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運命のミオ  作者: 鎌月
25/64

東京5

「アマのプロレスラーか」

「…おう」

男がはあと十四郎を見る。

「ただ、ちょっと今回の件で社長から怒られたし、3ヶ月出場停止になっちまった…」

「そうか」

「タイシタイシ」

ヒカルが落ち込む十四郎の肩を叩く。

「この人英語わかるんだ。あと中国語ってのも少し話せる」

「すごいじゃないか」

「べ、別に」

十四郎が照れ、タイシが話す。

「で?お前の通訳に?」

「そう。あと俺も覚えたいから英語の先生。それから、プロレスって何だ?」

「あ、しらない?」

男が片手でスマホを操作しプロレスを見せるとひかるがなるほどと見ていく。

「ヒカル。1ヶ月は面倒みる事になったからその期間までだからな」

「うす」

「分かった。ならその期間英語教えてください」

「おう、分かった」

「言っては悪いけど人は見た目によらずと言うのはこのことかな」

「そうか。あと、そっちも小学生の時に成績優秀だっただろ?何でコンビニバイトに?」

「精神病んで会社を退職したんだ。それで落ち着いて社会復帰として選んだのがあのコンビニ。うちは母親が教育ママでさ。圧が酷かった。友人も自由に選ぶことができなかったし、恋人も自分で作ったけどどこで知ったか相手に連絡して無理矢理別れさせられたりして。大学だけは父が強く言ってくれたからよかったけど会社は勝手に決められてしまい、入社したけど合わずに精神病んだ後は半年引きこもり。そして、父が離婚して俺は父について行って今は父と2人暮らしだ。母から連絡はあるが父を通しているし引っ越し先を教えていないから平和だな」

「はあ。お前苦労したんだなあ。後お前の母ちゃんって、授業参観で着物着てきたやつだろ?」

「そうそう。やっぱり目立つよな。あと、他のお母さんとマウントしたりするからこっちは恥ずかしかった覚えがあるよ」

「そうか」

男がため息をし頷く。

「あのコンビニでまさかの相手とまた会ったのも運の尽きだな。最初は久しぶりだなと思ったら苦労ばかりした」

「ああ。まあ、俺も覚えちゃいたな」

「その、ナイフ所持してた相手?」

ヒカルが尋ね十四郎が頷き申し訳なくする。

「だもんで更にカッとしてな。あいつはガキの時も俺の親の悪口を言いやがって俺を揶揄ってたんだ。だってのに強い奴の後ろについて守られていた。ちゃんと覚えてる」

「へえ」

「彼の場合父親がマンションとかビルとかを管理する不動産オーナーだから。甘やかされてきたんだろ」

「あら」

タイシが振り向き十四郎達が驚く。そこには女もだが外人のスーツの男達も数名いた。

「ご友人?」

「違います」

「タイシくん」

そろおとかなえの父親隆が現れ申し訳なくする。

「すまん。今度は婆さんが電話とって伝え忘れてた。メモ置いてはるように伝えた」

「分かりました」

女がやれやれとする。

「こちらも一度で済ませたのが悪かったわ。あと、早速だけど裏手の庭の調査いいかしら?」

「はい。どうぞ」

「ええ。それから姪は?」

「二番目の部屋です。鈴子もいます」

「分かったわ」

女が離れ部下がついていき隆が後に続く。

「おっさんも大変だなあ」

「仕事であれ申し訳ないな」

「ごめん今の人たちは?海外の?」

「ああええ。戦後遺品調査などです。今日が約束の日でしたから」

「ああ」

「タイシ。立ち合いは?」

「ダリスさんに任せた」

「春樹」

男の父親がそこへと来る。

「話が終わったから帰ろう」

「ああ。わかった。なら、藤屋くん最後に。よかったら連絡先教えてくれ」

「えと、おう」

十四郎が照れ臭くスマホを出し交換し合うと春樹がありがとうと伝えタイシに頭を下げ父親の元へいく。そして、野原に見送られながら寺を離れた。


ーここがそう。

女がダリスが導いた最初に倒れていた場所を見る。そして男が探知機を出し調べていく。

『特に何も反応ありません』

『でしょうね。なら、周囲をまた地道に見るしかないわ』

『はい』

『またというと、同じような場所を知っているのですか?』

『ええ。ある程度。だけど』

女が汗を滲ませるサイ人形を摘み出す。

『こう言った現象は初めてね。まあ、今まで捕まえた連中とあなた達は事情が違うもの』

『リストの中に私が知り得るものはおりませんでした』

『そう。でも、あなたが描いてくれた人相の男を私は知ってるわ。イーロン。その元枢機卿』

ダリスが頷き、女がやれやれとする。

『イーロン含めた問題のある国を彼。タイシ君とその養父が潰してくれたのが幸い。行方不明者の捜索もごっそり減ったし逃れてきた馬鹿達の協力者も含めて牢の中に入れることができたから。後は掃討したいのだけどこれまた骨がいるのよね』

『今回の調査は関係あるのですか?』

『あるわよ。今奴らが来るだろうという場所をマークしているの。だけど、果たしてそこに100%の確率で来るかはまだはっきり分かってないわけ。だから、その確率を少しでも上げるため、その場所に来るための鍵が何かを調べるのにはこうやって実際に行き来した場所の調査が必要なのよ。これは自然現象ではないと分かっているから』

『ええ。タイシ殿もここで連れ攫われて、そして私達はタイシ殿が連れ去られた場所と同じところに来ましたから』

『そう。あいつらも同じ。そして、私たちが分かってしまったからそこをまた使うことが無くなったの』

『だとすると、また違う場所に?』

『違う場所だけど奴らにとって馴染みある場所にもなるわね。行方不明者達が運び込まれた場所はおそらく何百箇所。何千箇所もあるはず。そして世界は広いし私たちも数に限りあるから途方もない作業に金に時間をかけなきゃいけない。それでも、やらなくちゃいけないわけ。なにせ、勝手に持ち込まれた宝石の類。あれもまた物流に影響を出すし、行方不明者の中には鈴子さんみたいな皇族もいるわ。ただし、最近では報告されたのは鈴子さんだけのよう。一昔前。100年ほど前にはこの世界の国の一つ。イタリア国。その国の王家の王子が行方不明になってそれから二度と見つからなかったの。その件についてもあなた達が住む世界に連れ攫われたと私たちが管理している極秘操作の事件録に残されているわ。どうやって判明したかは極秘』

『その事件録はどの程度前から?』

『そうね。世界大戦以前だから200年前からつけられていると思うわ。私もまだ一部しか見たことないから詳細はわからない』

『200年前ですか。私が知る限り、この世界からやってきたもの達が勇者や聖者など言われ始めたのは500年前からと言われています。現に今ここにいるヒカルはその元聖女の息子ですし』

『ふーん。また興味深いわね。向こうはここと違って時の流れが人種などで変わるもの。そして聖女について、謎めいているのよね。力が強いものを選ぶのはわかるわ。けど、聖女に選ばれたものは長命になるとか』

『そちらについては誤解がありますし、最近わかったことです』

『誤解?』

ダリスが頷き、聖女達が教会に利用され化け物にされたことを伝えると女が頷き、ダリスが話す。

『あなたの姉にあたる葵も聖女とされていました』

『なら、もしかしたらその化物にされて利用されたわけね。酷い話』

『課長。こちらに来てください』

『ええ』

部下の1人の元へと向かうとダリスが続く。そして、逆さの獅子と門が掘られた岩が掘られた地面から出ており、ダリスが眉を寄せる。

『イーロン国の紋章。けれど、全て逆さ』

『これは鏡ね』

『鏡?』

『ええ。鏡の中にはもう一つ違う世界があると昔からの言い伝えで言われているわ。だから、鏡は神聖な儀式で使われる時もあるけれど、呪術師の道具としても使われる場合もある』

女がしゃがみ見下ろす。

『今まで見た中で一番状態がいいわ』

『他の場所でも同じものが?』

『ええ。でも、ここまではっきりとした模様は残ってなかった。謎めいていた模様。だけど、これがあちらの世界と繋がるものに関係するとは考えられていたわ。そして』

女がサイを出し吊るす。

『この可愛いお人形さんね。あなたはこれを見てどう思う?話せるのよね?』

『……』

サイが小さく頷く。

『ああ。その、この辺りだとより力が強まっていたのでよく来ていた。こちらについては初めて知った』

『そう。で、この模様について何か知っているかしら?』

『わかるのはあちらのダンジョンではこちらとはまた逆の位置。正位置といえばいいか。それを見たことがあるくらいだ。そして、向こうの奴隷市場にもあった。ただ、こちらはイーロンの特殊な模様であり、イーロンが管轄する奴隷市場の証だと言うことしかわからなかった』

『なるほど。なら、奴隷市場とかと直接繋がった扉なわけね』

『ああ。ただ、今回タイシたちは、海の中に隠された石板から』

『どーせ投げて隠したに決まってんでしょ?』

『その可能性はあるが…』

『ええ。ただ、その石板にこれと同じ模様はあった?』

『それはわからない。回収された石板は模様も何も残っておらずヒビだけだった』

『はあ。あ、そう』

『私が見た時は多くの古代文字が光って浮かびました』

『文字だけ?』

『はい。なので、イーロン国が作ったものではないようにも思えます。もっと別なもの』

『そう。ならそこはそっちで詳しく調べなさい』

『調べている』

『ならより詳しくよ』

『……葵と違ってうるさい』

女がポイとサイを後ろに放り投げる。

『写真撮って。他にも何かあるか探して』

『はい』

ダリスがやれやれとし放り投げられたサイを拾い土埃をはたき、サイがあの女と僅かに怒りに震えていた。


ーすみません。

『息子がお世話になってしまって…』

十四郎の母親が香苗の祖母へと話すと祖母が告げる。

「気にしないで。それよりあなたも辛かったんでしょ?今はゆっくり休んで。あと十四郎君はすごくいい子だしお手伝いもしてくれるから助かってるわ」

祖母が嬉しく話、相手の母親が僅かに声を明るくさせありがとうございます礼を伝え祖母と話した。

十四郎が長靴を脱ぎせかせかとアルコール除菌を噴射するとヒカルがじいと見ていく。

「何してんです?」

「何って、除菌…。まあ、ちょっと、水虫」

「あー、なら、水で洗って乾燥。それだけじゃ落ちないですよ。それから五本指靴下が一番いいですね」

「そ、そうか」

「はい。あと、水虫は結構長引きますし、ぬる薬によって使い分けしないとダメなんですよね」

「そうなのか?」

「はい。俺の父医者で色々知ってますから。そして、ブーツを履く人多いとこに暮らしてるんでよく患者としてきてたらしいんですよ。大抵みんな水虫になる原因は靴というより共有したものを使うことによってなることが多いんですよ。靴もその一つ。あとは、足拭きマットとかも」

「あー…」

「そう言った共有物から増えていくんですよ」

「そうか」

「はい。あと、水虫はカビですからね」

「おう。だから乾燥させたり」

「意外にも乾燥させる水虫もあるんですよね」

「まぢか」

ヒカルが十四郎に話していき十四郎が頷く。


ミオがウサギの全身パジャマを着せられながら後ろから女に抱かれ、鈴子がアニマルのパジャマシリーズのカタログを楽しく見ていた。

「唯子ちゃんの話した通り可愛いわねー。私ここにあと二週間滞在するからなんでも言ってちょうだい。買ってあげるわ」

ミオが顔を真っ赤にしながらぎこちなく話す。

「い、いえ」

「遠慮しなくていいわよ」

すみませんとタイシの声が響くとミオがフードを掴み顔を覆い隠し、タイシが戸を開ける。

「それ、唯子からですか?」

「そうよ。ああそうだ。あと二週間滞在するから。それから三日後に母達と会う予定なのは知ってる?」

「はい」

「ええ。それから、治療に関してだけど費用はどうしてる?」

「先に向こうから前払いで頂いてます。上からの圧力によって」

「それは何より。あとこの子戸籍は?」

「その時にヒカルと一緒に登録します。なのでヒカルとの話し合いもその日でいいですか?連れていきます」

「ええ」

「えと、話し合い…」

「ナガハラ先生のことや母親のことで」

「そう。聞いておかないといけないお話がいっぱいあるから」

ミオがちらりとタイシを見て楽しく笑む女を振り向く。

「その、私の故郷に、行かれたことがあるんですか?」

「いいえ。でも、ここに持ち込まれてきた向こうの問題を私達が動いて潰しているの。なかには国を騒がせるものもあるから。鈴子さんの件もだけど、奴隷の行方とか。あとは、宝石の違法取引とか。それからイーロンから逃げてきた連中もいるようだからそれら全員。私の仕事先で捕まえて檻に入れて二度と出さないようにするのよ」

「イーロンから、逃げてきた人たちがこちらに?」

「そうよ。今の所五十はいないけど捕まえてきたわ。大抵、悪さした連中。つまり、戦争を起こした奴ら。今度あなた達ときたダリスさんと画面越しに面会させる予定よ。ダルタリアンは知らない。でも相手は知ってるみたい」

女がくすりと笑う。

「彼向こうでは嫉妬の対象で嫌われてるのね。年寄りたぬき達から。ああでもメスダヌキからは好かれてるわ」

「はい。カリスマな方ですから。若くてこちらと同じ名のある時期法王の候補者です」

「ここでは考えられない若い次期法王になるかもしれないわけね」

「はい」

ー法王。そして、戦争…

「あの…」

「なに?」

「その、鈴子さんからお聞きして。この国も戦火になったとか」

「ええ」

「原爆のことを話したのです。後はこちらの東京大空襲です。ミオさんは今とその当時。そして、どれだけの被害だったのか残された戦争の記憶を見たいとのことです」

ミオが頷き女がタイシを見る。

「あなたも戦争経験してるんでしょう?もちろん向こうで」

「はい」

「そう。でも、ここで過ごしてもねえ。あなたのお母さん。やばいわね」

「まあ、はあ…」

「過去の犯罪歴見させてもらったし、マジックミラー越しから見させてもらったけどまた凄まじいわねえ。父親の方とは直に会ったけど今の状況を楽しんでる感じ。あなたも大変ね」

「いや、はい…」

「ええ。中々例にないわ。あと、鈴子さんについて」

「はい」

「あなたが私に力を求めるなら私は遠慮なくするわ。全て必要なものは揃えてあげる。理由としてこの可愛い姪っ子ちゃんに教えてくれたりしたからよ。後お洋服とかね」

女がミオの頭を撫でるとミオが照れ臭くする。

「…もし、追い詰められた時はお願いいたします。どうしようにも、私が危うくなった時に」

「分かったわ。でも、そうなる前に言いなさい」

「はい」

女が頷きタイシへと話す。

「一週間後に広島、長崎に旅行に行きましょう」

「俺は難しいです」

「あの畑中の坊やがついてきたらいい話よ。この子にこの国の戦争がどうだったか教えてあげないとね。この子は姉さんと同じで知りたがりのようだし」

女がミオのほおをつく。

「知らないと落ち着かないのはそっくりに見えるもの」

「えと、母もそうだったんですか?」

「ええ、そうよ。そして頭もよかったわ。もし姉さんがここにいたら。図書館の司書とかになっていそう。本もたくさん読んでだから」

「本…」

「ええ」

ミオが頷き女が指を話す。

「姉さんは病気で亡くなったそうだけど、本当は?」

「……」

ミオがやや項垂れる。

「病です」

女が息をつき頷きミオの頭を撫でミオが表情を曇らせ俯き続けた。


ー広島。長崎。

タブレット操作を熟知したヒカルが落ち込んでいたミオへと見せる。

「これだな。海の中に赤い鳥居っていう造形物。ここだと神様の門があるらしいんだ。本物はもっとでかい」

「はい。あと、見たことない」

「俺は母さんから聞いたから知ってるけど本物は知らないな。見たことない。他にも鹿」

「わあ」

「あと、もみじ饅頭っていう柔らかくて甘い菓子とアイスもある」

ミオが目を輝かせ、それから長崎はこんなのがとミオに話していく。

ーアルスランの部下ね。

女が息をつき真実を話したタイシへと告げる。

「もう、助からない体だったんでしょう?」

「はい。全身転移した状態でした。肝臓については機能してませんでした。無理をしながら術を使い生きていたようです」

「そう」

女がやれやれとする。

「分かったわ。あと、私だけ。ここだけの秘密にするわ。いずれにせよ姉は行方不明になる前にステージ4に近い肺癌の診断を受けていたもの。それからよく20年もの間生きていたわ」

「肺癌だったんですか?」

「ええ」

「ミオですが、癌ではない診断は受けてますが、胸にしこりがありました。あちらで良性との判断でしたが生活に支障が出る大きさに成長するかもしれないとのことでその腫瘍を取り除いています」

「乳がんの疑いがあったわけね」

「はい」

女がはあと息を吐き出す。

「私の家、癌家系なのよね。私も乳癌になったのよ。ただ私は見つけてすぐだったから薬と軽い放射線治療でよかったわ。ただ、姉は遅かったのよね。姉は病気しがちだったから気づくのが遅れたの。そして、今回姪がね」

「魂の転生。ごく稀にある事ですがその魂の転生で前世は名医であり今世でも医師となった方が治療にあたりました。日本人で片倉直敏さんです」

「しってるわ。心臓や癌治療を専門とした医者。けれど、彼自身も新発作を起こして入院後帰らぬ人になった。その彼を見ていたのはあなたの父親に似た人っていう話ね」

「はい。ただ顔がわからない。素性のわからない謎めいた犯人なので」

「ええ、あと、心当たりはあるわ。こっちは国際的に取り締まり行ってるから」

「なら、警視庁からも何か言われませんでしたか?」

「言われたわね。ま、誠意を持ってこちらが出した条件を飲んでくれたらやってあげてもいいってところかしら。姪っこちゃんのこともあるし」

「ミオを襲った相手は何かありましたか?」

「特に。あ、そうそう」

女がスマホを出しSNSを開くとタイシへと見せる。タイシが自分の悪口など書き込まれたサイトを見てああと声を出す。

「知ってます。畑中さんから教えてもらいましたし対処してもらってます。大体分かってますから」

「そう。ならいいわ」

女がスマホを引きやれやれとする。

「タイシ」

開かれた襖戸からヒカルが顔を出し回転寿司の画像が載せられたらiPadを見せる。

「香苗さんのじいちゃんが今日ここいくかって」

女が近づきじいと見ていきタイシが近づく。

「チェーン店の回転寿司ねえ。出してあげるからもっと」

「おばさん関係ないでしょ?」

女がヒカルの頭を掴み回していく。

「だって事実だしー。後ミオも見てみたいとか言うからー」

「向こうにはない物だからな」

ヒカルが回されながら頷き女が手を離し鼻を鳴らす。そしてヒカルが目を輝かせながらコピーした旅程表を見せる。

「後広島長崎とか旅程組んでみた」

「…」

「ふーん」

女が手にし中を見ていく。

「お前はそう言ったことについては早いな」

「どうも。それから十四郎さんのお母さんが広島出身らしく、療養兼ねて帰省してるって。そんで、広島のこと色々知ってるから案内するってさ」

「長崎は?」

ヒカルがSNSを見せ自分のアカウントを見せる。

「ネッ友が案内するから来いって」

「あなた順応力高いわね」

「俺は顔も話すらもしたことがない相手は避けたいけどな。俺のこと話したりは?」

「してないしてない」

ヒカルが手を振り、タイシがやれやれとする。

「相談してからになる。あと、寿司は問題ない。じいちゃんが言う場所は俺も行ったことあるし、じいちゃんの友達の孫がいるとこだから」

「俺も聞いた。だから、人通りが少ない奥の席とってもらうって」

「ああ」

「でも回転寿司ねー。目の前で板前が作るお寿司の方が美味しいのに」

「そりゃおばさん金持ちだから言えることでしょ?」

女がヒカルの頭を再び掴み回すとヒカルが気にせず口を尖らせ事実ーと突っ込んだ。


鈴子を見送った後、軽く変装したタイシがカナエの祖父母達と共に回転寿司やへと入る。ミオがすぐに店内を見渡し、祖父がやって来た年配の男へと手を挙げ早速席へと移動をする。そこに、ダラスもおりダリスが回転する寿司や親子連れの客達を見ていく。

『こちらでは考えられない食事風景ですね』

『食事代は必要ですが、食べ物が流れていく様子。それも生物がですよね?』

『はい。なので、少し落ち着かないです』

「生魚。ミオ食べたことあるから?」

「ないです。ヒカルさんは?」

「釣ってすぐの魚は食べたことある。甘くて美味しいし、父さんも好きでさ」

「そうなんですか」

ミオが驚き祖母がミオちゃんこっちと手招きするとミオがとててとむかい祖母の隣に座る。タイシがもう一つのテーブル席を指差しながら十四郎へと英語で話す。

『十四郎はそこ。ヒカルにとってやってくれ。俺はダリスさんの相手をするから。それから話についてヒカルに通訳も頼む』

『分かりました』

「何となーく分かった」

タイシがああと返事を返し席へと座りダリスに自分の隣にと告げるとダリスが頷き座る。そしてミオが興味津々に回る寿司を見ていき、ヒカルが十四郎が操作する注文モニターを十四郎の説明を受けながら頷いていった。

ミオがマグロの寿司。エビの寿司とゆっくりとだが夢中に食べ、ダリスが注文したウニの寿司などを食べる。

「魚のやつだけじゃなくてフライドポテトもあるんだ」

「ああ。まあ、どこにでもある冷凍もんだ。いるか?」

「はい。ちょっと食べてみたい」

十四郎がああと返事を返しポテトを注文し、ミオがうどんの茶碗蒸しを食べ目を爛々とさせる。

「プリンと、違うけど。美味しい」

「そりゃよかったね」

「プリンもあるぞ。頼むか?」

ミオがこくこくと祖父に頷く。そこに大学終わりの香苗が来る。

「お疲れー。後、元気なお騒がせさんも一緒ね」

「いや、まあ」

「知ってるんですか?」

「ええ。お父さんから話聞いて電話して話したのよ」

「ああ。まあその、世話になります」

「私はそこまで世話しないわよ。まあよかったらいてくれる時にじいちゃんの畑仕事とかの手伝いお願いね」

「うす」

「ええ。あと、よかったらこの後私のバイトしてる店近いから飲みに来ない?来るなら少しお腹空けといてくれたらいいんだけど」

「バイト先っすか」

「そう。イタリアの店のバー」

香苗がそう告げダリスに話しダリスがタイシへと尋ねる。

「決まったら教えて」

「ああ」

香苗がそう告げ祖父の隣の席に座るとプリンを真剣に食べ香苗が席に座ったのに気づかないミオを見てかわいいーとほおをつくとミオがハッとし顔を赤くしぺこりと頭を下げた。

ー帰宅者は。

香苗がダリスとヒカルを連れ先に店を出てバーへと案内する。タイシがやれやれとし十四郎を見る。

「十四郎は良かったか?」

「うす。その、自分あんまり酒得意じゃないもんで…」

「ああ。俺は飲んだことがないし、まだあまりウロウロするのもな」

「ああまあ…」

「タイシ君。そっちはどうだ?まだ食うか?」

祖父が尋ね、タイシが話す。

「いや。十四郎は?」

「俺はもういいっす。休みとはいえ制限しなきゃ何で」

「十四郎君我慢しなくていいぞ」

「いやいいっす。一応、練習あるんで。社長にまた怒られるのも怖いっすから」

「分かった。そうしたらいくか」

「ええ。ミオちゃん立てる?」

ミオが頷き椅子から降りふうと息を吐くと立てかけていた松葉杖を手にし移動を始める。

「じいちゃん。先に車に乗るから」

「ああ、分かった」

タイシが頷き十四郎を連れ駐車場へと向かい、ミオ達がレジに並ぶ。

「ミオちゃん美味しかった?」

「はい。お寿司とか美味しかったです」

「それは良かった」

「ああ。またいつでも食べさせてやるからな」

「いえ、そんな」

「それちょうだい」

ミオが後ろを振り向き下を見て男児を見る。

「え?」

「その松葉杖ちょっと貸して」

「え?あ」

無理矢理金髪の女が掴み引くとミオがよろめくもすぐにそばにいた別の女が支え松葉杖を掴む。

「あなた何してるのっ。この女の子怪我してるのに杖を無理矢理取るのっ」

「子供が欲しいって」

「子供が欲しいからって取るわけ?」

「ちょっと借りようとしただけよっ」

「ねえその杖ちょうだい!!」

ミオが汗を滲ませおろおろとしだし、祖母がしゃがみこどもへと話す。

「これはお姉さんのだからダメ。お姉さんが足痛い痛いしてるから」

「えー」

「ちょっとそこの貧乏人は黙ってなさいよっ!」

支払い中の祖父がムッとし、店員が駆けつけ、店の客達が声を顰める。

「うちの子に話しかけないでくれる!」

「ぼうやは杖をついてる人たちにいつもこうしてるならやめなさい」

「ちょっと!」

「お客様」

「なによ!何か文句あるわけ!私の夫はここの社員よ!」

店員が女を遮り止めていき、男児が徐々に不安な面持ちを始める。

「杖をついた人の杖をちょうだいって言ってはダメよ。杖をついているのはうまく歩けないから」

「なんで…」

「痛い痛いって怪我をしてたりしながら生活してるからよ。坊やだってこけたとき足いたいでしょ?」

「うん…」

「その痛い痛いが」

「行くわよ!!」

男児の手が掴まれ無理矢理店を出ていくと祖母がやれやれとし立ち上がりミオが戸惑いの表情を見せる。

「あんな母親で子供がかわいそうだまったく」

祖父がぶつくさいうと止めてくれた女を振り向く。

「お姉さんすまんかったなあ」

「いえ。いいですよ。あと、ミオちゃん足はどう?」

「え?」

「下崎病院勤務なの。入院していた時に少しお世話してたから覚えているわ」

「そうだったんですね。またお世話になりました」

「いえいえー」

ミオが軽く驚き、女が話す。

「近く診察があるなら今日のことをお伝えして下さいね。私からも先生に伝えておきますから」

「ああすまんなあ」

「いいえ。それじゃ夫と子供を外で待たせてますから」

女が頭を下げその場を離れ外に出ると少年が女を抱き男が心配そうに声をかけつつ離れていく。

ーユナと同じくらいの子だな。

「申し訳ありません。ご迷惑かけてしまいました」

「いやいや。というかあの女出禁にしとけ出禁に。まったく」

「ほんと。常識知らずの母親世を知らずよね。周りを見て考えないのかしら」

祖母がやれやれとしミオへと平気と尋ねるとミオがはいと返事を返した。そして車へと乗りタイシ達へと話すとタイシがあーと声を出す。

「一緒にいれば良かったな」

「いえ」

「いいわよ。他の人たちが助けてくれたから。でも、貧乏人には腹立つわー」

「本当そうだっ。こっちはちゃんと収まるもん収めて働いてるんだからなっ」

「ええ。あと、旦那が店の社員だとか言っててそれが何やと言った感じよもう」

「そうだそうだ」

タイシがふむと考えるもおろおろするミオを見る。

「じいちゃん。安全安心スーパーよれるか?アイス」

ミオがぴたっと止まり祖父が話す。

「ああいいぞ」

「ああ」

「なら、ミオちゃん。ばあちゃんが買ってあげるから何でも買いなさい」

「そーだ。いっぱいあるからな」

ミオが目を輝かせこくっとうなずくとタイシが笑いかけるがスマホを出し連絡先を確認した。


ミオが嬉々としながら祖父母とアイスをどれにするか選んで行き、十四郎が側に付き添い護衛をしていた。その頃ー。

「お待たせ」

店の駐車場で春樹が手をあげ、タイシが頭を下げる。

「すみません。直接来ていただいて」

「いいよ。家から近いし買い物ついで。それで?」

「ええ。先に話しておいた方がいいかなと思いまして。少し調べたらまずいことが起こるかもと」

タイシが話していき、春樹が頷きあーと声を出し困惑する。

「分かった。父さんに話しとく」

「お願いします。あと、あれからコンビニは?」

「ああ。また再開したけど、俺はあのまま退職した。どうあれ迷惑かけたしまたあいつが来るかもしれないと思えばな。店長も納得してくれたし、あいつと関係ない仕事探してた俺の後輩に頼んでしばらく置いてもらう事になったから問題ないと思う」

「分かりました」

「ああ。それと、なんかヒカル君から長崎広島旅行のお誘い受けたんだけど」

「…アイツは色々声掛けして」

タイシが顔をしかめ、春樹が話す。

「ヒカル君コミュ力高いよね。後お誘いだけど藤屋くんもいく感じ?」

「はい」

「なら行こうかな。藤屋くんとラインで話してるけど話面白くてさ。それから広島にお母さんがいるって聞いたから。案内することも」

「はい」

「ああ。藤屋くんのお母さんとはよく話したりしててさ。コーヒーの喫茶店で働いてたんだよ。父さんが好きでたまに連れて行ってもらって話してたから。藤屋くんとはそこでは会わなかったな」

「そうなんですね。なら、以前から喫茶で働かれてたんですね」

「ああ。でも、あいつがネットで悪さして長く働いていた店の客足も遠のいて辞めたんだそうだ。その件についても話をしたって聞いたな」

タイシが頷くと。

「春樹」

「ああ」

春樹が荷物を持ち駐車場に来た十四郎に手を挙げる。

「どうしたんだ?」

「買い物の頼まれごと。後少し、タイシくんと話」

「早く話しておいた方がいいと思って」

「本当そう。俺も急いで買い物終わったら帰るよ。でないとと大騒ぎだ」

「ん?」

「また後で話す」

十四郎が頷き、やってきた祖父がああと声を上げどうもと手を挙げると春樹が頭を下げ挨拶をした。


ー来るな。触るな。

タイシが目を覚まし体を起こし流れる汗を拭い大きく息を吐き出すと喉に触れながら十四郎のいびきが響く部屋を出る。

ーまだヒカル達は帰ってないのか。喉乾いたな。

タイシが台所へと向かうと小さな灯りを見る。そして扉を開け電気をつけるとミオがビクッと震え豆腐を手にしながらタイシを見てぎこちなくする。

「豆腐」

ミオがこくこくと頷く。

「おばあちゃんが、お豆腐がいいよと。言われたので」

「ああ、後。まだ空腹が続くのか?」

「少し…」

タイシが水を取りミオを見る。

「体質かもな、前は?」

「えと、たまに。その、みなさんと旅をしてた時も、実は食べてました」

「実はか。なら。提供者はエリスさんだな」

ミオがこくんと頷きタイシがやれやれとする。

「そこも話してくれないと困る。そうしたら、体質もあるな」

タイシが水をコップに注ぎのみ、ミオが話す。

「えと、タイシさんはお腹空きませんか?」

「夜中に咲くことは滅多にないな。あと、食べたらうがいして寝ろ」

「はい」

「ただいま」

「やっと帰ってきた」

タイシがヒカルに背負われたダリスを見る。ミオが目を丸くし、香苗が手を挙げる。

「ごめんね。疲れてたみたい」

「分かった。布団用意してるから運んでくれ」

「ええ」

ミオが近づき、タイシ、ヒカルが部屋へと向かう。

「具合が悪いとか?」

「じゃないわ。疲れてるだけ。お酒もグラス二杯だけで酔ったりはしてないわ。あと、今日ダリスさん疲れることはしたのかしらね」

「わからないです」

「そっかー。あ、豆腐?」

ミオがこくんと頷き、香苗がならこうしたら美味しさますわよとミオが持つ豆腐を取り軽く洗い水に昆布を入れ煮込み豆腐を入れまた煮込んだ。


ダリスが静かに眠りタイシがやれやれとしヒカルが欠伸をする。

「何話してきたんだ?」

「他愛無い話かな。向こうの話はできないし。そっちは?」

タイシがああと返事を返し今日の出来事を話すとヒカルが頷き答えていった。


春樹の父親ほか、役員達が神妙な面持ちで会議室に座っていた。そして、呼び出された祖父の知り合いで寿司屋の店員が気まずい空気の中座っていた。


ーはい。

「ならちょっと治りが遅くなりましたでかいときましょう」

「だなあ」

あの時の寿司屋で助けてくれた看護師と老人医師がカルテを書いていくとミオがおろおろとする。

「で、でも。えと」

「まあ実際ねえ。捻挫してる子の杖を取るのがねえ。おかしい話だし、軽く擦り傷負ったからねえ」

「ど、どこに」

「先生。足も軽く捻ったとかいておかないと」

「ああそうだったそうだった」

ミオが汗を滲ませ医師が書き終えると満足そうに診断書を書いた。


ーやっぱりつけてたか。

病院の喫煙室でタイシがやれやれとし、畑中がタバコを吸い煙を吐く。

「あのこの一族は恐ろしいぞ」

「分かってます。まさか、ミオの親族が社会的影響を与えるほどの力を持ってたとは思いもしませんでした。確かにナガハラ先生の話した通りのミオのお母さんです」

「ああ。で、お前は寝れてるから?」

「正直、あの日からあまり。薬は飲んでますけどキツイですね」

「ならちゃんと担当医に話しとけよ」

「はい」

ヒカルがその場にくると手を挙げる。

「タイシー。春樹さんのお父さんからお前に」

「ん?ああ」

タイシが受け取り耳に当てる。

『もしもし…』

「はい」

『……あの時おられまお嬢さんのお具合は?』

「いや、本人は元気です。もしかして、来られました?」

『ええ。その、社長が応対されている。ご本人だ』

「あー、彼の娘に、彼が行動するようなら落ち着かせるよう話してくれとは伝えたんですけど。えーと、問題を起こした奥さんをお持ちの社員とかもう多分相手はわかってます」

畑中がやれやれとし、タイシが話す。

「ミオの担当医も話したら知り合いとかということでしたからおそらく時田グループが配置したとおも思います。病院関係もなさってますから」

『…あの、本当に我が社員でしょうか?』

「はい。そうでないとご本人が来られませんよ」

「俺行こうか?話」

ヒカルが手をあげ、タイシが手を振る。

「やめとけ。こうなった以上会社同士で解決するしか無い」

「分かった」

「なら、もしかしたら相手の親族から連絡が来るかもしれないのでこれで」

『…ああ』

力のない声が聞こえるとタイシが申し訳なくスマホを切る。

「ヒカル」

「ん?」

「会社教えるから隠れて見に行ってくれ」

「ああ」

「やっぱり気になるもんな」

「はい。あと、まあつけられてましたからこちらもという感じです」

「スーパーでもか?」

「ああ。だからよろしく」

「任せろ」

タイシがヒカルの肩を叩きヒカルが親指を立て早速と会社名と場所を教えた。


ー10分後。

「いいんじゃない?」

唯子が申し訳なく笑みを浮かべ話しタイシがやれやれとする。

「パパはすーぐ行動するから。あ、一応止めたからね」

「ああ。あおそっちの父親は仕事は平気なのか?」

「そんなの知らない。あ、きたきた」

唯子が手を振るとミオが唯子を見て驚き看護師と共に向かう。

「唯子さん。えと」

「今日は日曜。通常休み」

「ああ」

「なら、俺らは呼び出されたから行くぞ」

「はい。ミオ。悪いがまた昼に。叔父の件他の裁判手続きしないといけなくなった」

「あ、はい」

「ああ」

「それじゃあな」

ミオがはいと返事を返しタイシ、畑中を見送る。

「なら私もこれで。お大事に」

「ありがとうございました」

看護師に頭を下げ看護師が下げ返し離れる。

「わざわざ見送りに?」

「はい。その、また一人になって絡まれたらとの事で。お寿司屋さんの時にえーと」

「聞いたわ。あと分かった。そして、どうしようかしら。いや今日は暇してたからいいけど行く場所考えてなかったのよね」

「あ、もしかしてタイシさんが?」

「そう。時間あったらお願いしたいって。向こうも向こうで突然のお呼ばれだから。あと気にしないで。今日は本当暇な日で退屈だったから。それと、とりあえず公園行く?」

「公園?」

「ええ。誰でも利用できる公共の場所。少し歩いてすぐだから行きましょう」

ミオがはいと返事を返し唯子の後へと松葉杖をついて向かう。そして、大きな遊具が数多くある広い公園へと来るとミオが驚き見渡しながら公園に入り親子で遊んだり、年寄り達が談笑したり、ランナー達がいたりと数多くの人がいる公園を見渡す。

「いろんな人たちがいますね」

「ええ。一応人は多いけど荷物をぽっぽいて行かないように。あとこっちよ」

「はい」

唯子がベンチへと向かい座る。

「子供達がいっぱいですね」

「ええ。ここ遊具が多いから。それとこれおやつ」

「え?」

ミオが向けられたドーナツを見て目を輝かせる。

「クリームドーナツ。あっさりして美味しいわよ」

「はい」

ミオが嬉々とし早速食べると唯子が可愛いなあと見ていくも周りへと視線を向ける。

ー分かってるだけで二人。叔母様ね。

「ユナ」

「ん?」

唯子がミオを覗きミオがぽつりと話す。

「ユナ。私いなくて平気かな…」

「お話しした妹?」

「はい。ユナにも食べさせたいなって」

ミオがしょんぼりとし、唯子が話す。

「流石に」

「お姉さん」

唯子が振り向きミオが目の前の男児を見てあっと声を出す。そして男児がモゾモゾししょんぼりとする。

「ごめんなさい…」

「昨日のお寿司の?」

「あ、はい。えと」

唯子が辺りを見渡す。

「おばちゃんから怒られたの。それは悪いことだって。僕も、そう思う…」

「うん」

「ねえ。君親は?お父さんとお母さん」

「お母さんはどっか行った。お父さんは昨日から仕事で帰ってないからいない。僕1人」

「君1人?いくつ?」

男児が手のひらを広げると唯子が天を仰ぐ。

「5歳。ちょっとちょっと」

「えと、お母さんはすぐに来る?」

「こないよ。夕方までここにいるんだ」

「ご飯は?」

男児がバッグからお菓子を出すと唯子がごめんねと男児を抱き上げ服を捲る。そして骨がうっすらと浮かんだ体を見る。

「えと、昨日のお寿司のお母さんだよね?」

「うん」

「ねえ。どうしてお母さんとお寿司屋さんに来てたの?」

「お母さんが行くって言ったから。でも僕お寿司嫌いだから……。おばちゃんのとこのが良かった」

「そのおばちゃんって?」

「お母さんの友達。お姉ちゃん達が来てくれたら僕も食べられる」

男児が足をバタつかせ唯子にしがみつくと唯子がうーんと考えミオが行ってみるだけでもと告げると唯子が仕方ないかと頷き男児を抱き上げ、ミオが急ぎクリームドーナツを平らげた。


ーそこ。そこのお店。

古い煉瓦造りの小さな家に珈琲とかかれた看板が立っていた。だがその喫茶の周りは店が多く閉まり住宅地からも離れた場所で閑散としていた。

「また年季が入ってるわね」

「そこのお店」

「ええ。後おばちゃんにどうやって怒られたの?」

「電話。おばちゃん教えてくれるから電話したら教えてくれた」

「お母さんは?」

「お外行った。朝はいてさっきの公園」

「はあ。分かったわ」

唯子がやれやれとし扉を開けるとからんと音が響く。そしてカウンターにいた女が唯子達をみる。

「また、拓くん置いてかれたの?すみません」

女が慌てて向かい男児を抱き上げる。

「おばちゃんご飯」

「ちょっと待って」

「お腹すいた」

「はいおいで」

唯子が男児を放し、女へと話す。

「いつから放置されているんですか。母親は」

「申し訳ありません…」

男児が頭を下げる女を振り向き唯子が話す。

「あなたのせいじゃないですけど、一体いつからかお話しください」

「…半月前です。その、多分」

女が親指を立てため息をする。

「その子について、3ヶ月前からここに来てます。私とその子の母親が同級生でして。たまたま、ここにその母親が来てから、預けられたりも」

「そちらは警察の方には?」

「その…」

女が気まずくする。

「お腹すいたあ」

男児が涙ぐみ唯子がため息をし何か作りながらと話すと女が頭を下げすぐにカウンターの中にあるキッチンに立つ。

「ミオちゃんこっち。拓くんはちょっとお利口さんにしててね」

「うー」

2人がご飯を作る女の前に座り女がカット野菜と卵と混ぜていく。

「それで?」

「はい。私のこのお店はその子のお母さんの旦那さんのお母さんから借りているんです。貸地でして」

「なら脅されて」

「…はい。ここは、私の祖父母から続く店ですから。まさか、そんな繋がりがあったなんて私も思ってなくて。土地を買えたらいいんですが、どうしても無理でして…」

「他のところに行こうとはやはり思われなかったんですか?」

「はい。長年来られる常連の方もいらっしゃいますし、元々は祖父母の土地だったんです。ただ、いつのまにか、どうしてか、その旦那さんのお母さんの土地になってて…。調べてもらおうにもかつかつで…。私も中卒の出でどうしたらいいのかさっぱりで」

「高校までは行かれなかったんですね」

「ええはい。その…」

女がチラリと出した水を飲む男児を見て息を吐くと米をフライパンに入れる。

「いじめ、ですね。不登校になって。それで、中学校卒業と同時にここに働きに来たんです。元々は埼玉に住んでました。ああでも、ここを継ぐにあたっては調理師免許などは取りました」

「でないとお店できませんからね」

「はい」

「土地に関してはどなたから聞いて?」

「法務局の方です。あとはここのお金を担当してくれている税理士になります」

「はい」

女がピラフを作りすみませんと男児の前に出すと男児が目を輝かせ両手を広げパンと手を叩く。

「いただきます!」

「はいどうぞ」

男児がスプーンを手にしまだ少し熱いピラフを唯子の膝の上に座りながら食べる。

「本当申し訳ありません」

「ですからあなたのせいではないです。あと、流石にこれは酷いわね。昨日のけんも」

「あ」

女がやっぱりとした顔をさせミオを見る。

「話したお姉さんね。あの人はもう。なんであああるの…。寿司とか、拓くん食べられないのに」

「え、と」

「生物だからですか?」

「いえ。私が止めてるんです。拓くん甲殻類のアレルギーを持っているんです。以前エビ煎餅をあげたら体中発疹が出来て。なので病院に連れて行ったらアレルギー反応だと。それから赤魚もダメと。母親に伝えたらそっけない感じで。我が子なのにもう」

女が大きくため息をする。

「流石に問題ありすぎます。私から児相と警察にご報告します。土地問題に関してはもう一度調べてもらうことにしましょう。あと、この子のご飯代は?」

「…頂いてません」

「なら、あちらが悪い」

扉が開くと唯子が茶髪のサングラスの青年を見てため息をする。

『ルーカス。つけてたわね』

男児が唯子を見上げ、ミオがルーカス、そして唯子を見る。

『つけてた。仕方ないだろ母さんの指示だ』

『もう』

「お知り合いの方ですか?」

「いとこの一つ上の兄です。ミオちゃん。早苗叔母さまの息子のルーカスよ。ルーカス。こっちが葵叔母様の娘のミオちゃん」

ミオが頭を下げ、ルーカスがオッドアイの目を見せる。

「目の色かっこいい」

「ドーイタシマシテ」

ルーカスが片言の日本語を話すと男児が頷く。

『唯子。おじさんなんか暴走してないか?』

『してるわねもう。あああと、この子見てて。児童相談所とかに連絡するから。育児放棄なうえ、この子が悪いわけじゃないけどこの子に食べさせた分の食事の滞納。言えば窃盗について警察に話すわ』

『ああ』

唯子が男児を抱き上げ立ち上がるとルーカスがカモンとつげ男児を抱き座る。男児がじいと見るもまだ食べているピラフを見ると再び食べ進める。

ー…。

ミオがきゅうとお腹を鳴らすと俯き、唯子が女を見る。

「すみませんがメニューあります?食べます」

「あ、その、ありがとうございます」

女が頭を下げメニューを出しミオに見せミオが顔を赤くさせながらメニューを見る。

「決めて注文してて。私電話してくる」

「はい」

「ええ」

『カプチーノを一つ』

「あ、はい。えーと、カプチーノ」

「ハイ、イエス」

女が頷き早速用意し、ミオが悩み選んだカレーを見て女にカレーと告げると女がハイと返事を返し用意を始めた。


ー放置?

タイシが驚き、唯子の声がスマホから響く。

『そう。今から送る場所にいるから保護をお願い。あと、どうも母親と父親が店の人を脅してるみたいで。弱みに漬け込んでお金も払ってないしその子の世話をさせてるみたい』

「分かった。なら話しておく」

『ええ。それからつけてたの私の従兄弟のルーカス。早苗叔母様の息子よ。日中どこに行ってるのかと思ったらやっぱり叔母様の手伝いね。探偵の仕事とか好きだったから』

「そうか。今は?」

『ミオちゃんと一緒。なら、お話しお願いするわ』

タイシがああと返事を返し電話をきり、やれやれとすると畑中へと話していく。唯子も切り中へと入るとカレーのスパイシーな匂いが香る。そこでミオがカレーを頬張り食べつつ水を飲み、唯子が戻り女へと話す。

「店長さん。お話ししてきましたから。少ししたら保護される方が来られます」

「その、有難うございます。あと、大丈夫かしら…。そこが不安で」

女がため息する。

「フアンナイ」

「え?」

カプチーノを飲むルーカスを振り向きルーカスが話す。

「モッタイナイ」

「え?」

「お?」

唯子がそう声を出しごめんねとミオのカレーを置かれていたスプーンですくい食べる。

「あ、おいしい」

「有難うございます」

「ここのレシピですか?」

「はい。亡くなった祖父が遺したレシピです」

ルーカスが唯子を突きあれと指差すと唯子が隠れるように飾られたコーヒーバリスタの免状を見つける。

「なんでまたあんな見にくい所に」

「え?ああ、ちょっと、あれ2代目なんです。額縁」

「え?」

「お母さんが落として割った」

唯子が呆れ、男児が話す。

「生意気って言ってた」

「…色々、この子の前ですけど、甘やかされて育ったようで。学校でも親はモンペアで有名だったんですよ。この子はまだ素直で教えたらちゃんと言うこと聞いてくれるいい子ですから。ただ、将来が…なと」

「ママイタホウガイイデスカ?」

男児がルーカスを見上げる。

「パパイタホウガイイデスカ?」

「いい」

男児が女を指差す。

「2人とも嫌い。おばちゃんいてくれたら僕それでいい。おばちゃん沢山教えてくれるし、ご飯美味しい。後おばちゃん僕が風邪引いた時お家まで来て僕のそばにいてくれたから」

女がじいんとし、男児が話す。

「おばあちゃん達も嫌い。僕の嫌いなものばっかり出すもん。おばちゃんはそうじゃないしあったかいから好き」

「拓くん…」

唯子がはあとため息する。

「オジサン」

「後で。とりあえず保護の人がきてから話すわ」

ルーカスが頷くとからんと音が響く。ミオが振り向き女装したヒカルが来る。

「どうしてここが分かったんですか?」

「タイシから。後で来るそうだから。あ」

ヒカルがすぐに来ると目を輝かせる。

「カレーだカレー」

「はい。そう言えばレトルトの食べられてましたね」

「そう。ちょっと今ハマってる。唯子。後少ししたら警察のお姉さんが来るから」

「ええ。あと、それで見に行ったの?」

「だって、しつこかったから。流石にあのままだと無理だと悟ってお姉さんに協力してもらって」

ルーカスが見ているのがわかるとヒカルが指差し唯子が気付き振り向くとヒカルを指差す。

『ルーカス。男よ』

ルーカスがゲンナリとし額に手を当て頭を落とし女が驚く。

「男の子なんですか?」

「そうです。結構男騙してきましたー」

「分かってすごく悲しんでた人もいましたね」

「それはあいつらが馬鹿なだけ。後カレー。お腹すいた。あ、唯子のお父さん見たよ。ミオの叔父さん」

「ええ」

「内面怒ってたね」

「でしょうね。葵叔母様のこと妹として大好きだったから。亡くなったと聞いて悲しまれてたけど、葵叔母さまに娘がいると知って喜んでもいたわ。だから、ミオちゃんのこと大切に思ってるのよ。後あんたはいつまでショック受けてるのよ」

項垂れるルーカスの頭を唯子が叩く。

「おおげさだなあ」

「おじさまも大袈裟な方だから。でも仕事中は真面目にしてるわ」

「こんにちはー」

カランと音が響き婦警と児相の女性が来る。

「依頼受けて来ました。その子ですか?」

「はい。保護をお願いします。後少し栄養失調気味と暴行跡もありましたので検査をお願いします。アレルギーも持ってるので確認してください」

「はい」

「だれ?」

「拓くん」

男児が振り向き女が話す。

「お話しとかわかるならお姉さん達に教えてあげてね」

「うん」

「ええ。あとまたおばちゃんのところ来ていいからね」

「いい?」

「ええ。待ってるから」

男児が目を輝かせ嬉しく笑みを浮かべ女がふっと笑んで見せた。


ーあ。

「美味い」

タイシがカレーを食べ、ミオがバニラアイスが乗せられたコーヒーゼリーを食べつつ頷く。

「スパイスがいい」

「祖父のレシピです。この辺りはお年寄りの方が多いので健康に良くてお年寄りでも食べやすいものを作ったそうです」

「はい」

「あと、聞いたら皇室の元料理長をしてたそうよ。その前は今はない大日本帝国ホテルの元料理長」

「凄いな」

タイシが目を丸くし、ヒカルが話す。

「なー。なんかその当時の天皇が気に入ってスカウトしたんだって」

「へえ」

「そしてそのお孫さんはコーヒーインストラクター1級とバリスタ持ってるの。あと国際薬膳師」

「聞いた事ないな」

タイシがスマホを手にし検索していく。

「へえ」

「そういない資格よ。お祖父様から教えてもらったからもっと知りたいと思って勉強して習得したそうなの」

「ああ」

「こんにちはー。あら」

老婆と老人が来る。

「今日は若い人が多いわねえ」

「はい。いつものでいいですか?」

「ええ。あと、パンもいいかしら?」

「分かりました」

「ああ」

老人がタイシの元へと来る。

「お前さんテレビに出た人だろ?」

「あー」

「おじいさんどうしたの?」

「テレビに出た子だ。指名手配されて取り下げられた子だよ」

「え?」

タイシが複雑そうにし、老婆がああと声を出すと老人がだろうと話し、タイシがそうですと頷いた。


からんと音が鳴ると畑中が中へと入る。

「…」

そこにお年寄り達がわらわらと集まりタイシにお菓子などをあげておりタイシが戸惑いつつ袋を持ったまま受け取っていた。そしてミオはと言うと可愛い可愛いと可愛がられていた。

「なに貢がれてんだ」

「あ、お疲れ様です」

「ああ」

畑中がそばへと来るとドライバーを手にしラジオを修理するヒカルを見る。

「そっちはそっちで修理か?」

「そうですと。これでどうだ」

ヒカルがカバーを閉じ電源を操作すると音が鳴る。

「おー、なったなった」

「落としてばっかで中のカードがずれてたみたい」

「ああ。いやあすまんなあ。助かったよ」

老人がラジオを袋に入れ駄賃だとヒカルに一万円向けるとヒカルがいらないと言うが無理やり持たせる。

「えーと、そろそろ出ますね」

「ああ迎えの人か」

「はい」

からんとけたたましい音が鳴るとあの派手な女が声を上げる。

「ちょっと!息子…」

老人老婆達がじいと見ていくと派手な女がわずかにたじろぐもミオを見てハッとし指差す。

「あんたね警察言ったのは!」

「え…」

「あんた達ぐるね!息子はどこよかの誘拐魔!!さっさと出しなさいよ!!」

「まあだ声がでかいやつだなあ」

「あれが拓くんのかあ。あんな母親で可哀想に」

「うるさいジジイども!!」

「おー怖い怖い」

「触らぬ神に祟りなしとはこのことだ」

「ひい助けてくれえ」

老人老婆達がゲラゲラと笑うと女が怒りかあと顔を真っ赤にし怒鳴るもその笑い声でかき消される。

「じいちゃん達の団結力半端ねえ」

ヒカルがオレンジジュースを飲みつつミオの元に移動するとミオへと軽く手をあげる。

「この…」

「はいはい。爺さん達うるさい。静かにしろ」

畑中が宥めつつ女の元へと来る。

「河竹アリスか?」

「はあ?」

畑中がだるそうに手帳を見せる。

「警察。あと、窃盗罪で逮捕状出てるからな」

「え」

「なんで…」

派手な女が汗を滲ませ後退りするもぶつかるとすぐに後ろにいた警官の男を振り向く。

「後児童虐待と育児放棄。詐欺で連行。ここ爺さん達いて目立つから外でしろ」

「はい」

「なにするんだ?」

「手錠だよ手錠」

「別構いやしないのに」

カウンターの女がぽかんとし、派手な女が青ざめながら連れて行かれると畑中も一旦外へと出る。ミオが軽く戸惑い、ヒカルが話す。

「あららだ。店長さんも初めて聞いた?」

「ええ…。その、窃盗は…、まあこの店かは知らないけど、ええと、その、彼女、一応金持ちの娘でもあるけど…すぐ警察も動くわけじゃなさそうだし何したのかしら」

「結構悪さしてたとしか思えないね」

女が困惑しながらええと返事を返し、ヒカルがわかったら多分伝えに来るよと告げるとカウンターの女が頷いた。

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