学園都市オラシオン5
ーつい、泣いてしまった上にそのまま寝ちゃった…。
ミオが眠る瑠奈の隣で目を覚ますと体を起こし少しばかり痛む目を擦る。そして静かにベッドから降り水で顔を洗いはあと息を吐く。
『具合はいかがですか?』
ミオが顔をあげラファを振り向く。
「夜は出禁」
『許しはもらってます』
ラファがややしょんぼりとする。
「なら、ええ」
『はい…』
ミオが頷きタオルで顔を拭く。
『目が腫れています』
「…いっぱい、泣いたから」
ミオがはあとタオルに息を吹きかけ顔を上げる。
「誰が運んでくれたの?」
『ぴこらげです。あちらで寝ております』
ソファの上でぴこらげが気持ちよく眠っていた。
「なら、明日お礼言わないと」
『はい』
「ええ」
ミオが顔をあげラファが瞬時に瑠奈を振り向き目を赤くさせ間者の動きを止めるもミオがラファの首を掴むとラファが抵抗する。
「あなた、まさかそうやって」
『邪魔をするな』
「する。瑠奈!」
瑠奈が目を覚まし間者の顔面を殴ると汗を滲まさせながら頭元に置いていた棒を取り気絶した間者に向ける。ミオがはあと息を吐くも僅かな殺気を受けると赤い目を向けるラファと目があう。だが、ラファの頭に回転する棒が命中するとラファがすぐに瑠奈を見る。
「しない」
『…』
「やめて」
ラファが口をつぐみふいと顔を背ける。
「うーーんん。なんじゃあ」
ぴこらげが起き倒れている間者を見て震えるとすぐさまミオに飛び抱きつく。
「だ、だれじゃ。ぴこ」
「…ぴこちゃん」
「ラファ。今夜を最後に二度としないで」
『けれど…』
「これは命令じゃなくてお願い」
ラファがぐっと口ごもり瑠奈が悲しくラファを見る。
「私は見たくないし消えてほしくないの。お願い」
『…はい』
瑠奈が頷き、ミオがそろそろと間者へと近づく。それはミオの手を掴みナイフを取り首に当てるもミオが瞬時に投げ床に叩きつけた。瑠奈がおーと手を叩き、ラファが僅かに驚きまじまじとミオを見る。
「兄直伝?」
「うん。あとは、ダリスさん」
「オッケー」
瑠奈が間者の覆面を剥がし褐色系の男の素顔を出す。男がなんとか起きあがろうとするもミオが押さえつけていたので動けずにいた。
「さあて。あなたは運がいい。ラファの力で奈落に落とされずに済んだから」
「う…」
『今すぐにでも落としたいのですが』
「やめて。さて。上は誰かしら」
瑠奈が男の額に指をつけつんとつつく。すると男の見たものが瑠奈の頭へと流れていく。
「ダリスさん?」
「え?」
「囲まれて連れて行かれてるわね。あなたは途中で抜けた」
男が口を開けるも瑠奈が男の口に棒を突っ込む。
「その手にはのりませーん。やっぱりあのパーティね」
扉が開きアンナが急ぎ中へと入るとラファがむすうとしながらアンナをジーと見て行きアンナが汗を滲ませ頭を下げる。
「も、申しわけありません…」
「おわり」
瑠奈が棒を取ると男が声を上げる。
「この魔女め!!」
「は?」
『今なんと?』
アンナが目を光らせ、ラファもまた光らせると男がその殺気に体を硬直させる。
「はいストップ。オラクルって調べて」
「それは、キメラを作ったところ」
「そらもだけど各地の村にいっては奇跡の未技を披露してるみたい」
「奇跡?」
「そう。これも娘が奇跡で蘇ったから言うこと聞いてるわけ」
「そうだっ」
ミオが男を振り向き男が睨みつける。
「病死した娘を蘇らせてくれた。なら」
『奇跡によるもので死者は蘇りません』
男がラファを睨みつける。
「あと、私、魔女か。退治じゃないけど魔女を捕まえて届けろと命じられたみたい。パーティーの中にいた大司教ね。細身の年配の男」
「ハーン大司教っ」
瑠奈達が息を切らすサイモンを見る。そしてサイモンと共にぴこらげがミオの元へと戻る。
「ぴこちゃん。ご苦労様」
「ぴこ」
「どこに行ったかと思ったら呼びに行ってたのね」
「ええ。ダリスさんが連れて行かれたなら探してると思ったから」
「なかなか早くて捕まえきれなかったから痺れさせたじょ」
「…」
「だから辛そうにしてんのね」
ミオがため息をしサイモンがふらつき瑠奈達の元へとくる。
「椅子座ります?」
「いえ…。あと、そうなると、早いです。あの方の上も分かります」
「じゃあ、任せていいですか?」
「はい」
男を指差した瑠奈が頷く。そしてサイモンが呼んだ警備兵達が中へと入り男を連れていく。
「あのダリスさんがそんな簡単に連れ去られるかなあ」
「わざとだと思う」
瑠奈が頷きミオが息をつき心配そうに見上げるぴこらげを抱きしめる。
ーこんなものを作っているとはな。
ダリスが目の前の戦闘機とミサイルを見下ろす。そのそばに見張りの兵士たちが囲んでおり1人の男がダリスのそばへとくる。
「枢機卿はあちらの世界に行かれたからご存知でしょう」
「…」
「あなたはこれを飛ばせますか?」
ダリスが僅かに息をつく。
「いいえ。このようなもの乗ることすらできません」
「そうですか…」
「私をこちらへ連れてきたのは何故ですか?ハーン司教」
「いえ。自慢したかったものでしてね」
「なら、見なかったことにいたしますので戻ってもよろしいですか?」
「それは難しい話ですな」
ハーンがダリスを振り向く。
「枢機卿。あなたの全ての権限を破棄していただけませんかな?そうしたら」
「破棄したところで扱えるわけないでしょう」
「そうですか。なら、アルスラン将軍の娘がどうなっても良いですか?あなたの婚約者が」
ハーンが水晶を出す。その水晶に目隠しされ縛られたミオがいた。ダリスがじっと見ていき、ハーンが話す。
「どうされます?」
「…」
ダリスが軽く吹き出しくくっと笑うと大笑いしていく。周りがダリスを振り向きダリスがおかしく話す。
「ミオ殿が簡単に捕まるわけがない。冗談にも程があるが」
ダリスが冷ややかな視線を向けハーンの首を掴み片手で軽々と上へと上げる。ハーンが苦しく声を上げ周りがダリスへと銃を向ける。
「胸糞悪い。そして誰にものを言っている。わざわざ抵抗せずについてきた私に対してなんだ?」
「そのままだと死にますので降ろしていただけないでしょうか?」
ダリスがあぶくを吐くハーンを締めながら横を向く。そこにリリーと青ざめるマリアンヌが震えていた。
「お目にかかっているのならご存じのはず。ご友人だと」
ダリスがハーンを離すとハーンがそのまま白目を剥き痙攣していく。
ー怖い。怖い…。
マリアンヌのそばにいるうごく人形がもがもがと文字のついた包帯に巻かれ蠢いておりマリアンヌがその人形を抱きしめると視線を戦闘機へと向けるがリリーに背中を小突かれるとびくっと震える。
ー怖いよ。
マリアンヌが涙を滲ませ萎縮する。ダリスが小さく息をついた。
マリアンヌが鉄格子のある扉の部屋に入れられると椅子やベッドを見てとぼとぼと移動しベッドに座る。その腕には人形が抱かれていたがまだ包帯でぐるぐる巻きにされ動けずにいた。
ージュジュ…。どうしよう。
マリアンヌが項垂れぐすっと鼻を鳴らす。
「こ、わ、い」
マリアンヌが声を漏らす。
ーマリー。
マリアンヌが顔をあげ辺りを見渡す。
「ミ、オ?ー」
ーいた。見つけた。
ミオがその目を開け後ろにいたキヨが話す。
「どうだ?」
「いました」
「ああ。なら」
キヨが楽しく目の前の古くあちらこちら瓦礫となっている大聖堂を扇子で示す。その大聖堂は結界が張られ周囲の目から隠されていた。そしてキヨ達の周りにサイモン、クリス、エリス他教会の騎士達がいた。その中にダンガンもおりダンガンがうずうずとしながら拳を握る。
「突入だ」
キヨが扇子を後ろへと引く。そして楓が光る。キヨがセンスを振るった途端大風が吹き荒れ竜巻となり大聖堂を破壊した。
どおんと音が響き土煙が立つ。それを崖から瑠奈、透華、アンナ、望、ヒカルとがみており透華が驚き見ていく。
「派手に壊されましたね」
「ああ」
「キヨさんだから」
「そうそう。ヒカルさん。そちらに聖獣が来られませんでしたか?」
「ああ、兄のとこに来た」
ヒカルがアンナに話し瑠奈が尋ねる。
「じゃあ、お兄さんが契約されたんですか?」
「そう。姉さんのこともあるからだろうな。まだ落ち着いたないから」
「そうなんですね」
「派手にやったなー」
その場に楽しく玄海がくると瑠奈が話す。
「なんか久しぶり」
「あはは。俺もそう思う。望ちゃんとは都度都度会ってたけどな」
「はい」
「ああ。でー、ところでここはなんで集まってんの?俺望ちゃんがこっちいるって聞いたから来たんだよな」
「待機組です」
「ええ。何かあれば1人ずついく形にしております」
「えー、勢揃いで行けばすぐ終わんのに」
「あまり手の内見せたくないんですよ」
「あー、なるほど」
玄海が納得し瑠奈が話す。
「横塚さんは?」
「ああ」
玄海が顎に手をやりきらりと格好つける。
「大人の時間過ごしておねんね中だ」
「…」
「まったく。アホなことを姫様に申さないでください」
「アホなことかな…」
瑠奈が呆れ告げ、透華が耳を澄ませる。
「あちらの世界の銃など使ってきてますね。音が聞こえます」
「だな」
『玄海もいるか』
小さな竜巻がその場にくる。
「苦戦中ですか?」
『ああ。薬物でバーサーカー化どこかの村のもの達が多数いる。透華がいい』
「はい」
透華が拳を当て竜巻が透華を包み運ぶ。
「ちなみにこれがバーサーカーになるお薬だよん」
玄海が試験管の緑の薬液を見せる。
「なんで持ってるんですか?」
「そりゃ望ちゃんの依頼」
「はい。話を聞いて手に入れられないかと横塚さんに話したんだ」
瑠奈がなるほどと頷き玄海が棘ネズミを出し飲ませる。するとネズミが元の二倍もの大きさに変わる。玄海がネズミを地面に放り投げネズミが今度は玄海が放った塊肉に向かうと手で乱暴に引きちぎる。
「まあ…」
「こうなると見境なし。そして、飯なのに食わねえんだ」
塊肉を放り次のターゲットにアンナを選ぶとアンナが結界で囲みネズミが結界の中音をたて暴れ狂う。
「死ぬか薬が切れるまで暴れる。といっても切れる前に全身使って攻撃するからその前にほぼ死ぬな」
ネズミがじょじょに血だらけになる。
「嫌な薬ですね」
「その特効薬を作れたらと思って頼んだんだ」
「といっても、すぐすぐは難しい。一番早いのは切れるまで拘束し続ける事だ」
瑠奈が頷き、アンナが話す。
「そういえば、透華は気絶させたと話されてましたよね?」
「あ、確かに」
「聖獣の王の加護と聞いた」
瑠奈達がなるほどと頷き玄海が話す。
「あの子結構やばいもんな。あと、俺たちはここでこのまま見物だな」
瑠奈が頷き、アンナがそうですねとやや残念そうに話した。
透華がその拳を光らせながらバーサーカー化した男女を次々と殴り飛ばし倒していく。そして拳と拳を合わせ強靭な光を出すと大勢できたバーサーカー達を連打し遠くに飛ばし撃退する。サイモンが冷や汗を流し、エリスが矢の数を確認する。
「あの拳だけで相当な力を含んでますね」
「はい。ただ、今は助かります」
サイモンが頷き透華がその光を消すとギロリと隠れている教会のもの達を睨む。
ー教会の。
透華が再び拳を光らせるも。
「そこまでだそこまで」
その手を掴まれると透華がすぐにダンガンを振り向く。ダンガンが透華の肩を叩く。
「やりすぎはダメだからな。あと、強いな」
「え」
「助かった」
透華が鼓動をうちダンガンに過去のダンガンを重ねる。ダンガンが離れ隠れている者たちを引っ張り出していく。透華が徐々に顔を赤らめ目を輝かせる。
「私の王子様」
「え」
通り過ぎようとしたサイモンが思わず止まり連行させるダンガンを見て思わず首を傾げた。
ー来たわね。
リリーがククリナイフを鞘にしまい通路を進む。そして、銃を持った兵士たちが慌ただしく走る。その音を囚われたマリアンヌが聴き恐々としていく。別室ではダリスが顔や体に青痣、火傷を帯びた状態で縛られていた。そこに、首に包帯を巻いたハーンが鞭を手にし慌ただしい音を聞いていた。
「ハーン司教っ。枢機卿の部下他多数が攻めてきました」
「もうきたか」
「優秀な者たちが私の周りには多いですから。ハーン司教と比べて」
ハーンがダリスの頭に鞭を叩きつける。兵士が震えハーンが怒りながら頭から血を流すダリスを睨む。ダリスが視線を向け軽く息を吐く。
「クソ生意気な。だいたいなぜお前が枢機卿だと?ふざけているっ」
「文句でしたら各国の王たちや教皇に話せばいいではありませんか」
「黙れ」
ハーンがダリスの体に鞭を入れ、今度はその頬を拳で殴るとぜえぜえと息を荒げる。ダリスが視線をハーンへと再び向けハーンがぞっとする。
ー悲鳴も何もだしもしないっ。
「哀れですね」
「なに」
「哀れと申したんです。こうでもしないと何も出来ない。私を縛らなければまた首を絞められるから」
ダリスの肩に鞭が打たれるとハーンがダリスの首を鞭で巻き縛る。ダリスが奥歯を噛み締めハーンが顔を真っ赤にする。
「死ねダリスっ」
ダリスが汗を浮かばせさらに奥歯を噛み締める。だが突如鞭が緩むと咳き込み息を切らす。そして顔をあげ目を見開く。そこに今にも泣き出しそうな顔をさせたミオが立っておりミオの足元にはぴこらげがまとわりつき痺れ動けないハーンがいた。
「声くらい、出してください。助けを求めてもいいじゃないですか」
「…なぜ、ここにいるんですか。ここにいなくてもいいのに」
「ダリスさん。私のことが嫌いですか?」
ダリスが口を閉ざす。
「嫌いですか?」
「……困ったことを、言われますね」
「困る必要ないです」
ミオが赤くなった鼻をずっと鳴らす。
「いいえでいいんです」
ダリスが僅かに思考を停止するも軽く吹き出し小さくだがおかしく笑う。ミオがダリスの縄を解きダリスが小さく笑む。
「治療は外でも平気ですか?」
「はい…。ミオ殿。伝えられることができたならキヨ殿に伝えてほしい。戦闘機。F35があると。ここに」
「え」
「あちらから、部品を寄せてこちらで組み立てたようです。うまく起動するかわかりませんし他の戦闘機。もしくは危険な乗り物がまだ隠されているからもしれないです」
「わかりましたけど、何をしたいのですか…」
ミオが縄を解きダリスに手を貸し、ダリスがその手を取り立ち上がる。
「1人でこられたのですか?」
「途中まで。あちらの世界の武器を多く使われていますし、ダリスさんの部下を語る方がいるそうでキヨさんたちが選別して人がいないそうです」
「なるほど…。まあ確かに」
ダリスがハーンを見下ろす。
「真似事は得意と知ってますから。ちなみに、私のことをミオ殿に1人に任せたのは?」
「えと、私だけでも十分とのことでしたから。あとは、魔人」
ダリスが頷き、ミオが話す。
「キヨさんが避けたからと思いますけど、私には感じます。私を恨んだ方がいると」
「それは当たりです」
ーあとは、友人を攫ったこと。人質にとったこともですが話さない方が良さそうですね。
ダリスがふと自分の傷口に触れたが止まっているのを見てミオを見る。
「なら、行きましょう」
「ええ。ああでもこれも連れていけますか?」
ダリスがハーンを指差すとミオが戸惑いながらも頷きぴこらげにお願いしぴこらげが痺れ動けないハーンを持ち上げる。ハーンが意識のみありミオとダリスを力を振り絞り見る。
「さて、腐った根城が壊れるところを一緒に見ていきましょうか。ハーン司教」
ハーンが体を動かそうとするが動かずぴこらげに持ち上げられミオ、ダリスと共に部屋を出た。
エリスが物陰に隠れ、クラスもまた隠れると荒れた息を整える。その後ろにリリーがおりリリーが自身魔人の腕をボウガンの形に変えその手に矢を握り身構えていた。
「あのような事が出来るとは」
「はい。ただ、伸び縮みするだけではなかったみたいですね」
リリーが矢に力を込めボウガンにセットし狙いを定める。そして手を離し矢を飛ばす。その矢はエリスの近くにささるとエリスがすぐさま飛びよける。そして矢が広範囲に棘を出し壁や天井を突き刺す。エリスが避けてすぐにリリーに向かい矢を射ると魔人の腕が円盤の盾となり矢を防ぐ。
ー厄介ね。
エリスが若葉を出し口に当て吹き鳴らす。
「仲間を呼んでも無駄」
「仲間ではありません」
エリスの周りに風が吹き荒れる。
「あなたも知っているでしょう?私は森の民」
ごっと風が室内で巻きあがる。リリーが思わず両腕を前に出すも体が浮かぶ。
「踊りなさい。シルフィ」
リリーの体が右往左往すると壁、天井床へと次々と体を強打させる。リリーが苦痛に顔を歪め最後に床に当てられると咳き込み苦痛の声を上げる。
「リリー。これ以上、間違ったことをしては」
「だ、まれ」
エリスが息をつき、リリーがエリスを睨みつける。
「綺麗ごとはごめんよっ」
「なら」
天井が破壊され黒い影がリリーの前に立つ。エリスが汗を滲ませ赤い目をさせた魔人がエリスを睨みつける。
「邪魔をしないで!」
リリーが魔人の腕を掴むも視界にあるものが入る。それを見て横を向くとダリスとハーンを連れたミオが立っていた。
「ミオ…」
エリスがはっとし魔人がミオを見る。
「私を恨む事があなたが生きる事なら」
リリーが鼓動を強く跳ねさせミオが苦悶の表情を浮かべる。
「恨んでいい。でも、私の大切な人達を巻き込まないで」
「…恨むからこそ、奪いたいのよ」
エリスがリリーへと矢を構え、リリーが声を上げる。
「あの時あなたと会わなければ私はこうはならなかった!仲間も仕事も友人も家族何もかも失った!私の居場所を奪ったのはっ」
リリーの足に矢が当たるとリリーがエリスを睨みつけるが顔を歪めその場に崩れ倒れる。
「痺れ薬です」
魔人がエリスを睨みつけ攻撃体制に入る。
「兄さんそこまで」
魔人が止まりミオが上の天井の鉄骨に座るトマを見上げる。
「リリー連れて引き上げるぞ」
「トマ!」
トマがふいと顔を背けるとミオがむうとする。
「こっちをみなさいトマ!!」
「あー、うるせえっ」
「うるせえじゃない!生きてるって分かって…」
ミオが涙を落とすとトマが気まずくなる。
「よ、よか、った、とおも、ったのに、何してるのお」
「復讐」
「無駄」
「無駄じゃねえ!だいたいお前もなんで恨む相手のところにいるんだ!」
ミオが涙を拭い、トマが苛立つ。
「俺の家族もお前の母ちゃんもじいちゃんばあちゃんチビたちみんなも殺した奴らなのに!」
ミオがずっと鼻を吸いトマを見上げる。
「殺したのは戦争」
「はあ!?」
「あと、私はもう、沢山の人が殺されていくのを、ただ見ていくだけなのも、隠れるのも、沢山なの」
ミオが乱暴な顔を拭いトマをきっと睨む。
「それよりトマもよ!どうして悪いことをしてるの!」
「はっ、アストレイの奴らに復讐を」
「子供のする事みたいなものよ!薬を渡すだけなら!」
「子供じゃねえ!後薬だけじゃねえからな!」
「じゃあ何してるの?」
トマが鼻を鳴らし顔を背ける。ミオがむかむかし肩を震わせる。
「相変わらず…。このちび猿!!」
「ちびでも猿でもねえ!!」
「やめなさいったらやめなさい!!!」
「誰がやめるか!!」
ミオとトマが喚き散らす。リリーが視線をミオへと向け口を動かす。そして小さな針を魔人の手を変形し作り出す。
「トマ!!私はそんな事するトマが嫌い!!」
「は!はっきり言えよ!そんな事するってなんだよ!」
「薬配って金もらったりしてるんでしょ!」
「金なんてもらってねえ!」
「ならご飯もらってないわけ!そっちもお金よ!」
「う、るせえ!」
「トマっ。もうやめようよ」
トマが口をつぐみミオが顔を歪める。
「こんなことして、みんな生き返るわけでもまた元に戻るわけでもないんだよ…。それに、喜んでくれるの…トマ」
トマが奥歯を噛み締め胸を痛々しくさせる。だが、ミオの胸に細長い黒い針が貫通する。トマが目を見開きミオが両膝を力無くつき倒れると視界に映るリリーを見て口から血を吐き出す。
「リリー!!」
「ミオ殿!!」
「この馬鹿野郎!!」
トマが立ち上がり声を上げぞっとするも声を振り絞り上げる。
「話し合っただろうが!!兄さんぼけっとすんな逃げろ!!!」
魔人がリリーを掴むも黒い触手が掴み縛り付ける。リリーがぴこらげを見る。それは黒いものへと変わり唸り始める。
ーなに…。
ダリスがハーンを飲み込むぴこらげを見る。ハーンが助けを求める目を向けるが飲み込まれる。そしてミオの目が開きその針を握り引き抜く。
「ミオ殿!」
「ミオ!」
『緊急』
ミオの声と誰かの声が重なるとミオの体がすっと浮かぶ。
「でた…」
トマが冷や汗を流しミオの髪が黒く染まる。
『危険因子の排除。危険因子の排除』
黒い唸るものが一斉に魔人とリリーへと向かう。
「兄さんあれにその馬鹿触れさせるな!!おい!!」
エリスたちが上を向きトマが声を上げる。
「ミオは無意識に人殺してるからな!!役人どもをだ!!」
「今の状態はなんですか!!」
「しるか!こいつが瀕死になったら現れるんだよ!!あの時はこいつの母ちゃんが止めたんだ!!俺は今回で2回目だ!!ミオやめろ!!!」
ダリスがミオを振り向くとミオがその手に黒い雷を作り上げる。
「兄さんふせろ!!」
魔人がリリーを下にし床に伏せる。すると黒い雷が魔人たちを襲う。リリーが痛み声を上げ魔人が震えその身を削る。
『出力20.30』
ミオの指先が僅かだが皮膚が剥がれる。
『40』
魔人の肉体が削がれると魔人が声を上げる。
「やべえ」
雷が切断されるとミオが刀を握る望を見て振り向く。
「機械のようですね。まるで」
『危険因子の排除阻害』
ミオの背中から黒いモヤが現れるとミオの両手に黒い拳銃が握られる。
『先に排除』
望が構え、ミオが引き金を引く。そしていくつもの銃弾が望へと向かう。望が走り避けていき、ミオがその望むを追う。
『武器変更』
アンテナのような形の物が姿を見せるとじりじりと音を立てる。望が目を見開き飛び上がると望むの足元が溶け落ちる。エリスが冷や汗を流し、ダリスが驚愕する。
「電磁波」
『継続』
望が汗を滲ませ作られる足場を使い避けていく。
「だああくそっ。どうするどうするっ。あの時ミオの母ちゃんはどうしたああ」
トマが頭を抱えるも隣に足音が響く。
「怖い怖い」
奏が姿を見せるとうーんと声を出す。
「無なるものか」
「無?は?」
「アルスランの中にあった物がミオちゃんの中に移動したね。葵が戻せたのはアルスランも同じ症状が現れたから戻せた。うーん」
奏が頭をかくが望がその隣にくると息を弾ませる。
「げっ」
「どうすれば戻る?」
「治癒と浄化の両方合わせの力を使わないと無理」
奏がトマを掴み、望と共にお互いに左右へと避けた途端柱が溶ける。
『攻撃目標切り替え』
ミオが再び動かなくなった魔人と気絶しているリリーを振り向きアンテナを向ける。
『目標排除』
「ルクス」
ダリスの足元が光るとミオがダリスを振り向く。そしてダリスの後ろから十本の尾を持つ白か美しい毛を持つ大犬が姿を見せる。エリスたちが驚愕し奏が声を上げる。
「いたあああああああああああああ!!!」
「うおっ」
「フェンリルいた!!後早い!!!」
奏が飛び込みミオの前にくるとミオが奏を見るも奏がミオと黒い触手を床を変形させ縛り付ける。
「ルクス」
『やれやれですね』
「助けて欲しい」
ルクスがダリスへと視線を向ける。
「頼む」
『分かりました』
ルクスがミオの元へと尾を向けると尾がミオと黒い唸るものを巻き込み光を放つ。奏が魔性石を握りミオの胸の穴に手を当て光を放つ。
「超回復」
ミオの胸元が光るとミオが鼓動を強く跳ねさせる。そして黒い唸る物が光り、ハーンが現れ外に出される。つづいてぴこらげが姿を見せるが気持ちよく眠っていく。ミオがその目をゆっくりと閉じ緩やかに息を吸い吐き出すと頭を力無く落とす。奏が尻餅をつきは後息を吐きダリスがミオを受け止め抱き上げる。トマがそれを見て舌打ちし魔人とリリーを見てため息する。だが尾が三本向かってくるとトマが紙を向け跳ね返す。ルクスがじっと見上げトマが小さな紙を散りばめると紙が一斉に飛ぶ。
「俺のようは兄さんたちの回収だけだ」
「その娘は置いていけ」
「却下。俺も腹は立つけど」
無数の紙の上に寝かせられたリリーと魔人を浮かせながら睨みつけるダリスを見下ろす。
「あんたがこの馬鹿を何かしたところでただミオの相手が面倒くさくなるだけだからな。連れて行ったほうがいいだろ。あと、そこのおっさんはもういいんだとさ。じゃあな」
無数の紙がトマたちを包み姿を消す。
「あの子術使うの上手いけど、今の向こうのと合わさってるオリジナル…」
奏が立ち上がり望が近づく。
「もう問題ないか?」
「ないよ。しかし飛ぶ簡易電子レンジ攻撃は恐怖だね」
「ああ」
「ミオ」
エリスが向かいミオに触れる。
「眠ってるだけ。あと、これは封印しようにも難しいね。元から持っている受け継がれるギフトだ。防ぐには瀕死の状態にさせないことだけ」
「それは老衰した場合もか?」
「そこまでなるともう体自体動かないし、もう一つの思考回路だからね。肉体の終わりと分かって機能しない。あの感じを見るとそうなるね」
望が頷き奏が頷くとすぐさまダリスとルクスを見る。
「さあてさてさて!フェンリル!」
『相変わらずクソ面倒くさいですね継承者たちは』
「たち?」
「うっさい!ようやく見つけたからちょっとはこっちのお願い事も聞いてよ!」
ルクスが無視し奏が苛立つ。
「この我儘犬!!」
「そ、そんな……」
「あ?」
奏がハーンを振り向きダリスが冷ややかな視線を向ける。
「天の、神の、使いがなぜ、そんなゴミに」
ルクスがハーンを振り向くが。
「ぴこ…、ちゃん」
ぴこらげが起き上がりハーンを見てハッとする。
「何で動いてるじょお前」
ハーンが近づくぴこらげを見て恐怖に顔を歪めぴこらげがハーンに乗り電気を浴びせる。ハーンが悲鳴をあげ白目を向き頭を落とす。ダリスが指を向けたミオを見おろす。
「な、ら、そ、うじ…」
「ミオ」
「ミオ殿」
エリスがミオに触れるとダリスがエリスへとミオを渡す。奏がハーンを見てはっと吐き捨てぴこらげが欠伸をするのを見て近づきぴこらげを抱きミオを抱くエリスに近づく。
「ミオちゃんは休めば平気。ぴこらげも連れてって」
「はい」
「元知人のようだけど、次会う時は?」
「容赦しません。ミオに手を出しましたから」
奏が頷きエリスが先に行きますと告げ、ぴこらげを乗せたミオを抱きその場をさる。
「さてと、その転がってるゴミどうする?」
「勿論、容赦しません」
「枢機卿!」
サイモンがその場にくるとダリスがサイモンを見る。
「ハーン元司教を異端審問に引き渡してください」
「罪は?」
「人身売買と違法薬物となどの取引。あと、私にも手を出した。充分でしょう」
「お呼ばれいたしました私どもで引き取ります」
黒い修道服を着た仮面を装着した5人が来る。そして大柄な男がハーンを肩に担ぎ連れて出ていき、先頭にいたものが頭を下げる。
「天犬様のことはなぜ仰せになられなかったのですか?」
「私の今の事と関係ありませんし、舐められたまま力を借りるのもシャクでしたからね。まあ、あの元司教はゴミと私のことを罵りましたが、そちらもでしょうか?」
「いいえ。あと、畏まりました」
男が頭を下げ部屋を出る。ルクスがくすくすと笑う。
『ゴミとはな。しかし本来のゴミは向こうのようでしたからね』
「ええ。掃除ですからね。クリス」
「はい」
「ミオ殿のことは伏せておかれてください。まあ、説明しようにも難しいでしょうがね」
「ええ…確かに」
「サイモンには後であなたから話されてください。それ以外は無しとします」
「承知いたしました」
「ええ。あと」
ダリスがはあと息をつく。
「疲れました」
ダリスが力無く膝を崩すとサイモン、クリスが抱き止める。
『ハーンにより禁止薬物を打たれています。拷問も』
「なんてことを」
「急ぎます」
クリスがサイモンに気を失ったダリスを乗せる。
「フェンリル。後で話がってこらこのでかいぬ無視すんな!!」
フェンリルが無視し姿を消しサイモンがダリスを担ぎ走る。
「たく」
「この後はどうすればいい?」
「あー、ならこっち」
奏が先に行き望が後に続いた。そして、戦闘機へと来ると先にキヨたちが来ておりキヨがやってきた2人を見る。
「向こうは?」
「すんだ。ミオちゃんの中にやばいのいるって知ってたよね?」
「ああ。だが、どうすることもできない。そちらもだろう?」
「その通り。お陰様じゃないけど危うくとびだせ電子レンジ波でこんがり焼けるところだった」
「久しぶりに冷や汗をかきました」
「そうか。望が言うなら相当だな」
「私はなんなわけ?」
「望に勝てたら言おう」
「えー、面倒臭い。後どうする?戦闘機?」
「勿論バラす。そのあと溶かして再利用だ。望」
望が頷き刀を出す。そして光を放つと戦闘機をまず真っ二つにし運びやすい大きさへと切り解体した。
トマがベッドの上で裸で寝ていたが目を覚まし体を起こすと欠伸をする。そして軽く頭をかくと横を向き窓から朝靄を見て下を向く。
「…はあ」
「まだ朝には早いですよ」
トマが裸で茶髪の髪を腰まで伸ばした顔立ちの良い色白に黄土色の目の男を振り向く。
「起こしてすみません」
「いいえ」
男が体を起こしトマを抱くと口付けをする。そして離れトマを抱きしめるとトマが僅かに息をつく。
「おはよう私の小鳥」
「おはようございます」
「ええ。あと昨日、随分と遅かったですね」
「…はあ。忠告無視したばかのせいです。魔人の方も相当手傷負ってたのでその処置にあたって遅かったのに、なんでしたんですか…」
「断ってもよかったですよ」
「……微妙」
男がふふっと笑いトマがはあと息を吐くも小さな音のノックが響く。
「お休みのところ申し訳ございませんユリウス様。起きられておいでですか?」
「起きています。なんですか?」
「はい。書状が届いております。あと、罪人の搬送が終わりました」
「分かりました。書状はそこに置かれて行かれてください。着替えたあと罪人と面会をいたします」
「はい。では失礼致します」
足音が遠ざかるとトマが話す。
「日中だけにしておかれてはいかがですか?面会は」
「そう言うわけには行かないのですよ」
ユリウスがベッドから降りトマもまた降りるとかけられていた服を手にしユリウスの着替えの手伝いをする。
「罪人はハーンというものですか?」
「はい」
「俺も立ち会ってみていいですか?」
「なぜ?」
「あの時見た顔。そのハーンですが孤児院でやったやつの1人だった気がします。俺の顔を見せたら覚えてるはずです」
「分かりました。そうしましたら、また罪の重さも変わりますね」
トマが頷きユリウスがやや落ち込むトマを見る。
「あと、俺より下の子供いたんですが連れて行かれたあと分かりません」
「そうですか。それとそのような顔をなさらないでください」
ユリウスがトマの頰に触れ支度をと告げた。そしてトマが白い仮面をし銀の刺繍を施した教会の神父服を着たユリウスと共に通路を歩く。その後部屋へと来ると白い囚人服を着たハーンが僅かに青ざめ項垂れていた。その部屋には仮面をつけた黒い神父服を着たものたちがいた。
「お待たせいたしました」
「ゆ、ユリウス司教…」
ハーンが顔をあげると立ち上がりユリウスにふらつき向かうが仮面をつけたものたちが止まる。
「た、頼む。私は何も悪いことはしていない。やっていないですっ」
「しかし報告ではダリス枢機卿に拷問をかけ暴言を吐いた。そして、誘拐したと。それから」
「枢機卿の幻覚です。ええ。枢機卿の体を調べればわかると思いますっ。私はこの目で見たのですっ。あの枢機卿が、禁止薬物を自ら」
「この顔に見覚えあるだろ?」
トマが仮面を外し素顔を見せるとハーンがトマを見る。
「あんたに散々虐め尽くされ奴隷印を押された」
ハーンが目を見開きトマが片目を黄色へと変える。
「そ、そんな、はい」
ハーンが汗を滲ませ口を抑える。
「俺が面倒見ていた血のつながりはない。でも、弟のように可愛がっていた子を、お前は犯して殺して海に捨てたな」
トマが黄色の瞳から涙を流す。
「俺の目は、俺の目を見たやつの今までの出来事を視界の記憶で俺が見れる。この場にもあんたが隠した金があるみたいだな。向こうの世界に売り渡した金だ」
「ち、が、はい」
「俺の質問に、間違いは全てない」
「罪人ハーン」
ハーンが青ざめ、ユリウスが告げる。
「異端審問官の名において」
「ユリウス」
ユリウスが後ろを振り向き柔和な年配の男が微笑み入る。
「後は私が引き受けます。ユリウスはシリウス様をお連れしなさい」
「シ、シリウスっ、その汚れ被れがっ」
ハーンの体を棘のついた縄が縛り付けるとハーンが叫び声をあげる。ユリウスが鋭く睨みつけその縄を握り締め上げる。
「汚れ被れ?」
「ユリウス。さあ、行かれてください」
ユリウスが縄を解き手のひらに描かれた模様に収納すると苦しく嗚咽し涙するトマの背を押す。
「イル、マシュ、アネ…」
トマが名を呼びながら部屋を出ると力無くその場に崩れ落ちしゃがみ込む。
「ヤマ、ルルア…」
「もう見てはだめです」
トマが苦しく歯を噛み締める。
ーたとえば君が傷ついて挫けそうになった時は。
トマが目を見開く。
ーそれなんの歌だ?
ー私と兄の故郷の歌。ね?
ーああ。
「尊兄、柚」
ートマ。俺たち全員、逃げるぞ。今夜だ。
トマが頷き、黒髪の青年がトマの顔を包み込み額に額をつける。
ーただ、奴らに捕まるかもしれない。出来る限りはするが、どこまで出来るかは難しい。だからトマ。お前はお前の持つ力を他の教会に見せて助けを求めろ。
ーそ、んな。同じだったら。
ーお前の力は人が欲しがる力だ。俺から見ても役立つが、そうなるとお前は違う意味で逃げられない。だが、こんなところよりかはましだ。お前は真実と嘘を見抜く。だからお前が見てこいつといれば危害はないというやつを見つけろ。
ーで、も。
ーお兄ちゃん。あいつらが来る。
黒髪の少女が子供達を抱き、青年が真っ直ぐにトマを見る。
ー行け。一番の頼りはお前だトマ。俺たちは待っている。
青年がトマを離すとトマが浮かび窓から外へと出され夜の街に放られる。トマが泣きながら薄暗い孤児院を背に走る。
「尊兄、逃げれた…」
「お話しされた孤児院からですか?」
トマが頷き、黒髪の少女が引っ張られるも青年が殴り突き飛ばすと少女達や子供達を連れ走る。
ーここであいつが気絶した。この後が。
「わからない…。でも、あいつが確かにチビたちを犯して殺した…。まだ、1歳もないのも……」
トマが再び苦痛に声を漏らす。ユリウスが手を貸すよう審問官の部下達に告げるとそれらが手を貸しトマを部屋へと運んだ。
ー風がざわついてる。
三つ編みをさせた少女が海風を浴びながら砂浜を歩く。その後ろを幼い少年少女達が遊びながらついてきていた。
「この下の国が起きそう」
「え?国?」
「うん。古代国って聞いた」
ー柚
風が吹き荒れ柚の前に左目の瞼に傷をつけた青年が来る。
「お兄ちゃん。お帰り」
「たく。なんだよ急に」
青年の肩にむくれる青髪の妖精がいた。
「尊、サム。遊ぼう」
「えー」
「来たな」
光る光線が柚達へと向かうが結界が阻み防ぐ。子供達が声を上げ、柚が子供達をまとめる。
「くそ!ようやく見つけたのに!」
乱れた神父服を着た男が睨みつけると柚が青ざめ、尊が面白く告げる。
「その様子だとお前らの悪事が暴かれたな。後ようやくか。トマ」
男が銃を向けるも体を硬直させる。そして海から波がうなり男の周りを囲む。
「なに?」
「古代国の力だな。となると」
「いた!」
尊が藪から現れたトマを振り向き、トマが泣きながら尊に飛びつくと尊が砂浜に倒れる。
「トマ」
「お前、チビじゃなくなったんだからな…」
尊がしゃくりを上げるトマの頭を軽く叩きやれやれとすると黒服の神父服達を見る。そしてユリウスが姿を見せると波に飲まれかける男を見る。
「あれは…」
「トマの力です。こいつの力は古代国の力を僅かに操れますから」
ユリウスが僅かに目を見開き、尊が話す。
「だが、まだ感情でしか出来ない。飯はしっかり食べてるな」
トマが頷き尊がふっと笑う。
「ならいい。あと、俺たちもなんとかあそこから逃げられたけど、なかなかしぶとく追ってきてまだ逃亡中の身だ。だから宿無しだ」
「う、え」
「とりあえず落ち着け。あと、嫌なやつばっか見て俺たちを探し当てたんだろ。苦しい思いさせて悪かった」
尊がトマの頭を撫でトマが唸り嗚咽を漏らす。
「ありがとうトマ」
トマが声を漏らし尊がトマを軽々と抱き上げる。
「お兄ちゃん…。流石にそれは。せめておんぶ」
「シリアス様からお話は聞いております」
ユリウスがその場へと来る。
「ああ、ならよかったら、もうこいつらも怖い思いをさせたくないからいい環境の下において欲しいです」
「はい」
「ええ。それと、トマが世話になってるからな」
尊がトマを下ろし頭をぐしゃぐしゃにして撫でると片目に手をやり紫の瞳へと変える。
「ひとつ、遠くを見ることが出来ます。未開の地についてももちろん見られるほど」
「いいのかよ教えて…」
肩に寝そべるサムがやれやれとする。
「問題ない。あと、異端審問官だ。そう簡単に悪さも何も出来ない」
「異端審問官?」
「はい。ご存知なのですね」
「ええ。手のひらの刺青はその証ですから」
ユリウスがはいと返事を返しサムが不思議そうに見る。
「嫌だ!わ、私は何もしていない!していない!」
尊がやれやれとし、波の中から出され柵付きの馬車に連行される男を見る。
「した!」
「いっぱい追いかけてきたじゃん!」
「叩いた!」
「違う殴ってきた」
「なぐった!!」
「うるさいガキども!!」
尊がしっしっと手で払い、男が馬車に入れられる。
「あほうめ。あと、3人か。1人は学園内で講師をしていると聞いたが」
「そちらは捕え済みです。そしてハーンも」
「ああ、なら、後1人と首謀者の髭男爵のみか」
尊がやれやれとしながら柚を見る。
「柚。髭男爵だけだそうだ」
「うん。よかった」
「ああ。あと、お前ももう泣くのやめろよな」
尊がトマの顔にタオルを押し当てるとトマがタオルを握り鼻を鳴らしながら項垂れた。
トマが目元に冷たいタオルを当てながらゆっくりと眠りにつく。そして、別室では安心した子ども達や柚がベッドにそれぞれ入り気持ちよく眠る。その頃、着替えた尊がユリウスと共に教会の通路を歩く。
「もっと山奥かと思いました」
「山奥にありますよ。投獄場所は。こちらは中間地点で裁判する場です」
「直接連行はされないんですね」
「はい。こちらを通してから山間部か、ここかで分かれます」
「ええ」
ユリウスが両扉をノックすると失礼いたしますと告げ扉を開ける。そこにハーンの元にいた年配の男が執務机を前に座っていた。
「ヘルマン大司教様。お連れしてまいりました」
「はい。ご苦労様です。そちらに」
「はい」
「確か、枢機卿を辞退されたとか」
「ええ。よくご存知ですね」
「こいつは色々しってんぜ」
肩に座ったサムが自慢げに話す。
「新聞だかなんだかよむし、人の話聞くし」
「それは当たり前だろ」
ユリウスがくすりと思わず笑いヘルマンが頷く。
「それは素晴らしいです。あと、妖精ですか?」
「見ての通りだ」
「未開な地で魔獣に食われかけたところを俺が助けてからついてきてるんです」
「ついてきてんじゃなくて一緒にいてやってんのっ」
サムかむすっとする。
「仲が良いのですね」
「おう」
「まったく」
「そちらにお座りください」
尊が頷き勧められた椅子に座りヘルマンもまた尊の前の椅子に座る。
「さて、では自己紹介から参りましょう。こちらの教会を預かっておりますヘルマンノクターンと申します」
「東山尊。元々別世界に妹といましたが両親が事故死し、叔父夫婦達に引き取られてしばらくして捨てられ売られてここにきました。トマとは売られた先の孤児院で会いました」
「売られた先ですか…」
「ええ。孤児院を模した売買組織としてどこぞの教会の悪さ連中が運営していたんです。今はもう俺たちが逃げたので解体したみたいです」
「そうだったのですね。そして、大変申し訳ございません」
ヘルマンが頭を下げ尊が話す。
「もうないので。あと、あいつらを全員罰してくれるならいいですし、トマも世話になってますから。あとシリウスというと、確か」
尊がふむと考える。
「そうか。あいつは嘘を暴くからか」
「え?」
「真偽を見抜く子は神の子である。教会の噂を出した記事にあったな。後で回収されたけど」
「へえ」
「魔導局のですね。はい。彼らも情報を伝えるのは良いのですがいささか伏せたいことも伝えますので」
「えー、なら悪さしてるのか?」
「お前も隠したい悪さはいくつもあるだろう。周りに知られてみろ。すぐにお前の頭は体から切り離されるからな」
「う、うそっ!?」
「本当だ。世の中には伝えてほしくない。伝えて欲しいというものもあるからな。ある程度常識の範囲内で押さえて欲しいのが世の為だ」
「はい」
「えーと、そうなのか?」
サムが右、左に頭を傾けうーんと悩みながら宙をあちこち舞う。
「そうだ。取り敢えず、子供達の今後の身の安全といい環境下での生活。もしくは里親ですね。そちらも良き里親がいたら紹介をお願いします」
「分かりました。お約束します」
「はい。あと、俺と妹の柚についてだけ別にします」
「別と申しますと?」
「ことが済んだら生活の場を考えようと思ってます。それまではここを仮宿にさせていただきたいです」
尊が宙に手をやり中から箱を出すと蓋を開け金貨を見せる。
「これがそのための金です。こちらは正規のものです」
「おう。薬草やら魔獣の爪とか集めて売った金だ」
「後は諸々か」
「お金はよろしいですよ」
「仮宿代です。あとは寄付に使われて構いません」
「しかし」
「これは譲れません」
ヘルマンが軽く悩むが分かりましたと頷き尊から金貨を受け取った。
ー痛い…。全身が。
リリーが顔を赤らめ苦しく息を弾ませるも徐々に緩め静かになる。尊がリリーの額に触れ集中し、ユリウスが話す。
「魔人殿は見られますか?」
「見てからになりますね」
尊が手を離しユリウスと共に奥の部屋へと進む。そして体を丸め苦しく唸る魔人の元へと来る。魔人が頭を上げ尊を振り向き尊が膝まずき魔人に触れるとその黒い影が腕へと向かい侵食する。
「尊様」
「平気です。しかし、すごい体だが、包まれてる感じだ」
尊が汗を滲ませ目を細めこちらを見る魔人へと話す。
「見るぞ」
魔人が目を伏せ尊がもう片方の手を魔人につけるとその片方の手も黒い影が侵食する。ユリウスが冷や汗を流し、尊が目を閉じ意識を集中する。
ーここだ。
尊の手が光り両手共に離れる。
「サム。白い、水晶を出してくれ」
「ちょいまち」
サムが現れた宙の穴に入る。そして大きな丸い水晶を出す。
「出した」
「下に置いて離れろ」
「ああ」
水晶が置かれると尊がゆっくりと水晶へと手をやり触れる。すると水晶に黒い影が全て移り吸い込む。尊が息を弾ませ、ユリウスが姿を見せた焦茶の男を見る。男が目を開け紅の瞳を向けると自らのほおに触れるが顔を歪め倒れ込む。その男の背は赤く爛れていた。
「サム。お前の粉を振りかけてくれ」
「仕方ねえな」
サムが男の背中にくると赤く爛れた皮膚に振りかける。
「あんたがまた力が欲しいなら魔人の力はこの水晶の中に入れた」
「え」
ユリウスが驚愕し男が尊へと視線を向ける。
「人に戻るならまた触れたらいい。こいつは貴重品だからな。そして割れたらまたあんたはあの魔人の姿だ」
男が小さく頷き、ユリウスが話す。
「その水晶はなんですか?」
「葵でしたか?その人が作ったモノだそうです。封印の宝玉と言われた貴重品です。未開の地の滅んだ村で見つけました」
「ああ。人間の奴らが村に来て殺しまくってさ。おいらが先に見つけて尊に教えたのさ」
「リ、リー、は…」
「俺が治療した。無数の針が体内に刺さっていたから時間を要した。何と相手したんだ」
「わ、からな、い、もの…」
「そうか。あと、あんたは怪我の治療終えたら服着ておけ。それとリリーはしばらく起きない。回復の為に冬眠させた。その間水とかは飲めないからスプーンでもなんでも使って飲ませたらいい」
男が頷き尊がああと返事を返した。
ーおーい。起き上がろー。ご飯だよー。
トマが唸り柚が耳元で声をかける。
「おーい」
「ねせとけ。いつでも食える」
「でも」
トマが起き上がると柚がふらつき起きたトマを見る。
「トマ起きた。目が凄い」
「見せろ」
尊がトマの目に手をやりトマがその手に触れる。
「泣きすぎたな」
「…ん、み、ず」
「はい」
柚が吸い飲みを向けるとトマが軽く頭を傾け飲んでいく。そして空になると口を外しはあと息を吐きフラフラとすると後ろに倒れ視界を回す。
「力の使いすぎと精神的に参ったから熱出てるぞ」
「う…」
「お薬あるからね。あと甘いの」
柚がトマの口に丸いものを含ませるとトマが舐めていく。
「…うま」
「ミント飴だよ」
「ミント?」
「向こうの世界のハーブ。柚が隠して持ってきたやつだ。未開の地で繁殖させて売り物にしてる。虫除けにもいいからな」
「うん。えと、本当はいけないらしいけど、好評だったから」
トマが頷く。
「お前の額に当ててるのにもそのハーブのミントが使われている。冷却効果があるし精神を安定させる効果もある」
「ん…いい匂い…」
「ああ」
トマがはあと息を吐く。
「今村タイシ知ってるだろ?」
「知ってる…。なんで?」
「向こうの元学友」
「え?尊兄が?」
「ああ」
「ご近所さんでもあったの。でも、タイシ兄は途中で行方不明になってここに来て凄い活躍してたから驚いたしみんなも怖がってたね」
「ああ。まあでもあいつは元から才能あったし努力家でもあったからな。いつも本ばかり読んでたからな。俺が話しかけても無視だし」
「仕方ないよ。自分の世界に入ってたもん。でね。私とお兄ちゃんだけどタイシくんが今学園都市にいるからそこにいくことになったの」
「え、なんで?」
「炙り出し」
「私は普通に学校」
トマが頷き尊が話す。
「ああ。そしてお前は無理しまくりだからな。俺が変わる」
「でも…」
「心配するな」
尊がトマの頭に手をやり撫でる。
「あとそんなに背負うな。俺がいる間だけになるが俺を頼っていい」
トマが目を潤ませこくりと頷いた。
尊が制服を身につけると生徒の名前を確認する。その中に赤線が引かれた生徒がおり尊が目の前の片腕が義手のリリーの直属の上司を見る。
「赤線引いてあるのが大司教が話した連中ですか?」
「ああ。ただ、まだそうと決まったわけではない」
「ええ。で、俺が入って尻尾を掴むか」
そこに褐色の肌に焦茶の髪と赤目の男が来る。
「まだ寝てなくていいか?」
「少し、楽にはなった」
男が空いている席に座る。
「魔神から戻るとは思わなかった」
「戻ってないですよ。封じてるだけ。あと、イーロンの雇われ研究者と実験物」
「ああ…。騙されてそうなった。元々は辺境の村にいたが金になると聞いて向かったところ、実験台にされた。俺の前の連中はみんな魔人の力になる魔素に飲み込まれ溶けて死んだ」
「ならなぜお前は生きれた」
「聖女の息子」
「なに?」
「聖女というか、聖女にされた母親の息子じゃないですか?父親がここの世界の誰かじゃないかといえ推測で」
「ああ。母は化け物になり自ら命を絶って死んだ。父親は分からない。化け物になったが人の姿。元の姿にも戻れた母を犯した誰かの1人が父親だ。俺は母が俺を産みたいが為に生まれた。ただ、母が我を忘れ俺を食おうとしたのを最後に自死した。研究員になったのは金だけでなく、その原因を作ったものを消し去ろうと思ってなったが、あちらの世界の日本人という捕らえられた医師に諭された。奴らの思惑通りになるからやめておけと」
「ナガハラだな」
男が頷き、尊が話す。
「聞いたことはあるけど実際会ったことはないな。まあ、兎に角じゃないけどそっちがもし魔人にまたなるならその水晶になりたいとか念じたらいい。あと、こっちは何か動きがあれば伝えればいいですね」
「ああ」
「そうしたら早速行きますね」
尊が紙を持ち立ち上がりそれじゃと告げ部屋を出ると紙を掲げる。
ーま、俺は邪魔者ではあるからな。一応済んだら用無しでおさらばって言う向こうの配慮と考えておくか。
尊が紙を握り直し先へと進むと隠れていたサムがこっそりと話す。
「色々弱味あったぜ」
「よし。あとで教えろよ」
サムがオッケーと告げた。




