東京2
ーまずううう。
「こっちが美味い」
ヒカルが大きなおにぎりを食べていく。そして、横塚がいらだち、自分のご飯にと爆弾おにぎりを作ってきた男警官がヒカルにと与えたカツ丼を代わりに食べる。
「このわがまま」
「いいじゃないっすか。おかげで俺久しぶりにカツ丼食えましたし。それもタダで」
「よくないっ。あーもー」
「お兄さんよかった?」
「いいって。ていうか俺の適当な握り飯でよかったか?」
「むしろこっちが美味い。この卵のやつうまいし」
「様子見といてっ」
「はい」
横塚が離れ、ヒカルが話す。
「あのお姉さんが上司でしょ?うるさくない?」
「あー、うるさい時もあるけど仕事出来る人だから。あと仕事出来る人といえば畑中刑事だな」
「と言うと、タイシと一緒にいる人でしょ?」
「ああ」
「なあんであんな人のとこにあのおっさんが?」
男が手招きするとヒカルが耳を近づける。そして男が声を顰める。
「上司の嫌がらせ。あの人のお父さんも元々警察官でなんでも出来た人だったそうだ。ただし、ライバルも多かった」
「ふーん」
「で、八年前にあの人が警官になる為に勉強してた時か。立てこもり事件があって、その時に犯人に撃たれて殉職したんだ。そして、あの人がその父親の分も奮闘して数多くの事件解決をしてきた。で、それが気に食わなかったのが上の人たち」
「なんで?解決した方が仕事早く済むじゃん」
「そうなんだよ。でも、それだけ手柄立ててきたから目立つ。数多くの表彰も受けてきた。で、父親の同期の上司たちが嫉妬した挙句、子供の昇進を今、まだ仕事させて止めてるわけ。自分たちの上にさせないように」
「あー」
「あの問題起こした佐高さんについて、問題起こすってわかってたから一緒にさせてたと、みんなの解釈」
「はー」
男がはなれやれやれとする。
「和尚さんの家に畑中さんはよく通ってたんだ。タイシ君の手配からね」
「通ってそれで?」
「和尚さんと話しをしたり、ご近所さんと話ししたりしてた。で、たまに、食えないからって野菜持ってきた事もあったから仲よくなってたみたい」
「でも、その佐高がきてからは?」
「いく回数減らしてたし、腹相当立ててたし、事務仕事ばかりしてたなあ。普段仕事場にいない人だからさ。連れていきたくなかったんだろうな。でもこの間の和尚さんの危篤という話がここであったわけ。奏したら、上司がすぐにいけ。聞いてこいと命じた」
「それ問題じゃん」
「そう。だもんで上司がその上から呼び出し喰らわされて、タイシ君の相手を畑中さんがすることに決定した。貶めるどころかとんだしっぺ返し喰らわされたってところだ。ま、横暴な人だから変わってくれたら俺たちもいいけど」
「へえ」
ヒカルがにぎりめしを全て食べ終えるとペットボトルの麦茶を飲む。
「美味かったー。あの卵焼き好きだな」
「そいつはどうも。俺も食べてしまおう」
男がカツ丼を食べ進め、ヒカルが黙ったまま男を待った。
タイシがコンビニの握り飯を食べながら新聞を読み、畑中もまた食べつつ調査資料を書いていた。横塚がその場に来てしばらく見ていた。
「あんたらそっくりね」
「ないない。お前はくそがきどうした?」
「あいつは頼んだ弁当に文句言ったのっ」
「そうか」
横塚がタイシの新聞を摘みずらしタイシを見る。
「あんたのお友達わがまますぎるんだけど?」
「まあ…」
「不味かったからまずいって素直に言っただけだろ」
「用意してやっただけでもありがたく思いなさいよっ」
畑中がやれやれとし、タイシが複雑そうにする。
「と言うかいつまで待機してればいいんだ?」
「知らないわよっ」
そろおと先ほどの男がやってくる。
「横塚警部」
「なにっ!」
「あ、えーと」
「まあたカリカリして」
横塚がイラっとしスタイルよく顔のいい婦警の服を着た女が楽しく笑む。
「おしわが更に増えるわよ横塚さん」
「中居…」
「えーと」
「生活安全課の竹下さんで、畑中刑事。昨日の騒ぎのとか早速問題になってますよ。あと、新聞もごうが」
横塚が男から奪い取り見ていき、ヒカルが覗きタイシと目が合うと手をあげる。
「ヒカル」
「ああ。あと、なんかもう俺いいらしいから送ってくれるって」
「ああ」
「叩かれてるなあ」
「当たり前と思うわ」
竹下が告げる。
「おかげ様でクレーム電話とイタズラ電話と取材電話のオンパレード。こっちの上司がどうにかしろと渡して言ってこいって言われたのよ」
「上は今その上から叱られているところです」
「そうそう聞いた聞いた。初動捜査からなんでそんな操作するのかってこっちも疑問に思ってたのに。やれやれね」
「ここの上司の人の名前は?」
「ああ。関朋也警視だ」
「ならその人の息子は俺と同級生で俺をいじめてた1人ですしその人も俺がその息子をいじめたとして学校にクレーム入れた方です」
「なぜそうなるわけ?」
「竹下さん。裏付けできます?」
「もちろん。あとそう言ったのだあいすき。明後日まで待って」
「はい」
竹下がるんるんしながら去っていくとヒカルが中へと入る。
「親子揃って貶めたかった思い当たる理由は?」
「はー、成績じゃないか?叔父が来る前は俺が常にテストで一位だったから」
「さすが優等生」
「優等生ならまだいるだろ他にも」
「いやタイシみたいに出来すぎるのそういないって。俺も出来る方だけど」
「クソ餓鬼風情が調子になるんじゃないわよ」
ヒカルが顔を顰め、横塚が鼻を鳴らし男が横塚へとその子俺が送りますと伝えるとよろしくとしっしっと手を振りあしらった。
ーとても不思議な感覚だった。あと、確かにとても生き生きしてた。
納棺が終わりミオがもらったお茶を飲んでいく。その隣にダリスがおりダリスが話す。
『タイシ殿がとても几帳面で丁寧なのが分かりましたね』
『え?』
『過ごされてきた環境によるものだと。所作や動きなども』
ミオが頷く。そこに香苗が来ると少しぽっちゃりとした香苗の母もまたやってくる。
「あら。懐かしい」
「でしょ?私の母」
母親が頭を下げミオ、ダリスと頭を下げるとミオがおどおどとする。
「あの、お洋服お借りしてます」
「ええ。いいわよ。その当時の私の若いもので悪かったけど」
「いえ」
『ダリスさん。ミオちゃんも。終わりましたので通夜が終わるまでまたおじいちゃんのお家に居てください』
『分かりました』
『はい。あと、母になります』
ダリスがはいと返事を返し香苗の母親と挨拶をする。そこに、急足で老婆が来る。
「ちょっとやっぱりきたわよあの女」
「あー」
「あの女?」
「タイシ君の実の母親。産みの親ね。遺産をよこせって昨日電話があったのよ。あと息子に合わせろってね」
「タイシさんに?なぜですか?」
ミオがきょとんとすると香苗もまたきょとんとしみていく。
「なぜ?」
「会う意味がわかりません」
「…ふふ。その通り」
香苗が可笑しく笑い怒鳴り声が響くとやれやれとする。
「お父さんたちね。ばあちゃん表にいるの?」
「縁側」
「なら裏口はダメか。ここにしばらく居てください。まったく迷惑な」
香苗がぶつくさいいながら部屋を出る。
「ごめんなさいね」
「いえ」
ミオが頭を振りダリスへとここでしばらくいるようにと伝えるとダリスが分かったと頷いた。
ーあー。
男がヒカルとともに寺の前へと来ると家の方からの怒鳴り声を聞いていく。ヒカルが耳を澄ませ、男が話す。
「修羅場ってるなあ」
「修羅場?」
「しらない?激しく争ってるって意味。あと多分、遺産って聞こえたからお嬢さんの娘だろ」
「なら、タイシの母親?」
「そうなるな」
「へえ。見てみたい」
「やめとけ関わると面倒だし、タイシくんの知り合いと分かればしつこく責められる」
「あー」
「とりあえずー」
「ヒカル君」
老人がおいでと手招くと男が頭を下げヒカルがどもと頭を下げた。そして、老人の家に招かれると杖をついた老婆が皿に乗せた饅頭を出す。
「ごめんなあこんなのしかなくて」
「いやもうこっちが申し訳ないです」
「いいよ。あと、せっかく帰ったのにうるさいのが居て迷惑だねえ」
「あ、お婆ちゃんもそのタイシのお母さんのこと知ってんだ」
「勿論だとも。子供の時から知ってるよ。子供の時は素直で可愛かったけどだんだん年が経つに連れてなあ」
老婆が座り用意していたコップに急須のお茶を注ぐ。
「どこをどう間違ったのか。高校生になってから悪いことばかり。それから寺を出てったのさ」
「へえ」
「そして、タイシくんがうまれたらうまれたで寺に置き去りにして自分は遊びに行って」
「置き去りにした?」
ヒカルが驚き老婆が頷く。
「そうだよ。それで、和尚さんが育てたんだ。たまに勝手に連れ帰ってはまた置き去り。タイシ君はタイシ君でね。置き去りにされたら必ずアザや火傷をしてたのに、自分でこけた。マッチで遊んで火傷したて言うのよ。そして、なんと言うか。とうとう頭がおかしくなってね。私らや和尚さんが保育園まで世話をしてあげたのにその記憶は全部自分の母親に世話をされた。それも優しかったに変わってたのさ」
「え?」
「虐待された記憶がなくなっててね。あの時は、苦しかったよ。今はどうかね」
老婆がはあと息をつき、ヒカルがやや驚く。
「んー、まあ。俺が聞いたのは、そう。弟が出来るまで優しくしてくれたとか。養父も」
老婆が頭を振る。
「養父はいるけど弟なんていないよ」
「え?」
「それもタイシ君の頭がおかしくなった。いわば、タイシ君の作り話みたいなもんさ。あの子は可哀想な子でね。母親をいい母親にして自分で納得いくような記憶に変えてしまったんだと、私らは思うんだよ。あの子は本当に可哀想な子だ」
老婆が表情を曇らせ、ヒカルが更に驚いていった。
夕方ー。
「畑中。あの少年」
年配の男が取調室のドアを開け止まる。そこに貸出資料に埋もれ眠るタイシと報告資料を見る畑中がいた。おとこがやれやれとし扉を閉める。
「角田さん」
「ああ。その少年は今夜帰していいそうだ。また後日、日を改めて謝罪と今後のことについて話し合いをするらしい」
「つまり、和解をさせてくれでしょう?訴えられる前に」
「それもあるな」
角田がタイシを上から見下ろす。
「貸出可能なやつだけです」
「分かってるさ。あと、この子記憶喪失なんだろう?」
「ええ。虐待の積み重ねで自分から記憶消して違う記憶に変えてるんですよ。当たっていた記憶は小学校に通い始めた頃ですね。ただ、実父については間違いない記憶でした。おそらく虐待は受けてなくてそう言った父親だとしっかり認識できてたからでしょう。母親については特徴から変わってました」
「そうか」
「はい」
「哀れだな。家庭環境のせいで振り回されて」
「ですね。生まれてきたところが悪かったです」
「ああ。あと、竹下にお前頼んだだろう?経過報告だ。また長原が怒るぞ」
「となると、学校のからみがあるわけですね」
「ああ。少年の手配についても奴が許可をとったからな」
「だとすれば責任相当負わされますね。ちなみにその息子は今いいとこの会社でしょ?」
「ああ。けれど不倫してるとかいう噂があったそうだ」
「はあ」
角田が書類を向け畑中が受け取り見る。
「あとお前についても事務仕事じゃなくて現地仕事に回される。そこの少年くんの」
「ん?」
「突然現れた経緯。それから、一緒におられた鈴子さんの家庭内調査だ」
「何かしらの虐待を受け自殺未遂でしたね」
「そうだ。おかみさん達は自殺未遂まで至った経緯を突き止めて欲しいそうだ。そして、鈴子さんの母親と義父は何もしていないと言う事でわからないそうだ。ただ、義父については何か隠し事をしているようにも思う口調ぶりとのことだ」
「わかりました。なら聞き出します。その2件で?」
「ああ。急ぎは鈴子さんの件だ。鈴子さんは少年を相当信頼していれば明日和尚の葬儀に秘密裏にはなるが出るとの話だ。理由は世話になった少年の身内だから」
「わかりました。なら、ここ片してから行きます」
「ああ」
「はい。あと、そこの少年。起こそうとしたら反射的に手を出すみたいです。防御反応起こすみたいです。常に眠ってても気を張ってるみたいです」
「それは、いた場所が戦争地区とかだからか?」
「じゃないみたいで、子供の頃かららしいですよ。多分、拒絶反応のようなもので夜に何かされてたのではないですか?」
「そうなると、か」
「まだいたのか」
白髪の男が中へと入ると角田が頭を下げ畑中がすぐに立ち上がり敬礼する。
「いらんそんなのは」
タイシがすっと目を覚まし頭を起こし僅かに目を細め男を見てますます目を細める。
「ナガハラ先生?」
男がタイシを見てため息する。
「その兄だ」
タイシが驚く。
「え?」
「まさか、智明が生きていたとはな。葬儀代が無駄になった」
「……え」
「支度して寺に帰れ。そして後日あいつの甥とも一緒にこことは別で話をしたい」
タイシがぽかんとしながら頷き長原がああと返事を返した。
ーなんとか行った。
喪服の着物を着た老婆がうんざりとし、香苗が疲れ果てながらミオ達の前で茶を飲み通夜の前の軽い休息をしていた。ダリスがその2人を見て話す。
『中々帰られなかったですね』
『ほんと、そうですよ。はい。あーもう。明日もまた来るとか言ってたあのクソババア』
香苗がテーブルに突っ伏し、老婆が話す。
「和尚さんもかわいそうに。離婚されてからの娘がああで」
「え?和尚さん。離婚されていたのですか?」
「そうよ。昔だから見合い婚でね。相手の方は今はどこで何してるか不明。そして、娘だけどお寺にしばらくねえ。いた後は母親の所に行って豹変。あのままお嬢さんのところにいればまともに育てられたのにねえ」
「仕方ないわよ。育ったのがあれ。和尚さんも実の娘だから相当悩んでたわね」
「そりゃ当たり前よ」
「ええ。あと、私ちょっと電話してくるわ」
「ええ」
香苗が席を立ち奥の部屋へとむかった。
暗闇の中畑中が車を運転しタイシが助手席に乗り暗い景色を見る。そこに着信音が鳴り響くとタイシが驚き畑中がハンドルのハンズフリーを押す。
「はい」
『もしもし』
タイシが聴き慣れた声を耳にするもハンズフリーで響く声を聞く。
「あとだ。中村が乗っている」
『あ、わかった』
電源が切れるとタイシが話す。
「香苗さん?」
「そうだ」
「お付き合いされてるんですか?」
「一応な」
「香苗さんのお父さん、公安で結構うるさい方ですよ。俺小学生なのに娘に手を出すなとか付きまとうなとか言われましたから。その後母娘で責められてました」
「あー、まあ、分かるし経験はあるな。あの人は相当娘ラブだからな。小中高と大学の今とたまに行きすぎた行為をして知り合いの上の人に話して止めてもらったんだそうだ。軽い付き纏い。ちなみに俺に関しても仕事場でたまにな。いればな。視線を感じるし、通り過ぎかけると必ずいちゃもんつけられる」
「分かりますね。まだ保育園の男の子でも」
2人が香苗の父親の香苗が好きすぎての話をしていく。そして、寺へとくると弔問客達が代わる代わる入ってきていた。そこに急ぎ香苗がやってくるとタイシが窓を開ける。
「タイシ君久しぶり。こっちよ」
「はい」
「なら後頼みます」
「はい。ご苦労様でした」
タイシがばれないようにかと思いつつ暗闇の中車を降り急ぎ香苗に連れられ離れ畑中が車を運転し山を降りた。そして、祖父母の家の中へとくると香苗がタイシの背丈を見て話す。
「あーあー。とうとう追い越されたか。何センチ?」
「わからない。計ってないから。あと、一応車で関係性聞いた」
「ええ。こんな早くくるとは思わなくって。油断したわ。後、おじいちゃん達とご近所さんは知ってるけどまだ周りには秘密」
「ああ。それと、叔父さんの相手も大変ですねって話しといた」
「あああのバカ親父でしょ?あまりにも行きすぎてるし、私の通ってきた学校自分の職場にお母さんの職場とお母さんに世話かけさせてくれてきたからお母さんがいい加減にしてと離婚を条件に付き纏いやめさせたわけ。ちなみにお母さんの職場。病院」
「大怪我か?」
「そう。車が動き出して止めようとして壁と車の間に挟まれたのよ。ハンドブレーキかけ忘れたのよ。おかげで2ヶ月入院したわ。はあ」
香苗がおおきくため息すると顔を顰める。
「一人娘だからと言ってもそこまでするお前は大ばかか!はいと言うわけで、取り敢えずまずお風呂でさっぱりしてきて」
「ああ」
「それでご飯。お母さんがいるから」
「分かった」
「ええ」
「また世話になります」
香苗がふっと笑いはいどうもとタイシを後ろへとむかせ背を叩き送った。
ーうま。
ヒカルがご飯と共に煮しめを食べていく。そして、ミオもまたもぐもぐと無言で食べ、ダリスがゆっくりと味わい食べていくとタオルで髪を拭いながらタイシがその場にくる。ミオが驚きヒカルが話す。
「タイシ。お疲れ」
「ああ」
『話は済みましたか?』
『まだですね。ただ手配書は取り下げられ、その手配書の件での和解金が出されるそうです。なのでしばらくかかります』
『構いません。戻り方もまだ分かりませんし』
ミオがもくもくと口を動かしながらこくりと頷き、ヒカルが顔を顰める。
「俺だけだよ英語という言葉がわからないの。なんで?」
「国で育った血かもしれないな。ダリスさんについては不明だ」
「ああ。まあ、俺はどっちもここ日本だからな。で、ミオは、母親が確かハーフ」
「ああ。ロシアと日本のハーフだ。だからもしかしたらロシア語もわかるかもしれない」
「ふうん」
「ミオ。よかったらヒカルに話の内容を訳してくれ」
「はい」
タイシが頷きダリスにもだがミオにも警視庁で話したことを伝えていく。ミオが頷きながらヒカルに伝え、ダリスが話を聞く。
『鈴子ですが明日秘密裏にこちらにきて祖父に挨拶をしてくれるそうです』
『わかりました。なら、その時少しでも様子と話ができたらいいですね』
『はい。あと、ダリス殿には申し訳ないですがここにいる間は俺たちの保護責任者でお願いします』
『構いませんし、そちらの方が都合が良さそうです。後タイシ殿。ヒカル殿から聴きましたが幼少期の記憶が朧げとか』
ミオが気まずく話をし、ヒカルが複雑そうにする。『俺にはよく分かりません。ただ、ここにくる間に俺の世話をしてくれた方から言われました。そして、みんなが俺に隠していることがあるというのは何となく』
『ええ』
『世話をしてくれた方が言うには、防護本能が働いたんだろうと。それだけ親からひどい虐待を受けた証だとか』
『虐待については聞いておりますが、全く覚えていないのでしょう?』
『はい』
「…タイシ。お前平気?」
「まあ、今は普通に暮らせてるからな。あとそうだ。ヒカル」
「なんだ?」
「お前のおじさんに会った?」
「あ、まじ?」
タイシが頷きミオが今度はダリスに話していく。
「お前は?」
「俺も話聞いてさ。待ってたら問題発生してそっちに行って会えなかったんだ。その問題はお前の手配の件」
「ああ」
「ちなみにどんなだったそのおじさん。警視監って言って結構上の位にいるって聞いたんだ」
「ああ。階級的に上から三番目の地位だ。軍の階級で言えば中将だな」
「おー」
「また今度俺とお前と今日とは別の場所で話したいそうだ。あと、ナガハラ先生に似ていたから俺も驚いた」
ミオが目を丸くしダリスに伝えダリスが話す。
『其の方はナガハラ医師のご兄弟ですか?』
『はい。兄との事でした』
『ええ』
「ここにきて俺も分かった事だからな。父さんはあんまり身内のこと話さなかったし。でも仲良かったとかは話してたな」
「そうか。あのナガハラさんのお兄さんも嫌な人じゃなさそうだった」
「ああ。なら、ちょっと安心」
タイシが頷き、ヒカルが続ける。
「タイシ。葬儀には出るんだろ?」
「ああ。でも葬儀は途中で抜けようと思う。騒がれたりすると葬儀どころじゃないからな。まだ俺は行方不明になって突然戻ってきて不思議がられてるから」
「そうだな。あと、そうだろうな。10年も居なくなってたんだ。当たり前だ」
タイシが頷き、ダリスが話す。
『タイシ殿。ここでは、あちらにもにた入国証が必要なのだろう?』
『はい。その件について明日鈴子と少し話せたらと思います。暫くの間この国で過ごせるための手配をどうすればいいか確認してもらいます。鈴子の方がその答えに辿り着くのが早いですから』
『分かりました』
「ちなみにタイシは?」
「俺はまだここの住人だという記録があるから問題ない。あと、戸籍か。明日見てみようかなと思う」
「戸籍って確か家族関係とかが書かれてるやつだろ?父さんが教えてくれたんだ。こういったのがあったって」
「ああそうだ。国が管理する本人の証明書になる。生まれてから死ぬまで全ての記録がなされる。それで自分のこと自分を産んだ親の事や里親がいればその関係性もわかる。自分の身分関係。国民の証明する証なんだ。ちなみに向こうと違うところは犯罪を犯した場合は別に記録されるところだな」
「じゃあその戸籍見ても犯罪したことがあるってのは分からないんだな」
「そうだ」
「はー、くたびれた」
香苗達が戻るとタイシがその中にいた白髪混じりの男を見る。
「む。久しぶりだ」
「お久しぶりです。事故して入院したと聞きました」
「…香苗」
「自業自得自業自得」
「大馬鹿なだけよ」
香苗の父親が母娘に責められダンマリとするとヒカルがあっと声を出す。
「警察でチラッと見た人」
「あ?」
香苗が疑わしき目を父親へと向けると父親が弁明する。
「仕事でだ仕事で。後この子がいたのは公安の取調室だからな。俺がいる部署だ」
「…」
「本当だ」
「まったく。あなたの今までの呆れる行動が悪いのよ」
「何したんですか?今までの呆れる行動って?」
ヒカルが尋ねると父親が汗を滲ませタイシが複雑そうにした。
ーうそ。
喪服から身軽な格好へと父親が気まずくビールを飲み、香苗が面白くヒカルへと話す。
「君のおじさん長原警視監なんだ」
「そう言われてます。タイシは少し話しましたと聞きました」
「ああ。ナガハラ先生とそっくりだった。また後日警視庁とは別の場所でヒカルと俺とで話がしたいって約束したんだ」
父親が汗を滲ませ、香苗がニヤニヤする。
「ええ。あといい事聞いたししったなー。ね?おとーさん」
「…」
「長原警視監の弟さんが生きてたなんて驚いたわ」
香苗の母親がつまみを出し、ヒカルが話す。
「なんかもう、行方不明のまま葬式も出したって」
「ええ。そうよ。行方不明でもある程度時期がくれば死亡届が出されるのよ。あの飛行機事故で見つからなかった人もいたから。長原さんのその弟さんも」
「はい」
「でも、生きてて、子供まで作って。お母さんすごい美人じゃない?こういっちゃ悪いけど長原警視監に目元とかあまり似てないもの。口元とかは、何となく」
「あ、そうそう。そうなんですよ。周りからも同じとか言われます」
「そうなのね」
「あの長原警視監は結構厳しい人だから弟さんで君のお父さんも厳しいんじゃない?」
「はい。厳しいです。でも優しいですよ」
「ええ」
「その父の兄って家族いるんですか?」
「いるわよ。1人はお兄さんでもう1人は妹さん。お兄さんの方は同じ警察官なのよ」
「へえ」
「ナガハラ先生の家って警察官の家系なんですか?」
「じゃないみたいよ。あなたそうよね?」
「ああ…。ただ少し珍しい家庭でもある。そして警視監の兄弟達が出来が良かったそうだ。警視監である兄はその通り警官。弟は医者。妹は教師をしている。ただし、父親母親は農業だ」
香苗がへえと告げヒカルがふむふむと頷く。
「特に兄弟同士が仲が悪いとか問題を起こすようなことをしたとかは聞いたことがないな」
「ええ」
「凄いわね。あと、その子供達を育てた親もすごい」
「そうね。その仕事をするまではお金がかかるものばかりだもの」
「それって学校とかですか?」
「そうよ」
「ええ。必ず大学に出ないといけないし、出たら出たで国家資格を取るための勉強費用とかが必要になるから」
「ああ。ところで香苗」
「何?」
「お前あの男とどこまでいった?まさか、あいつはお前の仕事先まで」
香苗がニコニコしながら威圧をかけその口塞げやと自身の口に親指を立て右から左に動かすと父親がぎこちなく顔を背けるちびちびと飲む。母親がやれやれとしミオがじいと見ていく。
「あの男の人って誰ですか?」
「ぶふっ」
「気にしない気にしない。ミオちゃんアイスいる?」
「アイス?」
「冷たいお菓子。持ってくるから待ってて。この子達の前で話すな」
「わ、分かった」
たちぎわに香苗が告げ黙らせると香苗が台所へと向かう。
「叔父さん。何したんです?」
「き、にするな。気にしなくていい」
「ヒカル。一応家庭の事情になる」
「まあ、ああ」
ヒカルが疑問に思い肩身の狭くなった父親がこくこくと頷いた。
ミオがミルクの棒アイスを夢中で舐めかじかじと齧っていく。香苗がニコニコしながらかわいいなあとミオの頭を撫でる。
『ダリスさんは明日は?』
『こちらの家におります。のーかんの儀式で挨拶は済ませました』
『ありがとうございます。分かりました』
『ええ。あと、ここにきてあなたが他と違い所作や動作など綺麗なのが分かりました』
『そうですか?』
『はい。自覚はないかと思われますがやはり周りと比べると違いがはっきりしています』
タイシがそうかなと思いつつ頷く。
『あと、あなたの母親が来たことはご存知ですか?』
『はい。向こうで聞きました。遺産目当てで来たとか。まあ、分かりましないと言いますか。分かってはいましたから』
タイシがやれやれとし、ダリスが昼から夕暮れまでいたことを話すとタイシがややため息しはいと返事を返した。
翌日ー。
「ミオ。ダリスさんの膝好き?」
顔を真っ赤にしたミオが座布団の上で体を丸める這いつくばっていた。香苗が布団をたたみながらくすくすと笑う。
「お腹いっぱいになって寝たものね」
「は、い」
「しかし寝床がダリスさんの膝の上」
「わ、わたしも、その、眠りかけててよくわからなくて。は、運んでくれたのも」
「そりゃダリスさん」
ミオが耳まで真っ赤になり、香苗が話す。
「ミオちゃんかわいいわー」
「もうほんと、猫ですよね。あ、流石に申し訳ないんで掃除とかちょっと手伝いとかします」
「ありがとう。そうしたら。ん?」
香苗が耳をすませ顔をしかめる。そしてミオが顔を上げる。
「この声…」
「昨日のがみがみおばさんですね」
「えと、近づいてる」
「やばいっ」
香苗が走り部屋を出る。ミオが驚きヒカルが話す。
「タイシがいるからだろうな。ミオ一先ず向こう。隠れてみとこう。見えてないと逆に安心しない」
「はい」
ミオが立ちあがろうとするもべたと前のめりに倒れ両足を握る。ヒカルがはいはいとそばにきて座り痺れてしまったミアの足をさすった。そして2人で移動し声が響く玄関がある場所で止まるとそろっとヒカルが扉を開け香苗達を罵倒する女を扉の隙間から見る。
ーあれが、タイシさんのお母さん?でも、少し似てるかも。
「ここに息子のタイシいるでしょ!出しなさいよ馬鹿ども!!」
「いませんからお帰りください」
「それより昨日からなんなんですか?迷惑ですよ」
「あんた達が隠すからでしょう!さっさと済ませれば済む話じゃない!!!」
後ろにこそっと騒ぎを聞きつけた記者達がその様子をカメラに映すと女が手を振る。
「そっちもわらわら来ないでちょうだいよ!!」
「あなたがそんなに」
「何してんです?」
「げっ」
香苗の母親が頭を抱え、香苗が汗を滲ませる。そしてタイシが香苗の祖父とダリスと共に野菜を入れたカゴを持っていた。
「タイシ!さっさと家行くわよ!帰るの!」
「はあ?」
タイシが化粧のやや濃い茶髪の女を見る。
「家?誰ですか?」
香苗の母親、香苗が僅かに驚き、香苗の祖父が話す。
「タイシ。お前のお母さんだあれは」
「え?は?」
記者達が首を捻り始める。
「ふざけんじゃないわよ!」
女がくるとタイシの腕を掴み強く引っ張るとタイシが持っていた野菜とカゴを落とし困惑する。
「行くわよさっさと!あとあんた祖父と最後話たんでしょ!何話したの!」
「やめて下さい」
「おい!嫌がってるだろうが!」
祖父が手を出そうとするがダリスが代わりに手を出しタイシと女を離す。
「何すんのよ!!」
「ですから、貴方も。誰ですか一体」
「お前の実の母親だ」
女がはっとし、警官と畑中がその場に来ると母親を囲む。
「何よ!何もしてないでしょ!」
「迷惑をかけているでしょう。昨日から」
連絡した香苗がむすっとしながら頷く。
「息子に会いにきてんのよ私は!」
「その息子は貴方を覚えていません」
「ふざけてるだけよ!」
「いいえ。完全に覚えておりません。彼が思う母親は小柄の小太りで丸顔だそうです」
「はあ?なにそれ?」
「心当たりありませんか?彼、子供の頃の記憶が随分と消えてますけど」
「は?」
女が怪訝に眉を寄せる。
「お前が酷い虐待をし続けたからだろうが!」
「ちょっ、爺ちゃん」
香苗が慌てて走り祖父が怒る。
「お前のせいでタイシくんは苦しんだんだぞ!!」
「知らないわよそんなの!あとあんたら息子誤認逮捕したんでしょ!!謝りなさいよ!!!」
女が畑中へと向け喚き散らすと香苗が呆れる。
「相変わらずガメツイ…」
「あれ、俺の母親?」
「また話するから。今のうち中入って。爺ちゃんも。ややこしくなりすぎるから行くわよ」
「ふん」
そこにヒカルがいつのまにかおり落ちた野菜を拾っていた。
「タイシ。お前もあちこち大変だな。はい」
「あー、その、俺も訳がわからなくて」
「すみません。よかったら少し話し」
「あーまた今度今度」
香苗が記者達を押し除けるもぐいとくる。
「話を聞かせてください」
「少しでいいですから」
香苗が顔をしかめ、ヒカルが話す。
「ならタイシ限定の質問で今日は1人だけの1時間。俺が今から言います問題に理由と一緒に早く答えた人が今日担当。はい問題っ。かならずらを添える料理はなんだ。はい」
ーら。
ーら…。
記者達が止まりヒカルが香苗達を押しやる。
「てんぷらっ。らを添えるっ」
ヒカルがびしっとペンと共に手を挙げた年配の男を指差す。
「はいそこ正解っ。名刺ください」
「ええ。日本産経で原口と言います」
「原口さんね。ならおばさん原口さんだけ案内して。なら次については質問希望とか名刺渡して俺に言って」
記者達が仕方ないかと思い前方にいた記者がヒカルに名刺を渡しヒカルが書いていく。香苗の母親も仕方ないかと思いつつその原口を家へと招き客間へと通すなか、まだ女が騒ぎ立てていたが畑中達が徐々に移動しつつ放した。
香苗がやれやれとし、タイシが複雑な面持ちをしていく。
『怪我は?』
『ありません。ありがとうございます』
『いやあるある。手首』
タイシが血が滴る手首を見ると香苗がスマホを出し撮影し記録する。
「今便利だな」
「まあね。救急箱持ってくるから」
「香苗。ヒカルくんが入れた記者の人」
「あー、仕方ないか。怪我してるから終わってからくるって話してて。お茶は?」
「今から」
「じゃあその時に。あと、ちょうどいいや。ケガのとこの治療大袈裟にしとこ」
「いや別に」
香苗が急足で離れるとタイシがため息し、ダリスがタイシの手を掴み滴る血を見る。
『深く食い込んでますね』
『そうですか…』
『ええ。もしかしたら、腫れるかもしれないです』
『腫れるまでは』
『腫れる腫れる。だから皮膚科ね』
『いや別に』
『ある。そこ遠慮はなし。診断書出してもらうから。あのばばあに請求』
『…』
『…はあ。まあ、知ると思ってもいたから。後で話すわ』
タイシが頷きダリスがその手を放した。ミオが遠のいていくもの達をみてほっとしヒカルがメモした名刺を持ってくると受け取りもの珍しくみていく。
「うわまたいっぱいもらって」
「貰いましたー。でもちゃんとうまいことしてくから。俺そう言ったの得意ですし」
「そう?」
「はい。後なんか」
ヒカルが6枚の名刺を出す。
「スカウトされましたー。ちなみにダリスさんにも渡しておいてが3枚」
「うーん。分かる。あの人イケメンよねー。いくつ?」
「たーしか32」
「香苗さん。記者の人待たせたら悪いから」
タイシが来ると香苗が話す。
「はいはい」
「タイシ。俺も話聞く。後で俺が他相手したりするからさ」
「ああ。悪い」
「別に」
香苗が襖の戸を開けタイシ達を入れる。
「お待たせしました原口さん」
「いえ。怪我の方は?」
「平気です」
「香苗さん証拠写真撮った?」
「ええ。後で印刷して出すわ」
「別に俺は」
「いやよくないからな」
タイシが複雑そうにし香苗が頷き戸を閉めると原口がまた名刺を出す。
「なら、原口さん。いまから1時間計りますね。何聞きます?あと、年下相手に敬語とかなると堅苦しいし時間いるんで楽に話していいですよ」
「それは、ありがとう。なら」
原口が用意していたボイスレコーダーとアイパッドを出す。
「まず会話の録音はいいかな?」
「はい」
「ああ。そうしたら早速さっきのやりとりだ。あの騒がしかった女性。タイシくんのお母さんという話だけどタイシくんにとっては知らない人なんだよね?どうして?」
「どうしてとなると、それは俺も気になるところで。ただ、世話になってる人たちを見ると、あの人が俺の母親みたいですし。あと、聞いた話だと俺が知っている母親は間違っているとか」
「はい。そこは俺が説明。その世話になってる長くここでお寺の和尚さんや家族のこと知ってる人から聞いたんだ。タイシは生まれてすぐ祖父でもあるお嬢さんのところに来たんだと」
「俺が?」
「ああ。話じゃあのお母さんがお前を勝手に連れてきて置いて行ったらしい。置いた後は男がいる車に乗っていったんだと。その話は?」
「知らない」
タイシが驚き、原口がiPadに打ち込む。
「そして、何故かたまにお前を勝手に連れ去ってはアザやら火傷やら負った状態で置いてまた出るを繰り返した。最終的に3度保健所に預けられた。そして、母親に子供のお前の接近禁止令が出されたそうだ」
「その、保健所に預けられたのはいつ?俺が知ってるのは小二で、その後しばらく孤児院にいて、じいちゃんのところで暮らすようになった」
「俺が聞いたのは3歳と5歳、そして、小二はあってる。5歳の時は肋骨骨折に餓死寸前で保護されて母親は虐待と育児放棄で逮捕された」
タイシが汗を滲ませ、原口が話す。
「そう。彼のいう通り。こっちも君の幼少期の」
「嘘だ」
「事実だ。お前は記憶が飛んだり自分の思うような記憶に改ざんしてる」
タイシがやや呆然とし、ヒカルがやれやれとする。
「ここの人たちがお前に話したがらなかったのは辛くて苦しいことがあったからだ。お前の知っている母親は違って本当は今日来た人だ。確かにお前に目元がそっくりで似ていた」
「…」
タイシが脂汗を滲ませる。
「……」
「原口さんとりあえず次」
「あ、えーと。なら、お父さんの事は、覚えてるかな?逮捕された事は知ってた?」
原口が話し、タイシが頷く。
「警察の方から話聞きました。患者を大勢殺して死刑判決が出されていると。あと、罪を認めていない。否認を続けていると」
「ああ」
「…父親はあってるんだろうか」
「原口さんなんか画像あります?まだその父親みてないから」
「ああ」
原口がスマホを出し操作し画像を見せる。そこにタイシに似た男が連行されている様子が載せられていた。タイシがじっと見ていく。
「これは?」
「父親で間違いない。その、俺が知ってる人だ」
「なら、父親に対しての記憶は?話じゃここだと父親の話も何もなかったそうだ。ただ医者だけ」
タイシが黙り込む。
「殴られた?」
「ない…。養父は、あった。俺が知ってるのは、その、3歳の頃に離婚して、家を出たとこか。アパートか」
「アパート?どんな?」
タイシが困惑しつつ話す。
「木造の二階建て。確か、夕葉荘とか」
原口が検索する。
「8件あった。どれだー」
「原口さん仕事早いですね」
「勿論。あった。ちょっと待って」
原口が持ち運び用の印刷機を出し紙をセットし出力する。
「めっさ便利ー」
「見た事ない?」
「ないです」
「俺も。もう、10年の間で携帯も様変わりしてましたから」
「何もない田舎みたいなところだったからなー俺らがいたとこ」
「ああ」
「それも教えて欲しいな」
「教えたら教えたでまずいところ。あ、出た」
2枚の紙に木造のアパートが映し出されており原口が紙を渡しタイシがすぐにこれと置く。
「このアパートです」
「ああ。なら調べてもらうかな」
原口がスマホでその画像を写し早速連絡する。
「他の記者の人も早いかな仕事?」
「その人の腕によるな」
「だな。原口さんなぞなぞ答えるの早かったから頭メッサ回るし」
「俺としては何故あそこでなぞなぞを出した?あと知ってたのか?」
ヒカルがどやっとする。
「これもあれもそれも仲良くなった警官のお兄さんが暇つぶしに持ってきた雑誌のおかげ。いや俺あそこで結構暇してたんだよなー。特に話なく、ただ単にいたのは家族との繋がりがあるかどうかとその人と話するために待ってたけど結局来なかったってやつでここに戻された」
「家族?」
「まあ今回はタイシの時間。あとは?それから、さっきの10年間の間どこにいたかの話はまだ俺たちもどう話したらいいかわからないから無しで。話したらダメなのもあるから」
タイシが頷き、原口がモヤモヤとする。
「そこは申し訳なくで」
「…はあ。なら、また機会がある時に。今回ここにきた理由として君が何故手配されたのか。警察の誤捜査と言うけど、どうにもその誤捜査に引っかかってね。もしかして、私怨があるんじゃないかと考えてね。これは長年の勘だ」
「タイシ」
「あー、その勘は、まあ、当たりですね。これ話していいのか悪いのか」
タイシが気まずくし、ヒカルが話す。
「担当の人に聞いたら?番号知ってるだろ?」
「でも向こうは、その、俺の母親、と、思う人相手に」
「平気平気」
タイシが複雑そうにしメモを取り出し原口がスマホを貸すとタイシが困惑しつつ畑中のスマホにかけ、原口が良かったらスピーカーにと伝えるとタイシがうなずき原口が操作しスマホを置いた。
ーああ。
畑中がやれやれとしながら話していく。
「別にいい」
『ええと、いいんですか?』
「どうせ分かる事だ。それと、お前が覚えてない一応お前の母親は公務執行妨害で現行犯逮捕したからな」
『…何したんです?』
「俺の後輩の巡査長を思いっきり蹴り倒して岩に激突させた」
畑中の傍にヒカルの相手をしていた男が頭から血を流し寝込み、警官と聞きつけた香苗達が急ぎ応急処置を施す。
「意識はあるが頭部からの出血。あと腹部の方もヒールだからな」
「そ、う、いててて」
「動かない」
「腹部も出血。大量じゃないが折れたヒールが刺さったままだ」
「が、ち、です、かあ」
『あー、卵焼きの。うわまじか』
「ひか、るくんも、いるのかあ」
畑中がやれやれとし、ヒカルが告げる。
「いるいる」
「ヒカル。いってやってくれ。ここから病院は遠い」
「ああ」
ヒカルが立ち上がりすぐに向かう。
『その件については話していい。あとしばらくは電話は無しだ』
「はい」
電話が切れると原口がメールで送る。
「公務執行妨害か。警官だから傷害にはならないもんな」
「はい…あと、なかなか激しいと言うか。そうだったのかと、思うところも」
「うーん」
原口のスマホが鳴り響くとすぐさま取り離していく。
「ああ。分かった。タイシくん。アパートについて。大谷さんに聞いたら確かに親子で住んでたそうだ」
「はい」
「ただ、なんか訳ありのようらしい」
「訳あり?」
「ああ。大家が話したがらない」
「そこに行ってもいいですか?」
「ああ。なら、僕の車で行こうか。あ、でも勝手に」
「いいです」
原口がやや戸惑いタイシが強く拳を握りしめた。
ー脈正常。目の異常無し。
ヒカルが男を仰向けから横向きに寝かせ腹部のスーツを切りヒールをテープと切断した服を使い固定する。
「内臓はいってないけど頭はひび入ってそう」
「ひ、び」
「ああ。軽く触った感じ違和感あるから。まあでも、目の出血とかの異常はなし。黄疸とか無し。ひびくらいなら少し時間かかるけど無理せず過ごせばまた普通に生活できるから、よし。処置はここまで」
「あ、あ」
「おいそこ。どこ行く気だ?」
「ん?」
ヒカルが振り向き畑中が離れ原口の車に行くタイシの元へと向かう。
「タイシ」
「タイシ君。どこに行くの」
「見たいところがあるんだ」
「というと、さっきのアパートか?」
「ああ」
「アパート?」
畑中が傍により、タイシが話す。
「その、俺が知ってる前住んでたところです。小さい時に」
「ああ。で?いって?」
「みて、大家さんと話してみます。何か隠してるそうです。原口さんの部下の方が聞いても答えてくれないとか」
畑中がやれやれとすると待機していた横塚が男とヒカルの元へと来る。
「あーあーもう。澤田君君。あとクソガキ」
「どうも」
「ふん」
「横塚」
「なによっ」
横塚が苛立ち、畑中が話す。
「ここを頼む。俺はこの少年君と出かける」
「はあ?どこに」
「少年君が暮らしてたところだ。あと、クソガキから少し昇進させろ。後輩君の怪我の処置してくれたからな」
「そりゃ俺の父さん医者で俺もあれこれ医療について教えてもらったから」
「さ、さすが。あと、わかる、気もする…」
「ん?」
「なら頼む」
「ってちょっと!あんたもうすぐくんのよ!こらあ!!!馬鹿野郎!れ」
横塚が叫び原口の車が進む。
「元気ねあの人」
「そうでないと男社会いきれないでしょ。あと、救急車来たわね」
車がすれ違うと救急車が到着しヒカルが隊員へと処置について話していくと隊員がうなずきメモし、他が澤田をストレッチャーで運ぶ手筈を行った。
ーここだ。
タイシが車から降り、女が手を振る。
「原口さん」
「ああ。大家は?」
「部屋に篭りました。早く出ていけの一点張りです」
「そうか。大家以外話は?」
「わかりません。みなさん最近入ったりした人たちばかりですから」
「ああ」
タイシがアパートへと向かい畑中がついていく。
「あの人は?」
「警察で担当者らしい。行こう」
2人がついていき、タイシが汗を滲ませ階段を上がる。そして、徐々にこきを速め始める。
ーなんだ。知りたい。でも、何か…。怖い。
タイシがアパートの一番はじの部屋へと来る。
「入居者は?」
「います」
「ちょっとまて」
畑中がタイシの横に立ち扉を叩くと扉が開き顔をしかめた女が出る。
「何よ。こっちは夜仕事してんのよ寝るの邪魔しないで」
「警察です。協力いいですか?」
「はあ?ん?」
女が眉を寄せ青ざめ立ち尽くすタイシを見る。
「ねえ。その子顔色ちょー悪いけど」
けたたましく小太りの男が上がるとタイシを見て止まり脂汗を流す。
「大家です。あの人」
「な、え」
タイシが口を塞ぎかがみ込み嘔吐すると大家がはっとしすぐな背を向ける。
「ちょっとなに!」
「その少年君頼むっ」
畑中が大家を追いかけすぐに追いつくと押さえ込む。原口がカメラで撮影する。
「田中はタイシ君の方っ」
「はいっ」
「ちょっと君!ねえっ」
タイシが首を抑え苦しく息をし出し震えていき田中が震えるタイシを掴むも女がタイシのほおを思いっきり叩くとギョッとする。
「な、あえ」
「これが一番目を覚ますのよっ。君聞こえるわね!」
タイシが震えながら頷き、女が部屋を指差す。
「入っていいから水!冷蔵庫にあるから!」
「は、はい」
「お前それをまだわからない子供にしたのか!」
田中が声を上げた畑中を見て驚くもすぐに部屋を出る。そして、畑中のそばにきていた原口が冷や汗を流し、怒った畑中に抑えられた大家が震えながら話す。
「す、すみま、せん。すみません。すみません。あ、あの子が、いいって。は、母親があ。かねの、代わりにってええ」
「このクソ野郎」
近所のもの達が騒ぎを聞きつけ姿を見せ始める。そして女が倒れ始めたタイシを田中と共に支え、隣に住む男へと救急車と声をあげた。
喪服を着た鈴子が付人と護衛と共に病院へと入りすぐに受付へと向かうと医師が案内する。そして面会謝絶と言う札のある個室へと来ると医師が扉を開け中を示す。そこにダリスがおり、ベッドには点滴を受け眠るタイシがいた。鈴子が頭を下げ中へと入ると医師が静かに扉を閉める。
『お話の方は聴きました』
『はい。彼の記憶障害の一番の原因がわかりました。今は安定剤というものを投与されて休まれています』
『分かりました』
『そちらにお座りください』
鈴子がはいと返事を返し空いている椅子に座り血の気のないタイシを見て表情を曇らせる。
『幼少期の性的虐待は相当酷かったようです。暮らされていた場所の管理者であり、認知して危害を加えた加害者が話したそうです。他にもまだ幼い彼に手を出した方もいるとの事でした』
『はい…彼の実母は?』
『今は否認されていますが時間の問題でしょう。母親の記憶も曖昧なのは母親がいる前で行われたからの可能性がなくはありません』
『はい。あと、本当に、我が子なのに…』
『そう、思われない母親もいますからね』
鈴子が頷き、ダリスが話す。
『こちらに運ばれた後も、痙攣した状態でした。なので、安定剤を投与されたそうです。起きて落ち着かれていたら精神科医の方が診断を行うとの事でした。なので、暫く彼はここに入院されるとの話です』
『わかりました。あと、警察病院ですので警察の方も来られますね』
『はい。ここは、犯罪を起こした方も入院されていると聴きました。彼方にはないですね』
『はい。あと、ミオさんとヒカルさんは?』
『お二人は寺のご近所の方のお家にいます。私もまた後ほどそちらに戻ります』
『わかりました。戻られる際は気をつけてください』
『はい。あと、鈴子殿。そちらは、約束は守られておりますか?家族の事です』
『守られています。私は今、母方の祖父母の兄弟。こちらの国の王。天皇のご自宅のお部屋を借りて過ごしています。そこは母のような皇族を出た方は入れない場所になります。私は祖父母の孫という事でその場所におります。元々母も私の実父が亡くなり一度出戻りはしましたが、再婚してまた出ましたので入れないのです。冠婚葬祭。挙式や葬儀以外。それが決まりですから』
『そうですか。なら、安心は出来ますが、どうにか会おうとすることもありますからね』
『はい。あと、やはり会いたい。理由を聞きたいと連絡があるとの事です』
鈴子が両拳を握る。
『理由を聞きたい。分からないでは済ましたくはありません。私はあの養父。そして、実母を許せません』
ダリスが頷き鈴子が息を吐く。
『申し訳ありません。あの、ダリスさん達はこれからどう過ごされますか?』
『その時次第ですね。どうなるかは本当に時次第です。ただ今は、こちらのことを知っていく必要があります。そして、彼方がおそらく私たちをまた元の場所に戻すために動いていると思います』
『…はい。その、申し訳ありません。私が願った為に』
『いいえ。あなたのせいではありませんし、誰のせいでもありません。ただ今は、こちらはタイシ殿に頼らなければならないのでどうにか彼のここでの問題を少しでも無くせればと思います。しかし、まさかここまでひどいとは思いませんでした。彼方での彼とここでの彼。彼方でも差別は受けておりました。しかし、ここで受けた仕打ちは彼にとって残酷でした』
鈴子がゆっくりと頷き、ダリスが話す。
『彼の居場所は少ししかない。もし、戻る方法がわかれば彼は私が暮らしていた場所に戻るでしょう』
『はい。彼のお祖父様も最後に好きに生きろと言われましたから。そして、ここは彼が苦しむ場所しかありません。ここで過ごせば少しずつ彼は壊れてしまいます…』
『私もそう思いますし、事情を知るものが多いですし、親がどちらもですからね。子供の彼にとって居心地が悪いでしょう』
鈴子が頷き、ダリスが話す。
『後日、実の父と面会するとの事でした。実の父についての記憶は間違ってないようです』
『暴行を受けたとかは』
『ないとの話でしたが、彼との交流もないようです。ただ、少しだけ知っているので会えてはいたのでしょう』
鈴子が頷くと扉が静かにノックされ畑中が中へと入り扉を閉める。
『あの男は?』
『勾留中です。あと、加害を加えていた他も数名知って話しましたので対応中です』
『では彼との実父の面会は?』
『まず、向こうはいいとの事でした。あと、今回の件について話したら知らないとの事です。そして、息子に会うことはあったかと確認したらたまに見に行ってはいたと話してました。それ以降は来てからとの事でした』
ダリスが頷き、畑中が話す。
『鈴子さんはどうですか?完全に離れてます?』
『はい』
『わかりました。そうしたら、これに着替えて』
『え?』
畑中が袋を渡すと鈴子が中を見て看護師の服を見る。
『探偵がいますから。医療スタッフとして裏から出てください。そして、刑務所の往診の医師たちが待機してますのでその方達に乗せてもらった後刑務所の中に。そして、別の護衛の方が待ってる車に乗られてください』
『…お世話になります』
『いえ』
『探偵というと?』
『私用で行う事件調査員ですね。浮気調査やこういった身辺調査をお金をもらって頼まれたら行うんです。警察とはまた別です』
鈴子が頷き、ダリスが話す。
『面倒ですね』
『ええ。そして、探偵によってはうるさいほどしつこいのもいます。あと、高い金を払って雇ったからつけてたんでしょう。着替えはそこのシャワー室使ってください。喪服はまたその袋に入れて俺にください。俺が届けますー』
鈴子がマスクをし他の医療スタッフと共に車へと乗り込むと頭を下げはあと息をつく。そして、畑中が袋を持ち男子トイレに入るとそこに警護の男がいた。
「すまん」
「いや。あと、どこら辺でかぎまわされた?」
「彼方の葬儀に出た時だ。訪問客に混じっていた。分かってはいたがしつこくてな」
男が受け取る。
「少年の方はどうだ?性的虐待も受けたとか」
「ああ。今は休んでいるところだ。明日にならないと分からない」
「そうか」
男がそれじゃと手を挙げ出ていき畑中が俺も行くかと後に続き出た。
ータイシ。何も出来ないじいで。悪い。わるいな。
力無く粥を食べる幼い手足がガリガリとなり骨が浮き上がったタイシを見て話す。そして粥を食べさせるその当時の香苗が祖父へと話す。
ーおてらのおじいちゃん。出来てるよ。タイシ君のこと心配してる。ね?
タイシが返事を返さずもそもそと食へ続ける。香苗が頭を撫で再び口に粥を入れ食べさせる。
ーおてらのおじいちゃんの作ったお粥美味しいって食べるね。元気になるよ。タイシ君は強いから元気になるよー。




