古代国アルスマグナ(前兆)1
ー暇だな。
ダリスが部屋の中に閉じ込められながら窓から外をぼうと見ていた。
ー本の一冊くらいは残して欲しいものだ…。
ダリスが椅子の座を指で叩くも止めると小さく息を吸い吐き出す。
ールクレイシアが消えて、安心、しているのだろうか…。私は。
ダリスがやや俯く。
ー悲しみも、何も感じない。ただ、落ち着いている、
ダリスが目を閉じ、ルクレイシアの笑みを思い出す。だが、ミオの顔を思うとダリスがはあと息を吸い吐き出し顔をあげ外を見る。
ーミオ。
ー甘い、の食べたい。パフェ、パンケーキ、ああ、チーズケーキも…。
ふわあと甘い匂いがするとミオがこくりと喉を鳴らした。
マリアンヌが本でパタパタと仰ぎ、紬が焼きたてのパンケーキを持ち眠るミオのそばにしゃがみその甘い匂いを嗅がせていた。それを瑠奈が可笑しくみており、透華がくすくすと笑い、アンナがそれで起きるのと思いながら見るとミオが目を覚ましぐううと腹の音を鳴らした途端、マリアンヌ達が吹き出し笑いミオが何事かとすぐさま起きあたふためいた。
「ひふぉい」
ミオが顔を赤くさせながらパンケーキを食べ、紬が話す。
「ごめんたい。ずっとパンケーキとか、パフェとか話しとったけん」
「…う」
「それで私が作ったの」
瑠奈が告げミオが頷く。
「あ、ダリスさん、は?」
「拘束中。まあでも、元がしれてるから。兄から聞いたよ。あと兄は、ここのところ気が抜けてるってことでマナさん。師匠さんが根性叩き直すでミオを私たちに預けたあと即連れて行かれた」
「そぎゃん」
「はい」
「うん」
ミオが頷き、瑠奈が話す。
「とりあえず、ゆっくり休んでから話とかいい?」
「ん、ええ」
「よし。あと、パンケーキはおかわりあるから。食べる?」
ミオがすぐさま頷き返事を返し、瑠奈が分かったと返した。
ー腹立たしい。
サイモンがむすっとし、クリスがやれやれとする。その2人もダリスとは違う部屋の中に閉じ込められておりサイモンが話す。
「あの女」
「ああ。ただ、ダリス卿か。やはり、心境が変わられたようだな」
「…それは、知ったからでしょうかね?ルクレイシアがイーロンの手のものであったことを」
「それもだが、もしかしたらミオ様に好意が向いてきたのではないか?」
「そうなのですか?」
「ああ。これは、まあなんだ。私も妻と子を持っているから言えるし勘だ」
「はあ…」
「お前は持たなそうだな」
「勿論ですとも。考えたことすらありません。あと、私からすれば弱点が増えるだけです」
「弱点か」
「はい」
クリスが頷く。
「私の考えではか。やはり、守るものがあるからこそ強くなれる。そして、帰りを待つものがいるから早く帰りたいと願う」
「そうですか?」
「ああ。まあ、待てばそう考える」
サイモンがわからないと軽く首を傾げクリスがやれやれとするとノックが響く。そして異端審問官達が中へと入ると2人が立ち上がりそれらに囲まれ部屋を出た。
ー私の小鳥。
トマが着替えると仮面をつけ部屋をユリウスと共に出る。そして審問の場へと来るとそこに拘束されたサイモンとクリス、その中央にダリスがいた。
ー入った途端わかる…。空気の澱みが、ない。
「これより裁判を始める」
ダリスが気だるそうにし、トマがユリウスと共に審問官達の列に並ぶ。
ーいかがですか?
トマが視線を向けるも何かが邪魔をし阻害をする。
ー結界?でも澄んでいます。それが邪魔をして分かりません。
ー貴方が話されたフェンリル殿ですね。あと、この裁判もやらせですし。
ーやらせ?
ーええ。私達としては、いかような理由であれ彼らを裁けないのです。
トマが不思議そうにする。
ー証拠がまず不揃いですし、証言も全くないですし、話してることは出鱈目ですしね。
ー教会が、ダリス卿に罪を与えて投獄させようとしてるんですか?
ーその通りです。まあ、どうせ結果は見えてます。あと、ダリス卿も茶番に付き合って面倒臭そうにされてますね。
トマが確かにと頷きダリスがぼうと他所を向いていたがだんと音が響く。
「ダリス卿!どこを向いておられるのですか!」
ダリスが正面の神父達を見る。
「外を眺めていただけですよ。話すこと全て、よくわからないですし」
「なんですと!」
「話を聞いておられたのですか!」
「ええ、はい」
「ではどのような話かおっしゃって下さい!!」
サイモンがかちんと頭にくる。そしてクリスが額に血管を浮かせ共に裁判官を睨む。
「ダリス枢機卿。そのほう、イーロン国の研究者である罪人を匿っていたこと」
ダリスがつらづらと一字一句間違えず言葉にする。サイモン達が今度は驚くも、ダリスが息を吐く。
「以上です」
「う、む」
「子供じみた質問だね」
周りがざわつきトマが上を見上げると奏が突如現れ着地する。そして、龍の一体もまた着地するとダリスがやれやれとし周りが大きくざわつく。
「だ、誰だ!」
「元手配犯ー。あと、なんにんかおたくら教会連中をのした事あんのよね」
「なに!?」
ーああ、連れてこられたもの達ですね。罪人達。
ー…その、賄賂とか、殺しとか。
ーええ、はい。
「何をされてるのですか?」
ダリスがやれやれとし奏がダリスを見る。
「見ての通りお邪魔しにきたよ」
扉が開かれ騎士達が中へと入る。
「な、え」
「馬鹿げた裁判はここまでだ」
鎧を着た男がその場にくる。ダリスが複雑そうにし、男が前へと出ると異端審問官達を見る。
「その方らも人が悪い。先に話はヘルマン大司教を通し了承していた筈だ」
「なにっ」
ユリウスが前に出るとすっと頭を下げる。
「ユリウスと申します。お話について、やはり我々も裁判官の端くれであり見届け人。罪人であろうとなかろうと確認する必要がございましたので。直接この目でです。たとえそれが枢機卿であってもです」
「それがそちらの判断の方法か」
「はい。そして、事前に施しをされようとも、私達は罪を働いたものを見逃すわけには参りません」
男が頷くとそばにいた騎士がコソコソと話す。
「ハルバード陛下。ヘルマン大司教に代わりましたあと犯罪が減ったことは事実ですし公平性をもつようになったと聞きます」
「ああ」
「あとは、神の子シリウスがいると」
ハルバードが頷きユリウスを振り向く。
「分かった。では、お前たちに問う。ここに戯言を吐くものがいる。それは誰だ?」
ユリウスがふっと笑う。
「失礼ながらもうご存知でしょう。その為にお連れされていらっしゃるとお見受けしました」
「ああ」
ハルバードが剣を掲げ壇上のものたち示すと騎士たちが一斉に動く。
「こ、ここは神聖なっ」
「何をするはなせ!!」
弾が視線を巡らせていくとダリスを見て口をつぐむ。
ーミオの婚約者……。
顔、目鼻立ち、体と見る。
ー勝てる気がしねええ。クソなんで。
「ダリス」
ダリスガハルバードを振り向きハルバードがやれやれとする。
「ルクスは?」
「…」
ダリスが小さく息を吐くとルクスが姿を見せる。
「ルクス。そちらもダリスの証言者となれば良いものを」
『私は彼の護衛のようなものです。そして、あなた方がくるのはとうにわかっておりました』
「だとしてもだ。まったく」
サイモンたちの拘束が解かれるとサイモン達がダリスの元へと向かう。
「私は何もしていない!!ルクレイシアをダリスに送ったのは私だ!!」
サイモン達が一斉に老人神父に振り向く。そしてトマが金色の目を向けその神父と目を合わせる。
「き、貴殿は何を」
「ち、ちがう。私は」
ーシリウス。あれか。
ハルバードが目を合わせるトマへと視線を向ける。
ーこいつ…。
「私はキメラの実験に手を貸したっ」
周りが汗ばみ、男が声を上げる。
「貴公らも援助したではないか!」
「な、何を言っているよせ!」
「お、くそ」
男が顔を掴み頭を振るとトマを睨みつけトマがハッとし、体を震え強張らせる。
「シリウスがっ!!」
「あ、かはっ。ぎ」
トマの首が締め付けられるとユリウスが首を絞められるトマを抱く。ルクスがトマへと軽々と飛ぶと首へと牙を向け噛みつく。するとぎいいいいいと悲鳴が上がり蛇のような悪魔が姿を見せる。トマが咳き込みゼエゼエと苦しく息を荒げ、ハルバードが男を睨む。
「悪魔が」
騎士達を跳ね除け男がその手から黒い蛇を出す。
「五月蝿い!そしてこのシリウスが!よくも私を!」
トマが息を弾ませ男を見る。
ーその、深く。深く。
男が奥歯を噛み締める。
ー捕まえた私の部下達は殺さない。それで良いなら貴方に手を貸すわ。
ー分かった。約束しよう。
「ヘルマン大司教、様の、前の」
トマが苦しく息を弾ませ、ダリスがトマへと視線を向ける。
ーやはり、彼か。
「異端審問官、の、代表。ルクレイシアの、人質に、取られた、8人の、部下達を、約束を破り、異端審問に、かけ、拷問死、させた。ルクレイシアが、枢機卿、はあ」
トマが軽く血を吐く。
ー喉。
「もう良いです」
ユリウスが汗を滲ませ、トマが苦しく息を弾ませていくもルクスと僅かに目が合うと息を吸い大きく吐き出す。
「ルクレイシアを、枢機卿の元に…。送った。部下を、助ける、ために。いなくなったのは、死んだから、と、分かったからの、はず。ルクレイシアには、枢機卿の、相手を、させ、様子を探れと、命じたのは、お前だ」
金色の鎖が姿を見せ男を束縛すると蛇が悲鳴をあげ煙となり姿を消す。
「罪人は、お前達だ」
次々と鎖が現れるとハルバードが目を見開きトマが両目を金色へと変える。
「イーロンに、薬の製法を、薬の元となる原料を、教えたのは、お前達だ。お前達が、村を」
トマがビクッとはね、ルクスが額を光らせる。
『これ以上はやめた方がいいです。その力は体に触ります』
トマが目を閉じ力をなくすとユリウスが支え抱く。
「ゆ、ゆるめて、くれ。鎖をお」
「う、ぐうう」
鎖に縛られたもの達が苦しく声を上げ、ルクスが振り向く。
『罪を認めない限りその鎖は解き放たれません。あの断罪の大鐘と同様の効果』
「そう。その通り」
奏がやれやれとする。
「自分が明かした罪をここの全員に間違いなく話さないと鎖に締め上げられて最後は圧死。ちなみにその鎖の発動条件は大罪人の拘束及び尋問及び処刑。処刑回避には話さないとダメだけど、これがまた嫌なものでさ」
奏が肩をすくめる。
「1月続くから。その間の食事と排泄はなくても平気。その鎖が栄養与えてくれるからさ。だけど、まともに眠れはしない。さ、どうする?」
奏が楽しく話す。
「決めなよ。ここでねー」
数日後ー。
ールクレイシア。どうだったの?
ミオが操られたふりをしながらカテリーナと会話を聞いていた。そしてルクレイシアが頭を振り話す。
ー全員死んだわ。あと、命じた大司教は以前断罪の大鐘で裁かれて死んでいるからもう居ないわ。分かっては居た。けど、受け止め切れることが難しかった。
ルクレイシアが自らの腕を握りミオが僅かに口をつぐんだ。
ー私が出来ることは謝って祈るしかできないわ。
ルクレイシアが花を海の中へと沈めると波が沖へ沖へと運ぶ。
「今頃あいつらも苦しむ羽目になっているわね」
「ルクレイシア様」
ルクレイシアがユーリを振り向きユーリが話す。
「カテリーナ様がお呼びです」
「ええ」
ルクレイシアがユーリの後に続き海岸を後にする。そして部屋へとくると裸のカテリーナと黒く染まったものを見る。ルクレイシアが力のない視線をそのものへと向けるカテリーナのそばへとくる。
「カテリーナ」
「子供が欲しいのに…」
「聞いて」
カテリーナが涙を流しルクレイシアがカテリーナを抱く。
「貴方の力が強すぎるの。私が調べるから。あと、ただ欲しいだけではダメよカテリーナ。貴方は、強姦されて子が出来たから分からないでしょうけど、子は想い人を持ってできるものなの。あなたが子を思うような気持ちをもつ人をね」
「…そんなの、できるわけない」
「分からないわよ」
ルクレイシアがシーツを握りカテリーナにかける。
「まだ時間はあるから探すわよ。外に出て」
「無理よ。私の力は他にわかる」
「問題ないわ」
ルクレイシアが指輪を外しカテリーナの手に乗せ握らせる。
「この指輪をしなさい。貴方にはわかるわ」
「でも、これは貴方の大切な」
「いいの」
「…どうして、ここまで…。まだ会ってまもないのに」
「贖罪よ。私は大切な部下達を失った。貴方のように拷問にあい死なせてしまった。放っておけないの」
カテリーナが口をつぐませルクレイシアが真っ直ぐに見つめる。
「私に任せて。あと、別の部屋に行きましょう」
カテリーナが分かったと頷きルクレイシアの手を取り部屋を出た。
ユリウスが落ち着き眠るトマのそばにいた。そこに尊が近づきやれやれとすると尊が小瓶をみせ中にある光る粉がサムの鱗粉であることを伝え飲ませるように指示するとユリウスが受け取り礼を述べた。
ー確かに…でも。
「何か、こう、もやもやと」
サイモンが苦しげに話す。その隣にクリスと目の前にナガハラがいた。
「当たり前だ。後さっさと話せばよかったものを」
「ルクレイシアをご存知なのですか?」
「ああ。あいつは天才だ」
「え?」
「なんの?」
「何もかもだな。捕まってたとはいえ俺も向こうで指示通りに動いていたからな。そしてルクレイシアとその部下達が俺の手伝いとして派遣された。ルクレイシアは部下達を器用に使えば、自分もまた調剤やウイルス同士の結合か。それが意外と手間があり難しい。その作業を難なくこなした。後手術もできるし、あの女は副大統領の執刀医でもあった」
「執刀医と申しますと?」
「担当医のことだ。主治医。まあ、副大統領が女好きもあったからな。それも理由の一つだ。だが、腕はいいし度胸もあるし頭もいい。そして部下思いでもあった。その部下達を人質に取られたらいうことを聞くしかことの他ないが、ダリスの話からすると俺がいた頃になる。つまりその頃から人質に取られていたというわけだ。そして、部下達の価値がなくなったので異端審問にかけ殺したんだろう」
「はい」
「ああ。後うるさい」
ナガハラがサイモンの頭を叩く。
「ダリスは暫く休みだ。掃除が済むまでだ」
「…分かりました」
「その間我々は?」
「上司が休みなら休みだろうが。クリスは家に戻って家族サービスをすればいい」
「さあびす?」
「奉仕だ。家族で遊ぶなりなんなり過ごせばいいというわけだ。サイモン。お前は暇そうだから俺を手伝え。給金はやる」
「…なんかあり」
「はいだ」
サイモンがはいと答えナガハラが頷いた。
ールクレイシアの部下を人質に取った。
ダリスがルクレイシアがいた中庭の東屋に座り景色を眺めていた。そして体を横たえ仰向けになり東屋の天井を見上げる。
ー怒りも悲しさもない。あるとしたら、寂しさか。
ダリスがふうと息を吐きうとうとする。そしてすうと眠りに落ちる。だが、気配を感じ目を覚ますとぴこらげがじいと見下ろしこちらを見ていた。そのぴこらげへと手が伸び抱き寄せる。
「起きました?」
ミオが話、ダリスが起き上がる。
「なぜここに?」
「はい。ナガハラ先生が気が抜けてるから様子を見に行けと言われて連れてこられました」
「しょーだじょ。じゅぎょーがあるのに」
「なら戻られて下さい」
「戻ってももう遅いです」
ダリスが軽くため息をする。
「ダリスさん。暇ですか?」
「…ええ」
「なら、外に出ませんか?」
「でて、それで?」
「市場に行きましょう」
「目立ちます」
「変装すればいいんです」
ミオが自分とダリスを指さす。
「男と女と逆転です。つまり、男装と女装です」
「…………」
「ルクレイシアさんに用意されたドレスがまだ中にあるんですよね?」
「…一応」
「ではそれを着て行きましょう」
ダリスが無言となりミオがじいいと見つめ続けると顔を背けため息をついた。
1時間後ー。
「ダリス。おい。ダリスっ」
ナガハラが中庭に来る。その後をサイモンが来ると周りを見渡す。
「いませんね…」
「はあ?ミオはどうした?」
ナガハラが東屋へと向かうとテーブルの上の紙を見つける。そしてそれを手にし裏返すと暇つぶしに行きますとミオの手書きで書かれていた。2人の時が僅かに止まるとナガハラが紙を握りつぶし苛立ちながら探せと焦るサイモンへと怒鳴るとサイモンがすぐに返事を返し全速力で走った。
ミオが茶髪に髪を染め一つに縛り帽子に髪を隠し、服を青年達が着る服を着て街を歩く。その隣を化粧をし深めの帽子にドレスを身につけたダリスが歩いておりダリスが自分を見る視線を受け気まずく視線を逸らす。
「あった」
ミオが走りダリスへと手招くとダリスが向かい店を見る。そこは宝石店でミオが扉を開け中へと入りダリスもまた入る。
「いらっしゃいませ」
老齢の男が頭を下げるとミオがぺこりと下げる。
「何をお探しですか?」
「はい。前、ここで見た緑の石はまだありますか?腕輪です」
「ええ。しばらくお待ちください」
ミオが頷き店主が奥へと消えるとダリスが小声で問いかける。
「何を買われるのです?」
「腕輪です。従姉妹の姉に差し上げようと思ってるんです」
「お待たせしました」
ミオが頷き腕輪を確認する。
「これです。いくらですか?」
「はい。5千です」
「ご……」
ミオが汗を滲ませ袋を出し金貨を数えると店主に払い店主がありがとうございますと微笑んだ。
「……遊べるお金がなくなった」
ミオがしょんぼりとし、ダリスが話す。
「私が出します」
「…えと」
「助けたいただきましたし」
「そ、そうしたら、あっちで」
「ここでのみとしましょう」
「…ふ、不公平すぎませんか」
「いいえ、でしたね」
ダリスがふっと笑い、ミオが気まずくする。
「それは、意味が違うと思いますけど…」
「そうですかね」
ミオが小さく頷き今度返しますからと告げるもダリスが無視をしミオがしどろもどろとした。
ーヒカル殿!お時間よろしいですか!
ヒカルがやれやれとし、ハリーがフライを肩に乗せながら街や歩く人を見渡す。
「まさかミオがね」
「俺は向こうにミオといったから分かるがミオがすることだなとも思う」
「そう?」
「ああ。意外とミオも行動に移す方だからな。考えたら即。却下され」
ヒカルがある方向を見て吹き出すと咳き込みハリーが驚きどうしたのと顔を覗くがヒカルが手を振り前へと進むと指差すとハリーが頷き進んでいく。そのヒカルをダリスが冷ややかな視線を向け過ぎ去るまで見ていた。そこにミオがパイを持ちくるとダリスへと声をかける。
「お待たせしました。どこで食べますか?」
「…」
「あの」
ミオが服を引っ張るとダリスが軽く息をつき人気がないところでと告げミオと共に移動した。そして何も言わずに通り過ぎたヒカルがゴホゴホと笑いを咳で誤魔化しハリーが話す。
「ちょっとなんなのささっきから」
「いや、わ、るい。ごほ」
フレイがやれやれとしハリーがもうと声を出す。
「そういえばになるけどさあ。ヒカルは僕みたいに召喚とかしないの?」
「ん?ああ。霊獣だろう?俺はいい」
「なんで?」
「考えあってになるな」
「えー、でも、お兄さんも聖獣だったでしょう?」
「あれは引き継いだようなもんだ。母さんの中にいたものを」
「ヒカル殿っ。ハリー殿っ」
慌てるサイモンがすぐにその場にくる。
「見つかりました?」
「…」
「まだです」
「そうですか…。あーもうどこに行かれたんですかお二人とも…」
「その、謹慎中とかではなく、て?」
「ああいえ。ありませんがまだ危険な輩がやはりおりますから。ことが治るまでは大人しく部屋に篭るようにとの思うしでした。現に先程私に向かってくるもの達もおりましたしね」
「そいつらは?」
「はい。雑魚でしたので捕まえて警備兵に引き渡しました」
「まだ反対派がいるんですね」
「そうですね。あとは、まあ、あの容姿ですので…。嫉妬とかでよこす方もいらっしゃるのですよ。お好きな方が惚れて、それで」
「あー、分かりますね」
「魔導局でも好きな子多いし、絵を持ってる子もいるくらいですから」
「そうですか」
サイモンが苦笑するがハッとする。
「ああ、急いで探さないと。なら、すみませんがお願いします」
「はい」
サイモンが走る。その先に椅子に座りパイを食べる2人がいた。ヒカルがぶふっと小さく吹き出し、サイモンがそのまま通り過ぎる。
ーおもれえ。
「どうかした?」
「いや、あー。ハリー。そこ入ろう」
「パン屋?別よくない?」
「いや、食べながらでも探せるだろ?」
「ええ…」
ヒカルがハリーを押しパン屋の中へと入る。ミオもまたヒカル達に気づいており入っていくのを見る。
「ヒカル殿は気づいてますね」
「はい。サイモンさんは通り過ぎちゃいました」
「ええ」
ダリスがパイを食べ、ミオもまた食べていく。
「ここで何も気にせず食べるのは久しぶりです」
「この場所で?」
「いえ。この職についてからです。1人で過ごしていた時はよく食べ歩きをしておりましたし、盗みもしました。生きる為に」
ミオが頷きダリスが手を見てボロボロで痩せかけた頃の自分の手を思い出す。
「あの時、ナガハラ殿に世話になるまで孤児のように過ごしておりましたから」
「ご両親は?」
「兄を溺愛しておりました」
「え?お兄さんおられたんですか?」
「ええ。まあ、一応大臣補佐としているようですけど、名ばかり状態です。甘やかされた為に何も出来ないのです」
ミオが目を丸くする。
「あと、私はこう見えて不敬の子ですから。つまり、父の愛人の子供になります」
「じゃあ、ご両親と言われていたけれど、お母様は違う方」
「はい。母は病で亡くなりました。正確には性病です。父から移されて苦しみ亡くなったのです。ここでは不治の病と言われてますが、あちらでは梅毒と呼ばれる性病になります。母も鼻が腐り体中痛みが走り寝ることもできず亡くなりましたから。移した父の方は魔導士達による治療で治っておりましたので。まあ、母も愛人と言いましたけど実際は宿の娘で父が狩らのために立ち寄った宿に母がいて。そして、乱暴されて私が出来たのです。そのあと宿で母と仕事をしておりましたが父が来て私と母を半ば攫う形で宮殿に。その後の夜は母は相手をされながら、本妻に暴行など受けてと、地獄でしたね。私も同様でしたし、出来損ないの兄に散々打ちのめされましたから」
ミオが頷き、ダリスがパイを口にする。
「それで、お母様が亡くなられて孤児に?」
「そうです。そして、ナガハラ殿に拾われて衣食住と学問。あとは、アルスラン殿から剣や体術と教わりました」
「お母様がおられた宿は?」
「火事により燃えました。おそらく父か母の仕業ですね。その時に私の母の両親。私にとっての祖父母が亡くなりました」
「ご両親も殺されたんですよね?アストレイ国の王に」
「ええ。まあ、別に私はよかったですけど。あの2人は相当悪評ばかりでしたから。兄含めて。そしてその悪評により私に散々うるさいもの達が来るのでうんざりなんです。あと、3人。特に父のせいで私も穢らわしき存在と言われておりますしね」
「大変ですね」
「大変どころではありません」
ダリスがむかむかし、ミオが頷く。その会話をヒカルが盗み聞きしており、ヒカルから聞いたハリーもまたパンを食べつつ聞いており姿を2人で隠しながら話していく。
「びっくり。僕初めて知った」
「俺は父さんから聞いてたからな。あと、向こうで酒の愚痴で話された」
「愚痴るってのも驚きだなあ」
「誰だって愚痴るさ。人間だからな」
ハリーが頷き、ミオが話す。
「そのお兄さんですけど、どうしたいですか?」
「正直、使えないので下働きさせたいですね。太っておりますし」
「今の地位ではやはり関係上できないですか?」
「難しいですね」
「雇われている方は何も思わないのでしょうか?」
「弱みを握られてるとか。なんの弱味か知りませんけど」
「ちなみに、その方からお願い事とかあるんですか?」
「…ありますね。私の立場を利用して。まあ、出来ることはしますけど、ほぼ出来ないで断ってますし、なんと申しましょうか…。サイモンやクラスと言った側近達ですらあれと私が異母兄弟であると言うことを知らないようなのですよね」
「似てないんですね」
「ええ。顔から性格から体格も」
ダリスが最後のパイを食べるとミオがそれを見て急ぎ食べる。
「ルーシャス」
「ん、はい」
「何故か目の敵にされているんですよね」
「どうしてですか?」
「私を見習え。家庭教師がですか。私に惚れ込んでいたんです。そのせいで、なんにつけ私を見習えと言われていたそうなんです。ルーシャスの父親。王からお話を聞いたんです。のちに解雇されたのですが、まだ純粋な子供だったからですからそのせいで目の敵にされたんです。ほんのちょっとした事がきっかけで」
「そうですか?でも、なんかそれ以外にありそうな気もしなくはないんです」
ミオがモヤモヤしうーんと考える。
「移動しましょう」
ダリスが立ち上がるとミオの手を引く。ミオが食べつつ慌ててついていく。
「流石に親代わりだった方だと、分かりそうですから」
「あ、はい」
ダリスが頷きミオを連れその場をさる。
「ナガハラ殿?」
呆れ止まったナガハラを見てサイモンが尋ねる。そのナガハラの視界からダリス達が消えると後をこそこそとヒカルとサイモンが追う。
「…あいつら何してるんだ」
「え?」
「はあ。いくぞ」
「えっ、いや、しかし」
「息子達がついているみたいだから平気だ」
「ええどこにっ。どこにですかっ」
踵を返し帰るナガハラの後を大慌てのサイモンが追った。
ー生きる為には仕方ないって。
ダリスが建物と建物の間の暗い路地を見ていた。そこに食べ終えたミオがおりミオが話しかける。
「どうかされましたか?」
「なんとなく懐かしんでおりました。よく」
目の前から石が飛んでくるとダリスが手で受け止めミオが驚くも前を見て痩せこけた茶髪の青年を見る。
「くそっ。なんで」
ダリスが石に書かかれた紋章を見下ろすと青年が背を向け逃げ去る。
「それは?」
「催眠ですね。後を追ってみましょう」
「はい」
ダリスが行き、ミオもまた続く。そして路地をいくつも曲がり壊れた木材で作られた古屋を見つけるとその小屋の前に先ほどの青年がいた。
「嘘だろっ。なんで」
青年がハッとし舌打ちする。
「魔導士か。おいっ」
青年の合図とともに少年少女達が突然姿を見せ各々手にした武器で向かってくる。
「まて」
子供達が止まりミオ、ダリスが後ろを振り向くとミオが目を見開き片目に包帯を巻いた茶髪の女を見る。
「勝手なことするなと何度言えばわかる。後あんた達もさっさと行け」
「ワンさん」
ダリスがミオへと視線を向けミオがワンの傍による。
「ワンさんっ。アオの娘です」
ワンが驚愕しミオを凝視するとさらに驚く。
「ミオ。あんた、生きてたのかっ」
ミオが口をつぐみ頷いていきワンが明るく笑みを浮かべ抱きしめる。
「ミオ。良かったよ。生きてた。ああ、良かったあ」
ワンが涙を流し、ミオもまた流す。
「おばさん。同郷のやつか?」
「ああそうだ。私が暮らしてた隣村の子でね。私が暮らしていた村は薬の仲介先だったんで全員殺されることはなかった。けど」
「ならそいつ薬してんだな」
青年が棒を向ける。
「だったら離れろおばさんっ」
ミオが青年を振り向き、青年が声を上げる。
「危険だ!」
「え…」
「バカ言うんじゃないよ。あれは5年内に発症する」
「…どう言うことですか?」
ミオが戸惑い、ワンが話す。
「禁断症状だ。発作を起こして死んだかと思えば起き上がって襲いかかってね。私の目もその禁断症状が出た奴にやられたのさ。あの時はエルフがいたんで助かったけど、2人死んだ。殺された」
ミオが唖然とし、青年が警戒する。
「とにかく、この子は違う」
「…」
「キム」
「あの、植物がそうなんですか…畑の」
ミオが口を震わせながら絶望しワンが頷く。
「ああ。そして、あんたやあんたが暮らしてた村の人たちのせいじゃない」
「それで、みんな、殺されたんですか…。薬を作って、その作物を食べて暮らせと、役人から」
ミオが涙を落とし、ワンがミオを抱きしめる。
「そいつらのせいだ。みんな死んだのはその役人や国のせいだ。私たちもね。後で知ったのさ。恨んでたけど、薬でやられて死んだのを見てね。他にも
禁断症状は多種なんだ。突然体が紫色になって喉かきむしって死んだり、四肢が腐ってとか。この子らは食べなかったから生きてんだ。だけど、目の前だその連中や親を見た子らでね」
ワンがミオを離しミオのほおを伝う涙を手で拭う。
「私が引き取って育ててんのさ。あと、そこのキムは役人の息子だったんで学校いけててね。魔導が使えるのさ」
「…」
キムが鼻を鳴らし、ワンが話す。
「最初は我儘し放題だったけどさ」
「五月蝿い…。あと、本当に害はないんだな?」
「ないよ。それにこの子の母親は薬師だった。おそらく食べるなと言われたはずだ」
ミオが頷きキムがそれでも警戒する。
「それで今はそこの美人さんの元に下働きでいるのかい?男の格好して」
「…」
「え、と」
ミオが汗を滲ませダリスがはあと息をつき小さく頷く。
「何か他に話す事は?」
ミオがダリスを振り向くとその肩をワンが強く握る。
「ワンさん…」
「ミオならアストレイ国のアルスラン将軍の娘だろ?」
キムがはっとしミオが汗を滲ませる。
「アオ。アオは私の親を助けてくれた。他にもみんなを。けど、まさか聖女だったなんて思いもしなかった」
ワンが息を吐き出し大きく吸う。
「そして、アルスラン将軍の妻であることも。だけど、その将軍の軍の攻撃によって死んだと聞いてるよ。私達にとってアオは頼れる存在だったし恩人でもあったからね」
ワンの手が緩むとミオがワンを見る。
「ミオ。あんたの母親は恩人。父親は仇。仇でもね、仕方がなかったんだよ…。あれだけ危険な薬物を製造した上、生活の糧としてきた村の連中を殺してしまうのは仕方がなかったし、周りのためだったんだろうと思ったよ」
「そ、そんな事、ない」
「いいや、ある。子供でも大人顔負けの力で襲ってきたんだ」
ワンが包帯を外し抉られた傷の残った顔を見せる。
「これは、まだ10際にも満たない子供にやられたんだ。禁断症状が出たのは子供で、その子が2人の大人を噛み殺したんだよ」
ミオが驚愕しワンが包帯を再び巻いて閉じる。
「ここで生きてるのはこうやって生きるしかないから。あと、私たちは学んでないからね。キムがかろうじて学んでたから助かってんだよ」
「かろうじてと言うなかろうじてと」
「でも暴力振るっての盗みは流石によくないね」
「ふるってない。眠らせてるだけだ。その間に盗んでんだよ」
「それを悪いと言ってるんだ。まったく。何度言えば気が済むんだ」
「ワン」
「ああ。ごめんよ」
ワンがバッグからパンを5個出すと子供達が受け取りお互いに分けていく。
「ワンさん。あの…」
「なんだい?」
「キメラ、ご存知ですか?」
「……」
「キメラ?」
キムが眉を寄せ、ミオが苦しく喉を動かす。
「あの、ワンさん…」
影が落ち奏が着地したと同時にワンが鎖で縛られていた。
「おばさん!」
「おばさんに何すんだババア!」
「お姉さんと呼べお姉さんとお!」
奏が怒鳴り、ワンが力のない目をする。
「ストーカーとは本当にたちが悪い」
「護衛ですけどおおお」
「ワンさんいつからですか」
ミオが顔を歪めワンが息を吐く。
「いつから」
「イーロンが落ちる前。半年前だね。留守にしてたのはそのせいだよ。私や他の連中も人喰いにされた」
「は?」
ワンがキムを振り向く。
「人喰いって…」
「この姿でいれるのは、アオのおかげだ。アオが変わった私を見つけて欲を抑えてくれた。薬の調合も教えてくれてね。それで私と知人たちは食べずに過ごせるようになった。それまでイーロンに捕まった連中や奴隷。異界人とかも食べていたんだ。腹の底から上がってくるどうしようもない飢えに我を何度も忘れた。ミオ。あんたには仲介場だったから良かったと言ったが、アストレイが来る前。多分、ミオたちの村が襲われたその血の匂いか。私も他も皆んな逃げたのさ。人喰いじゃない残った連中はみんな死んだ。私も逃げ延びた後彷徨ってた子供らを連れながらここにきた。その間も薬を飲んでなんとか凌いだけど……」
「盗賊たちは…」
キムが引き攣った笑みを受かべる。
「盗賊たち。あいつら、以前襲ってきたけど…」
「…お察しの通りさ」
「あなた以外にもいるよね?」
「いる。私もそこからおこぼれもらってんだ」
「ならそのパンは?」
「盗賊にやられていた連中から貰っているんだよ。子供らがいるからそのための食事が欲しいって言ってね。あと、その連中は私たちの正体は知らない」
「なら行ってみるか。それとさあ。そのキムって子は首都で暮らしてたでしょ?腕時計してるからその意味をわかっている。それもいいとこの坊ちゃんだ。そして」
「キムはまだ子供だ。それに、1人のせいじゃない。悪いのは同じ考えを持った連中だよ」
キムが僅かに顔を歪め子供達が困惑する。
「おばさん…」
「おばさんは連れてくから。後君らは保護」
「えええ!」
「無理。私たち保護されて嫌な目にあったからヤダ」
「そうだ!」
「その嫌なことする連中がいないところに連れていくから。異界人が運営するとこだよ」
「…」
「まあ、異界人なら」
「ん?」
「前、異界人でいい人たちがいるって聞いたの」
「ああ。飯も食べられるって」
「んー、一緒かは分からないけど私が連れてくところもそこ」
奏が壁に転移術の式を簡易に書くと扉を開く。
「1人目どうぞー。ご自由に」
周りがしんとし、キムがむすっとする。
「だったらおばさんはなさよ」
「話聞いてた?だめ」
「悪いね。行ってくれ」
「でも…」
キムや子供達が振り向きワンが笑む。
「ちゃんとした大人にね。頼んだよ」
「なん、で、頼むんだよ…」
「いきな」
「はいいったいった」
キムが鼻を鳴らし行くぞと子供達を連れる。そして金髪金眼の赤子もまた出てくると奏が話す。
「その子は?」
「ああ。埋められてたんだよ」
「その子はキムが拾ってきたんだ」
「ああ。ここ海が近いだろ?砂場から聞こえてきたんで掘ったら出てきた。バカな親どももいるもんだ」
「そうだね」
「渡さないからな」
「はいはい、なら一緒にどうぞ」
「奏さーん。突然なんですか」
「ごめんごめん。はい」
開かれた門の先から柚の声が響くとキムたちが中へと入る。そして柚と尊。避難してきた未開の地にいたものたちが巨大な樹木の下。蘭丸たちの村におりステラが驚くキム達を見る。
「この子らも孤児。話はこの子達から聞いて。こっちは急ぎのようあるから」
奏が顔を出し話すと柚がうんと頷く。
「げ、学園の奴らかよお前ら」
「最近入ったばかりだ。まあ俺の場合は繋がり欲しさに入ったのもあるからな」
「繋がり?」
赤子が泣くと柚が即座に向かう。
「赤ちゃんはミルクかなー。オムツかなあ。ほらほらあ」
柚ががらがらおもちゃを出し鳴らすと赤子がじいとおもちゃを見る。
「キム坊ちゃんっ、あ…」
キムがどきりとし年配の女がそう思わず声を出す。
「ああ、タチヤさんが愚痴ってた坊ちゃんか」
「……なら、事実だ」
「なんで…、生きてたんですか」
「タチヤさん」
「だって…」
タチヤが怒りを押し殺し、キムがやや俯く。
「キムと何かあった?」
「キム優しいよ」
「やっぱ俺向こう戻る」
「もう門は閉じたぞ」
「ならまた開いてくれ」
「話聞いてからな」
「…」
「タチヤさんはよかったら赤ちゃんのことお願いしますね。娘さんおっぱいでましたよね?」
「ええ…」
「ならお願いします。かわいいねえ」柚がキムから赤子を取りタチヤに渡しタチヤが受け取りその場を離れる。
「なら、腹減ってるやつ」
「へってる!」
「ご飯あるの?」
「お皿とか出してくれたらあるよ。お手伝いしてみんなで食べよう」
子供達が頷き柚の後に続く。
「愚痴のタチヤさんから話聞いてる。親は?」
「はぐれた。ただ、親父は死んだと思う。大臣してたからな」
「逃げてるぞ」
「…そうか」
「ああ。あと、話いいか?お前知ってる連中多いみたいだからな。こっちだ」
複数がキムを睨み見ておりキムが俯きながら頷き尊の後に続いた。
ーところで…。
「奏さん。なんでいるんですか?」
「いや、だから、うん、護衛」
「護衛ならば知っているはずでしょう。やはり、タチの悪いストーカーではありませんか?」
「うっさい!」
「ミオ」
ミオがワンを振り向きワンが話す。
「アオは?」
「…亡くなりました」
「そうかい。なら、あんたはアオの年を超えるまでいきな。そして、父親がいるんだ。目一杯見せて抱かせな。アオの分まで可愛がれって言ってね」
ミオが口を振るわせる。
「元気で。達者でね」
ミオが頷きワンが笑んで見せた。
「瞳の色も金ですねー」
母乳を与える女がじいと顔を見る赤子を見て話す。そして、女の子供をタチヤが抱いていたが柚がその場にくる。
「タチヤさん。さっきのキムさん」
「ああ」
「前と見違えるほど変わってるみたいですよ」
「…どうだかねえ」
「突然の解雇とか、ゴミ食べさせたりとかで?」
「そうだ」
「流石にそれはもうしませんし私たちがさせませんし本人も相当反省してるみたいです。子供達も懐いてますよ」
タチヤが複雑そうにし、柚が話す。
「まあでも、今までわがままし放題でしたから皆さんの信頼得るには本人次第ですもんね」
「はあ。ま、そうだね。ていうかあいつも私たちと一緒にいるのかい?やめとくれよ」
「お母さん…」
「決めるのは兄ですから」
「…分かったよ」
柚が頷き赤子が胸から離れ欠伸をすると柚が可愛いねえとうとうとする赤子のそばにしゃがみ眠るまでじっと見た。
テント内ー。
ー10歳。
キムが気まずくし尊が話す。
「なら今17かー。柚と一緒だな。さっきの黒髪の女の子は俺の妹だ」
「ああ…」
「あの赤ちゃんはどこで?」
「砂浜に埋められてた。1月前に魚取りに行った時に泣き声聞こえて。そうしたら埋められてたんだ」
「訳ありだな。その時の格好は?」
「裸だった」
「なら、金眼金髪で探すしかないか」
「なあ。お前らなんでイーロンの奴らを保護してんだ?」
「元々俺たち兄弟は叔父夫婦に売られてそのイーロンにきた。きてすぐに戦争に巻き込まれて逃げた先の孤児院。そこがまた人身売買を含めた悪徳孤児院だったわけ。そこは俺たち2人以外全員戦争から逃れてきたイーロンの子供だったわけだ。そして、その孤児院から全員で逃げ出した。逃げ出した後もまたその孤児院運営者の手下達から散々追いかけられてな。追いかけられつつイーロンから逃げた人たちを見過ごせずに一緒に逃げた。その逃亡中に未開の地で隠れ里を作った。しばらくの仮宿で。だが、その仮宿もそろそろ引き払おうとした矢先に保護した連中の中で俺たち兄弟や、他の保護した連中を襲ってきたのがいた。そいつらは利用した奴らの手によって殺され死んだ。そして。流石にもう仮宿にも住めなくなったから、ここをまた暫くの仮宿として使っていいことになったから、ありがたく使ってるわけだ」
「話長い割に言うが。なんでイーロンのやつらを限定して保護してんだ」
「偶然だし、イーロン国の難民達。特に大人や年寄りを保護しようってとこは少ないんだ。この近くだとアストレイくらいだ。理由は薬物中毒者やキメラ。あとは、保護したのに襲ってきた連中がいたからだ。実際に俺たちが保護した人の中には裏切った奴がいたせいでイーロン国出身者全員追い出されたそうだからな」
「…それで、お前らは逃亡しながらなんで」
「放っておかなかったし、俺たちは生きるための力がある。知恵がある。現にお前も見た通りおれが保護した人たちはみんな飢えていない。健康そのものだ。そして、嫌われ者であり。恨むべき存在のお前を襲うことはなかった。それは信頼されているからだ」
「自分でよく言うな」
「それだけ自信があるからな。あと、裏切った人たちについて俺たちもしないでくれよとは思ったがやってくれた人達だ」
「なら、追い出せば」
「大怪我を負った中での保護だし、追い出せば統率が取れなくなる。それだけで信頼を失う。みんな不安がってたんだ。1人が裏切ればみんなが捨てられるとな。そんな中で追放はできない」
「…」
「そういうことでか、ここまではなんとかきた。あとは、仕事や衣食住の確保まできた俺がやってきた保護に関する責任。代表としての役目は終わる」
「ああ」
「ああ。で、お前今まで何してきたんだ?親父もだ」
「…贅沢してたし、貧乏人を差別してた。暴行もした。あと。解雇も」
「ああ、まあ。愚痴のタチヤさんから聞いてはいたからな。大臣一家の強欲まみれの話だ」
「そうだな…」
「離れて心変わりすることがあったか」
「…心変わりとかは知らねえ。ただ、俺がしてきたことは全部恥ずかしいことだった。やってはいけないことだったとは学んだ。逃げながら、路地裏生活しながら。自分も言えば同じ家なし子になってからは…特にか」
尊が頷く。
「兄弟は?」
「ああ。弟と妹がいた。ただ、妹は出来損ないとして、俺たちはいじめていた。戦争が起こってからはわからない」
「分かった」
「お兄ちゃん」
柚がテントの外から声をかける。
「現場実証してだって」
「分かった。なら、代表で行くぞ」
「…分かった」
尊が頷きキムを連れ外へと出る。そしてまた元の路地へとくると騎士達がその場におりキムがビクッとする。
「尊殿ですか?」
「はい。人数とかですよね?」
騎士が頷き尊が羽ペンを出し紙に書いていく。
「…」
「これで終わりです」
「はい」
騎士達が離れていき、キムがどぎまぎとする。
「何を書いたんだ」
「人数と大体の年。後は俺の名前。せっかくだから表出るぞ」
「は?なんで?」
「服買いに。ここ古着屋があるからな。お前も手伝え」
尊が先に行くとキムが渋々と後を追った。
ーワンさん。
街の中をミオとダリスが歩いていたがミオがふうと息をつく。
「よかったですね。子供達に被害が出る前でしたから」
「…はい。あと、私もまだ知らないことばかりです」
ミオが表情を曇らせる。その後ろ姿を尊達が見ており尊がんんと女装するダリスを見る。
「あの人、なんかどっかで見たなあ」
「お、い。行くなら」
「分かった。後怖がるなよ」
「怖がってない」
尊がやれやれとし古着屋まで向かう。そして古着屋へくる。
「すいませーん」
「はあい」
店主が奥から出てくると尊の元へとくる。
「服買いたいですけどいいですか?赤ん坊のもあればいいんですが」
「ええ、はい。ご用意しますね」
「はい。おい、お前も」
尊が後ろを振り向いた途端キムの姿がなかった。
ー前財布盗んだおっさん、あそこの店主だったのかよ…。
キムが気まずく路地裏を歩く。そしてはあとため息をすると壁に頭をつける。
ー悪いことはするんじゃない。
「…ワンおばさんの言う通りだったな。はあ、どうするか。あそこにいるのもいづらい」
キムが顔を覆いその場にしゃがむ。
「でも、チビ達向こうだし…。はああ」
尊が後ろにおり靴の先でキムをこづくとキムがビクッと震えすぐに立ち上がり身を引く。
「勝手にいなくなるな」
「お、俺の」
「最近財布盗まれたばかりだから買ってもらえて嬉しいって言ってたぞ」
キムがぎくりとし尊がやれやれとするとキムの手を掴み引く。
「ど、どどこ行くんだよ!」
「さっきの店だ店」
「い、う」
尊が進み表に出ると先ほどの店へと入る。そこに男装した女がおり女が尊と目を合わせ僅かに見開く。
「なんであんたがそんな格好してここいるんだ?」
「ゆ、許してくれっ。昔のことだろう!うわっ」
先ほどの店主が蹴り飛ばされ現れると変装したルクレイシアが冷ややかな視線を向け現れる。
「ひ、ひいっ」
店主が尊を見つけすぐに掴む。
「た、助けてくださいっ。あの女が、あっ。てめえ俺の財布を盗んだ小僧!」
ルクレイシアが店主を掴み尊から離すと乱暴に壁に叩きつける。
「コソ泥の甘こそ何を言う。私の部下達の遺品をどこにやった」
「…コソ泥」
「待て待て待て」
尊が店主の顔を掴む。
「はい失礼」
そして片目を赤くさせると店主が固まる。
「質問どうぞ」
ぼうとする店主をルクレイシアへと向けるとルクレイシアが店主を見る。
「私の部下の遺品は?所持品はどこにやった」
「はい…。腕輪と指輪は売りました…。服もありましたのでもうありません」
ルクレイシアの手に力が籠るも尊がその腕を握る。
「まだ続く」
「白い石は私の金庫にあります。変わった機械もです」
店主がはっとしビクッとする。
「な、ない。その、も、もう、どうしたか忘れて…」
ルクレイシアの拳が店主の腹に食い込む。キムがビクッと震え汗を滲ませながら崩れた店主を見る。
「こ、わ」
「ありがとう。あなたはまだそこにいて」
「あ、ええ…」
ルクレイシアが奥へと進むと尊が話す。
「なんであんな怖い人のとこいるんだ?」
「こ、わくはないわよ。彼女は」
「なあ、おい」
キムが怯えながら尊の腕を掴む。
「さっきのなんだ?」
「俺の特殊能力。渡った異界人にしか与えられないギフトって奴だ」
「ギフト?」
「あまり知られてないがそう言ったのがある。あと、服かあ」
尊が空間から服を出すとやれやれとしながらおく。
「あるかもしれないから話しておいてくれ。キム。お前いくら盗んだ?」
「……300」
尊が財布を出し店主の手元に置く。
「あとで、働いて返せよ。覚えておけ」
「…分かった」
「ああ。そこの日時計が八のところに来たら憲兵を呼ぶ」
「…何も、しないわけ」
カテリーナが苦しく告げると尊が頭を振る。
「あれはそっちのせいじゃない。それに、戻るものも戻っている。帰ってきている」
カテリーナが口をつぐみ、尊が告げる。
「その体ならその人の分まで生きろ。そして、わがままは通用できない時と場合がある。あと、あんたは過去にとても辛い思いをしているなら、分かるはずだ。痛みや失う苦しみが」
カテリーナが俯き、尊がキムを連れ店を出る。
ーあった。
ルクレイシアが白い模様が彫られた石を出す。他に腕時計。懐中時計を取り出し手にすると破壊した金庫から離れ店の中へと戻る。
「さっきの子達は?」
「いったわ…。八の数字のところに影が刺したら憲兵を呼ぶって。あと、多分ここで購入したと思う。服、あるかもしれないからって置いて行ったの」
「はあ。とんだお人好しな子ね」
ルクレイシアが置いて行った服を見ていき一つ、二つと取る。
「行きましょう」
「ええ」
「こ、この、よ、くも、俺の、ものを」
店主が腹を押さえながらふらつきルクレイシアの元へとくる。
「俺のもの?そう、あなたのもの?」
「そ、そう」
店主の頭、指、足に万力が現れ固定されるとネジが締められていく。店主が悲鳴をあげ痙攣しルクレイシアが殺気立ち睨みつけた。
「少し高くついたが仕方ないか」
尊がやれやれと店から離れた別の服屋で服を買出てくる。そしてキムがとぼとぼとその後に来る。
「あの人店主殺しそうだったな」
「え?」
「殺しそうだった。何もなければいいがな」
憲兵隊達が走り洋服屋へと入ると殺されている。死んでいると叫んでいた。
「…」
「さて、とりあえず休憩するぞ」
「えっ、え!?」
尊がキムの肩をすぐさまだか引き寄せると小声で話す。
「俺たちが行けば長く拘束されるし、お前。盗んだだろ?真っ先に犯人にされるぞ。それでもいいか?」
「い、いやだ」
尊が離れキムの背を叩く。
「なら向こうでなんか食うぞ」
「お、う」
「お前は俺に対して敬語使え」
「なんで」
「それだけで周りの印象も変わる。行くぞ」
「…」
「はいだはい」
キムが渋々とはいと返事を返すもそこにサイモンが素早く姿を見せぜえぜえと息を弾ませる。
「驚いた。どうしたんですか突然」
「あ、あの、ダリス、様。見ませんでした?ミオ様もです」
「ミオ?」
サイモンがキムを振り向きキムが話す。
「ミオって葵の娘のか?」
「そうっ、そうですっ」
「ああ、なら。えーと、ミオって子だけど路地裏にいた。あと、男の格好してたぞ」
「えっ」
「それから結構綺麗な女の人といたな。名前は知らない」
「女性の方と?」
「ああ。あと、多分もういないかもだけど、向こう」
「ありがとうございます。行ってみます」
キムが頷きサイモンが急ぎ走る。
「変装して出歩いてるなら探すの手間いるな」
「そうか?」
「そうですかだ。ならこっちだ」
尊が進みキムが後を追った。




