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運命のミオ  作者: 鎌月
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砂漠

ー息苦しいけど我慢…。

ミオがマスクをし細かな砂が飛ぶ追い風をタイシ達とともに進んでいた。そしてユナはエリスが出した風の精霊に守られながらタイシの背に背負われており、タイシが一度背負い直すと剣を出す。

「ここから来ますし来てますよ。砂漠に長けた魔獣たちが」

黄色の砂の色と同じ毛皮を持つ狼達が走りこちらへと迫ってきていた。サイモンが魔剣のダガーを出し、エリスは大型ナイフを出す。タイシがミオにユナを渡す。

「エリスさんはサポートと2人の護衛お願いします。俺とサイモンさんで前方相手にします」

「はい」

「ミオたちは後ろ向いとけ。あいつらは群れで行動するしずる賢くてな。隠れてきた味方が隙を狙って後ろか、横から攻めてくる。きたらすぐに教えろ」

「は、はい」

「後牙と爪は即効性の麻痺毒だ。痺れるし下手したら呼吸もままならなくなるからな」

ミオがこくこくと頷き真剣に後ろや横を見渡す。そして前方をタイシとサイモンが動き砂狼を切り裂く。

「すごいいい切れ味ですね」

「ダリス枢機卿に感謝ですね」

「うっ」

調子に乗っていたサイモンが汗を滲ませタイシがやれやれとし飛びきた砂狼を蹴り飛ばし下でまだ蠢く狼の喉をから絶命させる。ミオが恐々とし、ユナがじいとみるも地面が膨れる。

「チタア!」

「え?」

エリスが2人を宙へと風で飛ばし上げると巨大な蛇が姿を見せる。タイシが驚き、サイモンがはっとする。

「ミオさっ」

「前々!」

サイモンの腕に狼が噛み付くとタイシがすぐにその頭と体を首を切りさき離した。

「くっ、つっ」

サイモンがその場に倒れ、エリスが後方から来た狼を見て魔剣を出す。

ー水よ。

エリスの魔剣に水が宿るとエリスが横へと一閃する。すると蛇と狼の動きが止まりそのまま真っ二つに切り裂かれその場に倒れる。タイシが痺れ動けなくなったサイモンを担ぐ。

「何かおかしい」

「は、はひ」

「サイモンさんは黙って。もう少ししたら休めるところがあります」

エリスが2人を下ろしミオが心臓を跳ねさせる。

「エリスさん助かりました」

「いえ。ユナが教えてくれなかったら私も気づきませんでした。あと、砂狼は砂蛇と狩りをするのでしょうか?」

「いえ。本来なら行わないし、俺も初めて見ました。まあとにかく今はサイモンさんの回復です。もうすぐ休憩所が見えますからそこまでいきましょう」

「はい」

「ええ。あとミオ。爪でも引っ掻かれればこうなる。無闇に砂狼もだが他の魔獣にも近づくな」

サイモンがぜえぜえと呼気を苦しく弾ませながら頷くとミオが汗を滲ませこくこくとうなずくも今度はおろおろとした。


小屋の休憩所でサイモンがごくごくと解毒薬を飲み、休憩所で待機している医師がサイモンの腕の治癒と治療を行う。

「またあんたも元気だな。腕噛まれて意識あるやつなんざそういないぞ。大体死にかけか、意識失ってくるからな」

「ほ、ほう、れふ、か。あー」

「まあだしばらくは痺れるさ。1時間したら良くなる」

サイモンが頷き、タイシがミオ達へと麻痺薬を見せる。

「これが今サイモンさんが飲んだ解毒薬だ。解毒薬といっても魔獣の種類によって使い分ける。全てこの一本で効くわけじゃないから覚えとけ」

「はい」

「あーい」

医師がやれやれとする。

「知らないからに覚えさせながらも大変だな」

「はは…」

「砂狼ですが、数が増えていませんか?」

そばにいたエリスが尋ねると医者が頷く。

「ああ。増えている。そしてなぜか、魔獣同士が結託して狩もしていてな。あんたらが遭遇した砂狼と砂蛇はその一つだ。一番厄介なのは砂鳥と砂魚だ。なぜか砂鳥が魚どもを運び襲う」

サイモンが驚き、エリスが話す。

「人為災害ですね」

「ああ。だもんでギルドが原因究明で動いている。だがまだわからない。だもんで、砂を渡る商人達の被害も多くここの所はキャラバンも出ていないそうだ」

「え?」

「て、どれだけ?いつから?」

タイシがすぐさま振り向き、医師が考える。

「半年だ。半年前から出ていない。なので、中継地点のオアシスには高いが鳥を使うかしているが。今度は砂鳥が現れて飛ばせなくなったから荷が運べていない。なので、ギルドのAランクからSランクのマーサが運んでいるんだ」

「ええ」

「ただ、流石に限界もあるから、そろそろ本格的な原因究明のため人員を集めていると、聞いたな」

タイシが頷きサイモンが頷く。

「タイシさん。他国のギルド同士で集めたりされないのですか?」

「ん?ティーチじゃないのか?」

「それはギルド名ですね」

「そうかい。ま、名を隠すのもいるからな」

「ええ。あと、他国のギルド招集について、難しいし金がかかるんですよ。俺みたいな野良ハンターは行き着く先々でいれば良いんですけど、他国からギルド要請をする際は人件費もかかればその分の準備費用も全て呼んだギルド持ちになります。よほど出ない限りはしませんし、その調査で失敗した場合はおそらく召集はかけるでしょう。ですがその費用負担を考えると、おそらく町の金が半分減るでしょうね」

「ああ。だもんで、どうにか現地ギルドでしなきゃならないし、俺ら医者もまあ、仕事があっていいがこうも怪我人ばかり見て休むこともできないからな」

サイモンが苦笑し、エリスがサイモン以外に襲われて怪我を負った旅人や商人達を見る。

「まだここはいいが街は酷い有様だ。弟も医者なもんでね。今不眠不休らしい」

「ひゃい…」

「なんでこううまく行かないのか…」

タイシが腕を組み悩み、医師が話す。

「まあ、よかったら街に行ったらギルドにすぐにでも行って欲しい。Sランク2名いるなら心づよい」

「こっちも、キャラバンが必要ですからね。わかりました」

医師が頷きタイシがやれやれとした。


大きなボウガンを手にした屈強な女がギルドへと入ってきたタイシを見てにいとしカウンターのギルドの男の手を叩き向ける。

「ほら私の勝ちだ」

「ま、まじか」

周りがざわつきタイシがやれやれとし口元を覆ったマスクを外し金を受付の男からもらう女の元へとくる。

「マーサさん。俺でかけないで下さいよ」

「悪いね。あと聞いたよ」

マーサがタイシの肩に腕を乗せる。

「また龍を退治したってね」

「自慢出来るものじゃないですけど」

「自慢しな」

マーサがタイシに耳打ちする。

「片足を失った目立ちたがりのバカがあんたを狙ってるよ」

「また面倒ですね」

マーサがタイシの肩を叩き離れる。

「雷龍で名をあげようとした奴らのせいで向こうのギルドは大変だそうだ」

「ええ」

「まあその対応もするのもギルドだ。あと、あんたがここにきたってことは誰かに聞いたかい?調査に入ること」

「はい。ここにくる前の診療所で。魔獣同士が結託して狩りをしている」

「そうだ。本来ならあり得ない行動だ。だから、教えている奴がいる。それも腕の立つ魔獣使いか何かのはずだ」

マーサが手を離す。

「あと、あんたは受けてくれるかい?」

「受けないといけない事情が俺にもあるんですよ。砂漠越えをしなきゃならなくなりましたから」

「ならない?」

「ええ。依頼主の件で。今はその依頼主と一緒に旅をしてますから」

「へえ。あんたを雇うってことは余程だね」

「はい」

「ああ。あと、確かに今その魔獣達のせいでキャラバン達が砂漠を渡れなくなっていれば、以前にまして砂漠越えも厳しい状況に陥っている。私やaランクで向こう側のオアシスへと運んだりしていたがそれもままならなくなった」

ギルドのもの達が頷きマーサが話す。

「だから今回の調査。そして、その原因の元凶を見つけたら即討伐する。危険度はSプラスだ」

「分かりました。なら、加勢します」

マーサがよしとその肩を叩く。

「なら人員編成を変える。決行は明後日だ。今日の夜と明日の夕方の会議に出てくれ」

タイシがはいと返事を返しマーサが心強い笑みを浮かべた。


ーと言うことで。

「調査と討伐に加わることになりました」

宿へと戻ったタイシがサイモン達を前に告げる。

「はい」

「ええ。あと、あの槍使いさんもやはり恨んできましたね。ところであわれたことはおありですか?」

「一度だけありますが特にといいますか」

タイシがやれやれとする。

「何も話したこともない相手です」

「はい」

「その、砂漠の魔獣ですけど」

「ああ」

タイシがミオを振り向き、ミオが話す。

「どうやって砂の中を動くんですか?魚は川や海と言った水でしか動かないのにと、思いまして」

「ああ」

「ちなみにあの蛇もですね。私も魔獣に関して少し疎いですから教えてもらいたいです」

「ええ。まず、砂魚は強固な鱗で身を守っています。その鱗全てが様々な動きをするんです。掘る。切ると言ったことを。それを砂の中でも繰り返して泳ぎますので体当たりされたら最後。下手したら鎧ごと肉が下されます。はい」

「なかなか恐怖な魚ですね」

ミオが汗を滲ませこくこくと頷く。

「ええ。なので、ここの人たちはその魚を罠に嵌めて討伐させた後の鱗を鎧や剣にするんですよ。あと、暗殺用の道具としても重宝されます」

「へえ」

「たぶん、サイモンさんも使われたことがあると思いますよ。手の中に隠せる小型の飛びナイフのようなもの」

「あれですか。なるほど。だから少しそりがあって刺せば抜けなくなるんですね。返しがついてて」

サイモンがハッとしじいと見るミオを見て軽く顔をそらす。エリスが小さく笑いタイシが話す。

「返しについては加工した職人技です」

「そうですか…」

「はい。ただ、そのナイフの難点として少し重たいんですよね。元の鱗も重たい。だから、砂魚は全身の肉がほぼ筋肉で硬いんだ」

「へえ」

「でもそれも珍味で高級魚として扱われていますよね?」

「え?」

エリスが話しミオが驚く。

「その通り。内臓については特に甘味が強く美味いんだ。そして、一匹10銀貨で取引されている」

「おー」

「なら、10匹とれたら、金貨一枚」

「ああ。でも魔獣の討伐ランクはAだ。ちなみに今日襲ってきた砂狼はB。砂蛇はCになる。素材としても特になもので砂狼については討伐した状態が良ければ毛皮が高値で売られる」

「砂蛇は?」

「特にないな。ただ、砂蛇の中には亜種と言って色違いの力が強いボスのような奴がいる。そいつの皮は他の砂蛇と違い丈夫で長く持つから高値で取引されている。亜種についてはBプラスにランクが上がる。そして魔獣もまたランク付けされているからな。ランクが上位になるほど素材の質が高かったり、強い魔獣だったりする」

「じゃあその、タイシさんが倒された雷竜は?」

「あれはSSだ。龍は強く素材についても龍が使用した術がその鱗や角に宿っている。だから、魔物素材としても極めて珍しく高額取引をされる代物だ。ちなみに俺はあの雷竜の爪を素材に早速ワルシャワのミオもあったドワーフのガルドさんに加工依頼をした」

「それは、武器ですか?」

「不明」

「え?」

「素材の声を聞いて体に身につけるものか。もしくは攻撃するものかを決めるらしい。他のドワーフ達もそうだ。通常の鉱石やBランクほどの素材なら防具か武器かを選べるが、Aからその上については素材の声を聞いたドワーフがその素材にあったものを作る。だから、出来上がるまでどんなものになるかわからないんだ」

「そうなんですね」

「ああ。ついでに魔剣もそういった奴にもなる」

「はい」

「ああ。あと、砂の中でも動ける。息ができるのは止めているからだ。息を長く。だから必ず息を吸うために上。地上へと上がる。その時を狙って討伐するんだ。水の魚達はえらといって水の中の微量な空気を横にある循環装置のような場所を通らせて空気を吸い込んで呼吸をする。だから、魚達も水の中に空気がなかったら死ぬ。ただ、水の中に空気があれば飛び上がって呼吸せずとも生きられる。けれど砂魚は別。俺たちのように地上の空気がなくちゃ生きていけない。だから、息を止めて砂の中を潜り苦しくなったら飛び上がり息を吸い込みまた潜って移動する。ちなみに、あいつらも睡眠があって寝る時は息ができるよう地上に横たえて眠る。それも群れでだ。だから、寝ている砂魚には決して近づくなと言われる。近づいて気がつかれたら最後。相手がくたばるまで追い続けて殺して食うからな」

「…はい」

「本当嫌な魚ですね。もしかしてここにもくるかもしれませんか?」

「えっ」

「突破網を超えたら来ますね。この街の壁の下には特殊な鉱物出てきた壁が埋められているんです。それによって砂魚を防いでますが砂鳥が運んでくるとなるとその意味をなさない。だからこそ、急いでいると言われてました」

「となると、最近あった現象というわけですね」

「ええ。ここではなく10キロ先で」

サイモンが頷きエリスが話す。

「そのようなことになった場合、私は2人を優先してここから離れます」

「お願いします」

ミオが恐々としユナがきょとんとするがミオが抱きしめるとユナがどうしたのと頭をミオの体に当てた。


ーやめなさいヤルス!!ヤルス!!

ワルシャワでギルドの塔の半分が破壊され、ギルド長が中で壁に血塗れで磔にされか細く呼気を弾ませていた。

ーヤルス……。

「ギルド長!!」

男達が瓦礫を乗り越え腹部を槍に刺されたギルド長の元へとくるとすぐさま下ろしにかかる。

「あ、いつ、は。うっ」

「わかりません。突然消えました」

治癒師がすぐさま治癒を行い医師もまた止血を施しにかかる。

「て、はい、を。Sプ、ラス。魔神の、足を」

ギルド長が咳き込みながら血を吐く。

「てぃー、ち、にも。は、やく」

「はいっ」

ー誰が、あいつに、魔人の足を…。あれさえ、なければ。

ギルド長が悔しく拳を握り締めた。


タイシが武器の確認をするとマントを身につけマスク、そしてゴーグルを首に下げる。

「なら行ってきます。お願いします」

「はい」

「気をつけてください」

「はい。気をつけて」

タイシが頷き手を振るユナへと手を振り替えし外へと出る。ミオが心配な面持ちをし、サイモンが話す。

「中々思ったように進みませんね」

「はい。後こちらも万が一に備えておきましょう」

「そうですね」

「はい。ではミオ。ユナ。荷物は必ず使えばカバンの中に入れてください」

「はい」

「はーい」

エリスが頷きサイモンも今度は足手纏いにならないようにと武器や道具。もらった解毒薬の数の確認を始めた。


ーなら、出立!

マーサが先頭に立ち、最後尾をタイシが歩く。その間をAとBランクのものたちあわせて八名おり、皆が緊張した面持ちで常に各々の武器に手を触れ進んでいた。


魔神の腕を眺めるリリーが椅子に座っていた。そこは砂漠の盗賊の元はアジトで中には破壊された机などがそのままの状態で散乱していた。そして、教会のアサシンの男。足が魔人の足となったヤルスが槍を手にし壁を背に立っていた。

「ギルド達がきた」

ぬっと黒づくめの者が姿を見せる。

「その中にティーチは?」

「いる。そして、マーサ。Sランクはその二名だ」

ーなら、あの小娘も。

リリーが拳を握り、男が話す。

「邪魔な異分子を排除さればこちらは立ち去る」

「構わない。エスランク。そしてギルドの強者達が邪魔ばかりをしてどうしようもないからな。おかげでこちらの計画も遅れている」

黒い肌のエルフが鋭く睨む。

「人間とでは打ちたくはなかったが、邪魔なものの始末をしてくれるならば致し方がない。殺したら去れ」

エルフの男が離れるとリリーが話す。

「魔に落ちたエルフ。なぜ?」

「恨みつらみの重なりだ。お前達と同じでな」

ヤルスが舌打ちし、男が話す。

「邪魔なものだけ始末しろ。リリー。目的を忘れるな」

「…分かった」

男が頷きリリーがやや奥歯を噛み締めたが息を吸い吐き出す。

ーティーチ。奴を殺せばあの子娘。どう思うだろうな……。


ー俺完全に恨まれてるな。

タイシが投げたコインの裏を見てため息をし、Aランクギルドの女の魔術師が話す。

「それでわかるの?」

「まあ、運試しみたいなもんですね。あと、勘。いやーな予感がしてたまらない」

「あんたが言うならよほどだね」

マーサが話、タイシがやれやれとし頭をかく。

「魔人の腕を持つリリー。そいつが追手として来てるはずです」

「Aのか。なぜ?」

「依頼主に恨みがあるから。ただし、その恨みは逆恨みによるものです。そして、それは魔人の腕を持ってしまったが故より濃くなっているはず。魔人の腕は恨みを餌に成長しますので持ち主の恨みを引き出すために力を使います」

「なるほどね。あと、さっき鳥便が私の元に来ただろ?」

「ええ」

「あれ。ワルシャワでヤルスがギルドを襲ったんだ」

「片足ないですけど…まさか」

「そのまさかさ。奴は魔人の足を持ったらしい。何処のどいつの仕業か知らないが、ギルドの連中を庇ったギルド長が重症とのことだ。そして奴は手配された。それもSプラス」

周りがざわつき、タイシが嫌な顔をする。

「と、言うわけで。ぜっーたいお前のところにくる。お前はそいつを相手にしろ」

「了解…」

「ああ」

「マーサ」

マーサが天秤を持つ魔術師の男を振り向くとその天秤が傾き始めていた。

「きます。すぐに」

男の首が切れかけるがタイシがその刃を弾く。男が首を抑えすぐさま治癒し、マーサが弓を握る。

「おいでなすった!!砂鳥どもだ!」

砂魚を運ぶ砂鳥たちが突如として現れる。そしてタイシが姿を見せた槍を持つヤルスを見てうんざりとする。

「話したことないんですけど?あなたと」

「黙れ!!」

ヤルスが槍を何度もつくとタイシが寸前で避け剣で薙ぎ払いヤルスの内側へと入り腹部に手のひらを当てる。

ーはっけいっ

ヤルスが吹き飛び砂を転がるも止まるが血を吐き出し咳き込む。

「結構強めにやったけどな」

「っ」

タイシがリリーの剣を避けるとすぐさま背中に蹴りを当て叩きつける。リリーが苦痛に顔を歪めるも立ち上がりタイシに剣を振り翳し、ヤルスもまた槍をタイシへと向け何度もつく。マーサがその様子を見てすぐさま声を上げる。

「こいつらがきたなら近くに元凶もいるはずだ!!バズー!いけるかい!」

先ほどの天板の男がはいと返事を返し術を使い捜索へと入る。

ーなぜ当たらないっ。

ーこのっ。

2人が同時に突き、振りかざすとタイシがそれも避け2人の胸ぐらを掴みお互いの頭をぶつけ合わせ首へと追撃を浴びせる。

「がっ」

ヤルスが声を出し、リリーが視界を暗転させその場に倒れるとヤルスが苦しくうめきリリーが動かなくなる。

ーあまりにも、差がありすぎる。なんなんだやつは。

砂に隠れ身を潜めた男がぞっとし鳥肌を立てる。そして、黒いエルフが奥歯を噛み締める。天秤の男がその男達がいる方角を見る。

「東南東!!マーサの正面です!!」

男が舌打ちしマーサが弓を引き絞り矢を放つ。男がすぐさま逃げエルフの男がその場に立ち睨んでいく。そして矢が分裂し幾重もの矢の雨となり一体に降り注ぐ。男が寸前で交わしエルフの男が矢の雨を浴びながらも立ちその矢を握りへし折る。

「人間が…」

タイシがぞくぞくとしマーサが飛び来たエルフの剣の一撃を受け止める。

「この人間が!!」

「っつう」

マーサが押しやり、タイシが鎖を手にする。

「ダークエルフか。それも長クラス」

「2人とも砂鳥たちが街の方に!!」

タイシ、マーサが通り過ぎ町へと魚を運ぶ砂鳥たちを見る。

「はっ。まだまだ行くからな!」

黒い雲がエルフの後ろから現れるとマーサが汗を滲ませ、タイシがんーと声を出し汗を滲ませる。

ーあれは多いな。どうするか。

エルフがタイシへと今度は向かうとタイシが空間から槍を出し砂鳥たちへと向け力強く放りすぐさまエルフの剣を横へと跳び交わす。そして槍が暗雲となった大量の鳥達へと行き着くと電気を纏い暗雲を雷が襲う。エルフがすぐに後ろを向き、砂鳥、砂魚が電撃を浴び今度は燃え盛る。

「さすがガルド。いい仕事」

「きっさま!」

エルフがタイシへと剣を振り下ろし今度は風を掌に集め竜巻を作る。

「詠唱無しかよっ」

タイシが突如現れた砂の竜巻の中に飲み込まれる。

「ティーチ!」

マーサが叫ぶもエルフがこちらへとくるとすぐさま火の矢を放つ。

「無駄だ!」

エルフが矢を塞いだ途端矢が突如爆発する。マーサが鼻を鳴らし、エルフが怒り姿を見せる。

「無傷。恐ろしいね」

「小賢しい!!」

「雷竜も言ってたぞ」

エルフが後ろを振り向き若干擦り傷を負ったタイシが服についた砂を払う。

「小賢しいと。あと、よく考えたらエルフだからな。精霊を使うのが得意だった。あと、まあどうあれ時間がない」

タイシが髪を元の黒へと変え瞳も変えると二振りの剣を出す。

「さっさと終わらせる」

「できるものならやってみろ!!」

エルフが砂のかまいたちを放つと下に放たれていた砂魚ごと切り裂きタイシへと向かわせる。タイシが二振りの剣を光らせそのかまいたちを切り裂き姿を消す。

「なにっ」

エルフの後ろに立つとエルフが振り向いた途端腹部に剣の柄が当てられる。

「痛いぜこいつはよっ」

柄が光った途端エルフが回転しながら吹き飛ばされる。そして砂山にあたり砂があたり一面に舞うとエルフが血を吐き出し剥き出しとなった腹部を押さえ倒れる。

ーお、のれ。せ、いれい。力、を。

エルフがその目を見開く。

ーせ、い、れい。

タイシがやれやれとし、マーサが話す。

「何したんだい?」

「肺に衝撃を与えたんです。精霊を呼ぶにはマナと呼吸が必要と以前エルフから聞きましたからね」

「へえ。そりゃ初めて知った」

「マーサっ。街へ行った奴らはっ」

「残った奴らに任せるっ。後タイシが対策をしてはいるそうだっ」

「ただうまく行かなかったらもあるのでとっととこいつら縛り上げて戻りましょう」

タイシが向かうも黒い炎が上がるとすぐにマーサと共に避ける。マーサがやれやれとしタイシが殺気立ち睨み付けながら魔人の足に黒い炎を宿すヤルスを見る。

「あんたも大人しくすりゃいいのに」

「あっちもですよ。またよく立てた」

震えたつ、エルフを見ると息をつく。

「お、のれ。にん、げ、んが」

「街に向かわさせた奴らはギルドが抑える。大人しく捕まって」

エルフがおかしく笑う。

「あれ、だけと、おも、うか?」

タイシがやれやれとし、エルフが街の方角を見るも突如目を見開く。マーサがそれを見て同じ方角を見ると眉を寄せる。そこに光のドームが現れていた。

「うまく行ったな」

「な、ぜ。まさ、か」

タイシがエルフを振り向きエルフがよろめき進む。

「あ、おい。あそこ、にいる、のか」

「…」

「葵って言うと、確か聖女」

「ええ」

ヤルスが槍に黒い炎を纏わせふるうとマーサが剣で弾くもその剣が折れる。

「やっぱ魔神の炎はやばいね!」

今度は矢を至近距離で放ちヤルスを射抜く。ヤルスが矢を引き抜くとその魔人の足が瞬時に腹部までその黒い皮膚を纏わせる。

「ちょいと」

「半分行きましたね。それ以上行くと飲み込まれるぞ!」

「黙れくそどもが!!」

「あお、い」

タイシがため息をしエルフを見る。

「聖女葵は死んだ!あそこにいるのはその娘だ!!」

エルフが止まりマーサが目を丸くし周りが驚く。

「し、んだ」

「ああ。後俺はその護衛だ。何も知らないわからない。教育の場もない場所で育ったからな。だから、そのための旅でお前が」

「アルスラン」

タイシが止まりエルフが顔に手を当て震える。

「アルスラン。アルスランアルスランアルスラン!!」

エルフが爪で自らの顔を傷つけ怒りさっき立つ。

「あの男!!私が手に入れるはずだったのに!!私の葵だったのに!!」

「は?」

「つまり嫉妬かい?見苦しいね」

「奴が葵をとったっ。奴が私の村を焼き払ったっ。あの男っ。あの男っ。その娘だとっっ」

ぬっと影がエルフを覆うとマーサが目を見開く。そしてエルフが黒い剣を取り出す。

「死ね!!アルスランのむっ」

言い終える前に首が跳ねられ砂山を転がる。体が落ち黒い剣も砂へと落ちる。タイシが冷や汗を流すがにいと笑い、巨大な剣を持ったラドンがタイシを見て不敵に笑う。

『久しいな小僧。賑やかと思えばお前がいたか』

「久しぶりだなラドン!」

タイシがすぐさま向かいラドンが咆哮する。すると衝撃破が周りを襲う。マーサがすぐに結界を張り防ぐもヒビが入るとぞっとする。

「これが、S3」

『うるああああ』

マーサがほぼ魔神化した襲ってくるヤルスを見て舌打ちしタイシたちを見る。

「あんたの恨む相手はむこうだよ!!」

マーサがヤルスを掴み力強くタイシ達へと放り投げる。

ー奴はダメだな。

男がリリーのみ回収し姿を消し、ヤルスがタイシを見つけ襲いかかるもラドンがそのヤルスを睨みつける。

『邪魔だっ』

ラドンがヤルスを掴み片手のみで握りつぶし五体をバラバラにさせる。マーサが両手の治療を受けながらゾッとし、周りのギルドも恐怖で固まる。ラドンがすぐさまタイシの剣を受け止めにいとする。

『多少は力がついたな小僧っ』

「あんたをさっさと仕留めたいからな!!」

『言ってくれる腰抜けが!!!』

「ずっとただの腰抜けだと思うなよ!!!」

お互いに強く撃ち合いそれが徐々に目で追えなくなるとまわりが立ちつくしていく中、エルフの口がモゴモゴと動いていた。


ーお母さんが教えたお守りの言葉は俺の故郷の国の宗教の祈りの言葉だな。

ーそうなんですか?

ーああ。ここにはない。ただそれもまたもう向こうでは邪気祓いになるからな。なら、試してみるか。もしかしたら役に立つかもしれない。

「祓え給い、清め給え」

若い枝葉を前にミオが白い輪の中で両手を合わせ祈る。

「神ながら守り給い、幸え給え」

枝が光るとミオが驚いた途端光が強く辺りを飲み込む。そしてその光が宿の間からさらに外側へと広がり街の周りに設置した若枝を印に止まる。サイモンがはあと驚き声を上げるも突如座り祈りを捧げる老人達をみる。

「聖女様」

「聖女様がまたこの街をお守りに」

ーまた?

砂鳥達が現れ魚が落とされる。すると光を通った魚が次々と力無く街の地上に落ちびたびたと潜ることもできずはね、砂蛇もまた近づけず光の外側で身を出しオラオラとしていたがその隙を狙いギルドのもの達が動き討伐を始める。

ー魚一匹10銀貨だ。

ー珍味でしたね。

エリスが目をきらりとさせ瞬時に魚を引き寄せるとサイモンがうわと面白く声を上げ魚を仕留めようたしたギルド達が驚くもエリスの元に魚達が落ちくるとエリスが頑丈な針を出しエラに差し込み仕留める。

「有効ですね」

「よ、横取りずるいぞ姉ちゃんっ」

「なら五匹は譲ってください。あとはいいです。それと、私このお魚好きなのです。食べ物として」

エリスがにこやかに針を出し突き刺していく。

「一度、満たされるほど食べてみたかったのです」

「そ、そうか」

「きいい」

砂鳥たちも落とされていくと街のもの達も加わりすぐさまトドメが刺される。そして、ミオが真剣に祈りを捧げユナがミオのそばに付き添い光る若枝を右、左と振り続けながらあくびをした。


ー死ね…。

ラドンが眉を寄せタイシが下を見るとエルフの頭が突如足元に現れる。そして解けると黒い霧へと変わりタイシの片足を包む。

ーやっべっ!?

『ちっ』

ラドンが咆哮しタイシが腕を光らせその霧を払いにかかるが強い痛みが足元から体全体を包む。

「いっっ」

タイシがその場に倒れ込むと霧がタイシを包む。

『こいつか』

ラドンがエルフの手が黒い剣を破壊すると霧が晴れ始める。

「ティーチ!!」

「呪いだっ」

ーく、そ。

タイシが苦しくうめきラドンが鼻を鳴らす。

『邪魔が入ったな。小僧。また今度だ』

「く、そ。はら、たつ」

タイシが起きあがろともがくもすぐに倒れる。マーサが向かう。ラドンがヤルクの死体を拾い縄で縛りマーサがタイシの元へと辿り着く。

「さ、わらない」

『小僧。助かりたければエルフの森の大長と会え。その呪いはエルフでなければ解けない呪いだ』

マーサが汗を滲ませラドンがその場を立ち去る。

「ど、こに、いんだ、よ」

「ヤック!!せめて遅らせるんだ!!」

「ああ!!」

男がその場にくる。そして天秤を持つ男もまた来るとお互い杖と天秤を掲げるも天秤が大きく傾きヒビが入り、杖もまた震えると男が告げる。

「だめだ強すぎるっ」

「くそっ」

ー息苦しい。

タイシがぜえぜえと息を弾ませる。

ーくそお。


ー己。なぜ私だけがこうも苦しいんだ。なぜ。

ミオが顔をあげ目を見開き暗い影を見る。そしてその影がミオを見て近づくとミオが自然と両手を上げ影を抱くように包み込む。

ーサイ。貴方はもう長なのだから、私とは一緒にいてはいけない。

若い女が表情を曇らせエルフの男へと話す。

ーそれでも。

ーサイ。

ー葵。

葵が頭を振り顔を歪めるエルフの頰に触れる。

ーサイ。あなたが選んだ道。あなたが決めた事。そしてみんなあなたを思い慕っている。私1人のために捨ててはだめ。

エルフの男が口をつぐみ葵が手を下げる。

ーどうか、長としてこのエルフの村を守って。サイ。

ー分かった。

ーええ。あと、女は何億何千といるわ。私のことは忘れられないだろうけどそれでも支えてくれる相手が必ずいる。あなたの支えになってくれる相手が必ず。そしてまた決めるのはあなたよ。

エルフの男が悲しみに満ち、若い女が小さく笑む。

ー一生の別れじゃないわ。また会いましょう。サイー。

「お母さん…」

ミオが涙ぐむも黒い渦が巻き起こる。

ーなぜ、なぜアルスランと結ばれたっ。なぜあいつを選んだ。

サイが嘆き悲しみそして、エルフの子を抱いたエルフの女がサイへと近づくとサイが憎悪の目で睨みつけた。

ーアルスランのせいだ。

エルフ達の死体が散らばり、子を抱いたエルフの女もまた子を庇うように共に死んでいた。そしてサイの肌が黒ずむ。

ー人間のせいだ。全て。全て。

ミオがぞくっとするも目を閉じぐっと意識を集中する。

ー貴方が、行ってきたことは間違っている。でも、貴方が行ってきた中では人やエルフを助けて来た。

影が僅かに動き、ミオが話す。

「どうか、思い出して。母たちと過ごした日々を。そして、あなたが感謝された時を。あなたは悪い。でも悪くない」

影が蠢きエルフの形が作られるとミオが前を向きその手がミオのほおへと触れるとミオが口をつぐむ。

ー葵は、死んだのか。

「私を助けて」

ーそうか…。

ユナがミオを抱きしめ、そのエルフの形が作られたものが目の前から消えるとミオが汗を取った流し息を切らした途端光が消える。そして、エリスが急ぎ駆けつけミオを抱き、ミオが苦しく息を弾ませながら涙を流した。


ー呪いは心の持ちよう。そして、呪いの元凶は魂。体が滅ばぬ限りは呪われる。

青い火の中で残されたエルフの男の体が燃え消え始めていた。そして、黒いマントにフードを被ったマナが楽しく汗を流すタイシ、マーサ達をみる。

「な、んで、し、しょ、も」

「なぜ?古き友が心配したから私に話してきたのさ。お前と戦うことをまた楽しみにしたいと言うことだ。だから、生かせとな」

タイシが大きく息を吐き出し、マーサが話す。

「あんたがこいつの師匠?なんだかその目は?まるで龍の目じゃないか?」

「龍、であってはいるな」

マーサが自分の目を指す。

「人と龍と交えたものが私だ。人といってもこの世界のものではなく異界のもの。我が父が異界。我が母が龍。そして、その子供の師匠でもある。聖女葵とは友でもあった。そしてこのエルフサイとも」

「サイ?まさか聖女の一行にいたエルフ?」

「ああ。まあ、長としての辛さ。そして、寂しさ懐かしさと、あらゆるものがのしかかり、最後は村を壊し堕ちた。エルフは我が子、我妻を殺せば闇へと変わる」

青い炎が消え体もまた消える。

「子供の呪いはまだ終わってない。今は小さくなっただけ。いずれ時間が経つに連れ心臓へとその黒い雷模様がたどり着けば死ぬ。ラドンが話しただろう?エルフの大長と会えと」

「ああ」

「こちらも同じだ。だが奴は会いたくないしょうだからな。各地のエルフ達を頼り会うしかない」

マナが霧となり姿を消す。

ーああそうそう。今回の払いはこの雷の槍だ。貰うからな。

「さい、あく、だ……。俺の、奴…。ししょー」

タイシが力無くグッタリとし告げ、マーサがタイシを背負う。

「あんたはやばい知り合いとやばお師匠しかいないのかい。街に戻るよ!3日はこの周辺を確認してまたオアシスへと向かう!」

各々が返事を返し、タイシがまだ、かかるのかと告げるとマーサが当たり前だと答え街へと引き返した。


「同胞が大変申し訳ないことを…」

「いやエリスちゃんのせいじゃないからな」

マーサ、若い男の秘書がいる前方に禿頭のギルド長が座っていた。そして頭を深々と下げたエリスへと手を振るもその肩にはユナが座りユナはギルド長の禿頭を触りパチパチとたたき遊んでおり、ミオがおろおろとしていく。

「ユナ。ユナ叩かない」

「構わん構わん。あとティーチはどうだ具合は?」

「はい。まだ高熱が続いております」

「そうか。まあ、強力な呪いを受けたからな。しばらくすれば熱も下がるだろう。医者もそう言う話だ。それと、マーサ他から戦果は聞いたからな」

秘書が袋を三つ持ってくる。

「でかいのはティーチの分。真ん中はミオちゃん」

「え?」

「いや、えっ?じゃないよ。ミオちゃんおじさんの管理する街とか守ってくれたし、素材も沢山収集できました成果があるからね。あと、エリスちゃんは砂魚をこれまた良い状態で締めてくれたからもう特に褒めちゃう。あて」

マーサがギルド朝の頭を叩くとユナがケラケラと笑う。

「バカなふうに言ってんじゃないよ」

「だって本当だもん。俺砂魚好きだし。酒のつまみにいいからさ」

「まったく。体のことも考えな」

ギルド長が唇を尖らせる。

「ちゃんと考えて加減してるよ。あと、こっちも受け取ってね。ミオちゃん達もだけど、特にティーチのおかげで随分と助かったからね」

「ああ。あと、教会の方はこっちからも苦情申し立てしておいたよ。あの馬鹿のことでね」

「やれやれだ。せーっかくのSランクを無駄にして」

ギルド長が頭を撫でる。

「ま、自分から泥に捨てたようだからねしょうがない。あと、ミオちゃんは気をつけてね。こわーいお姉さんがまあだ追ってるみたいだから。あの時やっとけばよかったのに」

「そう言う状況じゃなかったしティーチにいいな。あいつは人を殺すことをしないからね」

「え?その、ギルドでも、殺すことは」

「あるよ」

「あるね。Aランクで手配された者に対しては殺しも許可されている。まあ勿論なるべくなら生きたままの捕縛が優先。でもね。本当どーしてもと言う時はね。うん。いいんだよやって」

ミオがぞくっとしギルド長が怖がるミオへと手を振る。

「ごめんね。おじちゃん怖がらせる気はないの。あて」

「真面目にやりな」

「俺はいつも真面目だよお…」

ギルド長がぶすくれエリスが不思議そうに見る。

「お二人はとても仲が良いのですか?私が今まで見たギルド長の側近やSランクの方達と比べて」

「ああ。こいつ私の旦那」

「そうそう。マーサは私の妻でね」

「え?」

「ん?なに?」

驚いた顔のミオをギルド長がみる。

「奥さん2人おられるんですか?」

ギルド長が固まり汗を滲ませ、マーサが不敵に笑うと若干手を振るわせるギルド長を見下ろす。

「何のこと?ねえ何のこと?」

秘書がユナを離しミオとエリスを立たせ背を押し部屋を出て離れるとマーサの怒鳴り声。そしてギルド長の必死に弁明する声が響く。

「あの、違ったんですか…」

「気にしなくていい気にしなくていい。いつものこと。どうせ昨日の祝いの酒盛りで飲みすぎてお気に入りのバーの女の子に言ったんだろ」

秘書がやれやれとし2人にそれぞれ袋を渡す。

「なら。これはあなた達の持分だ。ティーチさんにも渡してくれ」

「はい」

「えと、私、その、ギルド長」

秘書が気にしないと手を振る。

「いいいい。あと、しばらくしたらマーサ。まあ、俺の母親がそちらの宿に行く」

「え?」

「ご子息の方だったのですね」

「ええ。ここのギルドは珍しい家族経営なんですよ。他はそうではありません」

エリスが頷きミオが目を丸くする。

「あと、ティーチさんに。本当ありがとうと伝えて欲しい。あなたがいてくれたおかげで母はほぼ無傷で帰ってこれた。いなければおそらく死んでいただろう。ダークエルフ。そしてあのS3のラドンが現れた。あの魔神の腕を持つ教会のふざけた連中に関してはそちらを追っているが、他は違う。必ず鉢合わせた連中でティーチさんがいたからこそ助かった。なので感謝を伝えて欲しい。父も言わないが同じ気持ちだからな」

「はい」

「わかりました。お伝えします」

「ええ。あとは、この町を守ってくれたあなた達に感謝を。おかげで死者も大きな負傷者もなかったからな」

エリスが軽く頭を下げ、ミオもまたいえと頭を振り会釈した。


「あー、よくある話で確かにここは家族経営の珍しいギルドなんだ」

まだ熱があるのだろう。ベッドに寝込み顔を赤らめだるそうにタイシが戻ってきたミオたちへと告げる。そして、タイシの看病をしていたサイモンが話す。

「こちらも聞いたことがありますが実際にここにきて見たのは初めてです。お子さんも」

「ええ…」

「秘書の方ですか?」

「いえいえ。ギルドに所属されている方にいるんですよ。秘書もですけど、討伐におられますよ」

「そう。今回の砂漠調査にもいた。あったが兄でAランク。そして弟が秘書。あと妹が受付嬢だ」

「そうだったんですね」

「ふふ。家族経営だからここのギルドは統一がありますね」

「あーまあその事も理由としてあると思います。あとは、ここのギルド長は他のギルド長の頂点に君臨する」

「そうなんですか?」

「あれだけ祝いの場で飲んで女性の方に囲まれていたのに」

だんっと音が響くとサイモンがビクッと震えけたたましい足音が響遠ざかる。

「マーサさんがいらっしゃろうとしていました。ちょうど」

「あ,はい

「そんな人でもですよ。ギルド長の中では一番強く頭もいい」

「髪なかっちゃ」

「ふふ」

「頭の中。知識があるんだ。髪がないのは仕方がない」

エリスがくすくすと笑いユナがうんと頷く。

「マーサさんも元は一般人としてAランクだった頃のギルド長と十四の時に結婚したんだそうです」

「また早いですね。もしかして貴族同士だったのですか?」

「ええ。ギルド長は38です。最初はでしたが、段々仲が良くなられて2年後に今の長男さんが産まれたそうです。その時にギルド長がよかったらギルドに小遣い稼ぎではいらないかと言われたんですよ。家にこもって何も特にすることがないってことで。そして採取から始まり、簡単な討伐から段々才能が開花して今に至るんですよね」

「では元々向いていたんですね」

「一応そうなります」

ノックが響くとエリスが向かい扉を開け秘書であり2人の息子を見る。

「すみません。あ、ティーチさんお具合は?」

「まだ熱が下がりませんけど話せはします」

「わかりました。あと、事前にマーサがくる予定ではあったのですが、まあ、今日は来れなくなりました。おそらく、理由はご存知かなと…はい」

サイモンが苦笑し秘書がやれやれと頭をかくと書類を出す。

「ティーチさんの具合もまだ悪そうなのでこちらのキャラバンのラストを渡します。それから護衛リストもです。安全が確認後すぐに出立とのことでしたがティーチさんの今の状態だと護衛も厳しそうなのでこちらも渡すよう指示されました。どうぞ」

「ありがとうございます」

エリスが受け取り秘書が話す。

「あと、申し訳ありませんが費用については通常通りとさせていただきます」

「わかりました」

「はい。それと、採取した資源や食べ物などの加工が午後にはできると言うことでしたので午後以降3日以内に受け取りをお願いしますとのことでした。私からは以上です。ティーチさんはお大事に。あと、こちらは決まりましたらまたギルドの窓口に提出ください。それでは失礼いたします」

秘書が頭を下げ去っていく。エリスが見届けたあと扉を閉める。

「夕方に受け取りに行ってもよろしいですか?」

「はい」

「どうぞ。あと、ギルド長は平気ですかね…」

「頑丈でいつものことのようですから問題ないですよ。それと、もしかしたら俺宛に侯爵から手紙も届くかもしれないので代わりに受け取りお願いします」

「はい」

「分かりました」

「ええ。なら悪いですけど俺こうなんで休んどきます」

「なら交代でみますね」

「いや別に寝るだけなんで」

サイモンがニコニコする。

「交代でみますね」

「……」

「じゃあ、エリスさん達先に食事にいかれて下さい」

「わかりました。ミオ、ユナ。行きましょう」

2人が返事を返しエリスと共に出ていき、タイシが別にいいのにと告げるもサイモンがよくないと答えた。


翌日ー。

マーサが宿屋のタイシの寝ている部屋で申し訳なく笑みを浮かべながらエリス達へと話す。

「昨日はごめんね。取り敢えずは解決したから」

「……」

「ふふ。はい」

「ええとまあ」

「おーいちゃいなゃいにょ?」

「ごめんよ。今仕事で忙しいからね」

ユナが若干しょんぼりし、マーサがごめんねと頭を撫でると深く眠るタイシを見る。

「熱は少し下がったんだね」

「はい。あと、右腕の手首まで黒いヒビのような模様があります。流石にこちらも触ることができないほどの瘴気を浴びてますので聖水に浸した包帯で煽っています」

「ああ。進行を遅らせるにはそうしたほうがいいだろう。あとは、エルフの大長。私はそんな存在がいるということを初めて聞いたけどあんたは?」

「実は私もです。エルフ達を尋ねろと龍神が話されたのはおそらく知っているものが私のように少ないからでしょう。長たちなら、何か知っているかもしれませんのでまず、私の祖父にあたる長に手紙を送りました」

「ああ。なら今は返事待ちだね」

「はい」

「あの、エルフの、サイさんの村はどこにあるんでしょうか?ずっと気になってて」

「知らない。あんたは?」

「私もです。エルフの村は親しい親族。もしくは人と取引をしている村しかわからないのです。もし、知っているとしたらミオも知っているイオでしょう。イオならおそらく大長もわかるとは思いますが流れ者ですのでいつどこで出会うかは分かりません」

「そうですか…」

「はい」

「まあ、ミオは話じゃあのエルフの魂に触れたそうだからね。よく無事でいれたもんだよ。呪いは魂でも移る。相手の体を乗っ取り殺すことが出来る。だからもし同じことがあれば次は逃げるか追い払うかのどちらかにしたほうがいい」

「わ、わかりました」

「ああ」

マーサがそう告げタイシを再び見る。

「たく。旦那も知ってるなら言えばいいのに。ティーチが実は異界人だったとね」

「ご存知なかったのですね」

「しらないよ。ただ、ギルドの長や王達は知ってたみたいだけどね。そして、あのラドン。竜人の元にいたことも旦那は全部知ってた。まあそれも含めて選ばれたなら私たちからは何も言わないし、旦那曰く。ラドンは師ではあるけど討伐対象でもあるとね。まあそれは、あいつと対峙した様子を見たらわかるね。ラドンもまた満更じゃなかった。退治されたら退治されたでいいみたいな感じでその恐怖を楽しんでいたよ。やれやれで2度と会いたくないね」

「S3となると、Sランクでも討伐が難しいと言うことですか?」

「難しいどころか死ぬ可能性の方が高い。だから正直言えば相手にしたくない奴らだ。そして、S3はラドンの他に後三体いる。ガルダ。アスクレピア。トール。奴らは大災害とも呼ばれている魔獣どもだ。そして常にどこにいるかわからない。だから遭遇したらとっと逃げたほうがいい」

「はい」

「ガルダはしってますし見たことがありますよ。雷に炎を操る巨鳥。私は隠れて難を逃れましたがガルダの通った後は鎧すらなくなり骨もかろうじて残った死体ばかりがあちこちとありました。ちょうど傭兵達の縄張り争いの場へとガルダが来たんですよ。あと、ガルダはただ、通っただけみたいでしてね」

「というよりあんたはなんでそこにいたんだい?」

「まあ、諜報と盗まれたものを探しに出向いたんですよ。一方の傭兵隊の中に教会から金品を盗んだ盗人がいましてね」

「あんた教会の元アサシン?」

「ええ。ああでも、魔神の腕のもの達とは別の方お抱えになります」

「そうかい。で?その盗人は見つかったのかい?それとも死んだのかい?」

「見つけはしたのですがガルダが襲来した時に上手く逃げたようでして。まあそれ以来わからないのですよね。特徴は癖毛の茶髪。無精髭をよく生やした方で瞳の色は青で色白。30から40くらいの男です。名前はマルクール」

「そいつなら手配書載ってるよ」

「すぐに確認してもいいですか?」

「ああ。ギルドの広告だ。あと半年前だね」

サイモンが頷きすぐさま立ち上がり急ぎ部屋を出る。

「よほどのものを盗まれたんだね」

「なぜ手配書に?」

「ああ。詐欺師なんだそいつは。それも女性専門で言葉巧みに女を騙し、アクセサリーと言った身につけているものに関して偽物を売りつけるんだよ。高値で。まあ、本来はギルドの手配対象じゃないんだけどあまりにも被害が多いってことでギルドでも手配をしてくれという国が後をたたずに手配することになったって話だ」

「そうなのですね」

「ああ。まあ、もしそいつならやって」

「確認しました」

「また早いね。どうだった?」

戻ってきたサイモンを見てマーサが目を丸くしながら尋ねるとサイモンが頷く。

「間違いありませんね。詐欺師で手配されているんですね」

「ああ」

「あと、どう言った詐欺を?顔と特徴しかみませんでしたので」

「ああ。あんなに本物そっくりな偽物を売りつける詐欺だよ。貴族やら」

「本物そっくり?」

「ああ」

「んん。もしかしたら教会から盗んだ物を使っているかもしれません」

「教会の?どう言ったのだい?」

「ええ。私も聞いた話ですので本物は見たことがありませんが写鏡という魔法の鏡なんです。鏡に映ったものが作られるというものです。ただし、形だけが本物そっくりで全て写鏡で逆さなんです」

「へえ。そう言ったのがあるんだね。あと、それは教会は何に使っていたんだい?」

「使ってはいません。古代の宝として保管していたものですが10年に一度劣化や虫などを防ぐために日を浴びせたり特殊な薬の塗布や職人達の手による修繕などを施すのです。まあその時に紛れたようで盗まれてしまったのです。その時に盗人がまだいて数名捕えることができ、白状させたら傭兵の親玉が命じたと。盗んだのはそのマルクールであるということがわかったのです。で、私含めた数名のアサシンが出向いたのですがまさかのガルダに遭遇。私達は無事でしたがその親分がまるこげ。子分であるマルクールには宝を持ち逃げされたわけなんですよ。まあ、流石にガルダという災害がきてしまった以上どうしようもないということで見つかればその時はすぐにでも捕えよということになりました」

「ああ」

「それで手配をしていたのですが中々こず。おまけに仕事に部署移動、戦と立て続けで」

「マルクールなら会ったことありますよ」

サイモンがすぐさま起きたタイシわ振り向きマーサもまた振り向く。

「起きたのかい。騒がしくさせて悪かったね」

「いえ。あと、教会の手配者は俺見てなかったですね。すみません」

「いえいえ。ちなみにどこで?」

「これから行く先のマーリスです。ギルドの手配が出る前なので本当ちょうど半年前になります。相手から声をかけられたんですよね。俺がエスランクで有名で知ってるとか」

「ああ。ていうか、マーリスであんたを知らない奴はいないし、ご令嬢達からあんた相当モテてるよ」

「は?」

「公爵の娘の誘拐の件でまず知られた後、龍を討伐したこと。そして最年少でSランクになったことでね」

「えと、まあ」

「貴族にとって力もだが有力のある若者は好かれるんだよ。特にあんたの場合、親や親戚がいない。完全な実力であり完全な一匹狼で武勲を上げてきている。おまけに、貴族だからね。私はギルドでのあんたしか知らなかったけど、異国人としてのあんたはアストレイのアルスラン軍の第3部隊隊長と少佐の地位についたんだって?」

「あのハゲ長が教えました?」

「そうハゲ旦那が教えた。もう知ったんなら教えるねって軽い口調でね」

タイシがやれやれとし、エリスが話す。

「少佐なのですね」

「あーまあ」

「少佐って、どう言った意味ですか?」

「はい。人の側の階級です。少佐程ですと、200名ほどの部下を持つほどになります。そして下から一般兵。曹長。軍曹。少尉1佐。2佐。中尉。大尉。そして少佐。中佐。大佐。少将。そしてアルスラン侯爵は中将となります。最後に大将は実質王ではありますが、アストレイでは中将も大将と同じ意味をなしていると考えていいです」

「はい」

「まあその中でティーチでありそこにいるタイシは少佐だ。軍の小隊を仕切れる。次に行くマーリスの軍階級からいくと第三騎士団副団長クラスだ」

ミオが頭にはてなを浮かばせ、タイシが話す。

「図案と見比べて話した方がわかりやすいからまた今度説明するよ。あと、なんで俺もててんです?」

「あんたと鈍いねえ。若いのにギルドじゃSランカー。アストレイでは少佐。貴族階級も持ってんだろ?あーまあ。でないと務まらないからと。俺は特段いいって言いましたけど仕方なく」

「家は?」

「同じ軍の知人達と暮らしてます。そっちが気ままでいいですから」

「欲がないねえ。まあそんなあんただから好かれるやつは好かれるんだろうけど。で、貴族だからあいつらはどんな手でも使ってあんたの情報を調べ尽くす」

「なぜ?」

「そりゃ婿さんとして優良物件だからだよ。独り身だし。独り身の方が扱いやすいし、独り身だからこそ婿養子として見受けするのが簡単だからね」

タイシが顔をしかめ、エリスが面白く頷く。

「確かに」

「でしょ?」

「はい」

「その様子だと教会のシスターや看護師からもモテてるの知りませんね。怪我した時や来られた時によく喧嘩されるんですよ。誰が相手するかってね」

「俺別に、普通にしてる…。一般人」

「そんなわけないじゃないですか」

「だね。ま、そういうとこであんたはモテるしモテてるから狙われている。そこ自覚してた方がいいよ」

「…はあ」

「まったく。で?そのマーリスにいたんだろ?なんの話したんだい?」

「ええ。龍はどう退治したのか。その後の素材はどうなるかと言われましたけど秘密事項だから言えないと話しました。そのあと、武器を見せて欲しいと言われましたが通常のナイフだけ見せたら他はと言われましたが、軍の方が来られたら逃げるようにいきましたね」

「軍?」

「ええ。軍はただ飯食いに来ただけでした。それくらいですね」

「半年前ですか…」

「ちょっと時間経ちすぎたね」

「ええ。まあ、自分はもうその仕事もしてませんし見かけたらですから無視しても構わないと言えば構いませんね。それに、ギルドの手配もされてるようですから時間の問題でもありますし」

「ま、そうだね。なかなかのお値段でもあるから」

「ええ」

「ああ。で、まあ起きたならティーチ。護衛はどうするんだい?」

「お願いします。俺も流石に無理です。体もまだ痺れてうまく動けません」

「分かった。渡した奴からは選んでくれた?まだ受付に届いてないって話だから出来たなら私が預かるよ」

タイシが頷きエリスがこちらですと向けるとマーサが名前と人数。そしてキャラバンの名前を確認し書類を預かった。


ーアストレイ。

「呪いぃ?」

藍丸が声を上げ、ステラが軽く目を丸くし尋ねたミーアが話す。

「そーよ。それも時間をかけてじっくり呪われる死の呪い。タイシちゃんもドジねー」

「いやドジとか関係ねえじゃん」

「なぜ呪いに?」

「ええ。あの聖女葵と共に旅してたエルフがいるって聞いたことあるかしら?そいつがダークエルフになって人を恨んで呪ったそうなのよ」

「はあ」

「それで、エルフには長の他に大長がいるって言う話で、その大長が呪いを解いてくれるっていうタイシちゃんのお師匠が話したそうよー。例の龍人」

「ああ。あと、エルフの大長?名前とか?」

「わからないし聞いたことがない」

「アルスラン閣下もないそうなのよ」

「なら、ハジに聞きゃいいじゃねえか。葵のならあいつその弟だろ?」

「そお。村を焼いた犯罪者として追ってたらまさかの展開になったから血相変えて自分の村に行ったわ。多分他の村長達と話をするつもりね」

「ああ」

「エルフたちもタイシには恩があるからな。それがまさか呪いをくれるとは思っても見なかったはずだ」

「そお」

ミーアが肩をにぎにぎとする。

「なあんかうまいこと旅はいかないみたいね」

「お前が呪いかけてたりして」

「はんっ。失礼しちゃう」

「それでその死の呪いはいつ発動する?」

「さあ。取り敢えず呪いは見てわかるものらしいから。稲妻みたいな模様がタイシちゃんの心臓に来たら死ぬらしいわ。今は右手首のところ。時間が経つに連れて進行していくそうよ」

「嫌な呪いだぜ」

「ああ」

「なら、私行くわねー」

ミーアがその場を去ると素早く若い青年が年寄りと共に中へと入っていき、少佐が呪われたと聞いたと嘆か声が聞こえてくるとやれやれとしその場を後にした。


砂漠ー。

傷だらけに包帯を巻いたはげギルド長へとユナが両手を上げ抱っこをねだる。ギルド長がごめんねとユナの頭を撫で撫でとし肩車や抱っこができないと謝る。その様子をミオが気まずく見ていきサイモンが荷物をキャラバンの老人に預けながら話す。

「中々こっぴどくやられましたね」

「えと、はい」

「いつものこといつものこと。気にしない気にしない」

「あ、はい」

キャラバンの老人へと荷を渡す。そして、タイシがサイモンに背負われ荷馬車に寝かせられると医師でもある老婆が状態を見ていく。その後、マーサ達が見送る中、オアシスの村へと向けキャラバンがミオたちと共に離れる。

「2週間の滞在があっという間でしたね」

「はい」

「色々ありましたからね」

「ハゲ…」

ユナがしょんぼりしながらぺちぺちとミオの足を叩く。ミオがやれやれとしユナを抱き上げ膝に乗せエリスがふふっと笑う。

「ハゲじゃないよ」

「あのギルド長。マーサ姉に相当叩きのめされましたからね」

外にいる護衛ギルドの若い男が話女がやれやれとする。

「しょうがないでしょ?大仕事終わって気が抜けすぎたのよ。マーサさんが怒るのは仕方ないと思うわ」

「はあ」

その息子でもある男が大きくため息をしうんざりとする。

「振り回されるこっちの身にもなってくれという話だ。あと、母さんの話じゃ盗賊も動きだした。ハゲのエロ親父の話は終わりにして気を張っていくぞ」

「一応ギルド長で最強なんだけどな」

「それでも禿げエロ親父には変わりない」

「息子のお前も大変だな」

「本当そうですよ」

ツノの生えた馬の手綱を握る男へと返すと再びため息をつく。タイシがやれやれとしていたが鳥が来る。

「サイモンさん」

「はい。ああ。侯爵様からのお手紙ですね」

「はい。良かったら受け取って開けてみてください」

「ええ」

サイモンが鳥から手紙を受け取り公爵の印が押された手紙を開き中を出す。ミオがドキドキしサイモンが話す。

「いいそうですよ。到着後教育作法についてどのような段取りで行うか話し合いをしましょうとのことです」

ミオがほっとしタイシが話す。

「わかりました。あと俺の代筆をお願いします。俺の状態について先方に書いてください」

「わかりました」

「ミオ。俺のことだから断られることはない」

「え、あ」

「だといいですけど」

「問題ないです。それと、俺としては早くこの痺れだけでも取れて欲しい…」

タイシがはあと息を吐き出し、老婆の医師が話す。

「元は全身に呪いを受けたと聞いたからね。その影響まだ続いてるんだよ。死んだら体が冷たくなって動かなくなる。その痺れはそこから来ているから、まあだ体が元の状態になるまではまともに動けないよ」

「せめていつまでとか…」

「さあね。そう言った患者は今までいない。死んで蘇るというか仮死状態から蘇らせるという方法が以前イーロンにあったと聞くね」

「え?」

「麻薬を使って仮死状態にさせていたんだ」

「何故ですか?」

エリスが尋ねるとサイモンがやれやれとする。

「それはサイモンさんがよく知ってます」

「はい。始まりはそのイーロンにある教会からです。仮死状態にして蘇らせる。いえば、あたかも復活したと見せるためです。自分を神の化身として見せて騙していたのです。我々教会はその事を神の冒涜として採算イーロンを統治されている枢機卿に訴えていたのですが聞く耳持たずというか右から左に流されましてね。で、その復活事件が段々とイーロンから近い国にも来始めていたんです。それにより信者から異常な宗教者が増えた。つまり過激な方が増え始めたんです」

「麻薬が教会から信者に渡ったんだね」

「はい。そして、被害がさらに深刻になってきましたところでアストレイがイーロンを攻める。実質支配下において麻薬の断絶をすると言うお話がありまして教会側も協力することになったのです。本来でしたら戦争協力することはありえないことでしたが麻薬普及に教会も加担してしまったので責任を取らざるを得なくなったわけです。はい」

「で、戦争に派遣されたのがサイモンさん含めた血生臭い方達」

「ち、血生臭いはちがいますからね」

「そういや、マーセス元枢機卿は?まだ逃亡中なのかい?」

「あ、はい。恥ずかしながらと申しますか…」

「そうかい。あと別に恥ずかしくもないだろうに。あんたの上司ならなんだけど違うんだろ?」

「あー、元上司なんですよね」

「え?」

「そのあとはダリス枢機卿の元に異動となりました」

「それはその復活時間のことで?」

「いえ。別件でこのことについては他言無用のお話なのでお話は出来ません」

「ああ」

「麻薬…」

ミオがポツリとその言葉を出す。

「たくさん、その…」

ミオが表情を曇らせ医師が澪のそばにきて頭に手を乗せ撫でる。

「1番の戦争の被害者は下さ。上なんて見てみろ。逃げて雲隠れだ。原因の発端をどうにかするのが上の連中の仕事だけど巻き込まれるのはいつも下。ただ何も知らずに生活してきた人間だよ」

ミオが小さく頷き医師がその手を離す。

「戦争を間近で見たあんただ。そのことは黙ったままにせず、ちゃんと後世にも教えなきゃダメだ。辛いだろう苦しいだろうが教えなきゃあ誰も知らない。その事実を。そしてみんな悪者にされる。みんながみんな悪いわけじゃない。それを教えるには生きているのが知らない連中に教えて伝えなきゃだめだ。そうでないとまた同じことが繰り返されるし悪者にされたままになるからね」

「…はい」

ミオが涙を浮かばせた目元を拭う。

「まあだイーロンの上の連中。戦争の悪玉どもは逃げている最中だ。そいつらを根絶やしにしないとまた戦争が起きるしあたしらの生活もこの先どうなるかだ。やれやれだね」

医師が頭を振る。

「しっかし教会も元枢機卿の足取りどころか、現枢機卿が魔神を使ったやつを暗殺者としてねえ」

「そこは、私の上司云々では、ありませんがすみません…」

「まったく。枢機卿も暇な連中が多いというか。悪さしかしないのかね」

サイモンが気まずくし医師が話す。

「あんたダリス枢機卿の部下なんだって?」

「まあ、言えばその下で働いております」

「ああ。あの枢機卿も何考えてるかわからないね。

そして若いからこそ年寄りのやつらと違う欲があるね」

「まあ、確かにあるはありますね」

「ああ。それに枢機卿でもあるけど王室の親族で侯爵でもある。これは年寄りの勘でもあるけどね。アストレイの王家は何というか、弱いんだよねえ。今の王子も聞く限り貧弱で将軍たちに頼りきりにも思える。私は医者をしているからね。いろんな国。いろんな人たちの話を聞いたりしててね。その中でアストレイだ。よく話に上がるのは今の王が病に伏しており、次の王子がちゃんと王としてやってくれるか不安で仕方ないと。逆に王ではない下からのし上がってきたアルスラン将軍。その養子はどうだろうとかって話しは出てるね」

「養子?」

エリスが眉を寄せタイシがてをふる。

「いないいない」

「違うのかい?」

「ええ。いませんからデマですね」

「そのデマは私もきいたことありますよ」

サイモンが面白く告げるとタイシを見る。

「それタイシさんですよ」

「いや俺ですか?は?」

「食事の席とかも呼ばれたりお二人でお話しされることもよくあるでしょう?あとは、夜会とかにもよくお隣にいるというお話ですから。だから勘違いされてる方が意外と多いんですよ」

「はあ…」

「半年かけて部下として協力して欲しいとも言われてましたからね」

「ふうん」

「いやそうですけど…。あと養子とかではありませんからね。縁組もしてませんから」

ミオがやや目を丸くし、医師が話す。

「なるほどね。まあ、私も話を聞く時は気をつけないとね。あと、は。ダリス枢機卿についてだ。なんかどうも、さらなる高みを目指したがっているように思えるという人が多くいてね。そう見えるらしい」

「さらなる高みですか…。教会で言いますと法皇様ですが」

「ああ。まあ、教会でいえばだろう?まだ高みってのは色々ある。王様もその一つだ。国家君主。言えば、ダリス枢機卿のみ稀な存在だ。法王にもなれるし、アストレイと言う大国家の王にもなれる」

「あ…」

「まあもちろん、上が崩れたらの話さ。そして今の法王もまだ現役で若い。この先20年は変わらないだろうと言われる若さだ。でも何か起こればの話さ」

サイモンが頷き、孫の医師が話す。

「またばあちゃんはそんなことばかり言って」

「年寄りの話に口出すんじゃないよ。あとあんたも政治に耳を傾けな」

「はあ」

医師が鼻を鳴らし、サイモンが悶々とするが別の鳥が来る。そしてタイシの上に止まるとサイモンが代わりに受け取り紋を見る。

「アルスラン侯爵からです」

「ん?はい。なんだろう」

「開けますね」

タイシがはいと返事を返し、サイモンが手紙を開けると医師が覗き見しサイモンが苦笑する。

「こらばあちゃんっ」

「構いやしないだろう。あと、字が綺麗だ。あの無骨な将軍と似ても似つかない字だねえ。代筆かい?」

「いや。本人からですよ。アルスランさんは字がとても上手な方ですから」

「ああ」

「ほら」

孫の医師が引っ張り話すと医師がブツクサ言う。

「大長については有力な情報は得られないそうです。あと、サジと言う方やその周囲の村長たちが協力をしてくれるとのことでした」

「それはありがたいですけど、長達でも知らないというのがな」

タイシが複雑そうにし、サイモンが話す。

「ええ。あとは、今。マーリス国に滞在されてるとのことです」

ミオが鼓動を跳ねさせ、サイモンが話す。

「イーロン国から流れきた敗北兵たちの残党。そして難民たちについての問題の話し合いとのことです」

「ああ。なるほどね。砂漠の盗賊もそいつらで人数が増えてたんだよね」

「そうだったのですね」

「ああ。まあ、あのダークエルフが人であれば見境なく誰も彼も襲ってくれてたもんだから奴らの方が相当被害が大きかったとはきいたけどね。何せ砂漠に隠れて住んでるからね」

「あー」

「ま。そこだけはそいつにすこおーし感謝だ。他は別だけど」

サイモンが頷きタイシが話す。

「滞在は?」

「ええ。実際は明日からとのことです。約半月の滞在と書かれています」

「ええ。まあ、何もなければもしかしたら会うかもしれませんね。ただミオはまだ会うことはなし」

「どうしてですか?」

「決めてるからですよ。アストレイについてからと。どうせ本人も同じ思いのはずです。それまではどんなことであれ会わないでしょう」

サイモンが頷きミオが話す。

「その、私も…それでいいです。自分の足で、アストレイについてから会います」

「ああ」

「ま、こっちはあんたらの事情を知ってるからね。もちろん誰にもいいやしないよ。あと、そうだ。あんたには悪かったね」

「え?」

「あんたが被害にあったキャラバンだ。あれは妹の息子のとこでね。妹も申し訳私に話してくれたよ。あと、妹の息子も反省してもう一度やり直すことにして今は頑張って国内で商売してるから一応気にしなくていい」

「あ…」

ミオが何かを言いかけるがこくりと頷く。

「その、元気でいらっしゃいますか?」

「ああ。元気だよ。あと、母国はマーリスの隣のハバル連合国だ。まあ、どこかで見かけたら声かけてもいいしもしかしたら向こうから謝りに来るかもしれない。その時は相手にしてやってくれ。あと、私が話した事も伝えていい」

「はい」

医師が頷き、タイシが話す。

「だからあの年でAランクだったんですね」

「ああ。ハバル連合は商売が厳しく競争が激しいからね。このキャラバンも元ハバルの出身者が2名いる」

無骨な男がおうと手を挙げ老人がひょいと手を挙げる。

「だもんで捌くのが上手い。交渉もだよ」

「ああ。商売国家だからな。学校もそのための専門学校まであるくらいだ。実際俺もその出身だ」

「わしは先人たちから教えられてきたからなあ。商売のノウハウを全部叩き込まれた」

「ええ」

「ま、そのハバルも行けばわかる。ただ注意して欲しいのは口が上手い連中ばかりだからね。載せられないこと。つまり巧みな話術に引き寄せられていらないものまで買わされる。あとは騙される。そこは注意だ」

「ああ」

「そいとあれじゃ。見た目で判断して接客する酷い店もあるからのお」

「だな。それで予約したのにしていないにされたりもするからな」

「予約したのにしていない?」

「約束って意味だ。7時に来ますと約束をしたら必ず来るだろ?」

「はい」

「ああ。予約も今は一緒で7時に予約。つまり自分からこの時間に行きますと相手に約束をする。ミオが欲しいものが」

「まだ初歩から知らないのか。そらまずい」

「ハバルにいくにはそれでは厳しいぞお、お嬢ちゃん」

ミオが汗を滲ませ、タイシがやれやれとし勉強代やるんで教えてくださいと話すと男が親指を立て、老人がええぞと頷いた。


ーああ。退屈だあ。

髪が伸び放題の髭男がぼろぼろの服を身に纏い砂が落ちる牢の中で座っていたが疲れ果てながら誰かきてくれえと刹那に願った。

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