裁判
ボロ布に近い服を着せられたアルスランが魔術を使えない拘束具により拘束され檻の中に入れられていた。その周りを拘束されたアルスランの部下達が座りいたが中には拷問を受けた痕を残した者達もいた。そしてミーアもまた右腕に拷問による火傷の痕があり顔を赤くし苦しく息をさせラダンに寄りかかり座っており、アーバインがそれを見て僅かな苛立ちと苦々しい思いをさせていた。
ー誰のおかげだ。今までの恩恵は誰のおかげでっ。
「くそ」
「それは悔しくてか?」
アーバインが横を向き眼鏡が外れほおを腫らし腕の至る所に鞭の後のあるチャールズが座っていた。
「何もできない歯痒さか?」
「どちらもです…。息子にも…、何も」
アーバインが項垂れ、チャールズが話す。
「ここから賭けだ。兄上が早いか。こちらが早いか。もしくは予想外なことが起こるかだ」
「それは、若ですか?」
「希望は抱くなよ。あれにも相応の追手と多数の人質を立てられている。お前の息子もそのうちの1人だ」
「……」
ラダンが息をつき横を見て新たに作られた処刑場を見る。
「くだらぬことで金をかけた愚かなものだ」
「ほんと、そう」
ミーアもまたうすらと目を開け確認し、アルスランもまた見ながら拳を握るとその目を閉じ僅かに俯く。
ータイシ。来るなー。これは罠だ。
ーサイモンには?
ー報告済みです。
教会の中が慌ただしく会議が開かれており膝の上で指を叩くダリスが落ち着かない様子で参加していた。
そしてー。
ーんんんー。
リュウがダリスの使いの話途中で唸りナガハラが話す。
「国民は?」
「はい。不安と怒りと恐れですね。いるはずのないもの達が王の使いとして国内を警備しているのです」
「それはどういった奴ら?」
「ヤンガルです。アストレイの紋章のついた鎧を着込み警備をしており、教会にもヤンガルの逃亡していた元大司教が来られました」
「問題隠さず堂々といろか」
「はい」
「時間の無駄。時間の問題だ。次の王かその代理でも決めておけ」
「え?」
「いや本当そうだよね。それ言っても」
「足場から崩れる」
リュウが首を傾げ、ナガハラが話す。
「この世界の災厄となったものはこの世界が裁く」
「世界が裁く?」
「ああ。俺の世界では捕まったあとは人が裁く。だが、ここでは捕まっても捕まらなくてもこの世界が裁く。監視されるこの世界が」
「え、と…」
「便利なものを作った創造主。俺は奴らが鬱陶しい」
「ますますわからない」
「異界人の俺たちにしかわからない」
リュウが顔を顰める。
「ハーフの私は?」
「どうだかと言うところだ。俺たちには俺たちにしか見えない世界があるからな。見せたいと思っても俺たちにもどう見せるか分からない。自分で理解しなければ何も意味がない。そして俺たちはただで連れてこられたわけじゃない。ある程度の理由づけで連れてこられた。人の世界からこの創造主の世界にだ」
リュウがはあと声を漏らし使いのものがわからないと眉根を寄せた。
ーさてさて。
マナが崖の上から処刑場を眺めていた。その隣にアスクレピオスが座り同じように眺めており視界の中に処刑人達他、やってきた巨大な檻の馬車が映り込む。
「我が弟子はどうするかな?そしてそちらもだ」
「妾はいい時にいいように出よう」
「弟子の助けか?」
「それもあるが、そろそろいいふらしもうんざりでな」
「そうか」
「マナさーん」
サクラが手を振りやってくる。
「いましたいましたと」
サクラが目の前の処刑台を見る。
「まあたどこからお金出して。勿体無い」
「ははは」
「お前はタイシと顔見知りだろう?」
「はい」
「ああ。タイシは男として出来ていない。女の扱いが慣れてない」
サクラがあーと声を出す。
「家自体が無縁でしたからね。その手に。あと、本人も興味ないことには興味なくてすぱっと、やめちゃうんですよ。やめたり止めたり見なかったり。あれ元からですね」
「そうか」
「性交のやり方を全く知らなかったそうだ」
「あー、分かりませんよ。知らない知らない」
サクラが手を振るとアスクレピオスがやれやれとしマナがクスリと笑った。
辿り着いてすぐにアルスランの部下達が並べられ、直属の部下達については等間隔に立てられて並んだ丸太に括り付けられていく。そしてその中央のギロチンを前にアルスランが立ちその先の森と崖、原っぱしかない景色を見る。
ー気配はない、か。
「腹立たしい」
アルスランが丸太に縛られ苛立ち奥歯を噛み締め前を睨むチャールズへと視線を向ける。そのチャールズの視線の先に王が赤い布の屋根の下、豪奢な椅子に座っていた。
「死んで祟ってやるっ」
「はあ」
「…」
「死んだら死ぬまで」
チャールズが左大臣の男を振り向くとその左大臣もまた拷問を受け、左腕が力無く下がっていた。
「だが、ただでは死にたくないものです」
「だからだ。くそっ」
「もし、タイシ殿がきたら…」
「淡い期待はするな。そして、元は国と私たち王家の昔からの問題でもある」
チャールズが苦しくはを噛み締めると項垂れる。
「我が母も、巻き込まれ死んだ。例え、身分違えどなんと言われようが私の母であり、人として扱うのが当たり前なのに。それを、あのような無惨な事に」
左大臣が小さく頷く。
「あと、奴のことだ。魔術師達もいる」
「はい。罠を張っているでしょう。きた時に備えて」
「ああ。それに、どうもあの異界人は違う」
僅かにタイシに似た男が楽しく処刑台に立つもの達を見たあと来るかなと言わんばかりにあちらこちらと見渡していた。
「タイシの親族という話でしたな」
「ああ。だが気に食わん」
「ですな。そして。ここにいる連中も」
左大臣が視線を巡らせ、チャールズが話す。
「ヤンガル他だな」
「ええ」
「今なら許してやろうか?」
チャールズがミーアを振り向きミーアが目の前の教会の服を着た禿頭を鬱陶しく見ていくと禿頭がこっそりと話す。
「私の権限でお前だけ解放してやってもいい」
ミーアが舌打ちし唾をかけると禿頭が顔を歪め布を使いその唾をふきながらミーアを睨みつける。
「誰が。このはげづら」
「ちっ」
禿頭がミーアの頬を叩きその場を離れる。
「下心を見せるかここで」
「だから出世しないのですよ」
チャールズが頷き視線を巡らせ兵士たちを見る。それらは何かしら焦点の合わない視線をまっすぐとむけており、左大臣が話す。
「アルスランの部下のその部下達です」
「ああ」
「殿下」
チャールズがアルスランを振り向きアルスランが話す。
「巻き込んで申し訳ございません。ヴァージルも」
「アルスラン。違う。元は国と父のせいだ。お前やお前の部下達。お前の息子となったタイシもこんな国や私たちのためによくやってくれていた。なのに、このような仕打ち。愚かで恥ずかしい」
チャールズが奥歯を噛み締める。
「そして何も出来なく、何も、出来ず、なにもない。自分が悔しい」
アーバインが息をつき、部下達が消沈する。
「何もないわけではありません。殿下は私たちのことを認めてくださった唯一の皇族。それだけでも喜ばしいことです」
チャールズが涙を堪え項垂れる。
そして時が流れると王が僅かに指を動かし苛立ち始める。それを、ラダンが、ミーア達とが見ていくとアーバインが鼻を鳴らす。
「若達が来るのを待っているのですな」
「ああ」
「でもこない」
アーバインが頷き、王が僅かに口を動かし歯を食いしばりながら動かすと左手を挙げる。
「やれ」
「しかし」
「やった後でもいいだろう。やれ。早く」
王がこちらへとずっと視線を向け続けるアルスランを見て奥歯を強く噛む。
「やれっ。命令だっ。処刑を行えっ」
処刑人達が頭を下げ槍や斧を手にする。そして、アルスランがギロチン台にかけられるもまだ見続けていく。
ーアルスランっ。アルスランっっ。
王が顔を赤くし腹を立て震える。
「余をその目で見るな…。アルスラン…」
アルスランが見続け、王が立ち上がり叫ぶ。
「処刑せよ!!」
すっと黒い槍が現れ処刑台の中央に刺さり揺れると処刑人達であり、操られているアルスランの部下達が前へと出る。王がきたかと振り向くと魔術師達が丘の上に立つ黒い全身鎧に包まれた馬になる男を見る。そして、黒い獅子の旗が建てられるとその後ろからゾクゾクと馬に跨る兵士、騎士達が姿を見せる。ラダンが眉を寄せ、アーバインが目を細めその旗を見る。
「あの旗は、ストレイジ伯。なぜ?」
「知らないわよ」
鎧の男が剣を抜きすっと処刑台へと向ける。
ー我が名はストレイジ。ストレイジオスマン。此度アストレイ国がヤンガル国の手の物より乗っ取られたと聞き参上した。
王が目を見開き、禿頭がポカンとする。
ーこれより、ヤンガルの残党どもを打ち。
騎士達が一斉に剣を抜き構える。
ーアストレイ王並びに王子。そして、大臣達の救出を行う。ヤンガル。そのヤンガルに手を貸したここにいる教会の手先どもは蹴散らせ。進撃!
騎士達が声を上げけたたましい音と共に走り出す。禿頭が冷や汗を流し魔術師達が魔術を使おうとするが使えずその場から走りにげる。王が汗を滲ませ悶える。
「何が!なぜ!?己タイシ!あの小僧!!」
「ヤンガルどもを蹴散らせ!!」
王が右舷を振り向くと包帯を頭に巻いたダンガンが部下達を連れ走る。
「王、王子!将軍達を救え!仲間は見殺しにするな!」
部下達が声を上げすぐさま剣を向けた兵士たちと剣と剣を撃ち合い叩き合う。
「若、か?」
「いや、違う」
ー約束は守ってください。
アルスランが目を開け、黒い騎士がアルスランを見ていく。
ー妻の友人のあなたの娘があなたにとのことです。アストレイにて会いに行きますと。
アルスランが口をつぐみ僅かに項垂れる。
そして黒い騎士もかけるとその手に黒い槍を持ちすぐさま逃げ惑う中、狙いを定め兵士の1人をその槍で貫き撃ち倒した。
ーさあ。ゴミ掃除だ。
アストレイで兵士たちが逃げ惑う中、ギルドの者達が追い立て捕まえては檻へと乱暴に入れ込む。アーサーが楽しく向かってきたアストレイの鎧を身につけたヤンガル兵を倒すと襟首を掴み声を上げる。
「魔術師を見かけたらすぐに言え!!アストレイ兵に化けた兵士は印つけたらどんどんぶち込め!!!1人1銀貨だ!!!」
周りが鼓舞し雄叫びを上げると兵士たちが恐怖に逃げ惑いギルドの者達が金だと追いかけた。
ーいいのですか?
サイモンが心配そうに辿り着いた港町で旅の食料を買うタイシへと話す。
「行かなくて。えーと」
「平気ですし、いったところで俺は邪魔です。あとは、信じるのみです」
「ええ。しかし、1人1銀貨とは。また破格ですね」
「まあー、金の使い道がそれくらいしか思いつきませんでしたから。それに、別に間違った使い方はしたつもりはありませんし、その通りですから。俺はティーチとして依頼しただけです」
「アストレイ国に潜んだヤンガルの兵士たちを全員捕まえろでしたね」
「ええ。ギルドにただそう依頼しただけです。そして、まあ、後はミオか」
「どうあれ親子で約束ですからね」
「はい。そして、似ていますよ。頑固な所が」
タイシがやれやれとする。
「私は近くにいませんでしたからよくは知りませんが頑固なんですか?」
「頑固ですよ」
タイシが金を払い行きましょうと告げその場を離れ、サイモンもまた付き添い離れた。
部下達が正気に戻ると即座にアルスラン達を解放していく。王が怒りながらアルスラン達を睨み、アルスランが息をつく。
「将軍…申し訳ございません」
「いい。その槍を一つ貰う」
部下がはいと返事を返し槍を渡すとアルスランが息をつき王へと視線を向けその槍を向け強く放り投げる。それは遠い王の横の兵士の胸元に突き刺さると王が苦々しく怒りにはを噛み、アルスランが手を振る。
「私も老いた」
「いえ」
「己アルスラン!!」
王が叫び、アルスランがやれやれとする。
「老いたのなら若返らせようか?」
アルスランの元にアスクレピオスが姿を見せ着地する。
「将来の父上殿」
「勝手な事を言うな」
「ふふ」
「将軍!」
その場に返り血を浴びたダンガンがけたたましい音を立て参上する。
「ダンガン参りましたっ」
「ああ」
「もっと静かにしてほしいわ」
「魔獣の森に追放されたのではなかったのか?」
ラダンが尋ねるも剣が向けられるとすぐに握る。
「また後だ」
「ああ」
アスクレピオスの元に男が辿り着くもラダンが即座に切り捨てる。
「まったく。騒々しい」
アスクレピオスがアルスランばかり見る王を見てやれやれとする。
「あの男もだが、その祖先達もよくまあ嘘を吐いて貶めて生きてきたからな」
アルスランがアスクレピオスへと視線を向けアスクレピオスが両手を前に出し掲げる。
「なにをする?」
「ようやく、この時が来たと言おう。本来の妾の力」
蓮の花が現れると淡い光が現れる。
「アスクレピア!!あの蛇の化け物いつの間に!!」
怒鳴り散らした王の声を聞きアスクレピオスがふっと笑う。
「口だけの王め」
蓮が光輝き花びらがいくつも突如処刑台に現れ舞い上がる。ダンガン達がその花びらと風を浴びると驚き、ミーアが驚愕しながら焼け爛れた腕の皮膚がすごい速度で元に戻る様を見てすぐにアスクレピオスを振り向く。
「まさか…青蓮の聖女」
アスクレピオスの髪が白髪するとアスクレピオスがその両手を下ろし下にいる者達を見下ろす。
「そんな。300年前の聖女が何故」
「使い捨てだ。聖女は所詮」
ミーアがはっとしアスクレピオスが膝をつき崩れ倒れかけるとアルスランがすぐに支え受け止める。
「異界人は、聖女に選ばれた者が辿る道は、強欲に満ちた者達に、王や教会のものどもに最後は弄ばれる。お前の伴侶もまたそうであったようにだ」
ダンガンがすぐに王へと視線を向け、アルスランがアスクレピオスへと話す。
「お前は?」
「あの王の祖先である王に。そして教会の上に回され最後はあの姿。妾のことはその子孫達に秘密裏に語り継がれてきているからこそ、やつらしっていた。そして妾は生きれた。生き延びた。だが、他は違う。皆耐え切れず死んだ。これで…あの子らも」
アスクレピオスが目をゆっくりと閉じると力無く手を落とし体をアルスランに預ける。
ーようやく妾も逝ける
ミオがはっとし空を見上げグッと口をつぐませ涙を堪える。
サイモンが目の色が黒へと戻ったタイシを見て驚くとタイシが戻った左目を押さえる。
「色が」
「アスクレピオスが死んだようです」
「えっ」
「なんと言うか最後の最後で…」
タイシがはあと大きく息を吐く。
「後々彼女に対して改めて存在そのものを見直されるでしょう」
「アスクレピオスが?」
「はい」
サイモンが本当かと疑問に思いタイシが手を下ろし空を見上げた。
そして、アストレイで蓮の花びらに舞い散るとギルドや国民達とが空を見上げ、アーサーがその花びらに触れるとすっと手に吸い込まれるように消える。
ー治癒の効果。これは。
「青蓮じゃな」
アーサーがはっとし後ろを振り向きオーガン達魔導局の魔術師達を見る。
「なんでここに」
「なあにちょいとな。あと、綺麗だのお。皆が見惚れておる」
「この花はなんですか?後青蓮とは?」
「本でも読んで調べれば良い。すーぐでてくる。だが、わしら魔導曲の管理する原本だがな」
「原本?」
「改変も書き換えられてさえもいない本来のあるべき本よ」
メルルがその場にくる。
「ヤンガルの兵士たちはあらかた檻に入れたわ。あとは、城の中よ」
「ああ」
「そうじゃ。わしらはアストレイ国の王たちに用事があってきた。留守でなければ良いがなー」
オーガンが笑いながら城へと向かい周囲もまたオーガンに続く。
「なんだあの爺さんは…」
「局長と言いなさい。あと、王は留守よ」
「は?」
「国の境でアルスラン将軍他の処刑が行われているの」
「はあ?おいおい」
「処刑台は役に立たなくなった」
アーサーがメガネのギルド長を振り向く。
「黒の悪魔と呼ばれるストレイジ侯爵がヤンガルの手先たちの手で処刑されそうになったアルスラン将軍たちの助けに入った。後は王の助けもだな?」
「そう言うことになってんですね」
「ああ。そう言うことになっている。別に間違ってはいない」
アーサーが頷き、メルルが消えいく蓮の花びらを見上げる。
「青蓮は1人の聖女の名前よ。漆黒の髪に黒い瞳の若い女性」
「ああ。そして癒しの手としてこの世界各地を周り下も上も関係なく治癒を行っていた。彼女は見たことのない青い美しい花を咲かせ、その花に触れた者はたちまちその体の傷や病が癒やされたと書かれていた。しかし」
ギルド長がたんたんと足で地面を叩く。
「最後にこの地で行方が途絶え姿を忽然と消した」
「このアストレイで?」
「他の聖女や勇者といわれた者たちよ。ほぼ、異界人ね」
アーサーが驚愕し、ギルド長が話す。
「イーロンだけではないとのことだ。ただ、イーロンが消えたことにより、異界の扉が一時的に遮断されたのは間違いない。そして、まだ掘れば掘るほどこの国は出てきそうだからな」
「なら、今城に行った局長の目的は?」
「さてな.それは私にはわからない」
「同じく。ただ、大事な用事がある。それさえ済めばわしらも好きにできると言う話」
城の上に巨大な魔法陣と共に巨大な鐘が現れゆっくりと動くと大きくなり響く。メルルたちが驚きギルド長が話す。
「局長殿だ」
「でけえ」
「ええ。あれはなんの術式?」
「知らせの鐘だ。他国の王たちがここに集まる。魔導局は中立の立場で裁判所にもなる」
「裁判所」
「裁かれると言うわけだ。その準備が早く整った。すなわち、王の失脚だ」
2人が頷き、ギルド長が軽くメガネを上げた。
アルスランがアスクレピオスを寝かせ立ち上がり部下が向けた槍を手にする。王が顔を赤くし怒りに満ちていたが鈍い音が鳴り響くとその目を見開き上を見上げる。その上では空にうっすらと巨大な鐘が映し出されており、ダンガンが包帯を投げ目に触れその目がまた見えるようになっているのを見て驚くも鐘を見続ける。そして、チャールズ、ヴァージルらもまた見上げていく。
「あの鐘は」
「己っ。オーガンっ!貴様もかっ!」
チャールズがはっとし王が汗を滲ませ取り乱していた。
「余が王であることに不服かオーガン!」
「どう言うとこだ…」
「あれは知らせの鐘です。各国の王に此度問題があるやもしれぬ王について問いただし裁くための裁判を開く鐘」
「あれが?初めて聞いた」
「では、教えられていなかったかのでしょう。あれの意味する事。そして、あの鐘が鳴り響く中での争いはどのような場合でも即座に中止。停止しなければならぬのです。もし、行った場合はそこで罪に問われます」
「だから皆」
チャールズがはっとし武器をおろし座り出す騎士たち、そして緊張した面持ちで座り武器を置く敵兵たちを見る。
「ああやって敵意なしと見せねばならぬのです。形だけでも」
「強制執行か」
「馬鹿馬鹿しい!!」
チャールズが振り向き王が声を上げる。
「余は王だ!これからもこの先も永遠に!なんと問われよう余が王である!」
ダンガンがやれやれとし、ミーアが話す。
「頭いってんわね」
「元からだろう」
ーお邪魔しますね。
突如サクラが花吹雪と共にアルスランたちの前に姿を見せると今度はすっと座り込みアスクレピオスを浮かせる。
「長い間お疲れ様でした。彼女は私が連れて行きます」
「ああ。そうしてくれ」
「勿論ですよ。あと、初めましてサクラです。マサキ君の事お願いします。また会えればお会いしましょう」
サクラがアスクレピオスと共にまた花吹雪く中姿を消す。そして、マナの元へと戻るとマナが永遠に目を覚まさなくなったアスクレピオスを見る。
「みなの所へいこう。ユキナ」
「はい。行きましょうね」
マナが背を向けサクラが先へと行くマナの後を静かに付き添いついて行き森の中へと姿を消した。
ーミオ。運命に抗え。そして従うべき時は従え。苦しい時も必ずいよう。
ミオが手のひらを上に向けると淡い青色のハスの花が現れる。
ーあなたの意思。引き継ぎます。
ミオがそのハスの花を包み込むようにその手をゆっくりと握り消し去ると宿から外を眺め海を見る。そこに、エリスのユナ。続いてタイシたちがくるとユナがミオに飛びつき、エリスたちと日常的な会話を行った。
ー己。どいつもこいつも邪魔ばかりっ。あの時からだっ。葵っ。余の命に従わず余を侮辱したっ。そしてアルスランっ。余を殴った愚かな男っ。
王が目を迸らせるとその拳を振るわせる。チャールズが王を見てぞっとするが王と目が合うと身体をこわばらせると王が怒りに狂い声を上げた。
「貴様も余を笑うかチャールズ!!!」
チャールズが僅かに身体を震わせ王がその手を地面へと向ける。
「殿下!」
「殿下!!」
ヴァージルの腕に突如地面から刃が現れ突き刺さる。そして、すぐにチャールズの足元に現れ喉へと目掛け放たれた。ダンガンたちが、周りが見る中、チャールズが尻餅をつきすぐに上を見上げ血を吐き落とすアーバインを見る。
「ご、ご、ふ、ひ、れ」
チャールズが唖然とし、アーバインが胸から喉にかけて貫かれた剣と共に倒れる。ミーアがすぐに来ると手を向けるがアーバインがその手を力無く払うと歯を噛み締める。
ーむうっ。
オーガンが声を上げ、唸ると息を吐き頭を振る。
「これは…色が」
金の色が鈍い色へと変わり始めるとオーガンが話す。
「罪を犯した」
オーガンたちの前に即座に集まった王やその代理の重役たち。ダリスや教会の枢機卿他、汗を滲ませる妃や王子たちがいた。
「ラグナ王は罪を犯した。これによりこのアストレイ王を断罪する」
「な…」
突如光を放つ騎士たちが現れる。
「そなたら王家のものたちはこれから全員審議に問われる」
「わ、私たちは何もしていない!やったのは父上だろう!だけだ!」
「だから?」
王子がすぐに若い王を振り向くとその王が話す。
「それで?この鐘の意味はわかっているだろう?」
「ええ、その通り」
「これは止められない。契約である以上契約通りに審議をしなければならない。そして、王の失脚と新たな王を決めねばならぬ。決めることができぬ場合は代理を立てる」
「王なら第一王子の私が決まっている!」
オーガンが頭を振り、髭面の男がゲラゲラと笑う。
「奴はもう失脚した。ならば決めるのは我々だ」
「是」
「第一第二。後継者だからと言うのは通用しない」
「その前に審議ね。あなたたちもまたこの鐘の前で正直に話したほうがいいわ。そうでないと苦しむわよ」
周りもまた頷き騎士たちが動くと王子達が、妃が恐怖に打ちひしがれた。
ー若。あなたに会えたからここまで生きて来れた。十分だ。
チャールズの呼びかけが遠のくとアーバインが意識を遠のかせる。
ーああ。良かった。生きて来れたことに、感謝だ。
「アーバイン!」
チャールズが声を張り上げ苦しくうめく。そして、タイシが表情を曇らせ手のひらを見下ろす。
ー若。良き旅を。
「アーバイン…」
タイシが拳を握りしめるとああと声に出し答えた。
ー己っ。おのれええっ。
アルスランたちの前で王が光る台座に固定され動けなくされていた。アルスランが目を閉じ緩やかな顔をさせたアーバインへと黙祷し王を振り向く。
「私がやりたかった」
ヴァージルがアルスランを見上げアルスランが拳を強く握り振るわせる。
「なんだあの首を切り捨てようと考えたか」
「……」
ーアル。貴方がそれを行えば貴方は即座に堕ちてしまう。
若き頃のアルスランが怒り歯を食いしばり、葵が震えながら力無く抱かれていた。
ー貴方のおかげで私は犯されずに済んだ。
ーだが。
ーおい。馬鹿の相手はするな。
アルスランがナガハラを振り向く。
ー時間の無駄。体力の無駄。考えることさえ無駄。どうせバチが当たる日が来るだろう。それより運ぶなら運べ。
ーそうよ。無駄よ。
アルスランが口をつぐみ、葵が告げる。
ーでもこれだけは約束してアル。あの王に手出し無用。貴方が手を出す必要はない。
ー口には出していいがな。
ーそうね。それくらいは許すわ。でも、死なせたり怪我をさせたりとかはしないでちょうだい。貴方がそんなことする必要はない。
ストレイジが部下達の間を通り処刑台へと向かう。そこに、リュウの部下達に加えリュウと歩くナガハラがいた。
「魔法というのは便利なものだな。ただ、効果が切れる。条件が合わなければ意味がない」
転がる死体、そして血を流すヴァージルと緩やかな顔をさせ死んでいるアーバインを見て今度はアルスランを見る。
「よくまああの女の約束を果たし続けたな。娘との約束は放置しかけたというのに」
アルスランが僅かに強張るとその手を緩める。
「知らせの鐘が鳴った」
「ああ」
「そして奴は見ての通りの有様だ。知らせの鐘の元で傷害と殺人を自ら行ったからな」
アルスランが頷き力無く叫ぶ王を見る。
「アル。俺もたしょーは協力はしてやる。ただし、条件としてさっさと美味いコーヒーを作り出せ。不味くて敵わない」
「お前の国のその飲み物は難しい。だが、わかった」
「ああ」
ナガハラが台座から降り王の元へと向かう。王が汗だくで近づくナガハラを見上げ悔しく歯を噛み締める。
「哀れなものだな」
「黙れ蟻がっ」
「それはどうもだ。蟻に例えてくれてありがたいとな。さて」
ナガハラが手を向けその頭を掴む。
「触れるなっ。何をするっ」
「まあだお前がこの場に居続ける理由を教えてやろう。お前が秘密を明かしてないからだ。明かした後は」
ナガハラが上を指差すと王が上を見てその目を見開く。その上に巨大なギロチンの鋸状の刃が出来始めていた。
「だから皆嫌だというのにお前は勇気がある」
「あ、あ」
ナガハラの手が光、王が必死に声を上げる。
「よ、よを、助けてくれ。今までのことは許すっ。許すっ。お前をイーロンに売ったことも、葵を犯そうとしたことも」
チャールズがその目を見開く。
「ああ、あと、タイシとその部下の追放もとく。それからヤンガルとオラクルに金を送っていた。国の子供を攫わせ売っていた」
オーガンが目を閉じ王たちが黙ったまま立ち、ダリスがじっとする。
ーダリスとチャールズの母を殺した。ダリスの父もだ。
ハリスが驚愕しダリスを振り向く。ダリスが何も言わずただ聞いていく。そしてナガハラが頬杖をつきながら話していく王を見下ろす。
ー長すぎる。
「アスクレピアや元聖女達を変えたのはオラクルの」
断罪の刃に斧が当たるが弾かれる。ナガハラがやれやれとし唾液を流す王を見る。
「やめろ!!違う!!」
「元聖女達を怪物へと変え上手く出来たものはこの世界に放ち次の倒すべき魔獣達へと変えた。アスクレピアはああ。青蓮の、聖女おおお」
王が青ざめ黒騎士を見ると黒騎士、ストレイジが兜を外し黒髪黒い瞳を見せる。
「な、あ」
「貴方が直接手を下したわけではない。ただ、貴方の祖先が行いその行いを貴方は知っていた」
リュウがまじまじとストレイジを見るとナガハラを見てストレイジを指差す。
「え?ん?」
「こいつは俺と今死んだアスクレピオスの息子だ」
「えっ!?」
周囲が驚愕しオーガンがうんうんと頷きちらりと周りを見ると王たちがその言葉をきき皆驚いているのがわかった。
ー皆驚いている。ここまで上手く隠せてきたのもたいしたものだし。
『魔道局にも息子がいるからな』
「なぬっ!?」
オーガンが思わず声を上げる。そして魔術師たちが顔を見合わせわからない、誰だとか首を傾げる。
「え?なら君息子2人いるの?」
「そうだ。後息子2人だけだ」
ストレイジが頷き、ナガハラが話す。
「俺もあいつも問題ありありだからな。だから隠し続けた。そしてようやく」
ナガハラが呆然とする王を見下ろす。
「答える機会が得られたわけであり、あいつは化け物にされたことによりできた苦しみ。そして、同じように化け物にされてきた聖女と呼ばれた女たちの最後がどうなったかを知って欲しかったわけだ。勇者物語に振り回され無惨に殺し殺された女たちのその無念をようやく知らせることができた。どういった奴らが本当の首謀者かと。そしてまだその件が続けられていることも含めてだ。アル!」
ナガハラがアルスランを振り向く。
「お前がこいつの命令をほぼ無視してやってきたことについて感謝していると言うことだ。多くの犠牲はあったがそれを生み出した根元はこいつら含めた連中だからな」
空から光が現れるとたちまち禿げの男や数名の男たちもまた台座に固定される。それらがすぐに青ざめ助けを求める。そして禿げの男が必死にもがく。
「なぜ!関係ない!!」
「この術式を生み出したのは誰だ?」
禿げ男がストレイジを振り向きストレイジが話す。
「魔術の多くは異界人の知識により生み出された。そして異界人の知識や力はこの世界を作った神からの産物になる。つまり、関係あらずと物申したとしてもお前たちが隠そうとしても無意味と言うことだ。そして、この王が全て話したこと。お前たちが行ったと言う証言にもなる」
「そ、そうなの…」
禿げ男が口を震わせ、王が肌を白くさせる。
「よ、よは。よが、悪いわけでは…」
「したからこうなるだろうが」
ナガハラがうんざりと告げると鋸のギロチンが一斉に落ち首に当たり跳ね飛ぶと台座に魂のみが固定され苦しみのたうちながらノコギリの餌食にされる。チャールズが青ざめ、ミーアが鼻を鳴らしダンガンが冷や汗を流す。
「肉体での痛みは一瞬だからか」
「でしょうな…。分かってはいますが見ているこっちも恐ろしい」
敵である魔術師や兵士たちが腰を抜かし恐怖に震え、ストレイジの部下達もまたわずかに身をこわばらせていた。
「なんとものお…」
オーガンが髭を触るとはっとし横を向くとやれやれとし突如現れた黒髪黒い瞳の髪の長い少女を見る。
「まずお前は男だったのか。スジャータ」
「申し訳ありません。あと、あー」
少女が喉を指で叩き高い声を低い声に変えると意地悪く笑む。
「私はあの2人と違ってまだ性格は明るい方ですから。これからもよかったらよろしくお願いします局長」
オーガンがふっと笑う。
「ああ。ところで本当の名は?」
「ヒカルです。太陽の光、希望の光などを意味する名前です。母がつけました」
「それはいい名だな。あと、寂しくはないか?」
「寂しいですよ。ただ、母も死にたがっていました。そしてようやくいけた」
ヒカルがすっと涙を流す。
「最後に会いにきてくれました。これからもそばにいると言って」
「そうか」
ヒカルがはいと返事を返しオーガンが頷いた。
ーそれはいいとして。
刑の執行が終わった後王たちの死体が包まれ回収される。ナガハラがうんざりとしながらその様子をアルスラン達がいた台座に座り見ていた。そこにアルスランとリュウがおりナガハラがはあとため息する。
「早く休みたいなおい」
「後少し後少し。と言うより酷いなあ。息子いるなら教えてくれたっていいじゃんかー。お祝いとかしてあげたのに」
「必要ない」
「俺も初めて知った」
ナガハラが呆れた視線を遠くを見つめるアルスランへと向け、リュウが話す。
「だよねー。あ、ところでこれからアルとかどうするわけ?まだ将軍よみがいい?」
「これからのことは各国の王達の助言も取り入れての国の復興となる。そして、異界人の問題が大きく取り上げられる」
「あー」
「聖女達の恩恵は各国でも重要視されていたからな。今回明るみに出たのはその恩恵を大きな仇で返す問題だ」
「ああ。そして、アストレイ。イーロンといった各国の代表や王が加わっていた。そうなればまだ分かっていない国にもいると言うわけだ」
「確かにねー。でも、今回ある程度は揃っててたんだのね?隠していたとしても隠しきれなくてあの刑が執行されるなら」
「防げる手段がある」
「え?あのぐろいやつを?」
「ああ。魔法といえ万全じゃないからな。そして、今回はここに大罪人がいた。グラン王という名のやつが。本来はそいつを捌くためのものだ。だから、魔法としての意味としての効力が弱くなる」
「あー、答えが答えになってない、か」
「そうだ」
「集まっていたとはいえ難しい」
リュウが頷きやれやれとする。
ー残念。
「なら仕方ないか」
「ああ」
「そうだ」
そこに兜を横に抱え込んだストレイジが来るとアルスラン達へと頭を下げナガハラを見る。
「父上」
「その呼び方はやめろ…」
「いいじゃない。別に」
「俺には違和感ありまくりだ。戻るんだろう?」
「はい」
「分かった。あと、俺は堅苦しいのは嫌だからな」
「分かっております。母上も話してました。好きにさせても良いと」
「ああ」
「葬儀?」
「そうだ。他の聖女達も合わせての合同葬だ。あいつが回っては死体を集めて保管していたからな」
「はい。全てこちらで安置しております。名前もです」
「そっか」
「葬儀費用の全額はこいつらが持つ」
アルスラン、リュウが思わずナガハラを見るとリュウが顔を顰める。
「俺は無一文でこいつのところも金がない田舎にあるからな」
「んんんまあ、知ってはいるけど…」
「…」
「だから出せ。金持ちどもだろうが」
アルスランが息をつき、リュウがうんざりとしちらりとストレイジを見るとストレイジがじいーと2人に視線を送っていた。
「はああっ」
「終わったら精算書を送れ。半分だ」
「はいはい残り半分はこっちが払うよ」
ナガハラがよしと頷きストレイジが感謝しますと2人に頭を下げた。
後日、宿にてー。
「なんで落ち込んでこられたんですか?」
重く頭を下げるハリーへとサイモンが尋ねる。そこにミオや軍服を着たタイシもおり、ハリーがうーと声を出し顔を上げる。
「だってっ。だってスジャータが本当は男ってっ。なんでっ。うそだああ!」
「はあ…」
「ええと、女性に化けていたんですよね?わからないように」
「ああ。後俺も驚いた。話したことがあるが分からなかったし、男に人気者だったんた。ハリーもよく話していたし」
ハリーが頷いていくと悲しく告げる。
「そうだよおお。だってのに、男ってなんでええええ。嘘だといってくれええええ」
サイモンがやれやれとしハリーが頭を抱え込むと軍服を着たマルクールが中へと入り嘆くハリーを見る。
「来ましたと、何してんだお前?」
「悲しんでるところだ。行こう」
「はい」
「なら、2日留守にします」
「はい」
「分かりました」
「いってらっしゃーい」
「その、はい」
タイシがああと返事を返し部屋を出てマルクールとともに外で待つ小龍たちの元へと向かった。
ストレイジ、そしてヒカルが聖女たちが眠る花畑の中央にある墓の前に立っていた。そこにナガハラが老齢の男とともに来る。
「また派手にしたな」
「明るい方がいいでしょう。ずっと暗い場所にいたんですから」
「そうか?」
ヒカルがはいと強く返事をし、ナガハラがやれやれとする。
「後お前髪切ったらどうだ?」
「いいじゃないですか。好きにさせてください」
「父さん。あなたはこれからどうされるのです?」
「アルたちのところにいる。今問題が浮き彫りになってる状態だからな。それから、勝手についてきた奴らが俺にまた教えてもらいたいとうるさく来た。仕方がないからな」
「あなたを慕っているからこそでしょう」
老人が告げるとナガハラがやれやれとする。
「私もまたその1人です」
「どうもだ。あと、アキラは当主の座についたままでいいのか?」
「はい。皆のために思ってくれておりますし、私もあなたと同じ父親として誇りに思っています。あの時、父親にさせてくれたことに感謝を申し上げます。亡き妻の分も」
「堅苦しいのは嫌いだ。あとそうしたら、よろしく頼む。何かあれば今度はしっかり援助する」
「はい」
「ああ。あとは、今までの分もだ。稼いでから送る」
「分かりました。それからアキラの婚約者とはまだ」
「あってない」
「話だけは母さんがしたと聞いてます」
「ああ。いい娘ですよ」
「こっちは聞いた時驚いたけどね」
「俺は母さんが突然連れてきたのに驚いたし、最初は迷惑だった」
「でも今は違うんでしょう?」
アキラが頷き、ナガハラが告げる。
「ヒカル。お前は魔導局に居続けるのか?」
「いるよ。まだ学び途中だし。どうして?」
「居場所の把握だ。前は分からなかったからな。特に俺が」
「確かにね」
「ああ。あと、母さんに感謝だ。歩けない父さんはうるさいだけだからな」
「悪かったな」
ヒカルが軽く笑い、ナガハラがやれやれとし軽くヒカルの頭を小突いた。
チャールズが見張られながら松葉杖をついたマルクルの元へと来るとマルクルが頭を下げ、チャールズが告げる。
「頭は下げなくていい…。アーバインについて、力無くて申し訳なかった」
ーいいえ。ここまであの酷い戦地の中生き延びてきたのが奇跡でした。父も次は次はと話しては遺書を書いておりましたし。結局は戻って無駄に終わってましたから。
チャールズが頷きマルクルが話す。
ー父の死に顔を見た時とても晴々となされてました。
「だが…」
ー最後に貴方を助けたと、嬉しく思われての顔です。父は貴方のことを大変気になされておられた。貴方の母と父は貴方の母の父と友人でしたので。貴方の母である父の友人の娘は我が娘と思うほど気にかけられておりました。その友人と娘が次々と亡くなり貴方だけが残ってしまったことに悲しんでおられておりましたし、ご心配をされておりました。
「そのことは、初めて聞いた…」
ー貴方がまだ物分かりがわからない頃のことでしたから。そして、父もそのことを言える立場でもなく見守るしか出来なかったことに歯痒さを感じていましたからね。
チャールズが頷き、マルクルが話す。
ー最後に、貴方が無事だったことに安心されたのでしょう。そして、この先の貴方の未来に大きな障害が一つ取り除けたことが嬉しかったことです。この先また大きな障害があるかもしれませんが、それを乗り越えるために力をつけられてください。ようやくその機会が得られる時が来ましたから。貴方がご存知でないことを知り、力をつけられて孫ひ孫と持つ年まで生きてください。
「ああ。分かった。アーバインに助けられた命。大切にする」
マルクルがはいと返事を返し手を向けるとチャールズがその手を握りしめた。
喪服を着た老婆が墓跡を前に立ちいのるタイシを見ており、タイシが祈り終えると老婆を振り向く。
「アーバインには色々お世話になりました」
「いいえ。逆にこちらは夫が迷惑ばかりかけて。年寄りだからさっさと引退しろというのに若がいるから若がいるからと。まったく…」
老婆がやれやれとする。
「アストレイにまたお戻りになられるのですか?」
「戻りますがしばらく留守にします。あー、まあ、父からの、約束で」
「はい。娘さんの勉学の旅ですね」
タイシがはいと頷き、老婆が頷く。
「では、道中お気をつけてください。まだまだ、あなたとあなたと同じ異界の方を悪く思われる方もおいでですから」
「はい。あれだけで全部、終わったと思いませんから」
「ええ。昔からのことがすぐに終わるわけありませんからね」
「はい」
「ええ。なので、気をつけてください。そしてたまにはここに来て夫や息子たちに顔をお見せください」
「分かりました。奥様もお元気でお過ごしください」
老婆がふっと笑みええと頷き答えた。
ーおい。
ステラが壁を向き俯き落ち込む蘭丸へと話す。
「いつまでしょぼくれている」
「うるせぇー、ほっとけええ」
ステラがやれやれとし、タイシがマルクールとともに入るとマルカールが荒らされ何もなくなった家を見る。
「あーあー。ひでぇな」
「分かっていたから大切なものは隠すよう頼んだけどな。ステラさんありがとうございました」
「いや」
タイシがステラの足元にしゃがみ隠された床のレバーを引くと蘭丸が突如浮かび転がり倒れマルクールがそれを見て吹き出す。
「タイシ!笑うな!」
「いつまでも落ち込むな。終わったことだ」
苛立つ蘭丸の隣へと来ると開けられた扉の中へと入り下へと梯子を使い降りる。
「こういったのあったんかー。へえ」
「ああ。タイシの家は初めから狙われていたし、何度か窃盗もあったからな。だからタイシが作った隠し部屋だ」
「そーだ。後穴掘ったの俺」
「得意だもんな穴掘り」
蘭丸がマルクールに飛び蹴りを食らわせるとマルクールが何しやがると掴み掛かった。中に入ったタイシがステラが隠したものを確認しながら2人の声を聞きやれやれとするも無視をし作業を続けた。そして、必要なものだけ外に出されるとマルクールと蘭丸がなぜかのされており、のしたダンガンが出てきた大佐へと手を挙げる。
「よお。戻っていると聞いてな」
「はい。こちらも、師匠にあったと聞きました」
「ああ。おかげで助かった。もう場所もわかってしまったから引っ越すと伝えろと言われたな」
「ええ。それから、桜もいたとか」
「そうだ」
タイシが身を乗り出し立つ。
「いつまでいるんだ?」
「明日まで。夕方に出ます。明日の朝は国外の方も含めた上も揃っての話し合いです」
「ああ。俺も参加だからな。だから、堅苦しい」
「長引かないことを祈るだけですね」
ダンガンが頷き、ステラが話す。
「チャールズは多少お咎めなしとして他はどうなる?王室の奴らだ」
「長男坊が罪に問われるな。侍女を数名殺しているのがわかっている。あとは、まあまあか。殺人はそいつだけだ」
「ああ」
「まだ幼い王妃の娘の子供が気がかりですね」
「何も知らない年だからな。ただ、この先のことを考えると、ここには住めないだろう」
タイシが頷き、ステラが話す。
「今までのわがままで贅沢な暮らしが祟ったわけだ」
「ああ」
「ええ」
「にーぢゃああ!!」
ヤンが泣きながらタイシに飛び込む。そして、やれやれとマサキが杖をつきやってくるとダンガンが話す。
「お前男なら泣くな」
「今の歳だけだ。泣かせとけ」
「タイシさん。無事だったんだ。良かった」
「ああ」
「そこの2人なんで寝てんの?」
「うるさいから俺が黙らせた」
マサキがああと声を出し頷きタイシが泣きじゃくるヤンを抱き上げ背中を叩く。
「心配させて悪かった。魔導局にいたんだろ?」
ヤンが頷き、マサキが話す。
「ああ。ステラさんが連れて行ってくれた」
「危険だからな。保護していた子供らは全員預かってもらった」
「最初突然だったから迷惑されたけど事情聞いてから受け入れてもらったんだ。サクラ姉ちゃん元気だった?」
タイシがダンガンを振り向くとダンガンが話す。
「ああ。あと変わった娘だな」
「それはもう重々承知。みんな話してたし」
「そうか」
「うん。あと、元気なら良かった。心配していたから」
「ああ」
「うん。それから、魔導局にしばらくいたいなって。本とかまだ途中だから。ヤンは戻りたいって話してたからさ」
ヤンが鼻を鳴らしながら頷く。
「あそこ、怖いの。みんなが、う、よくわかんないことばっかりい」
「魔術師ばかりだから常に魔術のことで頭いっぱいなんだよ。唯一の避難先が俺かここのみんなか、局長か、確かスジャータさんだったな。でも男って話あとで聞いた。普通に女に見えたから驚いたな」
「ナガハラ医師とアスクレピオスの息子か」
「そう。だいぶ親身に世話してもらったんだ。でまあ、俺はヤンから話をこっそり聞いてたから知ってたけどみんな知らないで知った後の落胆ぶりって言うかな。そして女子たちの興奮か」
ダンガンがゲラゲラと笑いステラが話す。
「ハリーを含めた同世代や近い年の男はみんな落ち込んでいる」
「そんなに…」
「魔術師になった女性は変わり者が多いからと言うのが理由で唯一まともで美人だったのがそのヒカルだったらしく相当なショックだったらしい」
「ああ。だから、魔術師の先生たちとか困ってた。あと、その人は今お兄さんのとこに行ってる。葬儀とかそこでしてるって話だから。で、行く前にタイシさんに伝言頼まれてさ。母さんが困らせすぎて悪かったって」
「あーまあ。あと。それでか。魔導局に尋ねる度に申し訳なくしていたのはそのせいか」
「うん。体調とか気にしてたそうだから」
「ああ」
「また今度お詫びするって。必要ないとかは言わないでほしいってさ」
「まあ、わかった。ならその時にと伝えてくれ。戻るんだろう?」
「うん」
タイシが頷きヤンが変なところ戻るのと泣きじゃくるとマサキがやれやれとし肯定しながら慰めた。
包帯を腹に巻いたリリーがベッドに横たえ寝ていた。だが、目を覚まし起き上がり誰もいない部屋を見渡す。
ー朝。寝過ぎたかも。
こんこんとノックが響くとリリーが扉を見てベッドから降り扉を開け中へと入る。そこにあの魔人がおり魔人がリリーへと手を伸ばし頰に触れリリーがその手を握り離す。
「やめて。本当何がしたいのよ」
リリーがはあと息をつく。
「あなたは話せないの?話せるの?」
魔人がすっと顔を背け離れると椅子に座る。
「…あなたわかってるの?言葉とか」
魔人がダンマリとするとリリーがやや苛立ちその部屋を出ていく。そしてベッドに腰掛けるも小さく声を漏らし再びドアを開け魔人を見る。
「…あの船で助けてくれてありがとう」
リリーがそういい扉を閉めると魔人が閉められた扉をじっと見つめた。
アストレイー、朝。
「お前の親族と思しき敵側にいた異界人を見つけられなかった」
ラダン、ダンガンと共にタイシが大会議場へと向かっておりタイシが複雑そうにする。
「まあ、放っておいていいですよそのひとは。と言うかいたんですね」
「ああ」
「俺は見てなかった」
「混乱に乗じてさっさと消えたからな」
大扉の前にいた兵士たちが3人を見て扉を開ける。そこに、他国の王の代理人や皇太子が数名とアルスラン、ヴァージルたちとが着席していた。そして先には名札が置いてあり兵士がそれぞれ名札の席へと3人を案内し座らせ、タイシがアルスランの隣へ座るとちらりとやや離れた向かいの席に普段は仮面をし表に出ていたアキラがその仮面を外し座っていた。そして面倒臭い顔をさせたナガハラがリュウトともに中へと入るとナガハラがタイシの隣に座りため息をする。
「その、呼ばれたのですね」
「面倒臭いがそうだ…。はあ」
「話が必要とのことだ」
アルスランが告げる。そしてまた扉が開きダリス。その後ろから僅かに目元に目立つ皺のある男が入る。
ータハン国エリック王。
タイシが心の中でつげ、エリックが席へと座る。そして全ての席が埋まるとタイシが軽く全体を見渡す。
ーエリック王が代表か。あと、ここの元王室たちはいないか。
「これで、全員が揃った」
タイシがエリックを振り向きエリックが話す。
「アストレイの今後について話し合いを行うー」
ーアーバインに救われた命だが、私もあの父上の血を引いているからな。
チャールズが城の離れに閉じ込められながら窓から外を眺めていた。
ーそう言えば、兄たちはどこに閉じ込められた?拘束されたんだろうか…。
ノックが響くと扉が開き軽快な装いの少女が入ってくる。チャールズが眉を寄せるも少女の胸元に施された詩集を見る。
「タハン国」
「そうよ。初めまして」
少女が扉を閉める。
「今お父様が中心となって話し合いが行われているわ。私はタハン国のエリック王の娘のサーシャ。よろしく元皇太子殿下チャールズ様」
「なら、議会長をエリック王がされてらっしゃるのですね」
「そうよ。父のことはどこまでご存知?」
「はい。まず、エリック王と死んだこの国の元王との仲が最悪であったのは知っています」
「ふふ。ええ。国同士の仲が相当悪かったわ。そして、喧嘩をふっかけられたことがあるのよ実は」
「え?」
「けれど、アルスラン将軍他が止めた。個人の感情による戦ほど大きな犠牲を払う。座るわね」
チャールズさんが頷き、サーシャが椅子に腰掛ける。
「彼の方は素晴らしい。なのにどうしているのかと思えば、あの断罪の日で出来事でようやくわかったわ。あの元王からいわば脅しをかけられていたこと。元王が行っていた行為についてその真逆のことを行い引き留めていた。そしてイーロンとヤンガルでの戦いはアルスラン将軍とその部下達を戦争で殺すためのものでもあったこと。けれど、見事に覆された。逆に力を一気に削がれた上に今まで行われてきた行為がこの世間。世界に広まった。聖女と勇者の意味と末路がね」
「ええ。あと、そちらの国にも死徒がきたのですか?」
「きたわよ。けれど、こちらも有能な者たちが揃っているから返り討ちにしたわ。そして、今」
少女が自分の手を胸元に当てる。
「私たちタハン国。こちらの元王が相当嫌っていた者達を中心に国の行く末を決める議会が行われることになったわ。アストレイについての今後誰が王になるか。そして、元王家たちの罪をどう裁くかがね」
「はい。後,お聞きしたいのですがよろしいですか?」
「ええ。どうぞ」
チャールズが頷く。
「はい。私の元部下達は?」
「あなたが今ここだから仕事は無期限の休暇中よ。直近についてはあなたの心配をしていたから話しておくわ」
「わかりました。では元王に味方をしていた者達。そして、兄たちは今どこに?」
「心配?」
「気になっているだけです」
サーシャがふっと笑う。
「檻の中よ。あなたがここにいるのはあなたは罪に問われることをしていないからよ。逆に元王の反発派としていた。あの断罪の日のことは覚えてる?」
「はい」
「あの時の鐘の下。お父様達はここアストレイに呼ばれきていたの。そして、元王達のようにはならなかったけれど、彼らや元王妃もあの術化によって作られた兵士たちに拘束されたのよ」
チャールズが驚き、サーシャがふふっと笑う。
「断罪されるまでの罪がなかったのか。もしくは、まだ話していない何かがあるのかわからないけど拘束。即ち罪を犯していると言うことがわかった以上罪人扱いとして投獄しているの。で、勿論わがまま。早く出せ。寒い。こんなもの食べられるかと。もう大変」
サーシャがやれやれとする。
「本当あなたもよくあんなクズ達のところにいれたわね。身代わりにもなったって話じゃない。あなたの直近の部下の話によればね」
「私もいたくはありませんでしたが、逃げられなかったのですよ。元王の事ですから探し当てそうですし」
「王反発派で言えば王の近くにいたものね」
「はい」
サーシャが頷くとノックと共に扉が開き白髪の年老いた老兵がくる。
「こちらにおられたのですか。あちこち出回らないでください」
「様子見と変わって話をしているのよ。あと休憩?」
「はい」
「失礼します」
サーシャが目をきらりとさせ立ち上がり、タイシが中へと入るとサーシャがすぐさまタイシの前にくる。
「タイシ中佐ですね。ご活躍のお話はかねがね」
その後ろにエリックが立っておりサーシャが固まるとぎこちなくなる。
「ええと…ありがとうございます」
「お、お父様」
老兵がやれやれとし、タイシが横にどき軽く頭を下げエリックが中へと入り立ち上がり頭を下げるチャールズを見る。
「チャールズ。娘がすまないな」
「い、いえ」
「サーシャ姫っ」
サーシャがぎくりとし2人の直近の従者達がサーシャを囲む。
「あなたはご勝手になさらないでくださいとあれほどもうしたでしょう」
「…だって、暇だもん」
「暇だもんではございませんっ。後ここは他国なのですからねっ。参りますよ」
サーシャが顔をしかめながら従者達に囲まれ部屋を出る。
「お元気な姫ですね」
「元気どころではない。おてんばがすぎる。ただ、知恵者として国の為に働いてくれている」
エリックがチャールズを振り向く。
「そちらはさっさとその頭を上げろ」
チャールズが恐る恐る頭を上げエリックがやれやれとする。
「どこぞの兄弟、母親と大違いだ。そちらに咎はないが、王家のものとして生まれてきてしまっているからな。なので今後は王家ではないものとなり生きろ」
「追放ですか?」
「追放はしない。この国の中でも外でも好きに生きたらいい。ただ、その方は父親達がしでかした事の重荷がこれから先もついてくる。それを理解した上で生きろ。好きなように」
チャールズが口をつぐみはいと返事を返しエリックが頷き出るとタイシや部方が後に続き外へと出る。そこに、アルスランもおりアルスランが頭を下げる。
「多大なるご厚意ありがとうございます」
「いい。後何もしていないのはわかっていればあのものがわが国に危険を何度も伝えてくれたその功績は大きい。なので刑はない」
「はい」
「ああ」
「もし国の外と言われた場合は私が連れて行くと言う事でよろしいですか?」
タイシが尋ねるエリックが頷く。
「それでいい。十分だ」
「はい」
エリックが頷き前を歩き2人がついて行く。
「タイシ。そちらは今アルスランの実の娘と共に旅をしていると聞いた」
「はい」
「ああ。なんと言おうか、私の2番目の息子も身分を隠して息子が選んだものたちと共に旅をしている」
「殿下が?」
「ああ。あれもまた、誰に似たのやら」
エリックがやれやれとする。
「いつでもいいし会えずともかまわない。私がしたためた手紙を渡して欲しい。後ほど持って来させる」
「はい」
エリックが頷きまた王宮へと一同を連れ戻った。
ー美味しい。
ミオが魚介スープをエリス達と共に食べ飲んでいく。そこは、ギルドの集会場にある食堂でサイモンが楽しく話す。
「ここのはまた格別ですね」
「はい」
「ふふ。私は食事で迷った時にここをよく選びます。ギルドが運営する食堂はギルド登録者が採取したその日のうちの新鮮な物が使われますから」
「へえ」
「そして、引退された元ジェフがまたここで働いていらっしゃるんです。1人で運営するよりも給料がいいとの理由です」
「はい。後確かに待遇がよいほうがいいですものね」
ミオが食べながら聴き、エリスがはいと返事を返すと杖を持った女が突如サイモンの隣に座る。ユナが目を丸くしサイモンがやれやれとする。
「聴きたい事とちょっとお願い。貴方たち、ハリーと知り合いでしょ?」
「なぜですか?」
女が写真と魔導局の紋章を見せる。
「これが証拠。私の名前はシータ。ハリーとは従兄弟。私たち親族結構数多いのよ。なにせ孫だけで五十六名」
「え?」
「おじいちゃん局長が頑張ってね。第一夫人で八名。そして第一夫人が病死した後の今の第二婦人で六人。ハリーは第一夫人の息子の末子っくん。私は第一夫人の娘の2番目よ。で、まあ突然座ったのは悪かったけどここでは遠慮なくと言うのが」
「なんだやるのかこらあ!!」
「かかってこいやああ!!」
喧嘩が始まるとその2人に対して賭けを行うもの囃し立てるもの止めるもの、見学するもの無視するものと現れる。ユナがミオの手を繋ぎゴワゴワする。
「ああ言ったのですね遠慮なくおっ始めるの」
「そう。まあ気にしない。よくある話。で、それが証拠。後、私はギルドに入ってあちこち旅をしながら龍の涙を集めているの」
「龍の涙?」
「聞いた事ない?」
サイモンがいえと返事を返し、エリスが話す。
「鉱石の事です。宝石としても使われますが術の増幅効果を持っているので魔術師達の間では実験の材料として使われるのです」
「そう。私はそれに狙いを定めて魔導局に下ろしてるのよ。で、ハリー。あいつ忘れてるのか知らないけど半月前の品の分のお金払ってないわけ。家族間でのやり取りしてたからいつでもいいとは言ったけどちょっと近々入用ができたのよ。お金の」
「そうしたらご自分で魔導局に行かれては」
「いやー、あそこに行きたくないのよ。出向いたら最後。お母様達に連れ戻されるわ。なにせいい年頃の娘が結婚もせずに出歩いてるもんだから。家を出たのも結婚と見合いが嫌で出たのよ。その後ギルドに入って仲間と共に旅しつつその龍の涙を採取しては魔導局に送ってるわ」
「その通り」
ミオが目を丸くし小柄で武骨なドワーフの男がやってくる。
「小さい」
「あらはじめて?なら紹介するわ。ドワーフ族のガイよ」
「おう」
「そして、私はガイともう1人のドワーフ。それから私と同じ魔術師と拳闘士の五人で鉱石採取を主にしたチームで旅しているの。鉱石ハンターって奴ね」
「そうだ。名前は大地の息吹だ」
「あ、では教会にも下ろされてますね」
「え?」
「その通り」
「龍の涙以外に武器などの鉱石も掘り出しては下ろしているのよ。貴方達について話が持ち上がってるからすぐにわかったし、ハリーは貴方たちと一緒にいるタイシ中佐と仲がいいから話してくれないかと思ってのお願い」
「ええ」
「それからちと腕を買って頼みがあってな」
「そう。依頼。ハリーのことはお願い」
ミオが目を丸くし、サイモンがなら明日戻るその時にと待ち合わせ場所を伝えるとシータがオッケーと返事を返した。
ーんー。
深い山の中で湯気が沸き硫黄の香りのする温泉の源泉地でサクラがマーラックと共に温泉に浸かりながら伸びをする。そしてその温泉地から離れた森の中で家がありその隣の庭にマナが眠る子竜と共にハンモックに体を預けのんびりと過ごしていた。そこは新たな棲家だった。
「さて、まあだまだ苦労が続くな弟子は。果たして、どうなるかー」




