表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命のミオ  作者: 鎌月
2/53

旅立ち

ー暑い。

長くなった髪を一つに縛ったミオが照らされる眩い太陽の下で大ダライに入ったシーツを洗っていた。そしてシーツを絞り立ち上がり滲んだ汗を軽く拭うと上を見上げる。

ー今日も暑くなりそう。

「ミオぉ」

よちよちと女児が拙く歩きながらアネットと共に来る。

「ユナ」

「ミーオ」

「みんなと水遊び楽しかった?」

ユナがうんと明るく返事を返す。

「そっか。楽しく遊べたならよかったね」

「ミオも遊ぼー」

「洗濯とか終わってからね。それまでシスターやみんなと一緒にいて」

ユナがはあいと返事を返しミオがいい子と頭を撫で手を振り見送るとシーツを紐にかけ端から順に力を入れシワを伸ばし端を洗濯バサミで留め干し終えるとふうと息をつき風で煽られ動くシーツを見て空になったタライを持ち上げた。


ーあれから2年。

「イーロン国もアストレイの統治下にようやく入ったな」

ステラが話、成長した男児が肉を食べる。その2人の前に背が伸びたタイシがおり、タイシが話す。

「一気に冷めてからが長かったよな」

「仕方がない。上の連中があちらこちらと亡命したり隠れたりしていたからな。探すこともだが引き渡しにも苦労した」

男児が頷き、ステラが男児の頭を手を乗せる。

「あとは、ヤンの働きぶりもある。念話もだが、ある程度の距離があれば心を読めるしな」

「うん」

「そんな力持ってたか?」

「後で開花したんだ」

「そう」

「へえ。となると、確か力の開花はストレスも関係して」

「こんにちは。タイシ殿。おひさ」

ヤンがすぐさまステラの後ろに隠れ怯えサイモンが網を硬直させる。ステラが怯えるタイシを撫でる。

「ああ。力の開花はストレスも関係してくる」

「そのストレスの元と言うことか。まあ、出会いが血まみれの笑顔なお兄さんだったからな」

「ああ。私もそう聞いた」

「ま、まだ、慣れてくれてない…」

ルイスがやれやれとする。

「ルイスにはなつき始めた」

「はい」

「ほら、ヤン。出てこい」

ヤンがぶんぶんと頭を必死にふる。

「仕方がない。サイモンの自業自得だ。それでタイシに用があるんだろう?」

「はい」

「えー、ならここではなんなので隣行きましょう」

タイシが立ち上がり、ルイスが頭を下げ落ち込むサイモンを連れ隣の部屋へと入る。そして、席へと座る。

「それで用は?」

「…どうやればあの僕君に」

「血生臭さを取り除かれて聖職者の方らしく清く正しく身だしなみを整えて自分は問題ない人ですと見せていくしかないとか思いますけど。俺から言えるのはそれくらいです」

「はい」

ルイスがやれやれとする。

「今回訪ねたことについて、今タイシ殿が探されている少女の件です」

「誰かに聞きましたか?」

「質問はしておりません。ただ話をされたのです。藍丸殿が」

「一応内密な事なので広めることないようお願いしたい件です。藍丸について俺とステラから厳しく話しておきます。それで聞いてなんですか?あと、他に誰かにお話しされましたか?」

「私とこちらのサイモン。あと、ダリス枢機卿です」

「んー」

「そのダリス枢機卿よりお話を聞きました。少女について。その母親について。母親に関しては聖女と言われた異界の女性とのことでした」

「そちらについて、俺は何も聞いてません」

「はい」

「アルスラン伯の娘様である事は?」

「そちらは本人から聞きましたし、まあ、その母親の遺体を俺が村から回収してアルスランさんの元に届けましたから。遺体はアルスランさんが供養をされました」

「そうでしたか」

「アルスラン伯はなんと?」

「葵と言う方で間違いないとのことでした。遺体を俺が調べたところ、内臓はほぼ全て病に侵され、もう生きているのも不思議なほどの状態でした」

「ええ」

「病気などを調べることができるのですか?」

サイモンがやや首を傾げ、タイシが話す。

「損傷がどれほどかわかる程度です。その部分の治癒、治療は出来ません。それで、その娘さんになにか?」

「はい。枢機卿が聖女の大切な娘なので、教会で引き取りたいとのことでした」

「引き取りたい?」

「アルスラン伯ともお話をなさるそうです。直接」

タイシがやや苦悶する。

「アルスランさんの事だから断りそうではありますね。ただ、その娘さんの考えも組む必要があるとは俺は思いますけど。聖女の娘だから。大切な人の娘だからと振り回すわけにはいきませんからね。それもどちらも国や宗教に関連づいた方達。娘さんはその場所で生まれ育ったわけではありませんからね」

タイシがやれやれとする。

「俺も探しては行きます。ただし、探してその娘さんと話をしてどうするか決めてもらう。娘さんの考え。思い、意思を尊重したい」

2人が頷く。

「お二人には経過報告は行います。ただし、そちらも教会の方の中で捜索隊を出されるのでしょう?」

「はい」

「なら、多少なりと情報の共有は行いましょう。あと、俺の意見としては娘さんの考えを第一に考えます」

「わかりました」

「まあ、突然大きな所に連れ込まれるのも、混乱しますしね」

「サイモンさんは経験があるのですか?」

「ありますよ。ルイスは貴族の騎士の出ですから。私は訳ありの貧乏家から出ています。ですので、突然の生活の変化に中々ついていけず人と馴染むのが難しくてたまりませんでした。何度も逃げ出そうとしましたけど出来ませんでしたしね」

「お前の場合はな」

「ええ。なので、タイシ殿のお話について私は共感いたします。ですので、お互いにお互いの情報の共有を行いましょう。そして、少女見つけましたら、お話をお聞きする。そちらは約束します。勿論タイシ殿もですよ」

「はい」

「ええ。なら、お話聞けたところでいけますか」

ルイスがうむと頷き立ち上がりサイモンも立ち上がり部屋を出ていきタイシがやれやれとしながら元の部屋へと戻るとステラ達を前にため息をした。


「ぐぬううううう」

藍丸が正座していたがちょこんとヤンがその膝に座り重石となっていた。

「たく。内密つったのに」

「ああ」

「次誰これあれこれ言うなよ」

「わ、分かった。悪かったあああ」

「お前の国の拷問は程々に効くな」

「拷問なら洗濯板のでかい床板の上で正座して縛られた上、足を上からどんどん積み上げるやつですよ」

「中々だな」

「ま、だかあ」

「いいぞ。ヤン。降りてくれ」

「うん」

ヤンが降りるとすぐさま藍丸が倒れ膝をまるめだきころころと転がる。

「たく」

「しかし、面倒なことになったな」

「ああ。よりによってダリス枢機卿だ。信仰心さながら、こだわりも強いからな」

「ああ。あと、あれはまだ確か若かったはず。何故知っている?」

「教えとして聞いてきたか。実際にその聖女と言われていた葵さん本人に治療を受けたかのどちらかでしょう」

「そうだな」

「ううう」

「仕方がないからこっちは情報共有で手を打ったが、向こうはどうするか。また、俺も探しに出るからアルスランさんから話し合ったら代わりに聞いていてくれ」

「分かった」

「もう行くの?」

「ああ。お前も無理するなよ。だが勉強はしっかり学べ」

ヤンがうんと頷き、タイシが手を振り離れた。


まだ、年若い男が目の前のアルスランと向かい合い座っていた。そして、茶を一口飲みカップを置く。

「娘様の捜索を私たちも行いたいと思います。勿論見つけ次第アルスラン伯爵にもお会いさせます」

「見つけてどうする?」

「ええ。聖女の娘としてもですが、私の伴侶として迎えたいのです」

「元はただの村娘だ」

「ですが、あなたの娘様であり、聖女葵の娘。十分でしょう?」

年若い男が笑みを浮かべ、アルスランが息をつく。

「捜索については好きにしたらいい。だが、そちらの婚姻を受け入れるかは、見つかった娘の判断に委ねる」

「承知しました」

アルスランがああと返事を返し年若い男達が立ち上がりではとその頭をアルスランへと向け下げた。


ー文字を知っているのね。

ーはい。亡くなった母が教えてくれたんです。

ミオが本をユナ達へと読み聞かせると今度は寝かしつけをしていく。そして、猫目のシスターと共に本が入ったカゴを持ち街へと向かう。

「シスタージェシカ。いつも付き添いありがとうございます」

「いいわよ。私も街に行くの好きだから。次は何を借りるの?」

「はい。世界各国のことが書いてある本があればみたいです。食料とか、その地方の名産物とか」

「となると、旅人が書いた本がいいわね。そちらが信ぴょう性あるわ。まあでも最新のではないから変わってるかもしれないけど」

「旅人なら、エルフの方が書いた本とかもあるんですか?」

「エルフかあ。それはわからないわ。本はその人の名前でどんな種族が書いたか不明だもの」

ミオが頷き、ジェシカが話す。

「ま、色々見るのがいいわね」

「はい」

ミオが嬉々とし、ジェシカと共に街の門をくぐり歩いた。


ーリリー。お前はギルドから永久追放とする。そしてエルフの村への立ち入りも禁じる。教会もだ。

軽装のリリーが街中を歩いていた。その片腕はなく袖が揺れ動いており歩くたびにひらひらと舞っていた。

ーリリー…。私は、あなたが無事ならよかった。でも、もう同じことはしないで。そして、死ぬような目にはあわないで。もう、二度とよ。

リリーが息をつき花屋へと赴くと花を持ち墓地へと向かい母親が眠る墓標に花を手向ける。

ーあの時、あんなことをしなければよかった。後悔ばかりだ。

リリーが拳を握る。

ー最初から断っておけばよかったんだ。そうすれば、こんなことにならなかった。

「畜生っ」

リリーが墓標を殴り涙を流し膝を崩し座り込んだ。


ーえーと。

ミオが小さな街の図書館で本を探していく。そしてジェシカがミオを待つ間、図書館の司書と談話をしていた。

ーあ、これ。面白そう

ミオが本を手にし、軽く中を見たあと返して空になったカゴへと入れるとまた次と探す。

「ミオ」

ミオがハッとし隣を振り向く。そこに、ジェシカと共にエリスが微笑み立っていた。


ーリリー。どこに行ったのかしら…。

何もない家の周りをアネットがウロウロとしていく。

「…お菓子持ってきたのに」

「アネット」

アネットがハッとしリリーを振り向くもやつれた姿を見て戸惑った。

「すまない。ありがとう」

リリーがアネットへと茶を出しアネットが頭を振る。

「いいわ。その、お母様のお墓参りに行ってたのね」

「ああ。世話になった」

「私は何もしてないから」

アネットが手を振る。

「リリー。その、食事はとってる?また痩せているわ」

「…今は少しな。食欲がない」

アネットが表情を曇らせ、リリーが椅子の背もたれに深く座る。

「もし、よかったら私の家がある村に引っ越さない?そこなら」

「いい。ここが私の家。私の場所だ」

「でも…」

「帰ってくれ」

アネットが悲しく表情を曇らせ小さく頷く。そして、リリーが離れていくアネットを見届けた後家へと戻るとアネットが持ってきた菓子を暖炉の中へと放り捨て椅子に座りふうと長い息を吐き出しその歯を噛み締める。

ーくそ。くそくそっ。

「リリーキャメロン殿」

リリーが扉を睨み、フードを被った金髪のやや糸目の男が扉を軽く叩くとそのフードを外す。

「誰だ?」

「はい。こう言ったものです」

男が胸元から鎖付きの十字架を出す。

「教会?」

「教会と申しましても表での活動は行なっておりません。主に」

男が口元に指を立て静寂を示す。

「教会のアサシンが私に何のようだ」

「ええ。ご協力を願いたいと思いまして。リリー殿に」

「なんの?」

「あなたが以前問題視された件について。確か、緑の目をした少女の護衛をとの事でしたよね?」

リリーが胸を痛ませ、男が話す。

「実は、私たちはその少女を探しているのです。重要な鍵を握る少女でして」

「鍵?」

「ええ。おそらく、母親から受け継いでいるはず。聖女の証。魔を祓う守護を持つ石を」

「魔を祓う?」

「ええ。それは、悪魔。悪霊もですが、モンスターも」

リリーが目を見開き、男が話す。

「あなたの腕前は存じていますし、その腕の代わりはこちらでご用意しております。もし、あなたがご協力頂ければお渡ししますが、断った場合。このお話を聞かれては、ですからね」

ー殺すということか。

リリーが汗を滲ませ男が楽しく笑みを浮かべた。


「私いろんな国を回りたいです。国を回り巡って、その国のことを学びたいです」

親父やエリスたちの前でミオが話す。

「最終的にはになりますが、アストレイ国に行きたいです」

「アストレイか」

「まあ通常の入国は問題ありません。他も。ですがミオ。あなたはまだ16になったばかりです」

「はい。だからこそ、行きたいのです」

「だからこそとは一体」

「16はイーロン国ですと成人として扱われ1人の大人として迎えられます」

エリスが話、老シスターが頷く。

「その時に、大人の試練を村や国で行うのでしよう。あと、ミオの場合はおそらくお母様の軌跡を辿りたいのだと思います。私も聖女についてあれから調べたところ、聖女は16の時に知り合った仲間達と共に旅を出て各国を巡ったと。その仲間について、まだ生きておられる方もいるようです。ミオはその方達にも会いたいと願っているのでしょうか?」

「はい。その、お話通りです」

エリスがふっと笑み老シスターが複雑そうにする。

「もし行くとして、流石に1人では行かせられない」

「ええ…はい」

「…エリスさん」

ミオが真剣な眼差しをエリスへと向ける。

「エリスさんでよければ一緒についてきていただけませんか?お願いします」

ミオが頭を下げ、エリスがふっと笑う。

「どうしましょうか」

「……つ、ついてきて欲しいです」

エリスがくすくすと笑うと老シスターがやれやれとし神父がおかしくふっと笑いえんでみせた。

「戻ってお祖父様とお話ししてみます。私もあなたと一緒に旅に出るのに興味を持っておりますから」

「え?」

「これは、私の思いになります。お返事はまた夜にでも。その時に皆さんとのお話し合いでどうなったか。決まった場合は出立される日。まずどの方角へと行かれるかを書かれて送ってください。その2、3日前に私と必要な品を揃えていきましょう」

ミオが僅かに興奮しながらはいと返事を返す。老シスターがやや心配な面持ちをし神父がうんうんと頷いた。


話し合いが終わり親父の後を老シスターがついていく。

「私は心配です」

「私もだよ。でも、あの子は飲み込みも早い。そして意志が強い。あとは、多分なぜ戦争を起こしたのかと、知りたいのだろう。最後にアストレイを選んだのなら」

「おそらく私もそう思います」

「ああ」

そこに手紙を持った鳥が飛ぶと老シスターが止まり木にとまった鳥から手紙を取り教会本部の押印を見る。

「神父様。お手紙です」

「ああ。大元からとは久しいな。何かな」

親父がさ早速手紙を開き中を見て行くと目を見開き汗を滲ませる。

「神父様」

「緑の目の少女」

「え?」

「ダリス枢機卿だ。イーロンから来た緑の目の少女はこの世界の人々を癒し、教会に多大なる恩恵を与えてくれた異国からきた聖女の娘」

「まさか…」

老シスターが汗を滲ませ教会の本堂を見るもごほんと咳をする音が響くと神父を見る。

「神父様…」

神父がチラリと鳥を見て餌をやり飛ばす。

「エリス様に急速便を。私はあの子を自由にさせたい。今日にでも明日の朝にでもすぐさまお願いしたい」

「そのようなことをしては」

「後で知った。旅立った後で」

「……」

「私は子供達の幸せを第一に願っている。あなたは?」

老シスターが息をつく。

「私もです。神父様」

老シスターが下腹部を抑える。

「この幸せこそ何よりの救い。私の子も、戦争の最中、そうであればと…何度願ったことでしょう」

神父が頷き老シスターがふっと笑む。

「すぐさま準備いたします」

「ああ。急ごう。あの子には私から話す。その間に準備を」

「はい」

2人が別れるとその会話を木陰で隠れ聞いていたアネットが汗を滲ませる。

ー聖女。もしかして教会の教えにあった聖女葵の子供があの子?なら、リリーは、お母さんが確か…。

アネットがオロオロとし周りを見てすぐにその場を離れる。

ー大元。そして、枢機卿からのお手紙だから事実の筈。

「アネット」

「ひゃいっ」

アネットがびくっとし、ジェシカがおかしく近づきほおをつつく。

「なあにが、ひゃい?」

「お、脅かさないでシスタージェシカ」

「ごめん。どうかしたの?血相変えて」

「え、と、その」

「ん?」

「あ、あの、り、リリーのことで…、また、痩せてて」

「あー、リリーね。でも自分でご飯は作れるでしょう?」

「つ、作る気力がないのよ。お母さんが亡くなられて」

「はあ」

「その、だから、ご飯余ったのを持っていこうと思うけど…」

「んー、まあそこは相談か。自分のを持っていくしかないわよ」

「ええ」

アネットが頷きそれじゃと告げそそくさと離れる。

ーふうん。

ジェシカが楽しく笑みを浮かべる。

「面白いことになりそう」

そう告げその場を離れ部屋へと向かうと部屋の中へと入りベッドマットを返し中にあった紋章が刻まれたナイフを手にしにやっ笑んだ。


ーああ。緑の瞳の子なら見たことあるよ。孤児院にいる。

「最初の街にいたかあ」

変装したタイシが宿の中ではあとため息をする。そこに、白い小鳩が来る。タイシが窓に止まった小鳩を中へと入れる。

「サイモンさんか…うーん」

『タイシ殿。聞こえますか?何かお悩みですか?』

「いえ特に。さっそく情報で?」

『情報と申しますか…。まあ、枢機卿がですね。各国にある教会全土に緑の瞳の少女の事をはなされたのですよ』

「あー、まあ、予期はしていましたが」

『ええ。で、これはさすがに予期はされてないかと思いましてのお話です。情報と言いますか、枢機卿ご自身のお話でして。私どもも大変驚く次第で』

「驚く?なんですか?」

『ええその、もしその聖女の娘であると分かればですよ。見つけましたら、ダリス枢機卿の伴侶になさると』

「はあ?!」

『ですよねー』

苦笑する声が響く。

「いや、ですよねって。まさかアルスランさんにもそれ話してんですか?」

『はい。そのようです。それで、まあ、娘様の意思を尊重するとか』

「いやそもそも裏でそういった大事になってしまっているとしれば迷惑を超えてどうしようもないですよ。そしてそう決めた父親であるアルスランさんもどうなるか。と言うよりなんで枢機卿がとんでもないことを。法皇様たちや他の枢機卿が黙ってませんよ。ただでさえ若僧なのになめくさってと言われる方でしょその方は?」

『いや本当、おっしゃる通りです』

「おまけに、生まれはアストレイ王家親族家庭の貴族の生まれ。親の方も黙ってないのではありませんか?親以外にも親族が黙ってないんじゃ」

『うーん…。そちらは私には分かりませんので…まあ、一応そのダラス枢機卿が当主にはなりますから…』

「あの人当主なんですか?」

『はい。当主です。はい。一応、まあ、兼任ということになります』

「はあ…」

『えー、とにかく。そういう事と、後ここだけ。枢機卿かは知りませんし、分かりませんが。アサシンが動いております。教会の裏です』

「そこまでして手に入れたいならどうして今まで何もしなかったんですか…」

『そちらは私も不明です。あと、もしかしたらその聖女が病だったからではないでしょうか?病については私たちでも知っておることなんですよ。そして、今回その娘様がいた。もしかしたら、受け継がれているかもしれないと、娘様が持たれてある聖女の力であり石』

「石?」

『ええ。おそらくですが持っておられると思うのです。魔を払う石で聖女の力が込められたものにして、石は元は魔石だったそうなんです』

「魔石って、逆に呼び寄せるのではなかったですか?俺の師匠が、修行で使われて嫌な思い出しかないあの魔石」

タイシが苦々しい顔をし、サイモンが話す。

『大変お厳しい方だったのですね。ただ、それだけお強いのが分かった気がします。そしてその魔石を教会が本当はどうにかしてほしいと頼まれたのです。あまりにも強く影響が大きな物だったそうです』

「どれだけの影響があったんです?後どうしてそんなのを教会が?」

『ええ。まず、影響は国一つが消えた。魔物の群れによりアストレイ国から南方に位置する元キーファル国』

「三夜で滅んだあの国」

『そう。そうなんです。その元凶があの魔石。そして、魔石は魔物の体内に入り込み移動するのですよ。それを阻止するために当時の教会と勇者一行が魔石をまあ、捕獲したわけです。ただその後も強力な結界の中見張りを行いつつ漏れ出る力によって呼ばれる魔物達を倒していたんです。その時に、聖女様がお越しになり魔石を浄化され逆に魔物を追い払う石へと変えたのです。その時に一つの魔石は五つに分かれだと言うことでした。そして、五つに割れた魔石から、魔を払う石へと変わった石たちは教会や勇者一行。そしてアストレイ、ウルスラ、聖女へと渡ったのです』

「へえ」

『ご存知ありませんでしたか?』

「いや全く。ならそれを持っておけば魔物が寄ってこないってことなんですね」

『ええ。あとは悪霊なども。ですが、人や獣人、エルフと言った人に深く関わりのある種族と魔物になる前の獣や虫には通用しません』

「なら、あくまで魔力や怨念が込められたものしか通用しないってことですね」

『そういうとこです。そして、どうあれ便利でしょ?』

「まあ」

『便利なのでですね。狙ってる輩も多いのですよ。実際にウルスラにありました石は今所在不明。つまり、盗まれて消えてしまったのです。勇者一行が持っていた石は、勇者一行のものであった方が盗んだ後殺されてこちらも行方不明になってしまったのです』

「それだけ便利道具だとですね」

『はい。で、その便利な石を作られた聖女葵様。ご病気で最後はアルスラン様の副将軍様が殺されてしまったとのことでしたから。まあ、アルスラン様がその件は不問とされましたし、タカシ様がもう助からない状態であったとのことでしたので、教会としては何かすることはありません。はい』

「何かすることはないと言っても、副将軍はいえば、聖女殺しの異名ついちゃいましたけど」

『まあ、そこはなんとかはい。汚名返上しかないかと思います』

「はあ」

『ということでそれだけのことをなさった聖女様なのでその娘様もではという話が…まああちこち飛び交われて』

「それはサイモンさんのところのその枢機卿のせいでしょ」

『いや、おっしゃる通りでもありますが…元は話された藍丸殿』

タイシが呆れ、サイモンが告げる。

『と、言うことです。ところでタイシ殿は?何か進展は?』

「あー、まあ、一応。ただ、ちょっと協力してもらいたいんですよね。怪しい感じなので」

『と、言いますと?』

タイシが口元を覆いフードをかぶる。すると窓に隠れていた黒づくめの男が飛び出し小型のナイフを向けるとタイシが同じナイフで受け止める。

『どうしましたっ』

「サイモンさんのっ、元お仲間ですよっ。枢機卿ですかっ」

『そんな事は』

コウモリの通信機が破壊されるとサイモンが汗を滲ませすぐに離れる。

タイシが蹴りを向けた男の蹴りを避けすぐに腹へと掌を当て衝撃を与える。

「げ」

男が力を失い倒れるとタイシがため息を漏らし男の胸元の十字架を取り上げ立ち上がり一度大きなため息をする。

ーさあて、どうするか。ここまで動いてるなら孤児院も危険だな。急ぐかー。


ユナが熊の人形をリュックに入れ、ミオが急ぎ必要な道具を横下げカバンへと入れる。

「ミオー。お菓子」

「待ってね」

ミオがユナのもらったお菓子をカバンに入れると蓋を閉める。

「よし」

ミオがカバンを斜めにかけ、ユナにリュックを背負わせる。

「準備万端」

「びゃんちゃんっ」

「よし」

「よちっ」

ミオがユナの頭をいいこと撫でるとユナを抱き立ち上がる。そして神父から言われた教会の裏口へと薄暗闇の中向かうとその先にフードとマントを着たものが立っていた。ミオが足を止めややざっとし後退りユナが欠伸をする。

「誰?」

そのフードとマントを着たものの足元にランタンが転がるとミオがこちらを冷めた目で見るリリーを見てこわばる。

「ミ、オッ」

そのリリーの後ろで頭から血を流す神父が息を切らし手を向ける。

「に、にげ、なさい」

ミオが再び中へと戻りリリーがマントを翻し黒い淡い青色は発光する手を出しすぐにミオの後を追う。

ー向こうはダメっ。

ミオが孤児院へと向かう廊下を避け教会の本堂へと入ると聖堂へと走る。

「いやっ!来ないで!!」

リリーが黒い手を後ろへと向け前へと飛び出すように向けるとその手が伸びミオへと向かいミオの背中の服を掴む。

「あっ!?」

ミオが咄嗟にユナを床へと転がし1人そのまま宙を舞いリリーの足元に叩きつけられるとその体を丸め痛みでうめく。ユナが顔を歪め大声をあげ泣き、ミオが震え起き上がるとリリーが胸ぐらを掴みミオをそのまま上へと上げる。

「お前に会わなければよかった…」

ミオが苦しく顔を歪め、リリーが憎々しくその顔を歪め澪を睨みつける。

「お前に合わなければ私はっ」

「リリー!やめて!!もうこれ以上はダメ!!」

アネットがリリーへと強く体当たりするもリリーが黒い手でアネットをつかみ教会の壁に強く当てる。その衝撃で壁がへこみ壊れアネットが力無く床に倒れる。

「し、すた、あ」

「どいつもこいつもっ。お前のせいだ!!」

ミオが体をこわばらせリリーが胸を掴み今度は苦しく顔を歪める。

「お前のせいで私は何もかも居場所を無くした!!お前の」

ミオを持つ腕と足に矢が当たるとリリーが苦痛に顔を歪めた途端、ミオを持つ腕にナイフが今度は切り裂き、その体に蹴りが入り飛ばされる。リリーが床に倒れ、エリスが咳き込むミオを抱きしめる。

「あなたが悪いのです。この子は何もしていない。それにその腕」

「うるさいっ。うるさいうるさいうるさい黙れ!!」

腕が赤黒く光ると炎を浴びる。そしてエリスたちへと炎を浴びた腕が伸びるもエリスがすぐさま澪を抱きしめ床に転がり回避する。すると、その腕が椅子や床に触れた途端炎が起き上がる。

「火がっ」

ミオが叫び、泣き喚くユナと頭から血を流し倒れるアネットと交互に見る。

「ユナ!シスターアネッ!?」

ミオが突如上へと上がる。リリーが睨み、エリスが見上げる。そして、黒を強調した服を着たジェシカがミオの腰を掴み抱く。

「シスタージェシカっ!?お願いおろしてっ」

「ダメダメ。あと、あるかなあ」

ジェシカがミオの胸元に触ると紋章の入った石を出す。

「あったあった。これこれ。魔を祓う聖女の石」

「それをよこせ!!」

リリーが叫び炎の手が向かうとジェシカが石をちぎりミオをその腕へと向けほおる。ミオが目を見開き、ステンドグラスを割って逃げるジェシカを見る。

ーど、うして。

黒マントが横から現れミオを抱きその腕を避ける。リリーが睨みミオが青ざめ震えていく。

「なぜ邪魔をした!!」

「はあ」

あの男が頭を振る。

「その腕を渡した時に説明したはずだ。聖女の娘を殺すなと」

「だったら半殺しにしてやる!!」

「その殺気は本物だ」

たんと音が響くとリリーがその場に倒れ撃たれた腹部を抑える。男が舌打ちし破れたステンドグラスから長銃を構えるタイシを見る。その後ろに気絶し縛られたジェシカが倒れており、タイシが男へと銃口を向け引き金を引く。男がミオを抱きすぐに移動し、下へと降りる。

「ユナッ」

「あのエルフが出した!他もだ!」

タイシが声を上げ再び狙い撃ちする。

ー中々の腕前。サイモン並みか。

男が銃口を見て避けていく。そして、リリーが痛みを堪え立ち上がりタイシを睨む。

「よくもっ」

タイシがジェシカを掴みすぐさま下へと落ちるように逃げると教会の屋根が赤い炎で吹き飛ぶ。ジェシカがハッとし、タイシが着地しジェシカが乱暴に転がる。

「ちょっと何すんのよ!!」

「前みろ前!魔人の腕持ちだ!当たったら死ぬと思え!」

ジェシカが汗を滲ませ、教会の煉瓦造りの壁が溶けるとリリーが姿を見せる。

「う…」

「ここまで熱がくるな。あちい」

タイシが流れる汗を拭いふうと息を吐く。

ーとにかく時間稼ぎだ。

「わ、私関係ない」

「だったらあいつが狙う石をやれ」

「いやよ!ようやく見つけたのよ!というか手に入れ」

ジェシカの持つ石が突如砕ける。リリーが眉を寄せジェシカが目を丸くし転がる石を見る。

「え?」

「それ、ガラスじゃねえか。熱に弱い奴だ」

「石はこちらです」

ジェシカがエリスを振り向く。そこに、ギルドの魔術師達がいた。そして、ユナの首に下げられた淡く光る石を見せる。

「な、なんで、そっち」

「リリー!もうよせ!」

「もうこれ以上罪を冒してはダメよ!」

リリーが奥歯を噛み締め、気絶したミオを抱いた男が木陰に隠れみていたが突如後ろから肺を銃弾が貫通する。男が驚愕しながら血を僅かに吐き銃口を全く違う方向へと向けるタイシを見て歯を噛み締める。

「ちょ、うだん」

タイシがすぐさま姿を見せた男を狙い引き金を引く。男がミオを置きすぐさまその場を離れる。

「私に指図はするな!!私をこうしたのはみんなお前達だ!!」

リリーが叫び周りの木々が燃え始める。魔術師達が結界や水を使いすぐに消火にあたる。そしてリリーの姿が炎の中へと消える。その中でリリーが息を荒げながら炎と煙の中立っていたが突如目の前が暗闇へと変わると前に倒れる。男が倒れる前にリリーを掴み咳き込みながら肩にかつぎ炎の中を移動し姿を消す。

「リリーが消えました。あの男が連れて行ったようです」

「そうか」

「すぐに消火だ!!」

「女の子下ろせるか!!」

「ああ!」

「ミオ」

エリスがぐずるユナを抱き魔術師の手で下ろされるエリスを受け取りその場に座る。ユナがミオを抱き震えなき、エリスが僅かに安堵の息をつくも液体が入った小瓶を向けられると顔をあげ顔を隠すタイシを見る。

「目の色を変える。その目は目立つ」

「あなたは何者です?」

「ギルドに加担している。それだけしか言えない」

タイシがエリスの前に小瓶を置きその場を離れる。そしてまだ火が消火されない中、ジェシカがむすうとしながら檻の中に入れられ連行される。

「ティーチ。お前もよくやった」

「なら、後お願いします」

「え、あ、おう」

タイシが足早にその場をさるのをエリスがあやしみみて行った。


タイシが誰もいない路地裏でマスクとフードを外し手で自らを仰ぐ。

「あっちい。くそ。魔人の腕持ちは聞いてねえぞ」

「タイシ殿っ」

黒づくめのサイモンが頭上から現れタイシの前に降り立つ。

「よかったですご無事で」

「あなたもその格好。久しぶりですね。あとこれ」

タイシが最初に襲った男から千切った十字架を見せるとサイモンが手にしみる。

「最初に泊まってた宿で襲われました。俺と分かって」

「ええ。あと、アダムス枢機卿ですね」

「あのまんまる枢機卿か」

「んー、まあ確かにふっくらふくよかですね」

「パツパツの間違いでしょ?あと、娘さんの方見ましたよ。似てましたね。俺がみた葵さん。あと、アルスランさんにも。あれは輪郭かな。でも、母親似でした」

「ええ。なら、葵様の娘様で間違いないということですね」

「ええ。あと、そのアダムス枢機卿の奴らに最初に襲われた神父。話を聞いたら旅に出るところだったそうです」

「え?」

「ま、なので、俺からちょっとしたのを渡しました。瞳と色を変える魔法薬。俺の力を込めた薬です。使ってくれるからあちら次第ですけど」

「タイシどのそのようなものも作られるのですね」

「師匠がなんでもできるなんでもやれという人だったので。でまあ、渡してからこっちに来たんですよ。ここならたぶん、サイモンさんが来ると思いましたか。でー」

タイシが伸ばしうんざりとする。

「娘さん狙ってきたその枢機卿のアサシン。男がそうでしたが、女の方。その男に魔人の腕をもらったみたいでえらい間に合いましたよ」

「魔人の腕を?それは教会でも扱ってはいけないもの」

「まだ教会の人間じゃないからでしょ?使っていたのはリリーキャメロン。以前、ギルドの信用を落としたとして追放された女です。エルフから戦争孤児をここの孤児院まで届けるよう依頼を受け金までもらったのに置き去りにしたことです。その後、大型魔獣に襲われ護衛隊6人のうちその女と1人残して全員死亡。その女が追放された者で、多分孤児院まで運ぶ予定だった子がそのアルスランさん達の娘さんだったんでしょう。まあ、相当な恨んでたみたいですよ。ただし一方的な逆恨みです」

「ええ。聞いてて呆れますし腹立たしい。ただ、魔人の腕を持ってしまったなら危険ですね」

「ええ。おまけにそのアサシンが持って行ったんです。どうするのか知りませんけど」

「んー、まあ、魔神化まではまだ本人の意思の強さで変わりますから。それまでもしかしたら使うなもしれません」

「ええ。あと、娘さんですけど旅支度してましたし、付き添っていたエルフも旅の衣装でした。なのですぐにでも出立しますよ」

サイモンが汗を滲ませ両腕を組み項垂れる。

「急いできたんで待ち合わせの服それしかないんでしょ?」

「お、おっしゃる通りです……」

「それじゃまだまだヤンが慣れませんよ」

「う…」

タイシがやれやれとする。

「ま、旅に出るなら徒歩でしょうからある程度場所の把握はできますね。あと、もしかしたらギルドを頼ると思いますし」

「ギルドを?」

「俺が所属してますから。娘さんをみられるエルフの女性に伝えましたからね」

「エルフが。ふむ…」

「唯人より断然いいでしょう」

「そうですね。精霊も使役されますし」

「ええ。で、あとは向こうがどうするかですね」

「もし呼ばれた時はどうされるのです?タイシ殿は?」

「ついていきますよ。で」

タイシがぽんと肩に手を乗せる。

「教会情報を俺にください」

「は?」

「元はそっちの枢機卿のせいでしょ?そんで、もう1人の枢機卿が狙ってるのがわかった」

「まあ…」

「それも魔人の腕まで持ってる奴もいる。取り敢えず、俺も呼ばれた時は正体明かしてサイモンさん達協会のことについて全部話しますんで」

「そ、そんな、こと」

「別にいつかわかるもんですし、何に狙われてなぜ狙われるようになったかはっきりわかったほうがいいでしょ?まあとにかく、サイモンさん。2年前の戦争の時に俺に恩ありますよね?」

サイモンが硬直し、タイシがまあお願いしますねと肩を叩くとサイモンがやけになりながらわかりましたよと返事を返した。


ーああ。ティーチか。あいつはS級だ。

エリスが眠ったユナを抱き、膝には同じく眠るミオの頭を乗せながら椅子に座っていた。そこはギルドのギルド長の部屋で、厳ついがどこか紳士的な白髪の目に大きな傷跡を残すギルド長が隣の女性秘書へと話す。

「ティーチの情報を持ってきてくれ」

「はい」

「こちらのギルド出身なのですか?」

「いや。あいつは辺境の地。特に魔物が頻発するサーライト国のギルドで登録した奴でな。ここのところイーロンの戦争の件で増えてきた野党や盗賊になった兵士。あとは魔物対応で来てもらっている」

秘書が持ってくるとギルド長が受け取り書類を渡しエリスが中を見る。

「今回だけは特別だ。そして、ティーチがそう言ったのなら開示していいって事だからな」

「はい。ドラゴンまで…」

エリスが驚き、ギルド長が話す。

「ああ。狩っている。そして、そいつの師匠は魔物の亜種。人語を話すオーガにして魔術師だ。ライドという名で、200年ほど前に大勢の人間を殺したとされる最悪にした最強の奴でな。今でもSSクラスの討伐対象になっている」

「その方が師なのですか?」

「ああ、本人はそう言っている。実際本当かはわからないがな」

エリスが頷き、ギルド長が話す。

「信頼もできれば金勘定もしっかりしてやがる。それとあいつは何かその子らについて知っているみたいだから聞いてみるといい。まあ、俺らは関係なければ元ギルドの奴が迷惑かけたからな」

「彼女はどうなります?」

ギルド長が息をつく。

「手配する。ここから出したくはなかったが、教会の神父様たちや子供らに危害を加えたからな。刺したあの魔人の腕もちとなっちゃ、Bが妥当だ」

ーAランク以上が相手…。

エリスが頷きギルド長が話す。

「今日はここを使え。そしてもし、ティーチを呼んで欲しいなら明日呼ばせる」

「わかりました。なら手配だけお願いします。後、お部屋の方も使わせていただきます」

「ああ。見張りはBとAランクをつける」

「よろしいのですか?」

「構わない。2年前にもあんた達の依頼を無碍にしたからな。これはその分と今回のその子らやあんたに対する償いだ。遠慮しなければ是非この機会に償わせて欲しい」

ギルド長が頭を下げ、秘書もまた頭を深く下げた。


ー来た来た。

宿を変えたタイシ宛にギルド長から特別招集が出される。そして、ギルドへと行き中へと入ると早速受付嬢がさっとくる。

「おはようございますティーチさん」

「ああ。招集を受けてきた」

「はい。早速ご案内いたします」

タイシが頷き受付嬢の後に続く。そして、階段から今度は螺旋階段を上がりギルドの特別室へとくる。受付嬢が扉をノックしお連れしましたと告げ扉を開け頭を下げる。タイシが部屋の中に入るとギルド長とエリス、ユナ、不安な面持ちのミオがいた。

「来たな。俺の隣に来い」

「はい」

タイシが返事を返しギルド長の隣に来て座る。

「まずは、こいつがティーチだ」

「どうも」

タイシがポケットから小さな機械を出しスイッチを押す。すると機械に仕組まれた紋章が浮き上がり周りに結界が貼られる。

「盗聴防止か?」

「ええ。あと、外から見えない壁が出来てます。最近できたアストレイの会議用の装置です」

「アストレイの方ですか?」

エリスが尋ねタイシがマスクを外す。

「その通り。もうこの際なのでギルド長にも話しておきます」

タイシが髪に触れ元の黒へと変えるとミオが驚き今度はタイシの瞳の色も黒へと変わる。

「なるほどな。お前の強さの秘密がわかった気がする」

「どうも。ただし、使いこなさなきゃ力も出ないです。あと、本当の名前は朝倉大志。異国からここにきた異国人だ。髪と瞳はこの世界にはいないし目立つから変えています」

「はい」

「ええ。で、まず何から話すべきかとなると、俺はアストレイから、ある人の頼みでそこにいる聖女の娘と言われている子を探していました」

「どうして、私を」

ミオが戸惑い、タイシが話す。

「まあ、今まで放っておいた父親の頼みだな。父親はアストレイ国のアルスレイ伯爵。アストレイ軍の右将軍。つまり、王の右手。王の直属の配下になる人だ」

「あの豪将か」

「確か、イーロン国の最初の襲撃を行ったのはアルスレイ将軍とお聞きしております」

ミオが衝撃を受け、タイシが頷く。

「その通り。アルスレイさんが先陣を切り、大統領。そして、その場にいた方達を全て葬りました」

ミオが小さく声を漏らすとユナがきょとんとする。

「ミオ?」

「そして、イーロン各国にある村の殲滅も命じたのも彼です」

ミオが口元を抑え項垂れ、エリスがその肩を抱き寄せる。

「何故ですか?」

「何故については俺にも詳細は不明です。ただ俺の見解として、攻めやすさからと麻薬の撲滅」

ミオが涙を滲ませ落とし、ギルド長が話す。

「イーロン製の麻薬は各国でも問題になっていたからな」

「ええ。純正が多く中毒性が非常に高いやつですから。その生産をイーロン国が所持する各村で行われていた。なので、関わったもの全てが罪人。細かなことは何もせず子供に至るまで殲滅させたんです。あとは、あの辺りの地理から資源が豊富に取れるということも分かったようです。おそらく1番の理由はその資源の確保。今、元にあった村は資源採取。言えば鉱石や天然ガスなどを採取するための建物があちこち建てられています」

「み、みんなは…」

ミオがなんとか声を絞り出す。

「おか、あさん。眠って、て」

タイシが気まずくするも息をつきミオへと深く頭を下げる。

「申し訳ない。そのお母さんの遺体を俺がアルスランさんの元に運んだ」

「え…」

「弔った死者を勝手に出されたのですか?」

「そうです。勝手にです」

ギルド長が息を吐き、タイシが話す。

「アルスランさんが最後に一目でも会いたいと言われたから。その後について、アルスランさんの元、また供養されて埋葬された」

ミオが顔を歪め小さくしゃくりを上げる。タイシが頭をあげる。

「その村と隣村だけになるが、他の村人の遺体は俺が全部運んで他所に共同墓地を作った。あのままだと、建物の下に埋められてしまう。俺はここの埋葬についてよくは知らない。このやり方は俺の故郷でのやり方だ。ただ、それでも身内の遺体を勝手に動かし相手に渡すのは、悲しみしかない」

ミオが口をつぐみ、タイシが話す。

「あと、お母さんについて。最後に兵士が聞いた言葉がある」

「最後?」

「聞きたいなら話す」

ミオが鼻を鳴らし声を出そうとするも出せなかった為頷き、タイシが頷く。

「まずは、アルスランさん宛。私の故郷はここで私はここで死ぬ。そして、娘である君。ミオ。今までありがとう。健やかにだそうだ」

ミオが大粒の涙を流し唸る。

「あとは、これで苦い薬を飲まなくて済むと言った。彼女は死に際吐血したそうだ。もう、体はボロボロだったみたいだ」

ミオがエリスにしがみつき嗚咽を漏らしエリスがミオを抱きしめていった。


ミオが目を晴らしながら水を飲み、エリスがミオの頭を撫でながら話す。

「それであなたは?アルスラン将軍の部下ですか?」

「はい。まあ、部下と言っても余程のこと以外は呼ばれない存在です。アルスランさんから直々に声かけされたんですよね。何度も」

「お前が?」

「そうですよ。俺がです。ま、異国人と言うことと、龍を屈服したからと言うことでした。あとは、諜報部員ですね。イーロンについても言えば俺が情報を集めて報告していましたから。だから俺も戦争に関わってます」

「ああ。ちなみにどんな情報だ?」

「ええ。まず、大統領の行動。護衛人数。あと、隠れ家。それと他大臣達も同じ。あとは、イーロン国首都。他国と違って建物の作り。機械。全てが逸脱していたでしょう?」

「ああ。確かに。便利なもの。あと、電気を使ったものもあったな」

「そう。あれ本来はほぼ全部俺の故郷。異国の地にあるものなんです。つまり、異国人の生活をそっくりそのまま真似た首都。それがイーロン。本来ならこの世界にない電化製品。自動車等等。ああ言ったのは異国にあったものそのままなんです」

「ならなぜそれがある?あった?」

「異国人の技術者達の奴隷化。まあ、言えば俺もしばらく奴隷としてあのイーロンにいたわけです」

ミオが驚き、タイシが話す。

「奴隷の刻印もされたが、今は消したんでもうない。あと、俺はまだガキで知らないことばかりだった上に反抗的だったんで狩の的に選ばれた。イーロンの貴族たちのだ。俺と同じ年頃の子供。大人に年寄り。あの時、6人いた。時間が来るまでに森の中に逃げた。そして時間が来たら狩の始まりだった。奴らは最初から頭じゃなく手や足を狙う。手や足を狙い、最後は持っている近接武器。ナイフや鉄棒で痛めつけてとどめを刺した。俺もあちこち撃たれたが、狩の場所にある人がいた。人と言うか、人語を話すオーガだ」

「あれ本当の話か?師匠?」

「本当の話ですよ。ラドンについて。まあただし、本来の師匠はまた別にいるんですよね。ラドンはその友人関係なんですよ。でまあ、ラドンが貴族のハンターたち相手に攻撃をして全滅。俺もまた食われる直前だったけど、あの貴族の肉使って美味い飯作るから。生肉より美味いからまだ食べないでくれと懇願した」

「…は?」

「いや、は?じゃなくて、まじ。本当の話。真面目に命乞いしたんですよあいつに」

タイシが嫌な顔をしため息をする。

「で、約束通りそいつらを解体してそいつらの別荘地で作った奴をそいつに出して食べさせたら、気に入ってもらったんでそのまま連れて行かれたんですよ」

「お前もまあよく、生きてこれたな」

「本当その通りです。何事も機転と運が自分にあったと思いましたね。まあそして、しばらくあいつが人肉持って俺が解体して調理してたら、あの女が来た。師匠」

「女?」

「マヤ。竜と人との間に生まれた異種族。とんでもない怪力に魔力。とにかく恐ろしかったですね」

「竜と人の子というのがまず信じられない」

「はい。聞いたことありません」

「聞いたことなくても実際いますし、そういうことだから人前に出ないんです。そのマヤ師匠のもとでラドンも手伝いとしても加わり2年過ごして、人里に降りてギルド。そして話を聞いてきたのがアルスランさんという事です」

「なぜアルスラン将軍の元に?断られたりもしたのでしょう?」

「ええ。なんと言うか、あの人再三来たんだすよ。しつこく。だから最終的に俺が折れる形で部下になり、諜報部員としてイーロンに渡ったんです」

「そこまでしたのか?アルスラン将軍は」

「だって半年間の内2週間に1度、2度はきてたんですよあの人…」

「そんなに?お前欲しさに?」

「みたいですよ。行ったら行ったで、アルスランさんにぞっこんしている方もいらっしゃるからまあ冷たい目でみられましたよ。はあ」

「ああ」

「あなたが、アルスラン将軍のお気に入りという事ですね。そして今回はそのアルスラン将軍からの依頼」

「依頼というか、頼みですね。俺としてはなぜ今更とも言えますが本人は探していたみたいです。ただし、イーロンにいたことは本人も全く知らず驚かれたんだそうです。イーロンは特に異国人差別がひどく、葵さんの病を見てくれる所はどこにもないと思ってたらしいので」

「その、母の病気はそんなに酷かったんですか…」

ミオが悲しく告げ、タイシが頷く。

「ああ。一緒に生活してきていた中でも吐血はあった。寝たきりの時もあったそうだ。元から彼女は肺が弱く、旅の際もよく肺病を患ってたらしい。人前に出る時は術を使ってごまかし出ていたそうだ」

「…本当に」

「俺は実際に見たことない。ただ彼女を知るアルスランさんは嘘は言わない。そして、悪いが俺も彼女の遺体の死因を調べた。体をいじったわけじゃなく、術を使って確認した。彼女の死因は血を失ったことによる失血死だが、肺はほぼ機能せずに、体の至る所もまた機能していなかった。死んだからじゃない。生きていた時からだ。君と過ごしていた時に君の前で血を吐いたことは?」

「な、いです…」

「なら、母として君に心配させたくなかったから見せなかった。もし血を吐いたら君は村から出て医者を探したりしたはず。ただ、それだけ我慢してきた結果体はもう限界になっていた。だからといって、それでも引き裂いたのは戦争であり、アルスランさんの部下。副将軍だ」

タイシがバッグから重たい金貨が入った袋を出し見せる。

「その副将軍から。でも、君だからの詫びにもなる。もし、君が聖女の娘であり、アルスランさんの娘じゃなかったらこれは無かった物だ。だから受け取るかは君が決めていい」

タイシが金を置き、写真を取り見せる。そこに、アルスランがうつっておりエリスが涙ぐむミオの前でアルスランを見る。

「確かに将軍ですね。アルスラン将軍」

エリスが写真をミオに渡しミオがその写真を手にしみていく。

「アルスランさんとしてはまた、娘の君と過ごしたいそうだ。けど、伯爵として、王の右手右将軍としての地位もある」

「つまり、政務関係に関わるということですね。もしかしたらミオもその政務に使われるかもしれない」

「え?」

「その通り。でー、まあ、これも政務になるのやらなんですよね」

タイシがやれやとしながら今度はダリスを見せる。

「メトロ教会のダリス枢機卿じゃないか」

「そう。歴史上最年少で枢機卿となり、現法王の信頼を厚く受けられている方です。御年35歳」

「ああ」

「この方が昨日の」

「いいや。昨日のは多分、エリスさんも知ってると思います。まあ体の丸い枢機卿」

「アダムス枢機卿ですね」

「はい。その部下達が行ったのです。枢機卿の命令ででしょう。昨日の様子からおそらく第一に魔物よけの石。第二に聖女の娘が狙いのようですね。ところでどうしてあの時この子に持たせてたんだ?あとあのガラスの石は?」

タイシがミオの膝を枕に眠ったユナを示すとミオが話す。

「ガラスの石はユナが作ってくれて…。だから、行く前に交換したんです」

「それでか。まあそのおかげで盗賊団の女にまんまと霞取られても問題なかったな」

「え…」

「あいつ。シスタージェシカ。本名はナタリー。明星っていう異国人が仕切る盗賊団の一味なんだ。元々その盗賊団も明星って名前じゃあなかった。だが、その異国人が乗っ取り名を変えて今でも盗みを働いたいるわけだ。ただ、昔と違って、殺しは無くなったからな。昔の明星。アークは殺しをして金目のものを奪っていた。ただ今は、半殺しはあるが殺しはしなくなった。ただそれでも盗人は盗人だ。気になるなら後で手配書を持ってこさせる。そして、今回。リリーキャメロンについても手配した。教会での暴動。子供らを襲った事について見て見ぬ振りはできないし、その子を殺そうしていた殺人未遂もある。あとは神父様達まだ」

「あの、その、朝も聞きましたが…」

「変わらないし命に別状はない。ただしばらくは安静だ」

ミオが頷き、ギルド長がやれやれとする。

「で、捕まえたナタリーにはまんまと騙された訳だ俺らも。普通にシスターだと思ってたからな。そして、ナタリーは昔の頭の娘にもなる」

「その昔の頭は?」

「ああ。今の頭との決闘で死んだとされているが、実際のとこ不明だ。捕まえた奴らの中にも死んだや、まだ生きていると発言で二転三転で分かりやしねえ。だが、今回頭の娘を捕まえられた、から」

ギルド長が呆れタイシがちょいちょいと手を向ける。

「ちっ」

「もらった分の上乗せあとでもらいにきますんでよろしくお願いします」

「分かったよ。そしてとにかく捕まえたんだ。色々とっちめて吐いてもらうし、なぜあの教会に8年もの間いたのかも聞かなきゃならねえ」

「8年もですか?」

「ああそうだ。街で見かけてからと、神父様の話を聞いてからわかった年数だ。あと、教会から派遣されてきたというが調べたら全く別のシスターが派遣される予定でそのシスターは別の教会に入っていた」

「つまり、書類を偽造されたのですか?」

「そうだ。そこまで徹底した理由も知りたいからな」

エリスが頷きミオが表情を曇らせる。

「信じてた人らに裏切られるのは、辛いだろ?」

ミオがタイシを振り向きタイシが話す。

「俺も奴隷になった経緯は、優しく接してくれたおばさんが本当は奴隷商人で俺を捕まえたからになる。子供でしかも見たことがない知らない世界だったから頼ってしまった。暖かさを欲しかったから信じてしまったけど、裏切られて絶望した」

ミオが頷き、タイシが話す。

「旅をして何をしたい?そこはここにくる前に教会のシスターサリナに聞いたからだ。旅をしたい理由は?」

「はい…。この世界の国々を知りたいのと、なぜ戦争が起きたのか。アストレイに行って、その理由を知りたかったんです」

「ああ。なら。最後の目的地がそこか?」

「いえ。今植民地国になったイーロンです。故郷を

、見たくて…あとは、母の事についても知りたくて…。旅をしてきたと母からは聞かされていました」

「ああ」

「それから、母は、父にも会いたがってました。けど、邪魔になるからと…なので、いつか私が連れてこれたらと、思ってたのです。けど、母が死にその願いが、叶わなく、なり」

ミオが鼻を鳴らし涙を拭う。

「だ、だから、父を、探そうと…でも、その人、が、父なら、私」

ミオが啜り泣きエリスが頭を撫でる。

「本当の実の親子なのか調べるには体の一部があれば調べられる。血や髪。アストレイもまた異国の技術を取り入れてもいるからな。血や髪を使い親子関係を調べるのは異国の医学による技術だ」

ミオが泣きながら頷きタイシが話す。

「ちなみにここまでの話。信じるか?」

ミオがタイシを一度見るも僅かにふせ小さく頷く。

「信じ、ます。あなたは、私、や、ユナ達を、助けてくれた、ので」

「まあ、そう言ったのもいる。それでも信じてくれるならだ。ならだ」

タイシがダリス枢機卿の写真を見せる。

「この人のせいだ。君が教会から狙われ始めたのは」

「え…?」

「教会全土に一斉に手紙を出したんだ。緑の瞳の少女が戦争孤児として預けられているのなら話して欲しい。その少女は教会を救ってくれた恩人。聖女葵の娘であるからと」

ミオが驚き、タイシが呆れる。

「そして、これは内々で動いていればアルスランさんも承認した。この人は君を伴侶として受け入れたい。つまり、君と夫婦になりたい。結婚したいと言った」

「それは、本当ですか?」

「本当ですよ。おまけにアルスランさんも承認承知。そして、自分の意思ではなく娘である君の意思でするかしないかを決めてもらうってことになったらしい。君の知らない間というか、知る由もないとかでそうなってんだ」

ミオが呆然としエリスがやれやれとする。

「勝手極まりありません。なぜそこまでミオを振りますのですか」

「欲。そして名声。俺はそう思いますね。そして、今更とも」

「はい」

「なんてこっただな」

けたたましくノックが響くと受付嬢が扉を開ける。

「失礼しますっ。捕らえていた盗賊団明星のナタリーが脱走しましたっ」

「っだと!!?」

「なんてこったな事態ですね」

ギルド長がタイシをつかみ肩に担ぐとタイシがうんざりとしながらギルド長にそのまま何も言わずに連れ去られる。

「…」

「少しお待ちください。お菓子と新しいお菓子持ちします」

受付嬢が頭を下げ扉を閉める。

「その…どうしてあんなに慌てて行かれたんですか?」

「ええ。明星の被害は各国で多くありますから。その前頭の娘なら色々知っているはず。ですがそれを聞き出す前に逃げられて慌てて捜索に行かれたのでしょう」

「タイシさんも一緒に?」

エリスがふっと笑う。

「彼はその気ではなかったようですしどうでもいいという感じでした。ただ、ギルド長にとってはどうでも良くないことでしたので彼とギルドにいるもの達も使って捜索をするようです。ミオ」

「はい」

「今、私たちしかいません。あなたはどうしますか?彼について。そして、貴方のお父様かもしれないアルスラン将軍やこの先についてです。このまま私とユナと出て行っても構いません」

「…」

「今回彼を呼んだのは私です。彼は私たちのことを知っていたように思え、彼もまた呼べば教える。そう言ったような形に思えたからです」

「はい…」

「それで、私がみた限り彼は信用できます。理由としてまずひとつ。ギルド長の信頼が深いことです」

「そうなんですか?」

「はい。本来ギルド長の隣に座ることなどなく、私たち依頼者側へと座らせることが多いです。なぜだかわかりますか?」

ミオが考えるもわからないと頭を振りエリスが頷く。

「命を狙うものもいるからです。ギルド長は言えば各国にあるギルドを納める1人の長。この世界でギルド長は八名。そのうちの一名が先程の方。ギルド長になるには力もですが信頼。そしてどれだけ統括。統率できるか。あとは、己の身を守る手段を持っているかになります。ギルド長はそうなれはしませんし、彼らが自ら引退するかなくならない限りはその座にい続けます。ギルド長となれば各国に貴族や王族との謁見も可能ですし、私たち少数民族とされているエルフと言ったもの達との交流も可能にさせます。それだけの権力を持ち合わせています。なので、その権力者になるべく次期ギルド長なるであろうものが遠回しに暗殺を行ったりもします。そしてよく行われるのがこのギルド内なのです。失敗もあれば成功もあります」

「殺されたギルド長がいるのですね」

「はい」

「ここでは」

「ここではありません。そして、10年前になります。未だ犯人は不明で新たなギルド長となられた方が怪しまれていますがギルド長としての仕事はされているので違うだろうという話です。そして、それだけ栄誉ある地位の方から信頼を彼は得ているということです。あとは、彼はあなたの事、彼がやったあなたとお母様についての事。全て隠さずあなたに伝えました」

「最期の、言葉も……」

「はい」

ミオが頷き机に置かれたままの金貨が入った袋を見る。

「タイシさんは、S級ですよね?」

「そうです」

「なら、雇うにも、それだけお金がかかるということですか?」

「はい」

ミオが頷き金貨の袋に手を伸ばしその袋を掴み引き寄せる。

「頼むことを、前提に出されたかも知らないですね」

「考えることはできます」

ミオが頷き袋を広げ中にある金貨を見る。

「タイシさんは、私の我儘を聞いてくれて、私が知りたいことを教えてくれると思います。だから、これでタイシさんを雇います」

「分かりました」

「エリスさんは、それでいいですか?」

ミオがもじもじとし、エリスがふっと笑む。

「はい。そして、あなたの意見を尊重します。お二人が戻るまでゆっくり待ちましょう」

ミオがはいと返事を返し、エリスが頷いた答えた。


1時間後ー。

ギルド長が頭を落とし激しく落ち込み、タイシが疲れ果て出された紅茶を飲む。

「逃げられたのですね」

「そうです。それもドラゴンライダー八体」

「ドラゴンライダーが?」

「ドラゴンライダー?」

「魔獣使い。それも、龍属の魔獣を扱う盗賊の奴らが8人いたってことだ。それも小型の攻撃的で魔術も使える龍に乗ってきたもんで、火は吹くわ。氷は吐くわ。雷を打つわ。地面が揺れるわでもー、無理。俺は負傷者の回収および負傷者に向けられた攻撃を他の奴らと防いで相手できませんでした」

「はい」

「竜族の魔獣が八体となると相手をするのも厄介ですからね」

「ええ。だから、逃げられたんです。もー、こればっかりはどうしようにもない。人命優先。あれはSSランクに近い」

「くそおお」

「地道に潰してくしかないですよ」

タイシがはあと大きく息を吐き出し、金貨の袋がミオの前にあるのを見る。

「それもらうか?」

「は、はい。その、よかったら、これで、タイシさんを護衛として、雇いたくて…」

タイシが目を丸くする。

「いや、雇いたいなら別それでもいいけど。その金で雇わなくてもいいぞ」

「え?」

「俺は君のお母さんの遺体を勝手に動かしてもいるからな。あと、んー、まあ、Sランクで確かに雇うための雇用代金の最低価格は決められているけど、俺はSはSでも討伐部隊だ。護衛部隊じゃない」

「え、と」

「ギルドにはそれぞれの部隊があってな…」

タイシがそうそうと頷き、ギルド長が落ち込みながら話す。

「人気なものは討伐。魔獣や盗賊を相手にする。時には戦争にも参戦する。そして、護衛は商人や要人達の護衛。守る為にある。商業は各国の街などに商品や生産品を売り捌く。職人は武器や盾。または日常に使う皿や道具までもを作るもの達を言う」

「はい。で、今回の場合。俺は護衛には登録していない。ギルドの俺として雇うには俺が護衛に登録しないとできない。だが、ギルド登録は一種類のみ。複数はできないから俺に対する護衛の依頼は出来ない。たとえ、ならこの際護衛の方に変えればというのは可能だが、今のSランクは消えて初めのDランク。初級者から再スタートで、依頼もそのレベルの依頼しかできないわけだ。でも、君たちの話。狙われている相手が間だからおそらくSランクになるのは間違いない」

ギルド長が頷き、タイシが戸惑うミオを見て複雑そうに話す。

「まあ、ギルドとしての俺は無理だが、アストレイの一兵士の護衛としては雇える。ただそうなると雇い主はアルスランさんになる。でも、君に関することだから金については大目に見てくれるからな」

「……ど、うした」

「商品の値段をつけるのは誰だ?」

ミオがドキッとし答える。

「お、お店のひと、です」

「ああ。商品が商品の値段はつけることができない。まあ、個人的な活動をしている。つまり自分を商品として使っているのは別としてだ。俺の場合、アルスレイさんが商品の値段をつける店主になるし、売るか売らないか決めるのもその人次第だ。俺は別にそれでもいい。ただ、売買の取引を行うのは俺じゃない。買主と売主になる君とアルスレイさんだ」

ミオがこくこくと頷き、タイシが話す。

「一般的な知識は教会が教えてはきてくれたか?」

「その、文字の書き方、挨拶。あと買い物とか」 「数字の計算、所作、術の扱いとその知識。魔獣の危険性、食べられる、飲める方法やその採取。そして各国の歴史」

ミオがダンマリとし、タイシが告げる。

「意外と必要になる知識だ。旅となると特にな」

「そうだな。最低限はいる」

「で、できないで」

「いや出来るが、馬鹿にされる。騙される。下手したら殺されるだ。エリスさん達エルフの人たちも幼い頃から教育を受けている」

「はい。ある程度の年になりましたら親と共に外へと出て実際に所作。各国の挨拶などを教わります」

「ええ。まあ、教会で、どれくらいいた?」

「2年です…。その前は、文字は母から。あとはその、教会に来て本を読んだり」

「本か」

「よく本屋に足を運んでいることは聞いた。本屋もギルドが管理しているからな」

「そうなんですか?」

「ああ」

「まあ、大抵の建物はギルドの許可なしじゃやっちゃダメなんだ。もちろんいいがその代わりに商品を売買するための土地を借りる代金が高くなる」

「ああ。まあ、国とギルドの関係性にもよる。国によっては国自体が商売を扱うところもあり、ギルドが管理する建物は少ない。ただ、そうなると日頃の警備。何か問題あればギルドではなく責任のある国が動かないと行けなくなる」

「はい。ちなみにアストレイは半々くらいだ。首都に近いほど国が管理して離れるほどギルドが管理する数が多い」

「そうだ」

ミオがふむふむと頷き、タイシが話す。

「あとそうなると、まあ、俺もアルスランさんに話してみる。金について受け取るなら受け取っていい。必要な軍資金になるし、旅をするには時折り自分で稼がないといけない時もあるからな。それだけあればしばらくはもつ。ただし、盗まれることもある」

タイシが札を出しテーブルに乗せる。すると紋章が書かれた札が光るとその札が丸みを帯び袋を持った小猿が現れ外へと出る。ミオが驚き、エリスが面白く話す。

「召喚獣に持たせている方は初めてみました」

「ええ。でも、そっちが安全でしょ?そして無くさない」

『ききっ』

白い羽の生えた猿がにこにこする。

「こいつらもこいつらの居場所がしっかりあって作られてますからね。だから、問題ないんです。でも

、持たせる召喚獣との信頼関係も大切ですからね」

「はい」

ミオがドキドキとしながら見ていき、タイシが果物を向けると早速猿が手にしうまうまと食べる。

「こう言った器用な真似ができるのもこいつしかいない」

「どうも。あと金について別空間に納める人たちもいるし、銀行に預ける手もあるが、その国だけしかないところもあるから注意だな」

「そうだな。わざわざまた引き返すこともある」

「…」

ミオが軽く首を傾げ、タイシがこの国にもある事を伝えるとミオがこくりと一度頷いた。


ー娘さんと接触。話済み。

タイシがアルスランへと報告書をやり、その報告書をアルスランが読んでいく。そして報告書に対する返事を書くとタイシの召喚獣。小鳥へとかけると小鳥が飛び素早く空を飛び一瞬で姿を消した。

「きたきた」

ギルドの窓から小鳥が入ってくるも止まり切れず棚にばんっとあたりそのまま落ちる。ミオが驚き、エリスがくすりと笑い、タイシがやれやれと震える小鳥の元へといき手紙と共に拾う。

「相変わらず止まるの苦手だな。また行ってもらうから休んでくれ」

タイシが小鳥を用意していたエサと果物水の前に置かれたふんわりとしたわたが入った小さな籠へと入れる。そして椅子に座り中身を見るとその手紙をエリス達に向けエリスが手にしミオと共に見る。

「旅費は出す。知らないことが多いなら教えてやって欲しい。知識は大切で必要なものだ。仕事は俺の代わりを誰かにさせる。もし必要な人員がいる場合すぐにでも送る。教会の件はサイモンを通じたルイスから聞いた。対応中。以上」

「その通りに書いてあるのか?」

「ええ。あの人の手紙って固いんですよ。報告書みたいなもん。ただ、あの人に似合わず字は綺麗なんですよね」

「おいおい。そうしたら他の貴族達の字が汚いって言ってるようなもんだ」

「だって読めない時がありますから実際。あと、言えばギルド長。あんたも」

ギルド長がタイシの首に腕を通し浮かせ締め上げるとタイシが腕を叩く。

「ほ、んと、じゃない、ですかっ」

エリスがふふっと笑い、ミオが目を丸くし驚くもアルスランと書かれたサインを見て息をつきその文字に触れた。


タイシがうんざりとしながら再び手紙を書くためにペンを握る。

「なら、人員について、教会のサイモンさんを呼びます。まず呼ぶ理由として一応教会の連中の中ではよく敵を知っていれば戦える神父さんで意外と頑丈と言うこと。あと、教会だから動きがすぐにわかること。もちろん君のことも知れるけど、知られたくない人がいるから知ったところで一部のみだ。そして今回君を襲った奴らの動きもされる可能性が高い。あいつらは教会の裏で、アサシンと言われている。そのサイモンさんは元はその仲間だった人だ」

「え?」

「なら、お詳しいですね。裏のこともそのほか国の内情や秘密も」

ミオがドキッとしそわつき、タイシが頷く。

「ええ。ただまあ。理由をつけては殺すことも生業にしている。だから俺。あと君から旅してる時。君の護衛である場合と魔獣や獣以外。人やエルフと言った人に近いもの達の殺しはなし。しないでくれと言ってくれ。多分にはなるが納得する」

「はい…」

「ああ。なら、人員はその人で。それから君が持つ魔封じの石だ。お母さんからの大切な形見だがそれがあるだけで君が狙われる危険度が高くなれば俺らも危険になる」

ミオが表情を曇らせ小さく頷きタイシが手を向ける。

「まだ、父親かはわからないがアルスランさんに預かってもらう。もし、その人のところに辿り着けた時に返してもらったらいい。アストレイは魔獣や悪霊といった類のものは一切ない。だから、持っていても分からない」

「…はい」

ミオが首に下げていた石を外しタイシに渡しタイシがそれを鳥の前に置くと鳥が嘴に加え飲み込む。

「あっ」

「大丈夫。ちゃんと向こうに着いたら出してくれる。ならそれも預かるよう書いておく。あと旅費はサイモンさんに持たせて運んでもらう。そして、集合場所はここじゃなくてまず君の身の回りの買い物。旅に必要なものを買い物するために、ワルシャワ大国に行く」

「え?東の国に?」

「ああそのあとまたこのスタート地点に戻ればいい」

「ワルシャワでしたら旅の品を選ぶのに困りませんね」

「ああ。あそこは物が充実しているからな。それに、ドワーフたちも多い」

「はい」

ミオが話を聞いていき、エリスが話す。

「ではそこまでは」

「飛龍を使います。後でアルスランさん宛に請求お願いします」

「ああ」

「え、と、その、えと」

ミオがタジタジとするとタイシが話す。

「ちゃんと旅費は出すって書いてあっただろ?なら、飛龍を借りるのは旅費の一部だ。で、君の細々した生活に関するものは君が管理すること。金に関して自分では厳しいならエリスさんや俺。もしくは国によるが取り扱いの多い銀行に自分名義の預け先を作って預けるかによる。ここだと、どこがあります?」

「一番はやはりギルドだな。ここだ」

「ギルドってその、お金の預かりもされて」

「ああ。もちろんさ。ギルドは金の出入りが多いからな」

ミオが頷いていき、タイシが話す。

「なら、ギルドにするならギルドに預け先を登録だ。あと、ギルドの討伐とかああ行ったのは関係ない。関係ないがそういう届出を出せば引き出したり預けたりする際の手数料はいらない」

「ああその通り」

「手数料…」

「言えば預けたり引き出ししたり、その証拠を記入してしっかり保管しておくからその手間賃を出せというやつ」

「ああ。まあ、少額ではあるからそれでもいいというのはいるな」

「どれくらい…」

「一回で10銅貨」

「パ、ン、3個分……」

「まあそうだな」

ミオがドギマギとし、エリスが話す。

「でしたら、登録しますか?討伐で構いません」

「ああ。一応対象年齢10歳は超えてるからな。あと、討伐といっても魔獣をというわけじゃない。採取もある。薬草。又は薪や材木の採取だ。あとは家や屋敷のネズミ退治とかそう言ったのだ」

「ああ。小遣い稼ぎでチビ達が登録して薬草集めをしたらするからな」

「そうなんですか?」

「ああ。ただし、ギルドに入ってからにはギルドのものとして仕事はしてもらわないといけない。もし、3ヶ月の間一度もギルドの依頼を受けなかった場合は即ギルドから外される。登録抹消で銀行の金の預かり引き出しも手数料を負担してもらう。ちなみにそれはB〜Dランクの奴らのみの契約だ。AとSのこいつはない。特別枠としてみなしている」

「ああ。ただし、二年に一度必ずAより上のランクの任務を果たさないといけないんだ。俺の場合、半年前の討伐でその義務は果たしているから次回一年半の間は言えば好きにしてもいいし別のギルドの任務を受けてもいい。後、Bランクを5回受けることもその義務を果たしたことになる」

「そうだ」

「はい。あと、薬草採取とかなら…出来そうです」

ミオが考えながら告げ、タイシが頷く。

「ああ。なら、登録するか?」

「はい」

「ああ。ちなみにエリスさんは?」

「私は登録していません。せっかくなのでこれを機に登録してみます」

「はい」

「なら、まずその登録の書類と預かりの書類だな。それから飛龍の貸し出し書類を用意する」

「お願いします」

「ああ」

ギルド長が立ち上がり部屋を出る。

「その、ほんとうにお金…」

「いいっていいって。あと、もし実の娘じゃありませんでしたでも問題ない。あの人たんまり持ってるから。でもそれでも気になるなら、後で返す気持ちがあるならその採取とかでいい。こつこつお金集めをすればいいんだ。貯金だ」

「物を貯めることと同じ意味ですか?」

「そうだ。金を貯める。そっちは副将軍からの慰謝料だから好きに使っていい。慰謝料はわかるか?」

「えと……」

ミオが頭を振りタイシがこう言った意味だと説明した。


診療所でアネットが表情を曇らせベッドに座り窓から外の景色を眺めていた。するとその空に飛龍が2頭東へと向け飛んでいくのが見えた。

ーねえ。リリー。飛龍に乗ったことある?

ーあー、ないわね。あれAランクからだから。それに金も結構かかるし。

ーなら、Aランクになったら教えて。それで一緒にのせて。前から乗ってみたいと思ってたの。

ーえー。んー、まあ、なれたらね。

ーええ。

「リリー…」

アネットがすっと目から涙を流すと項垂れ静かに泣いた。


ユナが目輝かせ、ミオが驚き恐々する。2人は飛龍に乗っており、ユナをタイシが、ミオをエリスが共に乗り東へと向かい空を勢いよく飛んだ。


ー葵のだ。

アルスランがタイシの霊獣から出された石を受け取ると隠し金庫の中へと入れる。

「失礼致します」

「ああ」

ダリス。そしてサイモンがアルスランの執務室へと入りアルスランもまた隠し金庫のある場所から離れ2人が立つ席へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ