オアシスと盗賊団
ーマーリス
ー呪い。
侯爵が苦悶しサイモンが代筆したタイシの手紙を険しく見ていく。そして、ナターシャが嬉々としながらタイシが来るのを待ち侘びつつ庭の花を見ていた。
ーあと、二週間程で来る。ああ。
「早くきて下さらないかしら」
ナターシャが両手の指を組み更に嬉々とする。
「ナターシャ」
「はい」
ナターシャが侯爵を振り向くがその侯爵がどうしようかという顔をしているのを見てきょとんとした。
ーあっっぢいいいい。
藍丸が砂漠のオアシスの村の木陰で寝そべっていた。そこは閑散としておりたまに人が出歩く以外は人通りが少なかった。その藍丸のそばにステラがおりステラもまただれながら木を背に座っていた。
「確かに暑い」
「暑すぎだろ。あと、あのダークエルフ。水まで止めてたのかよクソ聞いてねえええ」
「ああ。水は魔術師達が精製水を使ってそこから得ているという話だしな」
「ああ」
「両名。失礼致します」
老兵がその場にくる。
「調査は?」
「はい。地下水脈を見つけることは出来ました。出来ましたが……。盗賊たちが邪魔をして」
「今度はそいつらかよちくしょうっ」
村の調査隊たちも落ち込んでおりステラがはあとため息をする。
「持ってきた水は?」
「はい。村のもの達にも分けておりますがあと一週間程はあります」
「ならそれまでに盗賊どもを片すしかないな」
「くそおおお」
「水が出ればこの暑さもやわらぐのですが」
「知っている。ここには何度か尋ねたことがあるからな」
ステラが答え、藍丸が頷く。
「俺も。でも水ないだけでこんな暑くなるのかあ」
「ああ」
「キャラバンが来たぞ!」
藍丸がああと声を出し、ステラが立ち上がるも。
「わかああ!」
「ちょっと待て親父!!」
老人が猪突猛進しその1人の兵士が手を向けるが追いかける気力がなくその手を力無く落とす。
「元気なジジイだぜ…」
「あの年でもまだ現役だからな。私が行く」
「ああ」
ステラがその場を離れ息子兵士へと他の兵士たちを休ませていいと告げると息子兵士が感謝を述べた。
キャラバンが到着すると村長たちが歓迎し早速運ばれてきた荷物を下ろしにかかる。そしてタイシがサイモンに背負われおり、ミオたちも降りる。
「なら、私らは患者がいるから先に行くよ」
「はい」
「わかあああ!!」
「わか?」
「だから、若っていうなって…。あとなんでいんだよ」
老人がタイシを背負ったサイモンの前に止まるとすぐさまうんざりするタイシのもとに回る。
「若」
「いや、若じゃないって…。あとなんでここにいるんだ」
「いては悪いですか?」
「いやいては悪いですかじゃなくてなんでいるんだって聞いてんだよ……」
ミオが戸惑いながら老人とタイシを見ていくとエリスが近づく。
「タイシさん。どなたですか?」
「ああ。アストレイの俺の隊の副隊長です。この人のもう1人の息子もそう」
「はっ」
老人が我に返り頭を下げる。
「これは失礼いたしました。第六隊所属のアーバインと申します。息子のマルクルもこちらに来ております」
「だからなんで来たんだって…」
「水の調査だ」
その場にステラが現れるとユナがわあと思わず声をあげ、ミオもまたステラの頭部に生えた猫の耳と尻の長い尾を見る。
「水の調査?」
「その様子だと聞かされてないな。キャラバン達は?」
「こちらは一応聞いてはきたな。ただ、ここまでとは思ってなかった」
商人が話、ステラが頷く。
「ダークエルフが死んでから突然水が止まった。止まる際に黒い霧が現れて水を汚し止めてくれたそうだ」
長老たちが頷き、タイシが話す。
「汚れたとはきいてましたがまさか水源から止められたなんて」
「ああ。で、お前達がいたギルドから話があったわけだ。水源を再復活させて欲しいと。おそらくギルド長たちは話さずにいたな。お前たちが来る頃には終わるだろうと思って」
ステラがやれやれとする。
「あのギルド長ならそう言いそうだ。それでなんでアーバイン達なんです?」
「お前の状態を見て会いたいとしつこく言われてな」
「当たり前ですっ。御身は大切な」
「だーかーら。なんでそんな丁寧口調というか。御身とか若とか俺には無関係な言葉だ言葉」
「無関係ではありませんっ。ご自覚あられるのですかっ」
「だからなんの?」
ステラが目を丸くし、アーバインが告げる。
「ですから」
「タイシ。お前本当に知らないのか?」
「何がです?」
ステラが割って入るとああと返事を返す。
「まあ、お前は異国人でこちらの養子縁組の仕組みは分からないだろうからな」
「は?どういうことです?」
「アルスラン殿の養子だぞお前は。言っておくがこれは正式で、私達もアルスラン殿からタイシは養子で息子として受け入れていると本人から聞いたからな」
サイモンが目を丸くするが苦笑する。
「あれ?では、教会の話は事実でしたか?私タイシさんが違うと。まあ、本人がいうなら違うんだろうなあと思ってましたが」
「デマでも嘘でもなくて事実だ。タイシはアルスラン殿の養子だ」
周囲がざわめきミオが目を丸くしタイシが汗を滲ませる。
「ま、待ってください。養子縁組って本人の意向とか取らないんですかっ」
「取る取らないは自由だ。あと、まあここで差別的なことではあるが異国人であれば本人の許しなく養子をとることが出来るというのが法律の定めだ」
「人権侵害だっ。あと俺は本人から全くそんな話きいてないですっ」
「なら、アルスラン殿が言い忘れてるだけだろ。彼の方はたまにそうだったと思い出すことがあるのはお前も知ってるだろ?」
「いやそうですよ知ってますよっ。だからと言ってこんな話ありますかっ。だからあんた若言ってたのか早く言えよっ」
「と言われましても自覚されていると思ってましたので。はい」
「まじか…」
「だから、お前をよく夜会とかに連れて回っていただろう?本来なら少佐という地位なのにあり得ない話だからな」
アーバインがそうですそうですと頷きタイシが疲れ果てる。
「ああ。ちなみにお前はタイシ=ディ=バナトルテという名前だ。私もそう教えられたからな」
「聞いてねえ…知らねえ」
タイシが頭を落とし、サイモンが気まずくする。
「えーと、取り敢えず宿に。そこでまたお話をしましょう」
「ああ。なら宿はとってある。アーバイン。藍丸だけ呼んできてくれ。あとは休んでまた夕方に。タイシたちはこちらで護衛する」
「はっ。わかりました。よろしくお願いいたします」
「ああ」
タイシがぐったりとしサイモンがステラの後をおい、エリス、ミオたちもまた後をおった。
「お前知らなかったのか?だから異国の名前の方言ってたわけかー」
地図を持った藍丸が来てベッドに寝せられたタイシへと話すとタイシが話す。
「知らねえ…。くそ。一体いつからそんなことに…」
「それは俺もさあだ。まあとにかくだ」
藍丸がお前は休めとタイシの肩を叩きミオを見る。
「これがアルスラン殿の娘か。確かに似ているとこあるな」
「その、そんなに?」
「ああ。なんて言うか、顔立ちかな。特に目元が似てる。俺はその相手。そっちの母親の顔は知らねえけどアルスラン殿は知ってるからな。だから似てる」
ミオが戸惑いつつ話、藍丸が頷く。
「ああ。あと、俺たちはとって食うわけでもねえからな安心しろ。それより、水。サイモンいるならちょっと協力してもらいたい。盗賊どもから水源を取り戻すのにな」
「盗賊たちからですか?」
「ああ。アーバインたちの調査でわかったんだよ。水源がある場所和村も把握してるからな。だから、もう一度水を流せば浄化出来ると調べて分かったから今日の朝行ったのさ。そーしたら盗賊どもがその場所を根城にしてて取り戻したくば金をよこせときたんでなあ。おまけにそいつらばかすか武器持ってるんでどこから出してきたのかってくらいの数でさ。だもんで太刀打ち出来ず怪我人が増える前に逃げて戻ってきたんだよ。もう最悪」
「ああ。死者は出ていないが足をやられたのがいる。すまないな」
「いいですよ。そのための兵士としているんですから。あと魔獣は?」
「通常の魔獣たちだった」
「ああ。聞いてたような連携を取っては来なかったぜ。だからそこは解決したのは分かった。ただ今回はその盗賊どもだ」
「ああ」
タイシが頷き、エリスが話す。
「武器というとどの位の多さですか?」
「俺たちはここで情報集めして留守してたから不明だけどとにかく武器の数があと絶たずなほどだったらしい。こっちも持ってきたが相手の槍や矢の雨にやられて折れたら使えなくなったりだ」
「それから荷馬車もだな。幌が穴だらけな上に馬車もやられて修復に時間がかかる。一応奴らはそれも狙っていたがなんとか持ち帰りはできた」
「そうそう。あれだけでもなかなかなお値段だからな」
「自動修復機能のついたものだ。そこらでは買えまい」
「それは魔術で?」
「ああ。あとは木の特性だな。私たちの村原産のハイヌミという樹木。あれは自己修復機能を持っているのは知ってるな」
「はい。ですが、あれを加工するには中々難しいはずです」
「そこは、私たち獣人たちの腕と魔術師とドワーフたちによって加工する。まあそれだけ手がかかっているので一つだけでもなかなかな値段だ」
「そうそう。20万だからな」
ー20万。パンが……。
ミオが頭を真っ白にさせながら指折り数える。
「ま、そういうことであれも奪われちゃ俺らもまいるわけ。荷運びにもいい奴だからな」
「ああ。軽くて丈夫なので砂漠にも適している。今回は水源を掘るための道具を乗せて運んでいて被害にあった」
「ま、道具の方は簡単に直せるけどやっぱその場で直すのは難しいからな。持って来させたわけ」
「はい」
「しかし、盗賊がそんなに武器を持ってるなんて。第3隊も中々の強さを誇る部隊ですよね?」
タイシもまた頷き藍丸が頷く。
「ああ。だもんでそこは指揮したアーバインに聞いてくれ。なぜそうなったかも」
「分かった。あと、暑いのによくここまで」
「そーだよあちいよ」
「ああ。本当は裸になりたいがそうもいかない」
「そーだ。それと水も欲しいわ。はあ」
藍丸がため息をしながらその場に倒れる。
「でも決められてるからなちくしょう」
「ああ。あと、ミオだったな。何指を折っているんだ?」
「えっ。と」
ミオが答えきれず顔を今度は赤くさせる。
「まだ金の価値をパンの値段でしかわかってないんです」
「そうか」
「いやどんだけだよっ。パンで馬車なんざ埋もれるどころか押しつぶされるぞっ」
「あ、はい…」
藍丸が呆れ、ステラが話す。
「少しずつ覚えていくしかないな」
「ああ…。あと、まあ確かにその状態でアストレイに行けば馬鹿にされるどころか自分の意見すら聞いてもらえず使われるがままだ」
「ああ。あそこもまた黒いもので渦巻いてるからな。時間をかけて学んでいけ。あと別にアストレイに来ても来なくてもいい」
「というか、俺らがいるところ。言えばアルスラン殿の元にだ。あと教会の奴らの言うことも無視していいからな。自分の人生だから好きにして生きろよ」
「ああ」
ミオが胸を熱くさせ頭を下げる。
「その、はい」
「ああ」
「ま、でも知らないことは今のうちに覚えとけよ。でないといつ来るかわからないし2度とかないかもしれないからな」
「そうだ」
「はい」
2人が頷き藍丸が起き上がる。
「そんじゃ俺らは俺らの宿に戻るわ。夕方またこっちに来るけどいいか?」
「ああ。あと、よかったら先にアーバインとマルクル呼んできてくれ」
「いいぜ」
「分かった。そうしたら」
ステラが立ち上がる。
「2人を呼んだのなら悪いが軍務だ。少し部屋を出てもらいたい。一応その間村の案内をする。それから問題の噴水場所も」
「そんなら俺はアーバインたちとの変わりにあいつらと怪我人の様子見るわ。先行って呼んできてくれ」
「ああ」
「なら、行きますか」
「ええ。2人とも。飲み物持って少し出ましょう」
エリスに促されミオとユナが返事を返し飲み物や貴重品を持ちアリス達と共に部屋を出た。
閑散とした村でユナが枯れ果てた噴水の底を覗く。そして、ミオもまた見ると魚の骨が残されていた。
「骨」
「うん」
「噴水の中で飼われていた魚達でな。最初に汚染されて溶かされたんだそうだ」
ステラが説明しエリスが申し訳なくする。
「被害はここだけだったからむしろ良かった。あと、この場所を拠点とし各家や店に水が行き届くんだが、枯れてしまったゆえ今は飲み水のみ。だから急がないといけない」
「確かにそうですね」
サイモンが返事を返し、ステラが頷く。
「ああ。ところでお前いい業物を持ってるな。元からか?」
ステラが腰に下げられたナイフを指差すとサイモンが苦笑する。
「えーと、まあ、枢機卿からの、頂き物です」
「なぜカタコトなのか知らないが分かった。あと、そちらは水か」
「はい。なので今の状態では使えないです」
「そうだな。だが明け方ならある程度は使えるだろう」
「朝露ですね」
「ああ。だが、その時間帯のみだな。そっちは土のようだから使えそうだ」
「ええ。ただまだエリス様のように上手くは使えないのです」
「なら今のうちに練習でもしておけ。こう言った属性が強い場所だと練習もたやすいしよくいうことを聞いてくれる」
ステラが告げサイモンがほうほうと頷く。
「分かりました。ちなみにどんな練習ですか?」
「そこは専門家がいるから聞け。ここでも存分にできる。2人はこっちだ。ここは暑い」
ステラがエリスの元から2人を離し木陰に座らせるとエリスが早速教えていきサイモンがふむふむと頷く。
「魔法の剣」
「まだお前たちには早い。力が十分についていないからな」
「力というとどんな力ですか?」
ミオが尋ねステラがふむと軽く考える。
「言えば体力。そして力を使うには頭を働かせる必要もある。つまり、知恵だ。知恵がなければ力もつかない。だが、力もなければ知恵もつかない。それらをつけさせるにはしっかり普段から食べて寝て動き学を身につけることだ。食べないまま寝ないまま運動や勉学をしても何も身につかない」
「じょーしちぇ?」
「食べないと元気が出ないだろう?腹が減って」
ステラが話ていき、ミオとユナがふむふむと頷く。その様子を建物の影から何者かが覗き見ており、ステラたちが去り行くまでその場から動かなかった。
ー話通りだな。
「今、Sランカーは動けない。好奇だ」
武器を持つ男達が目を光らせる。そして、背の高くガタイのいいリーダー格の禿げの男が頭にバンダナを巻くと鏡を手にし不敵に笑う。
「行くぜお前ら!!奪うものは奪え!!」
男達が雄叫びし早速馬へとなると砂漠を颯爽とかけた。
ミオがユナを抱きながら静かに寝ていたがけたたましい音が響き渡るとはっとしすぐに起き上がるも、口を塞がれると塞いだエリスを見る。
「ふぁ」
「しっ。盗賊たちが押し寄せたようです。荷物を持って」
ミオが汗を滲ませ頷いた途端、窓が破壊され馬に乗った盗賊が中へと押し入る。ユナが唸りエリスがナイフを握り締める。
「はっ。エルフの女か。上玉だな」
男が槍を向ける。
「大人しくしろよ。でないと怪我するぜ」
「ミオ…」
ミオが震え、男がハッと笑うも砂が突如男を掴む。
「な、なんだっ、ああっ」
男が外へと投げ出されエリスがユナを抱き上げミオを立たせすぐに外へと出る。その外では砂に捕まった盗賊たちが身動きが取れずにおりサイモンがナイフを地面に突き刺し小さく笑みを浮かべながら砂で作り上げた巨大人形を操る。
「教えてもらって助かりました。いいですね」
「はい。枢機卿に多大に感謝ですね」
「それは、はい」
サイモンがそう告げ一度咳をすると集中する。
「魔力も使います。しっかり限度を考えて使われてください」
「わかりました」
大量の矢が頭上から降り注がれるとサイモンが驚愕しすぐさま砂の屋根を硬め作り盾を作り上げる。
「なんですかこの量っ」
「分かりませんが今は盾に集中。盗賊たちは離してください」
「しかし」
「枯渇してそちらを奪われる方がまずいです」
サイモンが汗を滲ませ頷き盗賊たちを抑えていた砂人形を元の砂へと変える。だが盗賊たちも抑えられ体を圧迫されたためかすぐには動けず蠢いていた。
「第三部隊は?」
「村民の避難と外を囲んだ盗賊たちの相手をしています。我々の宿はどうも、奴らに音を阻まれた結界で囲まれていたようです」
「え」
「狙われたわけですね」
「あの、タイシさんは」
「先に外に出しました」
ぴいいいと甲高い笛の音が響くと盗賊達がすぐさま仲間を置き去りにしその場から逃げ去る。
「置き去りにしていきますか」
「どうせろくでもない集まりの連中ですから当たり前なんでしょう」
ミオがすぐにエリスを掴むとエリスがハッとしたとたんミオが勢いよく後ろへと引っ張られる。
「ミオ!!」
「ミオ様!!」
屈強な男が舌打ちし長い手の生えたムチをしならせ引く。
「餓鬼かよ。くそ」
そこは村の外でミオが引っ張られ男達の前に投げられ転がると身を丸め小さく呻くもすぐに麻袋に入れらる。
「エルフは次だ。行くぞ!」
「おう!!」
男達が麻袋に入れ捕まえた村民やミオ達を乱暴にソリに乗せると馬を引きその場から急ぎ離れる。
「さっさと足止めしろよ!」
「わかりましたけどこれすればって。わかりましたわかりましたっ」
剣を向けられたボサノバの髪と髭を持つ手錠をかけられた男がすぐさま手の甲を光らせる。すると巨大な砂の壁が現れ追いかける軍たちのゆく手を阻む。軍たちが止まり、アーバインが悔しく歯を噛み締める。
「己があっ」
「任せろ!」
藍丸が砂の壁ヘと向け飛び上がり壁を蹴りすぐに上へと登るが驚く。
「藍丸殿!奴らは!」
「いねえ!!あいつら転送魔法か何か使いやがった!!分からねえ!!」
「なんですと!!」
藍丸がため息をしやれやれとする。
「こりゃやられたな。あと、待ちだ」
砂の壁が落ち始めると藍丸がうえっと声を上げ砂と共に落下するも突如砂の形状が代わりに滑り台となりぜえぜえと息を弾ませるサイモンの前にすべり着地する。
「おう。助かったぜ、あとお前休め」
「そう言う、わけにも」
「休め休め。何があったかは俺らから見えていた」
「な、ならなぜ」
「こ、こちらとて、がまんはああ」
「我慢?」
サイモンが歯痒くするアーバインとやれやれとまだ体力が有り余っているマルクルたちを見る。そして、ステラが歩きぐずるユナを抱いたエリスと共に来る。
「村の中は?」
「全員捕縛済みだ。加担した村民及び長老も捕縛」
「はあ?」
「私も、まだ、見る力が足りませんでした…」
エリスが落ち込み、藍丸が話す。
「ここだとエルフの力は弱まる。相性が悪い土地柄だからな。あと、あいつらの目的はこのエリスとタイシ」
「え?なら、タイシ殿」
「くうううううう」
アーバインが声を上げマルクルがその肩を叩いていく。
「奴ら砂の盗賊は金儲けをする。殺しは老人や野郎。子供女は攫うのが決まりだ。後は依頼を受けて攫う」
「ということは、その、タイシ殿は…。依頼で」
「だろうな」
「ああ。あいつもここまで来るのにしっかりと周りは見ながらきていたようだからな。そこは流石アルスラン殿が半年もかけ引き抜き、誰にも取られぬよう自分の養子にしただけはある」
「本人は自覚ねえけどあいつは出来すぎてやばいからなあ」
「ああ。だから、分かっていて連れて行ってもらった。ということでここから反撃だ」
「おう。取り敢えずお前らは休め。あと、奴隷商人たちが来るのは2日後だ。それまでに片をつける」
「一網打尽にな」
サイモンが目を丸くし、アーバインが拳を握る。
「この屈辱っ。晴らすべからず」
「じじいも元気で耄碌しねえなあ。とにかく俺らは準備する。かせいしたいならしていいが、今は休めよ」
「わかりました」
「エリス。そちらはユナがいる。そのユナを守れ。ミオはお前を庇ってやったようだからな」
「はい…」
「たく。でもまあ、あの感じだと知らねえか気づいてねえな」
「知ってたとしても今奴らにとって価値はない。ただの奴隷少女だ」
「だな。教会の依頼があれば渡すだろうけどな」
「ないですか?」
「あの感じはない。がきかよって言ってたし他の村民たちと同じ扱いしていたからな。麻袋に詰め込んで他の連中と一緒にソリにポイだ」
「…麻袋に詰め込んで…」
サイモンが拳を握り震えると藍丸が呆れる。
「ちなみにタイシは鉄格子の馬車に1人乗せられて連れてかれた」
「わかあああ!!!」
「うっせえじじい!!」
「申し訳ありません。父上。落ち着かれてください。他の者たちに面目が立ちませんから」
マルクルが呆れさとし、アーバインがくううと声を漏らした。
ーまじかよおい。
タイシがうんざりしながら男の1人の肩に担がれ運ばれるとやや乱暴にベッドに乗せられそのまま男は部屋を立ち去り出て扉の鍵をかける。
ーいやまじで誰だよ俺攫えって依頼したの。まあ…後でわかるか…はあ。
タイシが左手を動かし指を動かす。
ーまだ満足には動けないな…。仕方ない。アーバインたちが来るまで寝る。
タイシがはあとため息しそのまま目を閉じすぐに入眠した。
麻袋から出された女、子供らが全て一つの牢の中へと入れられ、ミオもまた出され乱暴に押され入れられると鉄格子の扉が閉まり男達の笑う声を聞きながら去っていく男たちの影を見る。
「旅のお嬢さん。こっち。隣に座りな」
ミオが手招く若い女の元へとよろめき向かい隣へと座る。
「きてすぐに難儀だね。まあ、私達もそうかもしれないけど…」
「いえ…。あの、ここで、集めて、そのあとはどうなるんでしょうか…」
「売りに出すんだ。助けられて戻ってきた私の叔母がいた。その時と似た状況だからきっと奴隷商人に裏に出すに違いない」
「そんな…」
「なんだか、村の兵士たちおかしくなかった?」
「あなたもそう思った?私も」
周りが話し合うも足音が響くと子供達が萎縮し女たちにしがみつき、ミオも女の服を掴むと女がミオを抱き寄せる。そして、鉄格子が開きボサノバの髪に髭の男が乱暴に入れられる。女達が若干身を引き男がいててと声を出す。
「てめえも用済みだ」
「お、おいっ、俺それなりに手助け」
「うるせえ。砂漠に磔にしてやろうか」
「う…」
男が鼻を鳴らし鉄格子の扉を閉める。
「ちくしょー」
男が大きくため息し女達を振り向くと女や子供達が僅かにどよめき身を固める。
「……そんな反応しなくていいじゃねえかよお」
ミオががくりと頭を落とした男を不思議そうに見るも女が抱き寄せる。
「近づかない。何されるかわからないから」
「こんなとこで出来るか。むしろ俺があんたらにやられるわ」
「わからないじゃない」
「だーかーら」
「マルクール?」
男がはっとしミオが目を細めじいと男を見る。
「マルクールさん、ですか?」
男がすぐさまミオの前に来る。
「そうそうっ。なんで知ってんの?」
「ギルドの手配書…詐欺師」
女達が白い目で見ていきミオを抱いた女がすぐさまマルクールを蹴り飛ばす。
「この犯罪者っ」
「ま、まじ、か。ギルドも、手配を」
「自覚あるなら騙して金儲けしたってわけだねっ」
ミオがおろおろとする。
「そ、それは、まあ、ある」
「なら近づくな」
「近づかない。つか、本当、蹴りは勘弁。俺も疲れてんだよ…」
マルクールが大きくため息しうんざり顔をする。
「…あの」
「あーもうそれ以上は」
「ガルダから、教会から、どう逃げたんですか」
「ガルダ?」
「ガルダってあの天災…」
女たちがざわつき、ミオを抱く女が眉を寄せる。
「私と一緒にいる教会の方から聞いて…」
「えー、まじ?あー、なら、そいつアサシンか」
マルクールが髪をかきうーんと声を出す。
「ま、ガルダが来るのは分かったからな」
「なんだって?」
「おっと。なんでわかったかは企業秘密だ」
マルクールが両手をあげそして下ろす。
「アサシンについてはガルダを利用して撒けると思って撒いた。それからはうまく言ってたけどなあ。はあ。まさかのダークエルフが砂漠にいて攻撃してきたもんで逃げ場無くしてこれ幸いと逃げたらそこが盗賊のアジト。俺の私物も全部取られたあとはこき使われてここだ。なんでかって、最年少の最強と言われたSランクティーチを見事に捕まえたからね」
「え?」
「今動けないんだろ?そのダークエルフの呪いで。だから、これ見よがしにで早速金持ちから依頼が来たわけだ。Sランクティーチは話じゃ異国人で本当は髪も目の色も違うと。けど実力者であることは間違いなし。そして、アストレイ国。アルスラン侯爵様の養子だぜ」
周りが僅かにざわつき、マルクールが得意気に話す。
「そして、自分もアルスラン軍第三部隊隊長の少佐ときた。おまけの子爵位も持っている。それだけ武漢と人脈をこさえてきた。それも周りには黙ってきたわけだ。あと、Sランクの実力はあれど、そのことを伏せた上に活動しているのは少し道楽もあって」
「あなたのこと嫌い」
「え?」
マルクールが笑みを固め、ミオがやや怒りながらそっぽむく。
「何も知らない話したことが会ったことがない人の事を話すなんて。そんなあなただから手配されるのも当たり前です」
「え、と」
「確かにね」
「ああ。みっともない」
「自分の自慢話みたいになんなの一体?」
女達が同情しさらに白い目で見ていきマルクールが汗を滲ませ萎縮しより縮こまっていった。
ーちくしょおおお。
マルクールが1人寂しく身を丸め角すみに転がり寝る。その周りでは女や子供達が寄り添い合い寝ておりミオもまた女に体を預け寝ていた。マルクールが体を動かしミオへと視線を向ける。
ー俺のことを教会から聞いた…。ならその関連者か。あと、見た感じここの奴らじゃねえな。となるとー。はあん。
マルクールが何を思ったのかニヤッとすると再び背を向けニヤついて行った。
ーきたな。
黒い虫がタイシの指に触れる。タイシが周りを見渡す。
ーさて、俺のところに俺を攫った依頼主が来てくれたらいいが。果たして間に合うか。
鍵が開けられる音が響くと黒いケープにフードを被った老人を連れたリーダー格の男が入ってくる。
「目が覚めてんな」
「確かにタイシ殿で間違いない」
ーこの声…。
「ドナート伯の所にいましたよね?」
「ええはい。夜会で2度ほど私はあなたをお見かけした位ですのに驚きました」
「あらかたの出席者の把握はしていますからね。そのバトラーも含めて。それでなぜドナート伯のバトラーのあなたがこちらに?」
「それは」
「頭!」
「なんだ?」
「軍が来ました!」
リーダー格の男が舌打ちする。
「女達は?」
「まだ牢の中です」
「すぐに運べっ。あとは迎え打つぞっ」
「へいっ」
バトラーが軽くため息をつく。
「ならばこちらもだ。でないと残りの金は払わないからな」
「わかっている待ってろっ」
男が出ていきバトラーがやれやれと去っていく男達を見てタイシを振り向くも突如天井が目の前に現れそのまま衝撃が走る。バトラーが顔を歪めるもそのまま意識を遠のかせ気絶しバトラーを投げ床に叩きつけたタイシがすぐさま扉を閉め扉の前に棚をやりバリケードを作る。
「あー、くそ。体が思うようにいかないってのは」
壁が壊されると藍丸が顔を出す。
「おーいたいた」
「いい時間に来た。ドナート伯のバトラーだ。連れて行ってくれ」
「いいぜ。あと、言われた通りにしてきたから行くぞ」
「ああ。と言ってもまだ足がそこまで動かないんだよな。走らないよな?」
「ないない」
藍丸がバトラーをつかみ引きずり穴へと入り、タイシが続け中へと入ると壁がまた元の状態へあたかも穴がなかったかのように戻った。
ー合図。
扉がけたたましく音を立て開かれると女達が一斉に起き子供らが唸ったりまだ眠ったままの子らもいた。
「起きろ起きろ!!!」
「すぐに俺たちについてこい!!グズグズするな!!」
ミオが怯え、マルクールが顔を顰める。
「んだよ一体。いっ」
マルクールの目の前に剣の切先が向けられるとマフクールがかたまり顔を引き攣らせる。
「手前はここに残れ!!」
「な、なんで」
その剣が突如男の腕こと切り落とされるとマルクールがすぐさま下がり男が血を吹き出す腕を抑え悲鳴を上げるも頭が床に叩きつけられ強打されると静まり返る。そして、ミオの元にいた女が胸元へと手を当て突如剣の握り手部分から出しそしてその刃を出す。
「情けない。こちらの男でもそんな情けない声なんて出さないわよ。腕切り落としたくらいで」
ショートカットの女が大型ナイフで男の腹部を切り男を強く壁に向け蹴り付け叩きつける。ミオがビクッと震え、女がミオを抱きながら話す。
「合図が出たわ。外に出るわよ」
2人がはいと返事を返しマルクールが顔を顰める。
「何が何だか」
「うるさい。あとあなたは子供持ちなさい」
「えー」
ナイフと剣の刃が向けられる。
「わ、わかりました」
「ええ、素直でよろしい。そこのあなた足怪我してるでしょ?持たせて」
「は、はい。お願いします」
「姉ちゃん」
「いい子だから」
幼い男児をマルクールが抱きため息をする。そして1人が鏡を使い外の様子を確認しすぐさま手で安全だとジェスチャーすると子を抱いた女や他の女たちも含めすぐに部屋を出て外へと向かう。
「その…」
「後で」
外からけたたましく戦う音が中へも聞こえるとミオが冷や汗を流しミオを連れた女が話す。
「経路までは?」
「もう少し」
「止まれ!」
女たちが止まった途端鞭が床を叩きつける。マルクールがげっと声を出しリーダー格の男を見る。
「あいつここのボス」
「知ってるわよ」
「くそが。潜ってやがって…」
ー潜る?
「軍の仲間だなてめえら」
「だとしたら」
「ここで全員始末してやる!」
男達が長い銃を女達へと一斉に向ける。女達が悲鳴をあげ、ミオがどきっとしその銃を見ていく。
「あれ、何?」
銃の引き金に指がかけられ引き金が引かれる。だが、突如全ての銃が暴発すると銃を持っていた男達が血が吐き出す手や顔を抑えのたうちまわりリーダー格の男が汗を滲ませる。
「なんだっ。一体なんなんだ!」
「潜ってやがってなら他にも潜っている」
リーダー格の男の首が跳ね飛ばされると跳ね飛ばしたステラがその剣を音を立てて振り血を払う。
「阿呆め」
ミオが震えその手を震わせる。女が息を吐きミオの背中をやや強めに叩くと抱き寄せる。
「それではこの先も強く生きては行けません」
涙ぐんだミオが女を振り向き女がミオを押し女達を従え悶え苦しむもの達の間を通る。
「流石だな」
「ありがとうございます。外は?」
「ああ。あと、予想通り傭兵隊が押し寄せてきている」
「どこの誰かは?」
「ドナート伯だ。以前からしつこいとミーアから聞いていたからな」
「ああ。あの無駄な色仕掛けで空ぶる女ですか」
「そこは知らん。あと勝手に言っておけ」
外へと続く作られた横穴へとくると女達が順番にはっていく。そして、出口で軍の男や村にミオたちと共にきていたギルドの男たちが引き上げ引っ張り出し医師の老婆が声を上げる。
「怪我人はこっちに連れてきな!」
「はっ」
「やれやれだ全く」
老婆がミオを見てほっとする。
「嬢ちゃん。こっちきな」
ミオが老婆を見て涙ぐみよろめき向かうと老婆が涙を落とした澪の頭を撫でる。武器を持った3人の女達も出ると、ミオと共にいた女が話す。
「隊長は?」
「指揮をとっている。ただ、本人もまだあの体だししばらくの間の足止めだ。もう間も無く彼の方の部隊が来る」
「来られるのですね」
「ああ」
女が強くはいと返事を返しステラが話す。
「お前達はここで護衛との事だ。あとは、そこのお前」
「い、はい…」
女達が白い目でマルクールを見ていきマルクールが顔を顰める。
「そんな目で見ないでくださいよ…」
「手配書の詐欺師で間違いないな。マルクール」
「えーと、まあ」
男児を姉に返したマルクールが気まずくしつつその手をかくも女3人が手首、喉、そして股間に各々の武器の刃を向けると体を硬直させさあと青ざめる。
「さて。使う前に選ばせてやろう。どこから切り落とされたい?」
「ど、ど、どこも、い、いやです」
「なら動くな。魔封じの枷をしろ」
「は」
男の兵士が近づきマルクールの腕に紋章の刻まれた手錠をかけるとその兵士が最後に同情の意を込めてなのかポンとマルクールの肩を叩きその場を離れる。
「おー、いたいた」
藍丸が布に覆われた鏡を脇に挟みその場へとくる。
「お疲れ。これ回収してきた」
「ああ。確認する」
「あいよ」
藍丸が丸い手鑑を渡すと受け取ったステラが早速自らのナイフを写す。すると鏡から鏡合わせのナイフが飛び出し落ちる。ステラが拾い上げそのナイフを見る。
「すごいな。片面でもしっかりと作られるのか」
「そうそう。あと向こうの傭兵隊がご到着だ。戦闘大勢に入った」
「ああ」
「欲まみれどもだね本当。そんなものなくても細々と生きればいいのに。嬢ちゃん。背中向けな」
「あ、はい」
ミオが背を向け老婆がミオの背中の服を軽くあげ赤あざのついた背中に薬を塗る。
「親からもらった大切な体だ。傷が残ったらいけないからね」
ミオが小さく頷き老婆がああと返事を返し服を下げいいよと告げるとミオが頭を下げ礼を述べる。そこにエリスが眠ったユナを抱き来るとミオがエリスを見て涙を流しエリスがミオを抱きしめ安堵の息をついた。
ーなぜっ。なぜっ。
鎧を着た傭兵隊たちが青ざめる。そして砂漠の小山の向こうから金獅子と荊棘の紋章が施された青い旗が見え始める。
「アストレイ、最強の…軍」
その旗の元に軽装の鎧を身につけたアルスラン、としてラダン、片目に大きな傷を残した男。そしてその周りを屈強な兵士たちが囲み足止めしていたタイシ達と戦っていた傭兵隊の元へと向かう。タイシがアーバインと共に馬になりながら声を上げる。
「撤収!!右舷!!」
兵士たちが一斉に味方のいる右側へと走り出すと遠く味方の兵たちが敵側へと向け矢を飛ばし、銃で威嚇を行う。そして傭兵たちが恐れ慄いていく。
「ラダン」
ラダンがハッとし、アルスランが話す。
「お前は私のなんだ?いえ」
「あなたの、左腕です」
「ならば何をすべきかわかるはず。私の左腕ならばな」
ラダンが僅かに胸を熱くさせアルスランが剣を傭兵たちへと向ける。
「残らず殲滅せよ。行け」
兵士たちが雄叫びをあげ馬の速度を上げるとアルスランたちを通り過ぎ先へと進む。傭兵たちが恐怖に支配され徐々に後ろへと逃げ始める。だがその中でまた向かうものもいた。そして血が流れ乱戦へと変わると撤収したタイシがその様子を眺め見ていき、アーバインが話す。
「ドナート伯は既にとらえております」
「ああ。しかし、嫌だな。血が流れて染まっていくのは。これがなくなることはないもんな」
「無論」
「はあ。あと、あのバトラーの身柄は?」
「すぐにアルスラン様の元に届けました」
「分かった。あと、俺は流石にあの人にはなれない。冷酷とかじゃなくてああいった判断が率直に出来ない。やっぱ、生きていく方を選ぶもんな」
「選択肢は人それぞれです」
「ああ」
「隊長」
女たち3人がその場へとくる。
「ご苦労。ナージャ、リーン、スジャータ。おかげで助かった」
3人がじいんとする。
「助け出された女達の様子は?怪我人」
「はい。5名ほどおりましたが軽症です」
「ああ」
「はい。それより、呪いの方は…」
タイシが手に巻かれた包帯をほどき手の指から手首まで刻まれた黒い雷のあざを見せる。
「見ての通りだ。まだ時間はあるし触らないほうがいい。何が起こるかわからない正体不明の呪いだからな」
アーバインがくっと声を漏らしタイシが包帯を再び巻き直しアルスランの軍隊に飲み込まれ消えていく傭兵の部隊を見続けた。
オアシスの村の噴水から勢いよく水が吹き出すと村のもの達が明るく声を上げ噴水に満たされその後小さな用水路へと流れる水を見ていく。そして、攫われた女、子供達が戻ると家族と再会し抱き合い涙していく。ミオもまたエリスに連れられ村へとくるとはっとしマーサが手を挙げそばへとくる。
「マーサさん」
「ああ。まあた大変だったね。こっちも知らせ聞いて驚いたし、騙された」
「え?」
「村長と複数の村人が長年盗賊団と手を組んでいたのです」
「ああ。そしてダークエルフの騒ぎがあっただろう?あれでしばらく音沙汰なしになって金が入らなくなったんで一儲けしようと今回の大騒動を起こしたのさ。ここはしばらくマーリスが管理して新たな村長を選ぶそうだ。一応マーリス領だからね」
「領なら、どうしてアストレイが…」
ミオが疑問に思い、マーサが話す。
「ま、盗賊の中にイーロンの奴らもいたから。あと、伯爵が手を貸してたことが一番だね」
「え?」
「母さん。ナージャさんが呼んでる」
「ああ。なら悪いけどまたね」
マーサがその場を離れ、ミオが伯爵と頭にハテナを浮かばせるもエリスが違う宿を借りたと告げミオを連れその宿へと向かった。
ー?
「話してなかったか」
「していません。俺だけですよ知らなかったの」
椅子に座ったタイシが呆れながら同じく椅子に座り机に向かい何かの書類を書くアルスランへと告げる。
「そうか。まあ、知ったならいいだろう」
「…はあ」
タイシがため息し、アルスランが書類を若いバトラーへと渡す。
「まあ知ったとして、俺も流石に父親呼びは」
「今のままでもいい。あと、大長とはお前の師が話したようだが全く分からん」
「こちらもです。なので、エルフのイオ。長く旅人としているエルフがあると聞きましたのでそのエルフを探そうと思います」
「イオか。確かに知っていそうだ」
「閣下。伯爵の帳簿です」
「ああ」
「裏帳簿ですか?」
「そうとも言うな」
アルスランが受け取り早速中を見ていく。
「いててててっ。またちょっ」
「失礼致します。お連れしました」
タイシが連れてこられたマルクールと連れてきたマルクルを振り向く。
「似た名前2人か」
「それをおっしゃらないでください。気にしてるんですから」
「だったら改名しろよ」
「うるさい」
「タイシ。その男の手の甲の陣を見ろ」
「ええ」
タイシがバトラーの手を借り立ち上がりマルクールがマルクルの手を差し出す。タイシがその左手の刺青として掘られた魔法陣を見る。
「エレメントの。それも古代のか。誰にほってもらったんだ?」
「知るかよ。なんつうか、俺の村がそうだったからな」
「ならば、ライアントだな。イーロン国により滅ぼされた」
「そーですよ。よくご存知で」
「口を慎め無礼者」
「うるせえ。けっ」
「ところでなんであの時俺に話しかけてきたんだ?」
タイシが尋ね、マルクールがあーと声を出す。
「まあ、若いエスランクのがどんなんか見たくて。あとは、魔剣。写して同じやつ作れるかなーって思って近づいたけどけっーきょく」
「だめだ」
「そうそのだめだだ。最終的に軍の奴らがきたからとんずらこいたんですよ」
ぬっと剣が向けられ股間へと今度は当てられるとマルクールが汗を滲ませ騎士の服を着たナージャが話す。
「ナージャ。流石にそれはよせ。こっちも冷や汗ものだからな」
「…承知しました」
「っんと、こええええ。あとどこからきたんだよ」
「タイシ」
アルスランが帳簿を向けるとタイシが受け取り中を読んでいく。
「その男はこちらが預かる」
「は?」
「え?閣下なぜ」
ナージャが驚愕し思わず告げ、アルスランが話す。
「ライアントの出自のものは天候を読み解くのに長けていると聞く。イーロンによって滅ぼされ幾数名は奴隷とされ行方がわからん」
マルクールが鼻を鳴らす。
「そうですよ。ついでに言えば俺も奴隷だったんですけどうまいこと逃げれたんでね」
「ああ」
アルスランが兵士が持ってきた巻物を受け取り中を見る。
「その運の強さも見ている。今後は私の元につけ。悪いようにはしなければ、お前が悪さしたもの達の賠償請求についても手を打てば手配書も取り下げる」
「……」
マルクールが汗を滲ませ悶々と考える。
ーどうする。だが上手い話には色々ついてくるっ。しかしだしかしっ。こいつはあのアルスラン。断った場合俺の命も……。
ナージャが舌打ちし苛立つと怒鳴り散らす。
「きっさまは男だろうがっ!とっとと言え!」
「わ、わかりました従いますっ」
「ああ」
タイシがやれやれとする。
「ならその髭と髪。後は服もだな。整えるところからだ。そして賠償金については働きながら自分で返していけよ。以上」
「なあ、なんでお前が」
「敬語っ!」
「な、なぜ、その、そちらが命じて」
タイシがやれやれとしアルスランをしめす。
「あとは任せたがあったからだ。ということでナージャ。マルクルと一緒に整えてくれ。ああ、あと、一応念押しで。逃げても無理だからな。ここにいる中にお前のその術であっても通用しないのもいるし逃げられない」
ナージャ達が頷き、マルクールが顔を顰めるもナージャが行くよと告げマルクールの鎖を引っ張り、マルクルが頭を下げ後をおう。
「やれやれだな」
「タイシ。ラダンの元に行ってくれ」
「わかりました。あと帳簿は印つけましたから」
「ああ」
タイシを今度はアーバインが支えるとアーバインが頭を下げタイシと共に離れる。アルスランが受け取った帳簿のタイシがつけた印を見る。
「印がついた箇所の流れを洗え」
「はい」
「ああ。それと、陛下の許しが出た」
アルスランが王直筆の書状を見て話す。
「罪人達を罰する。そして、ドナート伯爵及びその一派は死罪。この地方で行われる蟻地獄の刑に処す。盗賊達に加担した村長達は財産全て剥奪後、ここより南西の島へと流罪とする。以上だ。とりかかれ」
「はっ」
直近の騎士が返事を返し頭を下げ早速部下達へと指示を出した。そして、砂漠へとむけ降りを運んだ馬車が進んでいきミオがその馬車をじっと窓から見ていたがエリスが声をかける。
「ミオ」
「檻を運んだ馬車が離れてます」
「檻を?」
「はい」
エリスもまたみると小さくああと声を漏らす。
「あれは罪人の牢です」
「罪人」
「おそらく、罰するためなのでしょう。どうされるかは分かりません」
「それは」
「ミオッ。みれっ」
ユナが石を積み上げておりミオが凄いねとすぐに返すも気にしていく。だが、エリスが窓からミオを放しユナの元へと来させるとミオが複雑な面持ちでユナの頭を撫でて行った。
ーよしっ。
「間に合った!」
タイシ、アーバインが宿に入ろうとするラダンを抱きついたりなどし体を使って止めていた。
「なにが。まにあった、だ」
「その通りですからっ」
「副将軍いけませんっ。今はだめですっ」
「ではいつならいいのだっ」
タイシが呆れ返る。
「ここで謝罪をすればなら他の村民達はとなりますからっ。とにかくっ。とにかくです」
「あの、これは一体」
教会へと報告をしに鳥便を借りたサイモンが戻るとタイシが声を上げる。
「ミオへの謝罪です。だからだめだって言ってんでしょっ」
「あー、それは確かにはい。ラダン殿。ミオ様がアストレイに来られてあなたとお会いするとなられたときにしましょう。確かにあなたがなさったことに関して思うところはあるでしょう。しかし、それは知ってしまったが故。知らなかったら?」
ラダンが黙り込み止まるとタイシ、アーバインがはあと息を吐く。
「あなたにとって尊敬されている方の大切な方であったのは知ったが故ですよね?そして、尊敬されている方は?この謝罪について何か話されましたか?」
「……気にするなと」
「はい。あとこちらは、ラダン副将軍を止めろと言われてきました。申し訳ないですが、双方共に謝罪は望んでおりません。気が済まないかもしれませんがサイモンさんが話された通り、いずれはアストレイに行きます。その時に、ミオが決めます。彼女が。それまで苦しいこともあるかもしれませんが、待っておかれてください」
ラダンがだんまりとし、小さく分かったと返事を返すとタイシが頷きラダンの部下へとラダンをアルスランの元に連れて行くよう命じた。その騒ぎをエリスが聞いておりエリスがやれやれとし遊ぶユナの相手をするミオを見る。
ーあれで納得されたのでしたら良しですね。
「エリスッ」
「はい」
エリスが向かいユナの隣に座りミオと共に遊び相手になってあげた。
ードナートアルバーノ!
砂漠の中心、周りには何もない場所でアルスランの元、兵士が目隠しに白い服を着たもの達の前で書状を読み上げる。
「その者!またイーロン国のアサド外交官を隠していた上、盗賊達を使って得た金で身を肥やしていた!並びに国を騙し贈賄を行い搾取する必要のない税までを取り領民を苦しめた!これにより!その方及び加担したもの全て罪人とし!アストレイ国シンドレイ国王陛下の名において蟻地獄の刑と処す!以上!!」
「そ、そんなっ」
「お、お待ちくださいっ。私はしていませんっ」
周りのもの達が抗議するも後ろにあった檻の中へと次々と入れられ、やや小太りの男もまた入れられる。そして檻に入れられたもの達が術師達により持ち上げられると砂漠にぽっかりと空いた穴の上にくる。そこは砂が常に落ち何か黒いものがウヨウヨと蠢いていた。あのバトラーも中におり顔を青自白させていたが下ろされると周りと共に悲鳴をあげ最後にその穴に到達した途端黒い小さなあり型のモンスターが一斉に波となり罪人達を飲み込む。それを髭と髪を切り身なりを整えたマルクールが汗を滲ませ顔をしかめながらマルクル達の元で見ていた。
「あんたらこんなこと日常的に」
「していない。今回は陛下もお怒りなんだ」
「なんでまた…」
「臣下が裏切ったのよ。当たり前じゃない」
ナージャが告げ、マルクルが頷く。
「当たり前ね」
「なんとなく予想はしてたがその通りか」
タイシが松葉杖をつきその場へ来ると蟻地獄を覗く。
「マルクール。ミオのことはどこで知ったんだ?ナージャからどうもミオを妙な目で見ていたと聞いたからな」
「はい」
「はあ。まあ、貴族たちの話を立ち聞きしてですよ。確信までは行きませんでしたけどあなたがいて、でまあ雰囲気と言いますか。他の女達とどことなく違った。あとは、あの盗賊達も探してたんでこれもまた聞こえてきたんです。近くに聖女の娘がいるはずだと。今回、まあ、それだろうで手当たり次第若い女を攫ったのはそのせいです」
「ああ」
「でもまさかまだそれより若いとは死んだあいつらも思ってなかったはずです」
「なら、多少逸脱はしているわけか」
「んー、まあ」
マルクールがどうだろうと言うふうに告げる。
「あんたがあの場でミオ様について話したら私はあんたの首を切り落としてたわ」
「こええこと言うなよ…」
鐘の合図が響くと魔術師達が檻から離れ始めた蟻たちを確認しその檻を上げる。
「うーわ。やだなあ」
丸カールが引き上げた檻を見る。そこにはまだうぞうぞと蟻が蠢きながら血に濡れ骨とかしたもの達をいまだにむしゃぶっていた。
「あれ。あの骨はどうするんだ?」
「印のついた腕輪がある。その腕輪の親族に引き渡す。もし拒絶された場合は教会に渡す」
「ああ…」
「あり達が上がってきました」
「げっ」
ありが餌を求め上がり始めると魔術師達が火焔を使い焼き払い追い返す。そして、他の兵士たちが肉を蟻地獄に放り投げそちらへと向かわせる。
「行くぞ。マルクル。あとでマルクールを俺がいる宿に連れてきてくれ」
「はい」
「ナージャ。そっちはまた偵察に戻ってくれ。急に呼び出して悪かったな」
「いいえ。タイシ様のためならばどこからでも」
「へ」
ナージャがにこにこしながら吐き捨てたマルクールの足を踏みつけるとマルクールがしゃがみ足を抑える。マルクルがやれやれとし、タイシが気まずく話す。
「…じゃあ、解散」
「は」
「またいつでもお呼びください」
「ああ」
マルクールが涙目で呆れタイシが背を向けアルスランの元へといき宿に戻ることを伝えると兵士の乗る馬にまたがりその場から護衛の兵士たちと共に離れた。
ーはげっ。
タイシの前でユナが立て続けに肩車されたハゲのギルド長の頭をニコニコしながら叩いており、ミオが慌てふためきその周りを回っていた。タイシがやれやれとしアーバインが話す。
「どうされたのですその怪我は?」
「うん。色々あっての怪我だから気にしないで」
「盗賊達のことですか?」
「そお。こっちもそこまで目は行き届かないっての」
ギルド長がため息をする。
「だもんで責任持っての後処理をこっちですることになったんだな。あと、マルクール。手配書のも捕まえたときいたから取り下げるよ。それと誰が捕まえたでいいかな?」
「俺の部下のナージャですね。俺から渡しておきます」
「ああ。なら頼むよ」
「ユナ。ユナもうダメ」
「いいよいいよ。おっさんの頭くらいどーてことないから。でも他の人の頭はだめだからね。おっさんの頭だけだよ」
「うんっ」
「よおしよし」
「ギルド長。護衛はここまででいいです。マーリスまで、あとはアストレイ軍が護衛することになりました」
「オッケーオッケーいいよ。あとこっちもそうしてくれたら助かる。ただでさえ人手不足なのに更に人手不足になるからさ。まあ、しばらくは盗賊達はいなくなるだろうからその間に修復修繕作業と怪我の治療やしなきゃだからさ」
「ですね」
「そうそう。こっちも明後日までここでしかしてまた戻るから。だから、マーリスまだ一応気をつけといてね」
「はい。ありがとうございます」
「どうも。さあてユナちゃん。おっさんもう仕事だからさ。下ろすよ」
「えー」
「まあた会う時ねー」
ギルド長がユナを下ろしミオに渡すとそいじゃと手をあげ待っていたギルドの護衛達と共に宿を出る。
「あの方がギルド長の上というのがどうも信じられなくて」
「みた感じじゃない。でも、周りよくみてるししっかりしてる。あと、悪いが話した通りだ。このままアストレイ軍とマーリス国首都マシュリアに向かう。理由として俺がまだ動けない。砂漠超えがあと2日。そして、旅費節約と、まあここは俺の私的な事で。ミオを侯爵家に預けたら一旦アルスランさんのとかに行くから」
「その、どうしてですか?」
「貴族関係の仕事だな。その後は呪いを解く方法を調べるから国立図書館に行こうと思う」
ミオが目を丸くし、エリスが話す。
「私は2度訪れたことがあります。確かにあそこなら何かわかるかもしれませんね」
「ああ。この大陸中の本が集まっているからな」
「その、国立図書館は、どこに?」
ミオがどきどきとし尋ねる。
「ああ。この先のマーリスにある。ただし、一般入館料がある」
「え?」
「はい。本の保存や保護のための維持費です」
「その通り。だから、1日の入館料が200銅貨」
「パン、10個」
「まあそうだな。ただしじゃないがギルドのあるだろ?」
ミオがさっとカードを出し、タイシが頷く。
「そう。それがあれば50銅貨値引きされて150だ。完全無料に関してはAランクになってからになる」
「なら、タイシさんは無料ですか?」
「ああ。ちなみにギルドが護衛やら警備やらしている施設や建物はそういった特典がついてくるからそれを見せる時は見せたらいい。見せて使えますかと尋ねたらそれで十分だ」
「はい」
「ああ。あと、マーリスにその図書館はあるがミオは侯爵家に世話になるからな。時間がある時や、許してもらった時に誰かと一緒に行くように。1人では行くなよ。いいな?」
ミオがはいと返事を返しタイシが頷くとエリスへとこれでいいかと尋ねるとエリスがはいと返事を返した。
翌日ー。
ミオがキャラバンの馬車に乗ると外で老婆の医者が手を向け、ミオもまた手を向け握る。
「気をつけていきな。あんたはまだ若いし色々飲み込みも早い。そして、人生楽しくだ。いいね」
「はい。先生も体に気をつけて長く生きてください」
「ふふ。ありがとうね。ならまた会えるまでお互い元気でね」
医者が手を離しミオがはいと返事を返し手を引いた。そして、馬車が軍達と共に村を離れる。ミオが見送りに来た村人達へと頭を下げ離れていくその村を見る。
ーお母さんもきたのかな…。
「ミオ様」
ミオがドキッとしアーバインが話す。
「馬車の中に。砂が目などに入ります」
「あ、はい」
ミオが中へと入り幌をしめほおと息を吐き眠るユナを抱くエリスの側に座る。
「ミオ。私はユナを連れてエルフの村へ行きます」
「マーリスの?」
「はい。タイシさんの件でです。理由を話し協力をお願いしたいと思います」
「分かりました。その、なら、侯爵家に着いたら私1人ですか」
「はい」
「……そうですか」
ミオがしゅんとしエリスが話す。
「いろいろ学ばれてください。未来で役立つことは必ずあります」
「はい」
エリスが頷きミオを抱き寄せ頭を撫でミオが不安な面持ちをし撫でられながらその目を閉じた。