタイシが外へと出ようと歩くもぴたりと止まり再び中へと戻り本を広げ見ていく。
『タイシ自身も無意識に身を守っているな』
ーじかん、問題。
『ああ』
オーガンが人形を振り向く。
ー血を、たどれ。わかる
『分かった。ああ。あと、お前さんもその呪いが解けたら』
オーガンがハッとし畳が黒ずむと汗を滲ませる。
ーい、け。
『むっ』
オーガンがすぐさま消えると肉体へと戻り汗を流しふうと長く息を吐き僅かに玉の汗をうかばせるタイシを見る。
「やれやれだ。よりさらに複雑だ」
「何かあった?」
「ああ。サイの呪いの意思が別の呪いを抑えてタイシを守っている」
「え?」
イオが驚きタイシに触れ集中する。
「サイの呪いにより弱ったところで別のものの呪いを受けたようだ。血を媒体にした呪いを」
「確かに」
ハリーがイオを振り向きイオが話す。
「血を媒体にした呪いはかけられたものの体を弱らせ病魔をとりつかせる。ただ、血を辿れば分かる呪いだ。あと、サイか。さてさて」
「なに?」
オーガンが立ち上がり部屋を出る。そして再び戻るとその手に人形を持ってくるとにかっとする。
「あれもまた多くのことを知るエルフだからな。皆には秘密だ」
ハリーが目を丸くしイオが分かったと頷く。
「ああ。だがまずは、血の呪いだ。ハリー。今度は真面目にやるのだぞ。目的を忘れるな」
「分かったよ…」
「うむ」
「こちらは補助する」
「すまんな。頼む」
イオが頷きハリーが憤るも汗をかくタイシを見てハンカチを出し汗を拭った。
2日後ー。
ー解決の意図が見えた。お前は普段通りに過ごせば良い。
タイシが馬を引きアルスランとともに狩場である森の入り口に立っていた。そこに、ヴィクトールもだが、マーリス王やその臣下達。そして、誘われた貴族達もまたおりその中にバランティアもいた。
「ナターシャさんの従兄弟ですか?」
「いいえ。とある方からお預かりしております娘さんです。知らないことが多いとのことでしたので私のところで教えているのですよ」
老婆からまだ年若い少女達が集まる女の園の中でナターシャがメルルを護衛としてつけながら他の貴族令嬢と話していた。そしてミオが緊張した面持ちで下を向いたりちらちらと周りを見渡したりとして行く。
ーほら逃げろ。逃げろ。
ミオがぞっとし僅かに青ざめ片腕を掴む。
ーあの、狩と違うと聞いたけど…。
「水よ。あと甘いもの食べる?」
ミオが顔をあげメルルを振り向く。メルルが青ざめたミオを隠しながら水を向けるとミオが受け取りこくこくと飲むとまた向けられたクッキーを貰い口に含み食べる。
「狩は苦手?」
「あ、その、少し…。ただ、やり方が違うと聞いたので…」
「やり方?」
ーイーロンでは人を狩る。地方では子供達を的にして役場の連中が石を使って狩りを楽しんでいた。
メルルが念話をしながらやって来たタイシを見るとクッキーをもそもそと食べるミオを見て頷く。そして、若い女性達が、ナターシャが目を輝かせる。
ータイシ様。
「お久しぶりねティーチ。後ごめんなさいねお呼びして」
「いえ。マルクールのことですよね?」
老齢の婦人へと話すと婦人が頷きやれやれとする。
「騙された娘も娘。それでも騙した方が悪いわ。そうしたらあなたの部下になっているとお聞きしたから」
「正確にはアルスラン将軍。侯爵の部下です。賠償金の方は騙した額と共にお支払いをしております」
「結構。でもなぜか理由を聞きたいわ。部下にした理由を」
「はい。あの男はラーテルの一族の生き残りだからです。それが一つ」
周りが驚き話していきミオが少し目を丸くするもナターシャがまあと声を漏らしたのを見ていく。
「イーロンに滅ぼされた歴史のある一族の生き残りだったのねあの男」
「ええ。そして、その歴史を体に刻んでおります。今は魔導局でラーテルの暮らしや術などを学者達に伝えるよう話しております」
「ええ。まあ、それでも悪さはしているからね」
「はい。もし、謝罪など求められるのでしたら本人を連れてきます」
「分かったわ。あと、それが理由ならどうしようもないわね」
周りが頷きミオが目をぱちくりとさせる。
ーラーテルの一族は三大古代種の一族として言われた人の一族の内の部族の一つだ。
「三大?」
メルルがミオの耳へと話す。
「あとで教えるわ」
ミオがこくりとうなずく。
「なら、よかったら本人の謝罪を要求するわ。二度とされないということも誓わせるから」
「わかりました。では本人にも伝えて婦人と娘さんのご都合に合わせますのでお知らせください」
「ええ。後ごめんなさいね。もういいわ」
タイシがはいと返事を返し頭を下げ背を向け離れると令嬢達がややしょんぼりとしナターシャも気持ち落ち込んでいく。
「あのラーテルの一族だったのね」
「生き残りは奴隷にされたと聞いたけど彼はそうかもしれないわ」
婦人達が話題としミオがあの人がそんなに貴重?と頭の中で思い浮かべた。
魔導局ー。
マルクールがうんざりとしながら上半身裸となり背中に刻まれた刺青をオーガン含む老人魔術師達などに見せていた。
「早くしてくれよお」
「まあ待て待て」
「しかし、見事だ。うむ」
「当時のもの達は術を見せてはくれなかったからなあ」
「あーまあ、一族に受け継がれしものとかで簡単に見せるなと言われたことはあるんで」
「うむ」
「しかし、見事な刺青だ。術としての発現はせぬが守りの護符にな?な」
「はあ?発現しない?」
老人達が頷きオーガンが話す。
「うむ。術式のように見える刺青だが、これは術式としての意味はなく完成していないと言うわけではない。最初から使えないようにされておる」
「ならただの飾りか?」
「いいや。古代マーテルの絵や言葉が書かれてあってな。無病息災。健康第一。つまり我が子を思う親の気持ちをこの背中に刺青として、呪いとして刻んだようだな。この背中の刺青の大きさと薄さからある程度成長した赤子の頃からだろう」
「ふうん」
「術としての機能を持つのはその手と腕の刺青だ」
「うむ」
「ああ。で、わかったところでもういいか?服着て」
「いやまたまだ読みとかとらんところがある」
「まあまた写させてくれ。貴重だからな」
マルクールがうんざりとし老人達が談笑しながら刺青を見事見事と見続けた。
鹿がぴいいと泣くと横に倒れジタバタとする。その鹿の体には矢が刺さっており射抜いたヴィクトールがすぐさま馬をおり鹿の首にナイフを突き立てトドメを刺すと数を数える審判が記録し従者達がすぐさま麻袋に入れ回収する。
ー大物を誰か獲ったな。
タイシが矢で射抜かれた鳥3羽を持ちアルスランの元へと向かうと兵士の持つ麻袋に入れる。
「大物取られましたね」
「まだ二頭はいると聞いた」
「ええ」
タイシの胸がざわつくとタイシが冷や汗を流す。
ーなんだ。
「どうした?」
「いや、なんか変な感じがして」
タイシが襟を握り上のボタンを外す。
ー体がおかしい……。
ミオが森を振り向き立ち上がるとナターシャが驚く。
「ミオ?」
「魔獣…」
「え?」
メルルが森を振り向き目を細め婦人が話す。
「そんなまさか。ここは管理された」
「いいえ」
メルルがすぐさま立ち隠し持っていたナイフを出す。すると音が響き貴族の男達が逃げてきた途端、1人の男を口に咥えたビッグベアが姿を見せる。婦人達が叫びナターシャがひっと声を挙げる。
「嘘でしょ!?これじゃ無理!!」
メルルが思わず叫んだ途端熊が止まりその場に倒れる。男達が止まりミオがビッグベアを背中から突き刺したタイシをみる。だが汗を流し息を切らす様子がおかしいタイシを見るとその体から黒いモヤが流れ込み森に続いていた。
ーあれ、なに?
「ティーチ!」
「狩は中止ですっ。すぐに建物の中にっ。メルルさんお願いしますっ」
「ええっ」
ミオがおろおろとするとすぐにスカートを上げタイシの元に向かう。ナターシャがハッとすると慌てて追う。
「こらミオ!ナターシャ!」
誘導していたメルルがもうと声を上げる。ミオがうまく血を流したベアに咥えられてた男にしゃがみ息を荒々しくさせるタイシを見る。
「タイシさん」
「なんだ?」
「黒い変なモヤがタイシさんから出てます」
「モヤ?」
ー強い呪いでなければ通常のものやわしら術師でも呪いは見えない。触れるしかわからない。だが、稀に見えるものがいる。聖女葵もその1人でな。呪いが見えてその呪いの元を探せる力を持っていた。もしかしたら、その娘のミオ見えるかもしれないな。
「俺から出てどこに続いてるっ」
「えと、森の中です」
「少しどいて。止血だけします」
ミオがナターシャへと譲りナターシャが男の傷を術を使い癒す。
「ナターシャ」
「はい。あの、顔色が」
「悪いのは知っているし、その原因を作った奴が近くにいる」
「え?」
「ミオを連れて行く。見える」
ナターシャがはいと頷き、タイシが息を切らしながら近づく。
「ミオ。時間がない。白夜」
タイシの影から白い狼が姿を見せるとミオがどきりとする。
「白夜に座れ」
「は、はい」
ミオがまたがり座る。
「振り落とされるなよ。後道案内だ」
「はい」
誘導を終えたメルルが戻る。
「その人を運んでくださいっ。ナターシャも避難させて。あらかた魔獣は退治しましたから」
かっと森が光静まるとメルルがその先を見て頷く。
「アルスランさんは問題ないですっ」
「ええ」
「ならお願いしますっ。ミオ案内っ」
「まっすぐ」
白夜が走るとミオが慌てて前のめりになりしがみつきタイシが走りついていく。
「案内?」
「まだ良くはわかりませんが、ミオさんにしか何か見えるようで。顔色が悪い、原因のところに」
「そういうことね」
戸惑うナターシャがえ?と声を出し納得したメルルが気を失った従者を血など気にせず軽々と肩に担ぐとナターシャがぎょっとし慌てて立ち上がる。
「お、お姉様。その、ドレスが。その前にその方をそのように持たれては」
「はいつべこべ言わない。避難するわよ」
メルルがナターシャの背を押し急がせナターシャがよろめくがすぐに体制を立て直し小走りで森から離れた。
「大型の魔獣を隠していたか」
アルスランの元にヴィクトールやマーリス王、そして皇太子がおりドミニクがやれやれとする。
「どこの貴族でしょうかね。あと、タイシは平気ですか?」
「白夜がいる。それにサジを向かわせたから平気だ」
大きな音が響き巨大な黒蛇が姿を見せるとドミニクが引き攣った笑みを浮かべ赤い目をした蛇が面白く笑う。
「4大災害がなぜここに……」
「誰の差金だ?アスクレピア」
アルスランが蛇へと告げるとアスクレピアが楽しく話す。
『さてな。私はここに私から奪ったものを探しにきた。そのついでに食事もしようと思ってな』
ヴィクトールがアスクレピアの体を見るがどこにも膨らみはなくアスクレピアがやれやれとする。
『だが、ことごとく邪魔をしてくれる。人もエルフも』
黒い渦が巻き上がる。
『腹が立ってきた』
アスクレピアが目を光らせるとドミニクが構えアルスランが告げる。
「何を探している?」
アスクレピアが黒い炎をたぎらせると王が青ざめアルスランがやれやれとした。
ーここを左に。
ミオが乗った白夜が左へと曲がりタイシもまた曲がる。
「濃くなってきた…。あそこっ!」
ミオが指差すとそこにバランティアと術師2名と弓矢を持つ狩人。そして、切られた男達が三名倒れていた。バランティアが汗を滲ませ、ミオが声を上げる。
「あのマントの人の胸元でっ」
タイシが一目散に駆け抜ける。そして白夜も負けじ取るとミオが頭を下げ必死にしがみつく。
「ティーチ!」
「サンダーボルト!!」
術師が雷の弾を放つも突如土の壁が現れ弾かれる。
「なっ」
タイシが壁を蹴り白夜かそのまま突っ込み叫ぶ術師の1人に喰らい付き暴れ何度も地面に叩きつけていく。
「ひいっ」
「お前か!」
タイシが睨み剣を抜きバランティアがすぐに胸元の黒い鱗を出す。
「止まれ!!」
タイシが弾み奥歯を噛み締め前に倒れ始める。バランティアが勝ち誇ったような笑いを見せるも、横から泥だらけのミオがナイフをバランティアの足に突き立てる。
「っ小娘」
タイシが踏ん張りバランティアがミオを殴るもミオもまた踏ん張り鱗をナイフで突き刺し飛ばす。アスクレピアが横を向き目を細める。そしてその周りの植物や大地はとけ毒の沼と化し、アルスランとその周りの足場だけが無事に残されたままであり、ヴィクトール達もその足場に立ち尽くしていた。
『あちらか。そしてお前がいるから結局、体力勝負になるな』
アスクレピアが背を向けその場をさると王が安堵の息をつきドミニクが大きく息を吐き出し毒の沼となった周りの地面を見る。
「あれでも抑えていたのですよね?力を」
「ああ。あと、あの方角はタイシがいるな」
「他にもおります」
アルスランがヴィクトールを振り向く。
「バランティア伯です。私もあの辺りにおりましたので」
「バランティア。あの若造か」
「夜会でタイシの呪いについて話しておりましたよね?噂では確かに呪われているとはありましたが奴だけダークエルフとあの時おっしゃいましたよね?」
「ああ。こちらも気づいてはいた」
ドミニクが頷くと白い鳥がそばへとくる。
「サジ」
『申し訳ありません。アスクレピオスの強襲にあい今動けません』
「ああ。ハリーとイオは?」
『イオ殿は重症でハリーが手当を行っております。こちらも逃げ遅れた怪我人がおり動けない状況です』
「分かった。その場にいろ」
子龍達が姿を見せると着替えたメルルがギルドのもの達へと命じ下へと向かう。
「陛下達を先に」
「はい」
術師が風を使い王と皇太子を浮かせ子龍に乗せるとすぐさま飛び上がる。アルスランが結界を完全にとき毒沼を飛び越え地面に着地する。
「ドミニク。ヴィクトール侯爵達を送った後に私の元に来い」
「はっ」
アルスランが頷き背を向け足早にアスクレピオスの後を辿り、ヴィクトールが不安な面持ちをするもドミニクが平気ですと伝え次の子龍まで結界を新たに張り直し毒沼の霧を防いだ。
ーあの、鱗。
ミオが顔を歪め視界をゆらめかせながら落ちた黒い鱗を掴む。そして、タイシが胸を抑えながらバランティアを力強く抑え白夜が術師達を降り重ねタイシの元に駆けつける。
『主。変わろう』
「ま、て。その前、に、やばい、のが、くる」
白夜がハッとしすぐに後ろを見るといつのまにかアスクレピオスが背後に立っていた。タイシが睨みバランティアがヒッと声をあげ暴れる。
「はっ、放せ!!放せ死に損ない!!」
『ああ、私のだ』
アスクレピオスが鱗を抱き気を失ったミオを押し鱗を取り飲み込む。そして、体の欠けた鱗が元に戻る。
『さて』
白夜が毛を逆立て萎縮していきアスクレピオスが術師達へと近づく。
『違う』
アスクレピオスが今度はタイシとバランティアの元へとくる。バランティアが悲鳴をあげ力強くタイシを押しのけ立ち上がり足を引き摺る。
「っこのまて!俺の血をどうやって手に」
アスクレピオスの尾がバランティアに巻きつくとそのまま逆さ吊りにする。
「ひっ。いいいいいっ」
『お前か。私の鱗を使った者は』
「ち、ちちがうっ」
アスクレピオスが口を開けバランティアが叫ぶ。だが止まりアスクレピオスがタイシを振り向くとタイシが生えた鱗を掴んでいた。
「まずっ。俺の呪いを解けっ!まだ解けていない!」
アスクレピオスがじいとタイシを見下ろすと面白く笑む。
『あのラドンが話した童か。確かに面白く力もある。おまけに死の呪いを受けながら生き続けているとは滑稽だ』
アスクレピオスが光り消えるとバランティアが悲鳴をあげ落下するが途中で止まると息を荒々しくしていく。だが、アルスランを見て再び恐怖の悲鳴をあげた。
「呪いを解くには術者に死んでもらわなければならないからな」
「ひやぁっ。ひっ」
バランティアが漏らし、アルスランが剣を取る。
「その小僧を殺したところで呪いは解けん」
アルスランが正面。タイシの方角を見るとタイシが黒髪に赤目の褐色の肌の女に抱かれていた。タイシが胸を掴み苦しく息を荒げ、タイシを抱いた人の女に化けたアスクレピオスが話す。
「ラドン。あれが面白い童を飼ったと聞いてな。確かに面白い童だ。今まで見てきた人間達と違う」
「それで何をしたい?」
アスクレピオスが楽しく笑みを浮かべるとタイシの顎をあげ口付けをする。タイシが顔を歪めアルスランがアスクレピオスへと剣を向けるが交わされると今度はアスクレピオスが離したタイシを抱き支える。アスクレピオスが楽しくおかしく笑いタイシが今度は喉を抑え苦しみ出す。アルスランがアスクレピオスを睨みつけアスクレピオスがふふっと笑う。
「そう睨むな。私の鱗を媒体にした血の呪いは解いた。その代わりに私の血をその童に飲ませた」
タイシが血を吐き血管を浮かせ、アスクレピオスが話す。
「ラドンが認めた童。生き残れば私の力が宿る。その小便小僧から私の体を戻してくれた贈り物だ。ありがたく受け取るがいい」
アスクレピオスが霧となり姿を消すと笑い声が森に響き渡る。アルスランが舌打ちし震えか細く息をするタイシを力強く抱く。
「意識を失うな…。いいか。生きろ」
ミオが顔を歪め力無く目を開け、痙攣し血を流すタイシを抱き顔を歪めるアルスランを見る。
「タイシっ」
ミオが口を動かそうとするがまた、瞼が重たくなるとその目を閉じ意識を失った。
ーううむ。
ヴィクトール侯爵家でオーガンが汗を流し続け苦しむタイシの容態を見ていく。その傍にアルスランがおり、オーガンが話す。
「アスクレピオスの毒が全身を巡り回ってどうしようにもいかんな。おまけに解毒薬も効かない」
オーガンがうーんと声を出し、咳き込み吐血したタイシの血を拭う。
「タイシと近いものの血を探し輸血しなければならない。あとは水だ」
「どうやれば血を見つけられる?」
「ああ。わしの孫のミミがわかる。早速探し出してもらう。ちょうどお前の部下でもある多くの兵士たちがおるだろう?集めてくれ」
アルスランが頷き立ち上がりラダンへと伝える。そしてオーガンが息をつき肩になったタイシを見るエルフの人形に触れる。
「タイシの気力と体力勝負だ」
人形が僅かに頷きオーガンが頷くと再び吐血したタイシの血を拭い拭き取った。
ーあなたとあなたとー。
ショートカットの少女が杖を光らせながら集められた兵士を指差す。
「そしてあなたね」
「は、はい」
「血を少し抜くだけよ。でも1時間は安静。そして今日は休むこと。安静にしている間は飲み物と食べ物を食べて。そうでないとどうあれ採血はしているから辛いめまい立ちくらみが起こるわ。それを緩和するための安静よ」
兵士がはいと返事を返し少女が頷く。そして、魔導局の看護師達が兵士たちの腕を清め採血を行うと採血を終えたパックを箱へと入れ侯爵家へと運んだ。
ー輸血はタイシたちの世界の医療技術でな。
看護師がタイシの腕に針を刺し輸血パックを下げタイシへと輸血を始める。オーガンが様子を見ながらアルスランへと話す。
「他人の血を入れるということにわしらも抵抗を感じた。しかし、他人の血を入れることで助かる確率が大きく上がることがわかった。それは、我が死んだ友。異界の医師が教えてくれた。わしらはその医師が教えてくれた事を引き継ぎ、後遺症が少なくなるように医療の研究とともに、医療でも使える術の研究を重ねた。死んだ友が話していたからな。魔術を駆使すれば多くの病気を治せるし怪我人の治療。死ぬ間際のもの達の延命措置も可能になる。だから、その分野に魔術を使える機会を作って欲しい。使って欲しいと言った」
タイシの顔色がよくなり始め、オーガンが話す。
「それが死んだ友の最後の言葉だ。あれは最後まで患者のことを考えていたな」
オーガンがしみじみとしタイシの口へと吸飲みを入れ水を与える。
「水は口から直接がいい。口から体へと吸収されることが一番良いからな」
「ああ」
「うむ。あと、今少し落ち着いたがまだまだ毒は巡っておる。とにかく24時間見続けて行かなければならない」
「分かった。交代で見ていく。見張も立たせる」
「ああ。ところで、バランティア。あの小僧はどうやって鱗を手に入れたんだ?あと、何故タイシを呪った?」
「ああ。鱗はあの流れ者と言われる術師達が持ってきたそうだが、奴らは白夜が殺したので詳細不明だ。そしてバランティアがタイシを呪ったのはタイシがバランティアに対し罵る手紙を送ったからとのことだ」
「はあ、手紙?」
「私が確認したが筆跡が全く違う。なので調べたところ罵る手紙を送っていたのはバランティアの元学友であり、バランティアに対する悪戯。そして、タイシの名を貶めるために送ったとのことだ。バランティアはあちらこちらと話をしていく。言えば自慢話が好きな小僧だったそうだ。それを利用してタイシに対して嫉妬していた元学友。皇太子が送ったそうだ」
オーガンが呆れ、アルスランが話す。
「妹である叔母のことも好きだったらしく、叔母からも唆された事もありタイシを貶めたかったという話もあった。しかし、まさかアスクレピオスの鱗を使った呪いをかけるとは思わなかったらしい」
「それはな…。しかし、まあなんとも馬鹿げておるな。そのクソガキどものせいで重症者がどれだけ出たと思っているのやらだ」
「ああ。なので、事態を重く見たマーリス王がまず実の妹の処刑を行うことに決めた」
「まあなんと…」
「以前の侯爵のこともあるからな。そして、今回の狩で他国の要人たちやその従者に怪我を負わせ、重症者も複数出した。その中にはタイシも含まれる」
「そうだな」
「ああ。なので、皇太子をまず唆した妹は処刑。皇太子である息子は皇太子を返上させ無人島にバランティアと共に追放。王についてはそのままだが、新たな王の後継者として王妃の兄の子に当たるカーチス侯爵を任命した」
「ならば、隣国のステア国の親族を王にするというわけだな」
「ああ。カーチス侯爵は受け入れ、マーリスについて早速見回っている」
「勤勉で真面目な若者と聞いておるからな。後独身だったな」
「そうだ。なので、王妃についてはマーリスの王家の親族達から選ぶことになっている」
「どうあれ血は絶やさぬようにだな」
オーガンが頷き再び苦しみ出したタイシを振り向き咳き込んだのを見て口元にタオルを当て血を受け止める。
「その処分で他国も周りも納得するな」
「そうでないとあれだけの被害を出した。当たり前ともいえよう」
オーガンが頷き息を弾ませ意識を戻さないタイシの頭を撫で、そうだなと答えた。
ー……はう。
看護師の手によりミオの腫れた頬に氷袋を当てられ固定される。その傍にナターシャがおりナターシャがむかむかする。
「女性の顔を殴るなんてあの男。本当最低」
「そうですね。あと、腹が引くまではお話しができません。口の中も腫れてますから」
ミオがゆっくりと頷く。
「わかりました。それから食事もスープなどでしたね」
「はい。パンもスープにつけるかはじめから入れて柔らかくさせたものをお願いいたします」
「はい」
ミオが再びゆっくりと頷くとナターシャがよしよしと頭を撫でる。そして、ベッドに寝込むも頬がズキズキと痛むと起き上がり軽く抑えじんわりと涙する。
ー痛くて寝れない……。
扉がノックされるとミオが振り向く。
「ミオ。メルルよ」
メルルが扉を開け驚き近づく。
「また、痛々しいわね」
ナターシャも後から入り、メルルが椅子に座ると薬の瓶を置く。
「これ。痛み止めよ。ナターシャが眠れてなさそうと話してたから持ってきたわ。少し効き目が強いもので、後遺症で目眩とかするけど、薬を飲んでいる間だけだから問題ないし痛みは無くなるから。寝たい時やどうしても我慢できない時に飲みなさい」
ミオがゆっくりと頷き、メルルがええと返事を返す。
「あと、貴方を殴ったバランティア伯爵はマーリスが管轄する無人島に島流し。追放になったわ」
「どうして島流なのです?彼が元凶なのではないのですか?」
「実行者は彼。だけど、今回の犯行を行った計画者は貴方にひどいことをした妹姫。元継母よ」
「え…」
「あと、皇太子も。妹姫があなたを助けて自分を城に閉じ込めるきっかけを与えたタイシを恨んでいたみたいなの。そして、活躍するタイシに嫉妬していた皇太子を唆し、その皇太子が噂や自慢話好きなバランティアにタイシが出したとされるバランティアを罵る手紙を本人に送ったそうよ。それで、バランティアが従者を使い呪いをかける術師達を見つけてタイシに呪いをかけた。でもまさかその呪いに使った道具がアスクレピオスの鱗とは思わなかったらしく、あんな大騒ぎになるともまた思わなかったらしいわ」
「…」
「王が事態を重く見て妹姫の処刑が決まった」
「え…」
メルルがナターシャを抱きしめる。
「皇太子は王位剥奪の上バランティアと同じ島に追放。そして、他国の方には賠償金が払われることになったわ。その出所は王家からもだけど伯爵家からもよ。なので実質伯爵家は没落するわ」
「…はい」
「ええ」
メルルがナターシャから離れミオを見る。
「あなたについても医療費が払われることになってるわ。今行われている治療がそれ。この薬代もそう」
ミオが気まずくゆっくりと頷く。
「ええ。そこはあなたも被害者だからちゃんと受け止めなさい。あと、妹姫の処刑は公園で行われるわ。公開処刑よ」
ナターシャが口をつぐみ、メルルが話す。
「おじさまは行かれるわ。私も。あなたは?」
「私は、無理です。それに、顔も見たくありません」
ナターシャが苦しげに話メルルが頷く。
「分かったわ。あと、いつ行われるかは話さないわ。終わった後に話すから」
「はい…」
「ええ。なら、私は行くわね。ミオ。あなたは我慢しないように。飲む時はこの小瓶半分の量を飲みなさい」
ミオが頷きメルルがええと返事を返すと外へと行き扉を閉めでていく。ナターシャが椅子に座り大きく息を吐き出す。
「…いいおもいはしなかったけれど、元母ではあるから」
ミオが小さく頷きナターシャが表情を曇らせた。
ー力が巡る。私の力。
アスクレピオスの囁きが聞こえるとタイシが重たい瞼を開ける。
ー童。また会える日を楽しみにしている。その時お前を私がー。
タイシが重々しく瞼を開けると傍で様子を見ていたマルクールがおっと声を出す。
「若さん。おーい」
マルクールが手を振るとタイシが目でおいマルクールを見る。
「ちょっと待っててくださいよ。局長の爺さんがもうすぐ見にくる時間ですから」
タイシが再び目を閉じるとマルクールがその手を握り振るが反応がなく息をしているか口元に手などを当てた。
オーガンがタイシの手首に触れ容体を見ていく。その傍にマルクールとそわつくアーバインがいた。
「少し目をあけてまた眠ったようです」
「ああ。初めと比べると落ち着き始めているからな。近々意識も完全に取り戻すだろう。ただまだ余談は許さない」
マルクールが頷きアーバインがしょんぼりとする。オーガンがタイシの右手の模様がわずかに薄くなった呪いを見る。
「こちらの呪いは薄れてはきているからもう問題はなさそうだな」
「本当ですか?」
「ああ。呪いを強めていた鱗を媒体とした血の呪いも今は無ければ死の呪いを施した術者の意思を持つ呪いとの和解もすんでおる。あとは、アスクレピオスの毒に耐えられるか。そして、耐えた後の体の変化だな。後遺障害といって体の痺れ。いわば麻痺や考えの欠損などがないのが一番だ。長らく高熱も続き寝たきりになっておるからな。こればかりは起きてから見ないとわからん」
アーバインが表情を曇らせオーガンが話す。
「とにかくタイシ次第だ。そして、回復の兆しはあると見えるのでまた目を覚ましたら今度はすぐに呼んでくれ」
マルクールがはいと返事を返しアーバインもまた返事を返した。
ナターシャが周りを見渡しミオがそわつきナターシャと共にタイシがいる部屋へと来る。そこに、今度はステラがおりステラが2人に気付き手招くとナターシャが頭を下げそった中へと入り汗を流し息を弾ませ目を閉じたままのタイシをミオと共に見下ろす。
「はじめと比べるとマシにはなった」
「それはどれほど?」
「吐血がなくなったし熱も下がった」
「血を吐かれていたのですか…」
「ああ。なので、他人の血を体に入れた輸血を行った。そうでないと血が足りなくなり死に至っていたからな」
「そんな…」
ナターシャがショックを受けステラが話す。
「アスクレピオスの毒を直に受けたものは今までいない。タイシが初めてだ。話だとどんな解毒薬も効かなかったらしい」
ナターシャが頷きミオがタイシを見る。
「人の血を流したことにより一応毒が薄れてもいるはずとのことだからな。そして、初めと比べると吐血もなく高熱も無くなった。後は目が覚めるまで」
「お嬢様っ」
ナターシャがはっとしメイドが急ぎ中へと入る。
「なに?」
「大変ですっ。リーゼロッテ元皇女が魔獣を引き連れ王室を攻めましたっ」
どんと遠くから音が響くとナターシャが震えミオが外を見る。
「なに…」
「地下牢に居たはずだ」
「ですが、突然来たと」
「なら悪魔と契約したな」
ステラが舌打ちしミオがステラを見る。
「悪魔と契約…」
「ここに、くる」
ミオが青ざめ震えるナターシャを振り向き、ステラが話す。
「私はここから動けない。侯爵は?」
「屋敷内におります。アストレイの兵士の方々も警護を行っております」
「ああ。なら」
ステラが震えるナターシャとおろおろとするミオを見る。
「まとめていたほうがいい。二人はここに一緒にいろ。従者達の避難場所があるな。そちらはその避難先に行け。私がここは守る。侯爵にも伝えることができれば伝えろ」
「はい。なら、お嬢様。お気をつけて」
「え、ええ」
メイドがすぐに頭を下げ部屋を出るとステラが扉を閉め結界の術が込められたカードを扉や窓に当てるとカードが光結界が張られる。
「厄介な妹姫を持ったものだなマーリス王は、ん?」
ミオが移動し羽ペンを出すと窓の下に文字を書いていく。
「ミオ。何をされているの?」
「その、少しでも防げないかと思って…。音があった方角から黒いものが見えているので…」
「黒いもの?」
「瘴気だな。見えるものと見えないものがいる。そして見えるものの中で特に獣人は瘴気が見える数が多い。人は少ない。私は見えるものの数に入っている。黒いものは魔物達から放たれた力が外に漏れ出したもので瘴気と呼んでいる。言えば害のある力だ」
「はい」
ミオが朱雀の文字を書くと今度は玄武、白虎の文字を書き部屋の中心に鳥居と方位を示す文字を書く。
「将軍達が国を離れたところを待っていたかもしれないな」
「アルスラン様方が?」
「ああ。とにかくこの部屋はでるな。あと、ここでだと私1人しか戦う者がいないからな。なので」
ステラがナイフを出しナターシャに渡す。
「私はタイシを優先して守る。そちらはそちらでなんとか自分自身の身を守れ」
「は、はい」
「出来た」
ミオが息を吐きペンをしまい四方の陣の上に立つ。
「ミオ。その力は目に見えてわかる力だ。すぐに発動するな」
「はい」
「これは、なんの文字?絵?」
「文字だ。タイシの祖国の文字らしい。ミオの母親が同じ出身者とのことだからな。母親がミオに教えていた魔獣の力を弱める結界だ」
「その、後はタイシさんが少し」
ナターシャがそれを聞き胸を僅かに痛めるも頷きミオが頷くと息を吸い吐き出し近づく黒いモヤを見て口をグッと強く引き締めた。
魔獣達が街を走り逃げるもの達を手当たり次第襲う。待ちの兵士たちが魔獣達に立ち向かい、ギルドのもの達も魔獣に立ち向かい住人達の避難をさせていく。そして逃げる貴族達もいたが魔獣達が追いつき始めると令嬢達が悲鳴を上げた途端魔獣達の足元が膨れ上がり砂の壁と共に上へと高く押し出され飛ばされる。そして、そのまま地面に叩きつけられると血を吐き出し痙攣をする。屋根に上がったマルクールがうんざりしながら手の甲を光らせる。
「本当まじ勘弁してくれよ…。買物してたところに」
「マルクールさん左の方もっ」
「はあ」
仲良くなった見習い兵士の青年の指示される中左を向き逃げる住人を追いかける大型魔獣へと今度は家の壁を変形させ挟み込む。その先を狙いメルルが魔獣の首を切り落とす。
「あの魔獣硬いのに」
「上にいるの!抑えていって!私たちでとどめ刺すわ!」
「わかりました」
「彼の方すごいですね」
「ああ見えて子爵令嬢だとさ」
「ええすごい」
青年が目を丸くし、マルクールが地面を変形させ魔獣達を飛ばしたり挟み込んだりし動きを止めギルド達がすぐさまトドメを刺して行った。
ー来た。
「飛行型ばかりだな」
翼の生えた魔獣達が屋敷へと向かい突撃をしていく。そして、鳥の魔獣が滑空し小鬼のような姿をしたものが屋敷へと速度を上げ突き進む。
「あれ、魔獣なのですか?鳥はわかるのですが…」
「悪魔の子分だ。やはり悪魔と契約したな。ミオっ」
「は、はい」
ミオが中心で祈り祝詞を唱える。すると、屋敷の部屋を中心に一部が光始める。小悪魔達がすぐさま止まるも止まりきれず光に当たった小悪魔が叫び青白い炎をあげ下へと落ちていく。魔獣達も当たると力を失い落下し地面の上でジタバタとする。
「え?燃えた…」
「浄化だ。悪魔にとって光属性は毒になるからな。ミオ。どの程度維持できる?」
「た、多分2時間ほど」
「なら十分な時間だ。瘴気も薄らいできている。兵士とギルド達があらかた魔獣達を退治したようだ」
ミオが頷きナターシャがそっと窓から外を覗くと徐々に魔獣達を退治しながら屋敷へと近づく兵士やギルド達をみる。そして屋敷内でも落ちた魔獣や向かってくる小悪魔達をアーバイン達が相手しておりナターシャが不安な面持ちをするもステラが窓から離れるようにと指示をされるとナターシャが窓から離れつつ意識のないタイシを見て表情を曇らせた。
周りが暗闇の中タイシが水に浮かぶように浮遊していた。そのタイシをアスクレピオスが笑みを浮かべ抱きしめており、タイシが力無く目を開ける。
ー周りがお前を助けるために動いたのもまた幸となったな。
タイシが僅かに顔を歪めながらアスクレピオスを睨みアスクレピオスがふふっと笑う。
ーもうすぐ本体も目が覚めよう。
悲鳴が響くとタイシが奥歯を噛み必死に腕に力を込める。
ーお前もお節介だな。そこまで人を助けることが好きか?
ー好き、嫌い、じゃない…。俺に、出来ること、だ。
ーそうか。
アスクレピオスが起きあがろうとするタイシを抑えると笑みを深める。
ーまた会う日を楽しみにしている。そしてその時はお前は私のもの。私がお前をもらいお前は私と共に。
ステラが操られた兵士達5人に手足や体を強く抑えられ苦しくうめく。そしてミオが目を黒ずませたヴィクトールに力強く抑えられながらも結界をはり続ける。
「う、つう」
「いやっ。いや離して!」
ナターシャの体を兵士たちが抑え、そして罪人達が不敵に笑いナターシャの服を掴み乱暴にちぎる。ナターシャが青ざめ涙し、罪人達が操られた兵士たちをどかしナターシャに覆い被さる。
「ようやく復讐できるわ」
男物の服を着た年配の女が手の甲の六芒星を光らせながらタイシの上に座っていた。ステラが鋭く睨み、ミオが奥歯を噛み締め腕を震わせる。
「ふ、くし、ゅう、じゃ、なく。やつ、あたり、よ」
女がミオを振り向きミオが女を睨みつける。
「さい、ていな、事っ。あ、なたが、全部っ、悪いっ」
女がヴィクトールへと指を向け下げるとヴィクトールがさらに強く抑えミオがぐうと声を上げるも女を睨み続ける。すると女が立ち上がりミオの元へと進み頭を踏みつけねじる。
「私には向かうものが全て悪い。私は悪くない」
ナターシャが起きあがろうとするも抑えられ下着姿にされると苦しく息を弾ませる。
「さて、準備ができたわ」
女が手の甲を光らせ足元に魔法陣を出すと芋虫状の悪魔を出す。
「悪魔との契約を続けるには生贄。供物が必要なのよ」
悪魔が唾液を流しながらミオ、ナターシャ、ステラをみる。
「まずあなたが最初ね」
女が芋虫をミオへと向けると不敵に笑う。そして芋虫がミオに近づきその口を開けるも突如止まる。女が眉を寄せる。
「え?」
女の口から血が流れると女が後ろを振り向き俯きどこから出したのか黒い剣を女の体へと貫かせたタイシを見る。そのタイシは目を赤く光らせており女がごふっと血を吐くも歯を噛み締める。
「死に損ないっ」
ーあの時、生まれた時死んでおけば良かったのよ。この死に損ない。
芋虫の悪魔と共に女の首が切り落とされるとミオが転がり目のあった女を見てゾッとしすぐにぐっと目を閉じる。すると抑えていた侯爵達がその場に倒れステラがすぐに起き上がる。
「タイシ!」
ステラの呼びかけにタイシが応じずナターシャを抑えていた罪人達の元へと向かうと瞬時にその首を切り落とす。
「ひいっ」
悲鳴をあげた罪人が部屋から逃げようと背を向けるが頭から口へと剣が貫くと白目を剥きその場に倒れ大量の血を流す。ステラが冷や汗を流しタイシが貫いた罪人の元へと行き剣を引き抜き高価なものを持ち逃げる罪人達をみる。
「おやめ下さい!」
罪人の返り血を浴びたナターシャが後ろからタイシを抱きしめ涙を流ししゃくりを上げる。
「も、もうやめてください。あな、たは、いや、だと、話して、話してた、では、ありませんか…。人を、殺すのは、嫌だと…」
タイシが止まりナターシャが顔を赤くする。
「お、お父様、や、私と。ミオさん達も、無事、ですから。それに、まだ、タイシ様も、体が……」
ナターシャが熱を帯びたタイシを強く抱きしめる。
「もう、いいですから……」
タイシが目を閉じかけその目を閉じると力を失う。ナターシャがすぐに支えタイシを倒さぬよう力強く抱きしめると床に座り込み息を弾ませ青ざめるタイシを見てぐっと口をつぐむ。ステラがすぐに向かい上着を脱ぎナターシャにかける。ミオが起き上がるも足を掴まれると引っ張られ倒れる。2人がすぐにミオを振り向きナターシャがひっと声をあげミオの足を持つ首のない女の体を見る。
「よくも、やってくれたわね」
ナターシャが震えステラがナイフを出すもその隣をすっと白い聖職の服を着たものが通り過ぎるとその後ろ姿を見て目を見開く。
「なぜここに」
「ステラ殿」
ステラがハッとし鎧を着たサイモンや聖職者のもの達を見る。そしてミオが近づくダリスの足元を見る。
ー誰…。
「く、くるな」
ミオを掴む手が震え始めると女の頭が青ざめ恐怖に歪む。
「哀れな魂に救いをと言いたいのですが、悪魔に相当汚されたようですね。その状態でもなお動いているのならあなたはもう哀れな魂ではない」
女の顔が黒ずみ目を赤くさせるもその顔はしわがれ始める。
ーつうっ。
ミオの足が歪むとミオが奥歯を噛み締める。
ー死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。ならこの小娘っ。供物にして。ここを投げるだけの力をっ。
芋虫がミオへと素早く動き牙を向けるもミオがその牙を掴み睨みつける。
「消えてっ」
芋虫が突如青白い炎をあげ苦しみ悶えると女の体と頭もまた青白い炎をあげる。
「こ、むす」
ダリスが剣を出し女の頭を突き刺すと女が悲鳴をあげ体が悶え部屋の壁に体当たりをするもその体もまた貫かれると動きを止める。ミオが目を閉じ意識をなくしダリスが剣を鞘へと収める。
「侯爵殿達を休めるところに。遺体もまた運びなさい」
「はっ」
聖職者の騎士達が動くとダリスがミオを抱き上げようとするが。
「お待ちください」
ダリスが手を止めふっと笑い優雅に笑んだエリスが近づく。
「ミオは私に任せてくださいダリス枢機卿」
「ええ。ではお願いいたしますエリス嬢」
「はい」
「刺々しいな」
「えと、まあ…」
サイモンが気まずい笑みを浮かべステラがやれやれとする。
「サイモンはタイシを。私はナターシャを運ぶ」
「はい」
「ミオは…」
「生きているから心配するな。侯爵達もだ。行くぞ」
ナターシャが頷きステラに抱かれ、サイモンが失礼と告げマントでナターシャの体を完全に覆い隠す。そしてエリスが澪をだきながら進むとナターシャが腫れたミオの足や額から流れる血を見て僅かに顔を歪め涙を浮かばせた。
ーお前をもっと早くに……。そうしたらー。
鈍い鐘の音が響くと正装した騎士達、黒い服を着た女性達が涙しながら黒い棺を乗せた馬車が街の中心を歩く。その周りを住人達が花を持ちその棺へと向け白い花を投げていった。
ー葬儀には皇太子を出さなかったか。
ステラが侯爵家の部屋の一室からマーリス王の国葬を眺めていた。その傍にタイシと藍丸がおり藍丸が再び意識を失ったタイシのベッドに顎を乗せ欠伸をする。
「国葬か?」
「ああ。ここから見える」
「ああ。しかし、マーリス王も最後まで苦しんだな。息子は出来損ない。妹はその上を行くやつで最後はその妹の放った悪魔に殺された」
「息子と妻を庇ってのことだ。息子も少しはこれで反省すればいいがな」
「多少関わってはいるからな」
「ああ」
ノックが響きサイモンが中へと入る。
「お疲れ様です。タイシ殿のお具合はどうですか?」
「変わんねえ」
「ああ。あと、ダリス枢機卿が中心にやっているとのことだがそちらは良かったのか?」
「私はこちらの護衛をとのことでしたので。あと、ミオ様が目を覚まされました」
「ああ」
「ミオも頑張ったそうだな。結界はって食い止めた後、悪魔をやつけたからな」
「ただ、怪我の方もまあひどい。足も折れてはいないがしばらくは歩けそうにないな」
「ええ。おそらく半月ほどかと。エリス様がユナさんとともに付き添ってます」
「ああ」
後ろから松葉杖をついたイオが姿を見せる。
「イオ。お前もアスクレピオスに散々やられたんだろう?」
「アスクレピオスと魔獣だ。サジとハリーもいたが他の貴族たちを守りながらの相手は骨がいった。特にアスクレピオスの毒霧だ」
イオが右腕な包帯をほどき赤く爛れた肌を見せる。
「うわ…」
「虫の居所が悪かったようだからな。これで済んだだけでもいい」
「ああ」
「それだけの毒を、といいますか。タイシ殿は直接体内に入れられたんですよね?」
「それも口移しだ。つうか、アスクレピオスだけど人の姿に化けた時女だったって聞いたぜ。あいつメス?」
「そうだ。そして、ガルダもメスになる。後はオスだ」
「どうしてわかんだ?」
「むかしのガルダはああではなかったからな」
「へ?」
イオがタイシのそばの椅子に座る。
「事情はわからんが、ガルダは変わってしまった。昔は温厚な魔獣のその上。神獣と言われていた。だが今では天災の一つとして数えられている」
「へえ」
「アスクレピオス。あれは元からだ」
イオがタイシに触れ息を吐きゆっくりと吸いながら目を閉じる。そして、意識をタイシの中へと入れるとイオがわずかな光を包み込む暗闇を見つけその場所へと向かうと赤目の不敵に笑うヘビが身を丸めた幼いタイシを抱くように身を丸めていた。
ーエルフ。それも中々しぶとく抵抗した者か。
ーそうだ。タイシをどうする気だ?
ー私のものにする。私ももう長くはない。そして私は他のものと違いつがいが必要だ。
ーつまり最後に子を残すためにか?
ーああ。
蛇が人はと変わりタイシを抱く。
ーこの童は強く見た目もいい。そして死地を何度も切り抜けて生きていれば知恵者でもある。
ーそれでお前の相手に相応しいというわけか。
ーああ。
ー私では?
アスクレピオスがくふふと笑う。
ー何を言い出すかと思えば。
ーその通りだ。
アスクレピオスがすっと無表情へと変わるが面白く楽しく笑んでみせた。
ータイシ。起きろ。もう平気だ。
タイシが弱々しく目を覚ますとハリーが安堵し、オーガンが目を覚まし合わせたタイシを見ると吸い飲みを向ける。
「冷たい水じゃ」
タイシが咥えゆっくりと飲んでいくと口を離しはあと息を吐く。
「名前は?」
「タ、イ、シ」
「ああ」
「こ、こ、は」
「ヴィクトール侯爵の屋敷だ。宿舎よりもここが安全と言うことでアルスランが侯爵に伝えて部屋を借りたのだ」
「そう。タイシが意識のない時に色々あったよ」
「ああ。まあ、それはまたおいおい。あと、あの狩りから半月たった」
「は、ん、つき、も」
「ああ。アスクレピオスの毒により常に死の淵にいたからな。輸血などを施して24時間常に交代で様子を見ていた」
「そ、ん、な、に」
「ああ。まあ気にするな。それと、休んで体力をつけてから体を動かしていくがいい。あと、アスクレピオスの毒による力。それはタイシの中に宿っているが、問題なく過ごせる。その力はお前自身の力になったからな」
ハリーが気まずくしオーガンが話す。
「なので今はまだ休め。他の者達がお前の代わりも勤めてくれている。安心して休んでいい」
タイシが僅かに息をつき頷くと再び瞼を閉じ緩やかに寝息を立てる。オーガンがタイシの頭を撫でよしよしと頷きハリーがやや表情を曇らせるもオーガンがそんな顔をするなと告げるとハリーがやや項垂れながら頷いた。
ー…また痛い。
ミオが足に包帯を巻かれ固定される。ユナがその足元でじいと包帯に巻かれた足を見る。
「ユナ。こっちに来なさい」
ユナがエリスの元へと行くと膝によじ登る。エリスがユナを膝に乗せ看護師から治療を受けるミオを見ていく。
「頭の怪我の方は塗り薬だけにしておきますね」
「はい」
そこに手などに包帯を巻き黒いドレスを着たナターシャがそろっとくる。
「あ、今よろしいですか?」
「はい。こちらに」
ナターシャがはいと返事を返しアリスの隣に座る。
「もう終わりましたか?」
「いえ。国葬はまだ続いておりますが、私は先に帰って休みなさいとのことでした」
「そうですか。でも確かに。まだ体調も万全ではありませんし護衛がいたとは言え外も怖かったでしょう?」
「はい…」
「ええ。なら、無理せずに。侯爵もあなたに思いやりを持って言われたことですからね」
ナターシャが頷き、ミオがそわつく。
「ナターシャさんは、お怪我は?」
「私は軽いわ。それより貴方よ。あと、元はお母様でしたから。本当にごめんなさい」
「いえ」
ミオが頭を振り表情を曇らせるナターシャを見る。
「気になさらないでください。私は平気です。あと、タイシさんは、容体は?」
「目が覚めたそうです。ただ、しばらくは」
小さな驚く悲鳴が上がるとエリスがやれやれとし、ハリーのまってえと声が響くと白夜がタイシを連れその場にくる。ミオが驚き、ナターシャがドキッとすると思わず立ち上がる。
「タイシ落ち着いてよおっ」
「お、ちつ、ける、か。な、っとく、で、きな、い」
「そ、その、あ、安静に」
「イオですね」
タイシが息を弾ませながら頷き、走ってなんとか追いついたハリーがぜえぜえと息を荒げる。
「その、タイシさん。目…。片方だけ赤に変わって」
ミオが驚きながらタイシの目を見る。その目は片方は黒だが、もう片方は赤目になっていた。
「あの、蛇、の、せい、だ」
「イオの行方は分かりません。実際にアスクレピオスの元に行かれたのかも」
「い、った。いき、まし、た」
『印をわざと残しているようです』
ミオが驚き看護師が驚愕する。
「スノーウルフが、話した…」
「スノーウルフ?」
「魔獣です。あと、長年生きた魔獣でしたら従魔になったと同時に話すことが可能なのです」
『ああ』
「気配はしましたが、まさかスノーウルフを従魔にされるなんて…。多くの方が求めるのがわかりますね」
「…」
「本当そう。だから、各国からぜひ婿に。もしくは養子に。もしくは部下に」
「し、る、かっ」
「いや知るかじゃなくて本当のことだからね」
白夜がミオの元へと行くとミオがドキドキしみていく。そしてミオの左手をかぐ。
『ここにあるようです』
「ああ」
「ごめんね。もしかしたら悪さするかもしれないから見せて。あ、後僕はハリー。魔術師でタイシと同年齢で10年くらいの付き合いだねっと」
ハリーがミオの手に杖を当てる。
「隠れしものや。その姿を見せよ。姿を見せよ」
ミオの手の甲から黒い薄い鱗が現れる。ミオが驚き、ハリーが指でつまむ。
「鱗に触ったと聞いたからね。これは本体の分身。言えば影でから本体でもある。ここから見たり聞いたりしてたんだな。やっぱり凄い」
「よ、こせ」
「ダメだって…。これは問題なく安全だけど、渡したらすぐ行くでしょ?今その体でどーするわけ?」
「同感です」
「て、だて、は、ある」
「いや、あると言っても……」
ミオが横から鱗を取り上げタイシを見る。
「ミオ」
「私が行ったほうがいいです。これは私の中にあったものなら私が行くのが正しいです。タイシさんはお留守番されてください」
「…で、きな、い」
ミオがじいと見てちらりとハリーの杖を見てすみませんと杖を手にし取ると上に掲げすぐさまタイシに光を放つ。タイシに光が当たると力無く頭と手足を落とす。
「タ、タイシ様っ」
「あーあー。たったこれくらいですぐ気絶って」
「え?」
「軽度の催眠です。私がミオに教えた術になります。小型の魔獣の動きを止めるのに覚えていて損はないものですから」
ミオが頷きありがとうございますとハリーに杖を返すと白夜を見る。
「離れても遠くでも行けますか?」
『…いけはする。主人に何も危険がなければ問題はない』
「なら、私をそこに連れて行ってください」
「ミオ」
「すぐ戻ります」
エリスが悩むがはあとため息をし頷く。
「わかりました。けれど危険と分かったらすぐに逃げてください」
「はい、なら。今から行きますので」
「いや待って」
ハリーが手を向けるとため息をする。
「僕も行くよ…。あらかた毒を防ぐ術は使えるから。1人じゃ流石に危ないからね」
「えと」
「はい、決定。なら、こっちの弱ったタイシはとりあえず一旦そこのベッドに寝かせるから」
ハリーがタイシを浮かせミオが座るベッドに乗せる。そしてハリーが今度はミオを浮かせ白夜に乗せると自分もまた乗る。
「方角とかわかる?この方角じゃないかと思うところに飛ばすから」
「飛ばす?」
「移動する。転移だよ。東西南北どっち?それが指差して」
「向こうです」
右斜を指差すとハリーが分かったと頷き杖を握り回し術を唱える。すると足元に魔法陣が現れ白夜と共にミオとハリーが消える。ユナが消えたと声を上げエリスが息をつき、ナターシャが心配な面持ちをし看護師が戸惑いやれやれと姿を見せたオーガンを見て困惑した面持ちを向けた。