出逢い
彼女はメスの柴犬だった。稲穂のような黄色い色をした彼女はこっちを見て嬉しそうに尻尾を振っている。ただ、不思議なことに彼女の牙は赤いのだ。何かの肉にありついたのだろうか。
彼女がいた部屋は台所のような部屋だった。長い間使われていないであろう薄銀色の水道の蛇口と埃をかぶった白い食器がこの部屋が長い間使われていないことを証明しているかのようだ。そして、所せましと散らかっているコンビニの弁当とカップ麺の容器はまるで地層を成しているかのようだ。オレはたまらず鼻をつまんだ。なんでこんなところに犬がいるのだろうか。どこから迷い込んだろうか。何をこの犬は食べてきたんだろう。ただ、この犬の毛並みはまるでアラビアの絨毯のように美しかった。オレは無性にこの犬を撫でたくなってきた。
「おいで、こっちにおいで」
オレが声を出すとこの犬は近づいてきた。彼女を抱きしめた時の感触はまるで娘の愛海を抱きしめたような温もりを感じだ。
「よし、いい子だ。お前はどこから来たんだ」
オレは何となく彼女に聞いてみた。すると、どうだろう。彼女はオレの手から離れ歩き出した。どこか連れて行きたいところがあるのだろうか。
彼女は台所の隣にある居間のような部屋にオレを連れて行ってくれた。そこで、オレは信じられない光景を見てしまった。異臭の根源はココにあったんだ。
老人の死体だ。埃まみれで薄黒くなったちゃぶ台の下に彼が横たわっていた。夥しい量の黒いハエやウジがたかっている。何より、白いシャツは裂け、赤黒い肉の間から骨が突き出ている程、腐食が進んでいる。空腹のあまりあの犬が食べてしまったのだろうか。犬の歯形のような傷がある。しかし、禿げかかった白髪の老人は顔だけは腐食せず、まるで母親に抱かれて眠るように安らかに死んでいる。何かに満足しきったような平穏な表情だ。彼は孤独死しているのに。
彼女はオレをどこか悲しげな眼でオレを見つめている。しかし、オレは一刻も早くこの悲惨な光景から立ち去りたくて仕方がなかった。とにかく、部屋が暗いからカーテンを開けよう。カーテンを開けると鮮やかな午後の日差しが部屋に差してきた。オレは気づいてしまった。老人が手に封筒のようなものを握っていることに。
オレは鼻を摘まみながら、その封筒を老人の手から離した。この手紙には何が書かれているのか気になって、惹きつけられたからだ。中を見ると、真っ白な紙に何やら長い文章が何枚にも渡って書かれている。本来なら、最初に警察を呼ぶべきでなのしれないが、オレはこの手紙を夢中で読んでしまった。




