ルーシャス3
夕陽が差し込む中ルーカスが目を覚ますとはっとしすぐに起き上がる。
『起きた?』
龍がそばへと来る。
「俺は…」
『まあ王に体の自由奪われてね。どうしても避けられないことだから仕方ないよ』
「…ああ」
『うん。尊達は後からまた戻るから。アイリスはシルフィア連れて散策と買い物』
ドアがノックされるとアイリス達とが中へと入る。
「あ」
「起きた?気分は?目覚めの飲み物」
アイリスが飲み物を渡すとルーカスが早速飲みゆっくりと息をつく。
「甘酸っぱい果物を絞った飲み物だそうよ。はい」
『わあい』
「あの、お身体は…」
「ああ、平気だ」
「はい」
「刺繍したの全部売れたわ」
「あの布が?」
「ええ」
「とても綺麗でした。女性の方もですが商人の方も買われていきました」
「そう。それで尊を通じて今後品下ろしもする予定になったわ。道中でも作れるから問題なしよ」
「ああ」
『僕も気に入ってるよ』
龍がジュースを飲みながらバックを見せる。
「アイリスさんの刺繍は明るくて鮮やかなものばかりでとても良いですね」
「ありがとう。時間作ってフィアの分も作るから待ってて」
「はい」
「シルフィアはこれからどうするんだ?」
「一緒に行くことになったわ。家出ってことで。尊たちも了承済み」
『魔法の知識とか貴族の知識とかルーカスと一緒で幅広く知ってるからね』
「あとは、コンスタンスってこと話が出来たのよ。ルーカスのことは伏せてるけどその子がこの子を援助してくれることになったわ。学園で助かってきたからって話」
「ああ。いなくなった時寂しがっていたしよくシルフィアがいれば良かったのにと文句を言っていた」
「そうだったんですね…」
シルフィアが申し訳なく笑み、アイリスが話す。
「有能だったからね。あと、フィアだけどまだ少し体調は悪いからしばらくここに滞在して出立だそうよ」
「ああ。あと、どれだけ時間が経った?」
「半日よ。そう長くは経ってないわ」
アイリスが肉を挟んだパンを渡す。
「これ今日のご飯」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「飯くれ」
シルフィアが驚きアイリスがはいはいとランカスターに同じパンを渡す。
「え、と」
「ランカスター。元英雄さんって話」
「え?確か、処刑されて殺されたのでは…」
「この世に未練があって蘇ったそうよ」
「ふん」
シルフィアが驚き、尊がシンと共に戻るとアイリスがパンを向け、尊達が受けとり食べた。
ー異世界かあ。
遥が顔を顰める。
「私はその手の話を作るのは好きじゃないですね」
そう、ランスロットを前に話すとランスロットが面白く告げる。
「そうか。ちなみにジャンルは?」
「推理ものです。あとは、ミリタリーアクションですね。スパイ関係も」
「そうか。なら、核についても詳しそうだな」
「核というと、核兵器の?」
「ああ。そうだ」
「知識としてはありますけど。ただそれが実際に通用するかは分かりません」
「王」
ランスロットが振り向くとロレンシオがやってくる。
「そちらの者についてです」
「ああ」
「私の?」
ロレンシオが頷く。
「とばちりだ」
「…え?」
「運が悪かったということだ。どうも、そちらを運んだものは本来なら隣の部屋のアジア人を予定していたのに勘違いしお前をここに運び込んだらしい」
「いや、らしい…?え?らしい?はい?」
遥が汗を滲ませランスロットが話す。
「ちなみに本命は?」
「はい、後日運び込まれてこの世界のどこかにいるようです」
「なら、容姿を見て間違いだと気づいて放置したのだろうな」
「その先の足取りが掴めないのでおそらく」
「その、らしいとか、おそらくって…。どうあれ私は関係なしにここに連れてこられたってわけでしょ?」
「そうなるな」
遥がテーブルに頭を打ちつけるとランスロットが軽く吹き出しククッと笑う。
「王。どうなさいます?」
「尊達に渡す。後はどうにかするだろう」
「はい」
遥が顔を上げるとランスロットが来て遥に触れた。そして景色が変わり遥が驚きながらも重力により下へと向かうもぶつかる感触が響き、地面に倒れ込むと痛がり声を出す。そこにいたアイリス達が驚き、遥がすぐに潰されたシンを見て即座にどく。
「うわっ、す、みませっ。なんで?またここどこ?は?え?」
「六条遥」
遥がすぐに尊を振り向き強く頷く。
「私のこと知ってます?」
「ああ。小学生。12の時に小説で優秀賞を取ったからな。その後も波内のシリーズが続いてて海外でも人気が高いと知っている」
「はい。そうです。その……、アメリカの試写会に行って誘拐されるはずの人と間違えられてこのよくわからないところに…」
遥が頭を落としずうんと落ち込む。
「半年も、なんか、眠り続けたとか」
「ああ。後裸体の王様のところから来たな」
「えと、裸体かは」
「ランスロット」
「はい」
シンがため息をし、遥が話す。
「その、怪我とかは」
「ありません」
「はい…」
「ロクジョーってことは日本人ね。アルビノなのね」
「アルビノ?」
「色素が薄い常態で産まれてきた。だから、肌も俺たちよりも白く髪も白い。そして瞳が赤いのは色素が薄いために赤くなっているんだ。この世界では存在しないと聞く」
シルフィアが頷き遥を見る。
「それが、アルビノ」
「ああ。俺たちの世界でも珍しく数は少ない」
「はい。遺伝子異常によってアルビノとして産まれたんです」
「遺伝子?」
「血だ。両親から受け継がれた血に異常が起きてしまったんだ」
「そうなのですね」
「病気のようなもの?」
「いえ」
「病気とはまた違います。あと、私…本を書いてるんですけど、その、まだ書きかけなものがあったりとかして」
遥が落ち込む。
「元のところに帰りたいのですがどうにか帰られないですか?」
「俺は帰る方法はよくわからないが知人が知っている」
「本当に?」
「ああ。ただ、その知人も忙しい身だからな。話をしてあわせる。それまではここにいて欲しい」
「分かりました。はい」
「ああ。あと、やっぱりアルビノは目立つ」
「そうね。それに」
アイリスがじいと見ながら手招くと遥がアイリスの元へと来る。そして抱かれる。
「肌ツルツル。貴方結構モテるんじゃない?」
「そんなモテないですよ。根暗って言われてましたし」
「そうかしら」
アイリスが楽しく遥の髪などに触れるとシルフィアも近づく。
「もしかして、あの神父が隠してたのはこの子か?」
「え?」
「詳細はわからないが裸体の王様が持って行った中にガラスの棺に眠っていた人が居たと弟分に聞いた」
「ええと、半年間眠っていたってのは聞きました。でも半年間も寝てたら体とか動けないほどなのになと」
「この世界は向こうの世界の常識を変える。コレクションと話していたからな」
「はあ…。コレクション」
「眠っている時に酷いことされたりしてない?」
「ええと、分からないです」
「見る」
尊が遥の頭に触れる。
「…」
「どう?」
「足か」
「足?」
遥が靴を脱ぎ足の裏などを見る。そしてももにふれる。
「ここに何か…模様?」
「触るがいいか?」
「あ、はい」
尊が遥の足に触れる。
「番号だな。後イニシャルだ。ロクス。それからイル。イルはここの数字の数え方で一。ロクスは裏の商会だな」
「ええと…」
「ならお前、相当な額で売り飛ばされてるぞ」
「え?私が?」
遥が驚きランカスターが話す。
「そうだ。ロクスは売買組織の中でも大規模だ。放置はされてないが貴族達の御用達なもんでそう簡単に消えるような組織じゃない」
「どこにも必要悪というのはあるんですね。でも、間違えるな!!」
遥がだんと床を叩き身を丸める。
「最悪だああ」
「そうよね」
「あの、どうにか」
「まず、話し合ってから」
窓が割れすぐに煙幕が張る。アイリス達が咳き込み遥も咳き込むが抱き上げられると風が吹く。
「な、なにっ。いやちょっとっ」
遥を火傷したゴブリンが肩に担ぎ屋根から屋根へと飛ぶ。人々が驚き遥が振動に怯えゴブリンを掴む。
「いや、ちょっ、だ、れかっ、ひっうっ」
ゴブリンが高く飛び崖からそのさらに下の地面へと向かう。
「きゃあああああああ!!!」
その手が掴まれるとゴブリンが後ろを向き遥の手を掴んだルーカスを睨みつけ銃を向けるが額に穴が開くと血を吐き開かれた移転ゲートへと落下し消える。それを遥を抱き縄を掴み宙吊りになったルーカスが見下ろし遥がルーカスに捕まりながら震える。
「なんなの」
「勝手に持ち出した奴が異端審問局に連行されて場所がしれたから回収しに来たんだろ」
ランカスターが縄を引き引っ張り上げる。
「あのゴブリン。奇妙でした」
「ああ。おおかた乗り移ってきたんだろうな」
ルーカスと遥が引き上げられる。
「どうにか、出来ませんか…」
「尊の知り合いを頼るしかない」
「なら早くして欲しいです…。父達も、兄達もいて、友人も…」
遥が涙を落とす。
「帰りたいです…。私の、家に、帰りたい」
遥が身を丸め啜り泣いた。
夜になり眠る遥をルーカスが見張っていた。
ー明日タイシが保護しに来る。それまで交代で見張り番だ。
ルーカスが泣き腫らした目をさせる遥を見るもすっと視線を外す。
ー家族か…。俺の家族に、唯一の味方はいただろうか。
ルーカスが目をトロンとさせる。
ー味方…。
ールーカス。ルーカス。ルーカスおきて!ルーカス!!!
ルーカスが目を覚ますと見慣れない天井と鉄格子があった。ルーカスが飛び起き鉄格子を掴む。
「起きたな」
ルーカスが目の前の仮面をつけたスーツの男を見る。男がルーカスを見て頷く。
「ここはどこだ。一緒にいた少女は」
「あの娘は別室だよ。いやあ、運がいい」
男が手をぱんと叩く。
「まあだが、相手はエスランカー達だ。用心はいるな」
ルーカスが睨みつける。
「あの少女は間違えられて来たと聞いた」
「そうそう」
「元の故郷には帰さないのか?」
「難しい。何せあの子は容姿が珍しく頭も優れている。とても高い商品なんだ」
「人は商品じゃない」
「では魔獣は?生き物?人も生き物だ。変わりはしない」
「ターン」
「ああ。今行く。君も高い買い手がつきそうだ」
男が嬉々とした足取りで部屋を出る。
ー…くそ。不甲斐ない。
ルーカスが座り込み悔しく奥歯を噛み締める。
ー自分の力のなさに腹が立つ。
ーなら力が欲しいか?
ルーカスがぞくっとし汗を滲ませる。
ー必要ならば貸すぞ。力を。
ルーカスが口をつぐみランスロットが楽しく笑んだ。
遥が着飾られ椅子に座っていたがその表情は硬く手を震わせていた。
ー怖い。どうなるの…。怖い。
「そんなに硬くならないで」
遥が肩を震わせ仮面の男を見る。我慢の男が遥のほおに触れると遥がビクッと震える。
「あ…」
「ふふ」
「ど、どう、す、るん、ですか…。私、を」
「今は丁重に扱う。ただし、買い取った方によってはその扱いは変わる」
男の手が引き遥が頭を振る。
「わ、私は、商品、じゃない、です。私には、家族が…。友人だって…」
「ハルカっ」
遥が両手を後ろ手に拘束され連れてこられたルーカスを振り向く。
「あ」
「すまない。俺が悪かった」
「そ、そんな、こと、言われても…。み、みなさんは。尊、さんって人」
「出掛けていて助かったよ」
ルーカスが睨みつけ男が遥の頰を挟み軽く笑う。
「時間です」
「分かった」
遥の手を男が握りひくと遥が引かれる。
「ま、まって。いや。怖い。やだ」
ルーカスが歯を噛み締め、遥が涙ぐむ。
「助けて。やだ。怖い。行きたくない。なんで…、足が」
遥の意志にそぐわない足がどんどんと前に出る。
「なんで。どうして。止まって…、いや」
ー夢だ。これは夢。お願い。覚めて。目を開けて、それで。
遥が目を瞑る。そして見開かれた瞬間大勢の仮面をつけた男女がどよめきながら遥を見ていた。遥が震えながら立ち尽くし呼気を速める。
ーゆ、夢…。
遥が目を閉じ力を無くすと男達が即座に支え抱く。
『気を失ったようですが開始いたします。先ずはひゃー』
進行者、遥の周りのものが突如腰から両断され上半身が力無く落ち血が噴き出す。そして会場のもの達もまた静まり返ると頭が落ち血が一斉に吹き出した。仮面をつけた男がその仮面の下で目を見開き汗を滲ませる。
ー何が…、一体何が起きた。
遥もまた血に濡れ始める。
ーくっ。
男がすぐさま魔術を使い姿を消し逃げ去る。そして他の海の中を赤い目をさせたルーカスが歩き遥を抱き上げ裏へと姿を消す。その後ルーカスがはっとし意識を取り戻すと意識のない遥を見て僅かに口をつぐませ項垂れる。
ー何も、何も出来ない。苦しい。どうして。
ルーカスが跪き項垂れ悔しく涙を浮かばせ歯を噛み締める。
ー冷たい。
所々冷たさを感じるが今度は体に温もりを感じていく。遥がはあとし息を吐き出し目をゆっくりと開け湯気を見ると目の前のアイリスを見る。
「気が付いた?」
遥がアイリスから赤い湯船を見てひっと声を上げる。そして叫ぶとアイリスが遥を抱きしめ押さえ遥が暴れていく。
「落ち着いて!!」
「いや!こわい!!いやあ!!」
「落ち着け」
遥の目の前に尊が姿を見せるとその肩をぐっと掴む。遥がビクッとし震えていき尊が話す。
「目を閉じていろ。アイリス。タオル」
「ええ」
血に濡れた湯を浴びたアイリスがタオルを渡すと尊が遥の目にタオルを乗せる。そして今度はバスタオルで遥を包むと尊が体を隠すように再度包み直し湯船から上げる。
「お湯を変えるわ」
「ああ」
震える遥を尊が抱きながら話す。
「ルーカスから聞いたのはステージに上げられた所までだ。その後は?」
「わ、わからない、です。か、仮面の、人達で、い、いっぱいで、こわく、なって、分からなくなって」
「ああ」
「お、おふろ、あか、赤いのは…」
「助ける際に敵の返り血を浴びたからアイリスが洗い流していたんだ」
「ええ。驚かせてごめんなさい」
「血は毒でもある。早めに洗い流す必要があった」
「尊さーん」
遥がビクッと震え、紬が中へと入る。
「その子ですか?」
「ああ。タイシは知っているしお前の兄も知っている。話したら家族から届出も出ていたとのことだ」
「え…」
「はい」
遥の力が緩み、紬が傍へと来る。
「小鳥遊紬です。兄は小鳥遊望です」
「その人、オリンピック、で、警察の」
「そうですよ。後うちは剣道で全国優勝が一度」
「こう、こうの」
「そぎゃん」
遥が顔を赤くし歪め震えた手を向けると紬がその手を握る。
「頑張った頑張った。えらか」
「う、く、うう」
遥が震えながら涙し紬がえらいえらいと震えなく遥の頭を撫でた。
主催者側数名他客は全員死亡。
オーガンがやれやれとし血に染まった会場を見渡す。傍に顔を顰めるリュウがおりリュウがぼやく。
「僕はこういったことをする仕事じゃないのに…。早い所人手を雇って欲しい」
「ま、それもまだ先の話じゃろうな。しかし、ランスロットか。恐ろしいな。貴族の持つ守護札も何もかも無効にさせて殺しておる」
「なら、魔術防壁が効かないというわけですね」
「そうなるな」
「はあ」
「わしらも遺体を検知したら戻さねばならぬな」
「ええ。あと、道楽の場で殺されるとは誰しも思ってなかったでしょうね」
「ああ。そうじゃな」
「その道楽がなかったらこんな」
「つべこべ言うなっ。うるさいっ」
リュウがはあと大きくため息をしオーガンがイライラしていった。
ー六条さん。
唯子が楽しく微笑みながら保護された遥へと話す。
「霧情の本の次回作楽しみにしてるの」
「ありがとうございます。ただ霧情はまだ出来てなくて。来年冬頃になります」
「そうなの?なら、ちょうどよかった」
唯子が膨らんだ腹に触る。
「子育てが少し落ち着く頃だから時間が出来るわ。楽しみにするわね」
「はい。是非是非。その時は子どもを見ながら外に行くのは大変なので家に本を贈ります」
「ありがとう。あと、やっぱり外に連れていくのは大変?」
遥が強く頷く。
「はい。わたしの家はご存知の方はご存知ですが大家族です。そしてわたしは上から3番目。1番下の弟は生まれたばかりです」
「えと、確か私が知っているのは6人兄弟」
「あ、又双子とその下の子が生まれたので9人です」
「まあ…」
その場にいたミオが目を丸くしユナがわあと声を出す。
「兄弟いっぱい」
「ええ。だから、必然的に上の子が下の子の面倒をみる手伝いするの。私も時間があった時に外に連れていったりして広い外の公園や広場とかで遊ばせたりするから」
「公園?」
「ここだとそうね。国が管理する遊び場になるわ。そういったところある?」
ミオが考え頭を振る。
「ないわ。私も公園を見てたくさん子供達が遊具で遊んでいるところを見ていいなと思ったもの。ここだと何もない広場とかしかないから」
「そうなの」
「遊具ってなに?」
「滑り台とかブランコとかでわかる?」
ユナが頭を振る。
「わかんない」
「そっか」
「まあ、ええと、そういった遊べる場所に連れていってお腹を減らしたり夜よく眠るようにさせたりするの。だから、その時のおむつ替えとか水分補給とか大変ですし、外食するとなれば中々手がいりますもん。何せ子供を最優先にさせてこっちは冷めたご飯を下の子を見ながらたべたりとかしますから」
「ええ。確かにファミレスとか子供達がし放題だものね」
「その通りです。周りに迷惑かけないようにしてるから大変なんですよ。そしてちょっとし買い物でも、運が悪ければうんちしたり。下手したら漏れたり」
「分かるわ…」
「え?」
ミオがユナを見下ろす。
「ユナがまだ分からないからがそうだったしおむつ替えも大変だった」
「わかんない」
「ユナちゃんがまだ小さい頃だからね。でも、下の子を見たりするとかがあれば分かるよ」
ユナがそうと返事を返すと遥が頷く。
「なので…、宅配にデリバリーとかすごくありがたいですしたまの家政婦さんとか本当助かります。両親も働いてるんでどちらか遅かったりする時があって。その時に面倒見るのは私達だもんで」
「どちらも正社員なの?」
「いえ。母はパートと内職です」
「ええ。あと、こう言ってはだけど遥さんがお家にお金をあげたりは?」
「そうそこなんです。わたしはもうとんでもないくらい儲けてるからと話してるんですが両親は遥のお金だから自分で管理して自分のためだけに使いなさいと。だからわたしは年下の子達にお小遣いとお誕生日プレゼントや記念日のプレゼントをあげたりしてます。で、自分今は東京で暮らしてるので住まいだけは自慢じゃないですが億マンになります」
「そうよね。映画化もだし、波内シリーズは累計5000万部だもの。と言うことはおよそ50億もの印税収入が入ってるのね」
ミオが衝撃を受け、ユナが目をぱちくりとさせる。
「計算早いですね」
「ふふ。印税は相場が決まってるから簡単よ」
「…」
「印税?」
「本とか音楽とかのお金の値段のうち、自分のものになるお金のことよ。本も紙代にインク代。それから本を作る人の人件費とかを含めて本になるの。そしてそのうち自分のものになる部分があってその部分については印税という自分のためのお金として言われているのよ」
「わかんない」
「まずこの世界にないことだから仕方ないね」
「へえ」
「まあそれだけあるのに、兄弟たちも欲しがらず、両親も自分で使えと言ってくれて感謝なんです。でーすが、はい。家族はそうですけど、親戚とかには…というのはありますね」
「そうよね。私の母の弟の奥さんがそうだったのよね。おじさまも困って最後は私の家の物を盗んだから逮捕されて離婚したのよ」
「大企業の社長宅の家族の一員のその親族になっているから贅沢できるとなるんですよね。私の場合は父の祖母の妹の娘さん。私にとっては遠縁のおばさんなって、有名になるまで全然接点なかったんですけど、有名になってからしつこくてしつこくて。お金あるから借りてもいいとか。東京の私の部屋に遊びにいってもいいとか。一回がちの弾丸東京来ましたがあって。私が通う美大にも突入してきたらしくて。ちなみに私はその時イギリスに渡っていて教授から連絡受けてマジかと驚きましたし嫌でしたから。対応について祖母たちにお願いしてさせました。その時スマホを習っていた祖母が録音してくれてて。聞かせてもらったんですよね。肉声を」
「なんて?」
「金もってるんだから少しくらいいいじゃない。なんで金あるのにねだらないのよ。私は金を使って経済を豊かにさせるために話してるのよ。あんたたち貧乏人はどうして何も言わないのよ。出しなさいよ遥を。隠すな遥出てきなさいはるかー。という大声でした」
「過激ねえ」
「金は人を変えるってやつです。後この音声が証拠となり私や私の家族に対して接近禁止命令が出されました。しかし、私の親族ということを利用してネットやSMSではフォロワーを集めてますね。まあ、好きにどうぞにさせてますが、一度詐欺起こして送検されたんですよね。私に会いたいなら30万よこせと私のファンたちに行ってまわってぶんどって。まあそういう事でアカウント消されて後は不明です」
「ええ。でも身に覚えあるわね。私の場合はその奥さんが母の名前を名乗ってアカウントを作ってアンチメールばかりあちこち送って。一度炎上したけど誤解が解けたあとは、その元奥さんが袋叩き。その時ももう元奥さんだったから逮捕されてからは知らないわね」
「最後はそうなりますよねー」
「そうね」
ユナが欠伸をしミオがほうほうと頷くとタイシが中へと入る。
「あ、どうも」
「ああ。後これは食事になる。ここで似たもので作った和食だ」
タイシが刺身などを出すと遥が目を爛々とさせミオが魚を見て驚く。
「お刺身だあ」
「お魚よくとれましたね」
「ああ。そこはリュウ将軍たちの働きになる。後わさびは残念ながらないから胡椒に似た香辛料と俺が作った醤油」
「醤油作ったんですか?」
「ああ。大豆はこの世界にもあった。名前は違うが同じでな」
醤油が出されると遥が目をさらに輝かせ、更に豆腐の味噌汁、ご飯と漬物、焼魚と出された。
遥が感動しながら刺身などを味わう。
「ああぁ。懐かしいよおお」
遥がじいんとしユナがじいと見る。
「生のお魚よく食べられるね」
「うん。そこは小さい頃から食べなれてるからだよ」
「えー、生を?」
「そうだよ」
「うえー」
ユナがべろをだし、タイシが話す。
「ここだと生食は海外と同じで食べる事はないんだ。海の漁師たちも食べない」
「へえ。そうなのね」
「ああ」
遥が味噌汁を吸い魚を食べる。そして満足な面持ちをさせながらご馳走様と手を合わせ完食した。
ールーカス。
落ち込むルーカスの隣にアイリスが座っていた。そこは別の宿屋でアイリスがやれやれとする。
「王様に勝てないのが嫌?」
「…」
「何もできなかったのが悔しい?」
ルーカスが頷きアイリスが頷く。
「自分の力だけで救えなかったのが嫌?」
「……」
アイリスがルーカスをつつく。
「操られるのが嫌なんでしょ?自分の意思を無くすのが怖い」
「…」
僅かに小さく頷くとアイリスが龍を見て龍が気まずく横へと視線を逸らす。
「ま、難しい話だものね」
『…ん』
「ええ。ルー。操られる時。操られてるなって感じる時はあるの?」
「…わからない。分かった時には、起こった後だ。それか、感情が昂る、か…。自分の意思に、反して、欲に、飲まれて…。何も出来ない体に、なってしまう。意識はある時に」
龍がしどろもどろとし、アイリスが表情を曇らせるルーカスの頭を抱き寄せる。
「ルー。相手のことはどうしようにもいかない。なら、周りをもっと頼りなさい。貴方1人の問題じゃないし貴方が抱え込む必要はない。私たちもそばにいるし、貴方は私にとって弟みたいなものよ。貴方はそうじゃないかもしれないけど私はそう。頼っていいの」
ルーカスが目を伏せ、アイリスが微笑む。
「ずっと1人で頑張り過ぎたから苦しいんでしょ?悩みを打ち明ける相手がいなかったから」
ルーカスが項垂れ口をつぐみアイリスがルーカスを抱きしめその背を叩く。
「ルー。お姉さんがいるから平気だし、1人で不安なら遠慮せず言いなさい。貴方は1人じゃない。そして貴方は頑張ってきてる」
ルーカスが涙を落としながら顔を赤くすると徐々に歪め肩を震わせすすり泣く。龍が目をうるっとさせ、アイリスがよしよしとルーカスの背を叩き優しく撫でていった。
ー声が心地いい。
うつらうつらとするルーカスがベットに横たえながら歌を歌い刺繍をするアイリスを見ていたがその目をゆっくりと閉じると静かに眠りについた。
ー早く帰りたいな。
遥が水面の上に横たわる夢を見ていた。そして風が吹き水面が揺れ、水の音が響く。
ー綺麗な音。風の音も。
そこに小さな音が響く。遥が目を開け上に立つ角を生やした馬を見上げる。馬が遥を覗き見ていたが突如変形し拘束具へとかわると仮面の男。笑う仮面の客たちが姿を見せた。
遥が汗を滲ませうめくと太腿に刻まれた印が鈍く光を放つ。
ーこの生意気な子供を攫って。
ーふふふ。早いところ逃げなきゃね。
ーはあ。さいこー。これも貴方のおかげ。
ーああ。
「た、んとぅしゃ!!」
遥が勢いよく飛び起きるとミオの顔面に激突する。そしてミオがのけぞりしゃがみ込み顔を抑えくううと声を漏らし遥もまた頭を押さえ悶絶する。唯子が驚きミオを望が遥のそばへとよる。
「いたそー」
「だな」
同じく見ていた紬が蘭丸とともに驚く。
「ミオちゃん鼻血」
「ありゃっ。タオルもってくるー」
「紬。氷嚢もだ」
「わかったー」
「やれやれだな」
蘭丸が両腕を組む。
「た、んとぅしゃってなんだ?」
「担当者です」
「ああ」
「ず、つき、ご、ごめ」
状況が分かった遥が痛みに泣きながら謝るとミオが答え切れずも小さく頭を振った。そしてミオの鼻にタオルと氷袋、腫れた遥の額に氷嚢が当てられる。
「ほんと、すみません…」
「いえ…」
「担当者がどうしたの?」
唯子が尋ね、遥が話す。
「夢を見て…しかもリアルすぎて」
「どんな?」
「はい…、話したあの叔母さんが私の口座から勝手にお金引き出して海外で豪遊。そして手引きしたのが私の担当者って夢を」
唯子が目を丸くし望を見る。
「だそうよ?」
「行方不明届けは出ていたが、引き落としに関しては何も。そして今は調べることが難しい」
「そう…」
「難しいなら調べることはできるんですか?」
「ああ」
「なら調べられますか?」
望が頷き唯子が話す。
「教えてもらっておいてよかったわね」
「ああ。ただ時間がかかるのが難点だ。準備してくる」
「ええ」
「お願いします」
望が離れていき、遥がほっとする。
「もしそうならお金相当使われたんじゃないかしら」
「あーまあ…。後そうなら戻ってきませんね。はあ」
そこにハリーが来ると遥を見て止まる。
「とんがり帽子と言うことは、魔法使いさんですか?」
「ふふ。ええ。後ここでは魔術師と言われてるの」
「ハリーさんです」
「ハリーさんですか。お名前いいですね」
「え、そ」
ハリーが顔を赤くし照れる。
「そうかなあぁぁ」
ヒカルがその場にくる。
「遥には婚約者いるぞ」
「へえ、こん、やくしゃっ!?」
「ええ」
「あ、はい。3歳上の幼馴染です」
ハリーが頭を落とし、ミオが話す。
「ふぃほぅんふぃん?」
「まだ抑えてて」
唯子が告げ、遥が話す。
「パン屋の息子さんなんですよ。今はドイツで修行中です」
「ふあー」
ミオがそう声を出すと唯子がふふっと笑う。
「ドイツ?」
「向こうの世界の国の名前だ」
「ドイツのパンは日本ですごく人気が高ぶってるものね」
「はい。あと、本人が家族旅行でドイツに行って本場のパンを食べて惚れたんです。それから、私たちの家族に試作品とか持ってきてくれて食べさせてくれたんです。そして私が有名になる前。彼が日本で有名なパン職人になるから」
遥が顔を赤くし身振りする。
「大人になってからも年寄りになってからも一緒に手伝って欲しいって。教会の聖堂で告白してくれて。もおおお」
遥が手をブンブンと振る。
「ちなみに体格は?」
「ぽっちゃりで私より身長低くて髪がクリクリとした眼鏡かけた人です。性格は優しくて隣にいて気を遣わない人だし地域の為にも活動してくれる人です」
ハリーが顔をしかめ、ミオがこんな人かなあと思い浮かべていった。
ー眠ったのか…。
薄暗い中ルーカスが体を起こし朝靄のある街を窓から見る。そして目を軽く擦りながらベッドから降りると顔を洗いベッドに腰掛けはあと息を吐きタオルで顔を拭う。
ー姉か。
ルーカスが立ち上がり部屋を出て宿の外へと出る。そして冷たい空気の中、辺りを見渡すとちらほらと商売をするものたちが何かしらの支度のために外に出て準備をしていた。
ー外の状況はなんであれ、仕事をしなくてはならないからな…。
ルーカスが歩きながら周りを見渡す。そして建物の間を見て立ち止まりその間を歩くとそこに横たわった浮浪者の白髪男と共に眠る赤子がいた。ルーカスがしゃがみ男を揺らすと男がルーカスへと視線を向ける。
「どこからきた?その赤子は?」
「……」
男がゆっくりと立ち上がるとはあと息を吐く。
「昨日、拾った…。あと、イーロンからだ」
「イーロン?名は?」
「名は」
男の頭に槍が貫通するとルーカスが赤子を抱きすぐに上を見上げる。男が震え力なくその体を落とし絶命する。
ーくそ。この霧では何も見えない。
ルーカスが走りすぐに建物の間から外へと出ると悲鳴が上がる。そして外に出ていたものたちが魔獣たちの襲撃から走り逃げており、ルーカスが起きた赤子を見下ろし走る。
ー宿に。すぐにで。
ルーカスの足に鞭が当たり巻き付くとルーカスが上に引っ張り上げられ建物の屋上に赤子を庇い着地し転がる。そして僅かに痛みに顔を歪める。赤子が驚き目を丸くさせルーカスが鞭を持つ禿げた背の高い化粧をした男を見る。
「あらやだそんなに睨まないでちょうだいな」
「…」
ルーカスが起き上がるもふらつき男がふふっと笑うと横げりを喰らわれ吹き飛ぶ。けったランカスターが立ち上がり男がすぐさま起きる。
「ちょっと痛いじゃないのよ!イケメンでも容赦しないわよ!!」
「うぜえ」
「ロクスだな」
周りの空気が凍てつく。そして魔獣たちが一斉に氷漬けにされると朝靄もまた氷の礫となり道へと落ちる。尊が氷の竜に乗り姿を見せるとその龍が形を変え九つの頭を持つ竜へと変わる。ルーカスが驚愕し尊がふうと白い息を吐く。
「いけ」
「ちょっ!きいてないいいい!!!!」
男が急ぎ九つの頭を持つ氷の竜の猛追から逃げる。
「逃げたら結構な強さだよなあのおかま」
「ええ。ルーカス。怪我は?赤子はどこで拾った?」
「怪我はないで、すっ」
尊に頭を殴られるとルーカスが目をちかちかとさせる。
「勝手に出るな。いいな?」
「は、い」
「ああ。仲間がいたな。逃げられた」
9つの竜の頭のうち二つが切り落とされ戻ってくる。
「実力の程はどうだ?」
「ランカスターさんでも十分ですがまだ相手が分からないので用心は必要です」
尊が赤子を身につけていた服で巻きルーカスを連れ下へと降りる。そして血溜まりだけの道を見るとルーカスが汗を滲ませ、尊が行くぞと告げ離れるとルーカスが気にしつつも後に続いた。
ーふう。
黒髪の天然パーマの青年が小麦を力強くねる。その足には足枷がされそばには竈が薪の火により熱を上げていた。
ーパンを作れます!俺はパン作りが得意です!
青年が発酵を終えたパンを竈に入れ焼いていく。そこに従者が来る。
「和真。パンは?」
「ああ。後少しで焼き上がる。待っててくれ」
「分かった」
和真が頷き従者が座ると足枷を見る。
「足枷くらい外したらいいのにな」
「奴隷でもあるから仕方がない」
「奴隷か」
「ああ」
和真がパンを出しテーブルに乗せると切り分けバスケットに入れる。
「婚約者を探して捕まったんだけっか?」
「そうだ。誰が何をしたか予想はついていたから」
「ああ。だけど、もう帰れるかわからないな」
和真が口をつぐませ従者がパンを手に部屋を出る。
ー帰りたい。
和真が椅子に座り項垂れると涙を浮かばせる。
ー遥。父さん。母さん…。みんな。
ーんもおお。
男が凍傷になった部分を治癒されながら仮面の男へと文句を言う。
「あの美形の異界人のエスランカー。容赦なかったわ。でも」
男がパッと顔を赤くさせほおを手で挟む。
「火照りを覚ますにはちょうどいい氷加減。あーんでもまたほてってきたわあ」
女が顔を歪め、仮面の男が話す。
「異例の速さでエスランカーになられただけはある」
「本当ねえ」
「それよりどうする?裏切り者が赤子を持って行った上、その赤子は」
「どうしようにもない。まあ、赤子は赤子だ」
仮面の男がステッキを出し地面につける。
「それよりも、こちらはあの少女を取り返さなければならない。希少価値のあるものだからな」
「うんうん」
「そうね。でも、今やアストレイ。どうやって出すの?」
「問題ない。いずれ自ら出てくる。予言がいうにはだ」
仮面の男が小さく笑み女が本当かしらねと告げた。
ー雨か。
和真がパンをこねていきながら水の分量を調整する。そこにあちらこちらと声が上がると和真が上を見上げる。
「なんだ?」
その場に見慣れたあの従者が肩から血を流し駆け込み来ると和真が驚きすぐに従者を掴む。
「強襲だ。くそ。貴族どもめ」
「強襲?」
「ここにもいたぞ!!」
和真が入ってきた兵士たちを見て驚き従者がひっと声を上げる。
「足枷?異界人の奴隷か」
「和真…」
従者が手を震わせ和真が青ざめる。
ー遥…。
「早く仕留めろ。上は終わったぞ」
「ひっ」
「終わった?」
血に濡れた剣を携え兵士が近づくと従者が恐怖に顔を歪め和真が従者を抱く。
ー俺は、生きなきゃダメだ。生きるんだ。
和真が手を震わせる。
「生きて、向こうに…帰る」
和真の額が光り模様が浮かぶと兵士たちがその眩さに躊躇する。そして足元に魔法陣が現れると翼の生えた白い虎が姿を見せる。
「れ、霊獣っ」
虎が兵士たちに襲いかかりかけて行くと更に上へと上がり血溜まりの上を浮かび瞬く間に兵士たちを倒しいなす。和真が汗を滲ませ従者が震えるも前を見て気絶した兵士たちを見る。
「え…」
「虎が、出てきた」
「トラ?」
「とにかく外に逃げよう」
和真が立ち上がり歩くと足枷が光ると和真の体がその場に崩れる。
ーおも、い。くっ。るしい
「和真」
「な、んとか、あし、かせ」
「そう言われても。俺は魔術なんか」
その場に虎が戻ると従者がビクッと震える。虎が和真の前に座り手に鼻を近づけ触れて行く。
「あし、かせ…。を」
「驚いたものだ」
従者が震え、鎧を着た屈強な男が近づくと虎が男を向き牙を向け威嚇する。
「ト、トラバス伯爵…」
「霊獣とはな。後その形からして奴隷か」
トラバスが顎を撫でるも。
「親方様」
魔導士が来て耳打ちする。
「やはりこの辺り近辺の魔獣はおりません」
「…ためせ」
「はい」
魔導士が鳥籠を持つ。その中に逃げ惑うネズミの魔獣がおり魔獣を持ち魔導士が近づくと虎が前へと出る。魔導士が今度は鳥籠を投げ虎の爪をすぐに杖と結界を使い庇う。その鳥籠は倒れている和馬に当たると一瞬で消え去る。
「なんと」
魔導士が押し退け下がるとトラバスが楽しく笑む。
「霊獣殿。其方の力が出ず声も出さないのはその主人の奴隷印と足枷のせいだな」
虎が唸り、トラバスが話す。
「霊獣殿の主人はこちらで手厚くもてなそう。必要な治療と衣食住を用意させる。それで良いか?」
霊獣が睨みながら威嚇をやめ小さく頷くとトラバスが頷き震える従者を見る。
「さて」
「血、は、やだ…」
トラバスが和真を見る。
「ゆ、う、じん、の、血は、死ぬ、のは、いや、だ」
和真が力つきその目を閉じ気絶する。
「仕方がない。霊獣殿の主人の足枷を外せ。その小僧も連れて行く」
「はい」
魔導士が頭を下げ和馬のそばへと来て足枷に触れ光を当てる。そして足枷が破壊されると今度は和真の腕を肩に回し従者を見て顎でこっちをと示すと従者が頷きすぐに和真を支え兵士たちに囲まれながら進む。その後上へと上がると従者がメイドや従者たちの死体を見て震える。そして外へと出るとテーブルに乗せられた晒された首を見る。
「こ、侯爵、様」
「あなたは運がいい」
従者が震え魔導士が告げる。
「この異界人に救われたのだから」
従者が何度も頷き魔導士が頷くと前へと進み屋敷の外へと出ると領民たちが捕まり並べられ選別されていた。
ーと、父さん。かあさんは、どこ。
「下を見ておけ」
従者が頭を下げ息を弾ませると悲鳴がちらほらと聞こえる。そして馬車へと来ると先に伝えられていた待っていた兵士たちが近づき和真を受け取ると馬車に乗せ従者をやや乱暴に乗せると外から鍵をかけた。
ー目まぐるしい。
ダリスがやや目の下にクマを作りながら山積みされた書類作業をしていた。
ーくそ。馬鹿どもの後始末がここまでとは……。
ばきっと音がなると従者達が羽ペンを折ったダリスを見て息を飲む。ダリスがゆっくりと長く息を吐くとノックが響く。
「失礼します。唯子です」
「は、い。その」
「…通してください」
従者が頷くと扉を開ける。そして唯子が遥を連れて入る。
「ダリスさん朗報です」
「…朗報?」
唯子が遥を前に出すと遥がぺこりと頭を下げ回りの書類の山を見る。
「彼女ここの整理にうってつけです。六条遥さん」
「ええ…。話は聞いてます。本も見ました」
「は、はい」
「私が勧めましたからね。で、彼女書類整理にうってつけです。こちらにいる間手伝いをしてくれるそうです。もう随分と寝られてないでしょ?」
「…」
「気を張られて作業するより一旦寝られてからの方
が間違いがなくなりますし落ち着きますよ」
ダリスが息を吐く。
「なら、そちらの二山を終わらせたらこの辺りの整理もお願いします」
「はい。じゃあよろしく」
「あ、はい」
ーなにをするかな。
ダリスが見ていき遥が指を向けると遥の周りが僅かに浮かぶ。そして書類が舞い遥の前に来ると遥が素早く文書を見通す。
「え?」
ダリスがじっと見ていき、唯子が楽しく話す。
「遥さんは学業優秀な上、税理士の資格所持者なんですよ。ここに来る前にこちらの数字や計算の基本、文字を教えて来ましたから。勿論文書も読めますよ」
遥が小さく呟きながら書類分けを行っていった。
唯子が部屋から離れた通路で待っていたミオの元へと来る。
「どうだった?」
「上手くいったわ。今さっき休みに入ったところ」
ミオが安堵のため息をし頷く。
「良かった。もう絶対腹立てて空気冷やしてるところだと思ったから」
「あはは。向こうで同じことあったの?」
「少し。後はサイモンさんから聞いていたの」
「ええ」
ミオが頷くと紬がお菓子を持ってくる。
「何々どうかしたの?」
「ええ。遥さんを雇わせてもらったの。文書を読むのもだけど計算も早いから」
「そぎゃんかー。後お菓子作った。うちの地元のいきなりだごあんこなし」
「いきなりだご?」
「お客さん来てもパパッと作れるからいきなりだご」
「つまり、突然の来客のために作られたお茶菓子ね」
「そぎゃん。あんこなかけん、芋だけ。甘さ足りんかったけん砂糖入れた」
「ええ」
ミオが手にする。
「熊本の?」
「そぎゃん。食べんかった?」
「ええ」
「なあん。瑠奈もこっばたべさせんでかんにいかーん」
「…」
「何となく意味はわかるかな」
「これは熊本の名産品なのに、食べさせないで勿体無い、だね」
ミオが分かったと頷き唯子がええと返事を返した。
二時間後ー。
ダリスがベッドの上に寝転がってすぐ熟睡する。そして遥が視線を右から左へと忙しなく動かしながら書類を次々分けつつペンや紙、遥専用に急遽作られた算盤を使い間違い箇所へと印をつけたり計算を行ったりする。
「早いな」
「ああ。この調子だと、明日には終わりそうだー」
男が確かにと頷くと自分達もとせかせかと負けじと動いた。
夕方ー。
唯子が迎えに来ると遥が今度は床に這いつくばり紙に文字を書いていた。そのそばにサイモンがおり唯子が目を丸くしつつサイモンを見る。
「ええと、教会」
「あ、はい。元枢機卿のお側付きのままになりました。教会にもまた出向きます」
「ええ、はい。それで」
「はい。ある程度終わらせられてすぐに今度は本のアイデアというものが思いつかれたとかでここで書かれているんです」
「まあ」
集中しながらペンを動かし文書を書く遥を唯子が見下ろすと膝をつきしゃがむ。
「席に座られてはとお声がけいたしましたがこのままがいいとのことで」
「なら、いつもこの状態で」
遥の手が止まり体を起こしむうと眉を寄せ指を叩き軽く考えるもすぐさま伏せ書いて行った。その後力つきその場で眠るとサイモンが抱き上げソファに乗せ寝かせた後、落ちている書き終えた紙を拾い集めながら日本語を見てむうと眉を寄せる。そこに目を覚ましたダリスが来るとサイモンが頭を下げダラスの元へといき遥が行ったこと、ここで眠ったことなどを話した。
ー和真。
教会の中で高い服に身を包み、茶髪に髪を染められた和真がトラバスの後を騎士たちに囲まれ歩いて行た。
ーなにをされるのだろうか…。嫌だな。
和真が周りを見渡し目の前の水晶を見る。そして神父たちが頭を下げトラバスが金を渡し和真を振り向く。
「この水晶に触れるんだ。力の性質を見る」
「…は、い」
和真が恐る恐る触れると水晶が眩く光る。神父たちが驚き和真が光に包まれる。
ーこーらまてえ!!
ーあははっ。
ーこっちいー。きゃあー。
遥が子供たちを相手に追いかけっこをし男の子を捕まえるとくすぐり男の子がゲラゲラと笑う。
ー遥。
ー遥さん。向こうのことが分かったそうよ。あのおばさんの件も。
ーああ。
和真が驚きながら遥と共に映った望と唯子を見る。
ーあれは。
ー部屋に行こう。
ーはい。ちなみに白と黒。
ー黒だな。後で力についても詳しく見るとキヨさんか話していた。
ー分かりました。あと、あーーもおお!!!やっぱりあのばばあよくもっ。私のお金ぶんどってっ。
和真がじっと見て行くが誰かにその手を掴まれると振り払おうとするが引っ張られる。
ーあのほすとばばあっ。
和真がはっとしトラバスが和真の手を引っ張ると和真がよろめく。
「遥…」
「ん?」
「遥がいる。来ている。ここに…。小鳥遊望がいた…」
「望…」
「トラバス伯爵っ」
トラバスが興奮した神父たちを見る。
「ぜひこの方を私たちに」
「はっ。金はやった。行くぞ」
「はっ」
「お、お待ちくださいっ。伯爵っ」
和真がトラバスに引っ張られ連れて行かれると和真が不安な面持ちをさせながら興奮気味に笑んだトラバスを見る。
「あの、俺は…」
「ああ。お前はこのまま私の元にいてもらう。養子にさせる」
「え…」
「私は本当に運がいい」
和真がぞくっとしトラバスが和真を馬車に乗せ同じ馬車に乗ると馬車が教会から離れて行った。
ーふう。
魔導士の女がラフな姿で屋敷内を歩く。そしてやや薄汚い建物へと来ると扉を開け中にいたジャガイモを剥く従者の元へと来る。
「よかったわね。皮剥きが出来て」
「五月蝿い…」
「話していた件よ。父親は死んだわ」
従者がその手を止める。
「母親はまだ若いから別の村の男の元よ。妹も一緒」
「…」
「村はもう焼き滅んでない」
従者が俯き、女が話す。
「以上」
「わ、かった」
「ええ」
ノックが響き扉が開かれる。
「おい。皮は剥いたか?」
「まだよ」
「ちっ、早くしろ」
「すみません」
料理人の男が気まずく立つ和真を振り向く。その後ろに剣を刺した若い護衛騎士が立っていた。
「洗礼は済んだのね」
「あの、水晶に触れることですか?」
「ええ。それでカイン。なぜあなたが?見張り?」
カインが頭を振る。
「護衛だ。伯爵様が養子になさる手続きをされている」
女が目を丸くし料理人が驚く。
「養子に?洗礼を受けて?」
「ああ」
「アルは中にいますか?」
「ええ」
和真が頭を下げ中へと入ると俯いたアルを見つける。
「家族についてどうなったか教えたのよ。私は行くわ」
女が離れ料理人もまた終わったら持ってこいよと告げると離れる。
「アル。隣にいいか?」
「…ああ」
和真が向かい合い座る。
「家族は?」
「親父が死んだ。お袋と妹はどこかの村の男の元に売り飛ばされたそうだ。トラバス伯爵にやられた貴族とその領地の民はいつもそうなる。敵対した貴族については一族もろとも殺される。侯爵様や奥様たちも首がさらされていた」
「晒し首か。戦争は嫌だな」
「はっ。他人事だろう?」
「いや」
和真が芋を手にする。
「俺の兄は医者として戦地に。そして捕まり拷問されて最後に首を切られて晒された。国は身代金を払えなかった。当たり前だ。数多くの国民の医者を目指した医者の卵であり、ただのパン屋の息子だけの為に国家予算を使うわけには行かない」
「…」
和真がナイフを手にし芋を切るとアルが口をつぐませる。
「まだ母親と妹が生きているならここで働いて外に出た時に会いに行ったらいい」
「…出来たらな」
「働けば出来る。伯爵は働き次第では必ず報酬は払うように思えた」
「本当か?」
「ああ。怖いが、公爵のように人を面白がりはしない」
アルが頷き芋を剥く和真を見る。
「なあ。洗礼で何かあったのか?」
「俺もよくは…光って、それで、婚約者が見えた」
「話していた子か?」
「ああ。ここに来ている。そして、あちらの有名な人の元もいて…それが不思議だ」
和真が僅かに考えるも再び皮を剥く。
「…それ、おれの仕事」
「気晴らしにさせてくれ。多分、パンもしばらく作れそうにない」
「…お前のうまいのにな。お袋たちにも少し持って行ったら喜んでまた欲しいって言ってた」
「なら、アルが会えたら作る」
アルが頷き和真が話す。
「暫く、心苦しいが周りにいる。おれも会えることができたら会いに来る」
アルが涙ぐみながら頷き和真がああと返事を返した。
ーはああっ!?
「かっちゃんが!?嘘だっ」
遥が叫び望が話す。
「六条さんが行方不明になったのを聞き日本に戻ったのを最後に行方不明になったそうだ。知人の話では六条さんの親族に事情を聞きに行くと話して戻ったとのことだった。ご家族の元には来ていない」
「そんな…」
遥が青ざめ、望が告げる。
「それから、口座について引き出されていたとのことだった。そして六条さんの担当者も責任をとって辞任しているとのことだったので現在重要参考人として捜索中となった。話していた片桐紗枝についてもだ」
「はい…」
「ああ。あと、金額は8億。その8億の内、1億について。引き出したものは同じマンションに住む3階の水木菜穂子さんとの事で逮捕された」
遥がテーブルで頭を打つと唯子が驚く。
「あの、なぜ?え?その人も社長の奥様ですけど…。後私、2度しかお会いした事ないんですが」
「ああ。話によると若いのに自分より上の階に暮らす六条さんに腹を立てていたとの事だ。なので、管理者を上手く騙し部屋へと侵入。金銭はなかったので通帳を盗んだとの事だった」
「鍵付きの引き出しに入れてたんですけど壊したんですね」
「ああ、その際手を怪我したそうだ」
「なら、ルミノール反応が出たんですね」
「その通りだ。不法侵入及び窃盗の疑いで逮捕したとの話だ」
「はい…」
遥が体を起こし不安な面持ちをさせる。
「あと、かっちゃん。私のせいだ…」
「そんな事ないわよ」
「いいえ」
遥が頭を振る。
「あります…。家の問題に、巻き込んで…」
遥が表情を曇らせ、望が話す。
「六条さんのご家族は警察に全て任せているとの事だった。下手に自分達で動くと逆に見つからなくなってしまいそうとの事で家族が話し合って決めたとの事だ。六条さんがネットやテレビなどの情報に関する良し悪しを教えていたからそうだ」
「…」
遥が体を起こし額を赤くさせながら頷く。
「捜査に支障がでますから。今までの行方不明者捜索の事案についてやはり専門機関に委ねた方が確率は高くなります。下手に自分達で動けば身の危険もありうる話ですから。私がそう小説も交えてみんなに話してましたから」
「ああ」
「その話の通りに動いてくれているのね」
「はい」
唯子が頷き望が告げる。
「話を聞く限り、六条さんのご家族はお互い信頼をしあっている。ここまで信頼し合う家族を行方不明届を出された人たちの中にはいない。いつだって必ずトラブルが一つついてくれば捜査の邪魔をしても来た。今回はそれもないので捜査も早い」
遥がゆっくりと頷き望が話す。
「ああ。ただ、問題は六条さんの婚約者の行方だ。お兄さんの死亡した経緯もあり悪目立ちをしているとの事だ。もしここにいるのならば情報を得る必要がある」
「でもどうやって…」
「大丈夫」
唯子が微笑み望がその通りだと頷いた。




