第24話 火村悟里の愛弟子
仮死魔霊子からアポを取って、E県を訪れたあたしと御堂君。だけどすぐにターゲットと接触を図るわけじゃない。
飛行機を降りて真っ先に訪れたのは、四国の祓い屋協会の事務所。まずはここであたし達の目的や、今まで調べた情報について報告しなければならないのだ。
これはもしも不測の事態が起きた時に、すぐに援軍が呼べるようにするための配慮。いくら腕に自信があると言っても、万が一と言うことがあるからね。色々と備えておかないと。
「関東祓い屋協会のから来ました、火村悟里です」
「月刊スリラー編集部の、御堂竜二です。どうぞよろしくお願いします」
応接室であたし達の話を聞いてくれたのは、四十代半ばくらいの、頭に白髪の混じった男の人。
今回の事件の詳細については事前に連絡していたし、後はちょっとした手続きをつれば準備完了……のはずだったんだけど。
「え、オカルト雑誌の編集者? ちょっと火村さん、なに部外者連れてきてるの? 遊びでやってるんじゃないんだよ。そんなのにうろちょろされて大丈夫なの?」
「はぁっ!?」
どうやら連絡に行き違いがあったらしい。彼は御堂君が祓い屋でないと聞いた途端、怪訝な顔をしてきた。
本人が目の前にいるにも関わらず失礼を隠そうともしない発言に、思わずカチンとくる。
「お言葉ですが、あたし達がここまで捜査を進められたのは、彼の協力があったからです!」
そりゃああたしだって、危ないから関わらない方が良って思ったことはあるよ。だけどコイツはまるで、御堂君を邪魔者扱いしてるじゃないか。
彼のことを何も知らないくせに、こんな態度を取られるのはムカつく。
「心配しなくても何かあったらあたしが守りますから、同行させてください」
「うーん、けど報告を聞く限りだと今回の件、かなり闇が深いみたいだし。遊び半分で記事にされても困るんだけどなあ」
ぽりぽりと頭をかきながらあからさまに迷惑そうな顔をされたけど、なんという言いがかり。
そりゃあ中にはインチキ記事を載せる、霊をバカにしたようなB級オカルト雑誌もあるけどさ。御堂君は決して軽い気持ちで関わってるんじゃない。一緒に捜査してきたんだから、それくらいは分かるよ。
だと言うのにコイツはどうやら相当偏見を持っているみたいで、悲しいやら呆れるやら。
まああたしも、最初会った時は祓い屋のことを信じていないって決めつけちゃったから、偉そうなこと言えないんだけどね。
人のふり見て我がふり直せとは言うけど、自分もこんなだったのかって思うと、恥ずかしくなってくるよ。
けどだとしても、こんな風に頭ごなしに邪魔者扱いされるのは、やっぱりムカつく。
「アンタねえ、失礼が過ぎやしないか——」
「火村さん抑えて。……耳が痛い話です。アナタの言う通り、本来なら僕みたいな素人が関わるべきではないというのはよくわかります」
文句を言おうとしたあたしを止めて、下手に出る御堂君。
と思ったら。
「ですが僕は記事のネタにするためだけに、首を突っ込んでるわけではありません。事件に関わってきた者として、どうしてこんなことをしたのかを、確かめたいのです。決して興味本位でやっているわけではないということを、どうかご理解ください」
怒るわけではなく、誠意を込めて訴えかける。
担当の彼は依然渋い顔のままだったけど、熱意だけは伝わったみたいで、諦めたように息をつく。
「分かりました。ただし何かあっても、自己責任でお願いしますよ。あと火村さん、うちの管轄下で動くなら、ちゃんと必要書類を提出してくださいね」
「ん、そんなの事件が解決した後で良いじゃない」
「ダメです。キチンと行動を把握してないと、何かあった時に対処ができませんからね。すぐに書類を持ってきます」
そういえば普段は事後報告が多くなってるけど、本来なら事前に提出しなくちゃいけない書類もあったっけ。
後からでも別に良い気もするけど、うちと違ってその辺の融通が効かないみたいだね。
あたしは部屋を出て行く担当者を見送った後、御堂君に向き直る。
「ごめんね、なんか失礼なこと言っちゃって」
「気にしないでください。実際これは、僕のわがままなのですから」
「わがままで結構。それが御堂君の、譲れないものなんでしょ。そういう所、あたしは好き——」
好きだよと言いかけて、慌てて口を閉じる。
なにこっ恥ずかしい事を言おうとしてんだ?
すると不意に、応接室のドアがガチャリと開いた。
てっきりさっきの担当が戻ってきたのかと思ったけど、顔を覗かせたのは。
「わっ、マジで師匠がいるじゃん!」
入ってきたのは中学生くらいの、可愛らしい顔をした男の子。
その顔にはよーく見覚えがある。
「なんだ、風音じゃないか。そういえばここに勤めてたんだっけ。しばらく見ない間に、背伸びたじゃない」
「まだクラスでは低い方だけどね。でも、そのうち師匠を追いこすよ」
「おー、生意気言うじゃないかー」
済ました顔で答える彼の頭を、ワシャワシャと撫でる。すると、御堂君が不思議そうに尋ねてくる。
「火村さん、彼は?」
「ああ、この子は葉月風音って言って、あたしと同じ祓い屋の里出身の子なんだ。で、あたしの弟子でもあるわけ。まだまだ半人前だけどね」
「酷でえなあ、もう一人前だって。これでもこっちじゃ、結構成績良いんだからな」
そう言って、不満気に顔をしかめる。
こんな風に気持ちがすぐ顔に出る所はまだまだ子供だと思うけど、実際腕は確かなのだ。
何せ四国の祓い屋協会が人手不足に陥った際、腕の良い奴を派遣してくれと言われて選ばれたのが、この風音なのだから。
まだ中学生で、女の子みたいな可愛い顔をしているけど、里で修行してた子供の中では一番の才を持った有望株。昔はあたしが鍛えていたけど、立派に育ってくれて、師匠として鼻が高いよ。
「ところでそっちの人は、師匠の彼氏?」
「は? バカ、そんなんじゃ……」
「それなら良かったのですけどね。生憎まだ、彼氏ではありません」
「御堂君!?」
なんだその、これから彼氏になるみたいな言い方は? 悪のりしてふざけているのか?
そして彼の放った言葉は、風音を調子づかせるには十分だった。
「なんだ、じゃあやっぱり彼氏みたいなものじゃん。良かったね師匠、里のジジババ達から、早く結婚しろって言われてるもんね」
「余計なことを言うな! 悪いのはお前か? それともお前の口か? そんな悪い口は、引きちぎってやる!」
「痛い、痛いって師匠。ほっぺを引っ張らないで」
伸びた頬が、まるで餅のよう。むう、なんてもちもちとした肌なんだ。これが若さと言うやつか。
そうして頬を引っ張っていると、御堂君がおかしそうにクスクスと笑う。
「さすが師匠とお弟子さん、仲が良いですね」
「どうしてこれを見て仲が良いって思えるの? だいたい君が悪ノリしたのがいけない。風音が本気にしちゃったらどうするんだ」
「僕は本気ですよ。それとも火村さんは、ふざけて言ったと思っているんですか?」
「なっ!?」
ストレートにぶつけられて、言葉に詰まる。
ああそうだよ。ふざけてるって思っていたよ。だけどそんな風に返されたら、どう反応していいのやら。
どう答えて良いかわ分からず、頬を引っ張っていた手を放すと、解放された風音がまた調子に乗る。
「ははっ、ラブラブじゃん。けどそれなら、急いだ方が良いよ。里の婆ちゃん達、師匠を早く結婚させようって躍起になってるから」
「なるほど、そうでしたか。それはモタモタしていられませんね」
くそー、男どもめ、好き勝手言いやがって。
お仕置きとして風音に拳骨を食らわせようとしたけど、彼はそれを察したのかひょいと距離を取って、入り口のドアへと逃げて行く。
「それじゃあ俺はこの辺で。聞きたいことはまだたくさんあるけど、これから仕事なんだ」
「だったら早く行った行った。シッ、シッ!」
動物を払うように、部屋の外へと追い出す。
まったく、生意気に育ってくれちゃって。いったい誰に似たんだか。




