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運命のミオ  作者: 鎌月
26/64

東京6

ーお母さん知らないおじさんとホテルに行ってお金だけもらってきたのみたことある。

ーたまに声変えて警察ですとか話してた。

ー知らないお家に入ってた。

「息子の前で堂々と犯罪してたわけだ」

戻って来た畑中が車に乗せたタイシへと話す。その後ろにヒカルとミオがいた。

「息子は母親の前ではうるさいといけないから大人しく常に声も出さず過ごしていたらしい。母親はそれを知らずに堂々と息子の前で話してたそうだ。いえば、息子に興味関心がなかったからだろうという話だ」

「それよりその子頭良くないですか?」

「ああ。だからどれだけ知能があるかも調べると言う話らしい。それから実年齢が不明だ。出生届が出されていない」

「えー」

「実の子供ですかね?」

「それも含めて調べるが、どうあれ栄養失調気味であるのは確かだから当人は入院中だ」

「はい」

「ところで女装男子。そこのお嬢さんのおじさんは?」

ミオが複雑そうにし、ヒカルが話す。

「内心怒ってましたね相当。顔に少し出てはいましたがそこまではと言う感じにも思えました。タイシは?春樹さんとこの」

「ああ…、まあ、あの人の部下じゃなかったからとは言ったものの罰として3ヶ月の取引停止を受けざるを得なかったとか」

「え」

「超大手の請負だっけか?そのミオのとこのおじさん」

「そうだ。損害はおそらく1億近くになるがそれで済んだだけでもいいとの話だ。直属の上司の人たちは減給。問題を起こした奥さんの旦那社員について特定できたから呼び出したと言う話だった。おそらく、損害賠償請求してクビじゃないかと言うことだった。話を聞けば会社内でも問題起こしてたとのことだったからな」

「へえ」

「その、あの、1億ってすごいお金。一杯」

「気にすんな気にすんな。会社同士の問題にもなるし、人を見下したのが悪い。態度も」

「ああ。で、畑中さん。いつもと違う道なのはなぜです?」

「ちょいと悪いが呼び出しだ。そっちの件とは別でな。すぐすむ」

タイシがはいと返事を返し警察車両がいくつも集まっている場所をみる。

「事件?」

「ああ。お前ら乗っとけ」

畑中が車を指定の場所にとめ降りるとすぐに黄色の規制線が張られた場所へと向かい中へと入る。

「テレビも来てるな」

「ああ」

「ここ、見えないですか?」

「スモーク。見えないように作られた車両だから問題ない」

「ああ。こう言ったの、イーロンでもあったよな」

パンと音が響くとミオが驚きヒカルが告げる。

「銃?」

「ああ」

「その、銃撃ですか…」

再び鳴ってすぐに顔を顰める畑中が急ぎ戻り車へと入る。

「人質立てこもり事件で説得失敗だ」

「えー」

「ならさっきの発砲音は?」

「犯人だ。ほらあの馬鹿おっさんだ。お前の爺さん。和尚さん蹴ったやつ」

「うそ」

「がちだ。人質は現役警部。横塚だ」

「えー」

「どうしてまたその方が…」

ミオがこくこくと頷き、畑中がやれやれとする。

「深追いしすぎたようだ。それで俺が緊急で呼び出し喰らわれたから行ったらもうお手上げ。話聞く前に説得失敗してた。たく」

畑中が頭をかくと窓を武装した眼鏡の男がノックする。畑中が窓を開ける。

「先輩。ご指名です」

「最悪…。あとなんでだよ」

畑中がため息し、眼鏡の男がタイシ達をみる。

「今降りられたらまずいからな」

「それもですけど、そこのタイシくんもご指名入ってます」

「はあ?」

「とにかく最後に痛い目見た相手を呼んでるみたいなんです。外国人の男も出せとか」

「あー」

「ダリスさんかー」

「まず俺からいく。盾」

「はい」

「その人は窓から指示してますか?」

眼鏡の男がタイシを振り向き、畑中がやれやれとする。

「しているが隠れている」

「ええ」

「横塚警部は頑丈ですか?」

「え?」

「頑丈だな」

眼鏡の男が振り向き、タイシが話す。

「俺に提案があります。ただし、どちらも必ず病院です」

「どうせ病院行きは確実だし、警官だからな。問題なしだ」

「何するんです」

「突入時はガスマスクをお願いします」

眼鏡の男が振り向きタイシが袋からバルサンを見せる。

「結構強力なので効果は絶大です。薬をしているなら特に危険ですー」


目を血走らせた男がふうと息を吐きすいしながら薬腕に打っていく。それを男に殴られ縛られた横塚が睨みつけ見ていた。男がふうと息を吐きすぐに拳銃へと握り直し窓から外を見ると武装した隠れた警官達が集まっていた。


ーまだばれてない。

正面の家から眼鏡の男が双眼鏡を使い隠れ見ていた。そして、タイシがバルサンを焚きすぐに重たい石と共に、煙の吹き出し口を塞がないようタオルで包み回していくと畑中が話す。

「一発本番だからな」

「わかってますよ」

タイシが数を数え構えるとバルさんと石入りのタオルを窓へと向け放り投げる。それは音を立て窓を破壊すると男がハッとした途端すぐに吹き出し口から強烈な煙が発生し、横塚が目を閉じ顔を伏せると息を止める。

「な、っげう。がはっ」

男が咳き込み苦しみ、横塚がぐうと息を止めるとガスマスクをつけられすぐに引っ張りだされる。そして男が取り押さえられガスマスクをつけられながら拘束されると同じく外へと引っ張り出されていく。

「警察が突入しました!!」

テレビが速報で報じていき、タイシが家から家へと壁を乗り越え移動すると三件目の家の裏門から外へと出てふうと息を吐く。

ーあいつはええ。

「は、たな、かあ」

横塚がふらつきくるも救急隊員と眼鏡の男が止める。

「まじ頑丈」

「息、止めてたからよ!もうちょっとマシなやり方して!」

「はい落ち着いてください」

「怪我されてますから乗って」

「高波。犯人は?」

「泡吹いてますが息はしています。ちょっ。横塚さん病院。行きますよ」

「こんのっ。覚えてなさい畑中あああ!!」

横塚が騒ぎながら救急車に乗り畑中がやれやれとし頭を掻いた。


後日、イタリア店のバーにてー。

「とりあえず俺は書面書く罰だけで済んだ」

休みの畑中がカウンターの中にいる香苗と店長に話すと香苗がやれやるとする。

「そんな簡単に言います?横塚さんは?」

「おやすみ二週間。中身は謹慎二週間だ」

「無茶して人質になったからでしょう?」

「そうだ。上司の引き止めも無視しての行動だからそれもだな。俺の場合は上司が言う前に行動したからと言う話での書面だけ」

「でも、彼つかったんでしょ?咎められなかったんですか?」

「ああ。戦争経験者。そこだな」

「はあ」

「それだけでとも言いたいですね」

店長がやれやれとし、香苗が頷く。

「はい。なら。今日は通常休み?」

「ああ。明後日までだ。働き方とかで使えと言われたからな」

香苗が目をきらりとさせ店長を向き手を挙げ店長がはいはいと面白く頷きおやすみどうぞと告げると香苗がありがとうございますと頭を下げた。


ーなら、お父さんよろしくうー。

だんと焼酎ゴップでテーブルを叩くと隆がタイシとヒカルを前に伏せて嘆いていく。

「なんでだあ。あいつが、俺はあいつが小さい頃に。あいつ、パパと、結婚するってええええ」

「…」

「それはおじさんしか男を知らなかったからですよ」

「えと、まあ」

「タイシこの手の話は苦手だよな答えるの」

「それはまあ」

「しかも、お泊まりデートだとおおおお!許さん!」

顔を真っ赤にした隆がテーブルを叩くがすぐさま突っ伏ししくしくと泣く。

「おっさん酒弱い?」

「ああ。香苗さんはおばさんに似て強いな」

「かなええ、嫁に行くのかああ」

そこに祖母が水とつまみを持ちやってくる。

「行くに決まってるでしょ」

隆ががあんとショックを受けテーブルからずれ落ちたおれ唸り、祖母が無視をし風呂上がりの祖父がしくしくと泣く隆を見る。

「なあんでこいつはこうなったんかなあ」

「知りません。はい。2人とも唐揚げ追加」

「ああ」

「ありがとうです」

「いいえ」

ミオがひょこっと顔を出し、焼酎瓶を今度は抱きしめしくしくなく隆を見る。

「えと、その」

「気にしないで良いわよ」

「ミオ。ダリスさんの様子は?」

「また熱が出てきたみたいです。氷嚢と思って」

「わかった」

「ただの風邪で終われば良いけどな」

「はい」

タイシが用意しに向かい、ヒカルが先に唐揚げを食べていくとミオがじいと見るとちゃんと取ってあると祖母が話すとミオがこくこくと嬉しく頷いた。


ーいま、どこだ。時間は……。

ダリスが息を弾ませながら目を覚まし暗い部屋の中を見渡す。

ー水。喉が、乾く。

ダリスが起きあがろうとするも体が重く起き上がれなかった。そこに抑える手が、そして吸飲みの先が咥えられるとダリスが心配そうに見つめるミオを見ながらゆっくりと吸い飲みの水を飲む。

『お薬あります。飲んでください』

ダリスが頷きミオが薬を渡しダリスが薬を飲み、ミオが追加した水が入った吸飲みの水を再び飲んだ。

ぴぴっと体温計と音が響くとミオが38.2の数字を見る。

ー少し下がってる。薬効いてきたんだ。

『ルー、シー…』

ミオが眠るダリスをみる。

『ルク、レ、シア』

ールクレ…。ルクレイシア……ルクレイシアかな?

ダリスが再び寝息をつき、ミオが誰だろうと考えるも欠伸を出すと離れた位置に敷かれた布団へと向かいその中へと入った。


ミオが目を覚まし、目の前の花ばかりの庭を見ながら散策をする。

ー綺麗なお庭。

そして中央の薔薇の花が巻き付く鳥籠のような東屋に1人の女性が座り紅茶を飲んでいた。

ー見たことない。誰だろう。

ミオが歩み寄り近づいていく。するとその女性の元に教会のものらしき神父が姿を見せる。ミオが止まり女性が冷ややかに睨みつけ何かを言い始めるとその神父は狼狽えているのがわかった。

ーなんだろう…。聞こえない。

ミオが近づこうとすると誰かが肩を掴む。ミオが驚き振り向くと白髪の巫女服を着た、赤目の少女を見る。

ーダメよ。行っては。

ーえ?

ーあなたの魂が堕ちてしまう。白鷺神社に来て。

ー白鷺?

ーええ。それからあなたの隣で唸って寝ている男性も連れてきてお話ししましょう。熱があっても連れてきてちょうだい。待ってるから。

少女が手を叩くとミオがぱっと目を覚まし体を起こす。そして唸るダリスを見て慌てて向かい熱を計りすぐさま部屋を出てタイシの元へと慌てて向かった。


ー白鷺神社がこの間駐車場の仏さん達をお祓いしてくれたところよ。

ダリスがタイシに力無く背負われながら白い鳥居へと視線を向ける。そして、白い宮に左右二対の口が開けられた白鷺と閉じられた白鷺の像の間を通りながら宮へと向かう。そこにミオとヒカル、お供物を持った香苗の祖母がおり祖母が話す。

「みんな真っ白でしょ?ここまで白いのはここだけなのよ」

「そうなんですね」

「ええ」

「ありがとうございました」

宮の扉が開かれ赤子を抱いた夫婦が中へと向け頭を下げる。そこに、あの時の宮司がおり宮司がいやいやと頭を下げ3人を見送ると祖母達を見る。

「ああ」

「この間はどうもでした。おかげさまであそこが通れるようになりましたよ」

「いえいえ」

「来た来た」

後ろ髪をまとめた白髪の少女が姿を見せるとミオを指差し手招く。ミオが手招かれ向かうと少女がミオの顔にスプレーを向ける。

「はい。目を閉じる」

ミオが目を閉じシューとスプレーされると今度は両手と指示され両手もされる。

「良い匂い」

「ジャコウという香水」

「ジャコウ?」

少女がニコッと楽しく話す。

「海外に生息する鹿の肛門」

「えっ…」

ミオが固まり、少女がミオのひたいを突く。

「これ一つスプレーで千円くらいだから」

「せ、せんっ」

「そう。ああでも気にしない。そこはお気持ち代からいただいてます。後効果は絶大」

固まったミオを前に少女が立ち上がる。

「キヨちゃん元気そうね」

「私はいつでも元気ですよ」

「ええ」

「前、いなかったよな?」

タイシが祖母に尋ねると祖母が頷き、キヨが話す。

「ここには弟子入りできたから」

「そうだ。突然弟子にして欲しいと言われてなあ。孤児の子なんだ」

「孤児?」

宮司が頷き、キヨが話す。

「その通り。なら準備出来てるからその外人さん連れて上がって。そこのミオは終わったからうろついてて良いよ」

「終わった?」

「そう。結構気にしないようでいて気にする子のようだけどまあだ青いからね。本人が異性も同性も避けるために使ったの。つまり遮断。あんまり覗きすぎは良くないということでね。性的にもそう」

「あー」

「夢に見るというやつか」

「そう言うこと。おばあちゃんといる時はおばあちゃんの力の影響を受けてたからそこまでなかったみたいだけど、そうでない時はすぐに見てしまうみたいだから。でも本人は無意識。だから外部から完全遮断させた。はいなら、そっちの外人さん重症だから連れてきて寝かせて。そのあとはみんな外で待ってて」

キヨがスプレーを持ち奥へと引っ込み宮司がまた次もあるからと話すとタイシが頷き靴を脱ぎ上がり、宮司が続く。ヒカルが固まったままのミオを連れて香苗の祖母のところにくる。

「孤児なんですね」

「ええ。あと、弟子入りは5年前ね。宮司さんと一緒であちこちとお祓いの仕事してて忙しいのよ」

「じゃあ、普段この神社は誰がいるんですか?」

「奥さんと息子さん。それから息子さんのお嫁さんね。息子さんも勘のある子だから見習いで今お父さんの宮司さんと一緒に出かけたりするけど、お父さんよりかはいるわね。あと、お祓いの受付は奥さんと息子さんのお嫁さんよ」

「へえ」

タイシが戻ると、2人に話す。

「結界とか文字とか札とか。結構本格的に儀式というか。する感じだった」

「なあら余程悪いのがついてたのかもねダリスさんに」

「ああ」

「それで熱とか出るのか?」

「警官が掴まれた後残ったことあっただろ?あれと似ている」

「あー」

「それでミオは昨日隣で寝ていたからな。多分、無意識に干渉しようとしたんだろ」

「で、それで、夢に今の巫女さんが出てきた」

「そうだ」

「あの子も不思議な力を持ってるからねえ。なにせ、まだ何も話してないのにその通りに準備してたり、名前も教えてないのに名前を言ったりとするから」

ヒカルが驚きタイシがミオを揺らす。

「ミオ。肛門といっても肛門近くの皮膚だからな」

「いやそこかよ。気にしすぎるなとか言えよ」

ヒカルが呆れ突っ込み、祖母がけらけらと笑った。


ールー、シー……。

ダリスが気持ちよく寝ていたが顔を歪め唸る。そして、ミオが見ていた光景が広がる。

ー私の庭。ああ…。

ダリスが一歩ずつ進む。

ー帰ってきたんだ。私は。

そして東屋が見え始めると女性が紅茶を飲んでいた。

ールク。

その口が塞がれるとダリスがすぐに塞いだキヨを振り向く。

ーまだ帰ってない。ここは夢と現実の狭間。時の空間。

キヨが手を離しダリスの正面に逆さになると下を指差す。ダリスが下を見ると顔を赤くし唸る自分とその隣で顔を白い紙で覆い仰向けになるキヨがいた。

ー私…。

ーそう。あなたが身につけた腕輪は誰からのプレゼント?

ダリスの左手にある細い金属製の腕輪をキヨが指差す。

ーそれを自分で外せば熱は下がるけど、外さなければそのまま死ぬ。

ー…なぜ?

ー呪い。あの世界から受けた呪いがここで発動されてる。それも、貴方にとって貴方が欲しいと願った女性が与えた物を使って、ね。

キヨが逆さまから元に戻る。

ーその腕輪自体も強い力を持ってる。それは危険すぎるから私が破棄する。

キヨの隣にアルスランが重なるとダリスが目を見開きキヨが再び逆さとなると今度は実験場らしき場所とケースに入れられた赤子達を見せる。ダリスが唖然とし、キヨが話す。

ーイーロンの特別な実験場。ここではクローン。つまり、瓜二つの人物をもう1人作る実験をしていた。ただし、瓜二つと言っても、同姓でもなく顔も体も何もかも同じではなく力が瓜二つ。

ー力。

ー魔法の力。ただ、もう今はこの施設も破壊されて終わり。一件落着。

キヨが手を叩きにこりとする。

ーでもまだ実験していた科学者やその協力者の複数は逃亡中。

再び風景が変わり学者達の食堂であろう。食事をとる物達が大勢いる大部屋が映し出される。

ーここは…。

ー休憩室。よーく見て。

ダリスが見渡し、そして1人の白衣の女性を見て目を見開く。

ールーシー?

ーそう。そして、イーロンの生物学者。今はあなたのところにいる。

ー…。

ーこの記憶は私の記憶。私の過去の記憶。私が残した。

ーでたらめだ。

ーでたらめじゃない。真実。

ダリスが歯を噛み締めキヨを睨みキヨが話す。

ーあなたが受け入れたら死なない。受け入れなかったら死ぬ。

ー勝手に決めつけて

ー勝手じゃない。

ー勝手だ!

キヨが頭を振る。

ーそれになぜ、アルスラン殿がうつるっ。

ーそれは私と彼が兄弟だから。兄弟と言っても私は、彼の力のクローンの失敗作。つまり廃棄された試験管ベビー。

ー試験管?

ー体外受精というものによって作られた兄弟。彼も元はそうだったけどオリジナル。本体よりも強い力を持って生まれたから本体。本物になった。学者たちは成功例として彼を教会内に閉じ込めた。でも、彼は解放された。そうして、今度は彼の力を持って全て壊された。実験場も育ててきたものすらも全部。

ー…。

ー私はその前に廃棄されたけど運良く狭間の穴の中。開かれていた扉に飛び込んだのでここ日本にいる。

ー飛び込んだ?

ー英雄召喚。そこで開かれていた狭間に飛び込んだ。けど、代償はあったね。

キヨが袖をまくり右腕の義手を見せる。

ー右腕を失ってね。今はこの通り。まあでも、生活に支障のないほど動かせる様になった。

キヨがまた袖を戻す。

ーあなたが怒るのは仕方ない。けど今のままいればあなたは呪いで死ぬ。呪いについては彼女がかけたわけじゃない。ただし、彼女はイーロンの学者であったことを隠している。

キヨが突如消えるとダリスがすぐに後ろを振り向き逆さのキヨを見るがその額にキヨの指が当たる。

ーあなたが怒ったのはなぜ?

ー…なぜイーロンの学者と教えた?

ーあなたが知りたがってたから。魔女と呼ばれ、娼婦と呼ばれる彼女について。その腕輪からは彼女の秘密を知りたいと強く念じられていた。つまりそこを狙われたわけ。呪いは何かを強く思うことに反応を示す。つまり、強く思うことはその人の弱みでもあるし、その人の意識が強まる事でもあると、いうわけ。

キヨが正面へと戻り腕輪のある手首を腕輪がと掴むと義手のある右手を向け赤と黒の光を出す。

ーこれは?

ー呪いをかけた人の魂の色。そして怨みの色。怨みの色というのは殺した数による怨み。

キヨがその光を握りながらゆっくりと笑む。

ーここであなたが腕輪を外したら現実でもあなたが動き外せる。

ーそうすれば?

ー呪いは解けるし返せる。まあ、お相手さんの呪いだから死ぬことはないけど、呪いは返るし怨みも帰る。そして、あなたにとって得するのは相手がわかる様になること。ここにいると地図で指差せばそこにいる。ただし、腕輪については呪物になっているから私が火にかけて燃やす。それによって腕輪は失う。

ー…。

ダリスが息をつきキヨが手を離すと背を向け離れる。

ー人生は難しい。そして、厳しい。

キヨが止まりダリスを軽く振り向く。

ーあなたがこう決めたことにあなたが迷う時が必ず来る。それは確実に。

ー決めたこと?

ーすぐにわかるわかる。なら先に外で待ってるから決めてね。

キヨが離れながら姿を消す。ダリスが消えたキヨを見届けその腕輪を見る。

ーこれは、はじめてもらったもの。

ダリスがその腕輪に触れ僅かに口をつぐませるも、意を決するようにその腕輪を外した。

宮司が腕輪を外したダリスを見てすぐに呪を唱え、キヨも起き上がり義手を外しその腕輪を義手の指で引っ掛け持つと義手ごと用意された木箱に入れ左腕と歯を使い縄で縛る。

「ほわひ」

ダリスが目を覚まし、キヨが紐を口から外す。

『はい。おつかれ様。左腕見て』

ダリスが左腕を上げようとするが上がらず、キヨが面白くその腕を掴み赤くて首が腫れた左手首をみせるとその腕輪下ろし義手と共に入れた腕輪の入った箱を見せる。

『最後の悪あがきだね。しばらく左腕は痺れるし痛むから使えない。痛み止めとか飲んでしのいでね。あと、相当怨まれてるね。若者が年寄り痛めつけてだからかな?』

『……なら、もっと痛めつけるまでですよ。その老害を』

『あははは。その体と頭で?まあだまだ無理』

キヨが手を振りダリスの額に指を当てる。

『甘い』

ダリスが紙の隙間から覗かれた赤い目を見てぞわっとし、キヨがその指を離す。

『今はまだ回復することが優先。もちろんそれはわかってるはず。そして、もっと知ることが大切。この世界のことわりと向こうの繋がりを』

キヨが片手で顔にかかった紙を外す。

『言葉の習得するとかいうわけじゃなくて、この世界。生活に少しでも馴染むことだね。乗り物。生活に欠かせない道具。歴史他常識。ならこれにて終了』

キヨが立ち上がり箱を持ち外へと向かうと戸を開ける。そして待っていたミオが驚き右腕のないキヨを見る。

「終わった終わった。次の準備があるから連れてって」

「ええ。あと、キヨちゃん義手はどうしたの」

「え?」

「呪いが強すぎたからクッション材にした。後平気。まだある手作りのストックの一つだから。後、なるほどねえ」

キヨが草履をはき、タイシの元へと来ると顔を覗くように見る。

「君結構強運だ。だからあの呪いがなかなか発動しなかったのか」

「ダリスさんの?」

「そう。君の運の影響が強い。そして、離れることが多くなったからかかったんだね。発動した」

キヨが離れるとるんるんとしながら背を向ける。

「明日の夜の8時に若い君たち3人おいで。酒飲みながらちょっと話をしよう。酒は飲めないとかは却下だ。ミオについてはありがたい清めた酒だからほんの少しだ。もう1人のお姫様も連れてきて。これから先の事を占うよ。それじゃ中の外人さん連れてって休ませてね」

キヨが草履を脱ぎ宮に上がると廊下を歩き奥へと消える。

「なんか不思議」

「キヨちゃんはいつもああ言った感じだけど、ちゃんとお仕事してくれるしキヨちゃんに祓われた人はみんな助かってるし、病気も克服してるのよ」

「おー」

「凄い」

「ええ。それにご利益もついてくるそうだから見てもらってよかったわね」

「だってさ」

「…でも、香り」

そう言った珍しい奴だからとヒカルが伝えるとミオがこくりとうなずいた。


ーダリスさーん。電話。

『いやあー。そう言えばミオは未成年だったと思って』

タイシの目の前でダリスが布団の中で電話を受けながら面倒くさそうに話す。

『そうですがそれが何か?』

『ああ。なので、明日の12時15分にミオは来るように伝えてくれ。それとそちらは骨は折れてたか?』

『疲労骨折に近い打撲との事です』

『そうか。まあそれで済んだならいい。熱の方は?』

『下がりました』

『ならいい。あとあの腕輪は燃やした。残骸いるか?』

『いりません』

『なら結構。しかしそちらも苦労するな。いっそ心行くまで楽しんだらどうだ?自らを解放して好きなことをしたり驚かせたりするのもなかなかいいぞ』

『自分が決めますのであなたに言われる筋合いはありません』

ダリスが今度は苛立ち、キヨが面白く車の中で話す。

『自分で自分を押し殺しているから私から話してるんだ。ま、ミオは明日の昼12時15分に来るようにと伝えてくれ。残りは夜の8時でいい。そちらもきていいぞ』

『行きません』

『遠慮するな』

『まだ体が思うように動かないので行きません』

『硬いなあ。そんなに、あ、切った』

キヨが楽しくスマホを眺める。そしてダリスがタイシにいらいらしながら電話を渡すとミオは明日の12時15分に来るようにと伝えタイシがわかりましたと返した。


翌日ー。

「さ。これを飲め」

キヨが赤い盃に入った透明な酒をミオに向ける。ミオの傍にタイシと連絡を受けきた唯子がいた。ミオが盃を受け取り軽く匂いを嗅ぐ。

「清めた酒だ。ただし、少し強いからゆっくりと飲んだほうがいい」

「はい」

ミオが盃に口をつけ一口、また一口と飲みぐいーとそのまま飲み干す。

「ミオちゃん。お酒初めてならそんなに一気に飲んだらダメよ」

ミオが盃を離し、キヨが告げる。

「住んでいた時に飲んでいたものはなんだ?」

「え?」

「母親が飲めと言って飲ませてたものは?」

「果物の果汁を保存したものです」

「保存?」

「発酵酒だ」

唯子が驚き、キヨが話す。

「解毒効果もある。酒は飲み過ぎたら毒だがある程度の量であれば薬という。今飲んだ酒の味はどうだ?」

「甘かったですけど、懐かしい気もしました」

「ああ。なら飲んできたものに近いだろう。そして飲んだそれは桃をつけた果実酒でな。桃は昔から悪霊を払うだけでなく病を治す薬として遥か昔から重宝されてきた果物だ。さてと」

キヨが立ち上がり壺と皿を持ってくると中から酒に漬け込んだ桃を出しミオへと向ける。

「これがその実物だ。食べてみろ」

ミオが頷き指でつまみ口にする。

「とても甘いです」

「ああ。酒につけると甘さが増すからな。それから香辛料も入れて香り良く柔らかくなっているし身体にも良い」

ミオが頷きキヨが蓋を閉じ壺を置く。

「これにて終了。あとの3人は夜の8時に3人だけで来たらいい。その時好きなつまみを各自一つ人数分もってこい」

「つまみを?」

「ああ。酒のつまみだ」

キヨが立ち上がりではなと告げ壺を持ち奥へと消える。ミオが頭を下げ、唯子が話す。

「話通り、あっけからんすぎるわね」

「ああ。あと、終わりなら行こう。ミオは立てるか?」

「はい」

ミオが立ち上がるも。

「そうだそうだ」

「え?」

「ダリスに渡しておいてくれ。食べろと」

キヨが小壷を持ってくるとミオに渡し再び立ち去る。ミオがきょとんとし唯子が何かしらと不思議な面持ちをした。


ダリスが小壷の中にあるものを見て塊、ヒカルがダンマリとしタイシが蜂の子漬けを見る。

『一応。食べられる虫です』

『虫で間違いはないんですね?』

ダリスが苛立ちを含みながら返し、ヒカルが苦笑する。

「これ虫?」

「ああ。見た感じ蜂の子だろう多分…。スズメバチの子供だ。タンパク質とかの栄養が高い食べ物ではあるな」

「食い物なんだ」

「食べ物だ。ただ俺も食べたことがないからどんな味かはわからないしそうなのかも全く…。ばあちゃんに聞いてみる」

タイシが立ち上がり離れ聞きに向かう。ヒカルがダリスを見て若干そそっと後ろに下がり離れた。


7時50分ー。

「蜂の子ですか…」

「ああ、まあ、食べたな」

「だなー。けど食べながら静かなら怒ってたし。まじ怖かった」

タイシがライトを照らし夜道を鈴子とヒカルと歩いていた。ヒカルが辺りを見渡し後ろを見る。

「鈴子。護衛はいないんだな今日」

「ええ。お祖父様にお話ししたらならそうした方がいいと言われたの」

「つまり、呼び出した相手を知っているわけ?」

「ええ。お話しだとまだ幼い私のいとこが悪いものに取り憑かれた時にお祓いしてくれた方だからと。従姉妹の子は事故にあったり、大怪我を負ったりしてきたの。傍に人がいながら」

「へえ」

「それで、事故にあった時に突然来て生霊がついて悪さしてるのと、子供だから無料ですぐすると言われたから一緒にいた叔母さまがその場でお願いしたらしくて。それで、公園に行ってベンチに座らせてお塩と白檀の入ったスプレーを振りかけたあとは何も起こらなくなったそうなの」

「それだけで?ちなみに生き霊ってことは生きてる霊って」

「来た来た」

外にいたキヨが3人をカンテラで照らす。

「それライト?」

「そうだ。昔のライトで明治に活躍したカンテラだ。中々いいぞ。あとこちらだ」

キヨが宮から離れ灯りのついた離れの小屋へと向かうと3人が続く。そして、開けられた扉に料理と酒が置いてありキヨが中へと入り3人も続く。

「見たことないやつばかり」

「漢方料理というものだ。あのカフェに2人はいったことあるだろ?あの店長とは知り合いでな」

ヒカルが驚き、キヨが楽しく話す。

「ここのことを知って相談と占いに来てな。年内には解決するからまっておけと話しておいたんだ。そして、今回特別に彼女お手製の漢方料理をここで作ってもらったわけだ。本人は作って帰らせた。聞かれたらまずい話ばかりを今夜は飲み食いしながら話すからな」

「ああ」

「まあ確かに」

「ああ。とりあえずまた彼女に会う機会があれば礼を言えばいい。あと好きなところに座れ」

タイシ達が早速席に座りキヨが壺を持ち蓋を開けるとヒカルが話す。

「ミオが飲んだのと違う壺」

「ああ。こちらは果実酒じゃない。あとそれぞれ違うものをまず飲ませるが、持ってきたつまみ出して食べておけ。腹を空かせたまま飲めば酔いが回るからな」

「ミオはそのまま飲ませたよな?」

「ミオは強いと分かっていたから飲ませた。あれは暮らしていたところが貧しく食べない日もあったけれど、毎日果実酒だけは飲ませられていたようだからな」

キヨが赤い盃に柄杓で酒を注ぐ。

「こちらはヒカル」

「名前教えてないのに」

「私は魂を通して相手の名前が見えるからな」

「魂を通す」

「ああ」

キヨが酒をヒカルに向けヒカルが受け取る。

「つまみをある程度食べてから飲め」

「分かった」

ヒカルが盃を置きカレースナックの駄菓子をだす。そしてタイシがピーナッツ、鈴子がチーズを出すとヒカルが興味津々にみる。

「青いカビ?」

「ええ。ブルーチーズというの。私もお酒は飲んだことなくてお祖父様に聞いたらクセは強いが酒を飲むならこれを食べた方がいいと渡されたの」

「へえ」

「向こうではまずチーズ自体種類が少ないからな。ここでは、あの蜂の子みたいじゃないが虫に食べさせて虫ごと食べるチーズもある」

「それ食べたくない…」

「ダリスは蜂の子を食べたか?」

「食べた」

「あれは私からの見舞いの品だ」

「見舞いの品…」

「なら特に何かあるわけでもないもの」

「あるさ。私の気持ちが」

キヨが得意げに告げ白い盃の酒を鈴子に向け鈴子が受け取りテーブルに置く。そして赤い盃をタイシに向けタイシが受け取る。キヨが三つの酒壺に蓋をし奥へと持ってしまいに行くと今度は一升瓶と升を持ち戻る。

「こちらは私のだ。さて、まずは自分が持ってきたつまみから食べてから飲むといい。飲み終わったら料理と酒でもなんでもここにある好きな飲み物を飲んだらいい」

「はい」

「ならっと」

ヒカルが袋を開け早速食べ、タイシ達もそれぞれ食べる。そして鈴子も食べると顔を顰める。

「すごい匂い…」

「ブルーチーズだからな。だが栄養はある。あと、先ほど春子の話をしながら来ていただろう?」

「はい…」

「ああ。生霊がついてて公園のベンチに座らせて」

「塩と白檀を入れたスプレーを使って払った。生霊だが、選ばれなかった女の恨みだ」

「え?」

「宮家のものに選ばれなかったものの怨み。あのベンチに座らせたのは春子の母親がそのものとよく幼き頃座っていたベンチでな。そして、小中高と同じ学校に通っていたが友人でもない。ただ顔見知り程度だった同級生だ」

タイシが食べながら頷きキヨがコップに注いだ酒を飲む。

「それが春子が宮家の婚約者に、そして結婚したことに腹を立て生まれた我が子が死ぬようにと常に怨みを持ち念じ続けた。ちなみにそのようなものは実際に殺すことも考えているので家の中に殺害計画を立てることが多い」

「なら、逮捕されたのか?」

「ああ。表向きの報道はされてないが計画をしていたようでな。春子の母親が子を公園に連れて遊ばせていたのは知っていたので、そこでどのように殺すか計画していた紙や凶器が発見されたわけだ。女の生霊はいわば予行演習というもので自然と殺そうとしていた子供に取り憑いたということだ。ちなみに春子の母親は確かでしか覚えていない。それはそうだろうな。友人なら覚えがある。しかし軽く話した程度の同級生。関わりを持たなければ知らない」

ヒカルが頷き食べ終えると早速酒を飲む。

「甘くもないし、くどくもない。なんか飲み心地はいいし、なんか嗅いだことあるに匂い」

「生姜をつけた酒だ」

「生姜?」

「ああ」

ヒカルが頷き、タイシが少し飲む。

「シナモン」

「そうだ」

「この、お酒、クセが」

「え?」

鈴子が口を手で覆い、キヨが話す。

「だろうな。それは乳酒。ヤギの乳を発酵させて作った酒だ。そのチーズと一緒に食べたらいい」

「はい…」

鈴子がチーズを食べ酒をちびちびと飲む。

ー少し、クセが抜けた…。

「この酒を選んだことの意味は?」

「お前達を見てお前達の体に今必要と思っての酒だ。飲んだ後は好きにとって食べて好きなのを飲んでいい」

「ああ」

「なら食べよう」

ヒカルが取り皿を取り早速選びとっていきタイシもまた選びとる。そして、なんとか食べ終えて飲み終えた鈴子もまた口直しにと料理を選びとった。

30分後ー。

鈴子がやや顔を赤らめながらもそもそと食べ、ヒカルが食べながら気にしつつ見ていく。

「さてでは話して行こうか。その前に」

キヨが立ち上がり鈴子の隣にくると額に指を当てる。鈴子がされるがままになり、キヨが面白く笑むと立ち上がる。

「なるほどなるほどだ」

キヨが再び座っていた席に座り直す。

「ことは重大。あちらからしつこく鈴子を追ってきたバカがいる」

「え?」

「この世界の行き来が可能な人物というわけか?」

「ああ。ただし代償はっと」

鈴子が驚きキヨが外した義手を動かす。

「必要なわけだ。生贄を使ってきた愚かなものだ。使わずにくる方法はもちろんあるが、それが中々難しい。簡単にくるには手っ取り早く他の命を犠牲にすること」

キヨが義手を再び装着する。

「どの世界の理も等価交換があるからな。代価が必要となる」

キヨが酒を飲みからになったコップを置く。

「私はあちらの世界のイーロンで試験管ベビーとして生まれここに逃げてきた」

「試験管ベビー。まじで」

「なら体外受精か」

3人が驚き、キヨが頷く。

「ああ。ちなみに、私はここにくる前は金髪でな。そして、私はアルスランと血の繋がりのある妹になる。ただし、体外受精。いわば父親の精子が一緒なだけの妹だ。その兄弟達は数多くいたがいまはいない。お前達がイーロンを破壊した時に、アルスランが密かにその実験場を破壊したからだ。アルスランは自らの兄弟達を葬ったわけだ。実験に使われてきた、哀れな兄弟達を自らの手で安らかに眠らせた」

「単独で行ったのか」

「ああ。お前達にも話していない。当人が単独で行った。兄弟を楽にさせ、研究員を殺し施設を全て破壊した。アルスランもまた私と同じ体外受精によって生まれた成功例。私は失敗として生贄に使われる所を自ら開かれた穴に飛び込んでこの世界にきた。右腕を失ったのはそのせいだ。髪についてはこの世界に来たことにより精神的な作用が働いてだろうな。真っ白になった」

キヨが唐揚げを食べる。

「まあ、ん。これはこれで気に入ってるからな。そして、私はあちらの世界に戻りたい」

「え?」

「私が生まれたのはあちらだ」

キヨが楽しく告げ唐揚げを食べていく。

「あとは、私も今もきている、バカどもの一掃をしたいからな。これ以上私やアルスラン。そしてこの世界の者達の犠牲が出ぬために戻りたいというわけだ。そんな大ごとできるわけがないと思うができる」

キヨが食べ終えた唐揚げの骨を向ける。

「出来ないことはない。ありえないことがありえない。私は奴らに泡で吹かせたいわけではない。奴らを木っ端微塵にしたい。跡形もなくだ」

キヨが骨を骨捨てのツボに捨てると手を長いテーブルの下に手を入れさじを出す。

「あ」

「この辺りをうろちょろしていたからな。ここに縛りつけた」

『…出れなかった』

ヒカルが軽く吹き出し、タイシがやれやれとし、キヨがサジを突く。

「これもまた嫉妬からの恨みが酷かったようだな。今はしっかり反省して役に立とうと動いているようだな。後ここで話したことは向こうでは話すな。話すとかは私が向こうに戻った時だ。でないと」

『わかった!分かっている!』

サジがあたふためき、ヒカルが突っ込む。

「早速脅しかけられたか」

『…ああ』

「ふふ。そういうことだ。あと、そちらが反対したとしても私はついていく。こちらのことは話しているし、私はここには仕事としてきているからな」

「え?ならここでの料理とかは」

「仕事しているだろう?話。後は鈴子の今後についてだ」

ヒカルがまあと声を出し鈴子が不安な面持ちをする。

「さて。鈴子について家庭内の事情があるからな。いつまでもそうしているわけにはいかない」

「今のままではということですね?」

「ああ。今のままではな。相手も下がらないし何も言わない」

鈴子が下唇を噛み締めキヨが告げる。

「勿体ぶらせている相手の出鼻を挫く。その為にはタイシ。お前に一役買ってもらう」

「彼氏の振りか?」

「それに近い。ただ、鈴子のところにいるだけでいい」

「護衛は?」

「必要ない。ちょうど広島長崎に行くんだろう?そこはミズさんから聞いた。よかったら旅の祈願をして欲しいと言われてな」

「ああ」

「ばあちゃん優しい」

「その、お話しされていた旅行に?」

「ああ。ついていけばいい。ただし」

キヨが指を立てる。

「どこかで一泊のみお互い同じ部屋で寝てもらう」

鈴子が目を丸くし、ヒカルが話す。

「それは、嫉妬心を誘う?」

「一番はそれもだが、芋蔓でくる。利用しているようだからな」

「向こうから来た奴が?」

「そうだ。ただ早いに越したことというのはない。旅行の中間か後半くらいがベストだ。あと、特別に手と手を繋ぐ必要もない。そして、同じ部屋でというのは、旅館でというわけでもなし」

「ラブホとか?」

「え……と」

鈴子が汗を滲ませ、キヨが話す。

「いや普通のビジホでもいいからな。とにかく2人になれる所ならどこでもいい」

鈴子が安堵し、タイシが話す。

「なら、逃げ道とかの必要は?」

「ないない。明日になればすぐに行動する。お前の担当者だけに伝えて構えておけ。鈴子の護衛をつけるなら、糸永と八幡にしておけ」

「ご存知ですか?」

「私に知らないものはいないと言いたいがお互いに春子の件で知っている。私の名前を伝えて話せばいい。祖父殿にも。自分の人生に関わることであるから行きたいとな」

「はい」

「鈴子が話すのはこの三名のみとする。あと、ビジホは予約せずに適当に入ればいい」

「ああ」

「それで、変わる」

キヨが楽しく酒を飲み料理を啄む。

「それと、私は未来が見えるとかではなく勘になる。全てが全てその通りになるわけではないから一応そこは注意しておくように。後私はその旅行にはいかない。何せあちこちと忙しいからな」

「皇居にもいくのか?」

「勿論だとも。お呼ばれになった時は出向いている。まあだがそれは何かしら予期せぬものの現れがあった場合のみだ。春子以外に二度ほどあった。ま、迷える魂の悪戯にすぎなかった。あそこは居心地がいい空間が多いからな」

「居心地いいのか?」

「私にはよくは」

「人にはわからん。わかるのは私のように勘の強いものだ。ああそうそう。タイシ。お前の母親は手強いなー」

「まだ抵抗してるのか…」

「面白いほどに。お前一度だけ会いにいけ。いやでもだ」

タイシがため息し、キヨが話す。

「そこではっきりと言えばいい。全て俺がもらってもう残ってないと。遺書から何もかも証拠を持ってみせろ。全てだ」

「…」

「でないと終わらない」

タイシが再びため息すると複雑そうにし、ヒカルが手を挙げる。

「タイシの父親?」

「特に問題なし。あれはあれで状況報告を楽しんでいる変わり者で無害だから問題なし。放っておいてもいい」

「だとさ」

「なんとなく分かっていた…」

「ま、母親に関して言えるのはそれだけだ。ちなみにヒカルは特になし」

「俺の親族は何もなし?」

「ああ。ないな。悪いところはない。通常の付き合いをすればいい。それはミオも同じだ。そして、ミオはミオでトラブルメーカーだな」

「トラブルメーカー?」

「常に危険が身近に待ち受けているということだ」

「その通り。一応、それを少しでも避けるように昼間に魔除けを行った。母親が飲ませていた酒について、確かな効果はあったが今は飲んでないからな」

キヨが立ち上がり奥へと進み壺を二つ持ってくると今度は市販品の桃のドライフルーツをテーブルに置く。

「なので桃酒だ。あと桃のドライフルーツ。あのトラブルメーカーは無意識に己から発している力が原因だからな」

キヨが今度は袖から香水瓶を出しそれも乗せる。

「なので、その力を抑える。これは龍涎香だ」

「リュウゼンコウ?」

「鯨のクソだな」

「…」

「腸内で作られた結石だ」

「いや結局糞じゃん。まあそんなのばっかしっつうか。うお」

キヨがヒカルに振りかけるとヒカルがその匂いを嗅ぐ。

「…糞?」

「龍涎香は長い時を得て発酵されていい匂いがつくられるからな。ちなみにこの一瓶で三万円だ」

「たかっ!?」

「グラム1万五千円だからな。これは2グラム使って作った香水だ」

「たけえ」

「ああ、で、ミオは金は持っているからな。こちらに着いてトラブルメーカーよけのものだからわかるな?」

タイシがやれやれとする。

「話しておく」

「ああ」

「ちなみに桃は?」

「合わせて三千円ほどだな。ついでレシピもつけておこう。あと、向こうでの桃の代わりの果実は安楽葵だ」

「あの小さな赤い実?イーロンしか生息しない物?」

「そうだ。なので採取する必要がある」

「ああ」

タイシが返事を返し、キヨが話す。

「さてと一通り話は終わったから料理を食べろ。タイシはもう少し酒を飲んでおけ。あらかた自分の飲む量を知っておいた方が後々役に立つからな」

「……呑まなければ」

「そうは言ってられない時がくるぞ。絶対に。迷惑かけたくなければ自分も恥ずかしい思いはしたくないだろう?」

タイシが顔を僅かに歪め、キヨが今のうち知っておけと告げ酒を再び追加し飲んで行った。


翌日ー。

ーあの女…。

ヒカルが汗を滲ませ片手で布団を掴みわなわなと震えるダリスを見てそろりとその場を離れた。そしてミオのところへとくる。

ー…また、糞。

ミオが顔をしかめながら両手首に香水をつけてもらうと軽く匂いを嗅ぐ。

「…いい香りだけど……」

「一本三万円」

ミオがダンマリとしやや俯くと目の前の酒漬けの桃に手を伸ばし口に含みもくもくと食べ僅かな桃酒をこくりと飲んだ。


「どうするか」

畑中がやれやれとしながら袋を持ったタイシと弁護士と共に刑務所の面会所へと向かいタイシが話す。

「出張とかは?」

「可能は可能だ。ただもしかしたら俺じゃなくて現地のやつに頼む可能性も高くなる。一応話してみる」

「はい」

「広島と長崎ですか。私としては鹿児島もいいと思いますがね」

「特攻隊ですか?」

「はい。戦争の勉強ならそこもいいかと思いますし、特攻していく若者達の最後の家族に宛てた遺書をみるのも実感できると思います。戦争で亡くなってきた若者達の思いをです。あとは、鹿児島についてやはり料理と温泉ですね。私は出身が福岡なんですが砂風呂とかとてもいいですよ。お勧めします」

弁護士が楽しく話、タイシが頷く。

「なら、ここから先がお前のおふくろさんとおふくろさんの弁護士がいる。面会時間は30分までだ。話すだけ話していけ。まあ、相手うるさいからすぐ過ぎそうだけどな」

「んー…確かに」

「もしかしていつも話にならないんですか?」

弁護士が頷き、畑中が話す。

「そうだ。まあ今回は当人同士だからな。取り敢えず話せるだけ話してからでてこい。時間になったらくる」

「はい」

畑中に言われて看守が扉を開けると弁護士とタイシが中へと入る。そして、ブスくれた女と女の弁護士がおり、女の左右には女性刑務官。後ろに男性刑務官の合計4人が監視しており、離れた位置には書記官もいた。

ー相当暴れたり話にならなかったりしてるんだな。あと向こうの弁護士も期待の目を向けてるから疲れてるのか…。

じいと男の弁護士がタイシを期待の眼差しで見ておりタイシが座る。

「金」

女が手を向ける。

「宝見つけたんでしょ?あれは私のよ」

「見つけた側のものになった」

「わたしのだっつってんだろ!!」

女が声を荒げテーブルを強く叩き、タイシが気にせず話す。

「それはない。あと、祖父の財産や土地。不動産もすべて俺」

「はあ!?」

タイシがコピーした遺書と証明書を見せる。

「それと」

タイシが戸籍を見せる。

「戸籍変更によって俺はあんたの子供じゃなくなった。なのであんたとの親子関係は無くなったので他人だ。それにより財産分与。祖父の遺産は祖父の遺書により全て俺のになった」

女がタイシの胸ぐらを掴むと刑務官達が抑えるが。

「いっ!?」

女が痛み声を上げ、弁護士が腰を上げ女の手首を掴み強く握るタイシを見て肩を掴む。

「ここでは」

「すぐすみますしすませます。これ以上暴言暴行を行ったら容赦しない」

「ひぎっ。いづいっ!?」

「折る」

女が涙ぐみながら頷きタイシが手を離すと女が力無く椅子に座り赤くなった手首を握り震える。

刑務官達が離れタイシが席へと座る。

「俺は今日を最後に一生あんたとは二度と会わない。裁判所でも代理に行かせる」

タイシが名前の書かれた封筒を出し女の前に出す。

「これはあんたに宛てた祖父からの遺言だ。そして出してください」

「はい」

タイシの弁護士が書類を出していきテーブルに乗せる。

「祖父の残した遺産は全てあんたに渡す」

「ど、どうし、て」

「俺には必要ない。だが、あんたは今後あんたが虐げてきた人たちに対する慰謝料を払わないといけない。そのためには金が必要だからな。この金について今支払いを求められている慰謝料以上はある。残りについてはあんたの分だからあんたがどう使おうと構わない。そして、財宝についてはほぼ寄付された。あと、俺にとっての祖母であんたにとっての母は殺人を犯している」

タイシが見つけられた寺に埋められた写真。隠された遺体の写真をテーブルに置く。

「戦争で誤魔化し金のためにと殺され土や物に隠された人たちだ。祖父も知らない」

「…」

「全て財宝と金のためだ。あんたも同じことをするか?あんたはしない」

「は……」

「あんたはまだ自分の欲のためにと人を殺していない。ただ、犯した罪についてはこの場所で反省してもらう。そして今後、あんたはあんたを知らない人たちがいる土地にでも行ってババアになるまで暮らせ。俺は何もしないしこれがあんたに対する俺から最後の言葉だ。俺はあんたの子供じゃなくなった」

女が僅かに口をつぐみ奥歯を噛み、タイシが告げる。

「そして俺はあんたを知らない。覚えていない。ただ、全員があんたが母親だったと」

「もういい」

女が力無く項垂れる。

「私も知んないわよ…。あんたみたいな男…」

「ああ。なら、必要事項に書いてそちらの弁護士に渡して手続きしてくれ。以上だ」

タイシが終わりますと告げ立ち上がり弁護士が頭を下げタイシの後に続きながら力無く項垂れる女を軽く見て共に部屋を出る。

「…最悪。最低。本当、最悪……」

女が力無く突っ伏し、後ろにいた刑務官の男が震え泣き始めた女へと話す。

「なぜなく必要がある」

「うるさい…。うるさい……」

ー多少、母親としての自覚はあったか。

女がしゃくりをあげ、男がやれやれとした。


タイシが疲れ果て、畑中が話す。

「よかったな。けろりと罪を認めたそうだ」

「そうですか…。ああもうどっと疲れる」

タイシが大きく息を吐く。

「そういえば、同棲していた相手は?聞いたら籍入れてなかったとか」

「あー、あっちは特に何もしてないからな。まあだが、弟がしでかしてるからな殺人。だもんで家族揃ってひきこもってるそうだ。お前のとこきそうだな」

「言わないでください。ただでさえ迷惑すぎるんですから」

タイシがうんざりとし、畑中がはいはいと返事を返した。


夜ー。

ーあ。

「お疲れ様です」

唯子が後ろを向き、タイシが疲れ果てた表情を向けながら屈強な外人の男達に抑えられている男と老人。そして囲まれた老婆を指差す。

「その人達は?」

「ええ。タイシ君の実母の同棲されていた男性とそのご家族。お墓を壊してたから。あと抑えてるのはおばさまの部下の人たち。明日からだそうだからその打ち合わせで来たのよ」

「そうか…」

「畑中さんは?」

「見て見ぬ振りして行った」

唯子がやれやれとし110を押し警察へと連絡する。

「面倒くさい…」

「た、タイシ、君。その、お久しぶりね。あとどうにかしてちょうだい。私達は何もしてないわ」

「いやしてるでしょう」

「してないわよ!」

「したの!」

唯子が呆れ声を上げ、タイシが話す。

「ここの墓全てお墓のご家族の方の許可を得て金策探知などを行い調べましたが何もありませんでした。そしてこのあたり全てはそこにいる女性の叔母とその部下の方が5日かけて調べてきましたが何もありませんでした。あと、抑えているのは」

「インターポールで私の部下達よ」

男が塊、女がその場にくる。

「イ、インターポール…」

「ええ。そうよ。国際警察機関。小物だけど墓荒らしは立派な犯罪だものね」

女がうすらと笑む。

「後私のそこにいるかわいい姪に暴言吐いて殴りかかったそうね」

女が抑えられている男の元へといきヒールを履いた足で思いっきり男の目の前を踏むと男がヒッと声を上げる。

「取るもんとってやるわよ何もかもね」

「ゆ、ゆゆ」

「あ、おとうさーん」

「いたのか」

「いた」

スーツを着こなした年配の男が冷ややかな目で男達を見下す。

「か、か。かい。ちょ」

老人が声を震わせ、タイシが呟く。

「社員か。1000社余りある一つの会社の」

「みたいね」

「なら俺は戻るからな…」

「ええ。ゆっくり休んで」

タイシがああと重たく告げながら香苗の家の方角へと向かう。

「苦手な人との面会だったから疲れるわよね」

「私の娘に暴行しようとしただったな」

「ひっ」

「そ、その、ち、ちちがい、ますっ」

男が額に血管を浮かせる。

「違う?違うわけがない。覚悟しておけ」

男が背を向け離れ男達が嘆き、老婆が困惑して行った。

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