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第26話 真壁雅。あるいは仮死魔霊子との接触

 祓い屋事務所を後にしたあたしと御堂君は、ホテルで一夜をすごし……言っとくけど、ビジネスホテルに泊まっただけだからね。部屋だって別々だったんだから!


 まあとにかくそんなわけで次の日。今日はいよいよ、あの仮死魔霊子。いや、真壁雅への取材の日だ。


 取材場所は彼女の家。御堂君が交渉の際に、普段どうやって動画を取っているか見てみたいと言った所、普段撮影している自宅の住所を教えてくれたのだ。

 しかしあっさり住所を教えるだなんて、ずいぶん不用心な。今の若い子ってこんなものなのか?


 とにかくそんなわけで、訪れた彼女の家。そこは市内を離れ、田んぼの広がる田舎町にある、一件の古民家だった。


 乗ってきたレンタカーを家の前に停めて表札を確認すると、そこには『伊神』の文字が書かれている。


「ここが伊神家。元祓い屋の一族の本家か」

「調べによると、今この家で暮らしているのは高齢のご夫婦。そして二年前にやって来たお孫さんの、眞壁雅さんです」


 やっぱり、仮死魔霊子が真壁雅ちゃんだったんだ。

 調べを進めていくうちにわかってきた事実は、全てあたし達の予想を裏付けるものだった。


 だけどどうして彼女が呪いの動画を配信したり、中学校に人形を送り込んだりしたのかはまだわからない。人形の方は復讐だったとしても、無差別に呪いをばらまいた方はサッパリだ。

 けどどんな理由があろうと、止めさせないと。


 あたしは大きく息を吸い込んで、玄関のインターホンを押した。


『はい』

「すみません、取材のお願いをしていました、月刊スリラーの者です」

『お待ちしていました。今鍵を開けます』


 そうして玄関のドアが開かれ、姿を表したのは、ショートカットに白いパーカーを着た、まだ幼さの残る少女。

 仮面こそつけていないけど、そのパーカーは動画で仮死魔霊子が着ていたのと同じ物だ。


 彼女は緊張しているのか、おどおどした様子でこっちを伺っている。


「眞壁雅さんでしょうか? それとも、仮死魔霊子さんとお呼びした方が良いでしょうか」

「え、ええと、仮死魔霊子でお願いします。今日は眞壁雅ではなく、仮死魔霊子として答えますから。それにこの名前、結構気に入ってるんです」


 そうか、気に入ってるのか。

 中二病っぽい名前だけど、本人が良いと言っているのなら何も言うまい。


 しかしまあ、照れたように話す姿は可愛らしく、呪うような危険人物には見えないや。

 とにかくまずは、情報を聞き出さないと。


「僕は月刊スリラー編集部の、御堂竜二です。それでこちらは……」

「火村悟里。今日はよろしくお願いね」

「は、はい。こちらこそ。わざわざ来てくださって、ありがとうございます」


 挨拶をした後、あたし達は家の中へと招待され、茶の間に通される。


 この家に住んでいるという彼女のお爺さんお婆さんの姿が見えなかったけど、聞くと二人とも出掛けていて、夕方まで戻らないそうだ。

 ひょっとしたら、わざわざ一人でいる時にあたし達を呼んだのかもしれないねえ。


 テーブルにつくあたし達に、雅ちゃんは慣れた手つきでお茶を出してくる。

 けど生憎、呑気にお茶を飲むためにここまで来たわけじゃない。さっそく御堂君が、質問を始める。


「それで仮死魔さん、あなたはどうして、怪談チャンネルを配信しようと思ったのですか?」

「あ、あの。実は私、昔から幽霊とか妖とか、普通の人には見えないものが見えていたんです。だけど誰も信じてくれなくて、前にいた学校では嘘つき呼ばわりされていたんです。お二人は、身近にそんな人がいたらどう思います? やっぱり、信じられませんか?」


 質問に答える前に、逆に質問してくる。

 たどたどしい口調で、どことなく不安そうな目の彼女に、あたし達は答えた。


「そうですね。その人の普段の行動次第です。日頃から嘘をつくような人なら当然信じられませんけど、そうでなかったら頭から疑ったりしません。僕には霊感はありませんけど、自分が見えないからといって、その人が嘘つきだという証拠にはなりませんから」

「あたしも。幽霊が見える人なんて、数が少ないだけで当たり前にいるもの」


 つーかあたしがその見える人だものね。それに里に帰ったらそんな人、ゴロゴロいるよ。

 すると答えを聞いた雅ちゃんは、満足気に顔をほころばせる。


「わかってもらえて嬉しいです。やっぱり、取材を受けたのは正解でした。さっきの質問の続きですけど、配信を始めたのは、見えなくても幽霊や妖は実在する。それらが見える人がいるってことを、分かってもらいたかったからなんです」

「ではあなたは配信を通じて、幽霊や妖を信じてくれる人を、増やしたかったと言うことですか?」

「はい。上手くいっているかどうかは、わかりませんけど」


 気持ちは分からなくもない。あたしだって、インチキだの嘘つきだの言われたら腹が立つものね。

 けどそれじゃあ、どうしてその配信動画に呪いを仕込んだりしたの?


 すぐにでも聞きたい気持ちをグッと呑み込んで、御堂くんと目を合わせてサインを送る。

 そろそろ質問を、次の段階に移してもらおう。


「それじゃあ仮死魔さん、普段動画を撮影する様子を見せてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」

「大丈夫です。でも撮影している部屋は、家の外にあるんです」

「外、ですか?」

「はい。実は家の裏にある蔵を、撮影場所として使っているんです。そこなら暗くて、雰囲気が出ますから」


 確かに明るいお茶の間で語るよりは、怖い感じが出そうだ。


 と言うわけで、出されたお茶も飲みほしていなかったけど、席を立って英の外へと出る。そして雅ちゃんの案内で、家の裏へと移動して行く。


「ほら、あそこです」

「へえー、ずいぶんと立派な蔵だねえ」


 そこにあったのは、土造りの蔵。パッと見ただけでも古いものだという事がすぐ分かり、外壁は長年雨風にさらされたせいで所々変色している。

祓い屋のあたしが言うのもおかしな話だけど、なんだかオバケでも出そうな雰囲気だねえ。 

 ずいぶん年期が入ってるみたいだけど、どれくらい前のものなのだろう?


「この蔵は、いつ頃造られたものなんだい? ひょっとして、家よりも古いんじゃないの?」

「かもしれません。家の方は何度かリフォームをしてるはずだけど、こっちは手付かずかも」

「失礼だけど、中に入って危なくないかな?」

「古くて崩れないか心配ですか? それなら大丈夫です。何度も入っていますけど、全然平気ですから」


 雅ちゃんはそう言うと、入り口に掛けられた錠を開ける。その間、あたしは御堂君に囁いた。


「御堂君、新しくあげた木札は持っているね?」

「ええ、ここに」


 シャツの下に忍ばせていた、紐を通して首から下げていた木札を見せてくる。

 これは人形との戦いの時に壊れてしまった木札の代わりに、新たに与えたものだ。


「絶対にそれを手放さないでね。なんだか嫌な予感がするんだ」


 蔵を見上げて、顔をしかめる。

 どんよりしたような、じめじめしたような。何とも言えない嫌な空気が、この中から漂ってくるのだ。

 祓い屋としての勘。もしくは女の勘かもしれないけど、それらが告げている。ここには何かがあるって。


「開きました。どうぞ中にお入りください」


 先に雅ちゃんが入って、あたし達も後から続く。

 蔵の中は真っ暗。雅ちゃんは持ってきていたランタン型のライトで、中を照らす。


 広い蔵の中は壁に沿うように棚が備え付けられていて、そこには何が入っているか分からない箱が、無造作にいくつも置かれていた。


「ずいぶん色んな物が置いてあるみたいですけど、これらはいったい?」

「すみません、私も詳しくは知らないんです。この蔵にある物はみんな、私のご先祖が集めた物なのだそうです」

「ご先祖?」


 彼女の先祖は、かつて祓い屋として栄えていたはず。その先祖縁の品ということは……。


「ご先祖様は、何をしていた人なのかな?」

「何でも祈祷師だったみたいで、ここにあるのは魔除けの品々だそうです。例えばその棚にあるのは、破魔矢。霊力が込められていて、悪しき者を滅する力があると言われています」


 言われて目を向けると、棚には一組の弓と矢が置かれていた。

 なるほど、確かに霊力を感じる。もしかしたらこの蔵には祓い屋にとって役立つアイテムが、ゴロゴロ眠っているのかもしれないなあ。

 某鑑定団みたいに、品定めをしたいところだよ。


「それじゃあ君は、先祖代々霊にまつわる家系ってわけだね。すごいなあ、霊能者のサラブレッドだ」

「そ、そうですか? えへへ~」


 嬉しそうに笑うその姿からは、やはり危険な感じはしない。

 ご先祖についてももっと詳しく聞きたかったけど、まずは手はず通り彼女の配信の様子を見てみないと。


「それじゃあさっそく、撮影を始めていきます」


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