カルドア3
翌日ー。
ふんわりとした毛皮にひたいに宝石を埋めた猫が気持ちよく籠のベッドの中で寝ていた。だが頭を上げくわっと口を開けるとうんとのびをする。そして前足を舐めながら横を向くと窓のカーテンを開ける黒髪の少女を振り向く。少女が猫を振り向きふっと笑むと猫に近づき抱き上げる。
「おはよう白百合。今日はいいお天気のようよ」
白百合が気持ちよく擦り寄り、少女が微笑む。
「今日はお客様が来られるからお出迎えの準備をしましょう」
白百合がにゃあと声を上げ少女が猫をおろしタンスを開けネグリジェを脱ぎ着替えた。
朝の街の雪原をタイシの案内のもと一行が歩いておりミオが欠伸をし、サイモンが話す。
「昨夜は遅くまでお話しされていたのですか?」
「はい」
「あはは。でも兄さんは不機嫌だったけど」
ヒカルが告げ、ハリーが話す。
「だからかー」
「えと…」
「気にしない気にしない。あんな兄さん見るの滅多にないし。今まで誰かに嫉妬したところとか見たことないし」
「確かに。それだけノーラさんのことが大切なんだ」
ヒカルがそうそうと頷き、タイシが小さいながら品のある家の前に来ると門を開け中へと入る。ミオが雪が積もっているがどこか品のある美しさを纏うように木々や凍った池が綺麗に整えられた小さな庭を見渡す。
「他の家の庭と違う」
「今から会う家主が作った庭だ」
タイシが扉をノックすると扉が開き黒髪の三つ編みを後ろに束ねた少女が姿を見せる。
「鈴子。急に悪い」
「いいえ。後皆様ようこそ」
鈴子が頭を下げ扉を最後まで開け中を示す。
「お寒いので中にお入りください」
「ああ」
タイシが中へと入るとサイモンが頭を下げ入りミオ達と続々中へと入った。そして暖炉で温められた部屋の中央に白百合が座っておりサイモンが驚く。
「聖獣ではありませんか」
「ええ。イーロンで監禁されてた理由の一つです」
「白百合と言います」
白百合がにあと声を上げる。
「はあ」
エリスが膝をつき両手を交え抱くような構えをするとすっと頭を下げる。すると白百合がエリスの元へと向かいにあと声を上げる。ミオが不思議そうに見ていく。
「白百合は森の聖獣でエルフであるエリスさん達にとっては神様になる」
「はい」
『ふふ』
ミオが驚き白百合がおかしく話す。
『あなたもまだ幼いわね。信じますと話した医者を眠らせて』
「…」
「お話し、した」
『ふふ』
エリスが気まずくし、白百合がミオを見る。
『当たり前よ。どれだけ長く生きていると思うの?貴方達人やエルフ以上よ』
ミオが頷きタイシが話す。
「聖獣は精霊達の王でもあるからな。そして滅多なことがない限り姿を見せない」
『ええ。その通りよ。私もだけど他もよ』
エリスが立ち上がり白百合が話す。
『ま、次は気をつけることね』
「はい…」
『ええ』
白百合が離れ鈴子の足元に座る。
「白百合が申し訳ありません」
「いえ。こちらが悪いのですから…その通りです」
エリスがしゅんとしサイモンが苦笑した。
そしてお菓子やお茶が用意されたテーブルへと座るとミオが雪の結晶や花の形で作られた造形菓子を見ていく。
『鈴子のお菓子。綺麗でしょ?』
ミオが白百合を見て頷き白百合がにこっとしながら話す。
『味もいいわよ』
「はい」
『ええ』
ハリーが緊張しながら話す。
「えと、これ全部作ったものですか?」
「はい」
『そうよ。あと、教えてもらったのはイーロンの仲良くなった料理人』
「え?」
『鈴子は監禁されても少し自由はあったから』
「ああ。あと、保護についてか。人目につかないようにステラさんが保護をした。まあ特に、アストレイの元王とその親族の方達だな。サラ姫以外」
ハリーがあーと声を出し、サイモンが話す。
「危害は加えないとは言い切れませんもんね」
「はい」
『アストレイの元王は愚か者だったものね。そして、私と鈴子はオーガンの手を借りてサラ姫のところに送られたのよ』
「じいちゃん内緒にしてたなんて酷い」
「極秘だからな」
ヒカルがじいと鈴子を見ていき、タイシが話す。
「鈴子は俺と同じ歳で成人している。ここに来たのはちょうどイーロンとの戦が始まる一月前だ」
「はい。初めは何が起きたのかわからなかったのです。白百合がそうお話をしてこれが戦争だと…」
『ええ。それも、突然起きた戦争。ま、いずれ起きるとはわかってもいたわ。イーロンはこの世界の秩序から大きく外れ、全く違う一つの小さな世界を作ってしまったから。そしてまだその傷跡は残っているわ。それも長く続く』
タイシが頷き、ミオが僅かに口をつぐませる。
『そして森も傷ついてしまい森の精霊たちの数もぐんと減ったわ。元に戻れそうにないほど』
「それはイーロン周辺以外でもですか?」
サイモンが尋ね、白百合が話す。
『ええ。そうよ。だから、エルフ族といった森を守る種族の数も減るの。エルフ族は森の精霊からの加護を受けて誕生するの。だから、エルフ族にとって精霊はなくてはならない存在なのよ』
エリスがその通りとハイと返事を返す。
『まあ人に嫉妬したおバカな子もいたけど。やれやれねもう』
白百合が頭を振る。
『ま、それより鈴子のお菓子とお茶。食べて飲んでちょうだい』
「はい」
ミオがフォークを手にしもったいないと思いながら雪の結晶の形のお菓子をつき口に入れると口の中でホロリと溶けていく。
ー甘い。
「美味しいですね。砂糖のお菓子ですか?」
「はい。砂糖と卵白を泡立てたものを混ぜて焼いたお菓子です」
『もう一つは芋にバターと砂糖を混ぜて作った練り菓子というものよ。鈴子の故郷では豆を使ってるらしいけどこっちにはないそうなの』
「小豆や白インゲンという豆なんです。この世界には存在しない豆野菜です」
「はい」
ーこっちも美味しい。
ミオが無言で食べ、白百合がじいと見ていく。ヒカルがそれに気づき話す。
「えーと、なんか聞いた話しだけど。ミオと話したいとか」
ミオがヒカルを振り向き、白百合が話す。
『時間はかからないから後でもいいわよ』
「ああ」
「ミオさん」
「はい」
ミオが鈴子を振り向き鈴子が白百合を示す。
「白百合が貴方とお話をされたいそうです」
『ええ。鈴子じゃなくて話したいのは私。私がタイシにお願いしたのよ。あと、お菓子とお茶をゆっくり味わって食べてからでいいわよ。お話ししている間は鈴子がお相手するから』
鈴子がはいと返事を返しミオが頷きならと再びメレンゲ菓子を食べお茶を飲みホッコリとした。
その後ー、別室へと案内されると白百合が椅子に飛び乗り座る。
『そこに座って』
「はい」
ミオが座り白百合が告げる。
『さて。改めて自己紹介をしましょう。私はあなたのような人種やエルフ族他。あなたに近い形の種族に聖獣と言われているものよ。名前はないわ』
「え?」
『白百合という名前は鈴子がつけてくれた名前。私達は本来こうやって姿を見せない者。言えば自然の造形物であり、自然界の申し子とも言われるわ』
「申し子なのですか?」
『ええ。そうよ。私は自然の一つ。こうやって形をなしているのは鈴子の働きかけによるものであり、鈴子の力。そして私が鈴子のそばに居たかったから鈴子の元に来たのよ。居たかった理由について感覚みたいなものね。この人のそばに居たいとかそういったもの。まあその人柄に力に惚れたというところね』
ミオがこくこくと頷き、白百合が話す。
『ええ。で、イーロンで鈴子が呼ばれた時に私も一緒に姿を現したからみーんながみんな驚いたわけよ』
「あの、その、聖獣だからですか?どうやってわかるんですか?みなさんわかったんですか?」
『ええ。まず、精霊や精霊王と違い力が桁違いだからが一つ。あそこには聖職者たちもいたから力の強さがわかる人も多かったわ。そして、ここ』
白百合が額の宝石を指差す。
『私とかはへえそうなんだあと思うことだけど聖獣たちの額には魔素の結晶が額にあるそうなのよ。私たちは自覚ないけれど他の聖獣たちみんなそうらしいわ。魔獣たちの中にも額に結晶がある連中がいるにはいるけどただ生まれ持った飾りのようなものだし私たちと違って輝きもないそうだからすぐにわかるんだそうよ』
「輝きが」
『ええ』
ミオがほうほうと頷き、白百合が話す。
『なら次はあなたの自己紹介よ』
「あ、はい。ミオと言います。今はないイーロンの村に居ました。母は、その、亡くなりましたが元は異界人で聖女と言われていたそうです。父はアストレイのアルスランで将軍をしております。その、今どうなったかはわかりませんが…」
『とある王様の処分があって国の再建中だものね』
「はい」
『ええ。そのお父さんとお会いしたことはあるの?』
「まだないです。会うのは私が今この世界のことを学ぶ旅をしてて。その旅の最後の目的地としてアストレイを選んでます。その時に会う予定です」
『旅。良いわねー』
白百合が尻尾をフリフリと楽しく振る。
『あと、いいんじゃない?いろんなことを学びながら旅をして最後にお父さんに会うのも。その時に上手くお話しできたら旅の話をするのも良いと思うわ。お父さんも喜ぶと思うわよ』
「そうですか?」
『ええ。誰でも旅の話は好きだもの。あとは、あなたが旅をしていろんな国を巡っていろんな人たちと出会い知るのも良い経験になるし次に繋がるわ。でも、もちろん注意も必要よ。あなたを狙う人たちも多いようだから』
「その…」
ミオが手を握り表情を曇らせ視線を白百合から逸らす。
「あの、元ギルドの女性で…。今は教会の暗殺者になってしまった方が私を恨んでて…。私のせいで、その、違反者になってしまったからとか、その」
『モヤモヤするでしょう?上手く言葉に出せない』
ミオが白百合を振り向き白百合が告げる。
『葛藤ね』
「かっとう?」
『もつれるという事よ。どちらも選べない。選ぶために争い続けている。いわば悩み』
ミオが頷き白百合が話す。
『彼女は自分の過ちにもちろん気づいている。けれど、その原因となったあなたを恨んでもいる。でも、周りからすれば彼女の方が一方的に悪いわ。そうなると彼女は益々あなたを恨んでしまうという流れになっているところね』
「流れ…」
『ええ。絶えずぐるぐると渦を巻くように強まっているわ。リリー。彼女は優しい。でも弱い。そして周りが変えてしまった部分もある。ならどうすれば良いか。己と向き合うかあなたが諭すか。とにかく自分か、自分ではない誰かと心と心で話し合うしか方法がないの』
「リリーさんとですか…」
『そうよ。でも、話し合うまでがまた難しいし、彼女も自身と話すのを拒絶しているからまた難しい。なら、周りがどうにか彼女を本来あるべき正しい道に戻すしかないの。正しいというのは人助けといった良いことをする事』
ミオがゆっくりと頷き白百合がふっと笑う。
『多分またあなたを狙ってくると思うわ。その時は上手くあなたは逃げなさい。何もしない。逆にすれば相手の逆鱗に触れる可能性が高い。そして、状況によっては彼女を上手く利用しなさい』
「え?」
『ナガハラは上手く利用したわよ。上手く利用して彼女の力を使って人を1人助けさせた』
「その、初めて知りました」
『ふふ。なら、覚えておきなさい。彼女はタイシの部下の1人を助けたの。タイシにとっては貸しが1つあるのと同じよ。そして、あなたも見たことあるでしょう?魔人の腕。今、彼女の腕の代わりになっているモノ』
「はい…」
『ええ。魔人の腕は凶悪だけれど上手く利用すればその力を浄化にも変えることができる優れものなの』
「え?えと、そのまえに、魔人というのがまだいまいち」
『あら?そうなのね』
「はい」
『ええ。なら、魔人について教えてあげるわ。魔人は魔素を大量に含んで生まれた人の赤子が始まりなの。昔は儀式の一つとして、母親の母体を使ってお腹の中の子供を含め母親に魔素という人体に悪影響を与える物質の中で生活させた。そうすることにより赤子は母親の腹を食い破り魔人として誕生するの』
「食べて…」
『そうよ。勿論母親は死ぬわ。そして、魔人は一定の大きさに育った後戦争の道具として使われたの。これは千年前の話よ。千年前は今よりも争いがひどく絶えなかった。そして、百年過ぎた後にようやく争いに疲れた国々がお互いに和平条約を結び世界統一のための法律を作り今度は争いで傷ついたお互いの国を再建するために励んだのよ。その時に負の遺産として魔人たちが残ってしまったわ。その負の遺産を人はどうしたかというと力を封じ体を分解して封じた』
ミオが汗を滲ませ白百合が話す。
『魔人たちは最後の最後まで人の都合で使われることになったの。そして、その魔人の部位はあなたも知っての通り、人体の一部が欠損したものたちに使われるようになったわ。そして、その一部を取り込んだ人が魔人の力を私欲で使うことによってその力に飲み込まれ擬似魔人とかしてしまうの。本当の魔人ではなくて偽物の魔人よ。本当の魔人ならほぼ不死の体になるもの。けれど、魔人の体の一部に飲み込まれ魔人となった人は人と同じように、弱点をやられれば死ぬわ。その時にようやく魔人のその一部は共に死ぬのよ。原理は良くはわからないけどおそらく道連れ死のようなものじゃないかと私は思うわ』
「その、魔人の部位のみを消し去ったりとかと言いますか…」
『うーん。できるとは思うけどむずかしいとおもうわ。魔人の部位は人間たちが封じてそれぞれ所持しているもの。となると、探すしかないから』
「そうなんですね」
『ええ。で、私が気になるのが魔人とかしている者が1人いるのよ。ナガハラはしってるらしいけど教えてくれないのよね』
「ナガハラ先生とお話しされたことがあるんですか?」
『もちろんよ。生意気な世話好き医者でしょ?しってるわ。そして隠し事もまーだあるということもね』
「白百合さんでもわからないことですか?」
『ええ。私も全部見通せるわけじゃないもの。全部見通せたらもう大変。今話すところでもないわよ』
「そうなんですか?」
『ええ』
「はい」
『ふふ。さて、と。ならここからあなたを呼んだ理由。あなたと話をしたいことについて話すわ』
「え?」
『今のはあなたが悩んでることについて色々踏まえて話しただけだもの。そして今から話すことについて。しっかり聞いてちょうだいね』
ミオがうなずき白百合がええと楽しく返事を返した。
「誰か相手いる?」
ハリーがじっと鈴子を見ると鈴子が話す。
「いませんよ」
「本当?」
ヒカルがハリーの後頭部を指で弾くとハリーがムッとしながら振り向く。
「なに?」
「別に」
「まだ求婚多いんじゃないか?」
「ええ…。サラ姫が間に入ってくれてますので助かってます」
タイシが頷き、鈴子が話す。
「タイシさんにはお話しできませんでしたが実はアストレイの元王子達に見つかってしまったの」
「それで?」
「私を保護した事を盾に無理やり連れていこうとされたけど、サラ姫達や白百合が助けてくれたわ」
「ああ」
「ご自分達がなさったわけではないのに」
サイモンが突っ込み、タイシが頷く。
「今は、罪に問われ罪人となっていると聞きました」
「ええ。元第一王子は殺人。元第二王子と王妃は傷害などです。おそらく元第一王子は処刑されるかと思われます。わかっている時点でメイドや国民を含め10人を強姦し殺めたようですから」
「まだわかってないのもいるんでしょ ?」
ヒカルが話しサイモンが頷く。
「はい。今わかっている時点ではなので」
「ええ」
「あの鐘についてサラ姫のところにも現れましたがサラ姫の場合、裁かれるというよりも王達の様子を見せたようです」
「元王子達のところもそうだ。鈴子は?」
「私は家にいたから見ていないけど、白百合が見てサラ姫にどういったものか説明をしたそうよ」
タイシが頷き、ヒカルが話す。
「その後の干渉は?」
「その方々についてはありません。ただ、サラ姫からはそれでも用心するようにと言われております」
「まあしつこそうだからね」
「親は子に似るというしな」
「そうそう」
『おまたせ』
白百合がミオとともに部屋から出る。
「お話は済んだの?」
『ええ。済んだわ』
ミオがしどろもどろとし白百合がタイシを見る。
『タイシ。今度はあなたとお話ししたいのだけど良い?』
「ああ」
タイシがその場を離れ白百合と共に先ほどミオと話した部屋へと入る。ミオが閉められた扉を見て小さく息をつく。
「ミオさん」
「は、はい」
ミオが鈴子を振り向き鈴子がよかったらまだお菓子とかありますからと示すとミオが頭を下げ空いた席に座り鈴子に勧められたお菓子を口に頬張った。
ーつまり。
「故郷へと戻れる道があるということか」
『ええ。ただし、リスクはあるし本当に戻れるかはわからないわ』
白百合とタイシが向かい合い話しており白百合が話す。
『そしてもし戻るならその時鈴子も連れて行ってほしいの。彼女の居場所はここではないしこのままだと彼女を巡っての戦が起こるかもしれない。あと、彼女には家族がいるわ。ただしそれは実の親ではなく、実の親の祖父母よ』
「厳しいと聞いた」
『厳しいどころか父親の方は性的虐待をしているそうよ。母親の再婚相手がね』
「ここに連れてこられる向こうの世界の子どもらのほとんどは親族が通常でない奴らばかりというわけか」
『そのようね。孤児、虐待、戦争。とにかく、問題のある子どもらか、その子ども時代を過ごしたもの達が来ているようね。どうにも、選んでいる相手がいる感じ』
「覗かれているようなものか。この世界に」
『そうね。ええ』
タイシが頷き白百合が話す。
『入口を見つけるにはミオの目が必要なのよ。親から受け継がれた予知の目。私が探し続けてわかったこと。事前にその場所へと行き開かれた世界の狭間を飛び込むこと』
「その飛び込む行為が危険なんだな」
『ええ。何が起こるかわからない渦だもの。そして、私が力を使ってその力を一瞬でも制御するわ。通りやすいように。その一瞬のうちに鈴子を向こうに帰して欲しいの。あの子がいなくなるのは寂しいけれど、あの子を心配する人たちもいるわ。沢山』
「そうだな」
『ええ。そして、あなたは?』
「祖父が気掛かりではあるが、帰りたいとは思ったことがない。俺の居場所はもうこの世界だ。出来るなら一緒にその道を通りやすくする」
白百合がゆっくりと頷く。
『わかったわ。そうなると』
「準備とお別れの挨拶が必要ですね」
タイシが呆れ、クローゼットからナナオが飛び出る。
「ちなみに私も帰る気ありませんので」
タイシがナナオの頭を掴み指圧をかけるとナナオがタイシの手を掴みもがき痛い痛いと声を上げる。
『ナナオも手伝うそうだから。で、ナナオの言う通り準備してから行きましょう。そして、この事については誰にも秘密』
「人は帰りたいと言う人がいる」
『知ってるわ。帰りたい人は集めて。ただし、リスクは承知の上でよ』
タイシが頷きナナオを離しナナオが頭を抱えしゃがみこみうーと唸った。
ー世間がどう思うかな?ただ、鈴子が言わなければ何も。
鈴子がはっと目を覚まし息を荒げ汗を流す。白百合が鈴子の顔に頭を寄せ今度は汗を舐めると再び顔を上げる。
『鈴子』
「ごめんなさい…」
鈴子が額に手を乗せはあと息をゆっくり吐き出す。
『鈴子。あなたも戦わないとダメ。負けてはダメよ』
「え…」
『あなたには悪いけど、あなたをまた元の世界に帰すための準備をしているわ。その準備をタイシ達が協力してくれる』
鈴子が目を見開き体を起こし白百合が鈴子の膝に座り鈴子を見上げる。
『あなたの居場所はここじゃない。向こうよ。あなたがここに居ればあなたを狙いに来る連中が後を立たない。もしかしたらあなたを巡り戦争が起きるかもしれない』
「どうして?私1人で…」
『私もいれば、あなたの人柄に魅了された人たちがいるからよ。良い人なら良い。だけど、あなたをまた閉じ込めようとする悪い人もいる。私はあなたを元の世界に帰らせたい』
鈴子が表情を曇らせ、白百合が話す。
『戦って鈴子。逃げてはダメ。貴方は強い。そして周りに貴方を慕う人たちがいる。鈴子』
鈴子が涙を流す。
『鈴子』
「私は、とても弱いの…。怖いの…。たとえ向こうに戻ったところで何があるかわからないわ。わからないの」
白百合が頷き、鈴子が涙を拭う。
『世の中何が起こるかわからないことばかりよ。どうなるかは行動次第というけどその行動で自分が思った答えに常に辿り着くわけじゃない。でも、行動することは大事』
白百合が前足を手を膝に置いた鈴子の手に重ねる。
『例え私が目の前にいなくてもちゃんとそばにいるわ。私は貴方なのだから』
白百合が微笑み鈴子が涙を落としていき白百合を抱きしめた。
サイモンが驚きエリスがふむと考える。そしてミオがもじもじとしマルクールがタイシへと話す。
「つまり、向こうと世界を繋いで送るってことですよね?」
「ああ」
「聖獣だからできなくはないかと思いますが…。今まで聞いたことがないので」
「俺もですよ」
「私は、どうすれば良いかわからなくて」
「そりゃお嬢さんそうだろ」
「はい。ミオ。無理なら断れると思うわ」
「……」
『断られるのは困るわね』
すっと白百合が姿を見せるとエリスが息をつき、タイシが話す。
「白百合。ミオはその予知の使い方を知らない」
『分かっているわ。そして、それを狙った連中もいることも知っているわ』
「教会のですか…」
『他もよ。葵が死んだ今、貴方が受け継いでいるのだから。力は親から子へと必ず受け継がれるの。止めるには血を薄めていくしかないの。そして、予知の初代は葵。貴方はその葵の直系且つ、1人しかいない唯一の子供。欲しがる人間は大いにいるわ』
「…でも、そんなこと言われても…」
『周りの勝手に巻き込まれるのは迷惑でしょうけど事実でもあるわ。あーと。話を変えればそうね』
白百合がタイシを振り向く。
『タイシもそうだもの。ま、タイシの場合ギフトを五つ所持しているもの』
「え?」
「え?まじで?」
「…よく分からん」
タイシが顔を僅かにしかめ白百合がふふっと笑う。
『その通りよ。貴方の場合それだけの力を持っているから何としてでも手に入れたい。婿にしてでもという連中が後を立たないわけ。そして、五つのギフト持ちを知っているのは今聞いたここと、教会の他数名。貴方自身は知らないかもしれないけど調べる方法があるのよ。ギフト持ちなのかってね』
サイモンがムッと考え、マルクールもまた考える。
『血を調べるのよ。採取した血液から分かる禁術があるの』
「禁術?」
『ええ。つまり生き物を使って調べる方法。その生き物を使って作り上げた紛い物を調べるの』
「偽のタイシさんを作るわけですか」
『ええ。何故禁術なのかは想像している通り。タイシに似せて使わせた時にその血でありギフトに耐えられるか。ほぼ否。例え生きていたとしてもまともな体で生きられないわ。言えば人体錬成の類なのよ』
タイシが驚き、サイモンが話す。
「教会でそれを」
『他もよ。だから数名知っているの。そして、五つのギフト持ちとは言ったけど、調べて分かる範囲でしかわからないわ』
「ええ」
「ギフトについてか、俺自身は特に自覚はないが何となくは分かる」
『それでいいわよ。わからないならわからないで。ただ、数はそれだけあるということ。狙う連中がいる事。まあでも、貴方の後ろ盾であり、貴方の養父になったアルスランがいるから守られているとも言えるわ。それはミオも同じよ』
「その、父が?」
『ええ。彼はどうあれ名の知れた英雄でもあり、力の強い権力者でもあるもの。例え王でも屈するほどの力を持っているのよ。ただその力を表向き使わないのは彼自身が押さえ込んでいるからに過ぎないわ。でも私はそれで良いと思ってるし彼は彼で王のような存在なのだから。そして、王になるより支えになった方がよほど良いわ。力が強ければ周りが当てられて強く言いすぎるもの。とどのつまり、弱いのにでしゃばっていくという事。バカだったらそのまま国に喧嘩を売っていくのもいるわ』
「それアストレイ元王じゃねえっすか?」
『あれは王という権力を振り翳したのよ』
「そうですね。アルスラン将軍はどちらかと言えば抑えていた方ですし」
『そう。あれはアルスランを殺すためにあちこち宣戦布告していたのよ。裏で。でも、アルスランが密かに止めていたから問題なかったの。ただし、イーロンは別。アルスランにとってイーロンは危険であると分かっていたから。それは環境的なこともあるけど人。そしてこの世界に大きな影響を与えてしまうから。だから、まだ未発展のうちに国をなくした。滅ぼしたというわけ』
「国民の人たちは……」
ミオが小さく声に出し白百合が話す。
『正当化は出来ない。ただミオ。国民でも放置もできない状態でもあったと私は思う。そうなったのも国を作っなものたちのせいよ』
ミオが口をつぐみマルクールが話す。
「便利すぎる中で生活してきたのと薬物依存ですからね」
「イーロンの国民たちは他国でも迷惑をかけておりましたし、喧嘩をふっかけてはよく争いの種になっておりましたから。そして、禁止区域に無断侵入。おまけに教会の品を壊すわ。落書きするわ。何処ぞに放尿を」
「サイモン。恨み言は置いとけよ」
サイモンがぶつぶつと言い始め、マルクールが即座に突っ込み、ミオが無言となる。
『ミオ。あの時話した通り』
ミオが白百合を振り向き白百合が話す。
『一か八かになるわ。でもお願いしたい』
ミオが少し考え白百合へと話す。
「鈴子さんは戻りたいと話されてましたか?」
『ええ』
「一度、鈴子さんとお話しても良いですか?」
『いいわよ。鈴子に話しておくわ』
ミオがはいと返事を返す。
「白百合がごめんなさい」
鈴子が申し訳なくし、ミオが話す。
「いえ。その。鈴子さんは、あちらに帰りたいですか?」
「少し迷ってもいます。理由として私は家族からいい扱いを受けておりません」
「え?」
「母が再婚してからになります。それから母も変わりました。私が養父から虐待を受けていると訴えても無視されるか怒られるのです」
ミオが驚き、鈴子が話す。
「ただ、こちらでも私がいれば危険なことが起こり得るかもしれません。ですが、私はあそこには戻りたくもないのです」
しんと静まり返るとミオが話す。
「私には…もう戻れる家も故郷もありません。父はいますがまだ話したこともありません。ただ、私が私で生きていれるのは周りのみなさんのおかげです。鈴子さんは、あちらでは死にたいと思いましたか?」
鈴子が鼓動を跳ねわずかに迷いを見せる。
「私は、周りがいたおかげで孤独ではありませんでした。死にたいとも思いませんでした。鈴子さんは?」
「……」
「あちらではどうだったんですか?」
鈴子が手を強く握りその目を閉じる。
「祖父母が…。私の、私を大切にしてくれた方が、いて」
ーお祖父様。お祖母様。
鈴子が涙を滲ませ、ミオが話す。
「私の故郷はここです。そして、大切にしてくれる人もここにいます。鈴子さんは向こうに。帰るお手伝いします。だから、帰れたらお会いしてください」
鈴子が涙を落とし両手で顔を覆い肩を震わせ頷き、ミオが鈴子に手を向け抱きしめた。
ーいいぞ。
サラが子を抱きながら鈴子やミオたちを前に話す。
「こちらは鈴子を故郷に送るために協力しよう」
鈴子が頭を下げ、白百合が話す。
『ありがとう。早速だけど、護衛を頼みたいわ。鈴子を狙って悪さする奴らの護衛よ』
「分かった。しかし、本当に帰れるのか?」
『そこはやってみない限りはわからない。けれど、必ず道はあるのは間違いない』
「ああ」
青年が中へと入ると子供が手を向ける。
「パー」
「ああ。いい子にしてたか?」
青年が子を抱き上げ、サラが話す。
「鈴子があちらの世界。故郷の世界に戻る為に協力してほしいとのことでしたのでこちらは良いと」
「ああ。少し聞こえてきた。子供達も世話になった。寂しくはなるがやはり故郷に戻るのが一番いい。鈴子はたまに外を見てはぼうとしていたからな。故郷を想ってのことだとは何となく分かっていた」
「その、はい」
「ああ」
青年が微笑む。
「こちらも協力する。なので、故郷に。後はもう思い出となってしまうがここに鈴子がいたということは忘れない」
鈴子が涙ぐみ頭を下げる。
ーいい王様だなあ。
ー本当、若いのに。
ーここにいた。忘れないか。
ミオが軽く胸を熱くさせる。
「陛下は、とても良いお言葉ばかりです」
「えと、そうか?」
「だからそこにいるいつまでたってもおてんば娘が惚れ込むんだ」
ナガハラが通されやってくるとすぐさまサラが文句を言う。
「わ、私は違いますっ」
「声がでかい」
ナガハラがサラの顔に書類の束を軽く当てるとサラがむうとしながら手にし中を見る。
「ナガハラ医師。患者もだが医師に指導もしてくれて感謝する」
「少しの間だけですけどね。あと、雪国生まれではありますね。アストレイと比べると頑丈です体が。ただ、やはり寒さに堪えるための酒の量と甘味料が多すぎるようなのでそこが注意ですね」
「そうか。なら、よければ教えてほしい。どのようにすれば身体を温められるか」
「陛下。元ギルド長たちの証言です」
サラがすぐに子供を受け取り書類を渡し、青年が早速読んでいく。
「息子がしこたま殴って抑えたんで出てくるところは出てきたな」
「ナガハラ殿。一応言いますが罪人とは言え扱いは多少丁重に」
「あれだけ頑丈だ問題ない」
「内部の掃除もまた必要だな」
サラが頷き青年が話す。
「感謝する。後はこちらが行う」
「ええ。サラ。押しかけて脅すなよ」
「致しませんから」
サラがむすっとし、ナガハラがどうだかなと告げるとサラがしませんと語尾を強めて答えた。
「あの髭の体どうなってんだかなあ」
ヒカルが気分が晴れた元奴隷として働かされていたドワーフの1人に拳に包帯を巻かれており、ガイが話す。
「奴はお前みたいな人と俺らドワーフのハーフなのさ。ドワーフは皮膚や骨が頑丈だからな」
「しかし多少はスッキリしたわ」
「ああ」
「どうも」
「ていうか、君も容赦なく行ったよね?」
ハリーが呆れ、ヒカルがにこっとする。
「父さんいるからどんとか言って奴?」
「…その人もまだやれ言ってたしね」
「あはは」
「はあ」
「まあ良いじゃねえか」
「良いのかこれで…」
「良いよ良いよ。後本当すまない」
ハリーが驚き、ヒカルが目を丸くしユナを肩車させながは禿頭を叩かれる砂漠のギルド長を見る。
「おお。ましなギルド長がきたぞ」
「そう言ってくれると少し救いだよ。本当、恥ずかしい限りだ」
ハゲのギルド長がやれやれとする。
「彼らはギルドの者たちだからね。こちらで始末はつけるし治療費を含めた慰謝料も払うよ」
「おうよ。そうしてくれ」
「ああ」
「ところでその嬢ちゃんは?」
「ミオの妹」
「ユナだよー」
「降りるぞ」
タイシが後ろからユナを持ち上げ下ろす。
「別に良いのに」
「癖ついたらどうするんですか。あと、こちら追加の書類とまた関わった連中を捕まえましたから」
「はあ。この分だとまだいそうだし長引きそうだなあもお。嫌になるよ…」
ハゲのギルド長が書類を確認していく。
「あ、そうそう。ティーチ君」
「はい」
「ここにくる前にアストレイにいてね。その時にに渡してって言われたんだ」
ハゲのギルド長がポケットから虎目石の念珠を出すとタイシがああと声を出し受け取り早速ガイ達が集まり見る。
「見たことねえ石だ」
「ああ」
「じゃーまーっ」
ユナが押し出され声を上げるとハリーがはいはいとむくれるユナを抱き上げる。
「王様の部屋にあったってさ。あげたの?」
「…あげてませんから。あと、んー、まあ、元王子かなあとは思ってたものだったので」
「なんだ。盗られてたのか」
「ええ。イーロンで怪我して運ばれた後にわからなくなったんです。多分、部下が盗んでしょう」
「コソ泥だなあ」
「もう終わったことです。あと、これは向こうの世界にしかないってことですね。虎目石と言う水晶石です」
タイシがガイへと渡すとガイ達が早速集まり見る。
「祖父からもらったんですよ。勝負運や仕事運。厄除けなどがあるから持っておけと」
「ほお」
「この石からは感じねえから言えば願いみたいなもんか?願掛け」
「はい」
ガイ達が頷きどんなふうにしたらこんな模様に。どうやって加工したのかと話考える。
「将軍がさ。ティーチ君のだからってことで。後はなかったそうだよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「どうも。それからミオちゃんにもだね。お母さんの私物が元王妃の部屋にあったってさ」
「は?」
「聞いた話じゃアストレイにいる時。国内に滞在していた時に事故にあったらしくてさ。その時に無くした彼女が故郷からつけていた指輪だって」
「指輪を?事故で?」
「将軍はそう言ったよ。ティーチ君達にはそう伝えてと言われてるから」
「まあ、なんとなく察しました。渡します」
ハゲのギルド長が頷き桃色の花弁の形をした宝石が埋め込まれたシルバーの指輪が入った箱を出すと中を見せてからタイシに渡した。
ミオが箱を開け指輪を手にしみていく。サイモン達もみていき、エリスが話す。
「みたことのないお花の花弁ですね」
「桜という俺の故郷にある花です。暖かい季節になると桃色の花が沢山咲く木です。その時期になると山もところどころその桜が咲いて桃色に変わるんです」
「ほお」
「それはみてみたいですね」
「そいや、若さんの知人と言いますか」
「そう。サクラって名前だ。春という季節に生まれたそうだからその名がつけられた。春の花だからな」
「へえ」
ーサクラ。
「母が話してました。暖かい季節になれば桜が綺麗に咲いて小さな桃色の花びらが沢山風に舞って綺麗だったとか」
「そうなのですね」
「こっちで花びらが舞う木とか聞いたことないなあ」
「この世界にはそういった木々はないな。あったところで白い花か、木の葉か、木の魔獣の幻覚作用のある花だな」
「あー」
「いますねー」
「血のような赤い花でしたね」
タイシが頷き、ユナがミオの手を握りじいと指輪を見ていく。
「ユナ。それはミオのですからね」
「うん」
部屋の扉のノックが響くとサイモンが扉を開けノックした鈴子を見て中へと通す。鈴子が頭を下げ指輪を見る。
「桜の花びらですね」
「あ、はい」
「こちらで作られたものですか?」
ミオが頭を振り、タイシが話す。
「違う。アストレイの元王達に盗まれてた母親のものだ。さっき話してたギルド長が持ってきてくれたんだ。ミオ。少し貸してくれ」
「はい」
ミオがタイシに渡しタイシが鈴鹿へと向ける。
「俺にはメーカーとかわからないから。彫られているんだけどどこかわかるか?」
「はい」
「メーカー?」
「作成した商業場所のことだ。向こうではメーカーと呼ぶ」
鈴子が指輪の裏を見て名前を見る。
「アスマロイヤルですね。日本人の方が社長を務める日本の宝石店で明治初期開業の老舗になります。祖母が好きでしたのでこの紋章はよく見たことありますし皇居にも御用達で下ろされています」
「コウキョ?」
「俺たちの故郷の王様が住む領地だ」
「はい。様々な生き物が住んでいますし四季と言う日本の季節。暖かい春。暑い夏。涼しい秋。寒い冬。その四季によって植物が桃色や深い緑、黄色や赤模様にここのような白い雪化粧に変わるんです」
「色々な色に自然が変化するんだ」
「はあー」
「なんだか想像つきませんね」
『あら?』
サイモン達が白百合を見下ろすと白百合が話す。
『とても綺麗よ。私は鈴子の記憶から見せてもらったわ』
「ええ」
『他にも向こうの世界の建物とかもよ。イーロンにも似てたけど本当桁違いだったわ』
「というと?」
『んー、どう伝えればわかるのか分からないほど。驚きばかりの世界だったわ』
サイモンが頷き、鈴子がミオに指輪を向けるとミオが頭を下げ受け取る。
「それ向こうだといくらくらいだ?」
「そうね。50万はするわ。ここだと4万と少し」
ミオが硬直し動きがぎこちなくなる。
「ミオ。値段聞いたからじゃなくて普通に無くすなよ」
ミオがこくこくと頷き鈴子がふふっと笑う。
「もしよければこちらで加工してもらって腕輪にしてもらっていただいたらどうですか?」
「腕輪に?」
「はい。無くさないように。人から見られないように二の腕にも装着できるような腕輪です」
ミオが目を丸くし、鈴子が話す。
「私が暮らしていた世界では無くさないように。大切なものと常に居続けるようにと婚約指輪を加工して違う宝飾品にして身につけている方も結構多いんです。そちらは婚約指輪ではありませんけど模様はそのままにされて加工を施してもらっても良いのではかと思います。ただもちろんお金はいります」
ミオがこくこくと頷き、タイシが話す。
「職人の街とも言われているからな」
「ええ」
「職人の街?」
「ああ。ここはドワーフ達がよく住んでいる」
「はい。ですが十年ほどは国が衰退して出ていって数が減っていたそうですが、また徐々に戻ってきてくれているそうです。ただ、今回の炭鉱の件。あそこに出ていかれたドワーフの方もおられたのです」
「やはり」
「なんとなーくは分かってたけどなあ。あと、またそのドワーフたちって住もうと思うか?」
「それは彼らが決めるでしょう。ただ今は回復のために留まっているだけですから」
マルクールが頷き、タイシが話す。
「ええ。あと、ミオはどうする?鈴子の話した通り管理しやすいように加工してもらうか?」
ミオが指輪をジイと見て考える。そして指輪をして無くすよりかはと思いはいと返事を返した。
ドワーフ達がミオの指輪を代わる代わる手にしみていき、鈴子がガイに話す。
「ピンクダイヤもこちらにない石なのですね」
「ないない。透明なのはあるが桃色のはねえな。あと、使われてるのは白銀のようだからそれは問題ないから加工は出来るが、俺はそっちの専門じゃねえからな。武器具になる」
「専門があるんですか?」
ミオが驚きガイが頷く。
「おうよ。得意か不得意かで俺たちは決めていくんだ。俺は武器の加工や修理が得意だ。後俺と一緒にいる奴は研ぐのが得意でな。だもんで研ぎ士だ」
ガイが石を眺めながら話をする仲間達を指差す。
「そんであいつらも鍛治師しかいねえ。そこいらで宝飾の加工するやついるか?」
「いねえな。知ってる奴はみんな殺されて死んだからなあ…。かわいそうに」
「あとは、そいつの人の弟子がいるかもだがどうだろうか」
「人の弟子?」
「ジョイさんですね」
鈴子が答えると周りがそうそうと頷く。
「そうだ。ただ、師匠が消えて、そんで死んだから相当落ち込んでるんだ」
「ああ。師匠で俺らの仲間だったやつが外に出て帰ってこなくなってから外に出てはいつも探してたんだそうだ。そんで死んだと聞いて落ち込んでてな。加工してくれるかはわからねえがそいつも腕はいい」
「ああ」
ミオが頷き鈴子が話す。
「場所は分かりますのでいくだけいきましょう」
「はい」
「なら鈴子。ミオ任せていいか?」
「ええ。どうして?」
「俺は俺で頼み事したいから。せっかく職人達がいるからな」
「えー」
「やる気出ねえよ」
タイシが空間に手を入れ竜の鱗や皮、牙などを出すとドワーフ達がすぐさま集まり目を輝かせ手にしみていき、ガイもすぐに牙を掴みトンカチで軽く叩く。
「龍ですか?」
「ああ。砂漠を渡る前の街で退治した竜だ。まずこれらの素材は好きに使っていい」
「ん?」
「好きに?」
「ああ。俺は武器とか防具とか事足りてるからな。その代わり俺の持っているやつの修理とか点検とかを頼みたい。魔剣の類が多いんだ」
ドワーフ達がふむと考え話していきガイが見せてくれと話すとタイシが槍を出しガイに向けガイが受け取り早速状態を確認した。
ユナが雪原を走りたまに雪が降っての山積みを見つけては飛び込み雪まみれになる。ミオがもうと声を上げ抱き上げ鈴子が微笑みながらその様子を見る。
「風邪ひくよ」
「ひかない」
「もうすぐジョイさんのところにつきますからね」
「はい。もう飛び込まない」
「うー」
澪に顔を拭われながら声を上げると今度は手を繋がれ大人しくついていく。そして、目的地の工房へと来ると鈴子がノックするも応答がなく仕方なくドアを開ける。
「ジョイさん」
中は暗く辺りはしんと静まり返っておりミオもまた覗き鈴子が扉を開け中へと入る。
「ジョイさん。鈴子です。ジョイさん」
「留守とか…」
「でも、鍵はかかっていませんからいるはずです。ジョイさん。ジョイさん。ジョ」
鈴子の肩が掴まれると男が前に出た途端剣と剣が音を立てる。鈴子をすぐさまサラが配置した護衛の男らがミオとともに庇い、剣を交えた護衛の男が汗を滲ませ赤い目にかろうじて人の皮膚が見えるものを見て発言する。
「ジョイっ。魔人の部位をどこでっ」
「え?」
護衛の男が弾かれて即座に剣で切り倒される。鈴子が両手で口を覆いはっと声を上げ、白百合が姿を見せ光りジョイへと体当たりし切られうめく護衛の上に着地しすぐさま治癒を施す。
『鈴子をありがとう。でもあなたじゃ魔人化した人間を相手できないわ。普通だった人間でも相当つよいから動かないで』
「は、はい」
「ジョイさん」
鈴子が名を呼ぶも白百合の張った結界へと向けた剣の連打が止まなかった。
「ジョイさんっ」
ジョイの両腕と両足に槍が突き刺さるとタイシが胸元に蹴りを入れそのまま押さえつける。
「タイシさん」
「ジョイをなんとか助けてくれねえかっ」
タイシが視線をガイが背負ったドワーフへと向けドワーフが懇願する。
「頼むっ」
タイシが殺気立ち暴れるジョイへと視線を戻すとその口が突如開く。タイシがすぐに頭を逸らし光線を避ける。白百合が結界を強めその光線を防ぐ。
「口からも攻撃出来るのか」
『魔人は全身武器みたいなものよ』
「そうか」
「やっばいなあ」
ヒカルがひょこっと現れるとその目を赤くさせる。
「左足だ」
「切断しろ。腿から切れ」
ナガハラがやれやれとする。
「魔人の力が弱まる。その時に小娘」
ナガハラがミオの襟首を掴み前へと出る。
「え?あ?え」
「悪魔を払う術ができるだろう。それと同じことをやれ。あれは瘴気を消し去る奴だ。小僧。左足を切断しろ」
「はい」
タイシが剣を握り左足を切り落とすとジョイが叫び血が噴き出す。ナガハラが汗を滲ませるミオを前へと突き出す。
「父さんがごめんね。早いとこやらないと出血しすぎて死ぬから」
「は、はひっ」
「この程度でビビってどうする」
「本当ごめん」
ミオが光を出しすぐにジョイに当てると黒い肌から煙が上がり叫び声もまた凄まじく上がる。タイシもだが、ヒカルも術を使い抑え込みナガハラが手袋をはめ紐を持ち、落ちていた護衛の男の剣の鞘を拾うと徐々に元の地肌へと変わり動きを鈍くさせるジョイの左足を剣の鞘も使い強く結び止血を施した。
左足の手術を終えたジョイが意識のない中顔を真っ赤にし荒々しい呼吸をしていた。そのジョイの元にドワーフが三名集まり代わる代わる汗を拭ったり、吸飲みで水を飲ませたりと看病をしていく。
「異物を取り込んだからな」
ナガハラがたんたんとハゲのギルド長やタイシ、サラたちの前で話す。
「体がまだ本来の臓器を異物と勘違いして攻撃しているから熱がある。熱が下がれば問題ない」
「はい」
「やれやれだ。一体どこから魔人の一部を。そして、僕がいる時にこんな」
「兄弟揃ってうるさい」
「兄弟?」
タイシが尋ねると。
「ちょっとー。この、禿げた人と一緒にしないでくれる?」
タイシが顔を顰めるリュウを振り向く。
「僕はまだ髪あるんだけどー」
「お前もいずれ僕みたいに抜ける運命になる」
「だからやめてって」
サラが2人を交互に見ていき、ヒカルがおかしく話す。
「2人は母親が同じ異父兄弟なんですよ」
「は?」
「そうなんだよねー。僕の父が浮気に走ったもんで」
ハゲの局長が話し、リュウが話す。
「その後こっちの父親と知り合って結婚。ちなみにお兄さんの方の父親は浮気して借金作って金目当てにより戻そうと戻ってきたけど僕の父親が元父親に僕と母と一緒に襲われたとこにギルド入ったばかりのお兄さんが仲間連れて押しかけてきたんだよね」
「やーれやれだったよ。あんな父親殴るのも嫌になっちゃうと思ってきたけどリュウの父親で再婚相手の父親がこれまた強くて」
「そうそう。僕と兄に体術教えたの僕の父親なんだよー。後その件をきっかけに道場作ったんだよね。兄のギルドの人たちが是非弟子にってなって」
「あー、それであの和風に近い道場があったんですね」
「そうそう。父なき後は弟子が継いだ上の軍が管理することになったから。僕もそっちが楽だなーと思ってまかせたよ」
「本当はギルド名義にしたかったけど、私がギルド長になって遠いとこに赴任しちゃったもんで出来なかったんだよねー」
「まさかギルド長になるとは」
「話が進まないからやめろ。うるさい」
2人が渋い顔をし、ナガハラがサラへと話す。
「魔人の腕はそんな簡単に手に入るものじゃないし、あのチビは知らない」
「はい」
「ああ。面倒だが尋ねて回れ。あいつが目を覚ましたら聞けばわかる。記憶障害はないからな」
「分かりました。後、魔神について詳しいのはイーロンですか?」
「そうだ。色々と試された人間を見てきたからな。元に戻りも出来はするがそれは5体満足な上の場合と体力次第になる。なにせ同じ方法でも9割方は死んでいるからな。だが今回浄化の力が強い小娘がいたからな。だから死ぬリスクの軽減はされているはずだ」
タイシが頷き、ナガハラが告げる。
「小僧」
「父さんタイシだから。もう。いつまで小僧とか小娘とか」
「俺の勝手だ。後小僧はそいつが目を覚ますまでヒカルと交代しながら見張ってろ」
ヒカルが呆れ、タイシが気にしなくていいと軽くヒカルに手をあげうなずいた。
ー翌日。
ユナが顔を真っ赤にし、ミオがため息をしながらユナを膝に乗せルイーズの診察を受ける。
「ユナちゃんは雪で遊びすぎちゃったな」
「うん…」
「うん。じゃあ、またお熱出たから今度は宿のお部屋で休んでね」
「遊びたい…」
「だめだよー。体をしっかり治してからにしようね」
ユナがうーと唸り、ルイーズが話す。
「なら、熱が下がっても3日は大人しくお部屋で過ごすようにしてね」
「はい」
「ああ。で、熱が下がって3日後にまた経過を見るから来てもらおうかな。ダニ性のウイルスの再発はないだろうけど念のためにね」
ミオがわかりましたと返事を返しルイーズが頷きカルテに書き薬はこれとこれと書き記した。
レオナルドがジョイの診察を行う。そのそばにヒカルがおりヒカルが話す。
「先生は前世の家族の記憶とかあるんですか?」
「ああ、まあ。あるね。前は医者の家系の生まれじゃなかったようなんだ。ただの、そうだな。親は事務とかするような場所で働いていた」
「へえ」
「医者になろうと思ったきっかけは父親の死でね。医療ミス。つまり、医師が間違って治療をしたために父が死んだ。それで、自分が医師になればいい。そう思って勉強して父と同じ病気を持つ人の治療をしたい。少しでも間違いがないようにしたいという願いから医者になった」
レオナルドがカルテを書いていく。
「その後はとにかくがむしゃらに勉強して働いたんだ。自分の家庭。誰か伴侶を持つことなくずっと独り身で」
「へえ。そして最後は言えば殺された」
「まあ…そうなるな」
レオナルドがため息し、ヒカルが頷く。
「分かしました。あと、その人たまに指が動くけど」
「ああ。なら少しずつ覚醒しているかもな」
「なら近いうちに?」
「かもしれない。こればかりは本人にもよるよ」
「そうですよね」
レオナルドが頷きヒカルがやれやれとした。
ー嵐が来るな。
森の中でお腹を触るサクラが目を丸くし、ハンモックに揺られるマナを見る。
「嵐?今日お天気いいですよ」
「ふふ。天気は確かにいい。あと、嵐というのはゴタゴタしたことだ。サクラ。お前も体のことがある。マーラックのそばを離れるな」
マーラックがその場にくるとすぐさまサクラの元へとくる。そしてマナが子竜を抱きハンモックから降りるとまっすぐに前を見た。




