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運命のミオ  作者: 鎌月
33/64

東京13

ープチ贅沢。

鉄板焼きの店のカウンターで瑠奈がシェフが焼いた肉をゆっくりと噛み締め食べつつご飯も食べていく。そこには他にルナより年上の客達が静かな雰囲気を壊さない程度におしゃべりをしつつ料理や酒を楽しんでいた。

ー旅行先の料理はやっぱり少しお高めがよかよねー。はあ。おいしー。

瑠奈が再びぱくりと食べる。そして食べ終わり支払いをし店を後にするとイリュミネーションが輝く寒い街を歩く。

「賑やかだなあ」

瑠奈が白い息を吐き出し、時計を見て道の端に移動するとスマホを出し画面を操作する。

ーまだ時間あるから食後の甘いのと。あ、ここがいいや。空いてるかなー。

瑠奈がスマホを耳にあて出た相手へと先の予約とメニューを伝えていく。そしてスマホをしまう。

「こんばんは」

瑠奈が顔をあげ金髪に翡翠の瞳をした白い肌の整った顔立ちで微笑む男を見上げる。

「こんばんは」

「はい。よかったらお話致しませんか?」

瑠奈がやれやれとする。

「いいですよ。ただ、今から食後のデザート食べに喫茶に行くのでそこででもいいですか?」

「はい」

ー多分、怜士が話してた人だな。カジノ船のテロの1人。

瑠奈がこっちですと先に進み男が瑠奈の後に続いた。そして、フランス国旗が小さくガラスに貼られた店の中へと入る。そこはスカイプランターで店の天井が覆われ広々とした席に開放感のある予約のみの喫茶だった。瑠奈が名前を告げ通してもらい予約席へと案内され男と共に座ると瑠奈が置かれたメニューを向ける。

「何か頼まれますか?私はこちらに電話して予約した時に伝えてますから」

「分かりました。後自分で頼みます」

男がメニューを受け取り店員を呼び飲み物を伝える。

「そう言えばお名前なんですか?」

「ああ、申し訳ありません。ルイスと申します」

「瑠奈です。私の身の回りのことを知ってつけてきたんですね。病院から」

ルイスがふっと笑う。

「はい。そして大変申し訳ありません」

「別にです。バカな連中の悪戯目的でつけられるよりよほどいいですから」

「そうですか。私の他にもいましたけど」

「知ってますよ。でも、すぐすぐ手なんて出せるはずなんてありませんから。もし出すなら、ストレス発散や八つ当たりする方達になると思いますから。まあだまだいるにはいますからね」

「それはやはりご親族の関係で?」

「そちらもですけど私たちに嫉妬してですよ。母から母もですが私たちも特殊であると言われましたから。なのでなぜ特殊なのかと、そちらも知ってるかと思いますが尋ねに行きましたから。母の面会に」

「それでお母様はなんとおっしゃられたのです?」

「母の母。私の死んだ祖母から聞いたことだと。詳細についてはっきりは分からないとのことでした。ただ、特殊な血を持っていると話した祖母について異様な目をして何度も話していたそうですし、特殊だから。特別だから下の連中の言うことは聞くなと強く言われて来たそうです。これは母だけになります。私達は母の手から離れて育ってますので今回特殊であると手紙で知りました」

「ではお母様も詳しくは分からないと言うことですね」

「はい。ただ、亡くなった祖母については別ですが、祖母は祖母で五十年ほど前に大きな過ちを犯しています。なので、私達はある意味特殊な親族ではありますね」

「お待たせいたしました」

スタッフがデザートとコーヒーを運び2人の前に置くと頭を下げその場を離れる。瑠奈がフォークを取りケーキを切る。

「兄に何かご用のようでしたけど」

「謝罪をしたく」

「は?」

俯くルイスを振り向くとルイスが拳を握る。

「知らずとは言え、私は大変な過ちを犯してしまいました。御身を傷つけて」

「はあ…、御身……」

「悔いても悔いても、悔やみきれず」

瑠奈が呆れながらケーキを口に含みもぐもぐと食べる。

「どう、お声がけしようかと。く」

「いや、知らなかったら仕方ないでしょう…。あと、祖先を辿ればになりますけど結構良いところので」

「…結構どころではありません」

ルイスが声を抑えながら告げる。

「……はあ。まあ、ここではなかなか言えないことなのは分かりました。あと、声かけしたところでどうしようにもできないんでしょう。だから私の後をつけたということですね」

「…はい」

「ええ。それからポケット。軽く触れていますけど何か入ってるんですか?」

ルイスが軽く息をつき翡翠色に竜の形が掘られた石を出す。

「カメオ?」

「いえ。でも確かに似たようなものではあります。そして、これも特殊な石で、特殊な方しか反応がない石です」

「触ると何か変わると言うことですか?」

「はい」

瑠奈が頷き手を向けるがルイスが石を引く。

「人の体温。温度で変わる石もありますから変わったところでそう話せば問題ないですよ」

ルイスがわずかに考え頷くと瑠奈へと向け瑠奈に渡す。瑠奈が手にし刻まれた龍をなぞる。

ー掘られてるけど、その上から塗膜みたいなのが塗られてる。

すっと白の線が銀へと変わり今度は石の色が翡翠から黒へと変わる。

「こう言うことか」

「ええ、はい」

瑠奈がルイスを振り向くとルイスが嬉しくニコニコしていた。

「大変うれしそうですね」

「ええ」

瑠奈がやれやれとする。

「でもこれだけで決まったわけではないんでしょう?これは言えば、一つ選ばれただけ」

「そうですね。ただ、今まで一度たりとも反応がなかったですから。長い時の中でようやく変わりましたので」

瑠奈が石を見ながら安堵した笑みを浮かべるルイスをじっと見る。

「ルイスさん。わかったところで、兄だけですか?それとも私だけですか?もしくは両方の手が必要ですか?」

「ええ。よければお二人ともになります」

「ではその時、私たちに自由はありますか?」

ルイスが黙り込み、瑠奈が軽くため息をしカフェオレを一口飲みコップを置く。

「ルイスさん。賭けをしましょう」

「賭け?」

「はい。私も貴方が知っている変わり者さんの部下から今護衛されてまして。少し話はその方を通して聞いています。で、その部下の方は今は報告やらでその変わり者さんのところに行ってます。いない間はGPSと店の名前を伝えてます」

「…そうですか」

ルイスが苛立ち笑みを浮かべる。

「あの変わり者にですか」

「ええまあはい」

「はい。それで賭けというと?」

「ええ。私はその変わり者さんの手を借りて、あちらにいく予定です」

「ああ…まあ、出来はしますね。私が教えましたから。彼だからこそ出来るものですからね」

「そうですか。まあ、それでですね。なんか聞いた話、ここではもちろんないですが向こうで相当話が出始めてるとかと、その部下さんがおしゃべりな方なので聞いたんです。力を巡って対立が起きているとか、その事を知っているもの達を探し始めているとか。それがなぜ今なのかのきっかけが、ここのところその遺跡物が多数見つかったり、預言者の多くが同じ事を予言し始めてるからだとか」

ルイスが頷き、瑠奈が話す。

「貴方はどちらですか?関係者?それとも探索者?」

「関係者になります。あと、そのことについて事実です。遺跡物に関して言えば私たちも確認しておりますし、今までにないことでしたのでもしかしたらと期待をしておりました。そして、力の強い預言者の手を借りてこちらにいると分かりました。ただ、どこにいるか分かりませんでしたので」

ルイスが指を一つ立てる。

「海上にその導き手が現れると知り待っていたわけです。まあですが、こちらもビジネスをしておりましたから。そのビジネスの最中にゴタゴタがありましたので、というところですか」

ルイスが手を引き微笑み、瑠奈が頷く。

「その件について、私は関係ありませんから。あと、賭けについて」

瑠奈が色が変わった石を指で叩く。

「遺跡調査をしましょう」

「遺跡調査?」

「はい。この石。とてもよくできてます」

瑠奈が石を指で持つ。

「それから兄からどうやって戻って来たか直接聞きましたから。そうしたら結構謎めいたことだなとおもいました。貴方の故郷に関してももしかしたら貴方が知らない多くの謎があるんじゃないんですか?まだ解けていない多くの事。部屋、物など」

「ええ。その通りです。それは自分の体もです。分からないのですよ。なぜこうも変わっているのかと」

ルイスが自分の手を見てその手を下ろす。

「なら、その謎解きをしましょう。遺跡があちこち見つかった。そして物も。なら、探索者たちが現在進行形で謎解きしていると思うんですよ。ちなみに関係者であるルイスさん達は?」

「おります。素性を隠して。そしてわざとその鍵を持たせ探索もさせています」

「はい。なら、こちらもその探索を行います。そして、探索者となった私と関係者のルイスさん。どちらが先に鍵を見つけるか」

「鍵?」

瑠奈がポケットから割れた何かが削られた金属片を出すとテーブルへと乗せる。ルイスがぞくっとし、瑠奈が話す。

「これ、私が勝手に持って来たんですよ。兄のいた兄の祖父の家から」

「ええ」

「はい。で、その祖父が私に祖母のもので特にいらないから持って帰って良いと言われたんですよ。ちなみに兄は知らないとおもいます。そして、見たことあります?」

「ええ。ですが元の原型は違います」

「でしょうね。多分、これが重大な鍵だと思うんですよね。この石の塗膜と似た感じのものを使用しているのではないかと思います。そして、遺跡と誰が貴方たちに遺跡調査を行えと言われたんです?」

「上です。故郷がどうあれ私達にもまだ階級があり支配があります。そして、私や他はその支配者の印があります。こちらではお見せすることはできません」

「なら、元はその上が探せと言われたのですね」

「はい」

「そうしたら多分目的はこれだと思いますから」

瑠奈が破片をルイスへと向ける。

「持って行かれて結構です。どこでに関しては兄のいた場所。その寺で見つけたと言えば十分かと思います。現にそこでしたからね。そして、もしこれが目当てのものならば、この破片が必要なものというわけになります。実際、何を探せと言われていないのでしょう?」

「ええ。おっしゃるとおりです。なのでよく分からないのです。ただ、上は知っているようですけどね」

ルイスがやれやれとする。

「では、これが本当ならこの破片探しをしませんか?そしてどちらが先に多くの破片を探すことが出来るか」

「そして?もし全て探し終えたら?」

「はい。全ての破片を合わせます。そしてその後の扱いについて。私は協力します。もしくは貴方に従います」

ルイスがゆっくりと頷き、瑠奈が楽しく話す。

「まあもちろん、貴方の上の反応次第。そしてこれが探し求めていたものなのか確認次第での賭けになります。そして、私が多ければどうあれ協力だけはします。それも一度きりのみ。逆にルイスさんが多かった場合はどんなことであれ従います。無制限で」

「それで良いのですか?」

「構いませんよ。ただし、この賭けについては私自身になります。石が反応したのならまずは私だけでも良いでしょう?」

「では、貴方の兄は?」

「お好きにどうぞ。でも、あの兄ですから」

瑠奈が笑みを深める。

「相手したくないでしょ?たとえ人質を取ったとしても容赦しませんから」

ルイスが軽く息をつき頷く。

「おっしゃるとおりです。あちらでも彼の力は計り知れないですし恐ろしいほどですから」

ルイスが破片を手にし内ポケットへと入れる。

「貴方がおっしゃった賭けに賛同します。ですがまずはこちらを見せてからの報告を貴方に致します」

「はい。報告については私の連絡先を伝えます。そちらにかけてください」

「分かりました」

「はい。なら、ここを出たら解散しましょう。部下さんと一時間後に待ち合わせしてますから」

ルイスがはいと返事を返しコーヒーを飲み瑠奈もまたデザートを食べる。

「お聞きしたいのですが、どうやって行き来されているんです?」

「はい。そちらは秘密です。知られてはいけないことですから」

「分かりました」

「ええ。瑠奈殿はご両親が事故死されたとかお聞きしました」

「はい。相手の車が飲酒運転で今もまだ収監されていますが、後半年したら出所する予定です」

「恨んでおられますか?」

「怨んだところで疲れるだけですし、2人がそれで帰ってくるわけはありませんから。ルイスさんはご両親は?」

「両親ですか…。まあ、厳しくはありました。特に父が厳格でしたからね」

「それは、他と比較とかされて厳しい教育とかされてたんですか?」

「はい。そうです。競争が常にありましたから。私には兄や姉がおりましたが、競争に敗れていなくなりました」

「今もあったりとかは」

「いえ。今はどちらかと言えば嫌でも可能な限り協力しているような状態ですね。以前と比べ人も減っておりますから」

「減ってるですか。ちなみに私のような」

「やだ。貧乏人がいるわ」

瑠奈が呆れ、ルイスが視線をうすらと笑う宝石にブランドの服を身につけた女へ向ける。

「あなた。今村くんの妹でしょ?知ってるわよ」

「私は知りませんし。あと、ここは貧乏人でもお金出せば飲食できるところですけど?」

「窃盗したお金じゃないの?」

「そこまで卑しくありませんよ」

瑠奈が飲んで食べ終えると注文票を手にするがライスがその手を制す。

「私が一緒にお支払いいたします。お話していただいたお礼です」

「いえ。そこまでされなくても」

女の手が水が入ったコップへと向けられ握られると瑠奈にその水をパシャリとかける。周りがざわりとしスタッフがすぐに向かい怒る女を宥める。

「お客様」

「今私に客?あのねっ。ここは私の父が経営する店の一つよっ」

スタッフが肩を震わせ瑠奈がはあと息を吐く。

「そんなこと、オーナーや店長以外のスタッフの方がわかるわけないです。教育云々とかではなくて当たり前かと思いますし、貴方の振る舞いはその父親が経営されると言われているこの店の評判を落とします」

女が歯を噛み締め、瑠奈がルイスの固くなった手を握り注文票を握らせる。

「そして他のお客様のご迷惑になります。もう出ます。支払いの方ですが、よかったらお願いします。ご迷惑おかけしました」

瑠奈がルイスの手を離しその場を後にしドアを開け店を出ると大きなため息をするが冷たい外気を浴びブルリと震え両腕を掴みながら様々とその場を離れる。

「あーもう最悪……。なんなのあのバカ女は…。ていうか、あの人も殺す気で首行こうとしたわこっわ」

瑠奈が表に出ると走ってきたタクシーを止める。

「君っ。ごめんっ」

スーツの男が慌ててその場にくると息を弾ませ名刺を向ける。瑠奈が受け取り見ていく。

「芸能」

「もしよかったら連絡して」

「えーと、なぜ?」

「あー、こう。いや、さっきのやりとりで、ビビッと来たから。止めて申し訳ない。風邪ひくからすぐにのってね。後さっきの女もそこまできてるから」

「最悪。後どうもです」

瑠奈がタクシーへと乗り行き先を伝えるとタクシーがその場をさり男もまたその場を急ぎ逃げるように離れた。


翌日ー。

瑠奈が38℃と表記された体温計を見て顔を顰める。

「最悪…」

「本当不運だな」

瑠奈が顔を横へと向け若い女の顔立ちをさせた男、玲仁がやれやれと椅子に座っていた。

「兄と一緒の病院受診するか?」

「いや…近くのいいとこで。空いてるかな」

「連絡して予約する」

瑠奈が頷き玲仁がスマホで話していく。

「あーもお」

瑠奈のスマホが鳴ると瑠奈が耳に当てる。

「はい」

『ごめんなー。玲仁が電話出てくんないからさー』

「あー、病院の予約取ってくれてて」

『あらら。風邪ひいちゃったか』

「駅ひとつ先のところしかなかった」

「りょーかい…。あと、玄海さんから電話」

瑠奈がスマホを向け玲仁が受け取り話していく。

「頭いたああ」

「車出せますので病院付き添います。はい。分かりました。瑠奈返す」

「んー」

「後病院今から行けるか?」

瑠奈が頷き重たい体をあげ、玲仁が外に出ると告げ部屋を出た。


「知らない」

タイシが限界へとキッパリと話す。その玄海の手にはタイシの小学校を過ごした時の生徒の卒業アルバムがあり、玄海が瑠奈に水をかけた女を指差していた。

「なぜそいつが俺を知ってて瑠奈に水をかけたのか意味がわからない」

「あはは。なんか恨み持ってたんじゃないの?本当は好きだったの。なのに気づいてもくれない、とか?」

玄海が楽しくはなし、タイシが淡々と告げる。

「むしろ、好きな相手が俺に関わって酷い目にあったからその復讐とか?」

「さあ?」

「まあとにかく、俺のせいでもあるな」

「多少は」

タイシが頷く。

「ああ。ところで、昨日来た玲仁は瑠奈の面倒を見過ぎな気もするが?」

「いやあー。ちょっと恋の悩みをってやつで」

「瑠奈は関心ないが」

「そーではあるんだけどなあ」

「そうなるとそう言った部下を持つのは」

「いやあ。でも玲仁くん必要な時あるからー。まあここは暖かい目で見守るよ」

タイシが何も言わずただ頷き、玄海がなら兄としてどう見ると告げるとタイシが別にと答えた。


ー解熱剤など出しておきますね。

「休んだ方がいいんじゃないか?」

「いや、今日って約束してたから」

顔を赤くさせた瑠奈が病院から出る。玲仁がついていくがスマホが鳴ると耳に当てる。

「はい」

『玲仁。ヘルプ』

「は?」

瑠奈が玲仁を振り向き相手先の阿久津が話す。

『飯食ったが金忘れた』

「知りません。忙しいので」

『忘れた』

「…」

「なに?」

「先輩が飯食ったのはいいけど財布忘れたとか」

「あー、あのぼーってしてるって人か。行ってきたら?」

「いやでも」

「裁判所だから。終わったらホテル戻るよ」

玲仁が複雑そうにし、瑠奈がタクシーでいくからと告げると玲仁が分かったと渋々返事を返し玄海へと別行動することを伝えた。


一時間後ー。

ー…甘かった。熱上がってきたな。

瑠奈が人々の間をふらつきながら歩道を歩いていく。そしてコンビニ前に置かれた椅子を見つけると軽くゴミを払い座りはあと息を吐く。

ー玲仁君通じないし…。

はらはらと雪が降り始めると瑠奈が上を見上げ振り落ちる雪を見る。

ーお父さんっ。雪っ。雪降ってきたっ。

ーああ。

ー積もるかな?

ーどうだろうか。

ー沢山積もって欲しいな。

窓から雪を瑠奈が眺める。そして後ろで微笑んだ男が立ち瑠奈を抱きしめていた。

ー寂しい。

瑠奈が目を閉じ小さく寝息を立て始める。そこに手が伸び眠った瑠奈を支えそのまま抱き上げるとコンビニの前から離れた。


ー瑠奈。お前のお兄さんだ。

瑠奈が目の前の本を読むタイシを見る。そのタイシは興味なく軽く一度みただけですぐに本へと視線を下ろす。

ータイシ。まったく。

祖父がやれやれと向かいタイシへと声をかけると瑠奈もまた後に続きタイシの前にきてその手を握りぶんぶんと振る。

ーなに?

ー握手。

瑠奈が手を離し再び握るとお外と指差し引っ張る。タイシがわずかに抵抗するが最後は諦め本をおき立ち上がると瑠奈に引っ張られるがまま外へと出て暖かい陽射しを浴びる。

ー眠い…。寝せて。

口の中に違和感が起こる。

ー眠い……?ん…。

今度は冷たいものが口へと入る。

ー寝せて…。

そして暖かく柔らかい感触と共に冷たいものが口へと入る。

ーなに、ん?

瑠奈が重たい瞼を開け顔が目の前に来ているルイスを見て目を見開きわずかに体をこわばらせかああと顔を真っ赤にし、水を薬と共に嚥下する。そしてルイスが離れると瑠奈が息を吐き出しルイスに支えられながら咳をする。

「な、けほっ。なんで」

「申し訳ありません。意識がありませんでしたし薬もお飲みになられなかったので」

「わ、わたし、が」

「はい。40℃ありました」

「40…」

ルイスが頷き瑠奈を寝かせる。瑠奈がより重たくなった体を感じると顔を歪めはあと息を吐く。

「ここは…」

「はい。瑠奈殿が泊まられているホテルのお部屋です。受付の者に伝えて通してもらいました」

「…お世話になって」

「いえ。当たり前ですから」

瑠奈が顔をしかめ淡々と話したルイスを見る。

「おせわになりました…。そして、ルイスさん。私はあなたと対等です」

「それは」

「対等です。身分とか、階級とか関係ありません」

瑠奈のスマホが鳴るとルイスが取り瑠奈へと向け瑠奈が受け取る。

「はい…」

『今ホテルだな。ついたな』

「ついてるけど…。なに?あとなんか来るの遅くない?」

『ああ。先輩が酒飲んで暴れたの抑えて警察に聴取を受けることになった挙句、長原警視庁官の命令を受けた刑事の聴取まで受ける羽目になった。先輩が』

「あー」

『当日先輩は逃げたそうだからな。俺は待機しておけと言われたからまだ戻れない』

「またお疲れ様…。まあ、もうホテルだから。戻る時に伝えて」

『分かった。あとなにかいるか?』

「じゃあ、桃ゼリー」

『分かった。買ってくる。あと外には出るなよ』

「出れないよ…。ならお願い」

瑠奈がスマホを切りばたっとスマホを握った手を布団の上に落とす。

「昨夜のあの無礼すぎる女をどうにかしましょうか?」

「結構です…。あれだけの人がいる中であんな行為を行ったんですから世間的な制裁が起こります」

瑠奈がルイスへと話すと振り向く。

「そういえば、昨日ビジネスをしてるとかって」

「ええ。こちらの情勢を知るために会社を持ってます。私自身実際にその会社の人員に直接指示などは出してはおりません。私が選んだ代理に全て指示を出しております。会社はまあ、規模は大きい方ですね」

「国外ですか?」

「ええ。ただ、日本国内にも支店を置いてます」

「それは何か国内にあるからとか?」

「ええ。私たちの上となる王族は全て黒髪でしたから探す為にがまず理由の一つです。あとは、日本人は几帳面ですし時間に正確な方が多いと言うことです」

「会社の名前は?」

「ウェルブムです」

「出版社じゃないですか」

「ええ。ご存じですか?」

「勿論です。よく本は見てますから」

「そうですか。あと、私はあなたがタイシ殿の妹と言うことだけしか知りません。今のあなたは18ですよね?学校は?」

「行ってません。そして高卒の認定資格を取る予定です。私は中学校一年の半ばから学校には行きませんでしたから。あそこに私の居場所はなかったですし家でも勉強は出来ましたからね」

「そうですか」

「はい。それでその代わりに本ばかり読んでましたし、図書館ばかり行きましたから。あとは、書店に立ち読みとか。そこで、いい友人とも会えましたから。私の事情を知りながら友人になってくれましたしその子は中学高校に行ってましたから教科書とかも見せてくれました」

「なら、そのご友人が唯一のご友人ですか?」

「そうですね。私にとって大切な友人です。そして、私の今の家族も大切です」

ルイスが頷き瑠奈がうとうととする。

「あなたはいますか?大切な人とか、友人とか」

ルイスが黙り込み瑠奈が目を閉じすうと寝息を立て眠る。

「私にはおりません。1人も」

ルイスが瑠奈の布団を被せ直し立ち上がり痕跡を残さないよう軽く掃除した後静かに部屋を後にした。


夜ー。

ーまだ熱ありますね。

ーやっぱり裁判所行かせない方がよかったな…。

瑠奈が目を覚ますとショートカットに小麦色の肌に焼けた女子と玲仁がおりショートカットの女子が話しかける。

「瑠奈」

「…なんで紬がおっと?」

「っておいおい。試験終わったら来るっていったたい。ご飯食べよって」

紬が軽くこづき、瑠奈があーと声を出す。

「ごめん…行けない」

「見たらわかる」

「電話が通じないと俺の方に連絡があった。はあ」

「そう。そうしたら昨日水ぶっかけられて風邪引いたって。その女腹立つね。今度ルナにちょっかい出したらうちが面食らわせる」

紬が背負った竹刀を見せ、瑠奈が話す。

「それは、心強い」

「そぎゃん」

「試合どうだった?」

紬が落ち込みながら2位の賞状を見せる。

「判定負け…。あーーもおおお。悔しかあ」

「判定負けというものほど嫌なものはないな」

「そぎゃんっ。一本にせんかっ。はあ」

紬ががくっと頭を落とす。

「あ、熱38℃だった。記録見た時40℃だったけんびっくりしたたいもう」

「ごめん。ちょっと無理した」

「そぎゃん。あとこれ。にいちゃんから差し入れでもらったけん。銀座のプリン。冷蔵庫入れとくよ」

「ありがとう。お兄さん来てたんだ」

「うん。参加しとった。向こうは優勝。やっぱ凄いわ」

「高校大学で一位だったそうだからな。そして今は警察か」

「会ってお礼とか言いたかったけどなあ」

「よかよか。それより、養生せんか。あと、うちもう行くけん。そんでまたあした来るけんね」

「うん」

紬がお大事にと告げ部屋を出る。

「明日の予定はキャンセルしたからな」

「ああああ行きたかったのにいい」

瑠奈が嘆き声を上げ玲仁がまた次の楽しみにしようと話すと瑠奈が力無く頷いた。


翌日ー。

ミオが退院の荷物を持ち香苗の祖父母と共にタイシの病室へと向かう。そしてたどり着くとタイシが振り向き紬が後ろを見る。

「あ、こんにちはー」

「ああこんにちは」

「こんにちは。タイシ君のお友達?」

ミオが軽く頭を下げ、紬が話す。

「いえ。その妹の地元の友達です。今日一緒に来る予定だったですけどまだ熱下がらんですけん」

「あら?瑠奈ちゃんよね?風邪引いたの?」

「はい。今ホテルで療養しとります」

「そうなのね。お土産のお礼言おうかと思ったんだけど」

「ああ」

「またお寺の方に来る予定らしかですけんそん時に話してください」

「ええ」

ミオがじいと紬を見ていき紬がミオへと手を振る。

「どうも。ミオさんだろもん?ルナから聞いとる。うちは小鳥遊紬。たかなしは小鳥で遊ぶっていう苗字」

「小鳥で遊ぶ、ですか?」

「そぎゃん。後年は一緒だけん敬語はよか。よろしくたい」

「小鳥遊って確か剣道で強い男の子がいたわよね?」

「それうちの兄です。小鳥遊望。うちも剣道しとります」

「そうなのね」

「はい」

「そうしたら、以前特集で家も出たよな?骨董店の」

「そがんです。小鳥遊骨董書店です。主に本ば扱っとります。で、今日瑠奈のお兄さんのとこ来たとは瑠奈に本ば頼んだらしかったとですよ。それば今日うちが届けに来たとです」

「ああ。寺になかった伝書の続きがあると聞いたから頼んだんだ」

「相変わらず本が好きねー」

「またわざわざすまんな」

「よかですよ。こっちも買ってもらってますけん。なら、うち行きますね。またご贔屓に」

「ああ」

紬が立ち上がり頭を下げ部屋を出る。

「剣道は、あの、お面とか竹刀とか」

「そうだ。妹の方も実力者になる。父親が師範を務めているから子供の頃から教えてもらってるそうだ。今回は試合とルナと一緒に東京見学の約束をしてたそうだ」

「はい」

「まあ、それが風邪を引いたからな」

タイシが気まずくしミオが不思議そうに見る。

「気温の差がでたのかしらね。後雪も降ってるし」

「そうだな」

タイシが頷き、ミオが理由がありそうと心のなか思った。


ーここか。

紬が瑠奈が水をかけられた店へと入ると女性店員がやってくる。

「いらっしゃいませ。ご予約の方ですか?」

「いえ。この前の夜にここで水をかけられたものについて話しに来たんですけど」

「え?あ」

紬がじいと見ていき、店員がしどろもどろとしながらお待ちくださいとその場を離れる。そしてスタッフルームへと連れてこられると年配の責任者と思われる男が頭を下げ紬がどうもと下げ席へと座る。

「この前の水をかけられた件とのことで伺いました」

「はい。かけられた方ですが私の友人です。かけた側はこちらの店を経営されている娘さんとか」

「…ええ、まあ」

男が軽くため息をする。

「友人ですがかけられた後に高熱を出して寝込んでいます。話し合って診断書を出してもらう予定です」

「そうなのですね…。大変申し訳ありません」

男が申し訳なく頭を下げ、紬が話す。

「水をかけられたその娘さん。結構素行されるのですか?」

「その、はい。あと、詳しく申し上げますとあの人は部長の娘さんなんです」

「は?」

「こちらのレストランを運営する会社の部長の娘さんで…。苦情を申しているのですが会社から何もなく困っています。私たちも雇われになりますから何も出来ず申し訳ありません」

男が深く頭を下げ紬がはあと声を漏らすとスマホを出す。

「えと、なら傷害に当たるので話していいですか?」

「え?」

「私の兄警察官です。穏便に済ませるなら済ませてこいと言われましたがそちらも困ってらっしゃるなら今回の件を伝えてさっさと済ませますけどよろしいですか?」

顔をあげた男が期待の眼差しを向けながらはいと頷き、紬が相当迷惑してたんだなと思いながらスマホで早速連絡した。


ーこれ。

小麦色の肌にスポーツ刈りの男が生活課の婦警たちの前で被害届を出す。

「受理をしてもらってもよろしいですか?」

「はい」

「はいすぐに」

婦警達が取り合うように紙に手を乗せ男がよろしくお願いしますと伝えその場をさる。そして、それを年配の男が見てやれやれとする。

「肥後男子がきたな」

「フェンシング金メダリストだろ。それから剣道全国制覇。相変わらずモテるなー」

男がやれやれとし被害届を見てやれやれとし受理の印鑑を押した。


「あ、瑠奈ー。兄さんに話たけんね。なんか店側も迷惑しとったってさ」

紬が割引券を財布に入れながら話す。

「そっでまたよかったら予約してになるけどきてってさ。割引券ももらったから一緒に行こうよ。うん。あと、なんかいるのある?飲み物?買ってくるよ。オッケーならね」

紬がスマホを切り再び兄へと連絡し受理されたかと尋ねると受理されたと返事が返ってきた。


翌日ー。

ーほら。

ミオがフェンシングの個人メダリスト。そして剣道の優勝者の過去のネットニュースを見る。それをヒカルも見ており、見せた香苗が話す。

「すごいでしょ?警察でも功績上げてるんですって」

「へえ」

「30歳なんですね」

「そう。妹さんと12歳差ね」

「歳の差兄弟か」

「そうよ」

「瑠奈の話してた地元の友達」

「嫉妬?」

「いえ。会わせたいけど忙しくて会えないって言われたんです。本も好きで自分の事情を知っていてくれてる友人だと聞きました」

「ああ」

「いいじゃない。それと、お兄さんはまだ独身で仕事場でもだけど他でも女性達がここぞとばかりに狙ってるそうなの」

「文武両道これしかりって奴ですからね」

「ええ」

ミオが頷き、香苗が話す。

「そろそろ時間だから病院に行きましょう。ヒカル君は買い物?」

「はい。その後ダリスさんと図書館行きます」

「ええ。分かったわ」

「図書館…」

「ミオはまた今度な」

ミオがやや寂しくはいと返事を返した。


37℃。

瑠奈が私服に着替え、紬が話す。

「移動は基本タクシーだけんね」

「分かった。で」

瑠奈が分厚いメモ帳を出す。

「今日回る分だけ回りたい」

「回らずに胃に優しい店だけに行くばい」

「いきたか」

「だめ」

瑠奈が顔をしかめる。

「まあでもまずは」

紬が割引チケットを出す。

「酷い目にあった店に食べに行く」

「酷い目にあった当人から言わせるとよく行けるなと言いたかけど」

「だって東京おる今しかいけんたい。いついく?いまでしょっ。はい行こう」

瑠奈がはいはいと返事を返し紬がうんと頷いた。そして店へとくると早速店員が頭を下げ責任者を呼ぶと責任者が瑠奈へと申し訳なく頭を下げ瑠奈が気にしないでと伝えていく。その後、プティングなどがくると瑠奈がゆっくり咀嚼し、紬がケーキを食べる。

「どきつくなかね。うまか」

「うん。これならいくらでもいけそう」

「そぎゃんな。兄さんにも教えとこ」

「甘いの好きだもんね」

「そぎゃん。だけん、瑠奈みたいに東京グルメ探しが休みの日課になっとるとたいね」

「いらっしゃいませ」

そこにミオと香苗、唯子と変装した鈴子が来る。

「きた。ミオ」

「おー、例の」

「そうそう」

紬が頷き、ミオが足早に来る。

「風邪は?」

「もう微熱。今英気養ってる所」

「ええ」

「瑠奈ちゃんすごい久しぶり。お土産ありがとう。覚えてるかな?」

香苗が楽しく告げ瑠奈が話す。

「はい。いつも兄がお世話になってました。後今もですね」

「そうね」

「瑠奈のとこのお兄さん後どんだけしたら退院?」

「一週間だって。体力だけ有り余ってるからすぐ良くなるみたい」

鈴子がふふっと笑い、香苗が話す。

「タイシ君はそこが取り柄だものね」

「本当そうです」

「へえ。あ、好きな席どうぞ。先頂いとります」

「ええ」

香苗達が席へと座り早速メニューを開き見る。

「あ、そうそう。うちのにいちゃん。今日休みだけんこっちくるって」

「望さんが?」

「そぎゃん」

「紬さん。そして紬さんのお兄様のご活躍の方お聞きしております」

鈴子が微笑み話し紬が嬉しく告げる。

「ありがとうございます。あとよかったら兄も来ますので兄が来た時話してください。喜びます」

「はい」

「私これかな。ミオちゃんは?」

「このプレートBがいいです」

「ええ」

「こっちのシェイク飲みたい」

「頼む?」

ミオ達がわいわいとしながら注文をする。そこに脂汗を流す男が来る。

「いらっしゃいませ」

「佐藤はいるか?」

「店長ですか?お待ちください」

「いるなら奥だな」

「え、あ。お客様っ」

男が店の奥へと向かい店員が慌てて止める。紬が咀嚼しながら見ていく。

「あれ部長かな」

「え?」

「ん?」

一方的に怒鳴る声が響くのがわかると香苗や他の客達がなんだと見ていく。

「なに?」

「もしかしてなんですけど、瑠奈に水かけた娘さんの親じゃないかなって」

「え?水をかけた?」

「あーまあ」

瑠奈が気まずくし、紬が話す。

「あ、なんかごめん」

「…いや、よか」

「のこのことまたよく来たわねっ」

瑠奈が顔をしかめ女が怒りその場にくる。

「あんたのおかげで散々よっ。慰謝料請求するからっ」

「……」

唯子たちがじいと見ていき鈴子がふうと息を吐く。

「瑠奈ちゃん。何かこの人にしたの?」

「されたとですよされた。水かけたのがこの人」

「へえ」

からんと音が響きサングラスをし黒いコートにセーター、ジーンズにブーツを履いた男が来る。

「なら、悪いのはあなたじゃない。それで慰謝料はないわ」

「なんですって!」

「あ、きたきた。兄さんこっちー」

香苗が目をきらりとさせうわおと思わず声を漏らし唯子達がやってきた男を見る。女が若干圧倒され、年配の男が外へと出る。

「とにかくもう関係ないので出て行かれてください。これ以上娘さん共々迷惑をかけないでください」

「よしよくいったなっ。佐藤っ。この件は報告させてもらうからなっ」

「どうぞお好きに」

さらりと責任者が話すと男がかっとし責任者の頬を殴る。責任者が倒れ、唯子が立ち上がる。

「ちょっとそこっ」

向かおうとした唯子へと手が伸びると唯子が止まる。そして男がざわめく店内の中その2人の元へと来る。

「店長」

「これで済むと思うなっ」

「取り込み中失礼」

男達が振り向き紬の兄望が警察手帳を見せる。

「お話し聞かせていただけますか?」

男がさあと青ざめ後退る。

「警察…」

「あ、私も警視庁の警視が婚約者」

女が若干方を振るわせ、香苗がニコニコする。

「私の大切な子にお水かけたって?」

「え、えと」

「香苗さんいつ」

ミオがうずうずし、香苗が恥ずかしく告げる。

「もうひと月前ね。あとそうそう。こちら、まだ候補生だけど皇居警備生。言えば次期警官でもあるわ。そしてお忍び」

女が青ざめ紬が鈴子へとこそっと話す。

「後でサインいいですか?」

「ええと、私は芸能人とかではありませんので」

「う、うそ。え」

女が後退り、瑠奈が呆れる。

「被害届。もう受理されたそうですから」

「そぎゃん。店の営業妨害。そっと瑠奈に水かけた傷害たい。水かけただけでも十分障害にあたるけんね」

女が腰を抜かし座り込むと脂汗を流す。

「あーっ小鳥遊望さんっ」

客の女の1人が声を上げると周りが大きくどよめく。

「金メダリストの」

「嘘かっこいい」

店の中が今度は望のことで賑わいだす。望が責任者を起こし奥の部屋に行きましょうかと同じく脂汗を流す男をスタッフルームへと向かわせる。そして座り込んだ女のところへと向かう。

「な、なんで」

「私の兄です」

「あ、兄?」

紬ががはいと返事を返し女が青ざめながら望を見上げると瑠奈がため息をしプティングの続きを食べる。

ーはいしゅーりょー。

女が望の指示に従い立ち上がると力無く店を後にする。

「全く」

「被害届出てるならすぐに対応してくれるわ」

「あ、はい」

唯子がええと返事を返し席へと座る。

「本当親子なら揃って迷惑ね」

「ええ」

「確かに」

望が再び店へと入ると責任者へと話し責任者が頭を下げる。そして望が警官を招き伝えて奥で受けるように話すと紬の元へといく。

「兄さんもうよかと?」

「ああ。後は任せた」

望がそう告げふと唯子を見る。

「まあ今日非番だけんね。後席どうする?うちの隣座る?兄さん。ん?」

じいと唯子を見る望を見てきょとんとする。唯子が気まずく苦笑する。

「兄さん。ちょっと」

「あのー」

「名前はなんですか?」

「え、ああええ。草鹿唯子です」

「草鹿唯子さん」

「ええはい…」

望がサングラスを外す。

「一目見て惚れました。結婚を前提に俺とお付き合いしませんか?」

「へ?」

紬が口を開け衝撃を受けミオや瑠奈達もまた驚くと唯子が呆然としていたが我に変えると顔をみるみる赤くし混乱しわなつく。望がじっと見つめ唯子が心臓を爆つかせる。

ーは、はい。


「おめでとう唯子」

店を後にした鈴子が目の前の唯子へとニコニコしながら手を合わせ告げると唯子があたふためく。

「いや、ちょ、その」

「望さんストレートに言ったね」

「まあうちの兄さんそぎゃん人だから。でもうちもあれには驚いたたい」

「周りもだよ」

ミオが頷き、香苗が話す。

「そうよね。でも、一目で惚れたって言われるとドキュンとしちゃうわよね」

「だ、だから、ええと」

「おじさま達に伝えないとダメだよね?」

「そこは本人からがいいと思う。あと、草鹿コーポレーションの社長の娘さんだけど知ってたかな?」

「またそぎゃんよとこの娘さんば。後知らんと思うよ。教えたらうちの両親ごっつうたまげてしまうばい」

「ごっつうたまげてしまう?」

「とても驚くって」

「ええ」

「唯子さん。連絡先交換した?」

「しました。楽しみですね」

鈴子が嬉々とし唯子が終始落ち着かずにいたが店から再び望が責任者であり店長達に見送られでてくると唯子が硬直する。

「本日はありがとうございました」

「いえ。またゆっくりできる時にきます」

「はい。お待ちしております」

「ええ」

「す、すみませんっ。サインとか」

「申し訳ありません。仕事のこともあってサインは行ってません」

望がそう告げ竹細工の本の栞を向ける。

「その代わりこれを。折れた竹刀で作った栞です。どうぞ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「いえ」

香苗が紬へと話す。

「いつも持ち歩いてるの?」

「ああはい。あとあれうちの祖父が趣味で作っている栞です。もらった人がインスタとかにあげてて中々評判なんですよ。だから祖父も喜んで作ってるんですよ」

望がその場を離れ紬が話す。

「まだ時間ある?」

「いや。状況報告するために仕事場に戻る」

「分かった」

「ああ」

望が唯子を振り向くと唯子がドキッとする。

「また夜に連絡します」

鈴子がウキウキとし唯子がなんとかはいと答えると望が頷き離れる。そして駐車場にくると大型バイクに乗りその場を立ち去ると他の女性達が興奮した声をあげ、香苗がらんらんとする。

「本当、かっこいいー、」

「ちなみに車はマクラーレンです。別のにすればよかったて」

「本人が乗りたかったって言ってたやつだから仕方ないよ。後ミオこれね。値段三千万円」

「さ、三千…」

ミオが汗を滲ませ車の画像を見る。

「流石メダリスト。広告収入とかは?」

「あります。あと、うちは特にこれが欲しいとかないんで全部本人が管理して持ってます」

「ええ」

「紬。なんだかんだでもう夕食近いよ」

「あ、そぎゃんね」

瑠奈が分厚いメモ帳を出しここと指差すと紬が却下と答え和食を指差すと瑠奈が渋々と頷いた。


ーえ?

ーうそっ!?

ー本当か?

誠一が本を力無くおとし、足元にいたゴールデンレトリーバーが本を見て固まった誠一を見る。そして唯子の母親、妹、兄が驚きながら顔を真っ赤にした唯子を見る。

「いや、えと。さ、さ流石に、あれよね。は、早いというかっ。いや突然言われてだしっ」

「…」

「あの小鳥遊望か。剣道のみならず、進めらたフェンシングですぐさま才能開花。初めてなオリンピックで始めてのフェンシング男子個人金メダリスト」

「ルックス最高な上に文武両道。そして仕事は警察で若くして刑事に昇格」

「おうちの方は確か200年続く骨董店と伝統芸能と剣道のお家だったわね」

「そ、の男に…」

「結婚前提にお付き合い」

母親と妹が興奮する。

「いつくるいつくる!家に来るんでしょ!」

「あーもう大変。お母さんも準備しないと」

「その前に父さんの仕事にもよるだろ?」

「お、俺の?その、ま、まてっ。まだそうと決まったわけでは」

「でも姉さんはいっていったそうだし」

「そうねー」

誠一が固まり、唯子があたふためく。

「い、やその、い、勢い、っていうか。ああの場は、そそその」

「率直な答えがそれでしょ?なら本心ね」

「そうね。あと、彼は何が好きかしら?」

「テレビ出た時甘いのが好きって話してたわよ」

「和菓子が好物と話してただろ?後俺も話してみたいな。唯子。予定決まったら教えてくれよ。後父さんも合わせないと行かないからな」

「まてっ。そこでもう」

唯子のスマホがなると母親と妹が即座に反応し、唯子があたふためきスマホを慌てて出し落としかけるも受け止めそっと画面を見る。そこに望の名前でメッセージが届きましたと出ており2人がうきうきとし唯子が緊張しながらメッセージを開けた。


ー望さんもまたすごいな。恥ずかしさもなくあの場で言うなんて。

ホテルの部屋へと戻った瑠奈が昼間のことを思い出す。そして口に触れると今度はルイスにされたことを思い出しかあと顔を赤くさせる。

ーあれは、もう、慣れてるの。そうっ。

瑠奈が大きく息を吐き頭を振る。

ー瑠奈。これ。前ルナから見せてもらったのと同じやつが店にあったから持ってきたよ。みてみて。

瑠奈が袋からかけらを出し見ていくと息をつき再び袋の中へと戻した。


後日ー。

「出会って10分でプロポーズ。そして親への挨拶が一週間後の今日とは早くないか?」

個室喫茶にて鈴子を前に退院したタイシが話すと鈴子がふふっと笑う。

「そうよね」

「ああ。あと、鈴子も以前と比べると顔色が良くなったな」

鈴子がふっと笑み頷く。

「ええ。そして、生きていてよかったと実感しているわ」

「なら、よかった」

「ええ。タイシさんはまた何かややこしいことが起きたと聞いたわ」

「そうだ。と言ってもよくわからない。玄海が知っているようだが話そうとしない」

「そう」

「お待たせしましたと」

鈴子がやってきた有朋を見ると有朋がタイシの隣へと座る。

「お久しぶりです。晴れ晴れした顔になりましたね」

「ええ」

「はい」

「悪いな。きてもらって」

「全く。あと、確かにまた変化している。さらに若返っているなあ」

有朋がメニューを開く。

「あの船の事件から?」

「ああ。見えはしないが普段と変わった気がすると思った。なんと言うか、軽い」

「それは確かにそうなる。負のオーラ。怨みのオーラが極端に少なくなった。多分、重たくのしかかっていた枷。探し求めていた何かがそこにあったからだろうね。僕がいなかったのが悪かったなあ。多分あれば今頃八重子は君から離れていたと思うね」

「ああ。そうなると、船のあいつらか。面倒なのとは思うが今までのと変わらない」

「鈴子さんの方は?」

「もうあれ以来音沙汰がなくなった」

「その代わりとはなんですがタイシさんの妹さんですね。たまに妙な方が来るとか」

「玄海がその度に後処理している」

「忙しいね。ちなみに君のところには怪しい人物とかはきたりする?その周りとかは?」

「こないな。周りもいない」

「その前にタイシくんにはきませんって。来たら来たで返り討ちですから」

「そうですよね」

「…」

「ええ。でー、なんかもうその様子だとミオさんからの浄化も問題ないから普段通りでいいよ」

「ああ」

「オッケー。なら、あとはミオさんかな。今日は?」

「今日は唯子の家よ」

「ああ。唯子に結婚前提で告白した人が現れてな。お互い顔を見合って10分内で相手からプロポーズ。そして一週間でご挨拶らしい」

「ふふ」

「はああ。ちなみに相手は?」

タイシが小鳥遊望と告げると有朋がますます驚きをあらわにした。


ミオがドキドキとし、唯子が顔を真っ赤にしながらスーツに身を包んだ望むより少し離れた位置に座っていた。そこにうきうきとする母親と妹。若干興奮する兄に堅い表情の誠一もいた。

「お菓子をどうぞ。召し上がってください」

「ありがとうございます。いただきます」

「いいえ」

「えー。君は、娘にまあ、結婚前提にと、言うことを言ったそうだが、なぜ突然」

「はい。今ここで言わなければもう後がないと思いました。唯子さんはとても可憐で凛とされておりますし」

唯子がかあああとすぐに耳まで顔を赤くする。

「お優しくいらっしゃるからです」

「そ、そうか…」

「はい」

誠一がぎこちなくし、ミオが話す。

「あの、普段は何をされていらっしゃいますか?妹さんの紬さんからは東京に行ってから何してるかわからないと言われました」

「ええ。普段、プライベートではドライブとツーリング。それから頼み事があれば道場に出向き指南しています。あとは、部屋の片付けや街の散策です」

ミオの上にゴールデンレトリーバーが乗り頭に顎を乗せる。

「趣味はなんですか?」

「はい。読書と体を動かすこと。あとは坐禅です。時間があれば笙を吹きます」

「ショウ?」

「雅楽の笛です。幼い頃から吹いてますし、地元の催事で披露したこともあります」

「笛」

「そういえば伝統芸能のご家庭でもあると言うことだったわね」

母親が楽しく告げると望が頷く。

「はい。嫁いできた母以外全員雅楽楽器のいずれかを演奏できます」

「そうなのね」

ー後で調べよう。

ミオが思い、誠一が話す。

「そうか。いや、なかなか趣味をもっているな」

「いえ」

「望さん。ゴルフとかはされますか?」

「はい」

「じゃあお酒とかは?」

「嗜む程度で止めてます。仕事もですがまだ限界を知りませんので」

「限界?」

「相当飲めるってことね」

「そこは九州男児といったところですね。九州男児は相当酒が強いって聞きますから」

「そうですね。地元の友人も酒が強いものばかりいます」

「はい」

「そうか…」

ミオがゴールデンレトリーバーを背負う形で後ろ手で抱きしめる。

「まあ、その、なんだ。えー……」

妹がツンツンとミオをつつくとミオが小さく頷く。

「唯子さんもなかなか自分の時間が取れない仕事ですけど、もしこれから一緒に生活される時はどうされますか?」

唯子がどきっとし、望が告げる。

「今は会社内でも働き方改革で変わっていますので休みが取れやすくなっています。ただそれでも緊急の場合でない時があります。その時にもし、2人の時間が取れない日が続く場合、俺は現場から指導者、指南者に異動します。給与は下がりますが時間の都合がとれますし、突然の呼び出しの対応は無くなります。お互いに仕事に関してもですが生活に関しても我慢しない生活を送りたいです」

ミオがほうほうと頷くと誠一を見る。

「えと、叔父様」

「な、なんだ?」

「はい。私は唯子さんを任せてもいい方だと思います」

誠一が汗を滲ませ、男が話す。

「俺も。今話したことについて嘘つくような人とはまた違う返しだから。一応俺ブライダルで働いてるから今回みたいな両家挨拶についても手伝いや頼まれれば仲介役として参加することがあるし相談もあるからわかる」

「そ、そうか」

「ああ」

「私もいいわ。と言うか大歓迎」

「ええ。私も。今時いないわ」

唯子がドキドキし、誠一が妻や娘、ミオと息子に見られているのがわかると脂汗を浮かばせた。


ー結構古い本もあるから見たことがあるものもあるかもしれませんよ。後。今日はちょっと特別な日なんですよ。どうします?

熊本ー。

古く埃っぽい匂いがする古書店で瑠奈が大量の古い本が置かれた棚の前に立っていた。そしてその隣にルイスがいた。ルイスがじっと本のタイトルを左から右へと視線を移動しながら見ていき、瑠奈が店番の老婆へと話す。

「お婆ちゃん。これまた借りていい?」

「ええ。よかよ」

「うん」

「買うのではなく借りるのですか?」

「そう。お得意様だけの特別です。でも、購入されたらもう読めなくなりますからね」

「ええ。でもそうは言ってもそうそう買い手はつかないけどねえ。どちらかといえばみんな勿体無いからってうちに売りに持ってくるんだよ。爺さんがまあいい値段で売るもんだからそこらの買取より高く売れるってんで中々な量になったんだよね」

ルイスが頷き瑠奈が話す。

「でも本当に貴重な本とか資料とかもあって。一月に一度博士が来るんですよ。歴史的に貴重な本が売られて来たか見に」

「そうそう。その時はその本を取り置きして後日改めて高値で買い取ってくれるのよね。一番高くて1000万だったね」

「それは売り手の方も知っておけばと後悔してしまうほどの値段ですね」

「あはは。でも、手放して売ってしまってからじゃもう遅いからね」

ルイスが確かにと頷き、瑠奈が話す。

「博士今日くるんだっけ?」

「ああ。もうすぐじゃないかな?」

「こんにちは」

「噂をすればだ。はいどうも。お疲れさん」

ルイスが入り口を振り向くと年配の女が中へと入る。

「瑠奈ちゃん久しぶり。あれからもうイタズラとかされてない?」

「はい。お陰様でしずかになりました」

「ならよかったわ。お隣の人は知り合い?」

「そうです。博士に話があって一緒にきてもらいました」

「そうなの?どんな?」

「博士が持っている古文書に珍しいものがあると前話してましたよね?」

「ああ、あれね。まだ解読に至ってないのよね。なんて言うか忙しさもあって後回しにしてるのよね」

「それ、よかったら見てもいいですか?」

「いいわよ。でもその前にいつものことさせて」

瑠奈がはいと返事を返し博士が老婆の元へと来ると老婆が今月はこれだけと段ボールの本を開いてみせた。

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