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第17話 行われていたいじめ

「どうやら僕が無事だったのは、この木札のおかげみたいです。これがなかったらどうなっていたことか。火村さんは命の恩人ですよ」


 日が落ちて暗くなった校舎の、保健室前の廊下。

 あたしは笑みを浮かべる御堂君を見て、思わず脱力していた。


 術の施された人形を祓い、玲美ちゃんが保健室に運ばれた後、あたしはすぐに御堂君の様子を確かめた。

 だって彼、人形の放った呪いの光を、まともに浴びたんだよ。普通なら玲美ちゃんみたいに呪いに掛かるか、そうでなくても何らかのダメージを受けるはずだ。


 だけど調べてみたら拍子抜け。

 前に御堂君に、悪霊対策の木札を渡したことがあったじゃない。見てみたら懐に入れていたそれが、真っ二つに割れていたのだ。

 つまり彼が無事だったのは、木札が身代わりになって守ってくれたから。ここまで想定していたわけじゃないけど、渡しておいて良かったわ。


「でもさあ、助かったから良かったけど木札が壊れるなんて、相当ヤバかったってことだよ。コイツ、ちょっとやそっとの霊力じゃ壊れないはずなのに」


 もしもあの人形の攻撃が、木札の加護を上回るものだったらと思うとゾッとする。

 呪いに掛かっても祓えばいいなんて思ってはいけない。現にさっき呪いを解かれた玲美ちゃんという女の子は、保健室に運ばれた後目を覚ましたけど、何かに怯えるようにガタガタと震えていた。


『いやああああっ! 人形が、人形が襲ってくるっ!』


 もう除霊はすんだのに、怯えた声をあげていた玲美ちゃん。

 彼女の受けた呪いがこの前の太一君や大学生と同種のものだとしたら、よほど怖い夢を見せられていたのだろう。

 呪いを解いても、心に刻まれた恐怖は簡単には消えないのだ。


 一歩間違えたら御堂君も、同じ目に遭っていたんだよね。


「御堂君さあ、どうしてあんな無茶をしたの? 今回の呪いは強力で、下手したら眠ったまま二度と目を覚まさなかった可能性もあるんだよ。オカルト雑誌の編集やってるんなら、ヤバい呪いもあるってことくらい、分かってるでしょ」


 ジロリと睨むと、流石に笑顔を崩してシュンと肩を落とす。


「すみません。あの時は無我夢中でつい」

「だからって、軽率な行動はやめてよね。下手したら余計に状況が悪くなってたかもしれないんだから。まあ……」


 叱った後、ゴホンと咳払いをしてポツリ。


「おかげで教頭先生は助かったわけだし、君が人形をぶっ飛ばしてくれたおかげで、除霊もしやすくなったんだけどね。それに関しては、ありがとうって言っておくよ」


 あんな危険な行為はもう二度とやらないでほしいけど、結果的に助けられたのも事実。

 若干の照れくささを感じながらお礼を言うと、落ち込んでた表情が一転。幸せそうな笑顔に変わる。


 くぅー、尻尾をふるゴールデンレトリバーみたいな顔をしてー。やりにくいったらありゃしない。


「それにしても、気になるのは生徒達がしてくれた《《あの話》》ですね。火村さんは、どう思います?」


 笑顔から一転、今度は真剣な顔をする。

 表情がコロコロ変わるのは面白いけど、今は百面相を楽しんでいる場合じゃないか。


 玲美ちゃんは保健室で休んでいるから話を聞くことができなかったけど、一緒にいた女子生徒達からは事情聴取をしてある。

 あの人形について、何か心当たりはないか。最近周りで変なことは起きてないかってね。


 するとみんなして顔を見合わせた後、一人がおどおどした様子で、こんなことを言ってきた。


『実は昨夜あたしたち全員に、変なメッセージが送られてきたんです。これが、そのメッセージです』


 そう言って差し出されたスマホを見ると、こんなことが書かれていた。


【間もなく茅野中学校に、正義の使者が舞い降ります。彼女は学校に巣くう悪魔たちを、一人残らず狩ってくれることでしょう】


 それはさっき動画で、仮死魔霊子が言っていたのと同じ内容。


 彼女達は最初、誰かの変ないたずらだと言って笑っていたと言う。

 当然だ。こんなものをもらったところで、本気にする奴なんてまずいない。

 しかしそこにあの人形の襲撃があったもんだから、みんなすっかり怯えてしまっている。


 あの人形は何なのかっても聞かれたけど、ここで呪いの人形ですって言ったら余計に怖がらせてしまいそうだから、あれは頭のイカれた奴がよこした、人形型のドローンだって説明しておいた。


 我ながら無理があるとは思ったし、生徒達もそんな馬鹿なって顔してたけど意外にも校長先生と教頭先生は納得してくれたんだよね。頭でっかちな先生達にとっては幽霊や呪いよりも、ドローンの方がまだ信じられたらしい。

 誤魔化せたのは良いけど、何だか複雑だなあ。


 まあそれはさておき。今回の騒動の犯人は、どうしてわざわざら彼女達に、メールを送ったのだろう? 

 それにあの人形がメールにあった正義の使者を指しているのだとしたら、襲われた彼女達が悪魔だということになる。

 けど当然、保健室にいる玲美ちゃんも含めて、みんな悪魔どころか霊力も持たない普通の人間。

 メールの内容について何か思うことはないかも聞いてみたけど、そうしたら皆俯きながら、『いいえ』と答えていたっけ。ただ……。


「あの子達、何か隠してるね」


 廊下の壁に背中を預けながら、ポツリと呟く。

 なぜそう思うのかって? 女の勘よ。こういう時のあたしの勘は、よく当たるのだ。

 それにもう一つ気になるのが、人形を除霊した際、最後に流れ込んできた映像。


 あの映像では被害にあった玲美ちゃんが何人かの女子と一緒になって、一人の女の子に酷いいじめを行っていた。

 いや、いじめなんて言葉じゃ生ぬるい。あれは恐喝と暴行。れっきとした犯罪だ。

 ひょっとして、悪魔って言うのは。


「いじめをしていた女の子達が、悪魔って意味なのかもね」

「例の流れ込んできたっていう、映像のことですね。玲美さん達が誰かをいじめていたという」


 声を潜める御堂君。彼にも頭に流れてきた映像のことは、既に話している。

 もしもこの推理が当たっているとしたら、襲われた玲美ちゃん達に同情はできないかも。もちろんだからといって助けなければ良かったなんて思わないけどやるせない気持ちは拭えない。


 ああ、もう! 何でいじめなんかするかなあ? 

 誰かを傷つけたら、いつか自分に返ってくるってのに。人を呪わば穴二つって言葉を知らないのか!


「そういえば、火村さんが見たって言う映像。気になっていたんですけど、玲美さんはいじめている相手のことを、霊が見えるって言っていたのですよね」

「ああ、確かに言ってたね。何だかバカにしたような感じで、聞いててイライラしたよ」

「それで少し思ったのですが、もしかしたらいじめられていた生徒が、あの動画配信者の仮死魔霊子さんで、復讐のために人形を送り込んだってことはありませんか?」

「それは……」


 考えられない話じゃないかも。

 さっきの映像ではいじめていた女子達は信じていないようだったけど、もしも本当に見えていたら。霊力を持った子だったとしたら。

 それなら人形に、術を施す事も可能かもしれない。


 もちろんこれは何の証拠も無いただの仮説だけど、辻褄は合う。

 動画で言っていた悪魔と言うのは、いじめを行っていた玲美ちゃん達のこと。彼女達を襲った人形は、いじめをする悪魔を狩ってくれる、『魔狩りちゃん』と言うわけだ。


「動機は、いじめた相手への復讐、か」


 今までは仮死魔霊子のことを、霊力を使って悪さをする悪い奴くらいにしか思っていなかったけど。彼女はいったいどんな気持ちで、復讐人形を用意したんだろうね。


「もしそうだとしたら、あの子達を探ったら仮死魔霊子の正体も分かってきそうですね。何にせよ、もう少し調べてみないと。それに今回の件が本当に復讐目的だったとしても、その前のホテルの件は特定の誰かを狙った犯行とは思えませんし」


 そういえばそうだった。

 あれは狙った相手を呪えるような仕掛けじゃなく、無関係な人が次々に呪われそうな代物だ。どちらかと言うと、無差別テロに近いね。


「あーあ、玲美ちゃん達が話してくれたら何か分かるかもしれないけど、さっきの様子だと答えてくれるかどうか。力ずくで口を割らせちゃダメかな?」

「止めてください。下手したら問題になりますよ」

「むう、やっぱりダメか」


 そんなことを話していると、不意に廊下の先からカツカツという足音が聞こえてきた。

 誰か来たのかな? そう思って音のした方を向くと、暗い廊下の向こうからやって来る人影があった。


 それはあたし達と同い歳くらいの、ショートカットの髪をした美人な女の人。彼女は側まで来て、あたし達に尋ねてくる。


「警察の、安全課の方ですよね?」

「えっ? まあ。ちょっと違いますけど、似たようなものです」


 そういえば校長と教頭には、犯行予告を受けてやって来た調査員だって説明していたけど、そんな風に認識されてたんだね。

 ここで祓い屋だって言ってもややこしいし、苦笑いを浮かべながら答える。


「私は杉原さん達の担任の、沢渡鞠江と言います。杉原さん達を助けていただいたそうで、ありがとうございます」


 自己紹介をして、深く頭を下げてくる沢渡先生。

 杉原さんというのは、玲美ちゃんのこと。彼女は保健室で休んでいるけど、後日元気になったら話を聞こうと思い、名前や家の電話番号は教えてもらっていた。


 けど、担任の先生か。もしかしたら彼女なら、いじめについて何か知っているかもしれない。


「すみません、少し彼女……杉原玲美ちゃんについて、話を聞かせてもらってもいいかな?」

「え? まあ、私に答えられることなら」

「ありがとう。それで、玲美ちゃんなんだけど。彼女の周りでいじめがあったとか、美玲ちゃん自身がそれに関わってたとかなかった?」

「いじめ、ですか? すみません、それって、今回の騒動と、何か関係があるんですか?」


 とたんに怪訝な顔をされ、警戒心がむき出しなる。

 しまった。いきなりこんな話題は良くなかったか。


「関係があるかは分からないけど、調査のために色々聞いておく必要があるんですよ。ねえ御堂君……御堂君?」


 同意を求めて横を向いたけど、御堂君は返事を返さないまま、何故かじっと沢渡先生のことを見つめていた。


 ちょっと、何ボーッとしちゃってるの。

 肘でつついてみたけど、彼は反応を示さずに、代わりに小さな声でポツリと呟いた。


「沢渡鞠江さん……マリ、ちゃん?」


 ん? なんだマリちゃんって?


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