ルーシャス4
ーああ…。
床が前すっきりとした執務室で、ダリスが機嫌良く書類の再確認をしていた。
ーご機嫌がいいですね。
サイモンが手伝いつつ思うもノックが響く。そこに再び唯子が遥を連れ中へと入る。
「お疲れ様です。お仕事の方は落ち着きましたか?」
「はい。遥殿のお陰で大変助かりました。感謝いたします」
遥がどきりとし、笑んだダリスを見てイケメン眩しすぎると思うもはっとしぺこりと頭を下げる。
「よかったです。なら、少しお時間とかよろしいですか?」
「ええ。構いません」
「はい。遥さん」
「は、はい」
遥が婚約者である和真の話をするとダリスが話を聞いて行った。
草原の上でルーカスが尊へと拳を向けると尊が受け流し傾いたルーカスを軽々と投げ柔らかい結界に落ちる。それを食事をするアイリスとシルフィアが見ており龍が話す。
『また派手に飛ばされたね』
「ええ」
「ルーカスさんは学園では剣術の腕は良かったのですが」
『剣術であり、成績での評価だからね。実戦をルーカスは魔獣の弱程度しか相手してないから弱い。ある程度の体術は出来てもまだ半端と、尊の話だね』
「はい」
「ちなみに尊は?」
『さあ?』
「足元留守」
尊が身を低め足払いしルーカスの体制を崩すと再び掴み投げる。
「ルーは軽くてよく飛ぶわね」
「え、と」
『まだ体重増やさないとね』
「やあ」
アイリスたちがナナオを振り向く。
「どうも初めましてー。尊くーん。持ってきたよー」
「ああ」
『だれ?』
「七緒。尊君とタイシ君と樹君と音哉君にさくらちゃんに鈴子ちゃんと同級生。学校違うけどね」
『後半の女子は知らない』
「それって、全員この世界に?」
「ああ」
尊がやってくる。
「俺達は学校側と手を組んだ親族達によって誘拐されてここに売り飛ばされた。海に等身自殺して行方不明にもされたりもしたな」
「日本で?嘘」
「本当の話だ」
ルーカスが汗まみれでふらつきやってくる。
「ルー」
「食事して休んで寝た後また食事前の運動だ」
「は、はい」
『ねー尊。尊ってなにか武術とかしてた?』
「ああ。合気道をしていた。相手の攻撃を受け流して倍にして返す技だ」
「防御しながら攻撃出来る技なんだよ。はいまいど」
「それは?」
「回復薬。栄養ドリンクだな」
「へえ」
「栄養ドリンク?」
「向こうの世界の言い方だ」
尊が受け取った薬瓶の内一本をルーカスに渡すとルーカスが受け取り早速蓋を開け飲む。
「なら、瓶はこのまままた再利用する」
「いいよ。あと、尊君。ドイツパンで思い当たることない?この世界で」
「ドイツパン?」
「あるな。立ち寄った村で出されたパンがそれに似ていた。半年程前になる」
「有力情報ゲッツ」
「え?」
「異界人の行方不明者か?」
「そう。ほら、ここにいた遥ちゃん。どうも婚約者さんもここに来てるかもしれないになっててさ。向こうの話で遥ちゃんを探して日本に戻って遥ちゃんの親族さんのところに行って行方不明になったって。ちなみにその親族さんは遥ちゃんが有名になってからしつこく金くれと言い寄ってきた人らしくて。その人が絡んだんじゃないかってことで尋ねたっきり行方知れず。で?」
「ああ。ここから南だ。だが最近領地争いによって村も焼き滅ぼされたと聞いたな。ただ、そのパンについては領主の元で焼かれていたらしい。それを従者が余ったパンを家に持ち帰ってたものという話だ。あとウェルブム国のトラバス伯爵が領地争いでサンジェルク侯爵を討ち取ったという話だった」
「ほいほい。なら、調べるね」
「ああ。ところで、なぜそこまで積極的に?」
「ん?」
「七緒が行方不明捜索で出ると言うことは聞いたことがない」
「へえ」
「んふふ。さすが。六条遥さんがダリス殿のあの大量の不正書類を含めた書類整理や間違い探しを手伝って大きく貢献してね。理由が税理士資格持ってたからなんだよ」
「凄いな」
「そう。そして文書を見る目の速さが異常でね。話じゃ気付いた唯子がここの国の文字とか数字とかの基礎を学ばせてから手伝わせたって。元々はダリス殿の不眠不休解消のためだったけど、中々な貢献度具合だったらしく。ただ今派遣社員としてアルスラン将軍、その後もまた別途仕事をもらったという事です」
「なるほどな。分かった。だがまだ彼女も」
「将軍達を相手にできると思う?」
「出来ないが油断はしないようにと伝えてくれ」
「了解。それじゃまたよろしくー」
「ああ」
七緒が去っていき、アイリスが話す。
「税理士なんてすごかったのねあの子」
「ああ」
「税理士?」
「向こうの役職資格だ。国の帳簿を作るほどの力を備えている」
尊が棒を出し地面に文書、続いて数字を書く。
「俺のお袋の友人がその税理士。そしてこれが、問題だ」
尊が書き終える。
「ここの世界に合わせて変換した。これは中の下」
シルフィアがいくつもの数字を凝視し、ルーカスもまた見ていく。
「ここの世界は向こうと違って数字に弱い。計算力、暗算がだ」
「暗算とは…」
「自分の頭の中だけで数字を足し合わせて一つの答えにする。今から俺が言う数字を足し合わせて答えろ。45足すのー」
和真が渡された帳簿の数字を紙に書きながらあっているか計算をしていた。そのそばにトラバス。目の前に冷や汗を流す縄で縛られたバトラーがいた。
ー…やっぱり。
和真が僅かにバトラーへと視線を向けトラバスへ視線を向けると帳簿を向けトラバスが受け取る。
「817万ほど合わないです。この商人名も調べられた方が」
「そ、そんな筈ございませんっ。私は」
トラバスが鋭く睨みつけるとバトラーが押し黙る。
「その、数字の塗り直しの後もあります」
「さて」
「も、申し訳ございません!」
バトラーが床に頭を叩きつける。和真が気まずくしつつも書類を見る。
ーこんなあからさまな数字が分からなかったのか…。
どんっと音が響くとすぐに前を向きバトラーの頭を抑えるトラバスを見る。
「謝罪で済むな。地下に連れていけ」
「はい」
「もう致しません!旦那様!!」
バトラーが引きずられ連れて行かれる。
「行った…」
「腹立たしい。事務官達はクビにして新しいものを雇え」
「はい」
「代わりのバトラーは…」
「私が探す。お前はこのまま確認をしてくれ。出る」
「はい」
トラバスが離れ部屋を出る。そしてポツンと和真が残されると仕方なく書類の確認作業を行う。
夕方ー。
和真が部屋を出ると周りを見渡し廊下を歩きながら窓の外を見つつ屋敷内を歩く。そして時折メイド達に頭を下げられながら進むと鍛錬する男達を見て興味が湧き下へと降りる階段を探した。その後辿り着くとこっそりと汗をかき槍を持つ男達を見る。
ー兵士の人達か。あの時い。
「何をしている?」
和真がどきりとしすぐさま金髪に茶色の目をさせた男を振り向く。男が眉を寄せると小さくああと声を出す。
「伯爵様のご指示でここに?」
「いや…。出て行かれてしまったので…」
「ならば部屋があるだろう。戻れ」
「その…部屋を変えると言われてそのままで」
「部屋を変える?」
「まだ話が行き渡ってないわね」
男が振り向き女がその場にくる。
「クロエ」
「彼。今日から伯爵様の養子になったの」
「伯爵様のか?」
「ええ。洗礼の結果を受けてのようよ。あと、バトラーの長年の不正を暴いたのも彼」
「ええと、でも、分かりやすく書かれてましたけど…数字の間違い」
「あの書類。魔術がかけられていたのだけど分からなかった?」
「え?」
クロエが小さく声を出す。そして電気を帯びた手を和真へと向けるも晴れる直前で消える。男が僅かに目を見開き驚愕しクロエが話す。
「聖獣持ちに魔力の無効化。それから、魔獣を寄せ付けない力を持っている。あと、頭もいいみたいだし、伯爵様も養子として手元におきたくなるだけあるわ」
「俺は…元いたところに帰りたいのですが」
和真が落ち込みクロエが告げる。
「ここから彼方には戻れない。帰れないわ」
「そんな…。家族も、恋人もいるのに」
「ここで新しく作ったらいいじゃない。あなたはもう伯爵様の息子だもの」
和真が複雑そうにし男が話す。
「なったのなら、剣は?」
「剣ですか…。剣道なら…」
「ケンドー?」
「剣ではなくて刀を使った武術のことです」
「刀なら、アストレイのタイシか思いつくわね」
「タイシ?日本人ですか?」
「日本人かは知らないけどあなたと同じ異界人よ。あと、刀は剣と一緒だからあるはあるってことね」
「でもあの訓練を見る限り真剣」
男が和真を掴み引っ張ると訓練するもの達の元へと向かう。
「つべこべ言う前に来い」
「いや」
「ターナー。手加減しなさいよ」
クロエが告げ壁に背をつけ見物する。ターナーがやってくる。
「こいつに剣を貸せ」
「はい」
「ヴィル相手をしろ」
若い青年がやってきて和真へと視線を向ける。
「この男って」
「聖獣の使いだ。使うなよ」
「いや、俺は」
無理やり和真が剣を持たされる。そして押されヴィルの前に立つ。ヴィルが睨みつけ構え、和真が汗を滲ませぎこちなく視線を隣へと向けると騎士達や訓練生。そしてターナーが見ており和真が視線を逸らしヴィルを見ると気まずくその剣を両手で握り前に構える。
ーやってるだけはあるわね。
「勝手なことを」
クロエがトラバスを振り向き頭を下げる。
「始め」
ヴィルが和真へと剣を素早く振り切った。そして剣が音を立て宙を舞った。
ー日下部和真ー。
「なんだ日下部さんかー」
「知ってるの?」
「ふふん」
紬、ミオ、遥、マリアンヌが一つの部屋で話しており紬が頷く。
「高校の剣道総体の個人優勝者だよ。不屈の和真って言われてた」
「不屈?」
「どんな事にも屈しない。どんなことがあっても目標に向かう。まあその、医者だった歳の離れたお兄さんが戦争の所にお医者として行って捕まって人質になったの。そしてお金を要求されたけど期日までに払えなくて処刑されて殺されたの。その時が大会中でみんなそのこと知ってたから注目されてたんだ」
「そうにゃのかあ…」
「その婚約者さんのお兄さんは殺されたのか」
「うん」
「そぎゃん。だけん、目立ったらしかなあ。うちの兄が審判でおったけんが。でも、最後まで関東代表としておって、勝ち抜いて、そして優勝したと。その時ついたあだ名が不屈の和真。ばってんその後やめたって聞いた」
「そうなの。どうしても辛くて苦しくて。おじさん達も…。ああ…私のせいだ」
「なかなか。あと、見つかるたい」
表情を曇らせる遥の肩を紬が叩く。
「とにかくここにいるかもしれないで探してくれとるけんな」
「うん…」
「会えたらいいにゃ」
「ありがとう…」
マリアンヌがよしよしと遥の頭を撫でると遥がはあと心配そうにため息をついた。
「侯爵め。気づいていればよかったものを」
トラバスが楽しく告げ前に出る。その先に剣を一瞬で弾き飛ばされ唖然とするヴィルとどうしようと剣を構え固まったままの和真がいた。そしてヴィルが奥歯を噛み締めると顔を赤らめる。
「も、もう一度だ!!」
「私がしようか」
ヴィルがはっとしトラバスが和真が弾いたヴィルの剣を拾い上げ構える。
「さあ来い」
「……」
「合図」
「は、はい。始め」
トラバスが顔面へと鋭い突きを向けると和真がすかさず持っていた剣で退ける。
「ほう」
ー今本気でっ。
和真が冷や汗を流しトラバスが重く強くその剣を和真へと向け振っていく。和真が剣で受け止め避けていくとヴィルがむっとする。
「避けてばかり…」
「そうか?」
「ああ、見ろ。足元」
ヴィルが和真を振り向きターナーが話す。
「まだ動いていない」
場が静まり剣の打ち鳴らす音が響く。クロエが目を丸くし興味深く見るも横から尊が姿を見せる。
「貴方」
「許可はもらっているし話もした」
「そう」
トラバスがやや汗を浮かばせじっと見る。
ー機会をか。どれ。
トラバスが隠し持っていたナイフを使い和真へと向けると和真が今度は鞘を抜きナイフを払いのける。
「かっちゃん!!」
和真が剣を握り直し柄でトラバスの剣の柄を打ちトラバスの手から剣を退け飛ばす。周りが驚き和真がすぐに遥を振り向く。
「はる」
遥が顔を歪め走ると和真にぶつかりそのまま和真を押し倒す。周りがざわつきトラバスが手を握りながら軽くため息をする。
「かっちゃん…かっちゃんだあ」
遥が涙し啜り泣き和真がすぐに起き上がる。
「はる」
「ごめん…。ごめんなさいごめんなさい。ごめん、なさい」
遥がしゃくりをあげ和真が頭を振る。
「いい。それより体は?何もされなかったか?」
「そこまで。移動しようか」
尊が来ると和真がはっとし気まずくなり遥が顔をあげ周りの男達を見て固まりゆっくりと俯いた。
片手に包帯を巻いたトラバスが椅子に座る。それを和真が見て戸惑う。
「その、手は申し訳ありません」
「はっ。こちらは卑怯な手ばかり使って全て遮られたからな。どうもない」
トラバスが手を振り尊へと話す。
「今日の今日で忙しいものだな」
「はい。お話いただけてありがとうございます。養子にされたと言うことを聞きました」
「え?」
遥が目を丸くし複雑な面持ちの和真見る。
「えと…」
「ああ」
「え?え、と」
「まず、日下部和真。彼女に話すことはないか?」
和真がどきりとし尊がじっと見る。
「話すこと?」
「…その、俺自体養子なんだ…」
「え?」
「元の髪は…、まさにこの色で…」
遥が目を丸くさせ、和真が気まずくする。
「実の親は知らない…。今の親は里親なんだ」
「そうだったの。だから髪が違ったんだ」
「いや顔から作りが違う」
尊が話しやれやれとする。
「和真自身は俺も会ったことはないが父親とは父親同士で接点があったから見たことがある。母親も。顔は2人と全く違うぞ」
「…んー」
「その、ここでまた顔が変わってて」
「変わった?」
和真が頷き複雑そうにする。
「目元と輪郭が」
「痩せたからじゃなくて?でも私ぼっちゃりも好き」
尊が呆れ和真が話す。
「その、あれは前話したけどストレスで、いや、そうじゃ」
「のろけはいいから話せ」
トラバスが突っ込むと。
『転移による影響ね』
尊の肩に鳥が止まるとトラバスが眉を寄せ、尊が話す。
「俺たちは何も変わらなかった」
『ええ。ただこれもまたごく稀にある事なのよ。ギフトの一つでもあるわ。ちなみに一度変わればまた元に戻るのは難しいわ』
「え…」
「その鳥はなんだ?」
「ええ。この世界で信仰され実際に存在する三女神の1人」
「女神だと?」
『ええ。封印されていたけどこの子と妹のおかげで解放されたの』
「封印された理由は龍と人との盟約の阻害。当時のもの達が探し当て封印を行ったそうです」
『ええ。この姿。依代の姿だと本来の力がうまく使えないから。そこを狙われたの』
「女神ならばヤハネを知っているか?」
『勿論。正確にはヤハネス。赤き龍の名ね』
「ああ」
『それなら、この子のところにいるわ。人に紛れて暮らしているの』
「はっ」
「保護した難民達のところに?」
「ええ。彼女は隠れるのが上手なのよ。そして、龍は龍でも変わり者と言われている龍なのよ」
「探せるか?」
『ならまた保護区に戻った時に教えるわ』
「ああ」
「ヤハネは私が幼い頃に出会った龍だ」
『あら。それはまた希少ね。何か貰わなかった?』
「貰った」
トラバスが首から下げた赤い宝石の首飾りを外すと鳥が羽ばたき宝石の前に来て光を放つと宝石もまた淡く光る。
「わあ…」
遥が驚き和真もまた驚く。
『私の声が聞こえるなら私を認知した者が触れたと言う事だな』
トラバスがやや驚き赤い宝石が淡く光ながら話す。
『なら褒美にいいことを教えよう。古代国の宝だ。場所はイーロン国から東にあるカリヤム山脈。その山脈の二つこぶの活火山の近くに洞窟がある。その奥に隠されている。以上だ』
光が消えると尊が話す。
「そのカリヤム山脈自体険しいですよね」
「はっ。やつらしいし行かん。お前達がいくなら行け」
トラバスが首飾りを再び首に下げる。
「話を戻す。そいつは私が私の養子にした。なので帰れ」
「は?養子?どう言うことかっちゃん」
「その…」
和真がしどろもどろと話す。
「元の場所に、もう帰れないと、聞いて…」
「そう言うことだ」
「っっ和真!!」
和真がどきっとし遥がテーブルを叩き睨む。
「お前は男だろうが諦めるなこら!不屈はどうした不屈はああ!?」
「ご、ごめん。本当」
「教会がよく許しましたね」
「高い金を払って黙らせた」
「いくらですか?」
トラバスが鼻を鳴らす。
「100万だ」
「日本円で1億だ」
「えっ…」
「む、こうだったらあっ」
遥が歯を噛み締めトラバスがやれやれとする。
「いや、俺に、なんで」
「それだけ価値があるからだ」
「ええいもう!その金額を超える結納金を1年内に用意します!!」
「好きにしろ」
トラバスがしっしっと手を振る。
「尊。その五月蝿いのをさっさと連れていけ」
「分かりました。遥行くぞ」
「和真!絶対に婿としてもらいにくるから!貰った後は覚悟しときなさいよ!!このちんちくりんのおばか!!ふんっ」
遥が苛立ちながら部屋を出ていき尊がやれやれとしながら後に続き出る。
「……」
「まったく。騒々しい小娘だ」
和真がそわつく。
「リカルド」
「……」
「リカルドっ」
「はっ、はいっ」
和真が慌てて返事を返しトラバスがやや苛立ちつつ席を立つ。
「食事にするぞ」
和真がはいと再び返事を返すとトラバスに続くも気まずく申し訳なく後悔の念に押されながら部屋を出た。
ルーカスが気持ちよく深い眠りについていた。そこは洞窟の中で、外は雨が降っておりルーカスのそばにはアイリスが座りその隣にアイリスから習った刺繍を行うシルフィア。離れた位置にシンとランカスターがいた。
「あいつおせえ」
「仕方ないでしょ」
「アイリスさん。ここはどうすればいいですか?」
「ええ」
ランカスターがだるそうにため息をする。その隣にいたシンは薬草をすりつぶしておりランカスターが話す。
「薬臭えしよお」
「この先も続くからな」
悲鳴が響くとアイリスが顔を上げる。
「ランカスター。暇でしょいけば?」
「はあ?」
「暇だから行ったら?」
「やだ」
アイリスが立ち上がりランカスターを掴み力一杯洞窟から外へと追い出すと一瞬でずぶ濡れになる。
「このあま!!」
「はいいったいった」
ランカスターが苛立ち雨の中消え去るとシルフィアが複雑そうにしシンが気にせず薬草をすり潰し続けた。その先では雨の中荷馬車が熊の魔獣に襲われており周りでは殺された死体に狼達が集まり取り合いをしていた。くまが馬車を掴み牙で破壊すると中にいたもの達が震えるが熊の頭が突如切り裂かれ地面に落ち、狼達も切り裂かれその場に倒れ僅かに痙攣したのち動かなくなる。
「くそあのあま…」
ランカスターが馬車に乗ると手錠に繋がれ震える若い男女5名を見る。
「ふえええ」
少女が抱いていた赤子が声を上げなくとランカスターがはあと溜息をついた。
ー赤子の声…。
ルーカスが僅かに目を開け頭を起こす。すると手が乗せられる。
「ルー。気にせず寝てなさい。平気よ」
ルーカスが周りの若い男女達を軽く一瞥するもアイリスに諭されると再び目を閉じすうと眠りにつく。そこには運ばれてきた若い男女が5名。少女と赤子がおり、女がスープを飲みはあと安堵の息を吐き男がパンを食べながらじんとする。
「久しぶりのまともなパンだ」
「ああ」
「硬いものかおこぼれみたいなパンばかりだったものね」
「ええ」
「リリア。その子どう?」
「飲んでる」
ヤギの乳を赤子が懸命に飲んでおり女がホッとし頷く。
「そう」
「あなた達兄弟とか家族?」
「リリアとこの子は姉妹よ。私たちは違うわ。赤の他人」
男達が頷き、女が話す。
「私は両親が売ったの。人買いに」
「俺は戦争で。もう小さい頃からだ」
「こっちは…ギルドの初心者で。顔がいいからとかで殺されずに売られた…」
「私は人攫いにあったわ」
「私も」
「んと、木の実拾いに行って、妹と待ってて言われて待ってたらおじさんがきてついて行った」
「ギルドの名前はなんだ?」
男女が洞窟の入り口を振り向きランカスターがやれやれとすると戻ってきた尊へと話す。
「ようやくかよ。オークションの商品どもだ。売主達は魔獣連中に殺された。中は結界が張られてから助かったようだ」
『この中に嘘つきがいるわね』
「え?」
小鳥が話すと尊が少女の元へと近づく。
「お前だな」
「え…」
『稀に見る変化ね。少し擬態もしているけどエルフよ』
少女がどきりとし男女達が驚くとシンが目を丸くする。
『耳だけ人の形に見せかけているわ』
「ああ。あと小人病だな。ここでも手で数えるほどしかいない」
少女がちいっと舌打ちしぶつくさいう。
「ああもうはいそうよ。あと、あんたらよりまだ長く生きてるわよ」
「年は?」
「568」
「えっ!?」
「そんなに歳を取られて見た目が全く」
少女がシンを見て鼻を鳴らし、尊が告げる。
「歳を取らない。不死者として言われる病でもあるんです。昔の文献に書かれてました」
「そーよ。あと、遺伝してしまうの。私の母が同じ小人病。ただ、兄は通常のエルフ。今は老けて長してて極たまに会ったりするなかね」
「どうしていたんだ?その赤子か?」
尊が尋ね、少女が頷く。
「そうよ。森の中に置き去りにされていたのよ。どこかのメイドの女が置き去りにしたの。多分後継人争いか、男を取り合う女の争いかのどちらかね。これで晴れて私は第一夫人になれるって声高らかにね。で、助けたはいいけどその後すぐに売買組織の連中に捕まったわけ。この子がいたからどうしようもなく捕まったの」
少女がため息をし眠った赤子を抱き直す。
「私は途中で拾われて一緒の馬車。魔獣達も増えているってのに急ぎで運んでたみたい」
「なら目玉商品がいたんだな」
「ええ。多分そこのギルドの子ね」
「顔立ちいいものねー」
「いや、俺よりその人の方が…」
男が尊を示すと小鳥がくすくすと笑う。
『尊は人気者よ。ね?』
「知らない。あと、ギルドの名前は?」
「イサークです。イサークアルバラード」
「分かった」
「はい」
「ああ」
ランカスターが欠伸をすると横になる。
「尊。後お前がやれ」
「はい」
ランカスターが頷き眠りにつく。
「あの、馬車。守ってくれたのは…」
「はあ。一応私よ。この子もだけどあんた達が悪さしたわけじゃないし、あんなところで死にたくも死なせたくもなかったから」
「ありがとうございます」
「ああ。助かったよ」
「ありがとう」
少女が顔を赤くさせふいと横を向く。
「別、いいし。そ、れより。あんたたちはどうするの?」
「ギルドと俺で面倒を見る。そっちは?名前は?」
尊が尋ね少女が答える。
「ララよ。この子は?」
「俺が保護している人たちのところに預ける。難民保護区だ」
「ええ?それ信用できるわけ?」
「責任は俺が取る」
ララがややおしだまるとしどろもどろとする。
「分かった。でも、一回見てから決めていい?」
「ああ」
「ええ」
「…あの」
ギルドの男が手を挙げる。
「すみません。もし良かったら俺の仲間を殺した連中を捕まえて欲しいです」
「ああ。ちなみに知っている顔か?」
「はい。同じギルドの先輩です。プロラテのトリスターノさんです」
シンの薬草を分ける手が止まる。そしてララが話す。
「ああ、プロラテね。私知ってるわよ。と言ってもそこにいる同胞の事だけど」
「え?」
「私もあまり人里には近づかずに森の中で生活してるから疎いのよね。情報に。シン。あなたプロラテにいたでしょ?なんでここに?」
イサークが驚きシンがゆっくりと息を吐く。
「騙されたんです。私が同じメンバーの女性を犯したからと」
「そんな無理よ。無理無理」
「どうして?」
「30年前に出来たエルフの誓いよ。人には知られることはそうないけど、ギルドに所属するエルフは人に好意を結ぶことは禁じると。もし好意を持った場合、エルフと人と原則な話し合いの上行う。あとは、どちらか一方必ずギルドを抜けること。それを破れば100年間エルフ族に見張られての生活を送る。なぜそんな事になったか。1人の女性をエルフと人の男が恋した。けれど、女性は同じ種族の人を選んだ。エルフの男はエルフの里に帰り長になり妻を持ち子を持ったけれど、忘れられず苦しみ最後は全員殺し人を恨むものになったから」
イサーク達が驚き、尊が話す。
「アルスラン将軍ですね」
「その通り。あの馬鹿がね。してくれたから。その事件をきっかけに長達で決めあってそうしたわけ」
「でもどうして潔白しなかったの?」
「そんなこと言われてもという感じだし、人は私達に信頼を全て寄せてるわけじゃないし、人は人側を守護するわ。同種を守る。私たちも同じではあるわね。優先は同種族」
シンが頷き、ララが話す。
「ちなみに、ギルド入ったエルフは全員呪い持ってるの。言えば違反したら束縛される奴。強姦も取り敢えず同罪」
「はい」
「ええと、なら」
イサークがシンを見る。
「そちらにいるシンさんは元ですよね?あの、おられた時は」
「なかった。私が見ている所ではない。襲ったのはトリスターノだけか?」
「いえ。たしか、トリスターノさんとラナデアさんです」
「ラナデアは知らないな」
「後で入った人かも知れません。後そうなれば情報を集めるか。イサーク。そっちは顔が知られているから暫く俺の知り合いのところで保護だ。見つかれば口封じに殺されるからな」
「そうだな。どうあれトリスターノの腕は確かだ」
イサークが頷き答える。
「良かったらお願いします。俺もまた死にたくないですし、仲間の事もありますから…」
「ああ」
「なら、他は一旦こっちで預かる。ララは子供を連れて見た後は?」
「ダメと分かったら子供を育てるためのところをまた探すわ。よかった後はまた森で暮らすわ」
「ああ。なら、早いところ行動しよう。まず中継地の魔導局に繋げる。その後各自別れる」
シンが壁に転移魔法の紙を貼り繋げるとイサーク達が中へと誘導された。
ーまたか。
ルーカスが白い光るものへと手を伸ばし掴もうとするもするりとその手から抜け目の前をふよふよと漂う。
ー中々、掴めない…。
ールー?
ルーカスが目を覚ますとアイリスの手を掴む自分の手があった。
「また同じ夢?光が浮かんでいる奴」
ルーカスが頷きその手を下ろしはあと息をゆっくりと吐き出すと辺りを見渡す。
「尊さんは…」
「また出てるわ。しばらくしたら戻る予定」
「ああ」
「ええ」
アイリスが横へと手を伸ばし焚き火にかけられたスープをおたまですくい器に注ぐ。その周りには眠るシルフィアとシンがおり、洞窟の外は暗かったが星が空を照らしていた。
「夜か?」
「ええ。ランカスターは見張りで外よ」
「アイリスは?また寝れないのか?」
「私は起きたの」
ルーカスの頭をアイリスが撫でるとルーカスが申し訳なくする。
「いいわよ。頼ってね。あと、1日寝続けるのも体力使うから」
アイリスがスープをルーカスへと向けるとルーカスが受け取りやや温まったスープを口にし飲む。そして一度はなし再び勢いよく飲む。
「スープ美味しいでしょ?尊が作った奴なのよ」
ルーカスが口を離し頷き、アイリスが告げる。
「亡くなったお父さんが料理長で子供の頃から教わってたそうよ」
「料理を?」
「ええ」
「はあ、ねむう」
ルーカスが欠伸をするララとララと共に来た尊を振り向く。
「おかえり。ララはどうかした?」
「ま、ちょっと暫く一緒に行動」
「ああ。ルーカスの指導をしてもらう。古代語や歴史が詳しい」
「ま、人より長く生きてはいるから」
「ねえ。あかちゃんは?」
「尊のとこ」
「ああ。保護した。出自については魔導局が調べる事になった」
「ええ」
「後俺も一眠りする」
尊が座り壁に背をつけ両手を組みその目を閉じる。ララが私もと尊の傍に来て横たわり大欠伸するも暫くして2人とも寝てしまう。
「寝つきいいわね。羨ましい」
「アイリスはまだ眠りが浅かったりするのか?」
「以前と比べるとマシにはなってるわ」
『ただいまー』
子竜が頭にタオルを乗せほっこりとしながらアイリスの元へと飛んでくる。
「なあに?頭にタオルなんか乗せてどうしたの?」
『温泉に入ってきたんだよ』
『そうそう』
陸奥もまたやって来る。
「温泉?」
『アイリス知らない?』
「ええ」
『お湯だけの泉』
「泉…。まあ、なんとなくは」
アイリスが不思議そうに答え、子竜が話す。
『このさらに先にあるよ。陸奥から教えてもらったから通りがけたら教えるね』
「ええ」
「陸奥。あちらは何か変わったことは?」
ルーカスが尋ねると陸奥が話す。
『大きな変化はなし。魔獣についてはみんな慣れてきたみたいだからこれ以上の人員移動もなし。ただ、ギルドでいざこざはあるみたい』
「魔獣討伐の共闘でか?」
『その通り。上の命令やリーダーの命令に従わないのがいるわ。こっそり悪巧みする奴がいるわとあってね』
陸奥が眠る尊を示す。
『尊も色々その件は知ってるし、昨日までその対応もしてたから疲れてる』
『そーそー。僕たちも情報収集にいってね。それで温泉入って眠って疲れとってきた』
『ねー』
アイリスがふふっと笑う。
「仲良いわね。分かったわ」
『うん』
「なら見張りお願い。出来るでしょ?」
『…』
『さあで僕たちまだ疲れてるから寝るかあ』
『そうー』
アイリスが二体を掴むと外へと向かう。そしてランカスターが欠伸をしながらやって来ると空いているところに寝転がり、アイリスもまた中へと戻る。外では二体が顔をしかめながらぶつくさアイリスに対する文句を言い合いつつ見張りをランカスターに変わり行った。
カルダンー。
木造の家が並ぶ村へと尊達がやって来る。アイリスが人気のない村を見渡し、ルーカスが話す。
「以前はまだ人がいたんだが」
「へえ」
『人のせいでこうなってるんだ』
アイリスの肩に乗る子竜が告げるとアイリスが話す。
「どうして?」
「正確には隣村同士の争いだな」
石が音を立て向かうも結界が弾く。すると石を投げた子供を母親がすぐに家へと引き入れる。
「争いにしては他人も巻き込んでない?」
「うっそ!!」
女が突然ランカスターへと飛び抱きつく。
「ランーー!!!」
ランカスターが即座に女を投げると服を叩き女が怒り声を上げる。
「あんたひどくない!?」
「うるせえ」
「ていうかなんで生きてんの?」
「ランカスター知り合い?」
「あー、まー」
「元仲間元仲間」
アイリスが驚き、シンが話す。
「仲間?」
「あー、やたらとつるむ前につるんでた。けど奴らとしょーぐんとか」
「お偉いさんから誘われたの。私たちは弱かったから仕方なく見送っただけ」
女が立ち上がると少年が女に抱きつく。
「母さん…」
「ごめんごめん」
「お前ガキ作ったのか?」
「そうよ。3人」
「…よく貰い手あったな」
女がランカスターの顔を掴む。
「悪かったわね」
「…」
女が手を離し尊達を見る。
「でもどうしてまたここに?何のよう?あとあなた異界人?」
「ああ」
「なら、あいつらに気をつけて。一つ目ども」
「一つ目?」
「そう。顔面に目玉があるやつら。見たことない魔獣、なのかしら…。ただ力が強いし私たちみたいに人語を話すの。旦那がそいつらにやられて立てなくなったのよ。他にも殺された人たちもいるの」
「ふうん」
女がランカスターを蹴るとランカスターが苛立つ。
「けんな!」
「ああああっっっ」
村娘達が尊の元へと素早く来る。
「た、尊様っ」
「ああ、確か川に」
「はい!!」
「覚えていてくださったんですねっ」
「そっちは?」
「一年前に魔獣に襲われてたところを助けた。ただここじゃない。ここの村の出身者だったのか」
「はい」
「あの時は都に買い物と商品を出しに訪ねた時でしたから」
「ああ」
周囲が徐々に出て来るとアイリスが話す。
「知り合いいるならって感じね」
「ええ。その一つ目玉もだけど隣村の事もあるからみんな外から来る連中に前よりも警戒しているのよ。それにどうも一つ目玉はあいつらが仕向けてる感じなのよね。どうにか出来ない?」
「金」
「あんたは哀れな人間に救いの手を出してくれないわけ」
「出して騙されてだからな。俺は」
ランカスターがふいと顔を背け、女が気まずくする。
「あんたの村が消されたのは本当なのね」
「ああ。皆殺しだ」
「そう…」
「尊。一先ずどうする?」
尊が考え、娘達が熱い視線を送る。
「一つ目玉が気になる。あと、この地方は確か白山香が採れる」
「ハクゼンコウ?」
「あるわようちに。キース。持ってきて」
抱きついた少年が頷き家へと向かう。そして束ねた枝を持って来るとアイリスが興味深く見ていき、尊が受け取る。
「その枝?」
「ああ。魔獣よけの材料の一つだ」
「そう。村の家全部に白山香は使われているのよ。だからこの辺りの魔獣はこの匂いが嫌いで近寄らないの」
「へえ」
「ですが、その一つ目玉は違うということですね?」
「その通り。人よりでかい。オークぐらいの大きさだ。とにかくそいつらが来てからは畑は荒らされ人は殺され。連れ去られた女の子達もいる」
娘達が頷き、女が話す。
「最近また1人連れ去られたの」
「酷い話ね」
「尊。おい」
女がランカスターを振り向きランカスターが話す。
「どうするんだ?」
「白山香の原料がありますのでその保全として一つ目玉の問題をどうにかします」
「娘は?」
年老いた女が尊達の前へと来る。
「娘を助けてくださいっ」
「ついでになります」
「そんなっ」
「おばさん」
女が年老いた女を尊から離す。
「この人たちはギルド所属よ。傭兵とか勇者の一行じゃない。関係のない事をして規則を破れば駄目なのよ」
「はい」
「ええ。因みに聞くけど今回依頼出すとしていくらくらい?」
「はい。行方不明の捜索なら1000。命を伴う救助なら3000です」
「3,000…」
「魔獣調査なら200です。ただ今回は俺の私的も兼ねての調査なのでそちらは依頼なく行います」
ランカスターがやれやれとし、アイリスが話す。
「なら、その間私はフィアと村にいるわ。待ってる間に商品作りしておくわね」
「ああ」
「そうしたら私も。一つ目玉が来るかもしれないので、その場合に備えての村の見張りはランカスターとルーカスがいれば問題ないだろう」
「なぜそうなる?」
「ついでだ」
ランカスターが面倒臭そうにため息をし、女がよしよしと頷いた。
子供達がアイリスの作られる刺繍を楽しげに見ていく。その隣ではシルフィアもまた刺繍をしており女達も興味深くみていた。
「凄く素敵」
「ええ。鮮やかな模様」
「ありがとう。この模様にも色々な意味があるのよ。私の母たちは刺繍で旅の安全とかで刺繍の入った服とかを作ったりしていたわ」
「へえ」
「生き物もある?」
「あるわよー」
子供達がなら鳥や馬など声を上げるとアイリスが順番ねと答えた。
「これが隣村…」
ルーカスが村をぐるりと囲んだ木材の高い柵を見上げる。その村一体は草も生えておらず枯れており、尊が話す。
「伐採によってこの辺りは草が生えていないんだ」
「はい」
「来たことあるか?」
「ないです。遠目で見たくらいになります。こういった場所は避けてましたから」
「ああ」
ランカスターが答え、ルーカスが話す。
「使われている木材は白山香ですか?」
「いや。雑木だな」
「どなたかな?」
門の小さな小窓が開くと尊が向かう。
「旅をしております。宿はありますか?」
「旅?」
「はい」
「ああ。宿はある。入るがいい」
小窓が閉まり門が開くと尊が進みルーカスが続くと目を見開き賑わう村を見渡す。
ーこの差は何だ…。
「滑稽だな」
ルーカスがランカスターへと視線を向けると。
「久しぶりの旅の方ね」
「異界人なのね貴方」
「ええ」
女性達が尊を見つめうっとりとする。
「いい男ね…」
「本当」
女達がひそめきあいその場を離れる。男達もまた所々ひそめいており、尊達の元へと案内を買って出たものが来ると尊達を連れ宿へと向かった。
ーいい。特にあの異界人だ。
ー他2人は?
ーあの白髪も残しておこう。茶髪はいらん。薬はいつも通り混ぜてやれ。
尊達が運ばれてきた料理へと口をつける。ルーカスもまた口にする。その後ルーカスがうつらうつらとするとベッドに横たわりすうと寝息を立てた。
ーいいわねえ。
ララが嬉々としながらアイリスが刺繍した赤い花の模様の入ったハンカチを掲げ見ていた。そして次はこれとこれとと他の刺繍がされた布を見る。
「おおきなのほしいー」
「ごめんね。こっちも糸とか限られてるから」
「えー」
「作ってもらっておいてわがままー」
「来たぞー!!」
「一つ目玉だ!!」
子供達がどきりとし大人達が子供達を橋に寄せる。ララが家の窓へと向かいのぞこうとするも。
「だめっ」
女が抱きララを子供達と共に置く。ララが顔をしかめアイリスがやれやれとする。
「むう」
「危ないから」
「来た」
「しっ」
アイリスが閉められた窓の隙間から外を見て驚く。視線の先に道をいく目の形をした丸く四角いものが浮遊していたがそれは小さく列をなし宙を飛んでいた。
「あれ、ドローン」
「え?」
「向こうの兵器よ。機械」
ララが近づきアイリスへと尋ねる。
「壊せる?」
「ええ。元々衝撃に弱いものだから。電気があれば」
「なら」
ララが両手を合わせると光と共に電気が走る。四角いもの達が一斉にララ達がいる家を振り向くとララが放電し四角いもの達へと当てる。それらは電気が当たり一斉に爆発する。ララが結界を張りすぐさまその爆発を最小限に抑える。
「爆弾積んでるみたい。あんな爆発は普通しない」「りょーかい」
「後、ドローンなら操縦士がいるわ。近くでないと操縦出来ない」
「分かった。シン。私が捕まえるから尋問の薬作っておいて」
「分かりました」
ララが頷き外へと飛び出すと屋根に風を使い飛び上がる。
「赤外線ってわかる!」
「なに?」
「人の体温見れそう?蛇の目」
「体温」
ララがふむと考え自分の手のひらを見るも一斉に四角いドローンが現れ体当たりを始めるとララが慌てて避ける。
「ララ!」
『げ。向こうの女がいる』
アイリスが目の前のドローンを振り向くとドローンが話す。
『最悪』
「訳わからないけど誰?」
『誰と言われてもなあ』
「ならこの村で何がしたいの?」
『依頼があったから襲ってるだけ。こっちだって食べてくのに必要なの』
「必要って」
『あーあー。暫くはいいと思ったけど無理か』
ドローン達が止まり一斉に空へと舞い上がる。
「は?」
『これも中々作るの手間がいるから。あと、依頼主から次の依頼料の支払いなかったから行くよ。じゃあねお姉さん』
アイリスの目の前のドローンが空を飛び他のドローン達と共にさっていく。女が驚き子供達が目を丸くし見ていきララがアイリスの元へとまた戻る。
「なんなの?」
「わからないけどここの村を襲うように依頼した奴がいるみたい。だけど支払いがなかったからもうやめるって」
「支払いがない、か」
ララが考え女を見る。
「クリスティーヌ。隣村もだけど他にこの村に恨み。もしくは、生産品を狙う輩について調べられる?」
「やってみるわ」
「ええ」
「ところで貴方子供?」
「小さな大人ね」
「小さくて悪かったわね」
クリスティーヌが目を丸くしララが早く調べなさいとしっしっと手を振った。
ー体が重い。頭も…。
ルーカスが僅かに顔を歪める。
ー眠い…。ても、眠っている感じがしない。寒い。
体に温かいものが当たるとルーカスが心地よくする。
尊がルーカスを背負い宙に浮かぶ氷の道の上に立ち、ランカスターもまたその上に立っていた。足元では両足共に凍りついた村人達がおりそれらは凍え震えていた。
「村全体が盗賊団か」
どんと土煙が上がる。そして土煙を背後にランカスターが尊の元へと宙を歩きながらやってくる。
「本命は逃亡していた」
ランカスターがノートパソコンの残骸を投げ渡すと尊が手にする。
「それがあった。なんだ?」
「ノートパソコン。向こうの文明品です。基盤はどうだ?」
「後にしてこいつらはどうする?」
「も、もう、いたしません」
老人が震えながら告げる。
「盗みはいたしませんから、ど、どうか見逃してください」
「ああ…」
「子供が小さいの。一緒にいないとダメなの」
「頼みますっ」
「我が子は良くて他の子はどうでもいいわけか?」
場が静まると尊が話す。
「まだ真新しい子供の遺体が村外れにあった。お前達は子供であっても容赦なく強姦し身につけているものを奪った」
村の扉が開くと十字に鎖が撒かれた旗が掲げられる。老人が青ざめ村のもの達が入ってきた異端審問官達と移送の馬車を見る。
「ここは国のはずれで知らずに作られた村。国とはまた論外の場だ。なら、対応できるものは限られる」
仮面をつけたユリウス達が来るとトマが氷の竜を掴み空に浮かぶ尊を見上げる。
ーかっこいい…。
「おっ、お慈悲を」
「私は何もしてない!していません!」
「ああいやだあ!!」
異端審問官達が次々と村人達を拘束し移送する馬車へと乗せる。尊が降り立ちランカスターがやれやれとする。
「ママー!!」
「パパ!!パパどこ行くの!!」
子供達が姿を見せ大人達へと向かおうとするも異端審問官達が止める。
「がきどもか」
「ただのガキじゃないです。ここの大人を見て育っています」
1人の子供がナイフを持ち異端審問官に切り付ける。他の異端審問官達が抑える。
「やつけろ!!」
「僕たちのものを取り返せ!!」
「それは私の宝石!」
「僕の宝物だ!僕のだぞ!!」
子供達が狂乱し襲いかかるが鎖で一斉に巻かれると突如止まりぼうとする。ユリウスがその鎖を出し止めており、ランカスターがじっと見る。
「中々の使い手なんです」
「ああ」
「ちょっと!!子供に何するのよ!!」
「坊や達は何もしてないじゃない!!」
「己異界人!!」
尊が老人を振り向き老人が目を血走らせながら怒鳴る。
「何もかも貴様のせいだ!!わしらの暮らしを台無しにしおって!!」
「そうだ!!」
「泊めてやって食事を出した恩を忘れたか!!」
「…」
「薬入りだろうが飯は」
村人達が声を上げ、尊がやれやれとする。
『いた』
ランカスターが横を向き尊の元にうっすらとした少女達が姿を見せるとトマが驚き異端審問官達も動きを止める。
『ありがとうー』
『ありがとう。これで帰れる』
ランカスターが眉を寄せると小鼠が尊の肩に乗る。
『オーブがこの村にあるわ。その力のせいで魂が見えているの』
「案内してほしい」
少女達が頷き浮かぶように走ると尊が後を追う。老人が青ざめ声を上げる。
「まて!!また行くなあ!!!」
少女達が家の中へと入ると尊が扉を開け入る。そして奥の部屋へと続く扉を開ける。そこには人の骨で作られた机や椅子。そして人の皮膚で作られた革張りのソファがあった。その先に紫のオーブがあり尊が手にし見下ろす。
「これを使って作ったのか」
オーブが淡く光ると波のような光を放つ。尊が顔を歪め光に飲まれ、周りも光を見る。
ー温かい…。なんだ。呼吸が楽だ。
尊に背負われていたルーカスが目を覚ます。
ー貴方は貴方の道を歩きなさい。
ルーカスが前を振り向くと薄らいだ手が頬に触れる。目の前に柔らかい笑みを浮かばせた女がいた。
ールー。元気で。いつまでも。
ルーカスが目を見開き女が姿を消す。
「母上…」
『お兄ちゃん』
ルーカスがはっとし尊の元に柚子が抱きつくと尊が顔を歪める。
「柚子…」
『うん。お兄ちゃん。また会おう』
「ああ…」
柚子が姿を消す。そして殺されたもの達の魂が空へと上がる。ランカスターの元にもランカスターに似た女が困った笑みを浮かべ立っていたがその目を閉じすっと姿を消す。
ー姉さん…。
光が空へと舞いながら次々と消えていくとトマがその光景を見ながら涙を流していく。
「縛られていた魂達が空に…」
光が消えるとルーカスが鼓動を強く鳴らしながら俯いた尊を見る。
「尊さん…」
「…」
尊が息をゆっくりと吐き出し、小鼠が話す。
『またどこかで生まれ変わるわ』
「ああ。後、一つ胸のつっかえが取れた」
『そう』
尊が頷き合うルーカスへと軽く視線を向ける。
「体は?目が覚めたなら、今ので薬が抜けたな」
「薬…」
「ここの村の連中が強い催眠薬を料理に混ぜたんだ。俺とランカスターさんは事前に対処していたからな」
「……どんな」
『ふふ』
「後で教える。まだそのままでいろ」
「え、あ。その、おります」
「いい」
『甘えておきなさい。貴方はまだ完全じゃないわ』
「ああ」
ルーカスが申し訳なくし尊が外へと出るとユリウスがそばへと来る。
「人の骨と皮を使った生活用品が奥にあった。オーブはその品を作るために使われていた」
「オーブ?」
「龍の宝だ。龍の怒りを買うことになる」
『その通り』
子竜が姿を見せ尊の掴むオーブを抱き抱える。
『まあでも、今回はそっちに任せて僕はこのオーブを元の場所に返すよ』
「分かった。帰りは?」
『んんー、少し遅くなるかな?それじゃ』
子竜が空を飛びながら姿を消す。尊がそのまま空を見上げていたが鳴き声が響くと泣き喚く子供達を見る。
「ごめんなさあい」
「うう。ごめん」
「そんな、つもりなくって、でも、うわあああ」
ユリウスが眉を寄せ鎖を解く。
「どうなっている?」
『判断が出来たのよ』
小鼠が光り杖を持つ女がその体をうっすらと光らせ透かしながら姿を見せる。ルーカス達とが驚き女がふふっと笑う。
『子供はまだ純粋な心。純粋な魂を持っている。物事の判断を抑え学べるからこそそこで分かり合える。亡くなった子供達との語り合いがこの子達の罪を消した。これから先は貴方達大人が道を示せば間違いを起こさずに済むわ』
「突然なぜその姿を見せた。女神」
ランカスターが告げるとユリウス達が驚愕し女神がふっと笑う。
『オーブのせいよ。あれは私たちが作り出した物。私たちの一部。まだその力がこの地に余波として残っているの』
「何この状況?」
ランカスターがやれやれとしアイリスがシンとララとシルフィアを伴い近づく。
ーなるほどな。
「予定時間を過ぎても来なかったので来た」
「はい」
『人は人。罪は罪』
アイリスが女神を振り向き女神が話す。
『私が干渉することはしないわ』
女神が姿を消すとアイリスの肩に小鳥が止まりふうと息を吐く。
『あらアイリス。あなた魔を祓う力を持っているわね。それも広範囲に魔獣を寄せ付けない力』
「は?」
周囲の空気が緊張を持つ。
「何言って…」
『だから私の力もあげるわ。受け取って』
尊が光る小鳥を掴む。
「何を言っているこの年増」
『と、年増は、聞き捨て…あ』
尊がルーカスをアイリスへと突き飛ばすとアイリス共に倒れる。
『ちょ、ちょっと待っ』
カッと光が強まると周りが声を上げアイリスがルーカスを庇うように強く抱く。そして光が消えるとランカスターがくそっと声を出し前を見る。
「は?」
そこにぶかぶかの服を着て座り込んだ男児が目をこすっていた。そしてその目から手を離し自分の手を目をしぼめながら見ると一瞬固まる。
「お前…尊?」
尊が小さくなった顔、体と触れるとすぐに氷を使い逃げようとした小鳥を捕まえる。
『ああなたが邪魔したからっ』
「何が邪魔したからだ!!戻せ!!」
『力が今空だから戻せないのよっ』
「た、たけにい…」
トマが慌てて向かいあたふためく。
「なんで?体が」
「どうすんの?」
尊が奥歯を噛み締め引き寄せた小鳥を掴み揺らす。
「おい!アイリスを子供にさせて何しようとしていた!」
『こ、子供に、させれば、力が、弱まるから…』
「だったらこの場ではなく別の場ですればよかっただろうが!!」
『あうっあうううっ』
尊がぶんぶんと小鳥を振ると目を回す小鳥へと指先を向けなぞる。小鳥がギョッとしあたふためくとビクッと震える。
「呪縛だっ。これで俺から逃げられないからなっ」
『なんてことするのよ!』
「それはこちらのセリフだ!!」
尊と小鳥が喚き散らすと尊の首に黒い塊が嵌められた途端尊が後ろへと引っ張られる。すると小鳥も引っ張られる。
『ああもお!!』
老人が尊を掴み尊の胸元に小鳥がぶつかる。
「動くな!!」
周りが緊張し、トマが汗を滲ませる。
「いいか、動くなよ。この小僧」
「邪魔するな!!」
冷気がたちこもると老人が冷や汗を流し尊が鋭く睨みつける。そして老人が氷の柱の中に閉じ込められ気絶する。
『ちょっと呪縛ときなさいよ!』
「なら俺の体を今すぐに元に戻せ!」
『無理なものは無理!!』
「このあほ…う」
尊が後ろに倒れる。シンがすぐに駆けつけ青ざめた尊を抱く。
『力の使いすぎよっ。ふんっ』
「どうにか」
『ならない』
「あなた勝手すぎよ」
アイリスが小鳥を掴み自分を向かせる。
「女神だかなんだか知らないけど非常に不愉快だわ」
『それはどうも』
「その勝手さで封じられたりもしたんじゃないの?」
『べっつに』
「そう」
アイリスが後ろに手を向けるとララが鳥籠を渡す。そしてアイリスが即座に鳥籠へと入れると小鳥がぴいぴいと声を上げる。
『こらだしなさい!』
「反省していないからだめよ。シルフィア。ララ。きて。ランカスター」
「分かったよ」
ランカスターがやれやれとし尊を抱いたシンの元に集まりつつ手をひらひらさせる。
「じゃあな。仕事しろよ」
ユリウスがはっとし慌てて声を上げる。
「お待ちください!話は本当にっ」
ランカスター達が一瞬で姿を消す。そして村の見える丘の上に移動する。ルーカスが驚き、ランカスターが話す。
「よりによって異端審問の奴らの前で口走りやがって」
『ふんっ』
「フィア。胡椒」
「は、はい」
『は?何それ?』
アイリスが胡椒を振りかけると小鳥が暴れ何度も咳をする。
『ちよっ。うつ。からっ。あ、ふえっくしょおおっ』
「手っ取り早い方法は?」
『しっ、しるわけ』
「知ってるでしょう?教えないと続けるわよ」
小鳥が涙し咳を続ける。
『お、おね、えさまっ、が、い、るっ。ふえっくしょんっ。ば、ばしよ、うえっくしっ。おしえくつしよんっくしょくしょっ。ふえええっくしょおん!!!ー』
「どこに?あとその籠はララが特別仕様にしてくれてるから逃げることできないわよ」
「ええ」
『こ、この、ぶっえええくっしょおおっっ』
小鳥が大きく咳を泣きながら行うともうやめてええと声を上げた。




